《原著》あたらしい眼科42(2):250.253,2025cCOVID-19ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた2症例瀬越一毅*1脇舛耕一*1南出みのり*1山崎俊秀*1外園千恵*2木下茂*1*1バプテスト眼科クリニック*2京都府.医科.学眼科学教室CTwoCasesofCornealGraftRejectionFollowingCOVID-19VaccineKazukiSegoe1),KoichiWakimasu1),MinoriMinamide1),ToshihideYamasaki1),ChieSotozono2)andSigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineCCOVID-19ワクチン接種に伴って炎症性の眼合併症が報告されている.今回,ワクチン摂種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた症例を経験した.症例C1はC78歳,男性.15年前に右眼の全層.膜移植術を施.され,3年前に全層.膜移植術を再施.されていた.4回.のCCOVID-19ワクチン接種後C12C..に急激な右眼の視.低下を.覚し受診..膜移植術後拒絶反応と診断し,ステロイド全.投与および点眼治療を.い,治療開始後C14C..には拒絶反応による炎症の改善を得た.症例C2はC61歳,.性.12年前に右眼の全層.膜移植術を施.されていた.5回.のCCOVID-19ワクチン接種後C9..に急激な右眼の視.低下を主訴に受診..膜移植術後拒絶反応と診断し,ステロイド全.投与および点眼治療を.い,治療開始後C7..には拒絶反応による炎症の改善を得た.ワクチン接種後には.膜移植術後拒絶反応のリスクがあることを認識し,早期の診断や治療を.う必要があると考えられた.CIn.ammatoryocularcomplicationshavebeenreportedpostCOVID-19vaccination.Hereinwereporttwocas-esCofCcornealCgraftCrejectionCthatCoccurredCpostCCOVID-19Cvaccination.CCaseC1CinvolvedCaC78-year-oldCmaleCwhoChadundergonepenetratingkeratoplasty(PKP)inhisrighteye15yearsago,andonce-again3yearsago.TwelvedaysafterhisfourthCOVID-19vaccination,heexperiencedsuddenlossofvisualacuity(VA)inhisrighteyeandwasdiagnosedwithcornealgraftrejection.Treatmentwithsystemicandtopicalsteroidswasinitiated,andhisVAimprovedCafterC14Cdays.CCaseC2CinvolvedCaC61-year-oldCfemaleCwhoChadCundergoneCPKPC12CyearsCago.CAtC9CdaysCpostCOVID-19vaccination,shepresentedwithsuddenlossofVAinherrighteyeandwasdiagnosedwithcorne-alCgraftCrejection.CSteroidCtreatmentCwasCinitiated,CandCherCVACimprovedCafterC7Cdays.CAlthoughCbothCcasesCimprovedwithsteroidtherapy,itiscrucialtobeawareoftheriskofcornealgraftrejectionpostCOVID-19vacci-nationandensurethatpromptdiagnosisandtreatmentisinitiated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(2):250.253,C2025〕Keywords:.膜移植術後拒絶反応,COVID-19,ワクチン,.膜移植,眼合併症.cornealCgraftCrejection,CCOVID-19,vaccines,keratoplasty,ocularadversee.ects.Cはじめに2020年C1C.,中国武漢市での肺炎の流.の報告に始まった新型コロナウイルス感染症(CoronaCVirusCDisease2019:CCOVID-19)は,瞬く間に全世界に拡.した.COVID-19による重篤な症状や死亡を防ぐために,ワクチンの迅速な開発が.常に重要であった.世界各国で直ちにワクチンや治療薬の開発が始まり,わが国ではC2021年C2.に医療従事者への接種が始まりC4.にはC65歳以上の国.へC6.にはさらに対象が拡.された.そして現在もCCOVID-19に対するワクチンの接種が感染予防のために施.されている.以前よりインフルエンザワクチンなどのワクチン接種によるぶどう膜炎や視神経炎,.膜移植術後拒絶反応などが報告されている〔別刷請求先〕脇.耕.:〒606-8287京都市左京区北.川上池.町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,DepartmentofOphthalmology,BaptistEyeInstitute,12Kitashirakawa,Kamiikeda-cho,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANC250(116)図1前眼部所見(症例1)a:発症前の所...膜透明性は保たれており,炎症所.も認めない.Cb:発症時の所...膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認める.c:治療後の所...膜浮腫と.膜後.沈着物の軽減を認める.図2前眼部所見(症例2)a:発症前の所...膜透明性は保たれており,炎症所.も認めない.Cb:発症時の所...膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認める.c:治療後の所...膜浮腫と.膜後.沈着物の軽減を認める.が1.5),COVID-19ワクチンの接種でも同様に眼への副作.が報告されている6.10).今回筆者らは,COVID-19ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた全層.膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)後のC2例を経験したので報告する.CI症例症例C1患者:78歳,男性.既往歴:2007年C12.に右眼のレーザー虹彩切開術後.疱性.膜症に対して右眼のCPKP(.晶体再建術併.)を施.された.2016年C12.に移植.機能不全となり,2019年C8C.に右眼のCPKP再移植を施.された.2022年C6.の受診時は右眼視.C0.2(0.5C×sph.2.00D(cyl.4.50DAx60°),眼圧15CmmHgであり.膜透明性も良好であった(図1a).なお,左眼は浅前房に対してレーザー虹彩切開術後で.内障を認めるものの,視.はC0.8(1.2C×sph+2.50D(cyl.1.50DCAx90°)で.膜内.細胞は2,653cells/mmC2であった.現病歴:2022年C7.にC4回.のCCOVID-19ワクチン(BNT162b2,P.zer)を接種し,接種後C12..に急激な右眼の視.低下,霧視,充.を.覚したため接種後C19..に当院を受診した.所.:右眼の視.はC0.01(n.c.),右眼の眼圧はC15CmmHgであった..膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認めた(図1b).なお,左眼はとくに所.の変化を認めなかった.臨床経過:.膜移植術後拒絶反応と診断し,治療としてメチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソルメドロール)125Cmgの全.投与をC3.間.い,点眼を発症前のフルオロメトロン(フルメトロン)点眼液C0.1%をC1C.C3回からベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)0.1%点眼をC1C.C6回に増量した.治療開始してからC2週間後の受診時には右眼視.C0.2(0.4C×sph.2.00D(cyl.5.00DAx60°)に改善し,.膜浮腫と.膜後.沈着は軽減を認めた(図1c).その後は拒絶反応の再燃はなくいったんは.膜の透明化を得られたが,.膜内.細胞が減少しC6カ.後に移植.機能不全となった.症例C2患者:61歳,.性.既往歴:2011年C7.に右眼の.膜実質ヘルペス後の.膜混濁に対して右眼のCPKPを施.された.2023年C10.の受診時は右眼視.C0.8(1.0C×sph+1.50D(cyl.2.00DCAx40°),眼圧C10CmmHgであり.膜透明性も良好であった(図1a).なお,左眼は周辺部に.膜実質ヘルペス後の.膜混濁を認めるものの中.部の透.性は良好であり,視.はC0.1(0.7C×sph.1.50D(cyl.5.00DAx130°)であった.現病歴:2023年C12C.にC5回C.CCOVID-19ワクチン(BNT162b2,P.zer)を接種し,接種後C9..に急激な右眼の視.低下,霧視,充.を.覚したため接種後C11..に当院を受診した.所.:右眼の視.はC0.2(0.4C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx40°),右眼の眼圧はC31mmHgであった..膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認めた.前房内炎症や硝.体混濁などぶどう膜炎を疑う所.は認めなかった(図2b).なお,左眼はとくに所.の変化を認めなかった.臨床経過:.膜移植術後拒絶反応と診断し,治療としてメチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソルメドロール)125Cmgの全.投与をC2.間.い,3..よりベタメタゾン(リンデロン)1Cmgの内服投与を.った.点眼を発症前のフルオロメトロン(フルメトロン)点眼液C0.1%をC1C.C3回からベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)0.1%点眼をC1C.C5回に増量した.治療を開始してからC1週間後の受診時には右眼の視.は0.7(1.0C×sph+2.75D(cylC.3.00DAx60°)に改善し,.膜浮腫と.膜後.沈着は軽減を認めた(図2c).その後は拒絶反応の再燃はなくいったんは.膜の透明化を得られたが,.膜内.細胞が減少しC3カ.後に移植.機能不全となった.CII考按COVID-19ワクチンの接種により引き起こされる有害事象は,ワクチン未接種で感染した場合に発症する有害事象よりも頻度が少ないと報告されている..で11),COVID-19ワクチン接種後には.筋炎や.栓症などの全.疾患から12),眼科領域においてもぶどう膜炎や視神経炎,.膜移植術後拒絶反応などが報告されている6.10).ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を起こすvaccine-associatedgraftrejection(VAR)についてはC1988年に報告されて以来2),インフルエンザやCB型肝炎,破傷.のワクチン接種後にも.じた報告があり古くから知られている現象である.本来,.膜移植は特有の免疫特権に加えて.管がないことやCMHC陽性細胞が少ないことなどから拒絶反応のリスクが低い13).しかし,頻度は少なくとも.膜移植術後に拒絶反応が.じることがあり,その機序としては移植されたドナー.膜の抗原にホストのCTh1細胞が反応し,炎症性サイトカインを分泌することで導かれるとの説がある14).ワクチン接種と拒絶反応発症の直接的な因果関係を証明することはむずかしいが,COVID-19ワクチンは接種後C21C.以内に体内でCSARS-CoV-2中和抗体を誘導し,強.なCCD4陽性CTh1細胞の免疫応答を引き起こしCIFN-cなどの炎症性サイトカインが増加することが.されている15).今回の症例1ではワクチン接種後C12C..,症例C2ではC9..に発症しておりもっとも免疫反応が強いタイミングであり,これが.膜移植術後拒絶反応に寄与したのではないかと考えられる.実際にCCOVID-19ワクチン接種後からCVARまでの発症期間をデータ解析した報告16)では初回接種でC16.26C±12.97.,2回.以降ではC10.37C±9.32.で発症しており,今回の症例ではC2例ともに既報と.較しても.盾ないタイミングであった.しかし,同様にワクチン接種をした患者で.膜移植術後拒絶反応が報告されているのはまれであることや,VAR発症患者において以前にワクチン接種した際は発症していないことを考えると,他の要因も関与していると推測される..膜移植術後拒絶反応のリスク因.として若年であることや,前眼部炎症の既往,拒絶反応の既往,再移植後,.管新..膜などが知られている17).今回の症例C1は移植.機能不全の既往があり再移植後であったこと,症例C2ではヘルペス性.膜実質炎後の.膜混濁で.膜実質内に.管侵.があり,両.の症例において拒絶反応のリスクが.かったことも.膜移植術後拒絶反応を発症した要因であったのではないかと考えられる.また,ワクチン接種後の抗体価のピーク値はC2回.よりも3回.で.値であったとの報告もあり18),過去に接種歴がありCVARを発症していなくても回数を重ねるごとにリスクが.くなる可能性もある.既報ではステロイドの全.投与および点眼の強化により拒絶反応の改善を得ることができており,速やかな診断および治療により良好な転機が得られている9).しかし,拒絶反応による不可逆的な.膜内.細胞の減少は避けられず,治療が遅れる場合や発症前の.膜内.細胞密度が低い場合などは移植.機能不全となる可能性も考えられる.今回の症例においてもステロイド治療により炎症は改善することができたものの,VAR発症前の.膜内.細胞密度が低かったこともあり,最終的には移植.機能不全となった.今回の検討から,COVID-19ワクチンの接種後には.膜移植術後拒絶反応を発症するリスクがあり,患者への啓発および医療機関での接種後の綿密な診察によりCVARの早期診断,治療を図る必要があると考えられた.中でも,.膜移植術後拒絶反応のリスク因.がある症例ではより注意が必要である.また,.膜内.細胞密度が減少している症例ではVAR発症後に移植.機能不全となる可能性もあり,全.状態のリスクと合わせてワクチン接種について考慮することが望ましい.そしてワクチン接種が必要な症例ではCVAR発症の予防を.的に,接種前のステロイド全.投与および点眼の強化をはじめとする免疫抑制治療を検討すべきと考えられた.文献1)WertheimMS,KeelM,CookSDetal:Cornealtransplantrejectionfollowingin.uenzavaccination.BrJOphthalmolC90:925,C20062)SteinemannCTL,CKo.erCBH,CJenningsCD:CornealCallograftCrejectionCfollowingCimmunization.CAmCJCOphthal-molC106:575-578,C19883)SolomonA,FruchtPeryJ:BilateralsimultaneouscornealgraftCrejectionCafterin.uenzaCvaccination.CAmCJCOphthal-molC121:708-709,C19964)MarinhoCPM,CNascimentoCH,CRomanoCACetal:Di.useCuveitisandchorioretinalchangesafteryellowfevervacci-nation:are-emergingepidemic.IntJRetinaVitreousC5:C30,C20195)CunninghamCET,CMoorthyCRS,CFraunfelderCFWCetal:CVaccine-associatedCuveitis.COculCImmunolCIn.ammC27:C517-520,C20196)KeikhaCM,CZandhaghighiCM,CZahedaniSS:OpticCneuritisCassociatedCwithCCOVID-19-relatedCvaccines.CVacunasC24:158-159,C20237)PillarCS,CWeinbergCT,CAmerR:PosteriorCocularCmanifes-tationsfollowingBNT162b2mRNACOVID-19vaccine:acaseseries.IntOphthalmolC43:1677-1686,C20238)SinghRB,ParmarUPS,KahaleFetal:Vaccine-associat-edCuveitisCafterCOVID-19vaccination:vaccineCadverseCeventCreportingCsystemCdatabaseCanalysis.COphthalmologyC130:179-186,C20239)RallisKI,TingDSJ,SaidDGetal:CornealgraftrejectionfollowingCOVID-19vaccine.Eye(Lond)C36:1319-1320,C202210)PhylactouM,LiJO,LarkinDFP:Characteristicsofendo-thelialcornealtransplantrejectionfollowingimmunisationwithSARS-CoV-2messengerRNAvaccine.BrJOphthal-molC105:893-896,C202111)BardaCN,CDaganCN,CBen-ShlomoCYCetal:SafetyCofCtheCBNT162b2CmRNACCovid-19CvaccineCinCaCnationwideCset-ting.NEnglJMedC16:1078-1090,C202112)AbuMouchS,RoguinA,HellouEetal:Myocarditisfol-lowingCOVID-19mRNAvaccination.VaccineC39:3790-3793,C202113)TaylorAW:OcularCimmuneCprivilege.CEyeC23:1885-1889,C200914)HegdeCS,CBeauregardCC,CMayhewCECetal:CD4(+)T-cell-mediatedCmechanismsCofCcornealCallograftCrejec-tion:roleCofCFas-inducedCapoptosis.CTransplantationC79:C23-31,C200515)PolackCFP,CThomasCSJ,CKitchinCNCetal:SafetyCandCe.cacyCofCtheCBNT162b2CmRNACCovid-19Cvaccine.CNEnglJMedC383:2603-2615,C202016)SinghCRB,CLiCJ,CParmarCUPSCetal:Vaccine-associatedCcornealCgraftCrejectionCfollowingCSARS-CoV-2Cvaccina-tion:aCCDC-VAERSCdatabaseCanalysis.CBrCJCOphthalmolC108:17-22,C202317)CosterDJ,WilliamsKA:Theimpactofcorneala1lograftrejectionofthelong-termoutcomeofcornealtransplanta-tion.AmJOphthalmolC140:1112-1122,C200518)成.慎治,.島秀幸,宮崎未緒ほか:モデルナ社製新型コロナワクチン(mRNA-1273)接種後の抗体価について-2回.,3回.接種後の抗体価の経時的推移.医学検査C73:C360-365,C2024C***