0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)1191《原著》あたらしい眼科28(8):1191?1196,2011cはじめに全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,水疱性角膜症や角膜白斑などの疾患に対して有効な治療法であるが,症例によっては,拒絶反応,感染などの合併症により角膜移植片不全となり,再移植が必要となることも少なくない.しかし,複数回の移植片不全の既往がある症例は,拒絶反応のリスクが高く,強力な免疫抑制を必要とするものの,その予後は不良であることが多い1).そのような複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対する治療の一つとして,人工角膜が臨床使用されてきた.わが国でもおもに1960年代~1970年代に人工角膜移植が行われたが,短期間で人工角膜の脱落などの重篤な合併症を起こすことが多く,普及しなかった.最も症例数が多い報告で,早野の10例報告があり,半数の症例が2年以内に脱落している2).また,杉田らは3例中1例が1年以内に光学部前面の結膜増殖を認めたと報告している3).〔別刷請求先〕森洋斉:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YosaiMori,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN複数回の角膜移植片不全に対してBostonKeratoprosthesis移植術を行い1年以上経過観察できた3症例森洋斉子島良平南慶一郎宮田和典宮田眼科病院ThreeCasesofBostonKeratoprosthesisImplantationforRepeatedGraftFailureObservedforMoreThanOneYearYosaiMori,RyoheiNejima,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:複数回の角膜移植片不全の既往がある症例に対してBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)移植術を行い,1年以上経過観察ができた3例を経験したので報告する.症例:症例1は72歳,女性,症例2は69歳,男性,症例3は87歳,女性である.全例複数回の全層角膜移植術(PKP)の既往があり,術前矯正視力はそれぞれ10cm指数弁,0.02,0.02であった.さらなるPKPでは予後不良と考えられ,BostonKPro移植術の適応と判断し,手術を行った.術後矯正視力は,症例1が術後28カ月で10cm指数弁,症例2が術後25カ月で1.0,症例3が術後18カ月で0.6であった.症例1は,移植後の眼圧上昇のために緑内障シャント手術を行った.観察期間においては,人工角膜の脱落,ドナー角膜片の融解,重篤な感染症などの合併症,さらに視野欠損の進行は,全例で認めていない.結論:BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例の視機能回復に対して,有効な治療法の一つであると考えられる.ThreecasesunderwentBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)implantationforrepeatedgraftfailure.Thefirstcasewasa72-year-oldfemale,thesecondwasa69-year-oldmaleandthethirdwasan87-year-oldfemale.Allunderwentmultiplepenetratingkeratoplastywithgraftfailures.Preoperativebest-correctedvisualacuities(BCVA)werecountingfingersat10cm,0.02and0.02,respectively.Sinceaprognosisofadditionalpenetratingkeratoplastyinthesecasescouldnotbeanticipated,BostonKProimplantationwasdecided.PostoperativeBCVAwascountingfingersat10cmat28months,1.0at25monthsand0.6at18months,respectively.Thefirstcaseunderwenttube-shuntimplantationduetopostoperativeintraocularpressureelevation.Therehavebeennoseriouspostoperativecomplications,includingkeratoprosthesisextrusion,donorcorneanecrosis,infection,orprogressivelossofvisualfield.TheBostonKProprovidesvisualrecoveryforpatientswithrepeatedgraftfailures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1191?1196,2011〕Keywords:人工角膜,角膜移植,移植片不全.keratoprosthesis,penetratingkeratoplasty,graftfailure.1192あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(132)1960年代にハーバード大学MassachusettsEyeandEarInfirmary(以下,MEEI)のDohlmanらによって開発された人工角膜Bostonkeratoprosthesisは,1974年に初めて臨床報告された4).この人工角膜には,眼瞼,涙液機能が良好な患者用のTypeIと重篤な眼表面疾患患者用のTypeIIがあり,TypeIは1992年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を得ている.BostonTypeIkeratoprosthesis(以下,BostonKPro)は,光学部がPMMA(ポリメチル・メタクリレート)製の人工角膜で,ドナー角膜片(キャリア角膜)に装着して患眼に縫合される.MEEIの推奨では,視力が0.05以下で,PKPで予後不良と予想される症例をBostonKProの良い適応としている.また,除外基準として,末期の緑内障や網膜?離,涙液異常がある症例をあげており,さらに眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群など自己免疫性疾患がある症例は避けたほうがよいとしている(表1).以前はBostonKProも,他の人工角膜と同様に,人工角膜の脱落と周囲組織の融解5,6),細菌性眼内炎7),人工角膜後面の増殖膜8~10),緑内障11)など数多くの重篤な術後合併症を起こしていた.バックプレートに穴が開いていないモデルを使用していた1990年代は,半数以上で周辺組織の融解を起こしたと報告されている5).また,当時は術後管理も確立しておらず,Nouriらによれば,10%以上の症例で感染性眼内炎を発症したと報告している7).しかし,人工角膜のデザインや素材の改良,術後管理の改善を重ねることで,現在では,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性も確立してきている8~10,12).これまでに全世界で4,500例以上が臨床使用されているが,わが国での臨床使用の報告はされていない.筆者らは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対してBostonKPro移植術を行った.基本的にはMEEIの推奨する適応に準じたが,宮田眼科病院(以下,当院)では僚眼の視力低下という項目は除外した.その理由として,患者のqualityofvision向上に両眼の視機能は重要であること,BostonKProの良好な術後成績が報告されており,PKPをくり返すより患者に負担が少ない可能性があることがあげられる.今回BostonKPro移植術を行い,1年以上経過観察できた症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕72歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:幼少時に両眼外傷により,左眼は義眼となった.1991年,右眼に緑内障,白内障の同時手術を施行し,その後,無水晶体性水疱性角膜症を発症.2003年に2回PKPを行うも,いずれも1年以内に移植片不全となった.以後,経過観察していたが,2007年2月27日,右眼の加療目的にて当院を紹介受診となった.初診時視力は,右眼10cm指数弁(n.c.)で,眼圧は22mmHgであった.前眼部所見は角膜移植片不全,無水晶体眼を認め,眼底所見は,視神経萎縮と豹紋状眼底を認めた.緑内障による視野進行の程度は,動的視野検査にて湖崎分類でⅣ期であった.晩期緑内障であり,PKPによる視力改善は困難であると考え,外来にて経過観図1各症例のBostonKPro移植術前(左)と移植後(右)全例人工角膜およびキャリア角膜は良好に生着している.症例2,3では半数以上のバックプレートの穴に増殖膜を認めている.a:症例1(移植後28カ月)b:症例2(移植後25カ月)c:症例3(移植後18カ月)表1MEEIが推奨するBostonKProの適応基準(1)0.05以下の視力で,僚眼も視力が低下している(2)複数回の角膜移植片不全の既往が有り,さらなる角膜移植で予後を期待できない(3)末期の緑内障,網膜?離がない(4)自己免疫性疾患(類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,ぶどう膜炎など)がない(5)瞬目が可能で,涙液不全がない(133)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111193察していた.しかし,2007年9月28日受診時,右眼視力は手動弁(n.c.),角膜移植片の混濁も進行し,眼底も透見不能となった(図1a).患者の手術に対する強い希望もあったため,BostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg.〔前眼部所見〕右眼角膜移植片不全,無水晶体眼.〔後眼部所見〕透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて湖崎分類でV-b期の緑内障性変化を認めた.BostonKProの使用については,当院倫理委員会で審査,承認を取得し,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2008年1月8日右眼BostonKPro移植術を行った.なお,術前より0.005%ラタノプロスト点眼1回/日,2%カルテオロール点眼2回/日を使用しており,術後も続行とした.手術方法:BostonKProは,光学部であるフロントパーツ,人工角膜のキャリアとなる角膜移植片,フロントパーツを角膜移植片に固定するためのバックプレートおよびチタン製ロックリングから構成される(図2)13).BostonKProの組み立ては,以下のように行った.まず,8.5mmのドナー角膜片に,専用パンチで中心に3mmの穴を空け,キャリア角膜片を作製した.横径6mm,前後長約3mmのフロントパーツと,8.5mm径,0.6~0.8mm厚のバックプレートでキャリア角膜片を挟み込み,ロックリングで人工角膜を固定した(図3a~c)14).手術は全身麻酔下で,通常のPKPと同様に,フレリンガー(Fliering)リングを装着し,8mmのバロン式真空トレパンおよび角膜尖刀で角膜を切除した後,作製した移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着した.前房洗浄を行い,創口からの漏出がないことを確認して,ステロイドの結膜下注射を行い,コンタクトレンズを装用して手術を終了した(図3d).経過:術後は,通常のPKPと同様にレボフロキサシン(250mg)内服3日間とプレドニゾロン内服(30mgより漸減)に加えて,0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼4回/日,0.5%レボフロキサシン点眼4回/日に0.5%バンコマイシン点眼4回/日を併用した.また,コンタクトレンズの24時間連続装用とし,週1回交換した.移植後1週,人工角膜およびキャリア角膜の生着は良好で,視力は20cm指数弁(n.c.),眼圧は触診法でやや高い状態であった.その後も眼圧高値が続いたため,移植後2カ月で緑内障シャント手術(Seton手術)を行った.その後,眼圧は落ち着き,移植後28カ月現在,視力10cm指数弁(n.c.)で,視野も進行を認めず,経過良好である(図1a).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1990年,他院で両眼白内障手術を行い,その後左眼に水疱性角膜症を発症した.PKPを2回行ったが移植片不全となり,セカンドオピニオン目的で2005年6月20日当院を受診した.初診時視力は右眼0.3(1.5×?1.0D(cyl?1.0DAx110°),左眼10cm指数弁(n.c.).左眼に角膜移植片不全を認め,眼底は透見不能であったが,超音波Bmode検査,動的視野検査にて特記すべき異常を認めなかった.PKPの適応と判断し,2006年4月25日左眼PKP施行.図2BostonKProの構成フロントパーツ,ドナー角膜移植片,バックプレートおよびチタン製ロックリングの4つのパーツから構成される.(文献13より)ドナー角膜片フロントパーツバックプレートロックリング図3BostonKProの組み立てと手術トレパンで角膜移植片を打ち抜いた後,直径3mmの専用パンチで中心に穴を空ける(a,b).そして,フロントパーツに打ち抜いた角膜移植片とバックプレートをはめ込み,ロックリングで挟み込んで組み立てる(c).全層角膜移植術と同様に,組み立てた人工角膜移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着する(d).(文献14より)acbd1194あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(134)術後最高矯正視力(1.0)まで得られたが,拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となり,2007年5月21日時点で視力0.02(n.c.)であった(図1b).右眼の視力は良好であったが,左眼はさらなるPKPでは予後不良と考られため,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえでBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.5(1.5×?0.5D(cyl?1.0DAx110°),左眼0.02(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg,左眼17mmHg.〔前眼部所見〕左眼は角膜移植片不全,両眼ともに眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕右眼は特記すべき異常なし.左眼は透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:2008年3月10日に左眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,左眼視力1.0(n.c.)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(右眼眼圧12mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後1カ月より,バックプレートの穴に増殖膜が出現し,移植後6カ月で半数以上の穴に認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした(図1b,4).移植後25カ月現在,光学部後面にも軽度の増殖膜を認めているが,左眼視力0.6(1.0×?2.25D)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である.〔症例3〕87歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:1985年に他院で両眼レーザー虹彩切開術の既往があり,右眼の視力低下を主訴に1994年8月1日当院初診となった.初診時視力は右眼10cm指数弁(n.c.),左眼0.3(0.5×?0.5D(cyl?1.0DAx70°),右眼に水疱性角膜症を認めた.外来で経過観察していたが,その2年後に左眼も水疱性角膜症を発症した.左眼に対しては1998年にPKP+白内障手術を行った.術後に眼圧コントロール不良になり,2000年に線維柱帯切除術を行ったが,視野の進行を認め,晩期緑内障となった.右眼に対しては2004年にPKP+白内障手術,2007年にPKPを行ったが,いずれも拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となった(図1c).両眼ともにPKPでは予後不良であり,左眼は晩期緑内障であることから,右眼をBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.02(n.c.),左眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼18mmHg,左眼22mmHg.〔前眼部所見〕両眼ともに角膜移植片不全,眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕両眼ともに透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなかった.動的視野検査では左眼に湖崎分類でIV期程度の緑内障性変化を認めたが,右眼は中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2009年1月6日右眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.角膜径が10.0mmで小さかったため,7.0mm径のバックプレートを使用した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,右眼視力0.4(0.7×+2.5D(cyl+1.0DAx90°)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(左眼眼圧17mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後2カ月より,バックプレートの穴に増殖膜を認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした.移植後6カ月,結膜充血と眼脂を認めたため,結膜?培養を行った.ニューキノロン耐性の表皮ブドウ球菌が検出されたため,耐性菌による細菌性結膜炎と診断し,感受性のある0.5%ミノサイクリン点眼に変更した.変更後は,徐々に結膜充血,眼脂は軽減した.移植後18カ月現在,左眼視力0.6(n.c.)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である(図1c).II考按今回の症例は,全例人工角膜の生着が良好であり,周囲組織の融解,重篤な感染症なども認めず,1年以上経過良好であった.ソフトコンタクトレンズの連続装用やバックプレートの穴を開けることで,涙液,前房水からの角膜移植片への栄養補給が可能となり,人工角膜の脱落や周囲組織の融解は,非常にまれな合併症となっている5,15).17施設におけるMulticenterBostonType1KeratoprosthesisStudyによれ図4BostonKPro移植後12カ月の前眼部OCT画像前眼部OCTでバックプレートの穴に均一な高輝度像を認める(矢印).(135)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111195ば,141眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間8.5カ月で,全体の57%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は96%が0.1以下),95%で人工角膜の生着が維持されていると報告している8).Bradlyらは,30眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間19カ月で,全体の77%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は83%が0.1以下),83.3%で人工角膜の生着が維持されていると報告している12).光学部後面の増殖膜は,BostonKPro術後の合併症のなかで最も頻度が高く,AldaveらはBostonKPro移植眼全体の44%に認めたと報告している10).しかし,対処法が確立しており,新生血管がない場合はYAGレーザーで切除,新生血管が進入した場合は,硝子体カッターで切除が可能である8,16).今回,全例でバックプレートの穴に増殖膜を認め,うち1例は光学部後面にも認めていた.現在のところ,視機能に影響していないため,経過観察としている.今回の症例では,現在のところ感染性眼内炎の発症は認めていない.Nouriらの報告では,細菌性眼内炎の危険因子に術前の原疾患をあげており,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,角膜化学熱傷後などの症例でなければ,細菌性眼内炎の発症はまれであるとしている7).Durandらは,キノロン系点眼とバンコマイシン点眼の投与下で,細菌性眼内炎の発症を認めていないと報告している17).しかし,広域スペクトルの抗生物質を予防的に継続点眼することにより,耐性菌の出現を促す可能性が危惧される.実際に症例3で,結膜炎を発症し,薬剤耐性菌の検出を認めた.現在のところ,バンコマイシン耐性菌による眼内炎の報告はされていないが,BostonKPro移植眼における耐性菌の検出について,術前後で結膜培養を行い,prospectiveに調査することが必要であると考えられる.さらに,術後はコンタクトレンズの連続装用が必要になるため,真菌感染のリスクが高くなるとの報告もある18).ゆえに,コンタクトレンズの交換や洗浄を徹底し,定期観察することで感染予防に努めることが重要である.現在,最も注意を要する術後合併症は,緑内障と報告されている11).今回,晩期緑内障であった症例1でSeton手術を行い,その後は視野進行を認めていない.BostonKPro移植後は,眼圧測定が困難となるため,眼底検査,視野検査を定期的に行い,進行があれば治療を開始する.通常の抗緑内障点眼が有効であるが,手術が必要な場合は,緑内障シャント(Ahmedバルブシャントなど)を用いたSeton手術を行う8,11).今回の症例1でも,Seton手術により良好な眼圧コントロールが維持されていると考えられた.Banittらの報告では,眼圧コントロールが不良な症例や進行性の緑内障症例に対して,BostonKPro移植術の3~6カ月前にSeton手術もしくは毛様体光凝固術を行うことが推奨されており19),今後,症例1のような晩期緑内障症例では検討してもよいと考えられる.また,症例3のようなレーザー虹彩切開術後の浅前房症例では,続発緑内障のリスクがあるため慎重に行う必要がある.そのような症例では小児用のサイズ(7.0mm)のバックプレートを選択するとよいと考えられる.人工角膜BostonKProは,術後コンタクトレンズの管理や抗生物質の継続使用,眼圧測定が困難になるなどの注意点があるものの,煩雑な手術手技を必要とせず,通常の角膜移植の経験があれば手術可能であり,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性が期待できる.BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした患者の視力改善に対して,非常に有効な治療法の一つであると考えられる.文献1)原田大輔,宮田和典,西田輝夫ほか:全層角膜移植後の原疾患別術後成績と内皮減少密度減少率の検討.臨眼60:205-209,20062)早野三郎:人工角膜移植の臨床(長期観察).日眼会誌75:1404-1407,19713)杉田潤太郎,杉田慎一郎,杉田雄一郎ほか:人工角膜移植.眼臨80:1375-1378,19864)DohlmanCH,SchneiderHA,DoaneMG:Prosthokeratoplasty.AmJOphthalmol77:694-700,19745)Harissi-DagherM,KhanBF,SchaumbergDAetal:ImportanceofnutritiontocorneagraftswhenusedasacarrieroftheBostonKeratoprosthesis.Cornea26:564-568,20076)YaghoutiF,NouriM,AbadJCetal:Keratoprosthesis:preoperativeprognosticcategories.Cornea20:19-23,20017)NouriM,TeradaH,Al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