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緑内障患者に対する診療連携と情報通信技術活用に関する意識調査

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):272.276,2012c緑内障患者に対する診療連携と情報通信技術活用に関する意識調査北村一義*1杉山敦*1林京子*3比江島欣慎*4柏木賢治*1,2*1山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座*2山梨大学大学院医学工学総合研究部地域医療学講座*3多摩大学統合リスクマネジメント研究所医療リスクマネジメントセンター*4東京医療保健大学大学院医療保健学研究科OpinionPollConcerningMedicalExaminationCooperation,AsWellAsInformationandCommunicationTechnologyofPracticalUsetoGlaucomaPatientsKazuyoshiKitamura1),AtsushiSugiyama1),KyokoHayashi3),YoshimitsuHiejima4)andKenjiKashiwagi1,2)1)DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,YamanashiUniversity,2)DepartmentofCommunityandFamilyMedicine,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,YamanashiUniversity,3)MedicalRiskManagementCenter,TheIntegrated-Risk-ManagementResearchInstitute,TamaUniversity,4)MedicalHealthStudyGraduateCourse,TokyoHealthcareUniversity目的:緑内障患者に診療連携と診療への情報通信技術(ICT)の導入に関し調査し,診療連携の課題とICTの診療への活用を検討する.方法:山梨大学緑内障外来通院患者を対象とし診療連携は書面により,ICTの活用は面談により調査した.結果:診療連携調査は500名に行い,263名(男性132名,女性131名)から有効回答を得た.連携には約50%が賛同,比較的若い,通院期間が短い,自家用車で通院,付添いが必要な患者で賛同者が多かった.ICT活用調査には,125名(男性64名,女性61名)が回答した.全体の64.5%が賛同し,賛同率はインターネット非利用者が40.7%,利用者が75.0%と差を認めた.投薬の管理,病状の説明の確認,自己カルテの作成への活用希望が多かった.結論:診療連携には約半数が賛同したが,患者環境の違いが影響した.ICT活用は多数が賛同し,インターネット利用者では賛同が多かった.Purpose:Toelucidatethetasksandimprovementpointsofmedicalcollaborationandtheadaptationofinfor-mationandcommunicationtechnology(ICT)forglaucomacare,glaucomapatientsweresubjectedtoaquestion-nairesurveyandinterview.Method:SubjectscomprisedconsecutiveglaucomapatientsfollowedbyUniversityofYamanashiHospital.Results:Of500patients,263(132males,131females)completedthequestionnaire.About50%consentedtothecollaboration.Patientswhowereyounger,hadashorterfollow-upperiod,visitedusingowncarorvisitedwithanassistantshowedahigherrateofconsent.Ofthe125patientswhocomprisedtheinterviewsubjects(64males,61females),64.5%agreedtoadoptICT.OftheInternetnon-users,40.7%agreed,while75.0%ofInternetusersagreedtoadopttheICTforglaucomacare.Drugmanagement,checkingofdiseaseexplanation,andownmedicalchartpreparationwerepreferredsubjects.Conclusions:About50%ofthepatientsagreedwiththemedicalcollaboration;patientbackgroundin.uencedtheresults.Manypatients,especiallyInternetusers,agreedtouseICTforglaucomacare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):272.276,2012〕Keywords:緑内障,診療連携,情報通信技術.glaucoma,medicalexaminationcooperation,informationandcommunicationtechnology.はじめにとで多数の患者は失明を免れることが可能であるが,自覚症緑内障は,不可逆性で進行性の疾患であり,わが国でも世状が少なく治療効果が自覚しにくいため,通院,治療の脱落界的にも失明原因の上位に位置する1).適切な治療を行うこ患者が少なくない2).わが国における大規模疫学調査の結果〔別刷請求先〕北村一義:〒409-3898山梨県中央市下河東1110山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座Reprintrequests:KazuyoshiKitamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinarySchoolofMedicineandEngineering,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,Chuo,Yamanashi409-3898,JAPANあたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(00)272(124)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYから40歳以上の5.0%が緑内障をもっている可能性が示唆されており3),緑内障推定患者数は300万人から400万人と推定される.また,緑内障の有病率は加齢に伴って増加すると考えられるため,今後さらに患者数が増加することが予想される.一方,眼科医数は近年不足しており,特に病院勤務眼科医の不足は顕著である.さらに眼科医の偏在も問題視されている.以上から緑内障の診療環境は悪化を呈している.また,近年患者の大病院志向が強く,緑内障にも認められ,長時間の外来診療待ちや検査待ちが発生している.これらに対応するためには,緑内障専門医と一般医が連携する体制が重要であると考えられるが,いまだに十分に機能しているとはいえない.情報通信技術(informationandcommunicationtechno-logy:ICT)の発達は目覚ましく,医療の分野でもその活用が期待されている4.8).しかしながら,眼科領域では十分にICTが診療に活用されてはおらず,患者の緑内障診療に対するICT活用に関する意識も不明である.今回筆者らは,緑内障患者の診療連携に対する意識調査を行い,診療連携の課題を明らかにするとともに,ICTを活用することについての意識調査も併せて行った.I対象および方法本研究を行うに当たっては山梨大学倫理委員会の承認を得た.本研究はヘルシンキ条約に則り行われ,参加患者からは文書による同意を得て行われた.なお,未成年の場合は保護者の同意を得た.1.診療連携意識調査アンケート調査は2009年5月から7月の3カ月間に山梨大学(以下,当院)緑内障外来を継続的に受診している連続500症例とした.緑内障患者には表1に示すようなアンケート調査票を配布して直接担当医に手渡すか,後日記入後郵便にて返送していただいた.おもなアンケート項目は年齢,性別,当院緑内障外来への通院期間,通院方法,通院手段,および今後の診療形態についてである.アンケートの回収の期限は2010年1月31日とした.2.緑内障診療へのICTの活用に関する調査対象は2009年8月から10月の3カ月間に当院緑内障外来を継続的に受診し,アンケート調査に同意した連続125症例とした.緑内障患者には表2に示すようなアンケート調査票を基に個別に面談を行い実施した.II結果1.診療連携意識調査アンケート調査票を配布した500名中アンケートに同意した回答者は299名で,うち有効回答数は263名(回収率52.6%)であった.内訳は男性が132名,女性は131名であった.今後の診療形態への希望について表3,図1にまとめる.全体では52.1%の患者が引き続き大学病院の診療のみを希望し,検査のみなら地元病院でも可とした患者は10.4%,診療連携が十分なら大学と地元診療機関の連携でもよいと回答した患者は33.3%,地元診療機関への紹介希望が4.2%で表1アンケート項目(1)アンケート項目回答選択肢年齢1.20歳以下,2.30歳代,3.40歳代,4.50歳代,5.60歳代,6.70歳代,7.80歳以上性別1.男性,2.女性通院期間1.1年未満,2.2年未満,3.3年未満,4.5年以上,5.10年未満,6.10年以上通院方法1.単独通院可,2.付添いが必要通院手段1.自家用車,2.バス,3.電車,4.その他今後の診療形態の希望1.診療も検査も大学,2.検査のみは他施設で可,3.診療連携が十分なら診療も検査も可,4.地元の眼科施設への転院希望表2アンケート項目(2)アンケート項目回答選択肢年齢1.20歳以下,2.30歳代,3.40歳代,4.50歳代,5.60歳代,6.70歳代,7.80歳以上性別1.男性,2.女性通院手段1.自家用車,2.バス,3.電車,4.その他通院時間()分同居家族構成単身,配偶者,親,子供,孫,親戚,その他インターネットの利用の有無あり,なしICTの診療への利用目的1.自分のカルテを作る,2.医師にメールなどで相談,3.看護師にメールなどで相談,4.病気の情報を集める,5.薬の管理(125)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012273■:診療連携が十分なら両方■:地元診療所希望80歳代70歳代60歳代50歳代:診療も検査もすべて山梨大:検査のみなら他の病院も可表3アンケート回答者年齢分布(全国回答者中で年齢が判明したもの)全体20歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代診療も検査もすべて山梨大146221219335325検査のみなら他の病院も可2700334134診療連携が十分なら両方9303117203715地元眼科紹介90010134合計275252729581064850歳未満全体■:診療連携が十分なら両方■:地元診療所希望:診療も検査もすべて山梨大:検査のみなら他の病院も可0%20%40%60%80%100%図1今後の診療希望電車バス自家用車0%20%40%60%80%100%図3通院方法と診療連携の受け入れあった.50歳未満の患者においては,大学病院における診療のみを引き続き希望する患者は40.5%と減少し,何らかの形で地元診療機関との診療が可能な患者は47.6%と高かった.50歳以上の患者では傾向には大きな差はなく半数強の患者が大学のみの診療を希望していた.通院年数と診療連携の在り方について検討した(図2).その結果,通院年数が1年未満と短い患者においては大学での診療を希望する患者は31.0%であったのに対し,通院期間が長くなるほど,大学病院での診療希望率は上昇する傾向を示し,3年以上5年未満の患者では70%程度の患者が希望した.当院への通院方法は自家用車,電車,バスはそれぞれ79.1%,7.1%,13.8%であった.通院方法と診療連携に関して検討した(図3).自動車で通院が可能な患者の51.4%が大学のみでの診療を希望していたが,電車,バスで通院していた患者では大学の274あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(名):診療も検査もすべて山梨大■:検査のみなら他の病院も可10年以上10年未満5年未満3年未満2年未満1年未満図2通院年数と診療連携の在り方:診療も検査もすべて山梨大■:検査のみなら他の病院も可付添い単独通院0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%図4単独通院者と付添い者の必要な通院者における診療連携の受け入れみの診療を希望する患者はそれぞれ57.9%,67.6%と高い傾向がみられた.通院における付添い者の有無に関して検討した(図4).通院に際して単独通院の患者は72.1%であり,27.9%は付添いが必要であったが,単独通院者の54.2%が大学のみでの診療を希望していたのに対し,付添いが必要な患者の大学のみでの診療希望率は44.7%とやや低かった.一方,地元診療機関における診療希望率は単独通院者が2.8%であったのに対し,付添いが必要な患者では7.1%と高くなっていた.2.緑内障診療へのICTの活用に関する調査面談した患者は全125名,内容は男性64名,女性61名であった.平均年齢は65.31±4.0歳であった.全対象者のうち,インターネットを利用していない患者は69%と利用している患者(31.0%)の2倍以上であった.ICTを医療に活用することに対しての意見を図5に示す.とても賛成,ど(126)どちらかといえば反対反対1.6%0.8%どちらかといえば賛成15.7%図5ICTの医療への活用について:全体:とても賛成■:どちらかといえば賛成インターネット非利用者インターネット利用者0%20%40%60%80%100%図6インターネット利用の有無によるICTの活用に関する意識比較■:どちらとも言えない■:あまり興味がない■:興味がない:興味がある■:まあ興味がある薬の管理病状の説明など再確認看護師にメール相談医師にメール相談自己カルテを作成0%20%40%60%80%100%図7ICTの活用希望領域ちらかといえば賛成を合わせて活用に積極的な意見が全体の64.5%と多数を占めていたのに対し,どちらかといえば反対,反対が2.4%のみであった.一方で,どちらとも言えないが33.1%存在した.ICTの医療への活用に対してインターネットを使用している患者と使用していない患者に分けて検討した(図6).その結果,インターネット利用者においては75.8%が積極的に賛成し,反対がないのに対して,非利用者においては58.1%が賛成,3.5%が反対とインターネットの使用の有無による違いが目立った.ICTをどのように活用したいかについて結果を図7に示す.最も活用したい項目は自己カルテを作成すること,病状の説明の再確認であった.その他,医師への相談,薬の管理も比較的高い希望を示した.III考察緑内障治療において最も重要なことは緑内障性視神経障害が進行して重篤な視機能障害をきたさないように,生涯にわたって適切な管理を行うことである.このためには,治療目標を正しく定め必要な治療を続けていくことが重要であるが,自覚症状の少ない緑内障の場合,患者の積極的な診療への参加が重要である.このためには医師と患者が疾患に対して十分に意識を共有することが大切であるが,患者数の増加と専門医数の不足により医師と患者の良好な関係の維持が従来に比べ困難になってきている.この課題を克服するためには基幹病院の緑内障専門医と地域診療機関の眼科医の連携が不可欠である.今回緑内障患者を対象にアンケート調査を行い病診連携に関する患者意識調査を行った.その結果,ほぼ半数の患者が何らかの病診連携を行うことに賛同したが,年齢の高い世代や通院期間が長い患者においては連携に比較的消極的であった.今回アンケートを行った患者はすでに大学病院で診療を受けている患者であり,一般的な患者より大学病院志向が強い可能性があることがその一因であると思われたが,病診連携を進める課題としては,通院期間が長期化する前に患者に緑内障診療の特徴について説明し,病診連携の必要性について理解をしていただくことが重要と思われた.また,地方病院であることから自家用車での通院者も多かったが,単独で自家用車で通院している患者に比べ,公共の交通機関を利用している患者においては病診連携にやや消極的な傾向がみられた.これは大学病院へは比較的公共交通機関が発達しているが,地方においては地域の眼科診療機関への公共交通機関の充足が少ないことも影響している可能性が考えられた.また,付添いのない患者に比べ付添いのある患者のほうが病診連携指向が強かったが,この背景には患者が付添い者に配慮しているか付添い者の負担が大きい可能性があると思われた.医療におけるICTの活用は眼科領域ではまだほとんどないが,今回の面談結果では,積極的な意見が多いことが明らかになった.特にインターネットの利用者においてはICTの医療への活用に対する反対意見はなく,賛成意見が非常に多かった.緑内障患者には中高齢者が多く,今回のアンケート対象も平均年齢が65.3歳と高齢であったため,インターネット利用者率は31%と低かった.今後インターネットの普及などICTの利用を促進することが重要であると思われた.ICTの活用分野に関して調査した結果,自分自身の病状を理解することと投薬内容を管理することが最も関心の高い項目であった.緑内障診療は生涯にわたるものであり,今後はICTを活用し患者が興味をもつこれらの情報を積極的(127)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012275に開示し,患者の病識を高め投薬を管理していくことが非常に重要であると考えられた.今回の検討では当院に通院中の緑内障患者を対象にしたために患者背景にやや偏りがある可能性がある.診療連携意識調査のアンケートは,緑内障外来の受診者を対象とした調査であるが,同日では回答時間が十分に取れないため後日郵送も可とした.さらに高齢者および高度視野機能障害者も多く,アンケートの回答が困難な対象も比較的多かったため,回収率が52.6%とやや低い結果となった.また,本学は2005年よりICTを活用した緑内障診療支援システムを行っており9.11),一般的緑内障患者よりICTに対する理解が高い可能性がある12).今回の解析には重症度,治療歴,投薬数などは解析対象としていない.重症度に関しては今回のアンケートは無記名回答が基本であるため,個人特定が困難であり,客観的重症度を判断することができなかった.今後これらも解析対象として検討する必要がある.適正な患者分配により診療連携を行うことが,外来待ち時間の短縮や視野検査などの諸検査を効率的に行い,ひいては予約期間の短縮や緑内障診療の適正化につながると考えられる.今後はより患者の状態に合わせた病診連携を進め,重篤な患者と安定した患者に対する治療を専門病院と一般診療機関とで適正に分担していくことが重要と思われる.今回,病診連携や緑内障診療にICTを導入する際の課題が明らかになった.これらを克服してより高品質な緑内障診療を均一に提供できる体制つくりを行っていく必要がある.文献1)QuigleyHA:Numberofpeoplewithglaucomaworld-wide.BrJOphthalmol80:389-393,19962)QuigleyHA:Glaucoma.Lancet377:1367-1377,20113)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20044)原晋介:【これからの医工連携】はじめに情報通信技術の健康・医療分野への活用に向けて.電子情報通信学会誌94:166-171,20115)山本隆一:【情報爆発時代に向けた新たな通信技術限界打破への挑戦】情報爆発時代における通信の果たす役割とその未来像保健医療分野での通信技術の課題.電子情報通信学会誌94:380-384,20116)柏木賢治:【地域連携はどこまで進んだかEHRの実現で日本の医療を救う】MODELCASEいかにして地域連携にITを活用するか慢性期疾患管理を中心とした地域連携.INNERVISION24:33-37,20097)横井正紀:【電子カルテと地域医療ネットワーク医療連携の未来のために】地域医療連携に必要な次世代情報通信技術情報化基盤のための地域医療モデルとは何か.DIGI-TALMEDICINE5:38-40,20058)武蔵国弘:インターネットの眼科応用他科のインターネット事情.あたらしい眼科26:509-510,20099)柏木賢治:インターネットを用いた新しい慢性疾患診療支援システムの構築.日眼会誌111:114-116,200710)柏木賢治:慢性疾患診療支援システム開発に関する研究.日本遠隔医療学会雑誌5:131-132,200911)柏木賢治,寺田信幸,鈴木新一:疾患別管理を基本とした新しい病診連携システムの模索.日本遠隔医療学会雑誌2:182-183,200612)柏木賢治:WEBを用いた診療情報提供が緑内障患者の疾患理解度に与える影響マイ健康レコードの医療リテラシー改善効果.日本遠隔医療学会雑誌7:30-34,2011***276あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(128)