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消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた 周辺部角膜潰瘍の1 例

2022年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科39(5):672.676,2022c消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍の1例三原顕細谷友雅岡本真奈松岡大貴五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofPeripheralUlcerativeKeratitisafterExposuretoAntisepticSolutionsAkiraMihara,YukaHosotani,ManaOkamoto,TaikiMatsuokaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC消毒液の誤用が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍のC1例を報告する.45歳,男性.全身疾患の既往はない.左眼に鉄粉が飛入し,近医で処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.同日から眼痛,充血,視力低下を自覚したが点眼加療によりいったん改善した.受傷からC2カ月後に再度眼痛が生じ当院を受診し,角膜上皮欠損,実質浮腫,内皮細胞数の減少を認めた.ステロイド点眼,抗菌薬点眼,治療用ソフトコンタクトレンズで加療するもC4週後に眼痛が悪化.角膜上皮欠損の拡大,輪状膿瘍,前房蓄膿を生じたため感染を疑い,ステロイド点眼を中止し抗菌薬点眼を強化したが,所見の悪化を認めた.周辺部角膜潰瘍を疑い,ステロイドの試験内服をしたところ所見が改善したため,免疫抑制治療を強化して消炎したが,角膜混濁が残存し全層角膜移植待機中である.本症例は消毒薬により変性した角膜組織が抗原として認識され,周辺部角膜潰瘍が発症したと考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCulcerativekeratitis(PUK)triggeredCbyCexposureCtoCantisepticCsolu-tions.CaseReport:A45-year-oldmalewithnosystemicdiseasepresentedwithacornealforeignbodyinhislefteye.CItCwasCaccidentallyCwashedCwithCchlorhexidine20%Csolution.CHeCexperiencedCpain,Credness,CandCdecreasedCvisionCinCthatCeye,CyetCthoseCsymptomsCtemporarilyCimprovedCwithCeye-dropCinstillation.CThreeCmonthsClater,CtheCpaininthateyereoccurred,andwesuspectedinfectionduetoenlargementofthecornealepithelialdefect,cornealringCabscess,CandChypopyon.CAlthoughCtheCsteroidCeyeCdropsCwereCdiscontinuedCandCantibacterialCeyeCdropsCwereCincreased,CtheCconditionCworsened.CWeCsuspectedCPUK,CandCimprovementCwasCachievedCbyCadministrationCofCstrengthenedsteroideyedropsandimmunosuppressants.However,thecornealopacityremained,andthepatientiscurrentlyscheduledtoundergopenetratingkeratoplasty.Conclusion:Inthiscase,cornealtissuedenaturedbyantisepticsolutionswasidenti.edasanantigen,whichappearstohaveresultedinthedevelopmentofPUK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):672.676,C2022〕Keywords:周辺部角膜潰瘍,クロルヘキシジン,消毒薬,眼化学外傷,誤用.peripheralulcerativekeratitis,chlorhexidine,antisepticsolution,ocularchemicalinjury,misuse.Cはじめにグルコン酸クロルヘキシジンは,消毒薬としてさまざまな状況で使用される薬剤である.眼手術時にはC0.02.0.05%で結膜.の洗浄に使用される1).しかし,誤使用により高濃度で使用した結果,軽症例では軽度の角膜障害のみで点眼治療で改善するものの,重症例では角膜障害だけではなく,持続する前眼部炎症により白内障や続発緑内障を生じ,手術加療が必要になった症例報告も散見される2,3).周辺部角膜潰瘍は角膜周辺部に特徴的な形態を呈する難治性潰瘍で,眼痛を伴う結膜充血,流涙,羞明が特徴的な症状で,角膜組織に対する自己免疫反応によって生じると考えられている4).重篤な場合,急速に進行し,角膜穿孔をきたす〔別刷請求先〕三原顕:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkiraMihara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC672(122)症例もあり注意を要する.アルカリ外傷後に周辺部潰瘍を生じた報告5)はあるものの,消毒薬を誘因として生じた周辺部潰瘍は筆者らが文献を渉猟した限りではみられなかった.今回消毒薬の誤用による化学外傷が誘因となったと考えられる周辺部角膜潰瘍を経験したので報告する.CI症例患者:45歳,男性.主訴:左眼の疼痛,視力低下.現病歴:作業中に左眼に鉄粉が飛入し,近医での処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.すぐに生理食塩水で洗浄したが,直後から左眼の疼痛,充血,視力低下を自覚し他院を受診した.受診時に左眼の角膜上皮欠損を認め,ヒアルロン酸C0.1%点眼液,レボフロキサシンC1.5%点眼液,プラノプロフェン点眼液を処方されいったん改善した.受傷C1カ月後に,結膜浮腫・Descemet膜皺襞を認めたため,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼液が追加され経過観察となった.受傷C63日後に,再度左眼の眼痛が生じ,角膜障害を認めたため当院紹介となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C1.0(1.5C×sph+0.75D(cylC.0.50DAx60°),左眼0.09p(矯正不能),眼圧は右眼19mmHg,左眼C19CmmHgであった.右眼前眼部に異常所見はなかった.左眼は角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Des-cemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認めた(図1a).両眼ともに中間透光体,眼底に異常はなかった.角膜内皮細胞数は,右眼C3,165個/Cmm2,左眼の中央部は測定不能で,上方は観察可能であったがC1,661個/mmC2と減少を認めた.消毒薬による角膜内皮機能不全と考え,前医で処方中であったレボフロキサシンC1.5%点眼液,ベタメタゾンC0.1%点眼液,ヒアルロン酸C0.1%点眼液各左眼C1日C3回に,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を追加した.受傷C77日後に角膜上皮欠損の拡大と,上皮欠損部に付着物を認めた.付着物の培養同定検査結果は陰性であったので,上皮保護目的で治療用ソフトコンタクトレンズ装用を開始した.受傷C92日後に左眼痛が悪化し,結膜充血の悪化,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認めた(図1b).前房内炎症が生じており,細菌感染を合併したと考え,ベタメタゾンC0.1%点眼液とコンタクトレンズ装用を中止し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とセフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼液をC2時間ごとの点眼に変更して抗菌薬治療を強化し,入院加療とした.入院C2日目(受傷C93日後)に,周辺部の輪状浸潤が増加し,上皮欠損の拡大を認めたことから,グラム陰性桿菌感染の可能性を考え,セフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼をトブラマイシンC0.3%点眼C2時間おきに変更し,イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム点滴治療も開始した.入院C6日目(受傷C97日後)には,さらなる周辺部の輪状浸潤の拡大を認めた.上皮欠損は広範囲であったが,中央部に一部島状図1前眼部写真(上段:細隙灯顕微鏡写真,下段:フルオレセイン染色)a:初診時.角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Descemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認める.Cb:受傷C77日後.結膜充血が悪化し,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認める.Cc:受傷C99日後.周辺部の輪状浸潤拡大と角膜上皮欠損の拡大を認める.中央部に島状の上皮残存部位がある(.).レボフロキサシン1.5%点眼トブラマイシン点眼トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩液オフロキサシン眼軟膏フルオロメトロン0.1%点眼液リン酸ベタメタゾン点眼液プレドニゾロン錠ベタメタゾン錠シクロスポリン錠ステロイド開始1日3日5日11日20日27日62日88日受傷後100日102日104日110日119日126日161日287日図2プレドニゾロン開始後の投薬内容の推移図3受傷1年2カ月後の所見a:前眼部写真.角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜混濁を認める.Cb:前眼部光干渉断層計による角膜形状解析.高度の角膜形状変化を認める.c:前眼部光干渉断層像.角膜周辺部の菲薄化を認め,中央部は高輝度を呈している.虹彩前癒着は認めない.表1消毒薬の誤用で生じた化学外傷性歳原因薬剤主病変治療方針合併症最終視力文献男C37ポリヘキサメチレンビグアニド上皮障害点眼治療C–8女C0塩化ベンザルコニウムC10%輪部疲弊培養角膜上皮移植結膜侵入角膜混濁C0.4C2男C61クロルヘキシジンC0.5%上皮欠損点眼治療上皮下混濁内皮減少C0.5C9女C50クロルヘキシジンC1%内皮減少C0.9C10男C86実質混濁全層角膜移植実質混濁C0.05C0.15C33男C44クロルヘキシジンC5%実質浮腫上皮混濁点眼治療,ソフトコンタクトレンズ装用C男C47実質浮腫全層角膜移植水疱性角膜症C1.0C3男C50クロルヘキシジンC20%上皮欠損輪部疲弊培養角膜輪部上皮移植,白内障手術,線維柱帯切除,全層角膜移植緑内障白内障C0.01C15Ccm指数弁C22女C16内皮障害強角膜移植,全層角膜移植,白内障手術,結膜輪部自家移植,毛様体光凝固,線維柱帯切除Cに上皮が残存していた.抗菌薬点眼による角膜上皮障害の可能性を考慮し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とトブラマイシンC0.3%点眼をC1日C6回に減量した.入院C8日目(受傷C99日後)も,所見の改善はなかった(図1c).何度か眼脂培養同定検査をするもすべて陰性で病原微生物が検出されなかったこと,上皮欠損の形状が輪状で,通常の感染としては非典型的であったこと,ステロイド中止後にさらに悪化したことから,自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を疑い,プレドニゾロン錠C5Cmgを試験内服した.ステロイド内服開始からC3日目には眼脂が減少し,周辺部角膜浸潤と角膜透見性の改善を認めたことから,ステロイドが著効すると考え,フルオロメトロンC0.1%点眼液C1日C3回を追加投与し,ステロイド開始C5日目には治療強化目的でプレドニゾロン錠をベタメタゾン錠C1.0Cmgに変更した.前房蓄膿の改善と角膜透明性の改善を認めベタメタゾン錠をC0.5Cmgに漸減し退院とした.受傷C119日目には角膜透明性は改善したが,上皮欠損は残存しており,局所ステロイド治療の強化目的でフルオメトロン点眼液からベタメタゾン点眼液C1日C3回に変更した.受傷C126日目には上皮欠損は経度認めるも改善傾向を認め,急性期の炎症は落ち着いてきたので,ベタメタゾン錠からプレドニゾロン錠C5Cmgに漸減し,受傷C161日目には角膜上皮化を得られた.今後は,長期に免疫抑制したほうがよいと考え,ステロイドの副作用を踏まえた結果,内服をステロイドからシクロスポリン錠C200Cmgに変更した.受傷C287日後には角膜混濁の改善を認めたので,シクロスポリン錠をC1カ月ごとにC50Cmgずつ漸減し,受傷後C1年かけ内服終了となった(図2).受傷C1年C2カ月後には角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜形状変化と角膜混濁は高度で,ハードコンタクトレンズの装用を試しても左眼視力C0.01(0.1C×HCL)までしか得られなかった(図3).眼圧上昇や視野異常は認めておらず,緑内障の合併は認めなかった.今後,全層角膜移植術を予定している.CII考按角膜は眼表面にあるため,外界からの物理的・化学的侵襲を受けやすい.また,眼化学外傷は,重度の合併症と視力低下を生じるリスクがあり,迅速かつ集中的な治療が必要な緊急疾患である.20.40代の男性にもっとも多く,障害は慢性的になり生涯にわたる可能性もある6).また一般的に,アルカリ性物質は,細胞膜の脂質を鹸化し組織蛋白質の融解を生じた後,組織に深達して,眼表面から水晶体の構造を変性させ,重症になりやすい.対照的に酸性の物質は,上皮で蛋白質の凝固を引き起こし,眼内の浸透を抑制することが知られている7).クロルヘキシジングルコン酸塩液は酸性で,さまざまな場面で消毒薬として使用されているが,眼科では0.02.0.05%であれば眼科手術時の結膜.の消毒に使用可能である1).しかし,高濃度では,酸性であっても界面活性剤が含まれているため,界面活性剤による角膜上皮傷害が生じ,バリア機能が破綻することで,クロルヘキシジングルコン酸が角膜表面から徐々に内部に浸透し,前房内にも炎症が生じると考えられており,多種多様な障害が生じる2).消毒薬による眼化学外傷の報告は多数あり,薬剤の濃度によって重症度や治療内容は異なり,濃度が濃いほど重篤である2,3,8.10)(表1).Shigeyasuらは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で,曝露後に数カ月.数年の経過を得て,角膜障害,輪部疲弊,白内障,続発緑内障などが生じ,複数回の手術加療が必要になった症例を報告している2).また,中村らは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で水疱性角膜症を生じ,発症C5カ月後に全層角膜移植術を施行した症例を報告している3).本症例では,適正使用の約C1,000倍の濃度の消毒薬に曝露され,角膜上皮障害はいったん改善を認めたが,病状が進行し,最終的に全層角膜移植術が必要な状態になった.このように,消毒薬による化学外傷は長期にわたりさまざまな病態を呈し進行することもあるため,長期の経過観察が必要である.特発性周辺部角膜潰瘍は,一般的には非感染性で進行性の角膜潰瘍である.角膜抗原に対する自己免疫反応と考えられ,外傷,手術などの機械的刺激や,C型肝炎ウイルスや寄生虫感染が関連する報告を認める11,12).Alfonsoらは,眼アルカリ外傷が誘因となって生じた周辺部潰瘍を報告しており,変性した角膜抗原が自己免疫応答を誘発した結果,受傷から数カ月.数年後に周辺部潰瘍を発症すると述べている5).これまで消毒薬で特発性周辺部角膜潰瘍を生じた報告は,筆者らが文献を渉猟した限りみられなかった.本症例では上皮,内皮の直接的な障害も認めたが,高濃度の薬剤で角膜組織変性が生じ,その変性した角膜を抗原と認識して周辺部角膜潰瘍が生じたと考えた.実際にステロイド治療を強化することで,病変の改善を認めたため,自己免疫性の機序であったと考えられる.しかし,今回は膠原病の否定は問診のみで,膠原病関連自己抗体の採血検査は行っておらず,より正確な診断のためには採血検査が必要であったと考えられる.周辺部角膜潰瘍の初期は,周辺部の角膜実質浅層に細胞浸潤を認め,進行すると病変部の角膜上皮欠損と角膜実質の菲薄化が生じる4).症例の経過を振り返ると,受傷C97日後の炎症増悪時に角膜周辺部の一部に細胞浸潤を生じており(図1b),これが周辺部潰瘍の初期病変だった可能性が高い.前房蓄膿を生じたことから,感染を発症したと考えステロイドを中止したが,角膜中央部の上皮残存も感染としては非典型的であった.早期に自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を鑑別疾患としてあげることができていれば,ステロイド治療開始が早まり,組織破壊は軽減できたのではないかと考える.増悪時の所見をみると前房蓄膿や角膜中央部の上皮欠損,浮腫性混濁を伴っており,炎症所見が高度で典型的な周辺部角膜潰瘍ではなかった.受傷早期に十分な抗炎症療法が施されておらず,炎症が遅延していた可能性や角膜内皮障害,眼内炎症など他のさまざまな要素が関係してこのような病型となり,最終的に全層角膜移植が必要になったと考えた.今回の症例のように薬剤の誤用による角膜障害は医原性であり,インシデントやアクシデントなどのリスク管理が必要になる事例である.事前に防止するには的確な指示,口頭指示の解釈間違い事例の分析を多職種で実施し,お互いの伝え方のスキルを磨くトレーニングの実施などの未然防止対策があげられ13),多職種間でのコミュニケーションや,事前にシミュレーションを行うことがアクシデント予防に必要と考える.謝辞:本症例の加療に際し,京都府立医科大学眼科学教室の稲富勉先生に多大なご助言をいただきました.ここに深謝いたします.文献1)GreenCK,CLivingstonCV,CBowmanCKCetal:ChlorhexidineCe.ectsoncornealepitheliumandendothelium.ArchOph-thalmolC98:1273-1278,C19802)ShigeyasuCC,CShimazakiJ:OcularCsurfaceCreconstructionCafterCexposureCtoChighCconcentrationsCofCantisepticCsolu-tions.CorneaC31:59-65,C20123)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒薬による医原性化学腐蝕のC4例.臨眼52:786-788,C19984)小泉範子:Mooren潰瘍.角膜疾患外来でこう診てこう治せ(木下茂編),改訂第C2版,p120-121,メジカルビュー社,C20155)AlfonsoI,SeemaA,JohnK:Late-onsetperipheralulcer-ativeCsclerokeratitisCassociatedCwithCalkaliCchemicalCburn.CAmJOphthalmolC158:1305-1309,C20146)Baradaran-Ra.CA,CEslaniCM,CHaqCZCetal:CurrentCandCupcomingCtherapiesCforCocularCsurfaceCchemicalCinjuries.COculSurfC15:48-64,C20177)草野雄貴,山口剛史:外傷と輪部.眼科C62:437-445,C20208)中村葉:消毒液,洗浄液による角膜障害.あたらしい眼科25:443-447,C20089)木全奈都子,高村悦子:腹臥位での全身麻酔下手術において消毒薬が原因と思われる角膜障害をきたしたC1例.眼臨紀9:120-124,C201610)冨山浩志,那須直子,下地貴子ほか:腹臥位での全身麻酔手術後に重篤な角膜障害をきたしたC1例.臨眼C74:485-489,C202011)後藤周,外園千恵,稲富勉ほか:特発性周辺部角膜潰瘍の発症および臨床経過に関する検討.日眼会誌C122:C287-292,C201812)WilsonS,LeeW,MurakamiCetal:Mooren-typehepati-tisCCCvirus-associatedCcornealCulceration.COphthalmologyC101:736-745,C199413)石川雅彦:第C84回口頭指示の“解釈間違い”に関わるアクシデント事例の未然防止!─事例の発生要因から考えるトレーニング企画のポイント─.月刊地域医学C34:844-855,C2020(126)

医原性化学腐蝕眼に対する全層角膜移植後16年間観察できた2症例

2015年12月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(12):1753.1756,2015c医原性化学腐蝕眼に対する全層角膜移植後16年間観察できた2症例北澤耕司*1,2,3中村葉*3外園千恵*3木下茂*2*1バプテスト眼科山崎クリニック*2京都府立医科大学感覚器未来医療学*3京都府立医科大学視覚機能再生外科学TwoCasesin16YearsafterPenetratingKeratoplastyforChemicalCornealBurnCausedbyMisuseofDisinfectantKojiKitazawa1,2,3),YoNakamura3),ChieSotozono3)andShigeruKinoshita2)1)BaptistYamasakiEyeClinic,2)DepartmentofFrontierMedicalTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:消毒液の誤用により生じた医原性の化学腐蝕眼に角膜移植術を行い,16年間経過観察した2症例を報告する.症例および経過:症例1は霰粒腫切除前の消毒時,高濃度ヒビテンRの洗眼により受傷し,京都府立医科大学附属病院を紹介受診.内科的治療を行ったが角膜実質浮腫が進行し,著明な視力低下をきたしたために全層角膜移植術を施行した.術後16年の経過において矯正視力0.6で角膜移植片は透明性を維持している.症例2は外傷性結膜裂傷に対する結膜縫合時にヒビテンアルコールRを洗眼時に誤用したため当院を紹介受診.最終的に角膜実質混濁の残存と水疱性角膜症による視力低下により全層角膜移植術を施行した.術後16年の経過において矯正視力は0.9で,角膜移植片は透明性を維持している.結論:消毒液を用いた洗眼による医原性の角膜化学腐蝕に対して全層角膜移植術を施行し,16年という長期にわたって角膜は透明性を維持し,再移植を要さず良好な視力を維持していた.Wereport2casesin16yearsafterpenetratingkeratoplastyforchemicalburncausedbyaccidentalexposuretohighconcentrationofchlorhexidinedigluconate(HibitaneR)orHibitaRalcoholatthetimeofmedicaltreatment.Thoughbothcaseswereimmediatelytreated,cornealstromascarringandcornealedemaremained,resultinginbullouskeratopathy.Penetratingkeratoplastywaseventuallyperformedinbothcases.Afterthesurgery,thepatients’correctedvisualacuityimprovedtoaround20/20andwaswellmaintained,evenafter16years.Therewerenorejectionsandnoelevationofintraocularpressure.Penetratingkeratoplastyforiatrogenicchemicalburnfromexposuretodisinfectantthusprovidedgoodvisionforaprolongedperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(12):1753.1756,2015〕Keywords:全層角膜移植術,化学腐蝕,医原性,消毒液,誤用.penetratingkeratoplasty,chemicalburn,iatrogenic,disinfectant,misuse.はじめに化学腐蝕は眼外傷の7.7%から18%を占め,ときに重篤な視力障害を引き起こす1)と報告されている.薬剤の接触時間,薬剤のpH,濃度,直後の処置の有無などにより眼表面への影響が異なり,角膜上皮障害の範囲と程度,とくに角膜輪部機能残存の有無が治療予後に大きく影響する2).一般的な化学腐蝕の原因としては,酸,アルカリ,尿素,有機溶媒などがあり,アルカリによるものが最大の原因であり3,4),労働災害と関係することが多い.一方で,化学腐蝕は高濃度の消毒液の誤用によって医原性に生じることもある5.8).角膜上皮幹細胞障害の有無が治療予後に大きく影響し,木下分類9)によるグレード3bを超える障害では,眼表面は瘢痕化し,上皮移植や培養粘膜上皮シート移植などの併施が必要となる6,10,11).一方で,グレード3aまでの障害では,ステロイド治療などの消炎によって多くの場合は改善するが,角膜混濁の進行および内皮機能不全による水疱性角膜症のため著明な視力低下に至り,全層角膜移植術を必要とすることもある7,8).また,このような化学腐蝕は眼処置時における医療〔別刷請求先〕北澤耕司:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科山崎クリニックReprintrequests:KojiKitazawa,M.D.,Ph.D.,BaptistYamasakiEyeClinic,12Kamiikedacho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(121)1753 過誤によって生じることもある.筆者らは以前に,消毒液による医原性化学腐蝕を起こした4例について報告した5).医原性の角膜腐蝕は医療訴訟に発展することもあるため,長期予後の知見が重要である.しかし,筆者らが知る限り,医原性の化学腐蝕眼に対する角膜移植後の長期経過報告はない.今回,医原性化学腐蝕眼に対して全層角膜移植術を行い,16年という長期にわたって経過観察できた2症例を経験したので報告する.I症例および経過〔症例1〕66歳,男性.1996年(47歳時),右眼霰粒腫術前の洗眼時,20%ヒビテンRを誤用.直後に生理食塩水で洗眼し,副腎皮質ステロイドを投与されたが,視力低下が進行したため当院紹介.初診時の右眼視力は裸眼0.03,矯正0.06であり,角膜実質浮腫を認め,木下分類による化学腐蝕の重症度はグレード3aであった.その後治療用ソフトコンタクトレンズを装用,4%高張生理食塩水の点眼およびステロイドの内服と点眼で経過観察した.しかし,最終的には白内障の進行および水疱性角膜症に至り(図1),受傷1年後に全層角膜移植術,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.術後は抗緑内障点眼の使用もなく,抗生物質点眼および低濃度ステロイドのみで経過観察することができた.視力は矯正で1.0を長期にわたって維持し,術後16年の現在,視力は裸眼0.3,矯正0.6,眼圧は17mmHg,角膜内皮細胞数は687cells/mm2で,移植片は透明性を維持していた(図1,3,4).〔症例2〕66歳,男性.1993年(44歳時),左眼外傷性結膜裂傷に対する眼処置前の洗眼時にヒビテンアルコールRを誤用した.瞬時に高度の角膜の混濁を生じたため生理食塩水で洗眼処置を行ったあと,副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与を行ったが,軽快しないため当院紹介受診.初診時視力は裸眼0.1,矯正0.3で角膜実質浮腫および下方の角膜混濁を認め,化学腐蝕の重症度は木下分類のグレード3aであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,抗生物質およびステロイドの点眼で経過観察したが,徐々に角膜実質混濁が進行した.最終的に角膜実質混濁の残存と角膜内皮機能不全による水疱性角膜症および白内障によって,視力は指数弁に低下したため(図2),受傷5年後に全層角膜移植術,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.その後は拒絶反応や眼圧上昇などの合併症を生じることなく視力は矯正1.0を維持した.術後16年時,裸眼視力0.2,矯正視力0.9,眼圧16mmHg,角膜内皮細胞数は642cells/mm2で角膜移植片は透明性を維持していた(図2,3,4).図1症例1左:手術前.角膜内皮機能不全により水疱性角膜症に至る.右:手術後16年.角膜移植片は透明性を維持している.図2症例2左:手術前.角膜実質混濁が残存し,角膜内皮機能不全による角膜浮腫を認める.右:手術後16年.角膜移植片は透明性を維持している.1754あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(122) 経過観察期間(年)矯正視力(logMAR)-0.500.511.522.5術前12345678910111213141516症例1症例2症例1症例205001,0001,5002,0002,5003,00012345678910111213141516経過観察期間(年)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)症例1症例205001,0001,5002,0002,5003,00012345678910111213141516経過観察期間(年)角膜内皮細胞密度(cells/mm2)図3視力経過16年間という長期にわたって一定の視力を維持することができている.図5術後16年後の角膜内皮細胞左:症例1.右:症例2.II考按今回,高濃度ヒビテンRおよびヒビテンアルコールRの誤用による化学腐蝕眼に対して全層角膜移植術を行い,長期にわたって経過観察できた2症例を経験した.両症例とも拒絶反応および内皮機能不全による再移植,続発緑内障など発症することなく,16年という長期にわたって良好な視力を維持できた.化学腐蝕に対する治療には急性期治療および瘢痕期治療がある.急性期には,ただちに洗眼を行い原因物質の可及的な除去が必要である.また,原因物質の除去だけでなく,早期の消炎,上皮再生を促すための治療用ソフトコンタクトレンズの装用および二次感染の予防が重要である.輪部上皮の完全消失を示す木下分類のグレード3bになると,適切な初期治療が行われていても角膜上皮による再上皮化ができず,瘢(123)図4角膜内皮細胞密度の経過術後5年までは細胞密度の減少はしたが,その後は長期にわたり安定していた.痕治癒となる.化学腐蝕に対して全層角膜移植術を施行した場合,術後上皮欠損や血管新生を高頻度に発症し,移植片機能不全を生じやすく,他の疾患より予後が悪いとされる12).しかし,本症例では木下分類のグレード3aであったことから移植片の透明性を維持することができ,長期にわたって視力は良好であり,続発緑内障を生じることもなかった.両症例とも一部虹彩萎縮を認め,前房内への薬剤の浸透があったと思われるが,曝露直後に洗眼を行うことで最小限の障害にとどまったと考えられる.今回誤用された消毒液はいずれもグルコン酸クロルへキシジンが主成分である.動物実験では1%以下のクロルヘキシジンでは角膜上皮に影響を与えず13),むしろ,低濃度のクロルヘキシジンは殺菌薬としてアカントアメーバを含むさまざまな眼感染症に対して有効であると報告されている14.17).しかし,高濃度のクロルヘキシジンは角膜上皮バリアの破綻に伴い角膜実質に浸透し,角膜内皮機能不全を引き起こす18).また,アルコールも同様に濃度や種類により角膜に対する影響が変わる.20%アルコールはLASEK手術時,角膜上皮に塗布して上皮.離の処置の目的で使用することがある.一方,70%エタノールは一般的には手指の消毒液として使用されるが,誤用により眼表面に曝露されると強い上皮障害を引き起こすことが報告されている19).さらに,低級から高級アルコールになると水溶性から脂溶性になり,角膜への浸透度はさらに上がると考えられる.このように治療に使用する消毒液であっても誤用することで重篤な障害を引き起こすため注意が必要である.眼処置時に生じる化学腐蝕は医原性であるという性質から医療訴訟に発展する場合が多いが,両症例とも幸い医療訴訟に発展することはなく,最終的に和解に至っている.再発予防には,すでに希釈された消毒液を常備することが望ましいと考える.最近では注意喚起のために,製品の濃度表記が拡あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151755 大され,使用上の注意書きも変更されている.また,コメディカルを含めた医療従事者に対し,消毒液がこのような重篤な障害を引き起こす可能性についての十分な教育が必要と考える.再発予防が一番であるが,消毒液の誤用による化学腐蝕が生じた場合,全角膜上皮欠損があっても輪部上皮が残存していれば,全層角膜移植を行うことにより一定の視力を長期にわたって維持することが可能であった.文献1)PfisterRR:Chemicalinjuriesoftheeye.Ophthalmology90:1246-1253,19832)WagonerMD:Chemicalinjuriesoftheeye:currentconceptsinpathophysiologyandtherapy.SurvOphthalmol41:275-313,19973)RamakrishnanKM,MathivananT,JayaramanVetal:Currentscenarioinchemicalburnsinadevelopingcountry:Chennai,India.AnnBurnsFireDisasters25:8-12,20124)AkhtarMS,AhmadI,KhurramMFetal:EpidemiologyandoutcomeofchemicalburnpatientsadmittedinBurnUnitofJNMCHospital,AligarhMuslimUniversity,Aligarh,UttarPradesh,India:A5-yearExperience.JFamilyMedPrimCare4:106-109,20155)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒液による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19986)ShigeyasuC,ShimazakiJ:Ocularsurfacereconstructionafterexposuretohighconcentrationsofantisepticsolutions.Cornea31:59-65,20127)PhinneyRB,MondinoBJ,HofbauerJDetal:CornealedemarelatedtoaccidentalHibiclensexposure.AmJOphthalmol106:210-215,19888)VarleyGA,MeislerDM,BenesSCetal:Hibiclenskeratopathy.Aclinicopathologiccasereport.Cornea9:341346,19909)木下茂:化学腐蝕,熱傷.角膜疾患への外科的アプローチ(真鍋禮三,北野周作監修),p46-49,メジカルビュー社,199210)KinoshitaS,ManabeR:Chemicalburns.BrightbillFSed:CornealSurgery.Mosby,StLouis,p370-379,198611)SotozonoC,InatomiT,NakamuraTetal:Visualimprovementaftercultivatedoralmucosalepithelialtransplantation.Ophthalmology120:193-200,201312)MaguireMG,StarkWJ,GottschJDetal:Riskfactorsforcornealgraftfailureandrejectioninthecollaborativecornealtransplantationstudies.CollaborativeCornealTransplantationStudiesResearchGroup.Ophthalmology101:1536-1547,199413)HamillMB,OsatoMS,WilhelmusKR:Experimentalevaluationofchlorhexidinegluconateforocularantisepsis.AntimicrobAgentsChemother26:793-796,198414)SealD:TreatmentofAcanthamoebakeratitis.ExpertRevAntiInfectTher1:205-208,200315)RahmanMR,JohnsonGJ,HusainRetal:Randomisedtrialof0.2%chlorhexidinegluconateand2.5%natamycinforfungalkeratitisinBangladesh.BrJOphthalmol82:919-925,199816)BaileyA,LongsonM:VirucidalactivityofchlorhexidineonstrainsofHerpesvirushominis,poliovirus,andadenovirus.JClinPathol25:76-78,197217)LampeMF,BallweberLM,StammWE:SusceptibilityofChlamydiatrachomatistochlorhexidinegluconategel.AntimicrobAgentsChemother42:1726-1730,199818)GreenK,LivingstonV,BowmanKetal:Chlorhexidineeffectsoncornealepitheliumandendothelium.ArchOphthalmol98:1273-1278,198019)小池彩,片岡卓也,三宅豪一郎ほか:誤って消毒用エタノール液で洗眼した医療事故の経緯.眼臨紀5:538-541,2012***1756あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(124)