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中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字能の関連性の検討

2015年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科32(4):591.595,2015c中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字能の関連性の検討高橋純子*1,2今井浩二郎*1加藤浩晃*1池田陽子*1,2上野盛夫*1山村麻里子*1森和彦*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2御池眼科池田クリニックEvaluationofReadingSpeedAbilityinGlaucomaPatientswithCentralVisualFieldDefectsJunkoTakahashi1,2),KojiroImai1),HiroakiKato1),YokoIkeda1,2),MorioUeno1),MarikoYamamura1),KazuhikoMori1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)OikeIkedaClinic目的:中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字方向別の読字速度との関連ならびに障害部位の自覚による速度改善の可否を検討する.対象および方法:対象は近見両眼矯正視力が0.3以上かつHumphrey視野SITA-Standard30-2(HFA30-2)検査のパターン偏差において中心5°以内にp<0.5%未満の確率シンボルが片眼に1点以上存在,もしくはGoldmann視野検査において中心5°以内に絶対暗点が存在する緑内障症例67例(男女比36:31,平均年齢62.1±18.6歳)である.既報に従い読字速度判定用文章サンプルを用いて縦書き・横書き文章の音読速度(文字数/分)を測定し,年齢およびHFA30-2平均偏差(MD)値との関連について検討した(Pearsonの相関係数の検定).次いで偏心視訓練用近見チャートにより視野障害程度を判定し,障害部位を自覚した後に再度読字速度測定を行い,前後での改善効果を検討した(対応のあるt検定).結果:全症例の平均読字速度は縦読みで272.8±101.6字/分,横読みで291.8±94.4字/分であった.読字速度と年齢,MD値との関連は縦読み,横読みともに有意な相関関係(縦-年齢p<0.001,横-年齢p<0.001,縦-MDp<0.001横-MDp<0.01)を認めた.また,障害部位の自覚により縦読み,横読みとも有意に読字速度が改善(縦-読字速度p<0.01,横-読字速度p<0.05)した.結論:中心視野障害を有する緑内障患者における読字速度は年齢とMD値の影響を受け,視野障害部位の説明を受けることにより,読字速度が改善した.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoevaluatetherelationshipbetweenthereadingspeedabilityofglaucomapatientswithcentralvisualfielddefects,andthepossibilityofthatspeedimprovingafterpatientcognizanceoftheirvisualfielddefects.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved67glaucomapatients(36malesand31females,meanage:62.1±18.6years)followedupatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kyoto,Japanwhohadacorrectedvisualacuityover3/10andwhohadabsolutescotomawithin5degreesinatleast1eyebyHumphreyFieldAnalyzerSITAstandard30-2programorGoldmannperimeter.Forallsubjects,Nakano’ssampletextwasusedtojudgeandevaluatetheiroralreadingspeedincharactersperminute(CPM)ofverticalandhorizontaltext.Associationbetweenthefactorsofpatientageandmeandeviationvaluewasthenanalyzed.Next,visualfielddefectseverityineachpatientwasevaluatedwithanearvisionchartfortrainingeccentricviewinginordertomakethepatientcognizantofhis/hervisualfielddefects.Eachpatient’sreadingspeedwasthencomparedbetweenbeforeandafterbeingawareoftheirvisualfielddefects.Forstatisticalanalysis,thePearson’scorrelationcoefficienttestandthepairedttestwereused.Results:Themeanverticalandhorizontalreadingspeedwas272.8±101.6CPMand291.8±94.4CPM,respectively.Significantassociationwasfoundbetweenreadingspeedandpatientageandmeandeviation,bothinverticalandhorizontalreading.Afterbeingawareoftheirnear-visualfielddefects,bothverticalandhorizontalreadingspeedsweresignificantlyincreased.Conclusions:Thereadingspeedabilityofglaucomapatientshavingcentralvisualfielddefectswasaffectedbypatientageandmeandeviation,yetimprovementinreadingspeedafterthepatient’scognizanceoftheirvisualfielddefectsis〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyoku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(127)591 independentofthedirectionofthetextbeingread.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):591.595,2015〕Keywords:緑内障,読字能力,視野障害,読字速度,読字方向.glaucoma,abilityofreading,visualfielddefects,speedofreading,readingdirection.はじめに緑内障は緩徐に進行する慢性疾患であり,視野障害が比較的軽微な初期から中期には自覚症状がないにもかかわらず,末期になると急激に日常生活に支障をきたすようになる.なかでも,視覚障害者が日常生活において困難をきたすのは「読字」である1).客観的に確立された視野検査法には,Humphrey視野計に代表される静的視野検査法やGoldmann動的視野検査法があり,それらの視野検査結果から緑内障の進行状況を把握するが,実際に緑内障患者自身が自覚している文字の見にくさ,新聞や書物などの文章の読みづらさなどの不自由度を推測するのは困難である2,3).視力が数字上良好であっても,暗点や視野欠損の障害が強ければ同じく,文字を読むことに支障をきたす場合がある.視力が良いからといって読字能力を予測することはむずかしい3).末期緑内障患者のqualityoflife(QOL)を考えるうえで,視野障害程度と文字や文章を読む読字能力の関連性を知ることは重要である.読字能力を評価するツールとして,Leggeらの開発したMNREADチャートが各国の言語に翻訳され普及しており4),日本ではMNREAD-Jが市販されている5.7).MNREAD-Jは最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を測定するのに適したチャートであるが,文字数が限られていて反復して使用することによる学習効果が生じるため,視能訓練による読字速度の改善を評価する際に適しているとは言いがたい.その点,慶應義塾大学の中野らが開発した読字能力判定用文章サンプル8.12)(以下,「読字サンプル」という)は,脈絡のない文章の羅列と学習効果が生じない読み材料で,難易度が均質で,現実の読書に近い状況で速度を調べることができるといわれている.小学校3・4年生の国語の教科書に掲載されている物語文で,同時期までに学習する漢字で構成されており,文章が平易であり知的な影響を受けにくい点が特徴である(図1).視野障害の意識化に用いる「偏心視訓練用近見チャート」は,滋賀医科大学の村木早苗博士によって発案され,家庭での偏心視訓練に使用されているものである.本チャートは○□の単純な図形表示になっており,アムスラーチャートを応用したもので,中心の黒丸を見た状態での図形の欠損,見づらくなる部位を確認する(図2).非常に簡易的ではあるが,検査器械などを必要とせずに患者本人に障害部位を意識化させることができる.これまでの緑内障による中心視野障害と読字能力の関連をみた報告3)ではMNREAD-Jが用いられていたが,今回,筆者らは,ロービジョンケアの一環として中心視野障害部位の図1読字能力判定用文章サンプル右:縦読みサンプル,左:横読みサンプル.592あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(128) 意識化を試み,読字能力の改善程度を調査する目的で,「読字サンプル」を用いて中心視野障害が読字能力に与える影響を検討した.I対象および方法対象は2012年7月.2013年9月の間に当科緑内障外来を受診した緑内障患者のうち,両眼近見矯正視力0.3以上,かつHumphrey視野30-2SITA-Standard(CarlZeissMeditec,Dublin,CA)(HFA30-2)検査のパターン偏差において中心5°以内にp<0.5%未満の確率シンボルが片眼に1点以上存在,またはGoldmann動的視野検査結果においていずれかの眼の中心5°以内に絶対暗点が存在した67例67眼である.内訳は男性36例,女性31例(平均年齢:62.1±18.6歳),問診により回答を得た緑内障罹患平均年数は9.5±8.3年であった.今回の検討を行う前に,患者背景を把握する手法の一つとして視野欠損の自覚状況につき,問診(日常生活,歩行,読書などにおける視野欠損の自覚の有無について)を行った.すると日常生活において視野欠損の場所を自覚している,または視野欠損により見にくさを自覚してい検定を行い,視野障害の自覚前後の読字速度改善効果の検討には対応のあるt検定を用いた.II結果対象となった67例67眼の病型内訳は原発開放隅角緑内障25例(37%),続発緑内障19例(28%),閉塞隅角緑内障10例(15%),正常眼圧緑内障9例(14%),落屑緑内障4例(6%)であった(図3).両眼近見視力は0.09±0.18(平均logMAR値±標準偏差),判定に用いた視野はHFA30-2検査52例(MD値.13.10±6.29dB),Goldmann視野検査15例であった.これらの対象において年齢,平均MD値と読字速度の検討を行った.まず縦読みと横読みでの1分間の読字速度の比較検討では,縦読み,横読みともに読字速度に差はなかった(Studentt検定,図4).年齢と読字速度の相関の検討では縦読み,横読みともに高齢者のほうが有意に遅かった(Pearsonの相関係数の検定,縦読み:r=.0.41,p<0.001,横読原発開放隅角緑内障37%続発緑内障28%閉塞隅角緑内障15%正常眼圧緑内障14%落屑緑内障6%る割合は,全体の25%であった.読字速度の検討には,「読字サンプル」を使用した(図1).読字速度の評価は,両眼近見矯正下(30cm)で「読字サンプル」の縦書き・横書き文章を音読し,1分間に読める文字数を読字速度とした.「読字サンプル」の文字の大きさは12ポイントを使用した.視野障害部位の意識化による改善効果の検討には,偏心視訓練用近見チャートを使用し,近見30cmで両眼視野の評価を用い,近見視野障害を判定した(図2).判定結果を対象者に説明して障害部位を認識させた後,1回目に読ませた「読字サンプル」とは別の「読字サンプル」で縦書き,横書き文章の1分間の読字速度を再測定した.統計学的検討は年齢,HFA30-2MD値との関連についてはPearsonの相関係数の図3全症例の病型内訳(n=67)原発開放隅角緑内障25例(37%),続発緑内障19例(28%),閉塞隅角緑内障10例(15%),正常眼圧緑内障9例(14%),落屑緑内障4例(6%).10cm10cm500450400文字数/分350300250200150100500縦横図4障害部位認識前の縦読み,横読み速度比較障害部位認識前では縦読み,横読みの読字速度に差はなかった.p=0.26Studentのt検定.(129)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015593図2偏心視訓練用近見チャート縦10cm,横10cmの正方形.30cmの距離で使用する.(滋賀医科大学村木早苗博士のご厚意による) (ピアソンの相関係数の検定)500500y=-2.22x+410.49R2=0.160501001502002503003504004500102030405060708090r=-0.41**p<0.001y=9.44x+410.45R2=0.32050100150200250300350400450500-30-25-20-15-10-50r=0.57**p<0.001年齢(歳)MD値(dB)図5読字速度(縦読み,横読み)と年齢・MD相関読字速度と年齢には縦読み,横読みにて相関があった.縦読みr=.0.41,**p<0.001.横読みr=.0.54,**関係数の検定.読字速度とMDには縦読み,横読みにて相関があった.縦読みr=0.57,**数の検定.050100150200250300350500認識前認識後***■:縦読み■:横読み図6障害部位認識前後の読字速度比較450400350300縦文字数/分縦文字数/分横文字数/分横文字数/分250r=-0.54200**p<0.001150100500年齢(歳)p<0.01150MD値(dB)p<0.001.横読みr=0.40,**p<0.01.Pearsonの相関係み,横読みで比較検討した結果,縦読み,横読みともに有意450400に読字速度が改善された(対応のあるt検定,縦読み:p<文字数/分y=-2.73x+461.34R2=0.290102030405060708090y=6.22x+384.52R2=0.16050100200250300350400450500r=0.40**-30-25-20-15-10-500.01,横読み:p=<0.05,図6).III考按緑内障患者は視野障害が進行すると,日常生活に不便を感じ不安を抱えることが多くなる.日常生活で不便を自覚しやすい動作には書籍や新聞などの文章を読むことがあげられる13).本検討では,中心視野障害を有する緑内障患者の視野障害程度と読字方向別の読字速度との関連,ならびに障害部障害部位を認識することで縦読み,横読みともに障害部位認識前よりも読字速度が改善された.縦読み**p<0.01対応のあるt検定.横読み*p<0.05対応のあるt検定.み:r=.0.54,p<0.001,図5).次に両眼の平均MD値と読字スピードの相関の検討を行った.縦読みも横読みもMD値の良好な症例では有意に読字速度が速かった(Pearsonの相関係数の検定,縦読み:r=0.57,p<0.001,横読み:r=0.40,p<0.01,図5).次に障害部位を意識してもらった前後の読字速度を縦読594あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015p<0.001.Pearsonの相位を意識することによる読字速度改善の可能性を,「読字サンプル」「偏心視訓練用近見チャート」を用いて検討した.この「読字サンプル」は,MNREAD-Jが一つの文章に30文字で構成されているのに対し,文章が長く脈略がないため,繰り返し読んでも学習効果を生じにくい特徴がある.また,小学校3・4年生で学習する漢字を用いて構成されており,文章が平易である.文章の意味は掴めないながらも,純粋に文字を読み上げていく作業を行うため,文字読解能力をバイアスを除外して検査することができた.読字速度に影響を及ぼす要因について考察する.年齢と読字速度の検討では高齢になるほど縦横ともに読字速度は有意(130) に遅くなる傾向にあった.また,中心視野障害の少なからず存在する緑内障患者を対象とした検討であったが,MD値と読字速度の関係では,縦横ともに視野障害程度が強い(MD値が低い)ほど読字速度は遅かった.つまり,高齢で視野障害程度が強い患者ほど読字速度が低下しており,日常生活の充足度を改善させるためには何らかの対策を講じる必要性が感じられた.今回,その対策として,視野障害部位を「偏心視訓練用近見チャート」を用いて確認した後には縦読み,横読み両方の読字速度が有意に改善したことから,自らの視野障害部位を意識化することが読字能力の改善に有用であることが判明した.緑内障患者は日々の外来診療のなかで定期的に視野検査を受けており,その都度医師より視野障害部位を説明されているはずであるが,実際には患者の理解度は人それぞれに異なっており,短い外来受診時間内には十分に理解できていないことが示唆される.視野障害を治療により改善させることは困難であるが,自らの視野障害部位を改めて意識化させることができれば残存視機能を有効に活用することにつながると考えられる.本研究の限界としては,読字サンプルとして12ポイントという比較的大きな文字のみを用いて測定したため,より細かい文字のときの読字に差し障りがあるかどうかの検討ができなかった.また,中心視野の障害部位を「偏心視訓練用近見チャート」を用いて自覚させたが,視野障害部位をより的確に知覚させる手段の有無については,さらなる検討が必要と考えられる.今回の結果から,中心視野障害型の緑内障患者におけるロービジョンケアとして「偏心視訓練用近見チャート」を用いた障害部位の自覚は残存視機能を活用させ,読字能力向上に有用である可能性が示唆された.末期緑内障患者に対するロービジョンケアにおいては,視野検査結果を患者自身に理解させる手段を講じることで,読字能力を改善させ生活の質の向上をもたらすことができる可能性がある.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MangioneCM,BerryS,SpritzerKetal:Identifyingthecontentareaforthe51-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire:resultsfromfocusgroupswithvisuallyimpairedpersons.ArchOphthalmol116:227233,19982)RamuluP:Glaucomaanddisability:whichtasksareaffected,andatwhatstageofdisease?CurrOpinOphthalmol20:92-98,20093)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20064)LeggeGE,RossJA,LuebkerAetal:PsychophysicsofreadingspeedVIII.TheMinnesotaLow-VisionReadingTest.OptomVisSci66:843-853,19895)小田浩一,新井三樹:近見視力評価.わたしにもできるロービジョンケアハンドブック(新井三樹),p32-35,メジカルビュー社,20006)小田浩一:readingの評価.眼科プラクティス14,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),p98-101,文光堂,20077)藤田京子:読書検査の実際.日本の眼科75:1123-1125,20048)中野泰志,菊地智明,中野喜美子ほか:弱視用読書効率測定システムの試作(2)─読材料の生成方法について─.第2回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p46-49,19939)中野泰志,新井哲也:弱視生徒用拡大教科書に適したフォントの分析─好みと読書パフォーマンスの観点からの検討─.日本ロービジョン学会誌12:81-88,201210)中野泰志:弱視用読書効率測定システムの試作.日本特殊教育学会第30回大会発表論文集,p42-43,199211)中野泰志,中野喜美子:弱視(ロービジョン)用読書効率測定システムの試作(3)冊子版文字サイズ評価票とまぶしさの評価方法の試案.第4回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p120-123,199512)山村麻里子,横山貴子,外園千恵ほか:拡大読書器指導マニュアル作成の試み.日本ロービジョン学会誌10:S1-S7,201013)平林里恵,国松志保,牧野伸二ほか:後期緑内障患者の視野障害度と読書力.眼臨紀4:1060-1061,2011***(131)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015595