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心因性近見障害の1例

2021年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(1):108.111,2021c心因性近見障害の1例遠藤智己古森美和新井慎司堀田喜裕佐藤美保浜松医科大学眼科学講座CACaseofPsychogenicNearVisionDisturbanceTomokiEndo,MiwaKomori,ShinjiArai,YoshihiroHottaandMihoSatoCDepartmentofOphthalmology,HamamatsuMedicalUniversityC近見障害を認め,最終的に心因性であると診断するのにC3年を要した女児を経験したので報告する.症例はC11歳の女児.8歳頃より近見時の複視を自覚し,他院でプリズム眼鏡を処方されたが改善なく,浜松医科大学附属病院を受診した.遠見視力は良好だったが,近見時には凸レンズの加入を必要とした.屈折検査では大きな屈折異常は認めなかった.眼位は遠見で正位,近見でC20ΔXTであり,交叉性複視を訴えた.調節力は両眼とも約C3.00Dと同年代と比較し不良で,近見反応では縮瞳や輻湊も不良であった.頭部CMRI検査で異常は認めなかった.プリズムを組み込んだ累進屈折力眼鏡を処方し,複視の自覚は改善した.当初は学校生活を不自由なく送れていたが,母親単独で再度病歴を聴取したところ,過去のいじめや機能性難聴,夜尿の既往歴が複視の症状出現時と一致していることが聴取され,心因性による近見障害であると診断した.CPurpose:Toreportacaseofpsychogenicnear-visiondisturbancethattook3yearsfordiagnosis.Case:An8-year-oldpatientwasprescribedprismaticglassesafterbecomingawareofnear-distancediplopia.Atage11,thepatientwaspresentedatourhospitalduetonoimprovement.Nearvisionrequiringconvexlensesandinsigni.cantrefractiveCerrorsCwereCobserved.CTheCpatient’sCeyesCshowedC20prismCdiopters(D)ofCexotropiaCatCnearCwithCcrosseddiplopia,andaccommodationabilitywasapproximately3.00Dforeacheye.Innearresponses,nopupillaryconstrictionwasobserved;i.e.,convergencewaspoor.Cranialmagneticresonanceimagingshowednoabnormali-ties.CSinceCtheCpatientCreportedCnoCproblemsCatCschool,CpsychogenicCoriginsCwereCinitiallyCeliminated,CandCprogres-sivepowerlenseswithprismswereprescribed.Atthe4-monthfollow-upexamination,thepatientreporteddiplo-piaCimprovement.CInterviewedCalone,CtheCmotherCreportedCaChistoryCofCbullying,CfunctionalChearingCloss,CandCnocturnalenuresisthatstartedatthetimethatshebecameawareofthesymptoms.Thus,wecametothediagno-sisCofCpsychogenicCnear-visionCdisturbance.CConclusion:CasesCofCpsychogenicCnear-visionCdisturbanceCcanCsome-timestakeyearstocorrectlydiagnose.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(1):108.111,C2021〕Keywords:心因性視覚障害,輻湊不全,調節異常,近見障害.psychogenicvisualdisturbance,convergenceinsu.ciency,accommodativedisorder,nearvisiondisturbance.Cはじめに近見反応の障害は,松果体や脳幹など核上性の疾患が原因となり発症することが知られている1).今回筆者らは,原因不明の近見障害を認める小児を経験し,最終的に心因性によると診断したので報告する.なお,本症例の論文投稿については,患児および保護者の同意を得ている.I症例患者:11歳,女児.主訴:近見時の複視.現病歴:8歳頃,近見時の複視を主訴にCA眼科を受診し,斜視を指摘されたが,経過観察となっていた.その後CB眼科を受診し,プリズム眼鏡(度数不明)を処方され,3カ月〔別刷請求先〕遠藤智己:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山C1-20-1浜松医科大学眼科学講座Reprintrequests:TomokiEndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HamamatsuMedicalUniversity,1-20-1Handayama,Higashi-ku,Hamamatsu-shi,Shizuoka431-3192,JAPANC108(108)ごとに経過観察されていたが,改善がなく,10歳時にCC眼科を受診し,近医総合病院小児科へ紹介された.頭部CMRI検査施行で異常は認めず,C眼科で新たにプリズム眼鏡(右眼:2Δbasein,左眼:6CΔbasein)を作製・装用していたが,改善ないため精査目的に浜松医科大学附属病院紹介となった.初診時所見:瞳孔反応に異常はなく,遠見視力は右眼:1.2(n.c.),左眼:1.2(n.c.),近見視力は右眼:0.6(1.0×+2.00D),左眼:0.7(1.0×+2.00D)と凸レンズの加入が必要であった.シクロペントラート塩酸塩点眼後の屈折度数は,右眼:+0.00D(cyl.0.75DAx100°,左眼:+0.50D(cylC.0.75DAx80°であった.眼位は遠見で正位,近見でC20CΔXTであり,近見時に交叉性複視を訴えた.Hess赤緑試験では内転制限は認めなかった(図1).TitmusCstereotestではC.y(C.)だったが,遠見立体視(システムチャートCSC-1000Pola,ニデック)はC40”と良好であった.調節機能は調節微動解析装置(アコモレフCSpeedy-i,ライト製作所)を用いた調節反応検査にて,両眼とも調節刺激への反応が乏しく(図2),連続近点計(NPアコモドメーター,興和)では調節力は両眼とも約3.00Dと同年代と比較し不良であった.AC/A比(farGradient法)はC1CΔ/D,プリズムによる融像幅は.10Δ.+2Δと輻湊も不良で,近見反応では,縮瞳を認めなかった(図3).前眼部,中間透光体,眼底に異常は認めなかった.(D)(R)右眼-3.00-2.00-1.000.00他覚屈折値(調節反応量)-0.50-1.50-2.50-3.50(D)視標の位置(調節刺激量)~57.00[dB]57.01~65.00[dB]65.01~[dB]調節微動(毛様体筋の活動状態)経過:当院で施行した近見視力検査・アコモレフCSpeedy-i・NPアコモドメーターの結果から調節異常の状態であることがわかった.症状の日内変動や筋力低下はないものの,走るとすぐに疲れてしまうという病歴や,顔写真撮影でC9方向に目を動かしただけで疲れたとの訴えがあったため,重症筋無力症の可能性も考慮し,アイステストと抗アセチルコリンレセプター抗体検査を施行したが,ともに陰性であった.当初本人および母親同席での問診では,学校生活は不自由なく過ごしており,心因性とは積極的には疑わなかった.近見時の複視に対し,プリズムを組み込んだ累進屈折力眼鏡(右眼:plane+2.00Dadd:6CΔbasein,左眼:plane+2.00Dadd:6CΔbasein)を処方し,経過観察とした.初診時からC4カ月後の診察では,検査時の近見障害には変図1Hess赤緑試験内転制限は認めない.(D)(L)左眼-3.00-2.00-1.000.00-0.50-1.50-2.50-3.50(D)(D)-3.00-0.50-1.50-2.50-3.50(D)正常若年者の反応図2調節反応検査(アコモレフSpeedy.i)両眼とも調節刺激への反応が乏しい.左眼は近方時に調節緊張の反応がみられる.図3近見時の縮瞳反応上:遠見時,下:近見時.固視標を近づけても縮瞳を認めない.化はなかったが,プリズム眼鏡で近見時の複視は改善した.遠見での眼位は眼鏡装用でも正位から内斜位を保ち,複視の訴えはなかった.母親単独で再度病歴を聴取したところ,8歳(小学C2年生)頃学校でいじめを受け,近医にて機能性難聴と診断された病歴と,11歳(6年生)のときに夜尿が出現した病歴が聴取され,複視の症状出現時と一致していた.追加で色覚検査,中心フリッカ値やCGoldmann視野検査,および頭部造影CMRI検査を施行したが,明らかな異常を認めなかった.以上の結果より,本例を心因性近見障害と診断した.その後,いったん診療を中止したが,約C3年後に母親に電話で聴取したところ,現在は不登校になり心理カウンセリングを受けていることが明らかになった.また,現在もプリズム眼鏡を装用しないと近見時の複視は変わらないことが聴取された.CII考按本例では近見時の複視を主訴に来院し,当院にて新たに近見視力検査と調節機能検査を行い,近見反応の障害を生じていることがわかった.精神的なストレスの聴取に時間がかかり,症状出現から診断までにC3年の長期を要した.学校健診における視力検査では遠見視力を測定するのみのため,近見視力の不良は判定されない.このため,本例では学校健診で異常を指摘されず,前医でも調節障害が指摘されず輻湊不全のみが指摘されていた.本例のように,遠見視力が良好であるにもかかわらず見にくさを訴える場合は,近見視力検査が必要である.近見反応の障害をきたす原因には器質性のものと心因性のものが存在する.器質性のものには,薬剤,頭部外傷,ウイルス性脳炎,ジフテリア後神経麻痺,進行性核上性麻痺,中脳出血・梗塞,血管性病変などが原因としてあげられる1).これらの鑑別のためには,MRIなどでの画像診断が必要である.今回の症例では頭部単純CMRI検査,および造影CMRI検査を行っているが,原因となるような病変は検出されず,外傷や薬剤性を疑わせる情報も認めなかった.近見反応は輻湊・調節・縮瞳で構成され,この三者は単独にも起こる独立した中枢制御系ではあるが,互いに連動している2).一般に各要素の表出の組み合わせ・その程度は患者によって大きく異なり,本例のようにC3要素すべての障害をきたした報告3,4)はまれである.また,小児の心因性視覚障害では調節障害をきたしやすいとされている5).調節障害の心因性としての特有のパターンはなく,調節衰弱あるいは調節緊張を示す患者も散見されるが6),本例のように輻湊不全が関与した報告は少ない7.9).一般的に,心因性視覚障害は精神的葛藤や欲求不満などの精神的ストレスを感じたときに起こりやすいとされているが10),本例では受診当初は患者本人からのストレスの訴えはなく,その後の母親単独での問診から心因性を示唆させる病歴が聴取された.複視を自覚したのがC8歳頃であり,学校でのいじめにあっていた時期と一致する.その後も心理的負担を抱えていたことがわかり,心因性視覚障害をきたす要素が背景にあった可能性が考えられた.本例では,心因性視覚障害と診断した時点で診療を中止としてしまったが,後に経過を確認した時点でも不登校になっており,症状は変わらない状態であった.本例は眼科外来での介入だけなく,心理・精神的な対応をすべきであったと反省している.また患者が小児である場合は,習慣的に親子そろって問診することが多いが,同時に行う問診では,詳細な病歴聴取ができない可能性もあるため,心因性視覚障害を少しでも疑う場合は,親子別での詳細な病歴聴取が必要であると考えられた.CIII結論器質的疾患が明確でないにもかかわらず,近見反応のC3要素(輻湊・調節・縮瞳)すべてが障害されたC1例を経験し,最終的に心因性近見障害と診断した.視機能異常を訴える小児診療の際は,近見視力検査も考慮し,心因性視覚障害を疑う際には,親子別での病歴聴取を検討すべきと考えられた.文献1)石川均:見落としがちな近見反応とその異常.臨眼C64:1670-1674,C20102)高木峰夫,阿部春樹,坂東武彦:動物とヒトでの生物学的解析から.神経眼科21:265-279,C20043)OhtsukaK:AccommodationCandCconvergenceCpalsyCcausedCbyClesionsCinCtheCbilateralCrostralCsuperiorCcollicu-lus.AmJOphthalmolC133:425-427,C20024)ChrousosGA,O’NeillJF,CoganDG:Absenceofthenearre.exinhealthyadolescent.JPediatrOphthalmolStrabis-musC22:76-77,C19855)梶野桂子,川村緑,加藤純子:心因性視力障害と調節について.日視会誌C15:32-37,C19876)黄野桃代,山出新一,佐藤友哉ほか:心因性視覚障害の調節特性.眼臨86:165-169,C19927)伊藤博隆,平野啓治,石井幹人ほか:輻湊不全のみられた心因性視覚障害のC1例.眼臨94:631-633,C20008)金谷まり子,岡野朋子,依田初栄:輻湊不全が原因と思われる二次障害.眼臨84:841-846,C19909)小倉央子,高畠愛由美,大渕有理ほか:輻湊不全を伴った心因性視覚障害のC1例.日視会誌33:73-78,C200410)小口芳久:心因性視力障害.日視会誌C18:51-55,C1990***

調節機能測定ソフトウェアAA-2の臨床応用

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):467.476,2016c調節機能測定ソフトウェアAA-2の臨床応用梶田雅義梶田眼科ClinicalApplicationofAccommodationAnalyzerAA-2MasayoshiKajitaKajitaEyeClinic目的:調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)の最新バージョンは,瞳孔径の同時測定機能と調節機能状態を分類する補助機能,さらに短時間で測定できるLITE測定モードが新しく加わった.調節機能の状態別によるFkmap(Fluctuationofkineticrefraction-map)の傾向を確認するとともに,補助機能の検証とLITE測定の調節異常検知力の検証を行ったので報告する.対象および方法:眼精疲労および不定愁訴を主訴に梶田眼科を受診した症例514名である.LITE測定の調節異常検知力については,同27名で行った.結果:検査結果の傾向で分類した各症例群のFk-mapは,正常群に対して調節反応量およびHFC値に有意差があった.LITE測定と従来のSTD測定における調節機能の「正常」と「異常の可能性あり」の2分類での結果は一致していた(k=0.6828,p<0.001).結論:Fk-mapには調節異常症例毎の違いが現れ,LITE測定の調節機能状態の検知力はSTD測定と同等と考えられた.Method:Giventhecurrentincreaseinmyopiaandfatigabilityofeyes,thisstudywasconductedon514patientswhowereconsideredtobesufferingfromaccommodativedysfunctionasdeterminedusingtheconventionalSTDmeasurementmodeofthelatestversionoftheAccommodationAnalyzerAA-2(NIDEKCo.,Ltd.).ThepatientswerealsoexaminedwiththeLITEmeasurementmode,whichiscapableofrapidmeasurement.Results:TheFk-mapforeachcasegroupwascomparedwiththecontrolgroupafterbeingcategorizedby“Patterns,”oneofthedisplayfunctionsformeasurementresults.Consequently,significantdifferenceswerefoundbothintheaccommodationreactionvalueandtheHFCvalue.TheresultsforthepossiblepresenceofaccommodationdysfunctionwerefoundtobeidenticalfortheLITEmeasurementmodeandtheSTDmeasurementmode;thatis,k=0.6828,p<0.001.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):467.476,2016〕Keywords:調節機能,眼精疲労,調節異常,Fk-map.accommodation,asthenopia,accommodativedysfunction,Fk-map.はじめに調節検査は近方視力を知ることが目的とされ,調節力が発揮できない老視眼や,単焦点眼内レンズ(IOL)挿入眼などでは必要のない検査とされていた.また,調節力の測定だけでは調節機能の異常を診断することができない.加えて,調節検査は自覚検査ゆえに被検眼の検査対応力に依存し,検査結果は調節機能の実態を表すものとは必ずしもいえない.情報化と高齢化が急激に進んでいる現代社会においては,近方視力の重要度と相まって調節機能を診断する必要が高まっている.さらに高次の調節機能を適切に検知することが必要になっている.静止視標を固視した際,自覚的には静止した屈折状態にあると認識されるが,他覚的屈折値を経時的に記録すると,静止しておらず絶えず揺れ動いている.これを調節微動とよぶ1.3).調節微動に関する研究は,Cambellが赤外線オプトメーターを考案して,経時的な他覚的屈折値の変化を記録したことに始まった1).Charmanは,調節微動が調節刺激量によって変化するとし,調節微動の意味ある周波数として,遅い揺らぎ成分であ〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,KajitaEyeClinic,6-3,3Chome#4FShibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(137)467 刺激視標位置瞳孔径(破線)ステップ毎の調節反応量信頼性目安(レフ測定値)図1正常者のFk-mapる低周波成分と速い揺らぎ成分である高周波成分とがあると報告した3).低周波成分と高周波成分の定義は報告により若干の差はあるものの,低周波成分は0.6Hz未満,高周波成分は1.0.2.1または2.3Hzくらいとされている2,3).低周波成分は,調節系においてピント位置調節という本来の調節制御に関与する重要な役割を担い,高周波成分は,振幅が小さく不安定に変化することから,水晶体とその支持組織の弾性的・機械的性質から,雑音であるといわれた4).しかし,高周波成分は,調節刺激により増加することから,水晶体とその支持組織の活動,すなわち毛様体筋の収縮時に生じる震顫が水晶体に伝わり屈折力の揺らぎとなって表れ,間接的に毛様体筋の活動状態を表現していると考えられている4).前述に加えて,高周波成分は調節負荷2.5Dを超えると徐々に飽和に近づくこと,調節安静位が存在すると考えられている付近で極小値となること5,6),調節負荷の程度によって高周波成分の出現頻度に差が生じることが確認されている7).この調節負荷量と高周波成分の出現頻度の関係を観察可能な測定・表示方法が開発された8).オートレフラクトメータを利用した検査方法には,目の前に何もない状態で見るときに比べて,何かを覗き込むときのほうが屈折値がマイナスよりになること(器械近視)が知られており,検査結果には注意を払わなければならないが,水晶体やその支持組織の活動状況を客観的に予測できる可能性があることが報告されている.調節微動は,他覚的屈折値を短いサンプリング時間で測定し,経時計測することで評価する.調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)は,2015年にバージョンアップした.今回,このAA-2最新バージョン(Ver3)を用いて,調節機468あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016図2調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)能状態の検査結果への表れ方を確認するとともに,症例分類の適切性および短時間で検査する新しい測定モード(LITE測定)の評価を行ったので,その結果を報告する.I調節機能測定測定準備段階にオートレフケラトメータで得られた屈折値(HOME値)を基準に,視標位置を+0.5D..3.0Dを0.5D間隔で8段階にステップ状に切り換えて,それぞれ位置における静止視標を12秒または20秒間注視させ,このときの静的特性を計測する.調節応答波形を高速フーリエ変換して得た周波数スペクトルを対数に変換し,これを1.0.2.3Hz帯で積分して高周波成分の出現頻度(highfrequencycomponent:HFC)として評価する8).なお,HFCは相対値であるため,単位をもたせていない.調節反応量,刺激視標位置,高周波成分の出現頻度をカラーグラフ表示することによって,被検者の毛様体筋の活動状況を客観的に予測できる.このグラフをFk-map(Fluctuationofkineticrefraction-map)とよぶ(図1).このグラフのX軸は視標位置,グラフのY軸は調節反応量で,バー上端は被検眼の屈折値を示す.一つの視標位置に対して11本のバーがあり,X軸は右側に行くに従って時間の推移を示す.バーの表示色はHFC値を示し,正常成人の測定結果5)から極度に高い値70を赤色とし,低い値50を緑色として,これらを最大,最小値としてその間を直線的にグラデーション色にして表す.破線は視標位置を示し,これとバー上端とのズレは,調節リードまたは調節ラグである.1.調節機能測定ソフトウェアAA-2AA-2(図2)は,パーソナルコンピュータにインストールし,これをニデック社オートレフケラトメータARK-1sまたはARK-1aに接続することで他覚的に調節機能を測定する.AA-2の最新バージョンは,瞳孔径も同時に測定し,調(138) 節機能測定結果,および自身の治療経験とFk-map所見に基づいて考案した基準に基づき分類した眼の傾向とともに表示する.また,従来のSTD測定モードに加えて,LITE測定モードが新しく装備された.このLITE測定モードは,調節異常の有無を確認するうえで主要な位置3カ所に特化して測定することで,測定時間が1眼38秒となり,STD測定モード1眼131秒に対して約1/3の測定時間に短縮を実現した.調節安静位は,毛様体筋が生理的な緊張平衡状態となると考えてられている位置として,遠点位置から.0.75D..1.25D付近に存在すると考えられている9).この調節安静位は,調節異常や調節疲労により近方移動する例が存在すること10),スクリーンゲームを長時間行った後ではHFC値の最小値が検出しにくくなること7)などから,調節安静位付近でのHFC値が極小値とならない場合には,調節異常や調節疲労を生じている可能性があると推定できる.これらと,既報5,11)に基づいて調節安静位は他覚的屈折値.1.0Dと仮定すると,被検眼に調節異常がなければSTD測定の第四ステップ付近に調節安静位があると予測される.LITE測定では,このように仮定した第四ステップを測定の基軸として,負の調節,正の調節において,それぞれ1ステップずつを計測する.被検者の刺激視標の追従しやすさに配慮し,視標の切り替えステップが同一となる位置として第二と第六ステップを抽出した.また,各ステップにおけるHFC値を即時把握できるように,視標位置を象徴する図形を,その検査結果に応じた色で表示する.2.検査結果例Fk-mapは調節機能の状態それぞれで異なる傾向を示す(表1).調節異常眼には,治療と矯正が適宜必要である.調節緊張および調節痙攣は軽度から重度へ,またある状態から別の病型へ遷移する場合もあり,読影は問診および経過観察を必要とする.a.正常眼HFC値は遠方視標においては低い値をとる.調節力が十分にある正常眼では,視標位置が近づくとそれに応じて調節応答量が増加するが,HFC値は高くはならない.調節反応量は,遠方付近の視標位置では若干プラスよりの屈折度(調節リード)を示し,視標位置が近方になるに従ってマイナスよりの屈折度(調節ラグ)が生じる.また,静止視標を固視している間の調節反応量の変化は少なく,安定した調節状態にあることをあらわしている.視標位置が33cm程度に近づくとわずかに高値を示す場合もある.b.IT眼症調節反応はほぼ正常に行われる.1Mよりも遠方視標に対しては正常眼と同等のHFC値をとるが,それよりも近方で(139)は,調節緊張症と同様に高いHFC値となる.日常生活では異常をまったく感じないのに,VDT作業や机上学習を始めると急激に眼の痛みや頭痛が生じると訴える.作業時に作業用眼鏡,または累進屈折力レンズ眼鏡を常用が奏効する.c.潜伏遠視検査準備段階で測定したオートレフ値を基準に測定しているが,それよりもプラスよりの屈折度が得られている.オートレフ値に調節緊張が含まれたためと考える.眼の疲れを訴えるが,調節異常はない.常用の矯正レンズがあれば,この装用を中止すると主訴がなくなる場合もある.d.調節緊張傾向呈示視標に対する調節反応量はほぼ正常だが,遠方視標でもわずかにHFC値が上昇し,中間距離より近方におけるHFC値が高い値となる.完全矯正下では遠方と近方視力ともに良好で年齢相応以上の調節力を有するが,眼の疲労を訴えることが多い.肩こりや頭痛の訴えのある場合は,年齢に関係なく累進屈折力レンズ眼鏡の装用が奏効する.遠方視でHFCがもう少し高値を示す場合は,低濃度サイプレジン点眼薬の併用が奏効する.e.重度調節緊張症調節反応は視標位置の移動に追従しているが,近方視標においても調節リードがある.すべての視標位置においてHFC値は正常より高い値となる.このような所見は若年者に多く,急激な視力低下の原因となっている.一定期間低濃度ミドリンM点眼が奏効する場合が多く,Fk-mapが正常に復してから眼鏡処方を慎重に行う.f.軽度調節痙攣視標が雲霧状態(HOME値+0.5D)にあるとき,HFC値は高値を呈する.また,調節安静位と考えられる視標位置以外において高いHFC値を呈する.調節応答はほぼ正常だが,視標が静止している間,調節反応量を固持できていない.低濃度サイプレジン点眼を使用し,緊張緩和を促すが,低濃度サイプレジン点眼の装用中止で眼精疲労が再発する場合は,累進屈折力レンズ眼鏡の常用を促す.g.重度調節痙攣調節反応が正しく行われておらず,HFC値も非常に高値を呈する.測定時間の間,調節反応量を維持できず,急激に強く近視側にシフトして,強い眼精疲労の訴えを伴う.この症例の場合は,他覚的屈折測定を複数回行うと,安定した測定値が得られない場合がある.急激な視力低下や,眼の疲れ,頭痛があるが,低濃度アトロピンが奏効する.h.調節パニック視標が近方に近づいているのに,調節反応はかえって遠方に移動する.調節反応量がAR値に近づくにつれてHFC値は低値を呈するはずだが,逆にHFC値は高くなる.基本的には調節痙攣の範疇であり,交通事故などによるむあたらしい眼科Vol.33,No.3,2016469 表1症例と処方例症例STD測定LITE測定処方点眼眼鏡軽度調節痙攣サイプレジン累進屈折力レンズ重度調節痙攣サイプレジン累進屈折力レンズアトロピン調節パニックサイプレジン累進屈折力レンズ調節衰弱・老視近方視対策累進屈折力レンズ老視の調節緊張サイプレジン累進屈折力レンズ症例STD測定LITE測定処方点眼眼鏡正常IT眼症作業用潜伏遠視装用中止調節緊張傾向サイプレジン累進屈折力レンズ重度調節緊張症ミドリンM累進屈折力レンズ(16才男性)(21才女性)(26才女性)(26才女性)(38才女性)(38才女性)(37才男性)(37才男性)(52才男性)(52才男性)(33才男性)(33才男性)(53才男性)(53才男性)470あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(140) ち打ち症によって生じるBarre-Lieou(バレ・リュー)症候群にみられることが多い.この場合には,非常に激しい眼の奥の痛みや頭痛を訴え,日常生活にも支障をきたしている.低濃度サイプレジン点眼と累進屈折力レンズ眼鏡の常用がよく奏効する.i.調節衰弱・老視視標が近接しても調節反応量が小さく,HFC値は低い値を呈する.完全矯正下で遠方視力は良好であるが近方視力が不良である.45歳以上であれば正常老視の判別が必要となる.このグラフを呈する場合,若年では調節衰弱,高齢であれは老視を疑う.j.老視の調節緊張調節反応は調節衰弱・老視に酷似だが,遠方視標において比較的高いHFC値を示す.これまでの眼科学の常識では老視は調節応答を起こさないと考えられていたが,老視眼でも調節微動が確認される症例がある.また,IOL挿入眼で同様のFk-mapを呈する症例もあり,完全.内固定の症例に散見される.おそらく,ピントを合わせようと毛様体筋が収縮するが,要求どおりの屈折変化が得られないので過剰に毛様体筋が収縮するためと考えられる.サイプレジン点眼薬と累進屈折力レンズの併用が奏効する.II対象および方法1.傾向分類眼精疲労および不定愁訴を主訴に,梶田眼科を受診した症例514名930眼である.年齢は7.80歳(平均41.8±13.9歳)であった.測定はAA-2を用い,AA-2に接続するオートレフラクトメータは,ARK-560A(168名286眼:2008/7/8.8/25)とARK-1s(351名644眼:2014/2/24.10/20,2015/08/08)を用いた.検査結果の調節状態の分類はAA2Ver3の調節機能状態の分類に従い,グループ別に検査結果を比較した.2.LITE測定繰り返し再現性健常眼ボランティア17名優位眼17眼である.年齢は25.50歳(平均32.6±6.67歳)であった.STD測定とLITE測定において,繰り返し再現性を確認した.検者1名が異なる日3日の同一時間帯にそれぞれの測定モードを1回ずつ,計3回ずつ測定した.3.LITE測定とSTD測定比較眼精疲労および不定愁訴を主訴に,梶田眼科を受診した症例27名54眼である.年齢は21.63歳(平均40.5±10.99歳)であった.同一日にLITE測定とSTD測定を1回ずつ測定した.測定の間は,調節残効を排除するため,休憩時間を1.5分以上設け,目を休めるよう指示した.各測定モードの検査結果として表示される被検眼の調節機能状態をもとに「正常」と「異常の可能性あり」の2種に分け,LITE測定とSTD測定の調節機能状態の識別力を比較した.III結果1.傾向分類1)調節反応量AA-2Ver3の調節機能状態の分類に従い,検査結果をグループ分けした.この分類によって得られた正常群と各グループにおける,調節反応量の比較を行った(表2).調節反応量は,各症例の測定ステップの屈折度とHOMEとの差とした.なお,調節衰弱・老視群および老視の調節緊張群については正常群の第二ステップを基準に第四ステップも合わせて比較を行った.a.IT眼症調節反応量は,第一から第七ステップすべてにおいて有意な差はなかった(p>0.05t検定).第八ステップのみ正常群と比較して有意に小さかった(正常群第八ステップ.1.48±0.31,IT眼症群第八.1.30±0.62,p<0.05t検定)調節リードおよびラグなど調節反応量は視標位置40cmまでは正常群と同等であり,視標位置33cmでは屈折度が小さい傾向にあるといえる.b.調節緊張(軽度)遠方時の調節反応量は正常群と同等であり,呈示視標位置が近方になるにつれて屈折度は近方よりの値となった.第三から第七ステップにおいて有意な差があり,とくに第四ステップにおいて有意に差があり〔正常群第四ステップ.0.15±0.19,調節緊張(軽度)群第四.0.26±0.27,p<0.001,正常群第三.0.04±0.17,第五.0.39±0.26,第六.0.71±0.29,調節緊張(軽度)群第三.0.10±0.22,第五.0.50±0.36,第六.0.84±0.44,p<0.01,正常群第七.1.08±0.29,調節緊張(軽度)群第七.1.17±0.53,p<0.05t検定〕,その差は0.1D程度だった.つまり,遠方や近方時の調節リードは正常群とほぼ同等だが,その間の調節安静位の前後で調節ラグがわずかではあるが大きくなり,過緊張の状態を示唆していると考えられる.c.調節緊張(重度)症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,調節安静位(第四ステップ)付近を境に調節リードから調節ラグに切り替わるはずだが,呈示視標位置すべてにおいて調節リードがあった.正常群との調節反応量の差は,視標が近方になるにつれて大きくなった.このことから,調節緊張(重度)は,調節刺激が近づくにつれて,調節緊張が過剰に働く可能性があると考えられる.(141)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016471 表2調節反応量とHFC(症例別・STD測定ステップ別)472あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(142)眼正常95IT眼症(軽度)83p値1調節緊張(重度)262p値1調節緊張(軽度)1p値1調節痙攣(重度)44p値1調節痙攣28p値1調節パニック1p値1調節衰弱・老視249p値2老視の調節緊張169p値2調節反応量第一ステップ.0.01±0.15.0.01±0.200.00±0.19.0.44-.0.14±1.50.0.10±0.41.1.67-.0.01±0.10.0.02±0.18第二ステップ.0.01±0.15.0.01±0.21.0.03±0.20.0.42-0.01±1.01.0.02±0.52.1.21-.0.01±0.11.0.03±0.20第三ステップ.0.04±0.17.0.05±0.22.0.10±0.22**.0.57-0.20±0.66.0.17±0.72.1.39-.0.01±0.11.0.02±0.19第四ステップ.0.15±0.19.0.19±0.27.0.26±0.27***.0.6-0.19±0.66.0.28±0.81.1.28-.0.04±0.13.0.06±0.23第五ステップ.0.39±0.26.0.38±0.34.0.50±0.36**.0.62-0.16±0.68.0.31±0.60.0.28-.0.08±0.17*.0.08±0.27第六ステップ.0.71±0.29.0.66±0.43.0.84±0.44**.0.88-0.04±0.69.0.47±0.69.0.04-.0.13±0.21.0.11±0.30第七ステップ.1.08±0.29.0.98±0.52.1.17±0.53*.1.03-0.08±0.66.0.74±0.70*0.62-.0.18±0.25.0.14±0.31第八ステップ.1.48±0.31.1.30±0.62*.1.52±0.62.1.27-.0.17±0.71.1.05±0.68**0.38-.0.22±0.29**.0.18±0.36HFC第一ステップ46.06±4.4847.29±5.5052.41±5.08***67.67-61.54±7.80***64.74±8.41***76.36-46.38±4.5252.77±5.55***第二ステップ45.79±4.0145.83±3.7153.04±4.73***67.82-56.63±8.33***64.51±9.29***73.3-45.79±3.7953.79±4.82***第三ステップ45.13±4.6346.22±3.8254.48±4.78***67.69-56.37±5.44***64.41±9.53***76.4-46.04±3.8954.66±5.19***第四ステップ47.64±4.2251.21±6.00***55.82±6.24***67.23-56.21±6.00***64.41±8.07***71.29-47.19±4.8653.98±4.76***第五ステップ50.96±4.9155.04±7.56***57.86±6.09***66.5-58.33±6.54***63.98±6.41***73.54-47.57±5.19**53.96±5.26***第六ステップ55.33±5.6857.15±7.6560.93±5.84***67.33-59.32±5.18***65.79±6.74***72.72-48.52±4.6053.92±5.17***第七ステップ57.48±5.8159.48±7.6462.40±5.92***69.45-62.57±6.74***67.54±7.00***69.31-48.99±4.8354.26±4.88***第八ステップ59.99±6.8460.82±7.9364.29±5.83***68.85-63.22±6.79*67.92±5.53***68.63-49.77±5.25***54.73±4.91***1Two-sidedWelch’st-testfortesting,2Dunnett’stest,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.調節反応量は,各検査結果のステップごとの屈折度と,HOME値の差とした.また,調節反応量とHFC値は,各検査においてステップごとの平均値を求め,各グループ内での平均値とSDを算出した.これを,各ステップについて正常群に対して検定を行った.なお,調節衰弱・老視群と老視の緊張群は,第一.第四のステップは正常群の第二ステップに対して第五.第八ステップは正常群第四ステップに対して行った. d.調節痙攣(軽度)調節反応量の平均値に有意な差はなかったが(p>0.05t検定),第三ステップで差が約0.2Dとなり,視標位置が近づくにつれて徐々にその差が小さくなった.また,分散に有意差があった(p<0.001F検定)ことから,調節痙攣(軽度)は正常群に比べて調節維持が不安定といえる.e.調節痙攣(重度)調節反応量の平均値は,第七・第八ステップにおいて有意に差があった(正常群第七ステップ.1.08±0.29,調節痙攣(重度)群第七.0.74±0.70,p<0.05,正常群第八.1.48±0.31,調節痙攣(重度)群第八.1.05±0.68,p<0.01t検定).さらに,測定ステップ内の調節反応量の分散は,第一から第八ステップすべてにおいて有意差があった(p<0.001F検定)すべての視標位置において十分に調節追従されておらず,また,測定ステップ内の調節反応量のバラつきがあったと考えられる.f.調節パニック症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,第六ステップ以降でHOMEよりプラスよりの屈折度となった.HOME測定時に調節緊張が含まれたと考えられる.g.調節衰弱・老視調節反応量は,第一から第四ステップにおいて正常群第二ステップと有意な差はなく(p>0.05t検定),第五から第八ステップにおいては差があった(p<0.001t検定).本群では,調節負荷に対して調節応答の量が比較的少なく,調節ラグの増大が読み取れ,調節機能が脆弱していると考えられる.調節機能測定の視標移動に対する調節幅は約0.2Dであり,正常群でこれと同量の調節反応量を示すステップは第四または第五ステップに当たる.調節衰弱・老視群の第五ステップ以降を正常群第四ステップと比較すると,第六,第七ステップでは有意差がなかった(p>0.05t検定).h.老視の調節緊張調節反応量は,第一から第八ステップすべてにおいて正常群第二ステップと有意な差がなかった(p>0.05t検定).2)HFC値正常群と各グループにおける,HFC値の比較を行った.なお,調節衰弱・老視群および老視の調節緊張群については正常群の第二ステップを基準に第四ステップも合わせて比較を行った.a.IT眼症第四・第五ステップにおいて有意に高く(正常群第四ステップ47.64±4.22,第五50.96±4.91,IT眼症群第四51.21±6.00,第五55.04±7.56,p<0.001t検定),その差はわずかなステップもあったが,IT眼症群のほうがすべてのステップで高値を呈した.調節安静位付近から近方でHFC値が高く,過緊張の状態にあるといえる.b.調節緊張(軽度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高く〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七54.48±5.81,第八59.99±6.84,調節緊張(軽度)群第一52.41±5.08,第二53.04±4.73,第三54.48±4.78,第四55.82±6.24,第五57.86±6.24,第六60.93±5.84,第七62.40±5.92,第八64.29±5.83,p<0.001t検定〕,もっとも遠方および近方で+6および+4となり,視標位置が2Mでもっとも高く+9を呈した.先項の結果(近方になるに従って調節ラグがわずかではあるが小さいこと)に鑑みて,近方になるに従って過緊張の状態を示唆していると考えられる.c.調節緊張(重度)症例が1例しかなく検定はできなかったが,この1例については,すべての視標位置において高値を呈し,とくに遠方の視標位置において約+10以上,1Mでは+20と高値を呈した.視標位置が近づくに連れて,調節緊張が過剰に働く可能性があると考えられる.d.調節痙攣(軽度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高値を呈した〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七54.48±5.81,調節痙攣(軽度)群第一61.54±7.80,第二56.63±8.33,第三56.37±5.44,第四56.21±6.00,第五58.33±6.54,第六59.32±5.18,第七62.57±6.74,p<0.001,正常群第八59.99±6.84,調節痙攣(軽度)群第八63.22±6.79,p<0.05t検定〕.視標位置が遠方のほうが高値を呈し,とくに雲霧状態にあるときに正常群よりHFC値は+15となった.e.調節痙攣(重度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高値を呈し〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七57.48±5.81,第八59.99±6.84,調節痙攣(重度)群第一64.74±8.41,第二64.51±9.29,第三64.41±9.53,第四64.41±8.07,第五63.98±6.41,第六65.79±6.74,第七67.54±7.00,第八67.92±5.53,p<0.001t検定〕,もっとも最小の差となった近方でも約+8,とくに視標が遠方から1Mの間にあるときに高い値約+20となった.このことから,調節痙攣(重度)は常に過緊張の状態にあるといえる.(143)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016473 f.調節パニック症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,すべてのステップにおいて高値を示した.g.調節衰弱・老視視標位置が近くなるにつれて高値となったが,第四ステップまでは有意な差はなく,第五ステップ以降においては有意に高かった(正常群第二ステップ45.79±4.01,調節衰弱・老視群第五47.57±5.19,第六48.52±4.60,第七48.99±4.83,第八49.77±5.25,p<0.001t検定).先項の結果に準じて,調節反応量0.2Dを示す正常群第四ステップのHFC値と比較した.第五から第七ステップでは有意差がみられなったが,第八ステップでは調節衰弱・老視群が有意に小さかった(正常群第四47.64±4.22,調節衰弱・老視群49.77±5.25,p<0.001t検定).言い換えると,調節衰弱・老視群では,正常眼と同等の調節応答量を得てもHFCが小さくあらわれる傾向があるといえる.h.老視の調節緊張調節緊張群と同様に,第一から第八ステップすべてのステップにおいて有意に高かった(正常群第二ステップ45.79±4.01,老視の緊張群第一52.77±5.55,第二53.79±4.82,第三54.66±5.19,第四53.98±4.76,第五53.96±5.26,第六53.92±5.17,第七54.26±4.88,第八54.73±4.91,p<0.001t検定).2.LITE測定繰り返し再現性図3は,眼精疲労を訴える33歳男性のSTD測定とLITE測定の検査結果である.この症例は,事務職で常時パソコンを使用しており,通勤中は電車内でスマホで情報収集をしている.LITE測定の結果,Step4ではFk-mapは黄色を,Step6では赤色を呈し,調節機能異常の疑いが示唆された.STD測定の第四ステップ以降からHFCが高値となった.LITE測定のStep4およびStep6に対応するSTD測定の第四ステップおよび第六ステップはともに同等のHFCを示しており,LITE測定で調節異常の簡易検知ができる可能性があると考えた.VDT作業用眼鏡を処方し,経過を観察した.初診時に比べて3カ月後のHFCは低値となり正常眼のFk-mapに近くなり(図表なし),調節緊張が低減したと考えられる.他の病型についても,検査結果と処方例を表1に並示する.HFCの変動係数は10%前後であった(図4).両測定モードともに対応ステップでのHFCの再現性は一定で,同様のバラつきを含むと考えられる.3.LITE測定とSTD測定比較STD測定とLITE測定のBland-Altmanplotを図5,6に示す.両モードの調節反応量は必ずしも一致せず,相関係数は高くなかった(Step2:r=0.363,Step4:r=0.586,Step6:r=0.872).HFCの相関係数も同等に高くなかった(Step2:r=0.580,Step4:r=0445,Step6:r=0.818).しかし,他覚的測定値は調節微動により常に変動しており,一定値ではない1.3).症例によりその変動幅は異なり,1.03Dの変動があったとの報告もある7).これら既報も考慮すると,本実験でも対象の測定値そのものに揺らぎがあった可能性があり,両検査結果の相関係数が高くなかった原因の一つと考えられる.LITE測定とSTD測定における調節機能状態の「正常」と「異常の可能性あり」の2分類での結果は一致していた(k=0.6828,p<0.001,表3)ことから,両測定の検査結果は完全に一致しなくとも,調節機能状態の検知力は同等の能力をもつと考えられた.LITESTD図3IT眼症のFk-map474あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(144) 0.60.2-0.21.0-0.6-1.0STDLITEHFCMeanofCV303070706525652560206020HFCMeanofCVHFC55155010545変動係数平均値(%)HFC55155010455変動係数平均値(%)40040012345678246ステップステップ図4調節刺激と変動係数1.01.01.0Step2Step4Step6(LITE+STD)/2[D](LITE+STD)/2[D](LITE+STD)/2[D]図5STD測定とLITE測定の調節反応量比較Step2Step4Step6404550556065707580202020-0.640455055606570758015151511.810109.410-0.7-1.0LITE-STD[D]LITE-STD[D]-1.0-1.0404550556065707580LITE-STD[D]0.32-0.08-0.470.25-0.02-0.30LITE-STDLITE-STDLITE-STD55500-0.50-5-5-5-8.8-10-10-10.7-10-13.1-15-15-15-20(LITE+STD)/2-20(LITE+STD)/2-20(LITE+STD)/2図6STD測定とLITE測定のHFC値比較IV考按表3STD測定とLITE測定の調節機能状態の一致率(眼)調節を考える場合,調節安静位が重要であることが報告されている9).調節安静位はこれまでemptyfieldやdarkfocusなどの調節無刺激状態での測定と定義されてきた.emptyfieldやdarkfocusを臨床的に汎用することは,検査環境の問題や固視目標が存在しないため固視が維持しづらく安定した計測ができないなど問題がある.本研究で確認したLITESTD正常異常の可能性あり正常0.3(16)0.06(3)異常の可能性あり0.09(5)0.56(30)検査方法は,固視目標がしっかりしているために比較的安定した計測が可能である.正常眼グループでは,STD測定第四ステップまでのHFCが比較的低値を示したことに対し,調節緊張や調節痙攣症では第一ステップから高値をとり,(145)Cohen’skappacoefficient:K=0.6828(p<0.001)〔調節機能状態の分類〕で[正常][調節衰弱・老視]と分類された症例を“正常”に,[IT眼症][調節緊張(重/軽度)][調節痙攣(重/軽度)][老視の緊張]と分類された症例を“異常の可能性あり”とした.あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164750.60.2-0.21.0-1.0-0.60.60.2-0.21.0-1.0-0.6 IT眼症においては第四・五ステップで高値となった.本研究は,調節安静位がAR測定値から.1.0D付近にあると仮定して行ったが,第四ステップおよびそれより遠方でHFCに差が生じた.このことから,遠方から調節安静位付近を含む調節域のHFCは眼の疲労感など患者の主訴の原因を模索する際の指針となりえ,調節緊張の異常判断に有用であると考えられる.また,近方でのHFCと調節反応量も併せて確認することで,調節機能の異常を確認することができ,概判定するのに役立つことが示唆された.調節緊張症や調節痙攣,IT眼症など,不定愁訴のある症例,また調節麻痺薬点眼後に評価することで,点眼薬の効能の確認も可能である.さらに,調節異常のない被検者においては,調節安静位はオートレフラクトメータによる他覚的屈折値から略推できると考えられる.HFCの極小値が明確に確認できない場合,またはHFCの極小値が調節安静位があると予測される位置に確認できない場合は,調節異常の可能性がある.このなかには,従来の他覚的調節反応量の測定だけでは見出せなかった,交感神経と副交感神経のバランスが崩れている症例も含まれ,調節異常の掘り起こしに有用であると思われる.また,調節衰弱の症例においても調節機能検査が必要となる場合や小児など短時間に検査を行いたい場合がある.これまで,調節機能検査はその検査の性質上検査時間が比較的長く,一定時間の視標への注視など患者の検査への協力が必須であった.LITE測定は,調節異常の有無の検知力がSTD測定と同等であったことから,これら症例における検査時間の短縮化とともに概判定が可能と考えられる.眼精疲労の治療には調節微動をコントロールすることが重要である.調節微動の強弱および治療に対する反応は個人差があるので,症例ごとに調節機能を観察し,激しい調節微動を抑制するように,調節の機能状態に応じて有効な治療法を選択することが必要である.情報化社会は加速度的な発展を続けており,あらゆる距離に視覚情報源が存在する.とくにスマホなど携帯端末は小型精細化しており,調節に大きな負担が強いられる環境にある12).日常生活でピントを合わせる動作は無意識のうちに行われている.この無意識の動作が毛様体筋にどれほどの負担をもたらしているかを的確に推測することは調節異常の判断と治療には不可欠である.Fk-mapは,慢性疲労症候群(chronicfatiguesyndrome:CFS)やIT眼症の診断・評価に有用13)との報告が散見されつつあり,今後の臨床応用が期待される.さらに,正常眼や調節異常眼,年代別や眼疲労のない状態との差異の評価など,臨床応用に有用なデータベースの構築を切望する.また,視標は光学的な内部視標を用いた単眼視での測定であるため,調節がしにくく,日常視から遠い問題がある.そのため,両眼視下にて外部視標を用いた調節反応の測定機器の開発が切望される.文献1)CambellFW,RobsonJ,WestheimerG:Fluctuationsofaccommodationundersteadyviewingconditions.JPhysical145:579-594,19592)WinnB,PughJR,GilmartinBetal:Thefrequencycharacteristicofaccommodativemicrofluctuationsforcentralandperipheralzonesofthehumancrystallinelens.VisionRes30:1093-1099,19903)CharmanWN,HeronG.:Fluctuationsinaccommodation:areview.OphthalmicPhysiolOpt8:153-164,19884)GrayLS,WinnB,GilmartinB:Effectoftargetluminanceonmicrofluctuationofaccommodation.OpthalmicPhysiolOpt13:258-265,19935)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,19976)KajitaM,OnoM,SuzukiSetal:Accommodativemicrofluctuationinasthenopiacausedbyaccommodativespasm.FukushimaJMedSci47:13-20,20017)梶田雅義:調節微動の臨床的意義.視覚の科学16:107113,19958)鈴木説子,梶田雅義,加藤桂一郎:調節微動の高周波成分による調節機能の評価.視覚の科学22:93-97,20019)RabbettsRB:7Accommodationandnearvision.theinadequate-stimulusmyopias.In:BennettandRabbatt’ClinicalVisualOpticsthirdedition,p113-141,Butterwoth-Heinemann,Oxford,199810)MiwaT,TokoroT:Darkfocusofaccommodationinchildrenwithaccommodativeesotropiaandhyperopicanisometropia.ActaOphthalmol71:819-824,199311)梶田雅義,伊藤由美子,山田文子:調節疲労と調節微動.視覚の科学17:66-71,199612)野原尚美,松井康樹,説田雅典:携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討.あたらしい眼科32:163-166,201513)中山奈々美,川守田拓志,魚里博:調節微動と外斜位の偏位量との関係.視覚の科学26:110-113,2005***476あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(146)