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カフークデュアルブレード,谷戸マイクロフックを同一症例の左右眼で行った白内障併用手術の成績

2020年7月31日 金曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(7):869.872,2020cカフークデュアルブレード,谷戸マイクロフックを同一症例の左右眼で行った白内障併用手術の成績橋本尚子原岳本山祐大大河原百合子成田正弥峯則子堀江大介原孜原眼科病院CResultsofMinimallyInvasiveGlaucomaCombinedCataractSurgeryUsingtheKahookDualBladeandTanitoMicrohookontheSamePatientTakakoHashimoto,TakeshiHara,YutaMotoyama,YurikoOokawara,MasayaNarita,NorikoMine,DaisukeHorieandTsutomuHaraCHaraEyeHospitalC目的:カフークデュアルブレード(KDB)と谷戸マイクロフック(TμH)を用いた線維柱帯切開術眼内法の眼圧下降,投薬減少の効果を比較検討する.対象および方法:白内障手術併用線維柱帯切開術眼内法同時手術を行ったC27例.全例で,右眼はCKDB,左眼はCTμHを用いた.術前と術後C3カ月までの眼圧と,眼圧下降投薬数を比較検討した.結果:術前の左右眼の眼圧,投薬数,視野に有意差はなかった.術前の眼圧はCKDB群がC17.2C±3.1,TμH群がC16.9C±3.3CmmHg,術後C3カ月の眼圧は同様にC14.2C±3.3,14.3C±2.9CmmHgと有意に下降していた.投薬数は,術前のCKDB群がC2.4C±1.3,TμH群がC2.5C±1.3本,術後C3カ月ではCKDB群がC0.6C±1.0,TμH群がC0.6C±1.1本と有意に下降していた.結論:KDB群,TμH群ともに手術後の眼圧,投薬数ともに有意に低下し,群間差は認めなかった.CPurpose:Tocomparethee.cacyofIOPloweringandthereductioninnumbersofIOP-loweringmedicationsadministeredCinCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery(MIGS)withCKahookCdualblade(KDB)andCTanitoCmicro-hook(TμH)combinedCcataractCsurgery.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC27CpatientsCwhoCunderwentCMIGSwithKDBintherighteyeandTμHinthelefteye,includingcataractsurgery.WecomparedtheIOPandtheCnumberCofCIOP-loweringCmedicationsCadministeredCatCpreCsurgeryCandCatC3-monthsCpostoperative.CResults:CTherewasnosigni.cantdi.erenceinIOP,numbersofmedicationsused,andvisual.eldsbetweentherightandlefteyebeforesurgery.Atpresurgeryand3-monthspostoperative,meanIOPintheKDBgroupwas17.2±3.1Cand14.2±3.3CmmHg,respectively,andintheTμHgroupwas16.9±3.3CandC14.3±2.9CmmHg,respectively,andthemeannumberofmedicationssigni.cantlydecreasedintheKDBgroupfrom2.4±1.3CtoC0.6±1.0,respectively,andinCtheCTμHCgroupCfromC2.5±1.3CtoC0.6±1.1,Crespectively.CConclusion:IOPCandCnumbersCofCmedicationsCadminis-teredsigni.cantlydecreasedafterMIGScombinedcataractsurgery,andnodi.erencewasfoundbetweenthetwogroups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(7):869.872,C2020〕Keywords:カフークデュアルブレード,谷戸マイクロフック,白内障手術併用線維柱帯切開術眼内法同時手術,眼圧,投薬数.Kahookdualblade,Tanitomicrohook,MIGScombinedcataractsurgery,IOP,numberofmedications.CはじめにMIGSは線維柱帯を介する手術が主流で,その代表がCKahook結膜,強膜を切開せずに白内障手術と同時に行える眼圧下CdualCblade(KDB)を用いた手術と,谷戸マイクロフック降手術として,minimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)(TμH)を用いた手術である.が近年普及している1).2019年現在,わが国で行われている原眼科病院(以下,当院)では,従来,術前眼圧の高い患〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861栃木県宇都宮市西C1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimotoM.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya-city,Tochigi320-0861,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(95)C869a右眼の手術方法b左眼の手術方法角膜切開は2.2mm180°,サ角膜切開は2.2mm100°,サイドポートは1mm60°方向イドポートは1mm0°方向にに作製.鼻側の両端矢印部位作製.鼻側の両端矢印部位のの線維柱帯をカフークデュア線維柱帯を谷戸マイクロフッルブレードで切開.クで切開.図1手術方法者(平均眼圧C17.3CmmHg),点眼薬数(平均C3.1剤)の多い患者ではCKDB,比較的低い患者(平均眼圧C15.9CmmHg),点眼薬数が少ない(平均C1.0剤)ではCTμHを使用してきた2).既報をみると,海外ではCKDBの報告が先行しているのに対して,TμHはおもに日本国内で使用されており,ともに有用な眼圧下降成績,点眼薬数減少効果が報告されており3.7),両者の手術適応には差がないと考えられた.そのため,2018年C7月より同一患者の左右眼で両デバイスを併用する適応に至った.当院では,通常の白内障手術は術者が患者の頭頂部側に座り,上方より角膜切開を行い,12時付近にC2.2Cmmの主切開創(超音波スリーブの挿入)とC2時付近にC1.0Cmmのサイドポート(核分割フックの挿入)を作製している.MIGS併用手術では基本的に,白内障手術の角膜切開を拡大せずに鼻側の線維柱帯を切開するため,右利きの術者が右眼の手術を行う場合は主切開創を耳側に作製し,眼内レンズ挿入後に主切開創からCKDBを用いて線維柱帯を切開する.左眼の場合は上方に主切開創を作製するため,1.0Cmmのサイドポートから挿入可能なCTμHで鼻側の線維柱帯を切開している.結果として,同一症例において片眼はCKDB,他眼はCTμHを用いたCMIGSを行っていることから,両者の眼圧下降効果,点眼薬の推移を比較することが可能となった.CI対象および方法対象は当院でC2018年C7月.2019年C4月に両眼の白内障・MIGS同時手術を行った連続したC27例(男性C9例,女性C18例)で,平均年齢はC75.8C±10.0(54.88)歳,病型は広義の開放隅角緑内障がC25例,閉塞隅角緑内障がC2例であった.右眼にはCKDBを,左眼にはCTμHを用いた.術前の視野検査におけるCmeandeviation(MD)値,visualC.eldCindex(VFI)値,および術前,術後C1週間,1,2,3カ月後の眼圧と眼圧下降投薬数を両群間で後ろ向きに比較検討した.各群における眼圧,投薬数の術前と術後の比較および両群間の比較には対応のあるCt検定を用い,p<0.05を有意水準とした.右眼の手術方法:白内障手術は角膜切開をC2.2mm180°,サイドポートはC1.0mm60°に作製し,超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ挿入術(intraocularlens:IOL)を施行,MIGSは通常の白内障手術の切開を拡大せずにC2.2Cmm角膜切開創よりCKDBを挿入し,OcularMoriUprightSurgicalGonioLens(OcularInstruments社,以下,森ゴニオ)を使用して鼻側隅角をC90.120°切開した(図1a).左眼の手術方法:白内障手術は角膜切開C2.2mm100°,サイドポートはC1.0mm0°に作製し,PEA+IOLを施行し,MIGSは通常の白内障手術の切開を拡大せずにサイドポートよりCTμHを挿入し,森ゴニオを使用して鼻側隅角をC90.120°切開した(図1b).術後の投薬は,術前の投薬数や眼圧に関係なく,術後は眼圧下降薬をすべて中止した.術後点眼は基本的にC0.5%レボフロキサシン水和物点眼液をC1日C4回C1週間,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液をC1日C4回C2週間,その後1日C2回点眼でC2週間,ブロムフェナクナトリウム点眼液を1日C2回C8週間,2%ピロカルピン塩酸塩点眼液をC1日C2回C4週間使用した.術翌日以降の眼圧に応じて,目標眼圧を超える場合は眼圧下降薬の投薬を開始した.なお,目標眼圧は,岩田ら8)の分類を参考に,緑内障ガイドライン第C4版9)に基づいて個々に設定した.基本的には点眼薬を使用し,眼圧の上昇に応じて炭酸脱水酵素阻害薬の内服や浸透圧利尿薬の点滴を使用した.合併症として前房出血を評価した.ニボー形成が瞳孔領以下のものをC1,瞳孔領に至るものをC2,瞳孔領を超えるものをC3とスコア化して評価した.CII結果対象の術前の視野は,MD値が右眼C.12.1±6.3CdB,左眼C.12.0±8.0CdB,VFIは右眼C65.2C±23.5%,左眼C66.9C±28.8%で,両群間に有意差はなかった.術前の眼圧は右眼C17.2C±3.1mmHg,左眼C16.9C±3.3mmHg,投薬数は右眼C2.4C±1.3剤,左眼C2.5C±1.3剤で,いずれも両群間に有意差は認められなかった(表1).眼圧値は,術前の眼圧はCKDB群がC17.2C±3.1,TμH群がC16.9±3.3,3カ月後の眼圧はCKDB群がC14.2C±3.3,TμH群がC14.3C±2.9CmmHgであった.KDB群の術後C1週間以外は術前に比較して眼圧は有意に下降していた(◆p<0.05,*p<0.01)(図2).投薬数に関して,術前の投薬数はCKDB群がC2.4C±1.3剤,TμH群がC2.5C±1.3剤,3カ月後はKDB群が0.6C±1.0剤,TμH群がC0.6C±1.1剤であった.KDB群,TμH群ともに緑内障投薬数は術前に比較して有意に下降していた(p<0.01)870あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020(96)表1術前の対象眼の背景(27例)群眼圧(mmHg)投薬数MD値(dB)VFI値(%)KahookDualBlade(右眼)C17.2±3.1C2.4±1.3C.12.0±6.3C65.2±23.5谷戸マイクロフック(左眼)C16.9±3.3C2.5±1.3C.12.0±8.0C66.9±28.8全項目とも両群間に有意差はなかった(p>0.05)C303■KDB■TμH2.5***眼圧(mmHg)投薬数(剤)20214.3151.514.21***50経過期間(週)図2眼圧の推移◆p<0.05,*p<0.01.術前に比べて術後C3カ月では眼圧は有意に下降していた.エラーバーは標準偏差を示す.(図3).また,術前術後の各時期において両群間に有意差はなかった.術後合併症として,ニボーを形成した前房出血はCKDB群がC6眼(22.2%),TμH群がC5眼(18.5%)にみられた.全例スコアC1で,今回前房洗浄を行った症例はなかった.また,術後早期の眼圧上昇により浸透圧利尿薬の点滴を使用したのは3例4眼(KDB2眼,TμH2眼)であった.3眼は術翌日の眼圧上昇に対しての使用であったが,KDBのC1眼は術後11日目の眼圧上昇であった.CIII考按MIGSは生理的流出路の房水流出を促進する緑内障手術であり,濾過手術と比較すると眼圧下降は強くないといわれている10,11)が,もっとも重篤な術後合併症である濾過胞感染を心配する必要がない.今回の対象は,①眼圧下降目的で当院に紹介された緑内障患者が白内障を合併している場合と,②すでに当院で点眼治療にて目標眼圧を達成している緑内障患者で白内障が進行してきた場合が混在している.①の場合は術前よりさらなる眼圧下降が求められ,②の場合は術前と同じ眼圧を維持しながら点眼薬数が減ることが患者にとってメリットとなる.いずれの症例も将来的に眼圧調整が困難となり,濾過手術やインプラント手術の適応を検討する可能性は残されており,MIGSを行うことで結膜,強膜を温存するこ0.50経過期間(週)図3投薬の推移術前と比較して投薬数はすべて有意に減少していた(*p<0.01).とには意義がある.同じ線維柱帯切開術眼内法を施行する場合でも,TμHは先端が直径C0.2Cmmと細く線維柱帯を線状に切開するのに対して,KDBは二枚刃構造となっており,線維柱帯を幅広く切除できる.日本人の緑内障患者を対象としたCKDBとCTμHの眼圧下降を比較した報告は少なく,同一症例の左右眼での報告はこれまでになされていない.HirabayashiらはCKDBを使用したCPEA症例において,術前と3カ月後の眼圧は17.0からC14.6mmHg(眼圧下降率C14.1%),投薬数はC2.4からC1.3に減少したと報告している3).ElMallenらは同じくCKDBを使用したCPEA症例で術前とC3カ月後の眼圧はC18.2C±0.3からC13.4C±0.2CmmHg(眼圧下降率C26.4%),投薬数は術前C1.45からC3カ月後はC0.36に減少したと報告している4).一方,TanitoはCTμMを使用してCPEA+MIGS手術を施行した症例で,術前と平均C9.5カ月後の眼圧がC16.4からC11.8mmHgになり(眼圧下降率C28%),投薬数はC2.4C±1.2からC2.1C±1.0剤に減少したと報告している5).今回の筆者らの報告ではCKDBでの眼圧下降率はC17.4%,TμHでの眼圧下降率はC15.4%であった.既報の報告に比較して眼圧下降は少ない傾向にあるが,これは今回の対象症例には前述の②の適応症例が含まれているため,眼圧下降を主目的とする他の報告よりも眼圧下降率が低い結果となっ(97)あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020C871ているものと思われる.今回は点眼薬数がCKDBでC2.4C±1.3からC0.6C±1.0,TμHではC2.5C±1.3剤からC0.6C±1.1剤と有意な減少が得られており,緑内障点眼薬でコントロールされている緑内障症例にも,点眼薬の本数を減少させる目的でMIGS併用白内障手術を行うことは選択の一つとなりうると考えられた.なお,術後C3カ月の短期間ではCKDBとCTμHの眼圧下降に有意差はみられなかった.MIGSの術後合併症として懸念される前房出血は,過去の報告ではCKDBではC35.3%,TμHでの報告はC38.41%であった5.7).今回はCKDB6眼C22.2%,TμH5眼C18.5%にみられており,術式の差による前房出血の比率はあまり差がなかった.また,前房洗浄を必要とする症例はなかった.今後経過観察を長期にわたり継続し,眼圧下降効果や投薬数をさらに検討していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LaviaCC,CDallortoCL,CMauleCMCetal:Minimally-invasiveglaucomaCsurgeries(MIGS)forCopenangleCglaucoma:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CPLoSCOneC29:Ce0183142,C20172)原岳:白内障手術とCMIGS:期待される効果とリスク.CIOL&RSC33:67-72,C20193)HirabayashiMT,KingJT,LeeDetal:Outcomeofphaco-emulsi.cationCcombinedCwithCexcisionalCgoniotomyCusingCtheCKahookCdualCbladeCinCsevereCglaucomaCpatientsCatC6Cmonths.ClinOphthalmolC13:715-721,C20194)ElMallahCMK,CSeiboldCLK,CKahookCMYCetal:12-MonthCretrospectiveCcomparisonCofCKahookCdualCbladeCexcisionalCgoniotomywithistenttrabecularbypassdeviceimplanta-tioninglaucomatouseyesatthetimeofcataractsurgery.AdvTherC36:2515-2527,C20195)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20176)小林聡,竹前久美,佐藤春奈ほか:KahookdualbladeRによる線維柱帯切開術の短期成績.臨眼C72:703-707,C20187)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20178)岩田和雄,難波克彦,阿部春樹ほか:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌C96:1501-1531,C19929)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C201810)SooHooCJR,CSeiboldCLK,CRadcli.eCNMCetal:MinimallyCinvasiveCglaucomasurgery:currentCimplantsCandCfutureCinnovations.CanJOphthalmolC49:528-533,C201411)PahlitzschM,KlamannMK,PahlitzschMLetal:IsthereaCchangeCinCtheCqualityCofClifeCcomparingCtheCmicro-inva-siveCglaucomasurgery(MIGS)andCtheC.ltrationCtech-niquetrabeculectomyinglaucomapatients?GraefesArchClinExpOphthalmol255:351-357,C2017***872あたらしい眼科Vol.37,No.7,2020(98)