《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1178.1181,2017cニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め野村英一*1安村玲子*2石戸岳仁*1伊藤典彦*3野村直子*1田勢沙帆*1武田亜紀子*1遠藤要子*4西出忠之*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜市立みなと赤十字病院*3鳥取大学農学部動物医療センター*4長後えんどう眼科クリニックCPositioningofScleraFlapsUsingInfraredRayImagingbeforeFiltrationBlebNeedlingRevisionsEiichiNomura1),ReikoYasumura2),TakehitoIshido1),NorihikoItoh3),NaokoNomura1),SahoTase1),AkikoTakeda1),YokoEndo4),TadayukiNishide1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)C3)TottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,4)ChogoEndoEyeClinicYokohamaCityMinatoRedCrossHospital,目的:ニードリング前に赤外線(IR)画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針を挿入できたC6例を報告する.対象および方法:平均年齢C70.3±12.7歳,原発開放隅角緑内障C2名,続発緑内障C4名のC6例C6眼.12回のニードリングが行われた.点眼麻酔後,scanninglaserophthalmoscope(SLO)でCIR画像を撮影中に強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写し,手術顕微鏡でニードリングを施行した.IRと可視光で確認した強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.転写できた強膜弁の角の数,強膜弁下から前房内へのC27CG針の挿入の可否を確認した.結果:確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91±0.29,可視光でC1.00±1.04であった(WilcoxonCsigned-rankstest:p<0.05).強膜弁の角はC3.85±0.55カ所を転写できた.12回すべてで強膜弁下から前房内までC27CG針を挿入できた.CObjective:Wereport6casesinwhichneedlescouldbeinsertedunderscleral.apsthroughpositioningofthe.apsCusingCinfraredCray(IR)imagingCbeforeC.ltrationCblebCneedlingCrevisions.CCasesandmethods:12Cneedlingrevisionsfrom6casesofglaucoma(2primaryopen-angleglaucomaand4secondaryglaucoma,averageage70.3±12.7years)wereCstudied.CBeforeCneedlingCrevisions,CtheCanglesCofCscleraC.apsCvisibleCviaCinfraredCrayCimagesCformscanningClaserCophthalmoscope(SLO)wereCmarkedCwithCgentianCviolet.CToCassessCvisibility,CtheCnumberCofCsidesCviaCIRCimagesCandCvisibleCrayCimagesCwereCcompared.CNeedleCrevisionsCwereCperformedCwithCsurgicalCmicroscopeCguidedbythegentianvioletmarks.Result:ThenumberofsidesviaIRimagesandvisiblerayimageswere2.91C±0.29CandC1.00±1.04,respectively(Wilcoxonsigned-rankstest:p<0.05).The3.85±0.55anglesofthequadran-gularscleral.apweremarkedontheconjunctivawithgentianviolet.Inall12instances,needlescouldbeinsertedintotheanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1178.1181,C2017〕Keywords:赤外線,緑内障手術,濾過胞再建術,ニードリング,位置決め.infraredrays,glaucomasurgery,.ltrationblebrevision,needling,positioning.Cはじめに波である.赤色の可視光線に近い特性のため,人間に感知で波長がおよそC0.75.1,000Cμmの電磁波は赤外線(IR)とよきない光として,IR(infraredCray)カメラや情報機器などばれる.そのうち,近赤外線はおよそC0.75.2.5Cμmの電磁に応用されている1).さらに,IRには組織深達性があり,イ〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN1178(104)ンドシアニングリーンの蛍光と併せて,乳がんでリンパ節の検索に利用されている2).IRを利用した緑内障領域の研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある3).また,前眼部CopticalCcoherenceCtomography(OCT)はCIRを光源とするが,これにより濾過胞形状を調べ,濾過機能の評価や4,5),濾過胞再建術に役立てた報告がある6).ニードリングの際に,結膜下の強膜弁の視認性が不良のため,強膜弁下への注射針の挿入が困難な場合がある.筆者らは,IR画像を用いることで,IRの組織深達性により,術前に以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した7).さらに筆者らは,手術顕微鏡に赤外線に感受性のあるCcharge-coupledCdevice(CCD)を設置し,組織深達性があるCIR画像を用いて,観血的濾過胞再建術の術中に結膜下,Tenon.下,強膜弁下の手術器具の視認性が改善されることを報告した8).また,同様の手法でニードリングの術中に,器具の先端の視認性が改善することを,第C22回日本緑内障学会にて報告した(2011年,秋田).手術中にCIR画像を用いる方法は結膜下の視認性の改善に有用であるが,手術顕微鏡にCIR用CCCDを設置する必要がある8).また,術中にCOCT画像によってガイドしながら行うニードリングの報告9)もあるが,OCTを付属した手術顕微鏡が必要となる.今回,筆者らは術前にCscanningClaserCophthalmoscope(SLO)のCIR画像で強膜弁を撮影することで判明した強膜弁の角の位置を,SLO画像を取得中にピオクタニンで結膜上に転写し,その後ピオクタニンの印を参考にニードリングを行うことで,強膜弁下への注射針の挿入を行う際に強膜弁の位置がわかりやすくなる方法を考案した.この方法は術中に特殊な機器を使用しない利点がある.ニードリング前にCIR画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針の挿入が可能であったC6例を経験したので報告する.CI症例症例は平均年齢C70.3C±12.7歳,男性C2例,女性C4例,病型は原発開放隅角緑内障C2例,続発緑内障C4例(ぶどう膜炎2例,落屑症候群2例)の6例6眼.2016年4.10月に行われたC12回のニードリングを対象とした.このC6例に対して線維柱帯切除術はC7回施行されていた.最後の線維柱帯切除術から各症例の初回のニードリングまでの期間は平均C4.3年C±5.6年(最小C57日,最大C9年)であった.CII方法IR画像は,SLO(HeidelbergCEngineering,CSPECTRA-LIS)で濾過胞部分を波長C920Cnmで撮影し取得した.可視abc図1IR画像で強膜弁の位置を決めた後,ニードリングする方法a:可視光では瘢痕化した濾過胞の下にある強膜弁(四角形)の位置はわかりにくいことがある.円弧は角膜輪部,三角形は周辺虹彩切除部を示す.Cb:0.4%オキシブプロカイン点眼液で点眼麻酔後,IRで強膜弁の辺が見えたら強膜弁の角に相当する部位にピオクタニンで印(丸印)を付ける.Cc:可視光の手術顕微鏡下でピオクタニンの印をガイドに,強膜弁下にC27CG針(矢印)をくぐらせ前房内まで挿入する.線維柱帯切除部や強膜弁下も癒着を.離,その後C27G針およびCblebknifeを用いて結膜と強膜の癒着も.離する.刺入部はC10-0ナイロン糸(丸針)にて縫合する.C光画像は眼底カメラ(Kowa,CVx10i)の前眼部モードで撮影し取得した.0.4%オキシブプロカインで点眼麻酔後,強膜弁の角の位置を結膜上からCIR画像で確認し,撮影中にピオクタニン(Richard-Allan,RegularTipSkinMarker)で結膜上に転写した.その後,27CG針,および幅C1.0Cmmのベントタイプの濾過胞再建用ナイフ(KAI,blebknife,BKB-10AGF)を用いて手術顕微鏡下にニードリングを行った(図1).これらの操作を行った症例に対して,診療録をもとに後ろ向きに下記の項目を検討した.IR画像と可視光画像で確認できた強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込まれ,四角形の強膜弁の輪部を除いたC3辺のうち何辺がみえるかを比較した.IR画像の取得には当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および患者の文書による同意を得た.また,結膜上にピオクタニンで転写できた強膜弁の角の数の平均値を求めた.さらに強膜弁下から前房内までC27CG針が挿入できたか,またニードリングに伴う有害事象がないかを調査した.さらに,強膜弁の辺のうち,実際に刺入した辺がCIRまたは可視光で視認できたかを比較した.さらに術前と術後C2週目の平均眼圧,平均点眼数を対応のあるCt検定を用いて比較した.CIII結果確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91C±0.29,可視光でC1.00±1.04.(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05)であり,IRで有意に強膜弁の視認性が改善していた.強膜弁の角はC3.85C±0.55カ所を結膜上にピオクタニンで印を付けることが可能であった.12回すべてにおいて強膜弁下から前IR画像可視光画像図2IR画像下に強膜弁の位置決めをした症例89歳,女性,続発緑内障(落屑症候群).13年前に他院で左眼の線維柱帯切除術を施行された.VS=(0.02),眼圧はC15.19CmmHg程度で経過した.1年半前から眼圧C39CmmHgとなり,当院紹介受診し,ニードリングでC13.19CmmHg程度に下降した.2カ月前より次第に眼圧上昇し,点眼数C4にて眼圧C32CmHgと上昇し,今回,2度目のニードリングを施行された.IR画像で強膜弁のC3辺が確認できた(C.).可視光画像ではC1辺が確認できた(C.).強膜弁の角に赤外線画像下にピオクタニンで印を付けた.術後C2カ月の時点で点眼数C5にて左眼眼圧C16CmmHgとなった.房内までC27CG針を挿入できた.図2に典型例を示した.術後に前房出血がC2回みられたが自然軽快した.そのほかに明らかな有害事象はみられなかった.12回のニードリングにおいて,実際に刺入した強膜弁の辺が視認できたのは,IRでC12回,可視光ではC3回で,IRで有意に視認できた(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05).可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.術前の平均眼圧C26.2C±6.4CmmHgに対して,術後C2週目の平均眼圧はC19.3C±3.0CmmHgと有意に下降した(対応のあるt検定,p<0.05).平均点眼数は術前C3.7C±1.9,術後C2週目C3.3±1.7で有意差はみられなかった(対応のあるCt検定,p=0.81).ニードリングの追加,術前眼圧をC2回連続で上回ったときを死亡と定義すると,術後C2週の生存率はC50.0%であった.6眼中C1眼において線維柱帯切除術の追加を要した.CIV考察IR画像ではカラー画像より強膜弁の辺の視認性が高い傾向がみられた.このため強膜弁の角の位置をCIR画像下で結膜上にピオクタニンで転写が可能であったと考えられた.ニードリングによる濾過胞再建術を手術顕微鏡で施行する際,強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写した印に基づいて,強膜弁の辺の位置が想定できた.これにより注射針を辺に相当する強膜弁の切開部を通して,強膜弁下から前房内に挿入する操作が容易になった.可視光で手術をしているため操作自体は通常と変わらないが,挿入部位がわかりやすいため,安全に施行できたと考えられた.手術操作自体は可視光で行ったため,手術の前半では結膜と強膜との.離は最小限に留め,結膜下の出血を抑えることで針先の視認性を保った.強膜弁下から前房内に注射針を刺入後,強膜弁下の組織を.離し,手術の後半で濾過胞の大きさを維持するため強膜弁の上および周辺の結膜と強膜の.離をC27CG針およびCblebknifeで行った.12回のニードリングにおいて,可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.刺入部位は濾過胞の状態や,鼻や前額部の張り出し具合などで制限をうけるため,可視光で視認できる部位が必ずしも術者の希望する刺入部位とは限らない.今回のC12回は図1のようにすべて放射状方向の辺から刺入している.刺入部位に制限のあるなかで,75%の部位でCIRでのみ視認できており,本法は可視光で視認できない部位から術者が刺入を検討する場合にとくに有用であると考えられた.また,直接刺入しない辺も含めて視認性がCIR画像で改善していたが,これは強膜弁と濾過胞全体の形状の把握に役立ち,結膜の癒着範囲が想定しやすくなると考えられた.筆者らは,濾過胞再建術の術中にCIR画像で観察する場合は視認性が改善することを報告している8).今回の方法は手術顕微鏡にCIR画像用の器具が不要な利点はある.しかし,手術顕微鏡の可視光で手術するため,結膜下出血がある場所では視認性が低下する.このため結膜下出血が少ない処置の前半で,強膜弁下から前房内へのC27CG針の刺入の操作を終えることで術中にCIR画像で確認できない点を補った.ニードリングは結膜下の増成組織を強膜と結膜から.離し,さらに可能であれば強膜弁下から前房への交通の回復,強膜弁下の癒着を解除することで濾過胞の機能を回復する手技である10).強膜弁下から前房内への注射針の挿入は,線維柱帯切除部から強膜弁下に癒着が生じている場合には房水流出路の回復が得られると考えられる.結膜上からの視認性が悪い場合に,強膜弁下から前房内への注射針の刺入は施行が困難な場合がある.また,視認性が悪い場合は強膜穿孔,結膜穿孔などの合併症の危険性が生じうる.今回の方法は前房内への注射針の挿入を安全に行うために有用であると考えられた.CV結論IRの組織深達性を利用しCIRでの位置決め後に行うニードリングは,可視光で視認できないがCIRで視認できる部位からの刺入,および強膜弁全体の形状の把握に利点があり,強膜弁下から前房内への注射針の挿入において有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiCT,CInomotoCT,CMiwaCMCetCal:FluorescenceCnaviga-tionwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancerC12:211-215,C20053)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationof.lteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmolC93:1331-1336,C20094)KawanaK,KikuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftra-beculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteri-orsegmentopticalcoherencetomography.OphthalmologyC116:848-855,C20085)TominagaA,MikiA,YamazakiYetal:Theassessmentofthe.lteringblebfunctionwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucomaC19:551-555,C20106)KojimaCS,CInoueCT,CKawajiCTCetCal:FiltrationCblebCrevi-sionCguidedCbyC3-dimensionalCanteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography.JGlaucomaC23:312-315,C20147)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科C28:879-882,C20118)野村英一,安村玲子,伊藤典彦ほか:赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察したC1例.あたらしい眼科C32:C1027-1031,C20159)DadaT,AngmoD,MidhaNetal:IntraoperativeopticalcoherenceCtomographyCguidedCblebCneedling.CJCOpthalmicCVisResC11:452-454,C201610)Green.eldDS,MillerMP,SunerIJetal:Needleelevationofthescleral.apforfailing.ltrationblebsaftertrabecu-lectomywithmitomycinC.OphthalmicSurgC24:242-248,C1993***