《原著》あたらしい眼科33(8):1231?1235,2016c超広角走査レーザー検眼鏡による滲出型加齢黄斑変性の周辺部眼底自発蛍光の観察西脇晶子加藤亜紀長谷川典生臼井英晶安川力吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学PeripheralFundusAutofluorescenceOnUltra-widefieldScanningLaserOphthalmoscopeinEyeswithNeovascularAge-relatedMacularDegenerationAkikoNishiwaki,AkiKato,NorioHasegawa,HideakiUsui,TsutomuYasukawa,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)は加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)前駆病変や萎縮型AMDの評価に有用である.従来は撮影困難であった周辺部FAFを超広角走査レーザー検眼鏡で撮影し,滲出型AMDの周辺部FAFを観察した.対象および方法:滲出型AMD群31眼,対照群30眼を対象とし,超広角走査レーザー検眼鏡を用いて眼底画像を撮影した.異常周辺部FAFの有無,またその異常所見を顆粒状過蛍光,斑紋状低蛍光,貨幣状低蛍光の3型に分類し評価した.結果:滲出型AMD群では87.1%に周辺部FAFの異常が認められた.一方,対照群では16.7%に異常を認め,滲出型AMD群と比較し有意に少なかった.異常FAF所見分類では滲出型AMD群において斑紋状をもっとも多く認めた.結論:滲出型AMD群では周辺部FAF異常が高頻度に認められた.Purpose:Tocharacterizeperipheralfundusautofluorescence(FAF)abnormalitiesobservedwithneovascularage-relatedmaculardegeneration(AMD).Methods:Ultra-widefieldfundusimagingwasperformedtoobtain200-degreeFAFandcolorimages.AllimagesweregradedregardingpresenceandtypeofperipheralFAFabnormalities.AlterationsinperipheralFAFwereclassifiedinto4phenotypicpatterns:normal,granularincreased,mottleddecreasedandnummulardecreased.Wide-fieldFAFimageswereobtainedfrom31eyeswithneovascularAMDand30eyeswithcataractandnoAMD.Results:InneovascularAMDpatients,peripheralFAFabnormalitieswereevidentin27eyes(87.1%),withseveraldistinctFAFpatternsidentified:granularincreased(12.9%),mottleddecreased(74.2%)andnummulardecreased(6.5%).Incontrast,only5eyes(16.7%)withcataractandnoAMDhadabnormalFAF,significantlyfewerthaneyeswithneovascularAMD.Conclusions:SeveraldistinctpatternsofperipheralFAFabnormalitieswereobservedinpatientswithneovascularAMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1231?1235,2016〕Keywords:加齢黄斑変性,眼底自発蛍光,超広角走査レーザー検眼鏡.age-relatedmaculardegenerarion,fundusautofluorescence,ultra-widefieldfundusimaging.はじめに眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)はおもに網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)内に加齢性に蓄積するリポフスチンに由来する.リポフスチン由来の背景蛍光に加えて,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)前駆病変やRPEの機能低下に伴い異常な過蛍光を呈し,逆に,RPEが萎縮すると低蛍光を呈するようになる.RPEの状態を非侵襲的に観察できるFAFは,AMDの診断や病態の評価に有用である1).超広角走査レーザー検眼鏡Optos200Tx(Optos社,Dunfermline,Scotland,UK)は,網膜の80%以上の領域を短時間で撮影が可能な機器である.従来のFAF撮影機器では周辺部の撮影は困難であったため,病変の評価,検討は眼底後極部に限定されていたが,Optos200Txを用いて,AMDにおいても正常人との比較や周辺部の異常FAFとAMDの病型との関連などが検討されてきている2?5).しかし,アジア人における周辺部FAFを検討した報告は少ない4).今回は,Optos200Txを用いて日本人における滲出型AMDの周辺部FAF異常について検討した.I方法名古屋市立大学病院網膜外来に2012年10月以降受診した滲出型AMD21例の連続症例31眼(男性19例,女性2例,年齢:75±6.3歳:平均値±標準偏差)を対象とし,滲出型AMD群とした.滲出型AMD群は治療歴の有無,方法については不問とした.同時期に一般再来を受診した検眼鏡的に後極部および周辺部に眼底疾患を認めない患者18例30眼(男性10例,女性8例,平均年齢:72±7.4歳)を対照群とした.滲出型AMD群,対照群ともに,後極部および周辺部網膜所見の評価に影響を与える可能性がある症例(眼外傷,網膜血管疾患,糖尿病網膜症,近視性網脈絡膜萎縮,中心性漿液性脈絡網膜症,視神経症,網脈絡膜炎,周辺網膜のレーザー治療,網膜硝子体疾患の治療がある患者は除外した.両群に対して散瞳後,Optos200Txを用いて広角FAFを撮影した.カラー広角眼底画像も撮影した.中心窩を中心とした30°の範囲より外側を「周辺部眼底」とし,周辺部異常FAFは,背景蛍光と比較して,過蛍光もしくは低蛍光を認めた場合を異常とした.周辺部異常FAF所見はTanらの報告3)に準じて顆粒状過蛍光(granularincreasedFAF),斑紋状低蛍光(mottleddecreasedFAF),貨幣状低蛍光(nummulardecreasedFAF)の3型に分類した(図1~3).各群における周辺部異常FAF所見の有無,そのパターンを検討した.画像の評価は眼科医2名が独立して行い,判定が一致した場合に確定とした.判定が異なる場合には第3の判定者が評価し,どちらかの評価者と一致した場合に確定とした.3名の評価が異なる場合には除外とした.画像が不鮮明で判定が困難なものも除外した.II結果周辺部異常FAFは,滲出型AMD群31眼中27眼(87.1%),対照群では30眼中5眼(16.7%)にみられ,滲出型AMD群で有意に出現率が高かった(p<0.01)(表1).異常所見のパターンの発現では斑紋状低蛍光が74.2%ともっとも多く,顆粒状過蛍光が12.9%,貨幣状低蛍光が6.5%ともっとも少なかった.対照群では貨幣状低蛍光は認めなかった(表2).周辺部異常FAFのパターン混在は,滲出型AMD群で3眼にみられた.対照群には混在眼はみられなかった.滲出型AMD群のうち,斑紋状と顆粒状の混在を2眼,斑紋状と貨幣状の混在を1眼に認めた.III考按AMDは先進諸国における成人の主要な失明原因であり,わが国でも近年,増加傾向にある重大な疾患である.滲出型AMDに対しては血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の働きを抑える抗VEGF薬の硝子体内注射と光線力学的療法により一定の治療効果が得られるようになったが,長期間にわたり頻回の治療を必要とすることも多く,中心窩に及ぶ地図状萎縮や線維性瘢痕などにより視力低下に至る場合もある.FAFは非侵襲的に撮影が可能で,加齢や疾患の初期変化の指標となりうる検査である.FAFでおもに蛍光を発しているのはRPE内に加齢性に蓄積するリポフスチンであり,リポフスチン蓄積が過剰になってくると,RPEの機能障害をきたす.また,ドルーゼンなどの沈着物が発生するようになる.RPE内のリポフスチンの過剰蓄積あるいは,細胞の膨化や重層化,RPE下への自発蛍光物質の貯留などがFAFにおける異常過蛍光所見の原因となる.一方,さらに進行した病態ではRPEの変性・萎縮が進行し,リポフスチンそのものが失われるため,萎縮したRPEの部分はFAFで低蛍光を示すようになる6?8).FAFの所見やドルーゼンなどのAMD前駆所見の検討により,AMDの病態解明,発症や予後,早期治療のための有益な情報が得られる可能性がある.AMDにおける後極部FAFの異常所見については従来から多数報告されている.萎縮型AMDにおいて,特有のパターンでは経時的に地図状萎縮が拡大しやすいとの報告があるほか1),自発蛍光の異常所見は病変進行の予測に有用である可能性が示唆されている5,6).最近になって超広角走査レーザー検眼鏡Optos200Txを利用した周辺部FAFの撮影が容易になり,AMDと周辺部FAFとの関連が研究され,すでにいくつかの報告がある.Reznicekら2)は加齢による過蛍光の傾向についてFAFの増強率は周辺部のほうが後極部よりも高いことを示した.また,AMD群では非AMD群に比べ周辺部FAFが有意に増強しかつ不整となったこと,抗VEGF治療を受けたAMD群と未治療AMD群では周辺部FAFに有意な差がなかったことを示し,周辺部FAFが後極部FAFと同様にAMDの診断と経過観察に有用である可能性を示唆した.また,Witmerら5)も,正常対照群とAMDおよび黄斑部ドルーゼンと診断された症例群について周辺部FAFを検討し,周辺部FAF異常は正常対照群と比較しAMD群で有意に多く認めたとしている.Tanら3)は周辺部FAF異常を検討し,滲出性AMD86%,非滲出性AMD72.8%,正常眼18.4%と,滲出性AMDと比較して頻度が高かったと述べている.また,周辺部FAF異常の危険因子としてAMDであること(滲出性>非滲出性),加齢,女性であることを示した.同報告では,周辺部FAF異常は,顆粒状過蛍光,斑紋状低蛍光,貨幣状低蛍光の3パターンに分類され,それぞれの内訳は,顆粒状過蛍光46.2%,斑紋状低蛍光34.0%,貨幣状低蛍光18.1%であったと述べている.また,顆粒状過蛍光パターンはドルーゼンと,斑紋状低蛍光パターンは網膜周辺の脱色素と関連していたとしている.今回の筆者らの検討でも周辺部FAFの異常所見は滲出型AMD眼において高率に認められ,Tanらの報告に従ってFAF異常を分類したところ,異常所見のパターンは斑紋状低蛍光がもっとも多く,ついで顆粒状過蛍光がみられ,貨幣状低蛍光はもっとも少ない頻度であった(表1,2).Tanらの報告のうち,滲出型AMDに限定し比較すると,周辺部FAFの異常所見出現率はTanらは86%,本研究では87%であり,ほぼ同じという結果となった.欧米人同様日本人においても滲出型AMD患者ではきわめて高い割合で周辺FAF異常がみられることが明らかになったと考えられるが,後述のように各異常パターン群の出現頻度は相違があり,その原因に関しての今後の研究を必要とする.筆者らの研究を含む複数の研究でAMD患者において周辺部FAF異常の発生頻度が高いことから,周辺部FAF異常が存在する場合には黄斑部のRPEにも類似の変化が進行している可能性があり,黄斑変性の発症につながっているのかもしれない.一方,周辺部FAF異常のパターン別の割合をみると,本研究と欧米の結果とは多少違いがある(表2).滲出型AMDを検討した本研究ではとくに斑紋状低蛍光の割合が高かった.斑紋状低蛍光は周辺部RPEの色素異常と相関しておりRPEが何らかのストレスを受けていることを示唆する所見ではないかと推測される.今回はAMDの病型別の分類を検討に加えていないが,わが国においては滲出型AMDのうち特殊病型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)が半数近くを占める9?11).PCVにおいては後極部に特徴的な低蛍光と患眼および僚眼において周辺部に広範な低蛍光領域が散在していることが報告されており12),AMDの病型の違いが人種間の周辺部FAFパターンの出現頻度の違いに関係しているのかもしれない.本研究の問題点として,症例数が少ないこと,滲出型AMDの症例のほとんどがすでに何らかの治療を受けている患者であったこと,経時変化をみていないため病状の時系列が不明であることなどがあげられる.本研究により日本人患者においても滲出型AMD患者において周辺部FAF異常の頻度が高いことが示された.今後,検討する症例数を増やし,経時的な変化を評価することで,異常FAF所見と病態との関連が解明され,AMDの発症予測や予後予測につながる可能性があると考えられる.文献1)BindewaldA,BirdAC,DandekarSSetal:Classificationoffundusautofluorescencepatternsinearlyage-relatedmaculardisease.InvestOphthalmolVisSci46:3309-3314,20052)ReznicekL,WasfyT,StumpfCetal:Peripheralfundusautofluorescenceisincreasedinage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci53:2193-2198,20123)TanCS,HeussenF,SaddaSR:Peripheralautofluorescenceandclinicalfindingsinneovascularandnon-neovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:1271-1277,20134)NomuraY,TakahashiH,TanXetal:Widespreadchoroidalthickeningandabnormalmidperipheralfundusautofluorescencecharacterizeexudativeage-relatedmaculardegenerationwithchoroidalvascularhyperpermeability.ClinOphthalmol9:297-304,20155)WitmerMT,KozbialA,DanielSetal:Peripheralautofluorescencefindingsinage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol90:e428-433,20126)HolzFG,Bindewald-WittichA,FleckensteinMetal:Progressionofgeographicatrophyandimpactoffundusautofluorescencepatternsinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:463-472,20077)Schmitz-ValckenbergS,Bindewald-WittichA,Dolar-SzczasnyJetal:CorrelationbetweentheareaofincreasedautofluorescencesurroundinggeographicatrophyanddiseaseprogressioninpatientswithAMD.InvestOphthalmolVisSci53:2648-2654,20068)EinbockW,MoessnerA,SchnurrbuschUEetal:Changesinfundusautofluorescenceinpatientswithage-relatedmaculopathy.Correlationtovisualfunction:aprospectivestudy.GraefesArchClinExpOphthalmol243:300-305,20059)MoriK,Horie-InoueK,GehlbachPLetal:Phenotypeandgenotypecharacteristicsofage-relatedmaculardegenerationinaJapanesepopulation.Ophthalmology117:928-938,201010)NakataI,YamashiroK,YamadaRetal:AssociationbetweentheSERPING1geneandage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanese.PLoSOne6:e19108,201111)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,200712)YamagishiT,KoizumiH,YamazakiTetal:Fundusautofluorescenceinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology119:1650-1657,2012〔別刷請求先〕西脇晶子:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkikoNishiwaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1顆粒状過蛍光パターンの代表症例(76歳,女性):左眼滲出型AMDa:FAF写真.周辺部に散在する小型の顆粒状過蛍光領域(?)を認めた.b:眼底写真.FAFでの顆粒状過蛍光領域はドルーゼン(?)に一致して認められた図2斑紋状低蛍光パターンの代表症例(85歳,男性):左眼滲出型AMDa:FAF写真.鼻側周辺部にまだらな斑紋状の低蛍光領域(?)を認めた.b:眼底写真.FAFでの斑紋状低蛍光領域はRPE萎縮部(?)に一致して認められた.図3貨幣状低蛍光パターンの代表症例(77歳,男性):左眼滲出型AMDa:FAF写真.耳側周辺部に中程度の大きさ,不連続の均一な状の低蛍光領域(?)を認めた.b:眼底写真.FAFでの貨幣状低蛍光領域はRPE萎縮部(?)に一致して認められた.(151)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161233表1周辺部異常FAFの発現率表2周辺部異常FAFパターン出現頻度1234あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(152)(153)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161235