———————————————————————-Page1(99)10030910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10031006,2008cはじめに白内障手術前後の隅角形状の測定にはこれまで超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)やScheimpugカメラを用いた測定装置によって評価がなされてきた13)が,UBMは接触式のため術直後の測定は感染のリスクがあり,またScheimpugカメラによる撮影では角膜浮腫著明症例では測定困難であると考えられる.近年新しい前眼部測定装置として光干渉断層装置である〔別刷請求先〕前田征宏:〒457-8510名古屋市南区三条1-1-10社会保険中京病院眼科Reprintrequests:MasahiroMaeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceChukyoHospital,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoya457-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計(OCT)を用いて撮影した急性原発閉塞隅角症に対する白内障手術・隅角癒着解離術前後の隅角変化前田征宏渡辺三訓市川一夫小島隆司社会保険中京病院眼科ChangesinAnteriorChamberAngleafterCataractExtractionwithorwithoutGoniosynechialysisforAcutePrimaryAngle-Closure:UsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyMasahiroMaeda,MitsunoriWatanabe,KazuoIchikawaandTakashiKojimaDepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceChukyoHospital目的:急性原発閉塞隅角症であって点眼・点滴で眼圧下降が得られなかった症例に白内障手術を行い,前眼部光干渉断層計(OCT)で隅角形状を撮影したので報告する.症例:70歳,女性.急性原発閉塞隅角症と診断され,当院に紹介された.前医受診時眼圧は右眼32mmHg,左眼53mmHgであった.当院初診時,眼圧は右眼8mmHg,左眼53mmHg,角膜上皮の著明な浮腫を認めた.保存的治療にて眼圧下降が得られなかったため,水晶体再建術および隅角癒着解離術を行った.結果:前眼部OCTによって撮影した右眼の術前隅角角度は7.3°であり,左眼は全周に周辺虹彩前癒着を認めた.術後眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.術直後の隅角角度は右眼23.1°,左眼23.7°と開大し,両眼とも周辺虹彩前癒着を認めなかった.結論:前眼部OCTは急性原発閉塞隅角症に対する手術前後に非接触で短時間に測定が可能であり,有用な検査機器であると考えられた.Wereportthechangesofanteriorchamberangle(ACA)asmeasuredusingananteriorsegmentopticalcoherencetomography(A-OCT).Cataractextractionwasperformedonapatientwithacuteprimaryangle-clo-sure(APAC)whofailedtolowerintraocularpressure(IOP).Thepatient,a70-year-oldfemalewithAPAC(IOP32mmHgODand53mmHgOS),wasreferredtoourdepartment.OurinitialexaminationsshowedIOPtobe8mmHg(OD)and53mmHg(OS),withcornealendothelialedemaremarkablyprominent(OS).SinceconservativemedicationsfailedtolowerIOP,weperformedcataractsurgeryandgoniosynechialysis.PreoperativeACAofODwas7.3°andperipheralanteriorsynechia(PAS)wasrecognizedtoalllaps.PostoperativeIOPwas12mmHg(OD)and15mmHg(OS).ACAbecamelarger,to23.1°(OD)and23.7°(OS);noPASwasrecognized(OU).A-OCTenablesnon-contactandquickmeasurementofAPAC,andisusefulforclinicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10031006,2008〕Keywords:前眼部光干渉断層計(OCT),急性原発閉塞隅角症,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,隅角癒着解離術.anteriorsegmentopticalcoherencetomography(OCT),acuteprimaryangle-closure,phacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation,goniosynechialysis.———————————————————————-Page21004あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(100)teTMによって撮影したので報告する.I症例患者は70歳,女性.平成19年4月25日に往診医より悪心・嘔吐・頭痛のため,前医救急外来へ転送された.前医初診時所見:中等度散瞳,視力測定不能.眼圧は右眼32mmHg,左眼53mmHgであった.APACと診断され,マンニトールの点滴および2%ピロカルピン頻回点眼にても眼圧下降が得られず,当院紹介となった.当院初診時所見:矯正視力は右眼(0.7×+0.5D(cyl0.25DAx180°),左眼(0.15×+3.5D(cyl2.0DAx90°),眼圧は右眼8mmHg,左眼53mmHg,角膜内皮細胞数は右眼2,260個/mm2で,左眼は測定不能であった.左眼角膜上皮に著明な浮腫を認めた.前房隅角検査では右眼Sheer分類Ⅰ度,左眼は角膜上皮浮腫のため隅角鏡では詳細不明であった.VisanteTM(CarlZeissMeditec)が登場した.VisanteTMの測定原理は従来の820nm光源を用いた後眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)と同様であるが,本装置は1,310nmの近赤外線光源を用いて,資料から反射した測定光と参照光を干渉させて測定を行うため,組織深達性が高く,混濁部分を通過した画像を取得可能であり,解像度は軸方向18μm,横方向60μmで,非接触で測定が可能である4).そのため急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure:APAC)における角膜浮腫の強い症例でも短時間で非侵襲的かつ高精度に測定できる可能性がある.今回筆者らはAPACにおいて点眼・点滴で眼圧下降が得られなかった1眼に対し,超音波水晶体乳化吸引術(pha-coemulsicationandaspiration:PEA),眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:IOL)および隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)を,眼圧下降が得られた1眼に対しPEA+IOLを行い,術前後の隅角形状変化をVisan-図1眼圧下降が得られなかった左眼の前眼部OCT画像高度の浅前房であり,隅角は閉塞している.図2右眼の前眼部OCT画像薬物治療にて隅角は開放しているが,隅角角度は7.3°と狭隅角である.図3左眼眼内レンズ挿入術後の前眼部OCT画像隅角は広く開放した.耳側角膜のラインは角膜切開創である.図4右眼PEA+IOL術後前眼部OCT画像前房深度の増加と,隅角角度の開大を認める.耳側角膜のラインは角膜切開創である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081005(101)しかしながら保存的治療では眼圧下降が得られない場合もあり,その場合PEA+IOL+GSLを選択することは,眼圧下降に有用であると考えられており12,610),患者および家族に対し十分な説明を行い,同意を得たうえで手術が選択されている.白内障がない場合は術後調節力が失われるためその適応は慎重にしなくてはならない.しかし慎重に適応を選択し,患者の理解・同意が得られるのであれば,PEA+IOLに対する十分な経験をもつ術者が行えば,有用な治療方法の一つであると考えられる.白内障手術によって前房深度の増加や隅角角度の開大をきたし,眼圧が下降することが報告されており3),少ない合併症で眼圧コントロールが得られたと報告されている1,6,9,10).APACに対する白内障手術において,GSLの併用は2象限以上にPASが存在する場合に有用であるといわれており2,68),今回も術前にVisanteTMによって隅角形状を撮影し,全周に隅角閉塞を認めた左眼には術中に内視鏡にてPASを確認した後にGSLを行い,PASを認めなかった右眼に対してはPEA+IOLのみを行い,良好な術後経過を得た.今回の手術では浅前房であることと術前の角膜内皮細胞密度が測定できなかったこと,また膨潤した水晶体のため前切開線を周辺に逃がさないために,ビスコートRの注入後にヒーロンRVを用いてsoftshelltechniqueを行った11).角膜内皮障害を認める場合や,本症例のように術前の測定が困難である場合には,Arshino12)により考案されたsoftshelltechniqueを併用することが有効と考えられ,角膜内皮細胞保護効果が報告されている13,14).今回用いたVisanteTMでは角膜上皮浮腫が著明であるにもかかわらず術前の閉塞した隅角形状および手術翌日に開大した隅角形状が測定できた.前眼部OCTVisanteTMは非接触で短時間に撮影できるため,術前および術直後に隅角形状を簡便に測定することができ,検査に伴う患者の苦痛や感染の危険性が低く,手術前後の評価に有用な測定機器であると考えられた.文献1)伊波美佐子,酒井寛,森根百代ほか:琉球大学眼科における最近3年間の急性閉塞隅角緑内障の処置.あたらしい眼科18:907-911,20012)早川和久,石川修作,仲村佳巳ほか:白内障手術と隅角癒着解離術の適応と効果.臨眼60:273-278,20063)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Changesinanteriorchamberanglewidthanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.Ophthalmology107:698-703,20004)神谷和孝:前眼部光干渉断層計(VisanteTM,CarlZeissMeditec社).IOL&RS21:277-280,2007経過1:グリセオールの点滴およびピロカルピン頻回点眼を行うも,左眼の眼圧下降は得られず,角膜の浮腫も改善しなかった.VisanteTMを用いて,患者の隅角形状を撮影し,左眼は全周に隅角閉塞を認めた(図1,2).患者および家族に病態の説明を行い,同意を得たうえで手術を行った.経過2:4月25日左)PEA+GSL施行.ヒアルロン酸ナトリウム(ビスコートRとヒーロンRV)を用いてsoftshelltechniqueを行った.角膜浮腫を認めたため,前切開時の視認性を高める目的に,前染色用0.06%trypanblue溶液(ビジョンブルーTM)にて前染色し前切開を行った.角膜浮腫のため隅角鏡を用いたGSLは困難であった.PEA終了後サイドポートを1時の位置に追加し,内視鏡を挿入し全周にわたり周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が存在することを確認し,上野式極細癒着解離針(イナミ)を用いて,可能な限り内視鏡下で癒着を解離した.角膜の著明な浮腫によって術前の角膜屈折力の計測に影響があると考えたためIOLは挿入しなかった.4月26日左)IOL挿入術を行い,4月27日右)PEA+IOLを行った.術後検査:矯正視力は右眼(1.0×0.25D),左眼(1.0×+0.25D(cyl0.75DAx100°).角膜内皮細胞数は右眼2,500個/mm2,左眼2,666個/mm2であった.隅角角度は右眼は術前7.3°から23.1°と開大し,左眼の隅角も23.7°と開放されていることが確認できた(図3,4).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.II考察2006年3月に改訂された緑内障診療ガイドライン(第2版)では,緑内障を緑内障性視神経症と定義し,狭隅角眼で,他の要因がなく,隅角閉塞をきたしながら,緑内障性視神経症を生じていないものを原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC)と定義し,緑内障性視神経症を生じているものを原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglauco-ma:PACG)と定義している.またいわゆる緑内障発作寛解後に,視神経症の認められない症例をAPACと分類している.APACにおける治療では,ピロカルピンの頻回点眼,グリセオールやマンニトールなどの点滴を用いて瞳孔ブロックの解除と眼圧下降を行い,その後レーザー虹彩切除術,あるいは観血的虹彩切除術が行われるのが一般的である1,5).近年,白内障が存在する場合においてPEA+IOLおよびGSLもその治療として有効であると報告されている.通常は点眼・点滴で眼圧下降を得た後に行うことが重要であるが,その理由として,眼圧下降前は角膜の浮腫が強く手術時の視認性が低下していること,散瞳不良が多いこと,角膜内皮障害やZinn小帯の脆弱な場合があるため手術の難易度が高いことがあげられる.———————————————————————-Page41006あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(102)mulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,200210)家木良彰,三浦真二,鈴木美都子ほか:急性緑内障発作に対する初回手術としての超音波白内障手術成績.臨眼59:289-293,200511)市川一夫:手術器具前染色ビジョンブルー.IOL&RS21:275-276,200712)ArshinoSA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,199913)石川哲夫,松本年弘,吉川麻里ほか:ソフトシェル法による白内障手術.あたらしい眼科18:532-534,200114)宮井尊史,宮田和典:角膜内皮細胞の少ない症例の白内障.臨眼58:182-186,20045)永田誠:わが国における原発閉塞隅角緑内障診療についての考察.あたらしい眼科18:753-765,20016)山下美恵,久保田敏昭,森田啓文ほか:急性原発閉塞隅角症の眼圧コントロールに対する超音波水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入術の成績.あたらしい眼科24:673-676,20077)戸栗一郎,松浦敏恵,久保田敏昭ほか:閉塞隅角緑内障に対する超音波水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入術の成績.臨眼56:608-612,20028)TeekhasaeneeC,RitchR:Combinedphacoemulsicationandgoniosynechialysisforuncontrolledchronicangle-clo-sureglaucomaafteracuteangle-closureglaucoma.Oph-thalmology106:669-675,19999)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoe-***