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立体視応答速度における軽度乱視の影響

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1295.1298,2018c立体視応答速度における軽度乱視の影響結城岳志*1半田知也*1,2岩田遥*2飯田嘉彦*3庄司信行*3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学病院眼科CE.ectsofMildAstigmatismonResponseSpeedsofStereopsisTakashiYuuki1),TomoyaHanda1,2)C,YoIwata2),YoshihikoIida3)andNobuyukiShoji3)1)Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity軽度乱視が視機能の質に与える影響について立体視応答速度に着目して検討した.対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年C30名とした.立体視応答速度はC3DVisualFunctionTrainer-ORTe(JFC社)を用いて両眼視差C800,400,200,100,60秒の立体視標を提示し,立体視知覚した視標方向に十字キーを押下するまでの時間を立体視応答速度として評価した.完全屈折矯正下,および両眼に+0.50から+2.00Dの円柱レンズを人工的に負荷した乱視モデル(直乱視,倒乱視)を作成し比較検討した.立体視応答速度は乱視負荷量の増加に伴い徐々に低下し,0.75D以上の乱視にて有意差を認めた(p<0.05).0.75D以下の軽度乱視においても立体視応答速度の低下などの視機能の質の低下が生じる可能性が示唆された.CWeCexaminedCtheCin.uenceCofCmildCastigmatismConCqualityCofCvisualCfunction,CwithCtheCmainCfocusConCstereo-scopicresponsespeed.Atotalof30healthyadolescentswithnoophthalmologicdiseaseotherthanmildrefractiveerrorwererecruited.Theirstereoscopicresponsespeedwasmeasuredusing3DVisualFunctionTrainer-ORTeR(JFC).Stereoscopicvisualtargetswithbinoculardisparitiesof800,400,200,100and60secondsofarcwerepre-sented.Thetimeelapsedbeforethecrosskeywaspressedinthedirectionofthestereoscopicallyperceivedvisualtargetwasrecordedasthestereoscopicresponsespeed.Wemadeastigmatismmodels(astigmatismwiththerule,astigmatismCagainstCtheCrule)inCwhichCcylindricalClensesCof+0.50Cto+2.00DCwereCmanuallyCloadedCunderCfullCrefractionCcorrection,CbothCeyesCwereCexaminedCandCcompared.CTheCstereoscopicCresponseCspeedCgraduallydecreasedCwithCincreaseCinCastigmaticCload;signi.cantCdi.erenceCwasCobservedCatCanCastigmatismCofC0.75DCorhigher(p<0.05)C.Ourresultssuggestthatthequalityofvisualfunction,asre.ectedbydecreaseinthestereoscop-icresponsespeed,maydeteriorateevenatamildastigmatismof0.75Dorless.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1295.1298,C2018〕Keywords:立体視,応答速度,軽度乱視,屈折矯正,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.stereopsis,mildastig-matism,refractivecorrection,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.Cはじめに眼内レンズやコンタクトレンズの進歩・普及により,患者は見え方の質を選ぶ時代となり,白内障手術およびコンタクトレンズ矯正において乱視矯正の重要性が高まっている.しかしながら軽度乱視においては,球面レンズの矯正のみで視力が良好ということが多く,日常生活において視覚の質(qualityofvision:QOV)の低下を自覚しがたい1).しかしながら,自覚しがたい軽度乱視であっても未矯正による像のボケが生じており,軽度乱視によるCQOVの低下を鋭敏に評価できる視機能検査法が必要と考える.臨床的な視機能検査の多くは,視力,コントラスト感度に代表される空間分解能評価が中心である.実際の日常生活では,スポーツ,自動車運転など,対象物をいかに早く認識できるかといった時間分解能の能力も求められるが,臨床的検査に用いられることは少ない.そこで今回筆者らは,高次視機能検査である立体視検査に時間分解能評価を加えた立体視〔別刷請求先〕結城岳志:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:TakashiYuuki,CO,Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN図13DVisualFunctionTrainer(ORTe)右図:実験風景,左図:立体視検査用視標.応答速度評価(立体視標をいかに早く認識できるか)を用い*0.00て,軽度乱視がCQOVに与える影響について検討した.C0.50応答速度(秒)I対象対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年30名(男性C5名,女性C25名),平均年齢C21.4C±1.8歳である.1.001.502.00視力は完全屈折矯正下においてC1.2以上かつ近見,遠見立体視がC60秒未満(近見立体視はCTitmusCstereoCtest,TNOstereoCtest,遠見立体視はC3DCVisualCFunctionCTrainer-ORTeにて)であることを確認した.対象C30名の自覚屈折値(等価球面値)はC.2.14±2.40Dであり,遠見眼位(平均)はC2.3C±2.5Δであった.なお,本検討では人工的に乱視を作成するため,自覚的屈折値でC.0.50D以上の乱視を有する者は除外した.CII方法立体視応答速度評価にはCJFC社のC3DCVisualCFunctionTrainer-ORTe(以下,ORTe)2)に独自開発したプログラムを用いて,検査距離C5Cm(遠見立体視)にて行った.立体視検査視標はC4個の円形視標(図1)のC1個に交差性視差(ディスプレイ面より手前に飛び出して見える)をランダムに提示し,両眼視差C800,400,200,100,60秒(secofarc)にて立体視応答速度を測定した.被検者には,4個の指標のうちの一つに飛び出しを知覚できたら,その視標の位置に相当するコントローラーの十字キーを素早く押下するように指示した.立体視標を提示してから被検者が立体視知覚して十字キーを押下するまでの時間を測定し,立体視応答速度として評価した.測定は提示される両眼視差につきC5回実施し,5回中C3回以上の正答でCPassとし,正答した回数の応答速度の平均値を用いて評価した.立体視応答速度は,完全屈折矯正下,両眼に円柱レンズ(凸の円柱レンズ)を+0.50,+0.75,+1.00,+1.25,+1.50,+2.00Dを人工的に負荷して測定し,各条件下にて立両眼視差(secofarc)図2完全屈折矯正下における立体視応答速度立体視応答速度は両眼視差の減少に伴い低下した.*:p<0.05.C体視応答速度変化を検討した.円柱レンズの軸は90°とC180°(直乱視,倒乱視)のC2条件とした.自覚的屈折値には雲霧法を用いて,最良視力が得られるもっともプラスよりの球面,乱視の屈折値を完全屈折矯正として採用した.統計解析として,両眼視差量と立体視応答速度の関係については一元配置分散分析(ANOVA,Turkytest),完全屈折矯正下と各乱視負荷量の立体視応答速度および直乱視と倒乱視の比較にはCMann-WhitneyUtestを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.なお,本研究は北里大学病院倫理委員会の承認(B16-85)を受けて実施された.CIII結果完全屈折矯正下において,全例,両眼視差C60秒の立体視応答速度が知覚された.図2に完全屈折矯正下における各両眼視差量(800.60秒)の立体視応答速度を示す.立体視応答速度は両眼視差量の減少に伴って有意に延長した.両眼視差C800秒の応答速度はC0.96C±0.24,400秒にてC1.11C±0.42,200秒にてC1.30C±0.60,100秒にてC1.21C±0.49,60秒にてC1.46±0.75秒であり,両眼視差C800秒での立体視応答速度表1完全屈折矯正下および直乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量(D)視差(secofarc)C800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.04±0.34C0.424C1.09±0.49C0.679C1.04±0.30C0.304C1.23±0.52C0.009C1.22±0.71C0.115C1.18±0.34C0.002C1.11±0.42C─C1.19±0.45C0.311C1.16±0.45C0.717C1.24±0.46C0.113C1.40±0.58C0.004C1.35±0.60C0.030C1.42±0.45C0.002C1.30±0.60C─C1.36±0.49C0.311C1.45±0.61C0.139C1.75±0.77C0.001C1.67±0.72C0.010C1.64±0.72C0.013C1.94±1.19C0.001C1.21±0.49C─C1.37±0.66C0.162C1.49±0.62C0.017C1.67±0.72<C0.001C1.87±0.88<C0.001C1.99±1.03<C0.001C2.27±1.22<C0.001C1.46±0.75C─1.60±0.62C0.1301.80±0.94C0.0302.03±1.23C0.0071.98±0.79<C0.0012.25±1.14<C0.0012.58±1.10<C0.001表2完全屈折矯正下および倒乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量視差(secofarc)C(D)800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.01±0.28C0.473C1.04±0.34C0.478C1.06±0.41C0.496C1.11±0.45C0.245C1.25±0.77C0.064C1.20±0.55C0.098C1.11±0.42C─C1.11±0.33C0.529C1.16±0.59C0.999C1.29±0.78C0.129C1.46±0.67C0.015C1.55±0.81C0.008C1.79±0.84<C0.001C1.30±0.60C─C1.44±0.59C0.234C1.41±0.46C0.065C1.73±0.81<C0.001C1.71±0.70C0.006C1.87±1.01C0.005C2.07±0.82<C0.001C1.21±0.49C─C1.41±0.55C0.048C1.55±0.66C0.003C1.86±0.87<C0.001C1.93±0.84<C0.001C2.36±1.20<C0.001C2.54±0.90<C0.001C1.46±0.75C─1.71±0.74C0.0331.97±1.24C0.0242.11±1.14<C0.0012.36±1.05<C0.0012.62±1.09<C0.0012.77±0.86<C0.001に対し,両眼視差C60秒の立体視応答速度は有意に延長した(ANOVA,Turkytest,p<0.05).表1に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの直乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒では+2.00D負荷,両眼視差C400秒では+1.25D負荷以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.75D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).表2に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの倒乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒においては直乱視量負荷に伴う立体視応答速度の有意な低下は認められなかった.両眼視差C400秒以下では直乱視負荷に伴う立体視応答速度が認められ,両眼視差C400秒では+1.25D以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.50D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).CIV考按乱視が視機能低下を及ぼすという報告はこれまでにも多数報告されている3.9).乱視量が0DからC2Dに増加すると視力値(logMAR)はC.0.2からC0.2に低下4)し,乱視量C3D(倒乱視)を負荷するとC1.5からC0.3にまで低下し,コントラスト感度への影響は高周波数領域で大きく低下する5,6)と報告されている.本検討では,乱視(直乱視,倒乱視)が立体視応答速度に及ぼす影響について時間分解能の尺度を用いて検討し,乱視負荷量の増加に伴う立体視応答速度の低下が認められた.直乱視における円柱レンズ+0.75D負荷の立体視応答速度は両眼視差100secCofCarcにて1.49C±0.62秒,両眼視差60secCofCarcにてC1.80C±0.94秒であり,倒乱視における円柱レンズ+0.50D負荷の立体視応答速度は両眼視差C100secofCarcにてC1.41C±0.55秒,両眼視差C60CsecCofCarcにてC1.71C±0.74秒であり,立体視応答速度が有意に延長した.日常生活において自覚しがたいC0.50DやC0.75Dの軽度乱視においても立体視応答速度の低下,すなわち両眼視機能の質の低下が認められた.スポーツや自動車運転など注視物が高速で移動し良好な両眼視機能が求められる場合には,0.50.0.75Dの軽度乱視においても乱視矯正することで両眼視機能の質が向上する可能性が示唆された.本検討において両眼視差C60秒において,直乱視では0.75D,倒乱視ではC0.50Dで有意差が認められた.立体視(左右に両眼視差提示)は倒乱視が影響を受けやすく,直乱視は影響を受けにくいとされている7,8).これは立体視標は左右に両眼視差を提示して作成されているため,水平方向に像のボケが生じる倒乱視は垂直方向にボケが生じる直乱視に比較して,立体視応答速度の低下が生じやすいためと考えられる.今回筆者らは,軽度乱視によるCQOVの低下を時間分解能の尺度を用いて評価した.日常臨床における視力,コントラスト感度などの自覚視機能検査は空間分解能の評価が中心である.一方,他覚的視機能検査は網膜電図(erectroretino-gram:ERG)や眼球電図(erectrooculogram:EOG),視覚誘発電位(visualCevokedCcorticalCpotential:VECP)といった電気生理学的検査では反応量とともに時間分解能評価が行われる.とくにCEOGのサッケードでは,潜時,持続時間,最大速度,振幅の評価を行い,速度の低下(slowCsaccade)や衝動運動の緩徐化(glissade),潜時の延長といった時間分解能尺度を加えることで,視診や画像では発見できない病態を評価している9).本検討において,0.50,0.75D程度の軽度乱視においても有意な立体視応答速度の延長が認められた.今後,立体視だけでなく,視力,コントラスト,視野などの自覚的検査において時間分解能評価の尺度を加えることで,従来評価できなかった視機能低下やCQOV評価につながる可能性が推察される.文献1)塩谷浩:乱視矯正の適応と限界ソフトコンタクトレンズ.日コレ誌46:170-175,C20052)半田知也:日本発の次世代両眼視機能検査・訓練装置C3DVisualFunctionTrainer-ORTe.眼臨紀8:332-337,C20153)KobashiH,KamiyaK,ShimizuKetal:E.ectofaxisori-entationonvisualperformanceinastigmaticeyes.JCata-ractRefractSurg38:1352-1359,C20124)TrindateCF,COliveiraCA,CFrassonCM:Bene.tCofCagainst-the-ruleCastigmatismCtoCuncorrectedCnearCtheCacuity.CJCataractSurgC23:82-85,C19975)BradleyA,ThomasT,KalaherMetal:E.ectsofspheri-calandastigmaticdefocusonacuityandcontrastsensitiv-ity:aCcomparisonCofCthreeCclinicalCcharts.COptomCVisCSciC68:418-426,C19916)Wol.sohnCJS,CBhoqalCG,CShahCS:E.ectsCofCuncorrectedCastigmaticonvision.JCataractRefractSurgC37:454-460,C20117)ChenCSI,CHoveCM,CMcCloskeyCCLCetCal:TheCE.ectCofCmonocularlyCandCbinocularlyCinducedCastigmaticCblurConCdepthCdiscriminationCisCorientationCdependent.COptomCVisCSciC19:101-113,C20118)SavageCH,CRothsteinCM,CDavuluriCGCetCal:MyopicCastig-matismCandCpresbyopiaCtrial.CAmCJCOpthalmolC135:628-632,C20039)浅川賢,石川均:眼球電図(EOG)の利用と読み方.臨眼67:178-182,C2013***