《原著》あたらしい眼科35(10):1411.1414,2018c単純ヘルペスウイルス性角膜輪部炎の再発についての検討神田慶介大矢史香森弓夏中田瓦渡辺仁関西ろうさい病院眼科CInvestigationoftheRecurrencePatternofHerpesSimplexLimbitisKeisukeKanda,FumikaOya,YukaMori,KoNakataandHitoshiWatanabeCDepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospitalC目的:角膜輪部炎として角膜ヘルペスを発症したものについて,その後の角膜ヘルペスの再発の有無,その臨床的特徴について明らかにする.方法:2013年C1月.2016年C9月に関西ろうさい病院を受診し,単純ヘルペス性角膜輪部炎の診断を受けたC9例についてC2017年C12月まで経過観察し,再発の有無,再発時の臨床的特徴,治療経過について検討した.結果:角膜ヘルペスの再発を認めたものはC9例中C5例であり,そのすべてで角膜輪部炎としての再発を認めた.再発期間はC3カ月.3年C11カ月であった.輪部炎の再発部位はC2例でほぼ同部位で,3例では異なる部位であった.いずれの症例も再発後の治療によりC2週間.1カ月で治癒した.CPurpose:Toevaluateclinicalcharacteristicsoftherecurrenceofcorneallimbitiscausedbyherpeticsimplexvirus.CMethods:UntilCDecemberC2017,CweCfollowedC9CpatientsCwhoChadCbeenCdiagnosedCwithCcornealClimbitisCatCKansaiRosaiHospitalfromJanuary2013toSeptember2016.Weexaminedtherecurrenceofherpessimplexkera-titisCinCtheseCpatients,CinvestigatingCcharacteristicsCofCrecurrenceCandCresponseCtoCtreatment.CResults:RecurrenceCwasCobservedCinC5cases;allCcasesChadCoccurredCwithCcornealClimbitis.CRecurrenceCwasCatCfromC3CmonthsCtoC3Cyears,11monthsafterthe.rstepisode.Recurrencewasatalmostthesamelocationin2cases,andatadi.erentlocationin3cases.Everyrecurrencewashealedwithusualtreatmentatfrom2weeksto1month.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1411.1414,C2018〕Keywords:角膜ヘルペス,輪部炎,再発.herpessimplexkeratitis,limbitis,recurrence.Cはじめに角膜ヘルペスは,30年ほど前には適切な治療薬に乏しく,しばしば角膜穿孔から緊急の角膜移植に至る難治性疾患であった.その後,アシクロビルの研究開発そして上市により,その治療効果が高いことから,角膜ヘルペスは比較的治療しやすい疾患となった.このため,最近では実質型角膜ヘルペス,とくに壊死性タイプをみることがまれになった.このような経緯のなかで,現在では角膜ヘルペスが角膜移植の対象となることも少なくなってきている1,2).角膜ヘルペスの臨床的な特徴や分類は詳細に把握され,その臨床的分類は現在でも十分に利用できるものである3)(表1).このなかで,角膜ヘルペスの内皮型の一つである角膜輪部炎は,角膜輪部結膜の充血および腫脹が特徴であり,それが進展すると近傍の周辺部角膜浮腫,さらには角膜後面沈着物の出現と眼圧上昇という臨床的特徴を示す.しかし,角膜表1角膜ヘルペスの分類(I)上皮型樹枝状角膜炎地図上角膜炎(II)実質型円板状角膜炎壊死性角膜炎(ICII)内皮型角膜内皮炎角膜輪部炎文献3)より引用ヘルペスの上皮型や実質型と比較して症例数が多くないことから,分類のなかでも括弧付きで紹介,分類されてきた.ただし,昨今,患者の高齢化に伴い角膜ヘルペス自体の症例数は増えてきており,角膜輪部炎も増加している4,5).しかし,角膜輪部炎については,過去それほど対象例が多くなかったこともあり,その実態についての報告もわずかであり,その〔別刷請求先〕神田慶介:〒660-8511兵庫県尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科Reprintrequests:KeisukeKanda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital,3-1-69Inabasou,Amagasaki,Hyogo660-8511,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1411表2経過を追うことができた角膜輪部炎症例の再発の有無とその特徴症例年齢性別輪部炎の初回位置再発の有無再発の時期再発パターン輪部炎の再発位置C167歳,女8-9時あり1年4カ月後角膜輪部炎11-4時C279歳,男6-8時あり6カ月後角膜輪部炎4-6時C366歳,男12-4時あり3カ月後角膜輪部炎3-5時C451歳,女1-2時なしC553歳,男3-5時なしC657歳,女2-5時なしC774歳,女10-2時なしC851歳,男1-3時あり3年11カ月後角膜輪部炎1-3時C964歳,女12-5時あり3年10カ月後角膜輪部炎11-2時情報が十分に把握されているとは言いがたい.さらに,角膜輪部炎として発症した角膜ヘルペスの再発や臨床的特徴について明確な報告がないのが実情である.そこで今回,関西ろうさい病院でヘルペス性角膜輪部炎(疑い)と診断された症例において,その再発の有無,再発までの期間,再発例での特徴について検討したので,ここに報告する.CI方法対象は関西ろうさい病院眼科(以下,当科)でC2013年C1月.2016年C9月に単純ヘルペスウイルスによる角膜輪部炎(疑い)の診断を受けたC9例C9眼で,内訳は男性C4例C4眼,女性C5例C5眼,年齢はC51.79歳である.これらC9例C9眼についてC2017年C12月まで経過観察し,細隙灯顕微鏡にて診察し,フルオレセインによる生体染色にて角結膜上皮障害を調査し,角膜輪部炎を含めた角膜ヘルペスの再発について検討した.検査項目としては,その角膜ヘルペスの再発の有無,再発時の角膜ヘルペスのパターン,角膜輪部炎については初回発症部位と再発部位の比較,再発の時期,その治療経過について検討した.CII結果経過を追うことができたC9例C9眼の結果を表2として記す.角膜輪部炎については,輪部結膜に沿った充血と腫脹があり,過去に角膜ヘルペスの既往があるということ,進行したものでは周辺部の角膜浮腫や眼圧の上昇といった既報の角膜輪部炎の特徴4,5)を示していることから臨床的に診断した.角膜ヘルペスの再発を認めたものはC5例C5眼であった(男性3例C3眼,女性C2例C2眼).角膜ヘルペスの再発を認めたC5例のうち,すべてが角膜輪部炎としての再発を示した.再発の時期はC3カ月.3年C11カ月とさまざまな間隔で再発しており,平均再発期間はC23.6カ月であった.角膜輪部炎の再発部位はC2例でほぼ同部位であり,3例では異なる部位であった.いずれの症例も再発後の治療によりC2週間.1カ月でC1412あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018治癒した.今回の経過観察の期間では初回の角膜輪部炎の再発後,2回目の角膜ヘルペスの再発を認めたものはなかった.CIII代表症例(症例2)症例はC79歳の男性.2016年C6月に左眼の充血を主訴に近医を受診した.そこで前房炎症を指摘され,虹彩炎の診断でステロイド点眼を処方された.しかし,下方結膜充血が改善せず,近医を初診してからC1カ月が経過した頃に精査加療目的で当科を紹介受診した.当科初診時の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.7),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C11CmmHgであった.6-8時方向に角膜輪部結膜の充血と腫脹,およびその位置に近接する周辺部角膜の浮腫があり,その先端では角膜後面沈着物を認めた(図1a).また,過去に上皮型ヘルペスの既往があったことから,臨床的特徴により本症例をヘルペス性角膜輪部炎と診断した.これに対しバラシクロビル内服C500Cmg2錠分C2,アシクロビル軟膏を左眼にC2回,レボフロキサシン点眼とベタメタゾン点眼を左眼にC4回で治療を開始した.治療に反応し,当科で治療を開始してからC2週間で充血は改善し,左眼の視力は(1.0)に改善した(図1b).病変は消失し,安定したものと考え近医での経過観察を指示した.しかし,それからC6カ月後,近医で経過観察中に前房炎症が再燃し,精査加療目的で当科を再診した.このとき左眼視力は(0.5),眼圧は左眼C11CmmHgであった.前回とは異なりC4-6時方向の角膜輪部結膜の充血と角膜後面沈着物を認めた(図2a).初回のエピソードに加えて上記の臨床的特徴からヘルペス性角膜輪部炎の再発と診断し,前回と同様の投薬により治療を行った.2週間で結膜充血や輪部結膜の腫脹は改善し,左眼視力は(1.2)に改善した(図2b).CIV考按今回の症例から,単純ヘルペスウイルスC1型でしばしばみられる角膜ヘルペスの再発が,角膜輪部炎でもみられること(100)図1症例2の初回角膜輪部炎の前眼部写真a:治療前,b:治療後.が明らかとなった.今回は最長の経過観察期間がC3年C11カ月と長期ではないものの,9例中C5例で再発していたことが判明した.角膜輪部炎でヘルペス性角膜炎が再発する例があることは,助村の報告にも記載されており4),再発については注意して経過をみていく必要性があることを示している.角膜輪部炎の診断については,サイトメガロウイルス感染を含む種々の角膜内皮炎との鑑別が必要な場合がある.その際には前房水のCPCRによる単純ヘルペスウイルスの検出は有効な診断ではあるが6),今回の症例ではいずれも過去に上皮型角膜ヘルペスの既往があり,輪部結膜の充血や腫脹といった角膜輪部炎の特徴をもつことから臨床的に角膜輪部炎(疑い)と診断した.さて,単純ヘルペスウイルスによる角膜輪部炎での再発の頻度については助村らの報告では言及されておらず,角膜輪部炎が発症した場合,その再発がすべて角膜輪部炎を生じていることが今回初めて明らかとなった.ただ,再発しても今回のC5例では抗ヘルペス薬眼軟膏および内服,ステロイド点眼で良好な治療経過をたどっていた.再発までの期間については,今回の症例でも再発期間に幅があり,一定の傾向は見いだせなかった.このことは逆に期間があいても輪部炎での再発が起こりうることを示唆しており,経過観察の重要性を示している.さらに,今回の研究で図2症例2の再発時の角膜輪部炎の前眼部写真a:治療前,b:治療後.は角膜輪部炎の再発部位が異なっている例,同じ部位で発症する例がそれぞれ一定の確率であり,経過観察するうえでの注意点であるといえる.表1からもわかるように,20年以上前からヘルペスによる角膜輪部炎が角膜ヘルペスのC1病態としてあげられているが3),上皮型,実質型に比較して,角膜輪部炎はその発症頻度も少なく,一般的な眼科医のなかでも認識が少ないと考えられ,診断や経過観察において注意していく必要がある.角膜輪部炎の発症としては以下のように推定される.通常の角膜ヘルペス同様,三叉神経節に潜伏する単純ヘルペスウイルスC1型がなんらかの刺激により活性化し,線維柱帯まで神経をたどり移動し,線維柱帯での炎症を引き起こす.これより輪部にあるリンパ組織に炎症が波及し,結膜輪部付近の充血,腫脹につながり,輪部炎が発症するというメカニズムである.輪部炎が拡大し角膜方向へ波及すると,輪部での結膜の腫脹,充血に加えて,その近傍の周辺部角膜が浮腫をきたし,前房の炎症が生じるとCkeratoprecipitatesがみられるようになり,それは眼圧上昇も引き起こす.線維柱帯にヘルペスウイルスがたどり着き,その感染が角膜内皮へとすぐに波及すれば角膜内皮炎を呈することになる.輪部炎から角膜の浮腫が生じた例での報告で,天野らは角膜内皮炎として扱っているが,その症例では眼圧上昇が継続したため,線維柱(101)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1413帯切除術が施行されている7).そのなかで線維柱帯の組織で単純ヘルペスウイルスC1型に感染した細胞が認められており,三叉神経節から来たウイルスが線維柱帯で増殖し角膜輪部炎につながったとみるのが妥当であろう.高齢者増加により,これまで以上に通常の上皮型角膜ヘルペス罹患者は増加している.そうした背景から今後,角膜輪部炎患者も増加すると推定できる.角膜輪部炎の臨床上の特徴を再度理解し,角膜ヘルペスの一病態であると認識し,速やかな治療を行うことが今後さらに必要であり,また,いったん発症した場合,再発することを患者にも説明し,充血が再度生じれば速やかな受診を行うよう指導するべきである.そうした点で今回の研究結果から得られた輪部炎の再発に関する情報は経過観察するうえで参考となる.ただ,本報告の観察期間はかならずしも長期なものではなく,今後長期的な観察でさらなる詳しい情報も必要である.文献1)赤木泰:当科における最近C3年間の全層角膜移植術成績.眼紀C37:83-87,C19862)松清貴幸:大阪大学における角膜移植適応の変遷.眼紀C48:1270-1273,C19973)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科C37:759-764,C19954)助村有美,高村悦子,篠崎和美ほか:単純ヘルペス性角膜輪部炎の臨床所見.あたらしい眼科C30:685-688,C20135)高村悦子:単純ヘルペス性輪部炎の診断と治療.日本の眼科C63:637-640,C19926)KoizumiA,NishidaK,KinoshitaSetal:Detectionofher-pesCsimplexCvirusCDNACinCatypicalCepithelialCkeratitisCusingCpolymeraseCchainCreaction.CBrCJCOphthalmolC83:C957-960,C19997)AmanoCS,COshikaCT,CKajiCYCetal:HerpesCsimplexCvirusCinthetrabeculumofaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmolC127:721-722,C1999***1414あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(102)