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緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

プロスタグランジン薬,βブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1063〜1065,2016©プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方中谷雄介*1杉山和久*2*1厚生連高岡病院眼科*2金沢大学眼科EffectivenessofTopicalRipasudilasAdjunctiveTherapywithCombinationofProstaglandin,b-Blocker,CarbonicAnhydraseInhibitorandBrimonidineinGlaucomaPatientsYusukeNakatani1)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:プロスタグランジン薬,bプロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用中の緑内障患者にリパスジル点眼液を追加した場合の眼圧変化と安全性を検討した.対象および方法:対象は4剤併用でコントロール不十分な27例29眼.リパスジル点眼液を追加した前後の眼圧および副作用の有無につき検討した.結果:リパスジル点眼液の追加によって追加前眼圧より1,2,3カ月とも有意に低下した(追加前14.7±3.5mmHg→1カ月後12.3±3.2mmHg→2カ月後12.1±3.6mmHg→3カ月後11.8±3.2mmHg,RepeatedANOVA,p<0.001).平均眼圧下降率は18.6%であった.眼圧下降率20%以上は14/29眼(48.2%)であった.頭痛,眼瞼炎にて早期に点眼を中止した2例2眼を認めたものの局所的,全身的に重篤な合併症を認めなかった.結論:4剤併用症例においてもリパスジル点眼液を追加することで,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Purpose:Weperformeda3-monthopen-labelstudyinpatientswithglaucomatoassesstheocularpressureloweringeffectof0.4%ripasudilophthalmicsolutionasanadjunctivetherapy.ObjectandMethod:Patientswereassignedtoreceivetopicalripasudil(n=29)forinadequatecontrolwithmaximaltopicaltherapy(prostaglandin,b-blocker,carbonicanhydraseinhibitorandbrimonidine).IOPmeasurementswererecordedatday0(baseline)andat1to3months.Results:RipasudilreducedmeanIOPby2.4-2.9mmHgat1to3months(p<0.001forall).Althoughtwopatientsdiscontinuedduetohyperaemiaandheadache,noseverecomplicationwasfound.Conclusion:RipasudilreducedIOPasmaximaladjunctivetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1063〜1065,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与.ripasudil,adjunctivetherapy.はじめに緑内障に対する点眼治療は通常プロスタグランジン関連薬(PG)を第1選択とし,さらに単剤での治療効果が不十分の際,2,3剤目あるいは4剤目としてb遮断薬(b-blocker),炭酸脱水酵素阻害薬(CAI),a2刺激薬(ブリモニジン)などを選ぶことが多い.わが国では2014年12月より,これらの主要4剤と薬理作用の異なる眼圧下降薬であるリパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック®)が使用可能となった.Rhoキナーゼ阻害薬(ROCK阻害薬)である本剤の作用機序は線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マトリクスの構造を変化させ,これを弛緩させることで線維柱帯-Schlemm管を介する主流出路からの房水流出を促進して眼圧を下降させる1〜3).本剤の位置付けは第2,第3あるいは第4の追加点眼における選択薬とされている.そこで,今回fullmedicationである4剤併用症例に対して,リパスジル点眼薬の追加による眼圧下降効果についてオープンラベルによるプロスペクティブスタディで検討した.I対象および方法対象は平成27年2月〜9月に厚生連高岡病院に通院中の緑内障患者で,PG,b-blocker,CAI,ブリモニジンの多剤併用治療を3カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している症例を対象とした.リパスジル点眼液を追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.点眼追加前,追加後1カ月後,2カ月,3カ月後に眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定した.眼圧は午前中の外来診療における時間帯に同一検者が測定した.配合剤は2剤としてカウントした.本研究は厚生連高岡病院倫理委員会の承認を事前に受けた.対象患者には本試験について十分に説明を行い,同意を得た.解析方法はMedcalc®.version11.1.1.0を用い,投与前と投与1,2,3カ月後の眼圧の比較にはRepeatedANOVA,Post-hoctestとしてBonferroni法を用いた.点眼前の眼圧値と眼圧下降率の相関関係はPearsonの相関係数によって検討した.追加前ベースライン眼圧を15mmHg以上,14mmHg以下に分けて追加3カ月目の眼圧下降値の比較をunpairedt-testで行った.角膜上皮スコアの比較にはAD(area-density)分類を用い4),Wilcoxonranksumtestを用いた.危険率5%以下を有意な差ありとした.II結果全症例の内訳は31例33眼(男性22眼,女性11眼)であった.年齢は74.4±8.9(平均値±標準偏差)歳であった.経過中4例4眼が脱落,理由は1例は充血で中断,1例は頭痛で中断,1例は経過観察中に手術施行,1例は点眼忘れであった.眼圧経過については上記脱落例を除く27例29眼を対象とした.対象の内訳は72.1±8.3歳,男性19眼,女性10眼であった.病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)17眼,正常眼圧緑内障9眼,落屑緑内障3眼であった(表1).なお,全例PG+b-blockerまたはPG+CAIの配合剤のいずれかを追加前に使用していた.眼圧値は追加前14.7±3.5mmHg(平均値±標準偏差),1カ月後12.3±3.2mmHg,2カ月後12.1±3.6mmHg,3カ月後11.8±3.2mmHgで,追加前に比較して追加後はすべて有意に低下していた(p<0.001)(図1).全体の眼圧下降率は18.6±16.7%であった.眼圧下降率が30%以上は8/29眼(27.6%),20%以上30%未満は6/29眼(20.7%),10%以上20%未満は1/29眼(3.4%),10%未満は14/29例(48.3%)であった(図2).眼圧下降率と追加前ベースライン眼圧に相関はなかった(p=0.08,r=0.32)が,追加前ベースライン眼圧を15mmHgと14mmHg以下に分けた場合15mmHg以上の眼圧下降値は4.1±3.1mmHg,14mmHg以下の眼圧下降値2.0±2.1mmHgと有意に15mmHg以上が大きかった(p=0.04).副作用として全症例31例33眼中,表層角膜炎の増加5眼(15%),充血15例(45%),眼瞼炎1例(3%),頭痛1例(3%)があった.リパスジル点眼追加前後の角膜上皮スコアは追加前0.26±0.59,追加後0.48±0.75とやや悪化していたが有意差は認めなかった(p=0.06)(図3).III考按今回の研究では,作用機序の異なる緑内障点眼をfullmedicationである4剤投与していた場合にリパスジル点眼をさらに追加することで,追加投与後3カ月間で2.4〜2.9mmHgのさらなる眼圧下降が得られることがわかった.リパスジル点眼の報告では第II相試験で平均ベースライン眼圧が23mmHgの症例を対象に0.4%リパスジル単剤でトラフとピークにおいて3.5〜4.5mmHg下がったとされる5).追加効果では第III相試験において,ラタノプロストに追加したものではトラフとピークで2.2〜3.2mmHg,チモロールに追加したものでは2.4〜2.9mmHg下がったとされている6).1年の経過をみたものでは,ピークとトラフにおいて単剤で2.6〜3.7mmHg,PGに追加で1.4〜2.4mmHg,b-blockerに追加で2.2〜3.0mmHg,PG+b-blockerの配合剤に追加で1.7mmHg下がったとされる7).今回の研究では2.4〜2.9mmHg下がっていたことから,すでに配合剤を含めたfullmedication治療(PG,b-blocker,CAI,ブリモニジン)が行われているにもかかわらず十分なコントロールが得られない患者にリパスジル点眼液が追加処方された場合,さらに眼圧降圧効果が期待できることが考えられた.副作用については,全身的なものは頭痛で中断した1例はあったが,重篤なものは認めなかった.眼局所の副作用は充血がもっとも多く,従来の報告5)と同様であったが,充血で中断したのは1例のみであった.角膜上皮障害について,すでに多剤併用療法が行われており,追加前から角膜炎がみられた症例もあったが,リパスジル点眼の追加で著明に悪化する例はなく,安全に使用できるものと思われた.今回の症例はすべての症例で併用点眼に配合剤を使用しており,リパスジル点眼を含め5種併用であるが実際は4剤点眼となっており,fullmedicationにおいて配合剤の利点があると思われた.問題点として,今回の報告では症例数が限られており,緑内障病型による追加効果の違いについては検討できなかった.さらにfullmedicationでリパスジル点眼を継続していった場合の長期効果は不明である.これは5剤目の追加として検討した場合,アドヒアランスの低下が問題となる場合があり8),今回の検討にも影響する可能性があると考えられるが,今回の患者からの聞き取りではアドヒアランスは良好と考えられた.以上,リパスジル点眼はfullmedicationの多剤併用においても眼圧下降効果があり,追加点眼薬として検討する価値があると考えられた.さらに重篤な副作用も認めず安全に使用できると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofrhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)KogaT,KogaT,AwaiMetal:Rho-associatedproteinkinaseinhibitor,Y-27632,inducesalterationsinadhesion,contractionandmotilityinculturedhumantrabecularmeshworkcells.ExpEyeRes82:362-370,20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelglaucomatherapy.ProgRetinEyeRes37:1-12,20134)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層性角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20157)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,20168)DjafariF,LeskMR,HarasylnowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,2009表1対象症例の内訳症例数年齢(歳)女性男性緑内障タイプ29眼72.1±8.310眼19眼POAG(狭義):17眼NTG:9眼PE:3眼平均値±標準偏差.POAG:primaryopenangleglaucoma.NTG:normaltensionglaucoma.PE:pseudoexfoliation図1リパスジル点眼を追加した場合の眼圧経過追加前に比較し,追加後1,2,3カ月後で有意に眼圧が低下していた(1カ月目p<0.0001,2カ月目p=0.0001,3カ月目p<0.0001).図2リパスジル点眼の追加による眼圧下降率の分布全体の眼圧下降率は18.6±16.7%であった.眼圧下降率20%以上は14/29眼(48.3%)であった.図3リパスジル点眼追加後3カ月目の角膜上皮スコア(平均値±標準偏差)角膜上皮スコアの有意な悪化を認めなかった(p=0.06)〔別刷請求先〕中谷雄介:〒933-8555富山県高岡市永楽町5-10厚生連高岡病院眼科Reprintrequests:YusukeNakatani,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,5-10Eirakucho,Takaoka,Toyama933-8555,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(137)10631064あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(138)(139)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161065

ブリモニジン点眼薬とブナゾシン点眼薬の多剤併用治療における追加効果の比較

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):735〜740,2016©ブリモニジン点眼薬とブナゾシン点眼薬の多剤併用治療における追加効果の比較中谷雄介*1杉山和久*2*1厚生連高岡病院眼科*2金沢大学眼科ComparisonofTopicalBrimonidineversusBunazosinHydrochlorideasAdjunctiveTherapyinPatientswithGlaucomaYusukeNakatani1)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:多剤治療中の緑内障眼に対しブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を投与し,眼圧下降効果についてプロスペクティブに検討した.対象および方法:プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,および炭酸脱水酵素阻害薬を単剤または多剤点眼中の60例84眼を対象に,ブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を無作為に追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.結果:ブリモニジン追加群(40眼),ブナゾシン追加群(44眼)とも追加前眼圧より有意に低下した(ブリモニジン:追加前14.7±3.5mmHg,3カ月後12.1±2.6mmHg,ブナゾシン:追加前14.8±4.3mmHg,3カ月後13.4±3.8mmHg).3剤併用例では,ブナゾシン群(16眼)では有意な低下はみられなかったが,ブリモニジン群(21眼)では1,3カ月で有意に低下していた.両群の比較では追加1カ月目にブリモニジンがブナゾシンより眼圧下降率が大きかった.結論:ブリモニジン点眼はブナゾシン点眼より追加効果で優れている可能性がある.Purpose:Weperformeda3-month,randomized,open-labelstudyinpatientswithglaucomatocomparetheintraocularpressure(IOP)-loweringeffectsof0.1%brimonidineversus0.01%bunazosinhydrochlorideophthalmicsolutionasanadjunctivetherapy.ObjectandMethod:Patientswererandomlyassignedtoreceivetopicalbrimonidin(n=40)ortopicalbunazosin(n=44)asadjunctivetherapy.IOPmeasurementsinthe2groupswererecordedonday0(baseline)andat1to3months.Results:BrimonidinereducedthemeanIOPby1.3-2.6mmHgat1to3months(p<0.0001forall).BunazosinreducedthemeanIOPby0.6-2.3mmHgat2and3months(p<0.01).Asfourthadjunctivetherapy,whilebrimonidinereducedIOPat1and3monthsby2.1-2.5mmHg(p<0.01),bunazosinshowednosignificantreduction.Incomparisonofthe2groups,brimonidineshowedagreaterIOPreductionratethanbunazosin,evenasfourthadjunctivetherapy.Conclusion:BrimonidinereducedIOPmorestronglythandidbunazosinasadjunctivetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):735〜740,2016〕Keywords:ブリモニジン点眼液,ブナゾシン点眼液,追加投与.brimonidine,bunazosin,adjunctivetherapy.はじめに緑内障に対しては通常プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬を第1選択としさらに単剤での治療効果が不十分の際,2剤目あるいは3剤目としてb遮断薬(bblocker)あるいは炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)を選ぶことが多い.わが国ではこれら以外に作用機序の異なる点眼としてa2刺激薬ブリモニジン(アイファガン®)やa1遮断薬塩酸ブナゾシン(デタントール®)がある.ブリモニジンは,a2受容体を選択的に刺激することから,a1受容体刺激時に発現する散瞳や口腔内乾燥感などの副作用の頻度は低い.眼圧下降機序は,房水産生抑制に加え,ぶどう膜強膜経由の房水排出促進が関与している1).ブナゾシンはアドレナリン受容体a1,a2受容体のうちa1に対する遮断薬であり,a1作用による毛様体筋収縮を阻害することによりぶどう膜強膜流出を増加させ眼圧を下降させる2).これらの位置付けは第2,第3あるいは第4の追加点眼における選択薬とされている.そこで,今回多剤使用症例に対して,ブリモニジンまたはブナゾシン点眼薬の追加による眼圧下降効果について,オープンラベルによるプロスペクティブスタディで比較検討した.I対象および方法対象は平成25年7月〜平成26年7月に厚生連高岡病院に通院中の緑内障患者で,PG,b-blocker,CAIのいずれか,または多剤併用治療を3カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している69例93眼を対象とした.ブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を無作為に追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.また,追加前に3剤併用されていた症例(4剤目としてブリモニジン点眼液またはブナゾシン点眼液を追加)をサブ解析した.両眼点眼追加した例はすべて左右同じ点眼を追加した.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.点眼追加前,追加後1カ月後,2カ月,3カ月後に眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定した.眼圧は午前中の外来診療における時間帯に同一検者が測定した.配合剤は2剤として分類した.点眼追加後1,2,3カ月後の眼圧下降率(%)はそれぞれ(追加前眼圧-追加1,2,3カ月後の眼圧)/追加前眼圧×100とした.本研究は厚生連高岡病院倫理委員会の承認を事前に受けた.解析方法はMedcalc®,version11.1.1.0を用いて投与前と投与1,2,3カ月後の眼圧の比較にはRepeatedANOVA,Post-hoctestとしてBonferroni法を用いた.ブリモニジン点眼群,ブナゾシン点眼群間の眼圧の比較には眼圧下降率を用いunpairedt-testで比較した.点眼前の眼圧値と追加3カ月目における眼圧下降率の相関関係をPearsonの相関係数によって検討した.追加前点眼数と追加3カ月目眼圧下降量をプロット表示した.危険率5%以下を有意な差ありとした.II結果全症例の内訳は,男性34例,女性33例,93眼であった.年齢は74.4±8.9(平均値±標準偏差)歳であった.病型は,原発開放隅角緑内障(広義)78眼,落屑緑内障10眼,続発緑内障5眼である.67例93眼中,6例9眼が脱落,理由は1例が痒みで中断(ブナナゾシン),3眼は経過観察中に緑内障手術施行で中断,5眼は点眼忘れで中断した.最終的に61例84眼を対象とした.対象の内訳はブリモニジン点眼群40眼(75.6±7.9歳,男性21眼,女性19眼,追加前点眼:1剤;9眼,2剤;15眼,3剤;16眼),ブナゾシン点眼群44眼(75.2±9.1歳,男性23眼,女性21眼,追加前点眼:1剤;17眼,2剤;6眼3剤;21眼)であった(表1).年齢,性別に有意な差はなかった.全症例を対象にした比較において眼圧値はブリモニジン群では追加前14.7±3.5mmHg(平均値±標準偏差),1カ月後12.2±2.8mmHg,2カ月後12.5±2.9mmHg,3カ月後12.1±2.6mmHgで,追加前に比較して追加後はすべて有意に低下していた(p<0.0001)(図1).ブナゾシン群では追加前14.8±4.3mmHg,1カ月後14.2±4.1mmHg,2カ月後13.4±3.4mmHg,3カ月後13.4±3.8mmHgで,追加前に比較して2,3カ月で有意に低下していた(p=0.24,0.0026,0.0013)(図2).4剤目として点眼追加した場合,ブリモニジン群では追加前14.8±4.1mmHg,1カ月後12.7±3.4mmHg,2カ月後12.7±2.9mmHg,3カ月後12.3±2.9mmHgで,追加前に比較して1,3カ月で有意に低下していた(p=0.0036,0.15,0.01)(図3).ブナゾシン群では追加前15.5±5.2mmHg,1カ月後15.5±4.8mmHg,2カ月後14.3±3.5mmHg,3カ月後14.9±4.2mmHgで追加後に有意な低下はみられなかった(p=1.0,0.16,1.0)(図4).眼圧下降率によるブリモニジン追加群とブナゾシン追加群の比較では全症例では追加1カ月目にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった(p=0.0003)(図5).4剤目として点眼追加した場合でも,追加1カ月目にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった(p=0.01)(図6).追加前眼圧値と追加3カ月目における眼圧下降率の相関では,ブリモニジン,ブナゾシン群とも追加前眼圧値と眼圧下降率の間にはほぼ同等の相関関係が認められ(ブリモニジン:r=0.4823,p=0.0016,ブナゾシン群:r=0.412,p=0.0054),追加前眼圧が高いほど眼圧下降率も大きい傾向にあった(図7).追加前点眼数と追加後眼圧下降量についてのプロット図からブリモニジン点眼で5例,ブナゾシン点眼で9例,とくに4剤併用において5例に追加後眼圧下降量が0mmHg未満の症例がみられた(図8).副作用の内訳は,ブリモニジン点眼45例中霧視1例,点状表層角膜炎の悪化2例,ブナゾシン点眼48例中点状表層角膜炎の悪化1例,眼掻痒感1例であった.III考按ブリモニジン点眼は追加効果においてブナゾシン点眼より有意な眼圧下降率を示し,4剤目の追加としても有用であった.ブリモニジン点眼は追加効果として3カ月目まで平均1.3〜2.6mmHgまで下降し,4剤目の追加処方としても1,3カ月目で2.1〜2.5mmHgの有意な低下を維持した.一方ブナゾシン点眼も2,3カ月目まで0.6〜2.3mmHgまで有意に下降したが,4剤目としては有意な下降はみられなかった.わが国においてこれらの追加効果について直接比較した検討はない.ブリモニジンについての報告は単剤ではチモロールと比較したものとしてピークで6.7mmHg,トラフで4.3mmHg低下し,ピークではチモロールより下がっていたとされる3).追加効果としては平均17.9%(4.26mmHg)の眼圧下降効果があり,追加前にラタノプロストを含む場合,15.5%から20.1%(3.63〜6.62mmHg)の眼圧低下効果があるとされ4,5),各種PGに対しては平均3mmHg前後の追加効果が得られたとされる6).海外での4剤目としての報告では4.6mmHg(20%)7)や6.62mmHg(20.1%)下がった8)などの報告がある.経時的変化をみたものでは,1週目,1カ月,3カ月の順に15.2,12.6,12.7,12.8mmHgと有意に眼圧は下降し,今回の結果と同程度の下降値であった9).また,治療前ベースライン眼圧が15mmHg以下の症例は,16mmHg以上の症例より眼圧下降効果は少なかったとあり追加前眼圧が高いと下降率が大きいという同様の結果であった.わが国で4剤目としてブリモニジンを追加した場合の報告に19.5mmHgから16.3mmHgへと下降したとあり10),眼圧下降値が本報告より大きいが,追加前眼圧が異なり単純に比較はできない.一方,ブナゾシンの報告では,単剤では2%ドルゾラミドと同等だが0.5%チモロールよりは劣るとされている11).追加効果ではラタノプロストに併用した場合1.6〜2.8mmHg降下したとする報告12,13)や,チモロールに追加した場合2.8mmHg13)降下したとする報告などがある.わが国では1.3〜2.7mmHgの追加効果を認め,投与開始時眼圧値が高いほど眼圧変化値は大きかった14,15)などや眼薬数に反比例して眼圧下降率が減少する16)などがある.これらは本報告と傾向が一致する.4剤目としてブナゾシン点眼薬を追加した報告では,3.5mmHg15)下降したとするものがあり,本報告と比べ下降しているが,本報告では追加前点眼数と追加後眼圧下降量の関係からブナゾシン点眼は4剤目で下降率0%未満の症例が多くみられ,フル点眼においてブナゾシン点眼は追加による反応が少ないことが一因かと思われた.副作用ではブリモニジン点眼,ブナゾシン点眼ともアレルギー性結膜炎,充血,点状表層角膜炎などの報告がみられるが,今回はブナゾシン点眼1例のみ掻痒感で中断したが,全体的に軽度であり,どちらも安全に使用できると思われた3,16,17).今回の報告では症例数が限られており,併用点眼薬の種類による眼圧下降効果の違いについては検討できなかった.また,緑内障病型による追加効果についても検討できなかった.また4剤目の追加として検討した場合,アドヒアランスの低下が問題となる場合があり18),今回の検討にも影響している可能性があると思われたが詳細な検討は行わなかった.以上,ブリモニジン点眼,ブナゾシン点眼は多剤併用において眼圧下降効果があり,追加点眼薬として検討する価値があると考えられた.さらにブリモニジン点眼は4剤目としての追加効果もあり,デタントールより優れている可能性があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmoll28:8-14,19992)NishimuraK,KuwayamaY,MatsugiTetal:Selectivesuppressionbybunazosinofalpha-adrenergicagonistevokedelevationofintraocularpressureinsympathectomizedrabbiteyes.lnvestOphthalmolVisSci34::1761-1766,19933)KatzLJ:Brimonidinetartrate0.2%twicedailyvstimolol0.5%twicedaily:1-yearresultsinglaucomapatients.BrimonidineStudyGroup.AmJOphthalmol127:20-26,19994)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20015)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20126)LeeDA,GornbeinJ,AbramsC:Theeffectivenessandsafetyofbrimonidineasmono,combination,orreplacementtherapyforpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension:aposthocanalysisofanopenlabelcommunitytrial.GlaucomaTrialStudyGroup.JOcularPharmacolTher6:3-18,20007)ThoeSchwartzenbergGW,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,19998)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20019)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,201410)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,201411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)TsukamotoH,JianK,TakamatsuMetal:Additiveeffectofbunazosinonintraocularpressurewhentopicallyaddedtotreatmentwithlatanoprostinpatientswithglaucoma.JpnJOphthalmol47:526-528,200313)KobayashiH,KobayashiK,OkinamiS:Efficacyofbunazosinhydrochloride0.01%asadjunctivetherapyoflatanoprostortimolol.JGlaucoma13:73-80,200414)樋口直子,宮本悦代,神田佳子ほか:ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントール®0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討.あたらしい眼科26:405-412,200915)花輪宏美,佐藤由紀,末野利治ほか:抗緑内障点眼薬多剤併用患者に対する塩酸ブナゾシン点眼薬の短期効果.あたらしい眼科22:525-528,200516)館野泰,柏木賢治:塩酸ブナゾシン点眼薬の併用眼圧下降効果.あたらしい眼科25:99-101,200817)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:塩酸ブナゾシン点眼の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:389-392,200518)DjafariF,LeskMR,HarasylnowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,2009表1対象症例の内容症例数年齢(歳)女性男性追加前点眼1剤追加前点眼2剤追加前点眼3剤ブリモニジン点眼40眼75.6±7.919眼21眼PG:6眼PG+b-blocker:6眼PG+b-blocker+CAI:16眼b-blocker:2眼PG+CAI:7眼CAI:1眼CAI+b-blocker:2眼ブナゾシン点眼44眼75.2±9.121眼23眼PG:12眼PG+b-blocker:1眼PG+b-blocker+CAI:21眼b-blocker:1眼PG+CAI:4眼CAI:4眼CAI+b-blocker:1眼平均値±標準偏差.PG:prostaglandin,CAI:carbonicanhydraseinhibitor.図1全症例を対象にブリモニジンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後1,2,3カ月後で有意に低下していた.図2全症例を対象にブナゾシンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後2,3カ月後で有意に低下していた.図34剤目としてブリモニジンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後1,3カ月後で有意に低下していた.図44剤目としてブナゾシンを追加した場合の眼圧追加前に比較し追加後有意な眼圧低下はみられなかった.図5全症例を対象に追加した場合の眼圧下降率比較追加1カ月目に有意にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった.図64剤目として追加した場合の眼圧下降率比較追加1カ月目に有意にブリモニジン群がブナゾシン群より下降率が大きかった.図7追加前眼圧値と眼圧下降率の相関ブリモニジン,ブナゾシン群とも追加前眼圧値と眼圧下降率の間にはほぼ同等の相関関係が認められ,追加前眼圧が高いほど眼圧下降率も大きい傾向にあった.図8追加前点眼数と眼圧下降量についてのプロット図ブナゾシン群で追加後眼圧量が0mmHg未満の症例が多くみられた.〔別刷請求先〕中谷雄介:〒933-8555富山県高岡市永楽町5-10厚生連高岡病院眼科Reprintrequests:YusukeNakatani,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,5-10Eirakucho,Takaoka,Toyama933-8555,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(111)735736あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016737738あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(114)(115)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016739740あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(116)

プロスタグランジン薬,βブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1059.1062,2014cプロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方松浦一貴*1寺坂祐樹*1佐々木慎一*2*1野島病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学教室BrimonidineasAdjunctiveTherapyinUncontrolledPatientsUsingCombinationofProstaglandin,b-BlockerandCarbonicAnhydraseInhibitorKazukiMatsuura1),YukiTerasaka1)andShinichiSasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity目的:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤の3剤併用中にブリモニジン点眼液を追加した場合の眼圧変化と安全性を検討した.対象および方法:対象は3剤併用でコントロール不十分な21例35眼.ブリモニジン点眼液を追加した前後の眼圧および副作用の有無につき検討した.結果:ブリモニジン点眼液の追加によって眼圧値は19.5±3.5mmHgから16.3±2.3mmHgへと減少した(pairedt-test,p<0.001).灼熱感にて早期に点眼を中止した1例を認めたものの局所的,全身的に重篤な合併症を認めなかった.結論:3剤併用症例においてもブリモニジン点眼液を追加することで,相加的な降圧効果が期待できる.ブリモニジン追加処方による重篤な合併症の危険性は大きくないと思われる.Purpose:Toassesstheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyinuncontrolledpatientsevenafterusingacombinationofprostaglandin,b-blockerandcarbonicanhydraseinhibitor(fullmedication).ObjectandMethod:Theexaminationinvolved35eyesof21casesinwhomIOPwasnotsufficientlycontrolledbyfullmedication;theaimwastoassessIOPreductionandadverseeffectoccurrencebeforeandafterbrimonidineaddition.Results:IOPsignificantlydecreasedfrom19.5±3.5mmHgto16.3±2.3mmHg(pairedt-testp<0.001).Althoughparticipationwasterminatedinonecasebecauseofhotflashes,noseriouscomplicationswereobservedintheremainingparticipants.Conclusion:BrimonidinewasabletolowerIOPadditively,eveninthecaseoffullmedication.Ittheseemsthattheadditionalprescriptionofbrimonidinewouldneverleadtoserioussideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1059.1062,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼液,追加投与.brimonidine,adjunctivetherapy.はじめに現在,日本での緑内障点眼薬処方のシェアをみても明らかなように,プロスタグランジン薬(PG薬),あるいはbブロッカーが第1,第2選択となり,適宜炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)が追加されるのが点眼コントロール不十分な症例に対する一般的な処方の順番である.そしてPG薬,bブロッカー,CAIの3剤を2ボトルで使用するのが最も一般的なfullmedicationであると思われるが,2012年5月よりこれらの主要3剤と薬理作用の異なる降眼圧薬であるブリモニジン点眼液が使用可能となった.そこで今回,従来の一般的なfullmedicationであるPG薬,bブロッカー,CAIの3剤併用でコントロール不良な症例に対してブリモニジン点眼液が追加処方された場合の眼圧下降効果と,おもに角膜上皮に対する副作用の検討を行った.〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863倉吉市瀬崎町2714-1野島病院眼科Reprintrequests:KazukiMatsuura,DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2714-1Sezakimachi,Kurayoshi682-0863,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(133)1059 I対象および方法平成25年1月.6月の間に野島病院(以下,当院)を受診した広義の開放隅角緑内障患者のうち,PG薬,bブロッカー,CAIの3剤併用でコントロール不十分と考えられたためブリモニジン点眼液が追加処方された23症例39眼を対象とした.眼圧は通常の外来診療における任意の時間帯(9:00.15:00)にGoldmann式眼圧計を用いて測定した.個々の症例での眼圧測定はほぼ一定の時間帯に行われていた.定期的な2週間から2カ月ごとの経過観察中の患者において,ブリモニジン点眼液追加直前3.5回の平均眼圧値に対して追加後3.5回の平均眼圧値を診療録をもとにレトロスぺクティブに調査し比較した.また角膜上皮障害,充血など自覚的,他覚的な合併症についても検討した.当院では緑内障点眼治療中の角膜合併症を評価するために日常的にarea-density(AD)分類1)を記載している.そこで角膜上皮障害の検討は添田らの報告2)に習い,A(area)をA0.3,D(density)をD0.3の4段階にそれぞれ分類し,A(0.3)+D(0.3)でスコア化した.眼圧値の有意差検定はpairedt-test,角膜上皮スコアの有意差検定にはWiscoxonsignedrank検定を用いた.本研究に際し,野島病院倫理審査委員会の承認を受けて実施した.II結果1例2眼において灼熱感のため点眼中止となったが,症状は点眼直後の一時的なものであった.また1例2眼において点眼によるコントロール不可能と判断し,線維柱帯切開術が施行された.これら2例を除いた21例35眼(平均年齢67.9±12.2歳:男性14人,女性7人)において眼圧値および副作用の検討を行った.緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障(広義)29眼,落屑緑内障3眼,ぶどう膜炎続発緑内障3眼であった.ブリモニジン点眼液の追加前の眼圧は15*p<0.001*25mmHg未満が2眼,15.18mmHgが9眼,18.21mmHgが11眼,21mmHg以上が13眼であった.ブリモニジン点眼液の追加によって眼圧値は19.5±3.5mmHgから16.3±2.3mmHgへと減少した(図1).今回対象となった全症例において2ボトル3剤の処方が行われていたが,PG薬および1%ドルゾラミド+0.5%チモロール配合点眼液群(11例17眼:PG薬の内訳は,タフルプロスト6眼,トラボプロスト3眼,ラタノプロスト2眼)は18.7±4.2mmHgから15.8±2.3mmHgへ低下,トラボプロスト+0.5%チモロール配合点眼液およびブリンゾラミド(10例18眼)は20.2±2.4mmHgから16.8±2.2mmHgへ低下し,3mmHg以上低下したのは全35眼中16眼であった.有効例のなかには10mmHg(変更前眼圧の約40%)近く降圧する場合もあった.3mmHg以上眼圧が上昇した症例はなかった.ブリモニジン点眼液の追加後に明らかな角膜上皮障害(図2),充血の増悪や掻痒感を訴える症例はなかった.III考察ブリモニジン点眼液は選択的a2受容体作動薬であり,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出経路を介した房水流出促進作用を持つ3).ブリモニジン点眼液単独での降圧効果はPG薬とは同等あるいは若干劣るとされるが4,5),bブロッカーとほぼ同等な良好な降圧効果を示すことが報告されている6).房水産生抑制とぶどう膜強膜流出経路を介した房水流出は従来の点眼薬と共通の作用機序であるが,これらの薬剤に対して付加的に眼圧を低下させることが確認されており,すでにPG薬,bブロッカーやCAIなどが処方されている症例においても相加的な効果が期待できる7.14).本検討におけるコントロール不十分の定義は,単純な眼圧値や眼圧降下率によるものでなく,視野の進行度や残存する視機能から判断してさらなる眼圧下降が望ましいと主治医が判断した症例である.今回は,症例が少ないため両眼を検討*p=0.59350追加前追加後0*追加前追加後図1点眼追加後の眼圧値(平均値±標準偏差)図2点眼追加後の角膜上皮スコア(平均値±標準偏差)点眼追加により有意に眼圧は低下した角膜上皮所見の明らかな変化を認めなかった.1060あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(134)眼圧(mmHg)2021510AD分類スコア1 した.わが国ではPG薬に追加投与したときの降圧幅は1mmHg強程度であるとの報告もあるが15),海外ではPG薬に追加投与した場合,2.7.5.9mmHg程度の降圧効果が得られたとされている7,8).またbブロッカーに追加処方された場合,3.6.4.9mmHgの降圧効果が得られたとされている7,9,10).ブリモニジン点眼液は現時点ではCAIのように第2,第3番目の処方として選択されることが多いが,CAIと併用された場合にも相加的な作用がある11,12).複数の点眼使用中の患者にブリモニジン点眼液が追加された報告は少ないが,Schwartzenbergら14)は1.4剤(平均2.81剤)使用中の患者に追加処方された場合,4.68mmHgの眼圧下降を得たとしている.またLeeら13)は1.3剤使用中の554例に追加して平均4.01mmHgの眼圧下降を得たとしている.そのなかでPG薬,bブロッカー,CAIの3剤を使用していた11例の平均眼圧下降値は5.18mmHgであった.今回の結果からすでに3剤の点眼(PG薬,bブロッカー,CAI)が処方されているにもかかわらず十分なコントロールが得られていない患者にブリモニジン点眼液が追加処方された場合にさらなる降圧効果が期待できることが確認された.ブリモニジン点眼液は全身的,眼局所的にも重篤な副作用の頻度は高くない特徴を持つ6,7).今回は全身的な副作用については検討していないが,本剤はa2受容体の選択性が高いためバイタルサインに臨床上問題となるような変動を認めにくく,呼吸器や循環器系のリスクのためb遮断薬の使用が躊躇される症例への適応があるとされている5,6,16,17).ただし,めまいや傾眠の報告や血圧低下の傾向が認められるため,予備能力の低い高齢者,低体重や生理機能の低下した患者には注意を促す記載もある18).局所的な副作用としてはアレルギー結膜炎,アレルギー眼瞼炎の頻度が高いことがいわれている.比較的長期投与によって発症するとされるが,アレルギーを発症しても半数以上は1年間の継続投与が可能であったとの報告がある19).今回は,アレルギー関連の副作用は認めなかった.ブリモニジン点眼液は防腐剤として塩化ベンザルコニウムを含んでおらず,PuriteR(亜塩素酸ナトリウム)を使用している.亜塩素酸ナトリウムは動物実験において高濃度塩化ベンザルコニウムよりも角膜障害性が低いことが報告されている19,20).今回も追加投与後に特に角膜上皮所見の明らかな悪化を認める症例はなかった.またブリモニジン点眼液は眼圧下降によらない神経保護作用を持つとの報告もあり21),20mmHg未満の症例に対する効果も興味深い.今回のような症例にブリモニジン点眼液を追加すると3ボトル4剤での点眼となるため患者の点眼の負担は増加するものの,多くの症例で重篤な副作用はなく相加的な降圧効果が認められた.ブリモニジン点眼液は緑内障手術に理解を得られない症例などのコントロール不十分例に対して新たな選択肢となる可能性があることがわかった.(135)文献1)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19942)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え.あたらしい眼科30:861-864,20133)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19994)LiuCJ,KoYC,ChengCYetal:Changesinintraocularpressureandocularperfusionpressureafterlatanoprost0.05%orbrimonidinetartrate0.2%innormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology109:2241-2247,20025)HodgeWG,LachaineJ,SteffensenIetal:TheefficacyandharmofprostaglandinanalogueforIOPreductioninglaucomapatientscomparedtodorzolamideandbrimonidine:asystemicreview.BrJOphthalmol92:7-12,20086)SchumanJS:Clinicalexperiencewithbrimonidine0.2%andtimolol0.5%inglaucomaandocularhypertension.SurvOphthalmol41(Suppl1):S27-37,19967)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20018)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrimonidine1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20089)SimmonsST;Alphagan/TrusoptStudyGroup:Efficacyofbrimonidine0.2%anddorzolamide2%asadjunctivetherapytobeta-blockersinadultpatientswithglaucomaorocularhypertension.ClinTher23:604-619,200110)ReisR,QueirosCF,SantosLC:Arandomized,investigator-masked,4-weekstudycomparingtimololmaleate0.5%,brimonidine1%,andbrimonidinetartrate0.2%asadjunctivetherapiestotravoprost0.004%inadultswithprimaryopen-angleglaucomaocularhypertension.ClinTher28:552-559,200611)WhitsonJT,RealiniT,NguyenQHetal:Six-monthresultsfromaPhaseIIIandomizedtrialoffixed-combinationbrimonidine+1%brimonidine0.2%versusbrinzolamideorbrimonidinemonotherapyinglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol7:1053-1060,201312)Baiza-DuranLM,Llmas-MorenJF,Ayala-BarajasC:Comparisonoftimolol0.5%+brimonidine0.2%+dorzolamide2%versustimolol0.5%+brimonidine0.2%inaMexicanpopulationwithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol6:1051-1055,201213)LeeDA,GornbeinJ,AbramsC:Theeffectivenessandsafetyofbrimonidineasmono-,combination,orreplacementtherapyforpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:aposthocanalysisofanopen-labelcommunitytrial.GlaucomaTrialStudyGroup.JOcularPharmacolTher16:3-18,2000あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141061 14)ThoeSchwartzenbergGW,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,199915)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201216)CantorLB:Theevolvingpharmacotherapeuticprofileofbrimonidine,analpha2-adrenergicagonist,afterfouryearsofcontinuoususe.ExpertOpinPharmacother1:815-834,200017)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201218)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の降圧効果と安全性.臨眼67:597-601,201319)KatzLJ:Twelve-monthevaluationofbrimonidine-puriteversusbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma11:119-126,200220)NoeckerRJ,HerrygersLA,AnwaruddinR:Cornealandconjunctivalchangescausedbycommonlyusedglaucomamedications.Cornea23:490-496,200421)WheelerL,WoldeMussieE,LaiR:Roleofalpha-2agonistsinneuroprotection.SurvOpthalmol48(Suppl1):S47-S51,2003***1062あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(136)

ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果

2014年6月30日 月曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(6):899.902,2014cブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果山本智恵子*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EffectofBrimonidineAdditiontoProstaglandinAnalogsChiekoYamamoto1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬のプロスタグランジン(PG)関連点眼薬への追加投与による眼圧下降効果と安全性を検討する.対象および方法:PG関連点眼薬を単剤使用中で眼圧下降効果が不十分なためにブリモニジン点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障24例24眼を対象とした.ブリモニジン点眼薬を追加投与し,投与3カ月後までの眼圧,血圧,脈拍数を投与前と比較した.副作用を調査した.結果:眼圧は投与前(18.0±2.7mmHg)に比べて投与1カ月後(15.4±2.9mmHg),3カ月後(16.0±3.3mmHg)に有意に下降した.血圧と脈拍数は投与前後で変化はなかった.副作用は5例(20.8%)で出現し,そのうち2例(血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感)が投与中止となった.結論:ブリモニジン点眼薬をPG関連点眼薬に追加投与した際に眼圧は3カ月間にわたり下降し,安全性もほぼ良好であった.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofaddingbrimonidineeyedropstoprostaglandinanalogs.Subjectsandmethods:In24cases(24eyes)ofopen-angleglaucomawhowereusingprostaglandinanalogs,butwhoseintraocularpressure(IOP)decreasewasinsufficient,brimonidinewasadditionallyadministered.Intraocularpressure,bloodpressureandpulserateforupto3monthsofbrimonidineadministrationwerecomparedwithpre-administrationlevels.Adversereactionswereinvestigated.Results:IOPat1month(15.4±2.9mmHg)and3months(16.0±3.3mmHg)afteradministrationdecreasedsignificantlyfrompre-administrationlevel(18.0±2.7mmHg).Therewasnodifferenceinbloodpressureorpulseratebetweenbeforeandafteradministration.Adversereactionsappearedin5cases(20.8%);ofthe5,2(bloodpressurereduced+bradycardia;headache+feelingofstimulation)werediscontinued.Conclusion:Withbrimonidineadministeredinadditiontoprostaglandinanalogs,IOPdecreasedandsafetywasalmostsatisfactoryfor3months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):899.902,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼薬,プロスタグランジン関連点眼薬,追加投与,眼圧,安全性.brimonidineeyedrops,prostaglandinanalogs,additionaladministration,intraocularpressure,safety.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼薬(以下,ブリモニジン点眼薬)は,交感神経のa2受容体アゴニストで,眼圧下降機序として房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進の両者を併せ持っている.わが国で使用可能な従来からの抗緑内障点眼薬とは眼圧下降の機序が異なり,そのため従来からある抗緑内障点眼薬との併用効果が期待されている.プロスタグランジン関連点眼薬はその強力な眼圧下降作用,全身性の副作用が少ないこと,1日1回点眼の利便性により近年緑内障治療の第一選択薬となっている1).プロスタグランジン関連点眼薬へのブリモニジン点眼薬の追加投与に対する眼圧下降効果と安全性に関しては多数の報告がある2.10).海外でのブリモニジン点眼薬は当初は0.2%製剤が開発され,防腐剤も塩化ベンザルコニウムが使用されていた.その後0.15%製剤,さらに0.1%製剤が開発され,防腐剤も塩化ベンザルコニウムではなくPuriteR(亜塩素酸ナトリウム)が使用されるようになり,わが国ではこの製剤が2012年から使用可能となった.そのためプロスタグランジン関連点眼薬への〔別刷請求先〕山本智恵子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:ChiekoYamamoto,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(125)899 0.1%ブリモニジン点眼薬(PuriteR含有)の追加投与に対する眼圧下降効果と安全性の報告は少ない2.5).今回,プロスタグランジン関連点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障に,0.1%ブリモニジン点眼薬を3カ月間追加投与した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2012年5月.2013年6月に井上眼科病院に通院中で,プロスタグランジン関連点眼薬を単剤で使用中に眼圧下降が不十分なためにブリモニジン点眼薬が追加投与された原発開放隅角緑内障(広義)24例24眼(男性6例6眼,女性18例18眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は65.9±8.7歳(平均±標準偏差,52.82歳)であった.使用していたプロスタグランジン関連点眼薬はラタノプロスト点眼薬13例,トラボプロスト点眼薬5例,ビマトプロスト点眼薬4例,タフルプロスト点眼薬2例であった.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)19例,正常眼圧緑内障5例であった.ブリモニジン点眼薬投与前のHumphrey視野のmeandevia-tion(MD)値は.6.4±4.5dB(.17.82.0.71dB)であった.ブリモニジン点眼薬投与前の眼圧は18.0±2.7mmHg(13.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.プロスタグランジン関連点眼薬(1日1回夜点眼)はそのまま継続として,0.1%ブリモニジン点眼薬(1日2回朝夜点眼)を追加投与した.ブリモニジン点眼薬の投与前,投与1,25.03カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定した.投与前と投与1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).投与1,3カ月後を投与前と比較した眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).投与前と投与1,3カ月後に血圧(収縮期血圧,拡張期血圧)と脈拍数を自動血圧計(エルクエスト社,電子非観血式血圧計UDEXsuperTYPE)で測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).来院時毎に副作用を調査した.投与後3カ月以内に通院が中断した症例,ブリモニジン点眼薬が投与中止になった症例,他の薬剤が追加になった症例,手術が施行された症例は眼圧の解析からは除外した.統計学的有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果眼圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は15.4±2.9mmHg,3カ月後は16.0±3.3mmHgで,投与前(18.0±2.7mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001,図1).眼圧下降幅はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は2.6±2.4mmHg,3カ月後は2.1±2.2mmHgで同等だった(p=0.1089).眼圧下降率はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は14.2±11.9%,3カ月後は11.8±11.4%で同等だった(p=0.1208).収縮期血圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は129.7±26.1mmHg,3カ月後は128.6±24.4mmHgで,投与前(130.6±21.9mmHg)と同等だった(p=0.7907,図2).拡12.8mmHg,3カ月後は73.0±11.7mmHgで,投与前(72.815.0±11.8mmHg)と同等だった(p=0.7515).脈拍数はブリモ10.0ニジン点眼薬投与1カ月後は74.5±10.5回/分,3カ月後は5.075.7±10.1回/分で,投与前(72.3±8.6回/分)と同等だった0.0**投与前投与1カ月後投与3カ月後(p=0.2620).図1ブリモニジン点眼薬追加投与前後の眼圧ブリモニジン点眼薬投与3カ月以内に5例(20.8%)で副眼圧(mmHg)張期血圧はブリモニジン点眼薬投与1カ月後は73.3±20.0*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定.作用が出現した(表1).その内訳は,ブリモニジン点眼薬投与1カ月後に血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感,結膜蒼白が各140.01例,投与3カ月後に傾眠,傾眠+結膜充血が各1例であっNS収縮期血圧脈拍数拡張期血圧100.080.060.0眼圧(mmHg)120.0100.080.060.040.020.0脈拍数(回/min)表1ブリモニジン点眼薬追加投与後の副作用副作用発症時期転帰経過血圧低下・徐脈投与1カ月後中止消失0.0頭痛・刺激感投与1カ月後中止消失0.0投与前投与1カ月後投与3カ月後図2ブリモニジン点眼薬追加投与前後の血圧と脈拍数結膜蒼白投与1カ月後継続軽快傾眠投与3カ月後継続軽快NS:有意差なし,ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定.傾眠・結膜充血投与3カ月後継続軽快900あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(126) た.そのうち2例(8.3%)(血圧低下+徐脈,頭痛+刺激感の各1例)でブリモニジン点眼薬が投与中止となり,中止後に症状は消失した.他の3例も経過観察していたが症状は軽快した.III考按プロスタグランジン関連点眼薬へのブリモニジン点眼薬の追加投与の眼圧下降効果については,多数の報告がある2.10).海外において当初発売されていた0.2%および0.15%ブリモニジン点眼薬では,眼圧下降幅は2.0.5.1mmHg,眼圧下降率は9.23%であった6.10).わが国においては0.15%と0.1%ブリモニジン点眼薬が導入の際に検討されたが,眼圧下降効果や副作用発現頻度から0.1%ブリモニジン点眼薬が発売となった11).0.1%ブリモニジン点眼薬追加投与では,眼圧下降幅は2.2.3.3mmHg,眼圧下降率は14.3.17.7%と報告されている2.5).新家らは4週間追加投与2)で眼圧下降幅は2.9±1.8mmHg,眼圧下降率は15.2%,52週間追加投与3)で眼圧下降幅は2.7±1.7mmHg,眼圧下降率は14.3±8.5%と報告した.林らは4週間の追加投与で眼圧下降幅は2.2mmHg,眼圧下降率は17.7%と報告した4).Dayらはラタノプロスト点眼薬への3カ月間追加投与で眼圧下降幅は3.3±2.82mmHg,眼圧下降率は16.8%と報告した5).今回の3カ月間追加投与の眼圧下降幅は2.1.2.6mmHg,眼圧下降率は11.8.14.2%で,過去の報告2.5)とほぼ同等かやや低値を示した.その理由として追加投与前の眼圧が今回(18.0±2.7mmHg)が過去の報告(12.4±3.4mmHg4),18.7±2.0mmHg3),19.1±1.4mmHg2),19.6±2.94mmHg5))に比べてやや低値だったためと考えられる.0.1%ブリモニジン点眼薬の副作用発現頻度は19.4%2),20%5),52.5%3)と報告されており,今回の20.8%はこれらの報告2,3,5)と同等だった.副作用として過去の報告ではアレルギー性結膜炎が比較的高頻度(0.23.7%)に報告されている2.5)が,今回は出現しなかった.アレルギー性結膜炎は長期投与により発現傾向が高くなると考えられている3).今回副作用として出現した血圧低下,徐脈,頭痛,刺激感,結膜充血,傾眠,結膜蒼白は過去の報告2.12)と同様だった.血圧については新家ら2,3)は収縮期血圧および拡張期血圧が有意に低下した,林ら4)は収縮期血圧が有意に低下したと報告したが,今回は収縮期血圧,拡張期血圧ともに投与前後で変化はなかった.しかし副作用として血圧低下が出現した症例もあり,注意深い経過観察が必要である.脈拍数は,新家らは追加投与2週間後に有意に低下した2)と,しかし林ら4)と新家ら3)の52週間追加投与では投与前後に変化はなく,今回も同様に変化はなかった.しかし副作用として徐脈が出現した症例もあり,注意深い経過観察が必要である.結論として,ブリモニジン点眼薬は原発開放隅角緑内障に(127)対して,プロスタグランジン関連点眼薬に追加投与した際に3カ月間にわたり強力な眼圧下降作用を示し,安全性においても重大な副作用を認めなかった.正常眼圧緑内障を対象とした長期試験においてブリモニジン点眼薬はチモロール点眼薬よりも視野障害の進行を有意に抑制したとの報告12)もあり,ブリモニジン点眼薬には神経保護作用も期待されている.しかし今回は投与期間が3カ月間と短期間だったので,今後は長期的な投与により眼圧だけでなく視野障害維持効果を検討する必要がある.ブリモニジン点眼薬はプロスタグランジン関連点眼薬に次ぐ緑内障治療薬の第二選択薬として短期的には期待できる薬剤である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vanderValkR,WebersCA,JanSAetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ophthalmology112:1177-1185,20052)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20123)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障症または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)林泰博,北岡康史:ブリモニジン点眼液の眼圧下降効果と安全性.臨眼67:597-601,20135)DayDG,HollanderDA:Brimonidinepurite0.1%versusbrinzolamide1%asadjunctivetherapytolatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.CurrMedResOpin24:1435-1442,20086)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetybrimonidineasadjuncivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinlarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,20017)BourniasTE,LaiJ:Brimonidinetartrate0.15%,dorzolamidehydrochloride2%,andbrinzolamide1%comparedasadjunctivetherapytoprostaglandinanalogs.Ophthalmology116:1719-1724,20098)KonstasAGP,KarabatsasCH,LallosFNetal:24-hourintraocularpressureswithbrimonidinepuriteversusdorzolamideaddedtolatanoprostinprimaryopen-angleglaucomasubjests.Ophthalmology112:603-608,20059)MundorfT,NoeckerRJ,EarlM:Ocularhypotensiveefficacyofbrimonidine0.15%asadjunctivetherapywithlatanoprost0.005%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher24:302-309,200710)ReisR,QueirozCF,SantosLCetal:Arandomized,investigator-masked,4-weekstudycomparingtimololmaleate0.5%,brinzolamide1%,andbrimonidinetartrateあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014901 0.2%asadjunctivetherapiestotravoprost0.004%in12)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-Presadultswithprimaryopen-angleglaucomaorocularsureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrihypertension.ClinTher28:552-559,2006monidineversustimololinpreservingvisualfieldfunc11)新家眞,山埼芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液tion:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentの原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的Study.AmJOphthalmol151:671-681,2011試験.あたらしい眼科29:1303-1311,2012***902あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(128)