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当院におけるSmall Incision Lenticule Extraction (SMILE)手術1,164 眼の合併症の検討

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):565.568,2024c当院におけるSmallIncisionLenticuleExtraction(SMILE)手術1,164眼の合併症の検討西田知也片岡嵩博磯谷尚輝小島隆司吉田陽子中村友昭医療法人REC名古屋アイクリニックCComplicationsofSmallIncisionLenticuleExtractionSurgeryin1,164EyesTomoyaNishida,TakahiroKataoka,NaokiIsogai,TakashiKojima,YokoYoshidaandTomoakiNakamuraCNagoyaEyeClinicC目的:名古屋アイクリニックにおけるCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)手術の術中および術後の合併症と追加矯正について検討した.対象および方法:2018年.2022年に名古屋アイクリニックにてCSMILE手術を施行した連続症例(588名C1,164眼,平均年齢C31.0C±7.2歳,平均等価球面度数C.3.99±1.50D)を対象に,術中および術後合併症の発生率と術後の追加矯正率を後ろ向きに検討した.結果:術中合併症はサクションロスがC8眼(0.7%)あり,そのうちC5眼がそのままCSMILEを続行した.Lenticule残存はC3眼(0.3%)であった.術後合併症は,層間角膜炎が54眼(4.6%)に認められ,46眼がCstage1であった.追加矯正率はC2.5%(29眼)であった.結論:SMILE手術は重篤な合併症および追加矯正の発生率は低く,安全な手術であることが示唆された.CPurpose:Toexaminetheintraoperative/postoperativecomplicationsandrefractiveenhancementineyesthatunderwentsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)surgery.Methods:Thisretrospectivestudyinvolved1,164eyesof588consecutivepatients(meanage:31.0C±7.2years,meansphericalequivalentpower-3.99±1.50D)whounderwentSMILEsurgeryatNagoyaEyeClinicfrom2018to2022.Theincidenceofintraoperative/postoperativecomplicationsCandCrefractiveCenhancementCwereCretrospectivelyCexamined.CResults:IntraoperativeCcomplicationsCincludedsuctionlossin8eyes(0.7%)C,ofwhichin5eyesSMILEsurgerywascontinued,andlenticuleresidualsin3eyes(0.3%)C.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCdi.useClamellarCkeratitisCinC54eyes(4.6%)C,CofCwhichC46CeyesCwereCstageC1,CandCrefractiveCenhancementCinC29eyes(2.5%)C.CConclusion:SMILECsurgeryCwasCfoundCtoChaveCaClowincidenceofvision-threateningcomplicationsandrefractiveenhancement,thussuggestingthatitisasafepro-cedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(5):565.568,C2024〕Keywords:smallincisionlenticuleextraction,合併症,追加矯正.smallincisionlenticuleextraction,complica-tions,enhancement.Cはじめに角膜屈折矯正手術は,エキシマレーザーのみを用いて屈折矯正を行うphotorefractivekeratectomy(PRK)が開発され,その後第二世代の術式としてフェムトセカンドレーザーを用いてフラップを作製し,エキシマレーザーの照射を行うlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が開発された.さらに,第三世代の術式としてフラップ作製を行わずフェムトセカンドレーザーのみで屈折矯正を行うCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)が開発された.SMILE手術に対する安全性および有効性は多数報告されているが1),わが国における術中および術後合併症に関する多数例の報告は限られている2).今回,名古屋アイクリニックにおけるCSMILE手術C5年間の術中および術後の合併症と追加矯正について検討した.CI対象および方法対象はC2018年C1月.2022年C12月までのC5年間に名古屋アイクリニックにてCSMILE手術を施行した全症例C588名〔別刷請求先〕西田知也:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14COLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックReprintrequests:TomoyaNishida,CO,NagoyaEyeClinic,COLLECTMARKKanayama2F,24-14Namiyose-cho,Atsuta-ku,Nagoya,Aichi456-0003,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(93)C565図1SMILE手術で作製される切開の名称とその位置1:Lenticulecut(lenticuleの裏面),2:Lenticulesidecut,3:CCapcut(lenticuleの表面),4:Capopeningincision.1,164眼を後方視的に検討した.平均観察期間はC10.9C±10.1カ月であった.検討項目は,術中および術後合併症の発生率とその後の経過,術後追加矯正率と追加矯正の術式を検討した.また,SMILE手術前の自覚的球面度数および自覚的乱視度数を,追加矯正を施行した群(追加矯正群)と追加矯正を施行していない群(非追加矯正群)のC2群間で比較した.追加矯正手術は患者の術後屈折誤差および術後の近視の戻りによる自覚的な見え方の不満に対して,医師が追加矯正手術を施行すれば改善すると判断し,追加矯正手術に対する十分な説明のうえ,患者の同意を得られた場合に施行した.SMILE手術の適応基準は「屈折矯正手術のガイドライン」(第C7版)に準じて決定した.SMILE手術はフェムトセカンドレーザーCVisuMax(CarlZeissMeditec社)を使用した.レーザーエネルギーはC140nJ,capCopeningincisionは2.0mmまたは2.5mm,spotdistanceはC4.5Cμmと設定した.図1にCSMILE手術で作製される切開の名称とその位置を提示する.Opticalzone(OZ)は屈折矯正量に応じて算出されたClenticule厚と術前の角膜厚をもとに,6.0Cmm,6.5Cmm,7.0CmmのC3種類の大きさから決定した.全症例右眼から手術を開始した.C1.統計解析追加矯正群と非追加矯正群の比較には,Mann-WhitneyCUtestを行った.統計解析にはCSPSS(ver.29,IBMJapan)を使用し,統計学的有意水準を5%未満とした.本研究は院内倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に従って実施された(2023-60).後ろ向き研究であるため,同意書取得の代わりにオプトアウト法が倫理委員会によって認められた.表1本検討の患者背景パラメータ平均±標準偏差(範囲)男女比男性C344名女性C244名年齢(歳)C31.0±7.2(17to55)術前自覚等価球面度数(D)C.3.99±1.50(C.1.00to.8.88)術前自覚乱視度数(D)C.0.7±0.6(0.0to.4.0)Lenticule厚(μm)C89.0±17.8(40Cto141)COpticalzone(mm)C6.6±0.3(6.0,6.5,7.0)D:diopter.CII結果本検討の患者背景を表1に示す.術後C1年目まで経過を追えたC584眼の術後C1年目の平均裸眼視力(logMAR)および矯正視力(logMAR)はそれぞれC.0.18±0.10(小数視力C1.51),.0.23±0.07(小数視力C1.70)であり,術後平均自覚球面度数はC.0.01D±0.29であった.術前矯正視力に対して術後矯正視力の変化は,1段階低下が23眼(4%),変化なしがC284眼(49%),1段階向上がC265眼(45%),2段階以上向上がC12眼(2%)であった.有効係数および安全係数はそれぞれC1.05,1.16であった.C1.術中合併症サクションロス(レーザー照射中に眼球を固定している吸引が外れること)はC8眼あり,発生率はC0.7%であった.8眼の内訳は男性C4眼,女性C4眼,右眼C1眼,左眼C7眼であった.サクションロスしたC8眼中C5眼はClenticulecutがC10%未満であったため,SMILEを続行した.1眼はClenticulecutがC10%以上作製されていた状態でサクションロスしたため,LASIKへ変更していた.2眼はClenticuleCsidecut作製中にサクションロスしたため,lasersubepithelialkeratomileusis(LASEK)へ変更していた.全症例当日手術を施行した.Lenticule.離不全,残存はC3眼あり,発生率はC0.3%であり,すべての症例において術前等価球面度数はC.3.0以下の軽度近視症例であった.1例は角膜中心部にClenticuleが残り裸眼視力がC0.4と不良であったため,術後C1カ月でCIRCLE(lenticuleを抜き取った層をつなげてフラップを作製する方法)にてフラップを起こし,残ったClenticuleの除去を行い,その後裸眼視力C1.5であった.2例は角膜周辺部にClenticuleが残り裸眼視力C1.0およびC1.5と視力に影響を与えていなかったため,そのまま経過観察中であった.C2.術後合併症層間角膜炎(di.useClamellarkeratitis:DLK)はC54眼に認められ,発生率はC4.6%であった.54眼中C46眼がCstage1(角膜周辺部の炎症で,中心部には影響が及んでいない段階)であり(85%),8眼がCstage2(角膜周辺から中心部に炎症が波及するが,視力にはそれほど影響が出ていない段階)で566あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024(94)表2術中合併症に関する過去の報告と本検討の結果の比較サクションロスLenticule.離不全,残存著者報告年眼数(%)(%)WangYetal3)C2017C3,004C0.93C0.27CKamiyaetal2)C2019C252C1.2C─本検討C2023C1,164C0.7C0.3C術中合併症の発生率は本検討と既報で同等の結果であった.表3術後合併症に関する過去の報告と本検討の結果の比較DLK感染上皮迷入ケラトエクタジア著者報告年眼数(%)(%)(%)(%)WangYetal6)C2019C6,373C2.17C0C0.02C─CKamiyaetal2)C2019C252C0.8C0C0C0本検討C2023C1,164C4.6C0C0C0CDLKの発生率は既報よりも本検討で多かった.あった(15%).Stage2のC8眼中C3眼は術後C2日目に洗浄の処置を行っていた.ステロイドの内服および点眼,軟膏の処方により全症例C1カ月以内に炎症は消失しており,DLKが原因による視力不良症例はなかった.その他の合併症として,ドライアイに対してC7眼が涙点プラグを挿入していた.感染や上皮迷入,ケラトエクタジアの発生は認められなかった.C3.追加矯正追加矯正はC29眼に施行しており,追加矯正率はC2.5%であった.追加矯正に至るまでの期間は平均C13.0C±10.4カ月(3カ月.3年)であり,ほとんどの症例が術後近視化に伴う追加矯正であった.非追加矯正群の術前平均自覚球面度数はC.3.64±1.42D(+0.25D.C.8.0D),追加矯正群の術前平均自覚球面度数は.4.42±1.89D(C.1.25D.C.8.25D)であり,術前平均自覚球面度数は非追加矯正群よりも追加矯正群のほうが有意に高かった(p=0.023).非追加矯正群の術前平均自覚乱視度数はC.0.65D±0.60(0.0D.C.4.0D),追加矯正群の術前平均自覚乱視度数はC.0.72D±0.54(0.0D.C.1.75D)であり,有意な差は認められなかった(p=0.301).追加矯正の術式はPRKが14眼,CIRCLEが8眼,LASEKがC5眼,limbalCrelaxingCincisions(LRI)がC2眼であった.LASEKを施行したC1眼が術後+1.25Dと遠視化したため,LASEK術後C1年C6カ月目で遠視矯正CPRKを施行した.CIII考按今回筆者らは,過去C5年間におけるCSMILE手術の合併症および追加矯正について検討した.術中合併症に関する過去の報告と本検討の結果を表2に示す.サクションロスおよびlenticule.離不全,残存の発生率は既報と同等であった.本検討でClenticule.離不全,残存を認めたC3眼はすべて.3.0D以下の軽度近視症例であった.過去に軽度近視の場合は,中等度近視よりも作製されるClenticuleが薄くなり術中にClenticuleが裂けたり実質内に残ってしまう可能性が高くなると報告されている4).そのため本検討においても,軽度近視のため作製されたlenticuleが薄いことによりClenticule.離不全,残存が生じたと考えられる.現在当院ではC.3.0D以下の軽度近視症例に対しては,OZを大きくしCminimumClenticuleCthickness5)の設定により,lenticuleを厚くして手術を施行している.術後合併症に関する過去の報告と本検討の結果を表3に示す.DLKの発生率は既報よりも高かった.しかし,本検討のCDLK発症症例のうちのC85%がCstage1であり,全症例術後C1カ月以内に炎症は消失し経過良好であった.そのため,本検討でのCDLKは視機能に影響を与えなかったと考える.その他,感染,上皮迷入,ケラトエクタジアは既報と同等であったが,発生率が低いため今後多数例でさらなる検討が必要であると思われる.追加矯正に関する過去の報告と本検討の結果を表4に示す.追加矯正割合は既報とほぼ同等であった.また,過去に術前の近視度数が高値なほど追加矯正の割合が増えると報告されている8).本検討においても既報と同様に追加矯正群のほうが非追加矯正群よりも術前近視度数が高値であった.追加矯正の術式はCPRKがもっとも多く,ついでCCIRCLEであった.過去にCSMILE後の追加矯正の精度はCPRKなどのCsurfaceablationとCCIRCLEとの間に差は認められなかったが,視力の回復速度はCCIRCLEのほうが早かったと報告されている9).しかし,CIRCLEはフラップを作製して追加矯正を行うため,LASIKと同様に術後ドライアイを惹起する可能性やフラップ作製による合併症を生じる可能性がある.当院では患者にCPRKとCCIRCLEのメリット,デメリッ(95)あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024C567表4追加矯正に関する過去の報告と本検討の結果の比較著者報告年眼数術前等価球面度数(D)追加矯正割合(%)CSiedleckietal7)C2017C1,963C.6.35±1.31C2.2CLiuetal8)C2017C524非追加矯正群.5.66±1.90追加矯正群.7.38±1.89C2.7本検討C2023C1,164C.3.99±1.50C2.5D:diopter.追加矯正の割合は既報とほぼ同等であった.トを十分説明し,患者自身に術式を選択してもらうようにしている.また,残存ベッドが十分な厚みでない場合は,安全面を考慮しCPRKのみの選択となる場合もある.SMILEはフラップを作製しないためCLASIKよりも角膜知覚神経への影響が少なく,LASIKと比べて術後ドライアイになりづらいと報告されている10).また,フラップを作製しないことにより,SMILEはCLASIKよりも角膜生体力学特性を維持できると報告されている11).過去にCLASIKの長期的な安全性に関する報告がされており12),合併症の発生率はサクションロスがC0.06.4.4%,DLKがC0.13.18.9%,上皮迷入がC0%.3.9%,感染がC0.005.0.034%,ケラトエクタジアがC0.033.0.6%と報告されている13).また,メタ解析によるとCLASIKとCSMILEは同等の安全性および有効性であると報告されている14).近年ではCSMILE術後C10年の長期的な安全性および有効性が報告されており15),今後LASIKとCSMILEで長期的な安全性および有効性の比較検討をする必要があると考える.本研究の限界点として,後ろ向き研究のため術後経過観察中のドロップアウト症例があり,長期経過を追えていない症例がある点である.また,SMILE術後のドライアイの統一した評価ができていないため,SMILEによってどの程度ドライアイが発生したかが不明であった.結論として,SMILE手術は海外における既報と同様に重篤な合併症の発生率は低く,安全な手術であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MoshirfarM,McCaugheyMV,ReinsteinDZetal:Small-incisionClenticuleCextraction.CJCCataractCRefractCSurgC41:C652-665,C20152)KamiyaCK,CTakahashiCM,CNakamuraCTCetal:ACmulti-centerstudyonearlyoutcomesofsmall-incisionlenticuleextractionformyopia.SciRepC9:4067,C20193)WangY,MaJ,ZhangJetal:Incidenceandmanagement568あたらしい眼科Vol.41,No.5,2024ofintraoperativecomplicationsduringsmall-incisionlenti-culeextractionin3004cases.JCataractRefractSurg43:C796-802,C20174)JacobCS,CAgarwalCA,CMazzottaCCCetal:SequentialCseg-mentalterminallenticularside-cutdissectionforsafeande.ectiveCsmall-incisionClenticuleCextractionCinCthinClenti-cules.JCataractRefractSurgC43:443-448,C20175)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKeidelCLCetal:VariationCofClenticuleCthicknessCforCSMILECinClowCmyopia.CJCRefractCSurgC34:C453-459,C20186)WangY,MaJ,ZhangLetal:Postoperativecornealcom-plicationsinsmallincisionlenticuleextraction:long-termstudy.JRefractSurgC35:146-152,C20197)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:EnhancementCafterCmyopicCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)usingCsurfaceablation.JRefractSurgC33:513-518,C20178)LiuYC,RosmanM,MehtaJS:Enhancementaftersmall-incisionClenticuleextraction:incidence,CriskCfactors,CandCoutcomes.OphthalmologyC124:813-821,C20179)SiedleckiCJ,CSiedleckiCM,CLuftCNCetal:SurfaceCablationCversusCIRCLEformyopicenhancementafterSMILE:amatchedCcomparativeCstudy.CJCRefractCSurgC35:294-300,C201910)CaiWT,LiuQY,RenCDetal:Dryeyeandcornealsen-sitivityaftersmallincisionlenticuleextractionandfemto-secondlaser-assistedinsitukeratomileusis:ameta-anal-ysis.IntJOphthalmolC10:632-638,C201711)GuoH,Hosseini-MoghaddamSM,HodgeW:Cornealbio-mechanicalpropertiesafterSMILEversusFLEX,LASIK,LASEK,orPRK:asystematicreviewandmeta-analysis.BMCOphthalmolC19:167,C201912)AlioJL,SoriaF,AbboudaAetal:Laserinsitukeratomi-leusisCforC.6.00CtoC.18.00CdioptersCofCmyopiaCandCupCtoC.5.00dioptersofastigmatism:15-yearfollow-up.JCata-ractRefractSurgC41:33-40,C201513)SahayCP,CBafnaCRK,CReddyCJCCetal:ComplicationsCofClaser-assistedCinCsituCkeratomileusis.CIndianCJCOphthalmolC69:1658-1669,C202114)ZhangY,ShenQ,JiaYetal:ClinicaloutcomesofSMILEandCFS-LASIKCusedCtoCtreatmyopia:aCmeta-analysis.CJRefractSurgC32:256-265,C201615)BlumM,LauerAS,KunertKSetal:10-YearResultsofSmallCIncisionCLenticuleCExtraction.CJCRefractCSurgC35:C618-623,C2019(96)