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障害年金を含めたロービジョンケアを行った網膜色素変性の 2 症例

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1496.1499,2023c障害年金を含めたロービジョンケアを行った網膜色素変性の2症例神田晴楽*1小林崇俊*1戸成匡宏*1栗栖理恵*1稲泉令巳子*1清水みはる*1筒井亜由美*1濵村美恵子*1中村桂子*1喜田照代*1広瀬茂*2*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2日本ライトハウスCTwoCasesofRetinitisPigmentosaTreatedwithLowVisionCareandAssistanceinApplicationforaDisabilityPensionSeiraKanda1),TakatoshiKobayashi1),MasahiroTonari1),RieKurisu1),RemikoInaizumi1),MiharuShimizu1),AyumiTsutsui1),MiekoHamamura1),KeikoNakamura1),TeruyoKida1)andShigeruHirose2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)NipponLightHouseC目的:受診歴の差により,障害年金の申請方法が異なった網膜色素変性のC2症例を経験したので報告する.症例:症例C1はC47歳,男性.症例C2はC41歳,男性.2症例とも視機能低下に伴う就労困難で,ロービジョン外来を受診し,障害年金の申請をすることになった.症例C1はC14歳から継続受診していたため,障害年金の遡及請求が容易であった.症例C2はC20歳で他院を受診したが,継続受診を自己中断したため,初診日の証明ができなかった.自己の申立てで障害年金の受給は認められたが,遡及請求はできなかった.現在C2症例とも,日本ライトハウスで転職に向けて職業訓練を行っている.結論:適切な時期の障害年金申請を含めた,ロービジョンケアが重要であると考える.CPurpose:Toreport2casesofretinitispigmentosainwhichtheapplicationmethodtoobtainadisabilitypen-sionCdi.eredCdueCtoCdi.erencesCinCmedicalCrecordChistory.CCasereports:ThisCstudyCinvolvedC2CcasesCthatCvisitedCourlowvisionoutpatientclinicandappliedforadisabilitypensionafterencounteringdi.cultiesinworkingduetopoorvisualfunction.Case1involveda47-year-oldmalewhohadreceivedmedicalexaminationssincehewas14yearsCold,CandCwhoCcouldCeasilyCmakeCaCretroactiveCclaimCforCaCdisabilityCpension.CCaseC2CinvolvedCaC41-year-oldCmalewhooncevisitedanotherhospitalwhenhewas20yearsold,yetwasunabletoprovethedateofhis.rstvis-itCdueCtoCself-interruption.CAlthoughCheCwasCallowedCtoCreceiveChisCdisabilityCpensionCbyCself-application,CheCwasCunabletomakearetroactiveclaim.Currently,bothpatientsreceivevocationaltrainingattheNipponLighthouseWelfareCenterfortheBlind(Osaka,Japan)tochangetheirjobs.Conclusion:Our.ndingsshowthatlowvisioncare,aswellasapplyingforadisabilitypensionattheappropriatetime,isimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1496.1499,C2023〕Keywords:遡及請求,継続受診,就労,連携,職業訓練.retroactiveclaim,seeinghis/herdoctorregularly,work,cooperationwithrelatedfacilities,vocationaltraining.Cはじめに視機能が低下すると,生活のさまざまな場面で困難が生じる.とくに,就労年齢にあるロービジョン(lowvision:LV)者の場合,視覚障害から就業に支障をきたし,現職を続けるか転職をするかなど,就労について問題が生じることが少なくない.障害年金は,LV者の生活基盤を支える収入源の一部となる.また転職を含めた就労継続のためには,職業訓練が重要となる.今回,筆者らは,ともにC40代の網膜色素変性症例で,同程度の視機能障害を認めたが,受診歴の差により,障害年金の申請方法やCLVケアに違いが生じたC2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕神田晴楽:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:SeiraKanda,C.O.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1496(126)I症例2症例とも男性の網膜色素変性症例で,仕事に従事していたが,視機能の低下の進行に伴い就業継続に問題が生じ,当院CLV外来を受診し面談を受けた.以下,症例ごとにその経過を記す.[症例1]14歳時に当院初診.初診時の視力は右眼(0.8C×sph.1.00D(cyl.1.25DCAx180°),左眼(0.8C×sph.0.50D(cyl.1.50DAx180°).初診時から両眼とも,I/4eがC10°以内に視野狭窄していた(図1).25歳時に身体障害者手帳視覚障害C2級を取得.また,視機能改善のため,遮光眼鏡装用,眼球運動トレーニング,暗所視支援眼鏡などのCLVケアを受けていた.職業は理容師で,実家が営んでいる理髪店で働いていた.視野は狭いが,矯正視力が両眼とも(0.8)前後に保たれていたため,就業継続への問題はとくに感じていなかった.しかし,44歳頃から徐々に視機能が悪化し,現在C47歳であるが,右眼視力(0.04),左眼視力(0.4)に低下した.視野は両眼ともV/4eがC10°にまで狭窄し,右眼には傍中心暗点が現れた(図2).そのため,就業継続の困難を感じ,LV面談を受けた.面談では障害年金の申請をサポートし,転職も視野に入れ,職業訓練を目的に日本ライトハウスを紹介した.障害年金の申請については,14歳から継続して受診していたため,初診日の証明が容易であった.20歳未満で年金加入前に発症していたため,無拠出のC20歳前障害基礎年金受給が可能な症例に該当する.障害認定日であるC20歳前後の障害等級に該当する視機能の記録があったため,障害認定日請求でC20歳前障害基礎年金C2級が認められた.受給の権左眼右眼図1症例1の初診時の視野(14歳)左眼右眼図2症例1の現在の視野(47歳)左眼右眼図3症例2の初診時の視野(41歳)利が発生するのは障害認定日からであり,認定日まで遡及して受け取ることができるが,遡及請求には時効があるため,最大のC5年分がさかのぼって受給できた.また,無拠出で給付されるため,今まで納めていた国民年金が払い戻しされた.なお,令和C4年C1月から障害年金の認定基準が改正され,1級に該当するため額改定請求を行った.就業については,理容師を続けながら,定休日にはパソコン訓練のために日本ライトハウスに通っている.[症例2]41歳時に当院初診.初診時視力は右眼視力(0.3C×sph.5.00D(cyl.1.00DAx80°),左眼視力(0.4C×sph.0.75D(cyl.2.00DCAx85°).視野は両眼ともV/4eが10°の求心性視野狭窄を認めた(図3).20歳時に視力低下の自覚で他院を受診し,網膜色素変性と診断されたが,有効な治療法がないといわれ,継続受診を自己中断していた.何回か転職し,電気系技術職の仕事に従事したが,就業に困難を自覚し,前医初診からC21年後のC41歳で当院を受診,LV面談を受けた.面談では,症例C1と同様に,障害年金の申請をサポートし,職業訓練を目的に日本ライトハウスを紹介した.身体障害者手帳は面談後ただちに申請し,視覚障害C2級を取得できた.障害年金については,前医初診時の受診歴はあるものの,21年前のため診療録がなく,初診日の証明ができなかった.そのため,受診状況等証明書が添付できない申立書(以下,申立書)で申請することになった.申立書には初診日証明書類の添付が必要となるため,健康保険の給付記録を添付し初診日の証明ができた.障害認定日当時も,障害年金の障害等級に該当していた可能性があるが,初診日以降受診していないため,障害認定日以降C3カ月の視機能の記録がなく,遡及表12症例の比較障害年金日本ライトハウスでの訓練ロービジョンケア受給遡及請求症例C1C○C○C○C○症例C2C○申立書※で申請C×○C△C※受診状況等証明書が添付できない申立書.請求はできなかった.初診日に厚生年金に加入していたため,事後重症化請求で障害厚生年金C2級が認められた.なお,症例C1と同様,障害年金の認定基準が改正され,1級に該当するため額改定請求を行った.また,継続受診をしていなかったため,今までCLVケアはまったく受けておらず,以前から羞明を感じていたが,当院を受診して初めて遮光眼鏡の処方となった.つぎに就労については,面談後に会社を退職しており,失業中であった.そこで筆者らは,日本ライトハウスへ見学に行くことを勧めた.それまでは自宅にこもりがちであったが,自分と同様の視機能,もしくは自分よりも重度の視機能障害をもちながらも活発に行動している人と出会い,希望を持てたとのことであった.現在,ほぼ毎日訓練のために通い,特別委託訓練の試験に合格し,1年間,月にC10万円の訓練手当が受給可能となった.「障害年金を受給できたおかげで,現在職業訓練に専念ができている」とのことであった.2症例の比較をまとめて表に示す(表1).CII考按網膜色素変性症は治療法が確立されておらず,継続受診を中断する患者が多い.こうした背景をふまえ,継続受診の重要性について考える.まず,障害年金の申請1)に関しては,継続受診をしている場合は初診日の証明ができ,障害認定日前後の検査記録があり,視機能および他の要件を満たしていれば,円滑に障害認定日請求を行うことができる.障害認定日とは,初診日が18歳C6カ月より前の場合はC20歳の誕生日前日であり,18歳C6カ月以降は初診日からC1年半後の日である.申請には,前者はC20歳の誕生日前後C3カ月の検査記録,後者は障害認定日以降C3カ月の検査記録が必要である.たとえ障害認定日請求をしなかったとしても,症例C1のように遡及請求が可能な場合もある.また,障害認定日には視機能の障害程度が該当しなくても,重症化して対象になったときに,速やかに事後重症化請求ができる.症例C2のように継続的に受診していなかった場合,最初の医療機関の初診日証明がむずかしい場合がある.診療録の保存期間は,5年間と定められているため,閉院も含め,最後の診察からC5年以上経過した場合,診療録が破棄される可能性がある.実際に症例C2は,初診日にあたる他院での診療録が残っていなかったため,申立書で申請した.その場合,初診日に関する参考書類を別途用意しなければならないが,いくつかの条件があり,認められるとは限らない.つぎに,医療の観点から継続受診の重要性について考える.当院は,症例C1に対して,視機能の変化に合わせながら,さまざまなCLVケアを行ってきた.他方,症例C2は若い頃から羞明があったにもかかわらず,遮光眼鏡を処方できたのはC41歳のときであった.このように,受診を継続していなければ,視機能の変化に合わせたCLVケアを受けることがむずかしい場合がある.また,網膜色素変性には黄斑浮腫や経年変化による白内障など,他の疾患を合併する場合があり,これらの疾患に対しては治療を行うことで視機能が改善する可能性がある2,3).必要な治療を適切な時期に受けるためにも,継続受診は重要と考える.しかし,継続受診していた症例C1への障害年金についての情報提供が遅れたことは,今回の反省点と考える.症例C1は申請していれば,20歳から障害基礎年金C2級が受給可能であった.基本的には患者自身が申請するものだが,症例C1のように視野は狭いが視力が良好な人や,就労中で所得がある人は,自分が障害年金の対象ではないと思っている場合がある.患者の視機能を把握しているのは医療側のため,必要な情報提供が適宜できるよう4)就労年齢のCLV者には障害年金のことも意識して対応したい.また,継続受診していても,障害年金の請求に必要な検査が必要な時期に行われていない場合もある.日頃から障害年金を申請する可能性を考えて検査することが望ましいが,現状としてはむずかしい.しかし,前後の検査結果から障害認定日にも同様であったと推定され,受給可能となる例もあるのであきらめずに申請するとよいと思われる.つぎに,福祉施設との連携について考える.筆者らは,患者が今必要としている適切なアドバイスをするためには,病状を把握している医療スタッフと,福祉の専門家が協力して,医療機関のなかで面談する必要があると考え行ってきた5,6).その後,眼科医の参加が必要不可欠と考え7),現在では,眼科医,視能訓練士に加え,必要に応じて福祉施設の相談員も参加し,病院内で面談を行っている.今回のC2症例は就労継続の問題があったため,職業訓練につなげていくために日本ライトハウスの相談員が面談時より同席し,訓練の内容などを説明した.2症例とも具体的な話を聞き,転職に向けて職業訓練を開始することができた.自ら動き出すことができたのは,相談員とのかかわりをもつ機会を得たことが大きいと思われる.視機能の低下のために,生活訓練や職業訓練などの必要性がある場合,適切に福祉制度を利用し,できるだけ速やかに訓練を受けられるよう,日頃から密接に福祉施設と連携することが重要と考える8,9).今回,視機能の低下により仕事の継続に不安や困難を抱えていたC2症例が,LV面談を受け,福祉施設とかかわりをもつことで転職に向けてふみ出すことができた背景には,障害年金を受給することができたことも大きいと推察する.受給までの経過には違いがあったが,生活の基盤である収入がある程度保証されたことで,今後を見すえた職業訓練に取り組めたと思われる.眼科としては適切な時期で障害年金の申請を含めたCLVケアができるよう心がけたい.文献1)漆原香奈恵,山岸玲子,村山由希子:知りたいことが全部わかる!障害年金の教科書.久保田賢二(編),ソーテック社,20192)山本修一,村上晶,高橋政代ほか:網膜色素変性診療ガイドライン.日眼会誌120:846-859,C20163)吉村長久,後藤浩,谷原秀信:眼科臨床エキスパート網膜変性疾患診療のすべて.村上晶,吉村長久(編),医学書院,p274-275,C20164)植木麻里:身体障害者手帳,障害年金,介護保険の適用患者と書類作成のコツ.日本糖尿病眼学会誌C22:60-63,C20175)中村桂子,菅澤淳,澤ふみ子ほか:大阪医科大学における成人視覚障害者の面談.日本視能訓練士協会誌C29:203-210,C20016)中村桂子:ロービジョンケアにおける専門施設との連携.あたらしい眼科22:1273-1248,C20057)稲泉令巳子,江富朋彦,戸成匡宏ほか:眼科医を中心とした院内におけるロービジョン外来.眼科C52:1709-1714,C20108)西脇友紀,仲泊聡,西田朋美ほか:中間アウトリーチ支援の実践可能性.視覚リハ研究3:60-65,C20139)永井春彦:ロービジョン関連施設と眼科医の関わり方.日本の眼科89:1217-1220,C2018

医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2 例

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1287《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1287.1290,2010cはじめに緑内障は現在の本邦視覚障害原因疾患の首位である.2000年から2001年に日本緑内障学会が実施した大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)によれば,40歳以上の日本人の緑内障の有病率は5.0%であることが報告されている1).緑内障は,無症状のまま病状が進行することが多いという特徴を有し,多治見スタディでも緑内障と診断された人のほとんどは自覚症状がみられなかった1).実際には,自覚症状が現れたときにはかなり病状が進行している症例を経験することも少なくない.近年の緑内障治療の進歩は目覚ましく,治療の第一目標は一生涯の有効な視機能の温存であり,そのためには早期発見,早期治療で眼圧,視野の管理に努めることが一段と推奨,啓発されている.しかし,かなり病状が進行するまでまったく眼科受診をしていなかった症例もある.このような症例は決して少なくはなく,見えにくさを自覚し不便を感じていることが多い.当然,緑内障治療が最優先であるが,症例によっては並行してロービジョンケアを行うことで患者本人が困っている見えに〔別刷請求先〕西田朋美:〒359-8555所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科Reprintrequests:TomomiNishida,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,4-1Namiki,Tokorozawa359-8555,JAPAN医療連携でロービジョンケアを進めることができた緑内障の2例西田朋美*1三輪まり枝*1,2山田明子*1,2関口愛*1,2中西勉*2久保明夫*2仲泊聡*1,2*1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科*2国立障害者リハビリテーションセンター病院第三機能回復訓練部TwoCaseswithGlaucomacouldAdvanceLowVisionCarethroughMedicalCooperationTomomiNishida1),MarieMiwa1,2),AkikoYamada1,2),MeguSekiguchi1,2),TsutomuNakanishi2),AkioKubo2)andSatoshiNakadomari1,2)1)DepartmentofOphthalmology,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,2)DepartmentforVisualImpairment,HospitalofNationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities緑内障はわが国の視覚障害原因の首位を占め,ロービジョン(LV)ケアが必要となる患者も多い.今回筆者らは緑内障治療を他院で継続中に国立障害者リハビリテーションセンター病院(以下,当院)LVクリニックを紹介受診され,医療連携で治療とLVケアを円滑に進めることができた緑内障患者2例を経験した.2例とも緑内障治療とLVケアを異なる眼科にて行っているが,情報提供書の活用により医療連携で治療と並行したLVケアへの導入が円滑であった.治療とLVケアを行う眼科は同一である必要はなく,医療連携を密に行うことで別々の眼科で担当することも可能であると考えられた.LVケアができる体制がない医療機関であっても,LVケアが必要な緑内障患者にとって医療連携によりLVケアを受けやすくなる可能性が示唆された.今後,より簡便な情報提供書のあり方や情報ネットワークの構築などが望まれる.GlaucomaistheleadingcauseofvisualimpairmentinJapan,andmanyglaucomapatientsrequirelowvisioncare.Twopatientswhoseglaucomawasfollowedupatanotherhospitalwereabletosmoothlyprogresstolowvisioncareatourhospital.Inthesetwocases,themedicalinformationletterwasusefulinthistransition.It’snotnecessarytousethesamehospitalforbothtreatmentandlowvisioncare.Evenifthehospitalisnotpreparedtoprovidelowvisioncare,glaucomapatientsrequiringsuchcarecanreceiveitwithsufficientmedicalcooperationandnetworking.Toadvancelowvisioncaremoresmoothly,greatercooperationandnetworkingsystemsamonghospitalsarerequired.Moreover,moreconvenientmethods,includingmedicalinformationletters,aredesirableforsmootherdevelopmentoflowvisioncare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1287.1290,2010〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,医療機関,連携.glaucoma,lowvisioncare,medicalcooperation,network.1288あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(122)くさを改善することが可能である2).しかし,医療機関によってはロービジョンケアにまで手が回らないという実情に直面しているところも多い3).逆にいまだ少数ではあるが,筆者らの施設(国立障害者リハビリテーションセンター病院;以下当院)のようにロービジョンケアを主なる専門領域とした医療機関も存在する.今回筆者らは,他院と当院との医療連携を利用することで緑内障治療とロービジョンケアを円滑に進めることができた緑内障患者の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕80歳,男性.原発開放隅角緑内障.以前よりT院にて緑内障加療中であったが,1994年7月14日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は,右眼0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°),左眼0.03(0.05×.10.5D)で,視野は両眼ともに湖崎分類IVであった.患者本人の困っていることは,読み書き困難,羞明であり,これらを改善したいということがおもなニーズであった(表2).初診から19年経過した現在,視力は右眼0.01(n.c.),左眼手動弁(n.c.)で,視野は両眼ともに湖崎分類bであった.眼圧コントロールのため,これまで緑内障手術を右眼計1回,左眼計8回,白内障手術を両眼ともに受けていた.現在も点眼と内服加療継続中であった.緑内障の治療は一貫してT院へ継続通院しており,T院と当院との連絡はロービジョンケア内容を含んだ情報提供書を用いていた(表3).この間,検査と評価の結果,3.5倍から7倍の拡大鏡を計3個,遮光眼鏡を計8個,矯正眼鏡を計7個処方した.表2症例1と2の治療とロービジョンケアの経過症例1症例2治療経過観血的・非観血的緑内障手術(右計1回,左計8回)点眼・内服加療継続中点眼・内服加療継続中ニーズ読み書き困難,羞明読み書き困難,階段歩行(下り),買い物LVケア拡大鏡,遮光眼鏡,白杖,歩行近用眼鏡,拡大鏡,タイポスコープLVケア経過.当科初診から計26回LVケア実施.この間,T院には毎月通院加療.現在も年に数回のLVケア実施.当科初診時のLVケアでニーズ改善あり.この間,U院で再経過観察.67歳時に拡大鏡の再評価希望でU院より再紹介.LVケア2回を行い,U院で再経過観察表1症例1と2の視力,視野検査結果症例1:80歳,男性.原発開放隅角緑内障症例2:67歳,男性.正常眼圧緑内障.T院にて継続加療中.61歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診.U院にて継続加療中.64歳時にLVケア目的で当院へ紹介初診初診時視力RV=0.03(0.3×.9.5D(cyl.3.0DAx15°)LV=0.03(0.05×.10.5D)RV=0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野初診から19年後初診から2年後視力RV=0.01(n.c.)LV=手動弁(n.c.)RV=0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)視野(123)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101289〔症例2〕67歳,男性.正常眼圧緑内障.以前よりU院にて緑内障加療中であったが,2005年9月29日(61歳時)にロービジョンケア目的にて当院を紹介され受診した(表1).初診時視力は右眼0.6(0.9×.0.5D(cyl.1.0DAx100°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbであった.患者本人は読み書きに最も困っており,その改善がおもなニーズであった(表2).矯正眼鏡とタイポスコープを処方し,ニーズ改善がみられたためいったんロービジョンケア終了とした.その後,U院のみで経過観察をされていたが,ロービジョンケア希望で再度2009年5月28日(67歳時)にU院より当院を紹介され受診した.そのときの視力は,右眼0.3(0.8×.0.75D(cyl.0.75DAx130°),左眼0.05(0.1×.2.25D(cyl.0.75DAx100°)で,視野は両眼ともに湖崎分類IIIbで視野は2年前の初診時と比べて大きな変化はなかった.眼圧コントロールは点眼治療のみを継続されていた.ロービジョンケアでは,すでに自分で持っていた拡大鏡の再評価を行い,その結果をU院に報告し,再度U院での経過観察を継続している.U院と当院との連絡はロービジョン内容を含んだ情報提供書で行った(表3).II考按近年,眼科領域におけるロービジョンケアに対する認識や関心は増加傾向にある3,4).しかし,いまだ十分に普及しているとはいえない.2008年の田淵らの全国の眼科教育機関を対象として行った調査報告によれば,ロービジョン外来開設率は58.7%であった5).2009年に筆者らは,眼科教育機関の長である教授自らのロービジョンケアに対する意識調査を行った.その結果,97%の教授がロービジョンケアへの関心があると回答し,80%の教授がロービジョンケアの教育指導は必要であると感じていた.一方,近年の緑内障治療は飛躍的に進歩し,緑内障患者の一生涯の有効な視機能保存が大きな治療目標となっている.急性期の病院には見え方に不便を感じ始めている緑内障患者も数多く通院していると考えられる.そのような症例のなかには,ロービジョンケアを受けることで少しでも見やすくなる症例が相当数含まれている可能性が高い2).しかし,同じ医療機関内でロービジョンケア対応が不可,あるいは仮に可でもより高い専門性を求められるようなロービジョンケアを要する症例の場合,その症例のロービジョンケアが滞ることも予想される.そのような場合,必ずしも緑内障治療とロービジョンケアを行う医療機関が同一である必要はない.たとえば,見えにくさの状態によっては仕事を継続することが困難で休職している場合がある.それまで従事していた職種によっては,退職前にケースワーカーなどの専門職のロービジョンケア介入によって退職せずに復職可能な場合もある.双方の医療連携を利用することで患者本人が困っていることを改善しながら緑内障治療を継続できる可能性がある.症例1は,緑内障治療はT院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で61歳時にT院より紹介され受診した.治療は一貫してT院に通院され,当院ではロービジョンケアを主目的に19年間,現在に至るまで不定期に通院している.初診時から羞明と読み書き困難の改善が主訴であり,特に羞明に困っていた.その改善のために複数の遮光眼鏡を試し,実際に患者の日常生活上で使用可能かを確認しながら19年間のうち計8個の遮光眼鏡処方を行った.読み書き困難に対しては,3.5倍から7倍の拡大鏡を3個処方し,自覚的な改善が得られた.また,矯正眼鏡として遠用,中間用,近用を合わせて計7個の眼鏡を作製した.各種光学的補助具の用途に応じた使い分けの希望が強く,処方数の多い結果となった.症例2は,緑内障治療はU院で継続し,当院へはロービジョンケア目的で64歳時にU院より紹介され受診した.読み書き困難が主訴でタイポスコープと近見眼鏡処方で改善し,再びU院へ戻り通院加療を受けていた.その後,再度読み書き困難を自覚し,2009年5月,U院より当科を再紹介され受診した.すでに拡大鏡を持っており,各倍率の拡大鏡を試したが,結局はすでに持っていた近見眼鏡と拡大鏡を組み合わせることで読み書き困難が改善された.現在は再びU院で継続して経過観察を受けている.表3情報提供書………………………………….1290あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(124)一般的にロービジョンケアを進めるなかで,遮光眼鏡,拡大鏡,眼鏡などの処方は高頻度に行われる3,4).実際に,患者本人の日常生活で使用可能か否かを試しながら最終的に処方を行うことが望ましい.症例1のように処方数,種類などが多い場合,患者ニーズ改善に対して選定する補助具を数多くくり返し試す必要がある.このように時間がかかる対応を急性期病院で行うことは現実的には困難な状況であることが多いであろう.症例2では,結果的にはすでに患者本人が所有していたものを組み合わせることで見やすい環境を作ることが可能であったが,それを検証するのに時間が必要であり,症例1と同様に急性期病院で対応することがむずかしいことも想定される.緑内障は継続した治療と経過観察が重要であるが,病状の進行とともに患者のqualityoflife(QOL)が下がることもこれまでの研究で明らかとなっている.緑内障患者を対象にした視覚関連QOL研究において,25-itemNationalEyeInstituteFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25)日本語版を用いた調査で,視力0.7以上の群と比べ,0.6以下,0.3以下とそれぞれ有意にQOLが下がり,視野ではHumphrey自動視野計30-2プログラムのMD(標準偏差)値が.5dB未満になると,.5dB以上の軽度視野障害群に比べて有意にQOLが下がっていた7).今回の2症例とも,視野結果から推測する限り,かなり視覚的に低いQOLであったことが考えられる.緑内障患者におけるQOL低下の原因は,読み書き困難,羞明,歩行困難が代表的である.今回の2症例のニーズも同様であった.緑内障のロービジョンケアでは,眼圧と視野の管理に気を取られてロービジョンケア導入のタイミングを逸してしまいやすいことがある8).見えにくさを患者が訴えたとしても,忙しい眼科臨床の場で,しかも自院でロービジョンケア対応不可であれば,見え方に不自由さを感じている緑内障患者にロービジョンケアを行うのは現実的に困難であることが多いことが予測される.しかし,医療連携を用いてロービジョン対応可能な他の医療機関につなぐことでロービジョンケアを行うことが可能になる.ロービジョンケアはさまざまな施設の複数の職種が医療,福祉,教育などで関わり合うことが大切であり,連携の必要性が以前より謳われている9,10).しかし,その前に今回の2症例のように最初に患者に関わる眼科医として患者の見え方に関心をもち,患者自身が不自由さを自覚しているようであれば,近隣のロービジョンケア対応可能な医療機関へつなぐことが大切なのではないだろうか.特に緑内障患者が見えにくさを訴えた場合には,ロービジョンケア導入の好機を逃がさないためにも重要である.そのためには普段から情報を入手する必要があり,またロービジョンケアを行う側も提供している情報を常にアップデートしながら各医療機関へ情報を提供する体制を整えていくことが必要である.また.今回の2症例は,いずれも情報提供書を用いて医療機関の相互連絡を図ったが,より簡便で的確な方法を今後確立することでお互いに紹介しやすくなり,患者自身もロービジョンケアをより受けやすくなるのではないかと考えられる.ロービジョンケアが眼科臨床に根付きにくい理由として,保険点数化,費やされる時間,人手の問題などがよくあげられる.そのようななかでも,ロービジョンケアに取り組んでいる医療機関は徐々に増加傾向にある.今のロービジョンケア情報ネットワークには課題が多いのも事実であるが,今回の2症例のように緑内障治療を継続しながらであっても,医療連携を利用し治療とロービジョンケアを並行して行うことが可能である.同じ医療機関内で治療とロービジョンケアを行えれば患者にとってなお理想的だと考えられるが,それが困難な場合はロービジョンケアを行わないのではなく,別の医療機関と連携しロービジョンケアを行うことができる.今後,このような方法でも見えにくさで困っている緑内障患者のロービジョンケアをより進めやすくするために,眼科医に対するロービジョンケアの必要性の啓発,さらにはより簡便な手段での情報網整備の検討などが早急に求められ,必要とする患者がどのような形でも確実にロービジョンケアを受けられるような体制作りが望まれる.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)中村秋穂,細野佳津子,石井祐子ほか:井上眼科病院緑内障外来におけるロービジョンケア.あたらしい眼科22:821-825,20053)江口万祐子,中村昌弘,杉谷邦子ほか:獨協医科大学越谷病院におけるロービジョン外来の現状.眼紀56:434-439,20054)川崎知子,国松志保,牧野伸二ほか:自治医科大学附属病院におけるロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌8:173-176,20085)田淵昭雄,藤原篤史:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状.日眼会誌112:1096,20086)鶴岡三惠子,安藤伸朗,白木邦彦ほか:全国の眼科教授におけるロービジョンに対する意識調査.眼臨紀,印刷中7)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,20068)張替涼子:4)緑内障IV.年齢と疾患によるケアの特徴/3.疾患別特徴.眼科プラクティス14巻,ロービジョンケアガイド(樋田哲夫編),文光堂,20079)山縣祥隆:ロービジョンケアにおける連携.日本の眼科77:1123,200610)簗島謙次:ロービジョンケアにおけるチームアプローチの重要性.眼紀57:245-250,2006