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自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(107)10110910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10111016,2008cはじめに地方都市では,公共交通機関の充実した都市部から離れているため,視覚障害により自動車運転が困難となり,通勤,通学,買い物などの日常生活に支障をきたしている症例に,数多く遭遇する.その一方で,緑内障のような,徐々に求心性視野狭窄が進行するような疾患では自覚症状に乏しく,運転に支障をきたすと予想される高度な視野障害を認める場合でも運転を継続し,安全確認不足が原因と考えられる交通事故を起こしている.欧米では,視野障害患者の交通事故頻度が正常者の2倍であった1),など自動車運転と視野障害との関連性が数多く報告されている211).このうち緑内障性視野障害と自動車運転の関連性ついての報告も散見される811).しかし,わが国において緑内障性視野障害の程度と自動車運転の関連性について調べた報告は筆者らが調べた限りではない.今回筆者らは,末期緑内障患者で,自動車事故を起こした2症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕55歳,男性.1994年3月,弟が緑内障であったため,精査を希望し当〔別刷請求先〕青木由紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例青木由紀国松志保原岳自治医科大学眼科学教室TwoCasesofGlaucomaPatientsWhoHadVehicleAccidentsYukiAoki,ShihoKunimatsuandTakeshiHaraDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity目的:自治医科大学附属病院緑内障外来に通院中の末期緑内障患者2名に,安全確認不足が原因と思われる交通事故の既往を認めたので報告する.症例1:55歳,男性.2002年交通事故4件を起こした.事故当時視力は右眼(0.8),左眼(0.7),Humphrey中心30-2プログラム(以下,HFA30-2)のmeandeviation(以下,MD)値は右眼24.39dB,左眼17.29dBであり,Goldmann視野検査は右眼湖崎分類Ⅲb期,左眼Ⅲa期であった.症例2:55歳,男性.2007年に対物事故を1回起こした.事故当時の視力は右眼(1.2),左眼0.01(矯正不能),HFA30-2にてMD値は右眼31.00dB,左眼29.05dBであり,Goldmann視野検査は右眼湖崎分類Ⅳ期,左眼Ⅴb期であった.結論:高度な求心性視野狭窄を認める患者に対して眼科医は,自動車運転状況についても注意する必要があると思われた.Wereporttwocasesofpatientswithsevereglaucomatouseldlosswhohadvehicleaccidents.Case1,a55-year-oldmale,hadfourvehicleaccidentsin2002.Hisvisualacuitywas0.8righteyeand0.7left;meandevia-tion(MD)ofHumphreyvisualeldtestwas24.39dBand17.29dB,classicationofKozakiinGoldmannvisualeldtestwasstageⅢbandstageⅢa.Case2,a55-year-oldmale,hadonevehicleaccidentinMarch2007.Hisvisualacuitywas1.2righteyeand0.01left;MDwas31.00dBand29.05dB,classicationofKozakiinGold-mannvisualeldtestwasstageⅣandstageⅤb.Thesecasessuggestthatophthalmologistsshouldpayattentiontothedrivingconditionofpatientswithseverevisualeldloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10111016,2008〕Keywords:緑内障,求心性視野障害,自動車運転,交通事故,運転免許.glaucoma,aerentvisualeldloss,driving,tracaccident,drivinglicense.———————————————————————-Page21012あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(108)科初診.初診時視力は矯正視力右眼1.2,左眼1.2,眼圧は右眼22mmHg,左眼19mmHg.両眼とも緑内障性視神経乳頭陥凹を認め,Humphrey視野検査中心30-2プログラム(以下,HFA30-2)にて,meandeviation(以下,MD)右眼22.44dB,左眼12.25dBと,緑内障性視野障害を認めたため(図1),原発開放隅角緑内障と診断された.眼圧コントロール不良のため1998年6月に右眼線維柱帯切除術を施行し,その後白内障による視力低下がみられたため,1999年7月に右眼白内障手術を施行している.運転歴:22歳時から28年間.通勤のため,1日60分から120分運転していた.運転免許は3年ごとに更新されていたが,視力検査のみで,視野検査は受けなかった.事故歴:2002年に対物事故を3回,対人事故を1回起こした.対人事故は,「交差点左折時に,歩行者がいるのに気づかず,ひっかけてしまった」とのことだった.対人事故後に自己判断により自動車の運転は中止した.眼科的所見(対人事故発生当時):視力は右眼矯正0.8,左眼矯正0.7.眼圧は右眼13mmHg,左眼15mmHg.HFA30-2視野検査結果では,MD値は右眼で24.39dB,左眼で17.29dBであり,両眼ともに中心近傍に絶対暗点があった(図2).Goldmann視野検査では,右眼は湖崎分類Ⅲb期,左眼は湖崎分類Ⅲa期であり,優位眼(左眼)もⅠ-2視標が10°以内であった(図3).〔症例2〕55歳,男性.2007年1月に左眼の視力低下を主訴に近医眼科受診,緑内障と診断された.精査・加療目的にて,2007年1月当科へ紹介受診となった.初診時視力は右眼1.2,左眼0.01(矯正不能).眼底検査で両眼に緑内障性視神経乳頭陥凹が観察された.HFA30-2視野検査にて,MDは右眼31.00dB,左眼29.05dBであった(図4).Goldmann視野検査では,右眼は湖崎分類Ⅳ期,左眼は湖崎分類Ⅴb期であった(図5).運転歴:18歳時から37年間.現在,通勤のため,1日20分運転している.運転免許は2006年8月に更新したが,視力検査ののち,視野検査を施行し,合格となった.事故歴:2007年3月に対物事故を1回起こした.「一時停止で止まり,よくよく左右を確認して発進したが,側方から来た車と接触した」とのことであった.II考按わが国における運転普通免許の視力・視野に関する取得・更新基準は,「視力が両眼で0.7以上,かつ一眼でそれぞれ0.3以上であること,または一眼の視力が0.3に満たないも図1症例1:Humphrey視野検査結果(1994年7月29日)初診時Humphrey視野検査中心30-2プログラム結果.MD値は右眼では22.44dB,左眼では12.25dBであった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081013(109)の,もしくは一眼が見えないものについては他眼の視野が左右150°以上で視力が0.7以上であること」と規定されている(道路交通法より).視力検査で不合格となった場合,視力の良い片眼の視野検査が施行される.運転免許センターおよび警察署において使用されている視野検査器(図6)では,被検者が,中心の固視点を見て,検者が水平方向に動かした白点が,視野から消失した時点と確認できた時点でボタンを押し,水平視野150°以上で合格となる.さらに表1の疾患では,免許取得・更新にあたり,診断書の提出が必要となる.これらの疾患の既往がある場合は,自己申告により免許図2症例1:Humphrey視野検査結果(1998年3月19日)対人事故発生当時のHumphrey視野検査結果中心30-2プログラム.MD値は右眼では24.39dB,左眼では17.29dBであった.図3症例1:Goldmann視野検査結果(2001年2月9日)対人事故発生当時のGoldmann視野検査結果.湖崎分類は右眼ではⅢb期,左眼ではⅢa期であった.左眼右眼———————————————————————-Page41014あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008取得および更新時には医師の診断書が必要となり,その病状により免許交付がなされない場合がある.現在のところ緑内障をはじめとする眼疾患はいずれもこれらの疾患群には入っていない.症例1では,高度な求心性視野障害を認めるものの,両眼ともに矯正視力は良好であるため,視野検査は施行されない.このように,安全確認を行うには不十分な視野であると思われても,運転免許が更新できてしまうため,患者本人も不安を覚えながらも運転を継続し,不幸にして事故に結びつく症例があることを経験した.この症例は,人身事故をきっ(110)図4症例2:Humphrey視野検査結果(2007年3月26日)初診時のHumphrey視野検査結果中心30-2プログラム.MD値は右眼では31.00dB,左眼では29.05dBであった.図5症例2:Goldmann視野検査結果(2007年1月22日)初診時のGoldmann視野検査結果.湖崎分類は右眼ではⅣ期,左眼ではⅤb期であった.左眼右眼———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081015かけに運転を中止しているが,中心視力が良いため,免許の更新は今後も可能である.症例2の場合は左眼の視力が0.01であることから,視野検査の適応となる.2007年に当院で施行した視野検査結果では,右眼の水平視野は20°と,規定の150°未満であり,不合格となるはずである.しかし,実際には,2006年8月の免許更新時に視野検査を受けて合格し,運転を継続していた.あくまで推測であるが,視野検査施行時に,患者が中心固視できていなかった可能性や,若干の顎台の位置のずれにより検査に合格してしまった可能性がある.このように,視野障害のため,免許更新ができないと思われても,免許センターでの視野検査は精密なものではないため,免許更新ができてしまう症例があることを経験した.この症例の場合は,患者本人に,視野が狭いという自覚症状がまったくなく,事故を起こしたあとも,主治医が注意を喚起しているにもかかわらず,運転を続けている.今回の2症例とも,眼科主治医は,患者が事故を起こしたことはもちろん,運転していることすら把握していていなかった.今回の症例のように,実際に事故に結びついている症例もあることから,まずは,眼科担当医が,患者の自動車運転の実態について把握するべきであると考えた.国土交通省の調査(平成17年度府県別輸送機関分担率調査)によると,府県内における移動手段としての自動車の占める割合は,都市部である東京31.4%,大阪49.8%であるのに対して,地方では,島根県98.0%,山形県98.2%と格差があり,栃木県でも96.8%と高い比率を占めている.過疎化に従い,バス路線が廃止されるところもあり,地方では,自動車運転は,欠かすことのできない交通手段となっている.高度の視野障害をきたした患者の運転の可否については,客観的に視野障害度を判断できる眼科医よりアドバイスをするべきだとは思うが,どの程度の視野障害が自動車運転に支障をきたすのかという基準はまだない.また,眼科医が運転を中止させることにより,交通手段をなくし,生活に困る場合もあると思われ,慎重に対応するべきである.欧米では,Szlykらが,周辺視野障害をきたした緑内障患者に自動車運転のシミュレーションを行ったところ,水平視野の範囲が100°を下回ると,シミュレーション上での事故危険度が増加したと報告している12).運転免許の基準も,交通事情も,交通ルールも,各国で異なるため,欧米での報告をそのままわが国にあてはめることはできない.今後,わが国独自の視野障害と自動車運転に関係するさらなる研究を進め,緑内障患者の安全運転のための基準を作成する必要があると考える.文献1)SzlykJP,FishmanGA,MasterSPetal:Peripheralvisionscreeningfordrivinginretinitispigmentosapatients.Ophthalmology98:612-618,19912)FishmanGA,AndersonRJ,StinsonLetal:Drivingper-formanceofretinitispigmentosapatients.BrJOphthalmol65:122-126,19813)JohnsonCA,KeltnerJL:Incidenceofvisualeldlossin20,000eyesanditsrelationshiptodrivingperformance.ArchOphthalmol101:371-375,19834)WoodJM,TroutbeckR:Eectofrestrictionofthebinoc-ularvisualeldondrivingperformance.OphthalmicPhys-iolOpt12:291-298,19925)SzlykJP,AlexanderKR,SeveringKetal:Assessmentofdrivingperformanceinpatientswithretinitispigmentosa.ArchOphthalmol110:1709-1713,19926)SzlykJP,shmanGA,SeveringKetal:Evaluationofdrivingperformanceinpatientswithjuvenilemaculardystorophies.ArchOphthalmol111:207-212,19937)SzlykJP,PizzimentiCE,FishmanGAetal:Acompari-sonofdrivinginoldersubjectswithandwithoutage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol113:1033-1040,19958)ParrishRK,GeddeSJ,ScottIUetal:Visualfunctionand(111)表1自動車免許取得・更新の際に診断書の提出が必要となる疾患・精神疾患(統合失調症・そううつ病・急性一過性精神病性障害・持続性妄想性障害など)・てんかん・失神・低血糖・睡眠障害・認知症・脳卒中表に示す疾患では,免許取得・更新にあたり,診断書の提出が必要となり,その病状により免許交付がなされない場合がある.図6運転免許センター設置の自動視野計写真は栃木県運転免許センターに設置されている自動視野計.免許更新時には全国的に同様の検査機で視野検査を行う.———————————————————————-Page61016あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008qualityoflifeamongpatientswithglaucoma.ArchOph-thalmol115:1447-1455,19979)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthal-molVisSci48:1149-1155,200710)McGwinGJr,XieA,MaysAetal:Visualelddefectsandtheriskofmotorvehiclecollisionsamongpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:4437-4441,200511)SzlykJP,TagliaDP,PaligaJetal:Drivingperformanceinpatientswithmildtomoderateglaucomatousclinicalvisionchanges.JRehabilRD39:467-482,200212)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperfor-manceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualeldloss.JGlaucoma14:145-150,2005(112)***

英国の運転免許の視野基準をそのまま日本に取り入れることができるか? ─眼瞼挙上術と視野の関係から推察─

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(141)8910910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):891894,2008c〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034甲府市宝1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu,Yamanashi400-0034,JAPAN英国の運転免許の視野基準をそのまま日本に取り入れることができるか?─眼瞼挙上術と視野の関係から推察─加茂純子*1佐久間静子*1矢崎三千代*1星野清司*2*1甲府共立病院眼科*2巨摩共立病院眼科CantheBritishVisualFieldStandardforDriversbeAdoptedtoAs-IsTotheJapaneseStandard─SpeculatedfromtheEectonVisualFieldofSurgeryforElderlyPtosisJunkoKamo1),ShizukoSakuma1),MichiyoYazaki1)andSeijiHoshino2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KomaKyoritsuHospital:英国ではEstermantestまたはGoldmannⅢ4の両眼合わせた水平視野が120°あることを運転免許の視野基準としている.また中心から20°以内に連続した暗点があると不適格と判定される.目的:眼瞼挙上術の手術の結果,英国の基準に達するかを判定した.対象および方法:2005年8月から2007年6月の間に甲府共立病院で行った老人性眼瞼弛緩,および顔面神経麻痺後の眼瞼下垂に対する眼瞼挙上術のうち29眼は術前術後に視野を測ることができた.男性12眼,女性17眼で平均年齢は72.6歳(5691歳).V4とI4の平均からⅢ4を推測し,英国の合格基準に達するかを調べた.結果:両眼合わせた水平視野(°)は術前V4e120±25,Ⅲ4e98±29,術後はV4e143±18,Ⅲ4e125±17で各イソプター間には有意な差があった.垂直視野(°)の平均は術前でV4e23.1±10,Ⅲ4e20.2±9.7,術後でV4e34±11.5,Ⅲ4e30.2±9.8.両眼水平視野が術前120°以上あるものは,V4で60%,Ⅲ4で20%,術後はV4で80%,Ⅲ4で45%であった.垂直の中心から20°以上あるものは術前V4で55.1%,Ⅲ4では51.7%,術後ではV4が86.2%,Ⅲ4で82.7%であった.結論:眼瞼下垂の手術は,統計的に日本人の視野を広げるが,高齢の日本人に,英国の基準Ⅲ4eをそのまま適応とするのは厳しすぎるかもしれない.多施設で多くの症例を集め,日本の標準視野を作る必要がある.Background:TheBritishvisualeldstandardfordriversisbinocular(botheyesopen)visualeldof120°inthehorizontalmeridianand20°intheuppermeridianwithGoldmannⅢ4eortheEstermantest.Purpose:TodeterminewhethertheBritishvisualeldstandardfordriverscanbeadoptedtotheJapanesestandardbymea-suringthevisualeldbeforeandaftersurgeryforptosis.Subjectandmethod:FromAugust2005toJune2007weoperatedon63elderlywithblepharoptosisandafterfacialnerveptosis.Ofthese,visualeld(GoldmannV4,I4)couldbemeasuredin29eyesbeforeandaftersurgery(male:12sides,female:17sides.averageage:72.6years(5691years).Weusedpairedt-analysistoevaluatehorizontalandverticalmeridianslatitudebeforeandaftersurgery.Theratiosbeforeandafterwerecalculatedtoeachmeridian.Ⅲ4wasestimatedfromtheaverageofV4eandI4e.WecalculatedthepercentageofpassingratefortheBritishstandard.Result:Thehorizontallatitude(degree)beforesurgerywasV4e:120±25,Ⅲ4:98±29,aftersurgeryitwas:V4e143±18,Ⅲ4e125±17.TheverticalvisualeldbeforesurgerywasV4e:23.1±10,Ⅲ4e:20.2±9.7;aftersurgeryitwasV4e:34±11.5,Ⅲ4e:30.2±9.8.Eachbecamesignicantlywider(p<0.05).Thepercentageover120°inthehorizontalmeridianbeforesurgerywas45%forV4,20%forⅢ4;aftersurgeryitwas80%forV4and60%forⅢ4.Thepercentageover20°intheuppermeridianwas55.1%forV4and51.7%forⅢ4,aftersurgeryitwas86.2%forV4and82.7%forⅢ4.Conclusion:Inadditiontothecosmeticeect,thewideningofbothupperandhorizontalmeridianswasstatisticallyconrmed.ForJapanese,however,theBritishstandardmightbetoostringent.Moredataisneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):891894,2008〕Keywords:運転免許,標準視野,眼瞼下垂手術.driverslicense,standardvisualeld,ptosissugery.———————————————————————-Page2892あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(142)III対象および方法2005年8月から2007年6月の間に甲府共立病院で行った老人性眼瞼弛緩,および顔面神経麻痺後の眼瞼下垂に対する眼瞼挙上術は63眼あった.眼科的に正常というクライテリアはJaeらの論文3)を少し改変し表1のように定めた.表1を満たした患者には同意を得て20人29眼は,術前術後にテープや前頭筋を使わず,ありのままの視野を測ることができた.また,挙筋機能は7mm以上のものとした.術前の挙筋機能は男性9±1.5mm,女性9.1±2.1mmであっI背景2008年から高齢者に視野検査をするという情報がある(http://www.mainichi.co.jp/universalon/clipping/200704/015.html毎日新聞4月1日)が,眼科医には通達されていない.診断計は顔を固定し,30cm離れた地点から発せられた赤い光を感知できるかを測る.光は上下左右から出て,上方向に60°,下方向に70°,左右に90°までの視野を測ることができるというものである.しかし,どこをカットオフ値にするかについての記載がない.筆者らは,網膜色素変性症で両眼の視力が良いために,普通免許,大型免許をパスし,夜や暗いところで見えず,事故にあって初めて眼科を受診し,その病気に気づくという例を報告した(第8回日本ロービジョン学会,2007年9月発表).海外には医学雑誌に,視野と交通事故について多くの論文(2007年8月時点でのPubMed検索結果113)が出版されており,問題意識も高い.さらに,英国,EU(欧州連合)諸国では視野の規定がある.英国の車両と運転免許の機関(Driv-ersandVehicleLicensingAgency:DVLA)ではGold-mann視野Ⅲ4eまたはEstermantestで両眼合わせた水平方向視野の120°以上が基準となっている.中心から半径20°以内に有意な欠損があると免許不適格になる(http://www.dvla.gov.uk/).EUの基準(EUproject:I-TRENE3200/7/SI2.282826)もこれに準ずるが,コントラスト感度やグレアなど付加的な要素も検討されつつある.また2006年のWorldOcularCongressではColenbranderらが中心となって,‘VisionRequirementforDrivingSafety’をまとめている.http://www.icoph.org/standards/drivingexec.htmlには世界の運転基準,米国の各州の運転基準が表としてまとめられ,世界的標準の推奨が述べられており,やはり,ヨーロッパと同じ,Goldmann視野Ⅲ4eまたはEstermantestを用い,水平は120°を採択する方向になっている.先に筆者らは,眼瞼挙上術前後29眼(20人)の8主経線の緯度につき術前後で対応のある平均の差のt検定を行った.前後比も計算した.緯度はV4eで上方(鼻上:術前35.9°が40.9°と1.26倍,真上は23.1°が34.0°と1.25倍,耳上は28.4°が43.75°と1.74倍)が改善するのみならず,水平方向(鼻側は52.9°が57.0°と1.09倍,耳側は58.6°が70.1°と1.31倍)にも有意に広がることを示した(p<0.05)1).II目的老人性眼瞼下垂または顔面神経後の眼瞼下垂に対する眼瞼挙上術前後に,Goldmann視野のV4eとI4e視標の垂直と耳側の緯度の平均からⅢ4eを推測し2),欧米の運転免許の基準である水平120°と中心から垂直上方20°に達するかを調べた.表1視野に影響を及ぼす眼疾患がないことを調べるチェックリストの眼の対がで()がないこと視が上でとに視野に影響を及ぼすよながないことがでで下でることの対視野両眼合た視野に影響を及ぼすよな眼の疾患がないこと視野にを及ぼすよなの疾患がないこと図1術前後の垂直と耳側水平経線の変化上段左は術前で右が術後.下段は,術前後の左と右の視野(GoldmannV4e)を示す.内側が術前で,外側が術後,一番外側は身障者の基準の視野を参考のために示した.垂直は各眼で測り,水平視野は各眼の耳側の経線の緯度を加えることで,両眼の水平視野とした.術前術後baa+b=両眼開放時の水平視野術前術後———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008893(143)Ⅲ4eの水平両眼の120°という基準は術後ですら45%しかクリアしないことから,高齢(平均73歳)日本人には厳しすぎる.術後のV4eならば,ようやく術後で80%がクリアすることから日本人にはちょうどよいかもしれない.しかし,症例数が限られているために偏りがあるかもしれない.多くの施設で,V4e,Ⅲ4e,I4eの輝度で眼瞼の手術前後の視野を測っていただき,日本人の年齢別の標準を作る必要があることた.患者の内訳は男性12眼,女性17眼で,平均年齢は72.6歳(5691歳)であった(図1).IV結果術前の瞼裂幅は5.46±1.42mm,術後の瞼幅は7.5±0.72mmと有意に広がった.両眼水平視野が術前120°以上あるものは,術前Ⅲ4eで20%,術後で45%であった(図2a).V4eでは術前45%,術後80%であった(図2b).一方,中心から20°以内に有意な欠損がないという英国の規定を,真上の緯度が20°以上あるものとして調べると,パスする割合はⅢ4eでは術前51.7%に対し,術後は82.7%になる(図3a).V4eでは術前に55.1%であったものが,術後には86.2%になる(図3b).水平視野の平均は術前でV4e:120±25°,Ⅲ4e:98±29°,術後はV4e:143±18°,Ⅲ4e:125±17°で,各イソプター間には有意な差があった(表2).垂直視野の平均は術前でV4e:23.1±10.4°,Ⅲ4e:20.2±9.7°,術後でV4e:34±11.5°,Ⅲ4e:30.2±9.8°で,各イソプター間には有意な差があった(表3).V考按眼瞼の手術は日本人の視野を有意に改善する.今回のことで初めて視野検査を受けた高齢者であるが,学習効果を鑑みても有意に改善した.図2aⅢ4eに換算した水平視野の変化─英国の基準120°を超える割合(平均年齢73.1±8.2歳)160140120100806040200術前術後20%45%(?)図2bV4eの両眼水平視野の変化─120°を超える割合(平均年齢73.1±8.2歳)術前術後180160140120100806040200(?)60%80%術前6~40?術後17~45?50454035302520151050(?)51.7%82.7%図3aⅢ4eに換算した垂直視野の変化─英国の基準20°を超える割合(平均年齢72.6±7.1歳)術前7~37?術後16~52?6050403020100(?)86.2%55.1%図3bV4eの垂直視野の変化─20°を超える割合(平均年齢72.6±7.1歳)表2眼瞼挙上術前後の水平視野─平均年齢73.1±8.2歳,20人の平均─術前平均(°)術後平均(°)V4Ⅲ4V4Ⅲ4120±2598±29143±18125±17p<0.05p<0.05表3眼瞼挙上術前後の垂直視野(中心から真上)─平均年齢72.6±7.2歳,29側の平均─術前平均(°)術後平均(°)V4Ⅲ4V4Ⅲ423.1±10.420.2±9.734±11.530.2±9.8p<0.05p<0.05———————————————————————-Page4894あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008年輩者が増えるなか,日本独自の基準を眼科医が中心になって作る必要がある.欧米の基準そのままでは,排除される年輩者が増えてしまい,自立を妨げる.外来に訪れた,車を運転する加齢性の眼瞼下垂の患者には,このようなデータを見せて手術を勧め,術前後に視野検査をして,日本人の標準視野のデータを作成していく必要があるかと考えられた.これに,運転での問題点,事故歴などの質問票を調べれば,実際の運転の安全性を評価していけるし,qualityoflifeの質問票もつけて,相関を調べれば身体障害者の基準視野の基礎にもなりうると考えられた1).本論文は第49回日本産業・労働・交通眼科学会において口演した.文献1)加茂純子,海野明美,矢崎三千代ほか:加齢および顔面神経麻痺による眼瞼下垂への手術の視野面積と緯度への影響.臨眼62:269-273,20082)vanRijnLJ:Binocularvisualeldmeasurementfordriv-ingassessment:comparisonofEstermanandGoldmanntechniques.In:vandenBergTJTP,vanRijnLJ,GrabnerG,WilhelmH(eds):Assessmentofvisualfunctionofdriving-licenseholders.JointresearchprojectsupportedbytheEuropeanCommissionI-TRENE3200/7/SI2.282826.p61-80,20033)JaeGJ,AlvaradoJA,JusterRP:Age-relatedchangesofthenormalvisualeld.ArchOphthalmol104:1021-1025,19864)NetzerO,PayneVG:Eectsofageandgenderonfunc-tionalrotationandlateralmovementsoftheneckandback.Gerontology39:320-326,1993(144)が示唆された.また,標準が作られたとしても,カットオフ値で切ってしまうのではなく,地方で,公共の交通機関がなく運転ができないと生活ができないなどの場合には,地域限定免許とか,昼間限定免許などの個々に応じた対応が必要になると考えられる.加齢によって,首の後屈も含めた可動性が制限される4).そうすると,首を曲げないでまっすぐ見て運転していた場合に,視野が上方にX°あったとして,何mまで近づいてしまうと地上から上方5mにある信号機を,地上から約1mにある運転手の眼が見落とす可能性があるかを,タンジェント(tan)を用いて計算してみた(図4).上方に30°見える人は7m,英国やEUの基準である20°では10.5m,10°では22.6m,7°では32.59mですでに信号が眼に入らない可能性がある.高齢者で信号無視が多いのは,意識的に無視しているというよりも,眼瞼下垂によって眼に入らなかった可能性がある.少子高齢化が進み,かなり高齢になっても車を必要とする視線をまっすぐで見える上方視野θ°5m1m4mtan10?=4/x0.17=4/xX=22.69mXmtan7?=4/x0.12=4/xX=32.59m信号tan30?=4/x0.57=4/xX=7mtan20?=4/x0.38=4/xX=10.5m図4Xmまで近づくと眼瞼下垂の眼に信号が入らなくなるか***