———————————————————————-Page1(129)14570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14571460,2008cはじめに立体視は両眼視機能のなかでも高度な視機能であり,奥行きを知覚するための重要な役割を担う.眼科臨床では小児の正常な視機能の発達評価や,弱視治療の治癒基準などの重要な指標となっており,その検査法としてTNOstereotests(以下,TNO)やTitmusstereotests(以下,TST)などが一般的に用いられている.この立体視に対して,両眼のコントラストの差が影響を及ぼすとの報告14)がされている.しかしながら,コントラストの影響を検討した報告で使用される立体視検査法は,TNOやTSTが多く用いられており,両眼分離法として赤緑眼鏡や偏光眼鏡の装用が必要である.これら両眼分離用眼鏡は,それ自体が左右眼のコントラストや輝度を変化させる.さらに,コントラスト差を変化させる方法として漸増遮閉膜を用いており,同時に視力や照度も変化させている.これらのことから,従来の報告では立体視に影響を及ぼす多因子が混在した条件下で検討されており,左右眼のコントラスト差のみを検討した結果とは言い難い.そこで今回筆者らは,赤緑眼鏡や偏光眼鏡を装用することなく両眼分離し,呈示する視標のコントラストのみを変化させることが可能な,小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置を使用し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN遠見立体視におけるコントラストの影響藤村芙佐子*1半田知也*1石川均*1魚里博*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*2北里大学医学部眼科学教室EfectsofContrastonStereopsisFusakoFujimura1),TomoyaHanda1),HitoshiIshikawa1),HiroshiUozato1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity遠見立体視へのコントラストの影響について検討した.屈折異常以外の眼科的疾患を有さない健常者28名を対象とした.遠見立体視測定には4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いた立体視検査装置を使用した.両眼視差100secofarcの立体視視標を呈示し,遠見屈折矯正下にて両眼または片眼(優位眼,非優位眼)の視標コントラストを100%10%まで低下させ,各条件下で立体視の有無を確認した.コントラストを両眼等量に低下した場合,ほぼ全例,全条件下で立体視が得られたのに対し,片眼(優位眼,非優位眼)のみの視標コントラストを低下させた場合では,ともに65%以下の条件下で,立体視は有意に低下した(ともにp<0.05).左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.Weinvestigatedtheinuenceofcontrastsensitivityondistancestereopsis.Participatinginthestudywere28younghealthyvolunteerswithnoophthalmologicaldiseaseexceptrefactiveerror.A4.3-inchliquidcrystalscreen(PlayStationPortableR,SONY)wasusedasthebasisofthestereoscopicapparatus.Distancestereopsiswithparal-laxof100secondswasmeasuredwithdistancecorrection.Stereoscopicgurecontrastwasdecreasedgraduallyfrom100%to10%in10or5steps,thesamequantityinbotheyesorinonlyoneeye(dominanteye,non-domi-nanteye).Whencontrastforbotheyeswasdecreasedequally,almostallsubjectswereabletorecognizetheste-reoscopicguredowntoacontrastof10%.Whencontrastforoneeyeonly(dominanteyeornon-dominanteye)wasdecreased,stereoacuitydecreasedsolongasthecontrastforoneeyewasunder65%(p<0.05).Theresultssuggestthattheinterocularimbalanceofcontrastonastereoscopicgureisinuencedbydistancestereopsis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14571460,2008〕Keywords:遠見立体視,コントラスト感度.distantstereopsis,contrastsensitivity.———————————————————————-Page21458あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(130)I対象両眼とも遠見矯正視力1.0以上を有し,眼位は正位または10Δ以内の斜位で,屈折異常以外の眼科的疾患のない健常者28名,平均年齢22.5±3.3歳(2032歳)を対象とした.平均自覚的屈折値(等価球面値)は優位眼2.29±2.41D(7.00D+1.00D),非優位眼2.28±2.47D(7.00D+1.25D)であり,優位眼と非優位眼の間に自覚的屈折値の差は認められなかった.なお,2.0D以上の不同視は除外した.優位眼の決定にはhole-in-cardtestを用いた.II方法遠見立体視の検査には,立体視図形の呈示装置として4.3インチ小型液晶ディスプレイを用いた(PlayStationPorta-bleR,SONY社).本機器は視差のある静的・動的立体視図形を呈示し,筒状の両眼分離用のビューアー越しに視標を見せることで立体視を知覚させる.ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cmであり,左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定している(図1).立体視図形の両眼視差は2,000100secofarc(以下,秒)まで100秒間隔で20段階の等間隔に変化させることが可能である5).本検討においては,静的立体視図形としてサイズ9,000秒のサークルを用い,両眼視差は正常両眼視とされる6)100秒に設定した.静的立体視の有無の評価は,眼鏡もしくはコンタクトレンズによる遠見屈折矯正下にて視標を呈示し,4つのサークル(黒字に白のサークル)のうち,とびだす1つのサークルを選択させ(強制選択法)その正誤により立体視の有無を判定した.このとき,最低4回の測定を行いその過半数以上の正誤回答を採用した.また視標のコントラストを100%10%まで変化させ,その都度,立体視の有無を確認した.視標のコントラストはディスプレイの中心に表示可能な256通りすべての視標を呈示し,輝度計(LS-100,MINOLTA社)を用い暗黒下にてその輝度を5回測定した.その平均値からMichelsonコントラスト「コントラスト=(LmaxLmin)/(Lmax+Lmin)×100(Lmax:最大輝度,Lmin:最小輝度)」により算出し,以下のように定義した.100%(99.7%),90%(90.2%),80%(80.1%),70%(70.1%),65%(65.2%),60%(60.1%),55%(55.1%),50%(49.9%),45%(44.8%),40%(40.0%),35%(35.0%),30%(30.0%),25%(25.6%),20%(19.8%),15%(16.0%),10%(10.2%)〔()内は実測値,小数第2位以下四捨五入〕.さらに,コントラストを低下させる際,両眼等量,もしくは片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させ(他眼の立体視図形のコントラストは100%に固定)(図2),両眼の視標コントラストが100%の条件下での立体視の正答数と,各条件下での正答数とを比較し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.統計学的検討にはWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.III結果両眼の視標コントラストが100%の条件下において,全例,両眼視差100秒の遠見立体視が知覚された.視標コントラストを両眼等量に低下させた場合では,コントラスト100%10%の条件下において遠見立体視の有意な低下は認めなかった(図3).視標コントラストを片眼のみ(優位眼または非優位眼)低下させた場合では,片眼65%10%の条件にて遠見立体視が有意に低下した(p<0.05)(図4,5).優位眼を低下させた場合と,非優位眼を低下させた場合とで,立体視の低下に有意な差は認めなかった.また,片眼コントラストが40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加する傾向にあった.IV考按両眼の視標コントラストが100%の条件下にて,全例,遠見立体視を知覚した.また,視標コントラストを両眼等量に両眼低下片眼低下図2立体視検査図形左:両眼等量に視標コントラストを低下.右:片眼(優位眼,非優位眼)のみ視標コントラストを低下.図1遠見立体視測定装置右:ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cm.左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定.左:4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081459(131)低下させた場合,ほぼ全例遠見立体視が維持されたのに対し,片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させた場合では65%10%の条件下,すなわち左右眼の視標コントラストの比が1.67以上の条件下にて有意に遠見立体視が低下した.このことから,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼしていることが示された.今回の検討結果では,片眼の視標コントラストが100%,他眼の視標コントラストが65%以下の条件下にて遠見立体視が有意に低下した.このことから,遠見立体視においても過去の報告と同等の結果が得られたと考える.現在,眼科臨床において行われるおもな立体視検査としてTNO,TSTがあげられる.両者とも両眼分離用眼鏡(赤緑眼鏡,偏光眼鏡)を装用して検査を行う.両眼鏡ともフィルター越しの視標コントラストを変化させ,立体視に影響を及ぼすことが考えられる.大畑ら4)は,偏光フィルター越しでのTST検査表のコントラストは左右眼で差は小さく80%以上であり,TNO検査表のコントラストは赤フィルター越しでは28.2%,緑フィルター越しでは79.7%でその比は2.83に及んだとしている.さらに矢ヶ﨑ら3)は赤フィルター越しでは49.7%,緑フィルター越しでは81.1%であり,その比が1.63になり,TNOを用いた近見立体視の検討において120秒以上の良好な立体視力を正常値とすると,この条件を成立させるための左右眼のコントラスト比は2.00から1.47間であったとしている.さらに,TNOはTSTに比べて正常者であっても本来の立体視より低く検出されてしまう危険性がある3)と述べている.加えて,高齢者では,コントラスト感度が低下しており79)高齢者の立体視測定においてもTNOの結果判定には留意することが必要4)とされている.また,各種弱視症例では,コントラスト感度が低下していると報告1014)されており,Simonsら14)は,不同視弱視症例においてTNO用の赤緑フィルターを左右眼で交換して立体視力を測定すると約2倍の立体視力の差が生じたと結論づけている.これらのことから,左右眼のコントラストを変化させる可能性のある赤緑眼鏡,偏光眼鏡装用下での立体視検査では,その評価に十分注意する必要があると考えられる.これに対し,今回使用した小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置は,両眼分離用の眼鏡を用いないため,コントラストの影響を受けることなく立体視検査が可能となり,被検者本来の立体視機能をより正確に定量できる可能性が示唆される.今回の検討結果では,片眼のみ視標コントラストを低下させた条件下において,片眼コントラスト65%以下で遠見立体視が低下した.しかし,さらに片眼コントラストを低下させていくと30%20%のときに,65%40%時に比べて立体視の正答数が増加する現象がみられた(図4,5).この現象は再現性があったため,以下のように推論した.視標の視差は図形の左右への位置ずれであり,両眼で融像することで正答数()302520151050100908070656055504540353025201510両眼コントラスト(%)<両眼等量に低下>(n=28)図3立体視検査結果両眼等量に視標コントラストを低下させた場合.ほぼ全例,全条件下にて立体視を維持.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510非優位眼コントラスト(%)<非優位眼のみ低下>(n=28)*****************************図5立体視検査結果片眼(非優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510優位眼コントラスト(%)<優位眼のみ低下>(n=28)***************************図4立体視検査結果片眼(優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.———————————————————————-Page41460あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(132)初めて立体的に知覚される.今回の検討にあたり被検者には十分な検査説明を行ったうえで,遠見立体視の測定を実施した.しかしながら,片眼のみ視標のコントラストを低下させるという検査条件下にて,2つの視標図形が融像できなくても「位置ずれ」を「立体感」と誤認し回答した可能性は否定できず,これにより片眼コントラストが65%40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加した可能性が推察される.他の原因についてさらに検討を行うとともに,今後,検査中の固視や融像の有無をより詳細にチェックし検討する必要があると考える.今回,視標コントラストのみならず視力や照度も変化させる漸減遮閉膜を使用することなく,視標コントラストのみを変化させることが可能な小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いて,遠見立体視検査を行った結果,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.文献1)FrisbyJP,MayhewJEW:Contrastsensitivityfunctionforstereopsis.Perception7:423-429,19782)LeggeGE,GuY:Stereopsisandcontrast.VisionRes29:989-1004,19893)矢ヶ﨑悌司,田小路寿子,栃倉浪代ほか:ランダムドットパターンを用いた立体視検査表に対するコントラストの影響.眼臨96:424-429,20024)大畑晶子,市川一夫,玉置明野ほか:コントラスト感度の立体視検査法への影響.日本視能訓練士協会誌29:185-188,20015)半田知也,石川均,魚里博ほか:小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置の開発.臨眼61:389-392,20076)岩田美雪,粟屋忍:ステレオテスト.眼科MOOK31:93-102,19877)渥美一成,田中英成:加齢によるコントラスト感度の変化.視覚の科学13:54-57,19928)鵜飼一彦,松野彩子,大木千佳ほか:多数例におけるコントラスト感度空間周波数特性の検討正常者の年齢・弱視者の視力をパラメーターとした解析.眼臨92:756-760,19989)NomuraH,AndoF,NiinoNetal:Age-relatedchangeincontrastsensitivityamongJapaneseadults.JpnJOphthal-mol47:299-303,200310)HessRF,HowellER:Thethresholdcontrastsensitivityfunctioninstrabismicamblyopia:evidenceforatwotypeclassication.VisionRes17:1049-1055,197711)RogersGL,BremerDL,LeguireLE:Thecontrastsensi-tivityfunctionandchildhoodamblyopia.AmJOphthalmol104:64-68,198712)RydbergA,HanY,LennerstrandG:Acomparisonbetweendierentcontrastsensitivitytestsinthedetec-tionamblyopia.Strbismus5:167-184,199713)CamposEC,PrampoliniML,GulliR:Contrastsensitivitydierencesbetweenstrabismicandanisometropicamblyo-pia:objectivecorrelatebymeansofvisualevokedresponses.DocOphthalmol58:45-50,198414)SimonsK,ElhattonK:Artifactsinfusionandstereopsistestingbasedonred/greendichopticimageseparation.JPediatrOphthalmolStrabismus31:290-297,1994***