———————————————————————-Page1(131)11770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11771181,2008cはじめに今日では,眼科分野におけるデジタル画像撮影装置の開発により,眼科疾患をデジタル画像として撮影することが容易となり,病状の記録,患者への説明,専門医や指導医へのコンサルトなどが比較的容易に可能となっている.一方,そのようなデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難い.今回筆者らは,市販のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡による眼疾患の観察像の撮影を行い,その有用性を検討した.I対象および方法対象は種々の眼疾患を有し,京都府立医科大学附属病院およびその関連病院の眼科外来を受診した患者である.今回,汎用のコンパクトデジタルカメラであるIXYDigital700R(Canon社)を用いて,種々の眼科疾患を撮影し,専用の画像撮影装置であるSL-D7R(TOPCON社)による撮影との比較を行った.IXYDigital700Rによる撮影は,細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに行った.角膜病変については広範照明法とフルオレセイン染色を用いた蛍光撮影を行い,網膜病変に関しては前置レンズを併用して撮影した.いずれの撮影においても,通常の眼科診療用の暗室にて,デジタルカメラの角度を調節することによって角膜反射が生じない角度で,フラッシュを用いない接写モードにて撮影を行った.また,細隙灯の接眼部を支えとしてカメラのレンズ部分を固定させることにより手ぶれを防止した(図1).IXYDigital700R,SL-D7Rによるすべての撮影は眼科臨床経験が1年未満の当院の眼科レジデントが行った.撮影条件として画素数はSL-D7Rが79万画素であるのに対し,IXYDigital700Rは31万画素から708万画素までの範囲で選択した.カメラの撮像素子はIXY〔別刷請求先〕荻田利津子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:RitsukoOgita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectualUniversityofMedicine,465Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANコンパクトデジタルカメラを用いた眼所見の写真撮影の試み荻田利津子小泉範子奥村直毅木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学NewlyDiscoveredMethodofPhotographingEyeAspectsthroughSlit-LampBiomicroscopeUsingCompactDigitalCameraRitsukoOgita,NorikoKoizumi,NaokiOkumuraandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine細隙灯顕微鏡による眼所見の観察像を,汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて撮影することが可能であった.特に,外眼部,前眼部,中間透光体の病変に対しては臨床上有用な画像が得られた.コンパクトデジタルカメラによる撮影を行うことで,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも患者の所見を記録することが可能であり,遠隔地の病院においても指導医,専門医へのコンサルトが容易に行えると考えられた.Werecentlydiscoveredamethodofusingacompactdigitalcameratophotographeyeaspectsthroughaslit-lampbiomicroscope.Thismethodisespeciallyusefulforphotographingtheocularsurface,media,fundusandextraocularndings.Thisenablesphotographicrecordingofobservations,eveninahospitalorclinicthathasnoprofessionalcamera-equippedophthalmologicalinstruments.Inaddition,thismethodisofpotentiallygreatbenetforophthalmologistsworkinginremoteruralareas,asthedigitalimagescanbequicklyandeasilytransferredelectronicallytosuperiorsandspecialistsforconsultationondicultdiseasesorcases.Thisimportantnewdiscov-eryisexpectedtocontributegreatlytotelemedicine,aswellastoremoteregionalmedicalservices.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11771181,2008〕Keywords:遠隔医療,地域医療,遠隔画像診断,コンパクトデジタルカメラ.telemedicine,regionalmedicalservice,remotemedicalimagingdiagnosis,digitalcamera.———————————————————————-Page21178あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(132)Digital700R,SL-D7Rともに1/1.8型CCDであった.撮影した写真は,当院の眼科専門医がIXYDigital700Rにより得られた写真とSL-D7Rによる写真とを,外眼部,前眼部,中間透光体,眼底の各項目について通常の写真で用いられることの多いLサイズに印刷した場合と,15インチの液晶ディスプレイ(1,024×768ピクセル)に全画面で表示した場合のおのおのについて得られる臨床所見を比較し評価した.さらに,コンパクトデジタルカメラを用いた撮影における臨床上有用と考えられる画素数について検討するためIXYDigital700Rの最高画質である708万画素で撮影した画像と,31万画素で撮影した画像を比較した.II結果市販のIXYDigital700Rを用いて細隙灯顕微鏡下に観察した外眼部,前眼部,中間透光体,眼底を撮影することができた(図2).同品によるフルオレセイン染色を用いた前眼部の病変の蛍光撮影も可能であり,角膜びらんによる広範な染色像から,点状表層角膜症における微細な染色像まで撮影が可能であった(図3).つぎに,IXYDigital700Rにより得られた画像を,専用の前眼部画像撮影装置であるSL-D7Rで撮影したものと比較すると,Lサイズに印刷した場合,ディスプレイに全画面表示した場合ともに,外眼部,前眼部,中間透光体の撮影において画像から把握可能な臨床情報は同等であり,画像の鮮明さ,明るさ,焦点深度についても臨床上問題となる劣化を認めなかった(図4).IXYDigital700Rにより得られた画像において,たとえば外眼部では眼瞼腫瘍や眼瞼炎の性状や範囲,前眼部では角膜潰瘍や角膜混濁などの性状や範囲や角膜への新生血管,中間透光体では白内障,後混濁の程度,硝子体混濁の有無を把握することができた.眼底の撮影は,前図1撮影方法a:細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに撮影.眼底の撮影には前置レンズを併用.b:カメラのレンズ部分を,細隙灯の接眼部を支えとし固定させ手ぶれを防止.フラッシュなし,接写モードにて撮影.baa:角膜感染症.b:角膜移植後(移植片不全).c:Avellino角膜ジストロフィ.d:結膜下出血.e:角膜潰瘍.f:YAGレーザー後の眼内レンズ損傷.abcdef図2コンパクトデジタルカメラによる前眼部撮影写真例———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081179(133)置レンズを固定する必要があるため撮影の難度が上がり,眼底専用の撮影装置に比べ撮影範囲が限られるが,たとえば網膜裂孔,視神経乳頭など部位を特定しての撮影は可能であった.さらに,コンパクトデジタルカメラの画素数による解像度を,IXYDigital700Rの31万画素と708万画素で撮影し比較したところ,得られる所見に大きな差は認められなかった(図5).図3コンパクトデジタルカメラによるフルオレセイン染色を用いた前眼部写真例テニスボールによる角膜擦過症の一例.病変像の把握が可能である.図4専用の画像撮影装置との比較専用の撮影装置による撮影画像(上段)と比較して,コンパクトデジタルカメラによる撮影画像(下段)から得られる把握可能な臨床情報量は同程度であった.図5コンパクトデジタルカメラの画素数による写真画質の違いa:3,072×2,304画数(708万画素),b:640×480画数(31万画素).Lサイズの写真上では,ともに眼所見の把握が可能である.ab———————————————————————-Page41180あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(134)III考按今回,筆者らは汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡下の眼所見をデジタル画像として撮影することが可能であり,特に前眼部に関しては眼病変の所見把握に十分有用な撮影が可能であることを示した.今日のデジタル技術の進歩に伴い,医療業界においても医療情報のデジタル化が急速に進んでいる.電子カルテによる患者情報の管理や,オーダリングシステムによる病院運営など医療情報のデジタル化による医療の効率化,省スペース化といった医療業務の改善例は枚挙にいとまがない.さらに,医療情報のデジタル化による多施設間での情報の共有も一般的となりつつあり,特に遠隔診断で有用に用いられている.遠隔診断を早くから日常診療に取り入れた放射線科や病理組織学をはじめとし1,2),脳外科3),小児科4,5),救急医療6),検診7)に至るまで,画像を利用した遠隔診断の有用性が多数報告されている.さらに頭部外傷の診療でテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断が有用であった報告8),腹部疾患の救急診療において電子メールで画像を共有することで遠隔診断を行い救命可能となった報告9)など,検査情報のデジタル化による汎用性の拡大による遠隔医療に対するメリットは多大であると考えられる.眼科診療においても専用のデジタル画像撮影装置の開発により眼科疾患をデジタル画像として撮影することができ,診療経過の記録や患者への説明,専門医へのコンサルトなどに一般的に用いられている.遠隔診療という観点からは,眼科診療では医師が観察する他覚的所見や画像情報が非常に有用であり,なかでも前眼部疾患の多くが細隙灯顕微鏡を用いて診断に至ることを考えると,眼科は遠隔医療を行いやすい要素をもつ診療科であると考えられる.一方,専用のデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難く,特に小規模病院,診療所,さらには遠隔地の医療機関ではそうした撮影装置を所有していない診療施設も多い.筆者らが本報告で行った市販のコンパクトデジタルカメラを用いた撮影法では,外眼部,前眼部,中間透光体において臨床上診断に過不足ない画像を熟練者でなくても容易に得ることができた.コンパクトデジタルカメラによる31万画素,79万画素,708万画素での撮影を,臨床上用いられることが多いと考えられる条件であるLサイズに印刷またはディスプレイに表示して得られる臨床所見は,専用のデジタル画像撮影装置と比較して同程度であった.一般にカメラによる撮影では,1画素当たりの撮像素子面積が大きいほど受光量に余裕が生じ写真の画質が向上するため,画質に関しては最終的に表示するサイズに応じて,各撮影機器のもつ撮像素子に適切な画素数の選択を行うことが望ましい.本報告で比較を行ったLサイズへの印刷やディスプレイへの表示の場合,撮影時の画素数にかかわらず一定以上のデータは間引かれることが撮影時の画素数に影響せず同程度の臨床所見が得られた理由と考えられた.この方法により,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも画像情報を汎用性のあるデジタルデータとして低コストで容易に得ることができる.インターネット回線を用いてデジタルデータのやりとりを行ううえでのデータ容量に関しては,眼科診療で有用な画質を維持できる圧縮法や,公衆回線を使用して伝送することが可能でかつNTSC(NationalTelevisionSystemCommittee)レベルの解像度をもつ眼科立体動画像の圧縮法について報告10)されている.筆者らがコンパクトデジタルカメラを用いて撮影した画像の容量は,31万画素では約100キロバイト,708万画素では約1.0メガバイトとなり,ともに現在一般的となったといえるインターネットブロードバンドを介してのデータの授受が可能であり,個々あるいは施設間での情報交換の場合においても有効に利用しうると考えられた.これにより指導医や専門医へのコンサルトや,眼科医のいない地域におけるプライマリケアへの応用についても十分期待でき,地域医療格差是正や医療費の低減に役立つことも予想された.一方,広く普及した画像撮影装置として,コンパクトデジタルカメラ以外に撮影装置機能付きの携帯電話があげられるが,その携帯電話に付属したメール機能を利用することで即座に送信しリアルタイムのコンサルトが可能という点で優れており,携帯電話機種の改良により今後将来に大きな期待がもてる.インターネットを介した医療情報の共有による遠隔医療は,インターネットの普及によりさらに一般的になることが予想されるが,個人情報保護に関して配慮が必要とされる.高誠11)らは,遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化を行うことで医用画像や個人情報の第三者への漏洩を防止できるシステムの構築を試みている.医療情報の漏洩防止に十分な配慮を行うことにより,眼科領域における遠隔医療のさらなる発展が期待される.文献1)南浩二,青木洋三,嶋田浩介ほか:わが施設のIT戦略遠隔術中迅速病理診断の有用性.地域医療42:44-48,20042)川村直樹,吉田由香里,酒井一博ほか:インターネットを利用した遠隔細胞診の診断成績と課題.日本臨床細胞学会雑誌43:205-213,20043)村上謙介,富田隆浩,松本乾児ほか:脳神経外科領域における画像電送システムによる遠隔医療地域医療,患者サービスの向上にむけて.青森県立中央病院医誌49:90-91,20044)原田潤太:病診連携を活性化する「画像の連携」.小児科診療66:197-201,20035)市川光太郎,山田至康,田中哲郎:小児救急医療における———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081181(135)遠隔医療システムの実験双方向かつリアルタイムの動画像・音声伝送システムの応用.小児科臨床55:995-1001,20026)瀧健治,加藤博之,平原健司:プレホスピタルケアにおける画像伝送システムの有用性.日本救命医療学会雑誌15:99-106,20017)滝沢正臣,村瀬澄夫:日本における遠隔医療のあゆみと課題なぜ実用期に入れないのか.医学のあゆみ200:783-787,20028)WatanabeAtsushi:山岳地帯の冬季スポーツにより持続性頭部損傷を受傷した患者に対するテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断の有用性.医療情報学23:215-222,20039)江副英理,伊藤靖,山直也ほか:遠隔地域からのEメールを用いた画像伝送ならびに救急車からの救急現場画像伝送システムについて.日本腹部救急医学会雑誌26:611-616,200610)畠山修東,林弘樹,三田村好矩ほか:眼科遠隔医療支援のための立体動画像伝送システムの開発新圧縮アルゴリズム及び立体視パラメータの検討.電子情報通信学会技術研究報告(MEとバイオサイバネティックス)101:43-46,200111)高誠治郎:遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化の試み.近畿大学医学雑誌26:259-267,2001***