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多施設による緑内障患者の実態調査2020 年版 −ROCK 阻害薬−

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):953.958,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年版.ROCK阻害薬.内匠哲郎*1,3井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CMulti-InstitutionalSurveyontheUseofROCKInhibitorforGlaucomain2020TetsuroTakumi1,3)C,KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障薬物治療の実態調査から,ROCK阻害薬の使用状況を明らかにする.対象および方法:2020年C3月8日.14日にC78施設を外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例C5,303眼を対象とした.使用薬剤数別にCROCK阻害薬の使用率と併用薬を調査した.さらにC2016年調査の結果と比較した.結果:ROCK阻害薬の使用率はC1剤例C0.4%,2剤例C3.1%,3剤例C11.5%,4剤例C33.5%,5剤例C88.8%などであった.ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例CPG関連薬,3剤例CPG関連薬/Cb遮断配合薬,4剤例Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害配合薬+PG関連薬,5剤例さらにCa2刺激薬を追加した組み合わせが各々最多であった.ROCK阻害薬の使用割合は薬剤数が増えるに従って増加した.ROCK阻害薬の使用はC2016年調査とは同様だった.結論:ROCK阻害薬はC3剤以上の使用例において配合剤と併用される頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCtheCusingCaCRho-associatedCproteinkinase(ROCK)-inhibitorCforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Atotalof5,303outpatients(5,303eyes)withglaucomaorocularhypertensionseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14in2020wereenrolled.ThepercentagesCofCROCK-inhibitorCandCtheCconcomitantCmedicationsCwithCROCK-inhibitorCwereCinvestigatedCinCeachCgroupofmedicationsused.Thestatuswasthencomparedwiththatreportedin2016.Results:TheuseofROCK-inhibitorCinCtheC1CtoC5CmedicationsCgroupsCwas0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,Cand88.8%,Crespectively.CInCtheC2CtoC5Cmedicationsgroups,theconcomitantmedicationsmostwidelyusedwereprostaglandin(PG)analogs,PG/Cb-blocker.xedCcombination,Cb-blocker/carbonic-anhydrase-inhibitor(CAI/Cb).xedCcombination+PGCanalogs,CandCCAI/b.xedcombination+PGanalogs+a2agonist,respectively.TheuseofROCK-inhibitorwasincreasedasthenumberofmedicationsincreased.Conclusion:ROCK-inhibitorwasfrequentlyusedwith.xedcombinationsinthethreeormoreCmedicationsCgroup.CAsCtheCnumberCofCmedicationsCincreased,CtheCfrequencyCofCtheCuseCofCROCK-inhibitorCincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):953.958,C2022〕Keywords:ROCK阻害薬,併用,配合剤,緑内障薬物治療.ROCK-inhibitor,concomitantuse,.xedcombina-tion,treatmentwithmedication.Cはじめに日本緑内障学会が作成している緑内障診療ガイドラインが2018年に改訂され第C4版となった1).眼科医は,この緑内障診療ガイドラインを参考にして緑内障の診断,病型分類,治療を行っている.緑内障診療ガイドライン第C4版においても緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である2.5).近年新たな眼圧下降の作用機序を有する点眼薬,配合点眼薬,後発医薬品の発売などで緑内障薬物治療の選択肢は大幅〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC表1研究協力施設(78施設)ふじた眼科クリニックとやま眼科博愛こばやし眼科鬼怒川眼科医院おおはら眼科さいはく眼科クリニックいずみ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科サンアイ眼科みやざき眼科藤原眼科さいき眼科はしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニック石井眼科クリニックそが眼科クリニック槇眼科医院やながわ眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科ふかさく眼科早稲田眼科診療所かさい眼科たじま眼科・形成外科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通りあおやぎ眼科いなげ眼科やなせ眼科本郷眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニック吉田眼科えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科のだ眼科麻酔科医院東小金井駅前眼科小川眼科診療所みやけ眼科後藤眼科良田眼科高根台眼科おがわ眼科白金眼科クリニック谷津駅前あじさい眼科西府ひかり眼科小滝橋西野眼科クリニックおおあみ眼科だんのうえ眼科クリニックあつみクリニック中山眼科医院綱島駅前眼科あつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック眼科中井医院林眼科医院中沢眼科医院さいとう眼科なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科ヒルサイド眼科クリニックさくら眼科・内科立川しんどう眼科図師眼科医院大宮・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院札幌・井上眼科クリニックうえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック西葛西・井上眼科病院江本眼科ガキヤ眼科医院お茶の水・井上眼科クリニックえづれ眼科川島眼科井上眼科病院に拡大している.選択肢が増えることで患者に対してもっとも適した治療を提供できる可能性が増大するが,その選択には薬剤の種類が多いがゆえに苦慮することもある.そこで緑内障病型の発症頻度や緑内障薬物治療の実態を把握しておくことは眼科医の緑内障診療の一助になると考えた.筆者らは眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した6).その後,2009年に第C2回7),2012年に第C3回8),2016年に第C4回緑内障患者実態調査9)を実施した.2014年にはCROCK(Rho-associatedCproteinkinase)阻害薬が使用可能となり,ROCK阻害薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている10.14).さらにC2016年以降,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬が新たに使用可能になった.筆者らはC2020年に第C5回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した15).今回はそのなかで,使用可能となってからC5年間が経過したCROCK阻害薬の使用状況を解析した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C78施設において,2020年C3月C8日から同C14日に施行した.調査の趣旨は緑内障診療を行ううえで,緑内障病型の発症頻度や薬物治療の実態を把握することが重要であるためとした.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C5,303例5,303眼,男性C2,347例,女性C2,956例,年齢はC11.101歳,C68.7±13.1歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合には右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より病型,使用薬剤数および種類,レーザー治療,緑内障手術の既往について解析を行った15).今回はそのなかでROCK阻害薬リパスジル点眼薬(グラナテック,興和)の使用率と併用薬を調査し,緑内障病型別のCROCK阻害薬使用割合を調査した.さらにこれらの結果をC2016年の前回調査の結果9)と比較した.配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,2016年調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回の調査では薬剤は一般名での収集とした.ROCK阻害薬の使用率およびC2016年調査時との表2調査票第C5回緑内障実態調査第C5回緑内障実態調査イニシャル整理番号性別M:男性・F:女性年齢歳診断名右・左1:POAG2:NTG3:PACG4:続発緑内障(落屑緑内障を含む)5:高眼圧症6:小児緑内障1:無手術既往歴2:有術式1:レクトミー2:ロトミー3:GSL4:チューブシャント5:その他()レーザー既往歴1:無2:有術式1:LI2:CSLT(ALT)3:その他()1:無緑内障処方薬剤2:有〈b遮断薬〉1:チモロールマレイン酸塩(チモプトール)2:チモロールマレイン塩酸持続性(チモプトールXE)3:チモロールマレイン塩酸熱応答(リズモンTG)4:カルテオロール塩酸塩(ミケラン)5:カルテオロール塩酸塩持続性(ミケランLA)6:ベタキソロール塩酸塩(ペトプティク)7:レボブノロール塩酸塩(ミロル)〈ab遮断薬〉8:ニプラジロール(ハイパジール)〈イオンチャネル開口薬〉9:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)〈PG製剤〉10:ラタノプロスト(キサラタン)11:トラボプロスト(トラバタンズ)12:タフルプロスト(タプロス)13:ビマトプロスト(ルミガン)〈PG+b遮断薬配合剤〉14:ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(ザラカム)15:トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(デュオトラバ)16:タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(タプコム)17:ラタノプロスト/カルテオロール酸塩配合(ミケルナ)⇒裏面に続く緑内障処方薬剤2:有⇒表面より続き〈CAI+b遮断薬配合剤〉18:ドルゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(コソプト)19:ブリンゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(アゾルガ)〈点眼CAI〉20:ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト)21:ブリンゾラミド塩酸塩(エイゾプト)〈経口CAI〉22:アセタゾラミド(ダイアモックス)〈a1遮断薬〉23:ブナゾシン塩酸塩(デタントール)〈a2遮断薬〉24:ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン)〈ROCK阻害薬〉25:リパスジル塩酸塩(グラナテック)〈EPC2受容体作用薬〉26:オミデネパグイソプロビル(エイベリス)〈a2刺激薬+b遮断薬配合剤〉27:ブリモニジン酒石酸塩C/チモロールマレイン酸塩配合(アイベータ)〈その他〉28:ピロカルピン塩酸塩(サンピロ)29:ジピべフリン塩酸塩(ピバレフリン)30:その他()ROCK阻害薬の使用割合の比較にはCc2検定とCFishaerの直接確率検定を用いた.Cc2検定での比較ではCBonferroni法による多重比較の補正を行った.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果ROCK阻害薬使用症例はC440例C440眼,男性C224例,女性C216例,年齢はC27.98歳,平均C70.7C±12.4歳であった.全症例(5,303例)の病型は正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(14.2%)などであった.ROCK阻害薬使用症例の病型は,原発開放隅角緑内障C222例(50.5%),正常眼圧緑内障C116例(26.4%),続発緑内障C76例(17.3%),原発閉塞隅角緑内障C23例(5.2%),高眼圧症C3例(0.7%)であった.全症例(5,303例)の使用薬剤数は平均C1.8C±1.3剤で,その内訳は無投薬C543例(10.2%),1剤C2,203例(41.5%),C2剤C1,217例(23.0%),3剤C754例(14.2%),4剤C391例(7.4%),5剤C160例(3.0%),6剤C34例(0.6%),7剤C1例(0.02%)であった.ROCK阻害薬の使用率はC1剤例ではC0.4%(9例/2,203例),2剤例ではC3.1%(38例/1,217例),3剤例ではC11.5%(87例/754例),4剤例ではC33.5%(131例/391例),5剤例ではC88.8%(142例/160例)であった.使用薬剤数が増えるにしたがって,ROCK阻害薬の使用率が有意に増加した(p<0.0001,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.005)(図1).ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例ではプロスタグランジン(以下,PG)関連薬が最多(65.8%)であった(表3).3剤例ではCPG関連薬/Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)配合1剤*2剤3剤4剤*5剤ROCK阻害薬その他*p<0.0001(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図1使用薬剤数別ROCK阻害薬の使用率表3ROCK阻害薬との併用薬剤*薬剤数ROCK阻害薬使用患者数併用薬剤使用患者割合C3C4C5C87C131C142CPG/bPG+a2PG+CAI/bPG/b+a2PG+CAI/b+a2PG/b+CAI+a234.5%C25.3%C40.5%C18.3%C64.1%C22.5%2C38CPG65.8%CPG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬.剤(34.5%)が最多で,次にCPG関連薬とCa2受容体作動薬(以下,Ca2刺激薬)との併用(25.3%)であった.4剤例ではPG関連薬とCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(40.5%)が最多で,次にCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(18.3%)であった.5剤例ではCPG関連薬と炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(64.1%)が最多で,次にPG関連薬/Cb遮断薬配合剤と炭酸脱水酵素阻害薬とCa2刺激薬(22.5%)であった.併用薬剤は配合剤が多く,配合剤使用例はC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%であった.ROCK阻害薬の使用割合はC1,2,3,4,5剤例では今回はそれぞれC0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,88.8%でC2016年調査9)ではそれぞれC0.5%,3.7%,7.9%,23.8%,76.8%で同等だった(図2).緑内障病型別のCROCK阻害薬の使用割合をC2016年調査9)と比較した結果を示す.原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より有意に多かった(p=0.0020Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).一方,正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障,高眼圧症では今回調査(4.3%,17.5%,10.2%,1.0%)とC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%,2.5%)で同等だった(p=0.0417,p=0.0224,p=0.1750,p=0.3129,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).CIII考按今回C2020年C3月に行った多施設での第C5回緑内障実態調査におけるCROCK阻害薬の使用状況を使用薬剤数別に調査し,2016年調査9)の結果と比較した.ROCK阻害薬の使用率は薬剤数増加に伴い増加しており,ROCK阻害薬は多剤併用症例で多く使用される傾向がある.実際CROCK阻害薬使用症例のうち多剤併用症例の割合は本使用薬剤数765432120202016NS(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図22016年調査との比較(ROCK阻害薬の使用割合)調査(2,557例,48.2%)ではC2016年調査(1,929例,45.0%)よりも有意に増加していた(p=0.0016).ROCK阻害薬の増加が寄与したと考えられる.一方,緑内障病型別でのROCK阻害薬の使用割合でも原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より増加していた.正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障では本調査(4.3%,17.5%,10.2%)がC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%)より増加したが有意差はなかった.高眼圧症ではCROCK阻害薬使用割合は本調査(3例,1.0%)とC2016年調査(6例2.5%)ともに低く,有意差はなかった.ROCK阻害薬は特定の病型で多く使用されている可能性がある.2012年に使用可能となったCa2刺激薬の使用割合はC2016年調査時(8.8%)9)に比べて,2020年調査時(11.9%)15)には有意に増加した.ROCK阻害薬は使用可能となってからC5年が経過し,Ca2刺激薬と同様に時間経過に伴い使用が増加した可能性が考えられた.緑内障診療ガイドライン1)では第一選択薬としてCPG関連薬,およびCb遮断薬が記載され,ROCK阻害薬は他の薬剤とともに第二選択薬としてあげられている.本調査の結果でも1剤例は0.4%と少数だった.これらの症例は何らかの理由でCPG関連薬やCb遮断薬が使用できない患者であったと考えられる.2剤例ではCPG関連薬との併用がC65.8%と最多で,PG関連薬が第一選択薬として使用されているためと考えられる.3,4,5剤例では,さまざまなパターンでCROCK阻害薬は使用されていた.ROCK阻害薬が使用可能となった当初C4カ月間のCROCK阻害薬の処方パターンを筆者らは調査した10).ROCK阻害薬投与前の薬剤数は追加群C3.9C±1.0C剤,変更群C3.9C±0.8剤,変更追加群C3.7C±1.1剤であった.追加群では投与前薬剤数はC1剤C1.6%,2剤C8.9%,3剤C13.7%,4剤C54.9%,5剤C18.5%などであった.ROCK阻害薬が処方され,3カ月後まで経過が追えた症例の報告では,ROCK阻害薬の追加群はC82例C121眼,変更群はC26例C41眼であった11).追加群の投与前の薬剤数はC1剤C4.9%,2剤C6.6%,3剤C43.8%,4剤C38.0%,5剤C6.6%であった.その他にROCK阻害薬投与例の投与前点眼スコアはC3.5C±1.0点12),C3.7±1.0点13),投与前点眼剤数はC2.8C±0.7剤14)と報告されている.過去の報告10.14)のCROCK阻害薬の使用方法と,今回調査でのC4剤例,5剤例で使用割合が高いことは一致していた.ROCK阻害薬はおもに多剤併用症例で使用されることが判明した.また,今回調査のC3,4,5剤例ではCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤およびCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤との併用が多く,ROCK阻害薬の併用薬は配合剤使用例が多いという報告10)と同様であった.追加群における投与前薬剤のうち配合剤はC3剤C47.3%,4剤C79.1%,5剤C54.2%であった10).今回調査でもC3,4,5剤例では配合剤の使用がC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%と多く同様であった.今回の研究の問題点として,前回調査9)と症例が同一でないことがあげられる.症例を同一とすることはできなかったのでなるべく多数例を収集し,解析した.またCROCK阻害薬が何剤目として投与されたかは判断できなかった.たとえばC2剤例においてもCPG関連薬にCROCK阻害薬が追加投与されたのか,ROCK阻害薬にCPG関連薬が追加投与されたかは不明である.本調査の結果をまとめると,ROCK阻害薬はとくにC3剤以上の使用例において配合剤とともに用いられる頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.本論文は第C32回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:TheCrelationshipCbetweenCcon-trolCofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InternCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sure.AmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科C25:1581-1585,C20087)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版─薬物治療─.あたらしい眼科C28:874-878,C20118)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C20139)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科C34:1035-1041,C201710)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科C33:1774-1778,C201611)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼液による眼圧下降効果の検討.臨眼C71:611-616,C201712)石田順子,家木良彰,山下力ほか:川崎医科大学附属病院におけるリパスジル点眼液の使用経験と効果.臨眼C72:C1443-1449,C201813)上原千晶,新垣淑邦,力石洋平ほか:リパスジル点眼追加治療C12カ月の成績.あたらしい眼科C35:967-970,C201814)柴田真帆,豊川紀子,黒田真一郎:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科C35:684-688,C201815)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年版─薬物治療─.臨眼C75:377-385,C2021C***

多施設による緑内障患者の実態調査2020 年度版 ─高齢患者と若年・中年患者─

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):219.225,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年度版─高齢患者と若年・中年患者─藤嶋さくら*1井上賢治*1國松志保*2井上順治*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CASurveyofElderlyandYoung/Middle-AgeGlaucomaPatientsSeenatMultipleInstitutionsin2020SakuraFujishima1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:眼科病院または診療所に通院中の緑内障患者の薬物治療実態を調査し,そのなかから高齢患者と若年・中年患者の相違を検討した.対象および方法:本調査の趣旨に賛同したC78施設にC2020年C3月C8.14日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例を対象とし,患者背景,使用薬剤を調査した.そのなかでC65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分けて比較した.さらにC2016年の前回調査と比較した.結果:薬剤数は高齢患者(1.8C±1.3剤)で若年・中年患者(1.7C±1.2剤)より多かった.単剤例は高齢患者(1,431例)と若年・中年患者(772例)でともにプロスタグランジン(PG)関連薬が最多だった.2剤例は高齢患者(815例)と若年・中年患者(402例)でともにCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が最多だった.前回調査と比べてC2剤例で配合剤が増加し,PG関連薬+b(ab)遮断薬が減少した.結論:高齢患者と若年・中年患者の薬物治療は似ていた.単剤例はCPG関連薬,2剤例ではPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が多く使用されていた.CPurpose:Toinvestigateage-relateddi.erencesinmedicationsusedandtherapiesadministeredinglaucomapatientsseenatmultipleinstitutions.Subjectsandmethods:Inthisstudy,weinvestigatedandcomparedpatientbackgroundCandCmedicationsCadministeredCinC5,303CpatientsCwithCglaucomaCandCocularChypertensionCdividedCintoCtwoCagegroups[elderly:≧65Cyearsold(n=3,534patients);young/middle-age:<65Cyearsold(n=1,769patients)]seenat78outpatientclinicsinJapanbetweenMarch8andMarch14,2020.Themedicationsandtypesusedwerecomparedbetweenthetwogroups,andalsocomparedwiththe.ndingsinour2016study.Results:CThemeannumberofmedicationsadministeredintheelderlypatientswasgreaterthanthatintheyoung/middle-agedpatients(i.e.,1.8±1.3vs.1.7±1.2,respectively).Inbothgroups,prostaglandin(PG)-analogswerethedrugsmostCfrequentlyCadministeredCinCtheCpatientsCundergoingCmonotherapy,CwhileCPG-analogs/b-blockersC.xed-combinationwerethedrugsmostfrequentlyadministeredinthe‘multiple-medication’patients.Comparedtothe.ndingsinthe2016study,theuseof.xed-combinationdrugsincreasedinthemultiple-medicationpatients,whiletheCuseCofCPG-analogs+b(ab)-blockersCdecreased.CConclusion:AlthoughCtheCmedicationsCadministeredCinCbothCgroupsweresimilar,PG-analogsandPG-analogs/b-blockers.xed-combination,respectively,werethedrugsmostfrequentlyadministeredinmonotherapyandmultiple-medicationglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):219.225,C2022〕Keywords:緑内障,薬物治療,高齢患者,若年・中年患者,配合剤.glaucoma,medication,elderpatients,youngerormiddleagedpatients,.xedcombinationeyedrops.C〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C219表1参加施設ふじた眼科クリニックえづれ眼科川島眼科鬼怒川眼科医院とやま眼科博愛こばやし眼科いずみ眼科クリニックおおはら眼科さいはく眼科クリニックサンアイ眼科篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科さいき眼科みやざき眼科藤原眼科石井眼科クリニックはしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニックやながわ眼科そが眼科クリニック槇眼科医院ふかさく眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科たじま眼科・形成外科早稲田眼科診療所かさい眼科あおやぎ眼科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通り本郷眼科いなげ眼科やなせ眼科吉田眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニックのだ眼科麻酔科医院えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科みやけ眼科東小金井駅前眼科小川眼科診療所高根台眼科後藤眼科良田眼科谷津駅前あじさい眼科おがわ眼科白金眼科クリニックおおあみ眼科西府ひかり眼科あつみクリニック中山眼科医院だんのうえ眼科クリニックあつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック綱島駅前眼科林眼科医院中沢眼科医院眼科中井医院なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科さいとう眼科さくら眼科・内科立川しんどう眼科ヒルサイド眼科クリニック井上眼科病院町屋駅前眼科図師眼科医院お茶の水・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院西葛西・井上眼科病院うえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック大宮・井上眼科クリニック江本眼科ガキヤ眼科医院札幌・井上眼科クリニックはじめに日本の総人口はC2019年C10月現在C1億C2,617万人である1).2015年頃より総人口は減少を続けている.一方,65歳以上人口はC3,589万人で,総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%である.65歳以上人口と高齢化率は年々増加している.このことから眼科を受診する患者もC65歳以上の高齢者が増加すると予想される.40歳以上を対象として行われた多治見スタディにおいても緑内障の有病率は年齢とともに増加していた2).今後,高齢患者はますます増加し,われわれ眼科医が高齢の緑内障患者を診察する機会も増加することが予想される.緑内障治療の第一選択は点眼薬治療である3).点眼薬には効果と副作用があり,処方する際にはそのバランスを考慮する必要がある.副作用には全身性と眼局所性があり,全身性の副作用では他の疾患を引き起こしたり悪化させたりする危険がある.そこで身体機能が若年・中年者に比べて低下していると考えられる高齢者では使用しづらい.また,眼局所性の副作用ではアドヒアランスが低下する危険がある.近年プロスタグランジン関連薬による眼局所の美容的副作用(眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化)3)が問題になっており,女性や若年患者では使用しづらい状況である.それらを考慮した薬剤順不同・敬称略処方が眼科医によって行われていると考えると,高齢患者と若年・中年患者では使用する薬剤が異なる可能性がある.そこで年齢による緑内障薬物治療の相違を調査する目的で筆者らは緑内障患者の薬物治療の実態調査をC2007年より定期的に行っている4.7).2016年の前回調査4)よりC4年が経過し,さらにその間に眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)とC2種類の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)の合計C3種類の点眼薬が新規に使用可能となった.そこで今回,緑内障薬物治療の実態調査を再度行い,高齢患者と若年・中年患者での使用薬剤の違いを再検討した.さらに前回調査4)の結果と比較することで,経年的変化を検討した.CI対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した眼科病院あるいは眼科診療所C78施設において,2020年C3月C8.14日に行った(表1).この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全員で,1例C1眼を対象とした.総症例数はC5,303例(男性C2,347例,女性C2,956例),年齢はC68.7C±13.1歳(平均C±標準偏差,年齢分布C11.101歳)であった.緑内障の診断と管理は,緑内障診療ガイドライン3)に則り,220あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(88)図1調査票(89)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C221各施設の医師の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.調査施設にあらかじめ調査票(図1)を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤(薬剤濃度は問わない),レーザー治療の既往,緑内障の手術既往を調査した.調査施設からのすべての調査票を井上眼科病院内の集計センターに回収し,集計を行った.なお,前回調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分け,患者背景因子(平均年齢,男女比,緑内障病型,レーザー治療既往,緑内障手術既往)および薬物治療におけるC2群間の相違を検討した(Cc2検定,Mann-Whit-neyU検定).薬剤治療では使用薬剤数,単剤例の薬剤,2剤例の薬剤を調査し,さらにそれぞれの結果をC2016年に行った前回調査の結果4)と比較した(Cc2検定,Mann-WhitneyU検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.全症例での病型は,正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),(狭義)原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(4.2%),小児緑内障C4例(0.1%)などであった.レーザー治療はC220例(4.1%)に行われていた.内訳はレーザー虹彩切開術C151例(68.6%),選択的レーザー線維柱帯形成術C68例(30.9%)などであった.緑内障手術はC366例(6.9%)に行われていた.術式は線維柱帯切除術C263例(71.9%),線維柱帯切開術C60例(16.4%),チューブシャント手術C18例(4.9%)などであった.CII結果患者背景は,平均年齢は高齢患者C76.4C±6.8歳,若年・中年患者C53.4C±8.5歳であった(表2).性別は高齢患者が男性1,477例,女性C2,057例で,若年・中年患者の男性C870例,女性C899例に比べて女性の割合が有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).緑内障の病型は原発開放隅角緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障が高齢患者に,正常眼圧緑内障が若年・中年患者に有意に多かった(p<0.001,Cc2検定)(表2).レーザー治療既往症例は高齢患者C189例(5.3%)が若年・中年患者C31例(1.8%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).レーザー治療の内訳は高齢患者ではレーザー周辺虹彩切開術C133例,選択的レーザー線維柱帯形成術C55例など,若年・中年患者ではレーザー周辺虹彩切開術18例,選択的レーザー線維柱帯形成術C13例であった.緑内障手術既往症例は高齢患者がC278例(7.9%)で,若年・中年患者C88例(5.0%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).手術の内訳は高齢患者では線維柱帯切除術C193例,線維柱帯切開術C50例,チューブシャント手術C12例など,若年・中年患者では線維柱帯切除術C70例,線維柱帯切開術10例,チューブシャント手術C6例などであった.平均使用薬剤数は高齢患者がC1.8C±1.3剤で,若年・中年患者のC1.7C±1.2剤に比べて有意に多かった(p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).単剤例の使用薬剤を表3に示す.EP2作動薬は若年・中年患者が高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).2剤例の使用薬剤の組み合わせを図3に示す.もっとも多く使用されていたプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤の内訳は,高齢者(304例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C118例(38.8%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C103例(33.9%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C42例(13.8%),トラボプロスト/チモロール配合点眼薬C41例(13.5%)であった.若年・中年患者(217例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C86例(39.6%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C64例(29.5%),トラボプロスト/チモロ表2患者背景年齢C男女比病型正常眼圧緑内障原発開放隅角緑内障続発緑内障原発閉塞隅角緑内障高眼圧症小児緑内障レーザー既往症例緑内障手術既往症例高齢患者3,534例76.4±6.8歳C1,477:C2,0571,678例(C47.5%)1,148例(C32.5%)331例(C9.4%)199例(C5.6%)177例(C5.0%)0例(0C.0%)189例(C5.3%)278例(C7.9%)若年・中年患者1,769例53.4±8.5歳870:C8991,032例(C58.3%)490例(C27.7%)C104例(C5.9%)26例(1C.5%)109例(C6.2%)C4例(0C.2%)C31例(1C.8%)88例(5C.0%)p値<C0.0001<C0.00010.0004<C0.0001<C0.00010.08190.0124<C0.0001<C0.0001222あたらしい眼科Vol.39,No.2,2C022(90)4剤271例7.7%高齢患者(3,534例)5剤6剤116例25例3.3%0.7%平均1.8±1.3剤*若年・中年患者(1,769例)5剤6剤4剤120例44例2.5%9例0.5%7剤1例0.1%6.8%*p<0.05平均1.7±1.2剤*図2使用薬剤数表3使用薬剤内訳(単剤例)高齢患者若年・中年患者プロスタグランジン関連薬974例68.1%496例64.2%Cb遮断薬314例21.9%172例22.3%Ca2作動薬56例3.9%22例2.8%EP2受容体**45例3.1%**62例8.0%炭酸脱水酵素阻害薬27例1.9%12例1.6%ROCK阻害薬7例0.5%2例0.3%Ca1遮断薬5例0.3%1例0.1%その他3例0.2%5例0.6%合計1,431例772例PG+a265例8.0%CAI/b配合剤96例11.8%PG+b(ab)119例14.6%**p<0.0001(Cc2検定)高齢患者(815例)若年・中年患者(402例)PG+a220例5.0%CAI/b配合剤50例12.4%PG+b(ab)43例10.7%**PG+点眼CAI**PG+点眼CAI121例14.8%22例5.5%**p<0.0001(c2検定)図3使用薬剤(2剤例)(91)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C223ール配合点眼薬C37例(17.1%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C30例(13.8%)であった.2剤例では,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).また,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).今回調査とC2016年の前回調査4)の結果を比較すると,高齢患者では年齢は有意に上昇し(p<0.0001),男女比では男性の割合が有意に増加していたが(p<0.05),若年・中年患者では同等であった.病型は高齢患者では原発開放隅角緑内障が有意に増加し(p<0.001,Cc2検定),原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した(p<0.05,Cc2検定)が,若年・中年患者では同等であった.レーザー治療既往症例は高齢患者では今回調査(5.3%)が前回調査(7.7%)に比べて有意に減少し(p<0.01),若年・中年患者では同等であった.緑内障手術既往症例は高齢患者,若年・中年患者ともに今回調査では同等であった.使用薬剤数は高齢患者では今回調査(1.8C±1.3剤)で前回調査(1.7C±1.2剤)に比べて有意に増加し(p<0.01,Mann-WhitneyU検定),若年・中年患者では同等であった.単剤例は高齢患者では前回調査に比べて有意に減少し(p<0.001,Cc2検定),4剤例は有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者ではC2剤,5剤例は有意に増加した(p<0.0001,Cc2検定).単剤例は高齢患者では前回調査に比べてプロスタグランジン関連薬(p<0.001,Cc2検定)とCa1遮断薬(p<0.05,Cc2検定)が有意に減少し,Ca2作動薬が有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者では同等であった.一方,2剤例では高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が前回調査に比べて有意に増加し(p<0.01,Cc2検定),プロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.0001,Cc2検定).若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.05,Cc2検定).CIII考按患者背景については,今回調査でも前回調査同様に女性の割合が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,これは女性の平均寿命が長いことが一因と考えられる.緑内障病型は高齢患者,若年・中年患者ともに(広義)原発開放隅角緑内障がC80%以上を占め,多治見スタディ2)の結果と同様であった.正常眼圧緑内障が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,緑内障の啓発活動,職場での健康診断,人間ドックによってみつかったケースが多かったと考えられる.レーザー治療既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,レーザー虹彩切開術がとくに多かったことが影響したと考えられる.緑内障手術既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,緑内障罹病期間が長いことがその原因と考えられる.前回調査と比較すると若年・中年患者では患者背景に変化は少なかった.高齢患者では平均年齢が有意に高くなったが,平均寿命の伸長が関与していると考えられる.高齢患者ではレーザー治療既往症例が有意に減少したが,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少したことが関連していると考えられる.高齢患者では使用薬剤数は今回調査では有意に増加したが,その理由としてこのC4年間で従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)と新規の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能になり,それらの点眼薬が追加投与されて多剤併用症例となったことが考えられる.単剤例の使用薬剤は高齢患者と若年・中年患者でほぼ同様であった.EP2作動薬のみが若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,EP2作動薬は従来のプロスタグランジン関連薬で出現する美容的な眼局所副作用が少ないこと8,9)が影響したと考えられる.高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が前回調査に比べて有意に減少したが,Ca2作動薬とCEP2作動薬が増加したことが原因と考えられる.2剤例ではプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多く,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった.高齢者では全身性副作用が出現しやすいCb遮断薬の使用を控えて全身性副作用が出現しにくい炭酸脱水酵素阻害薬を使用したことと,1日C1回点眼のアドヒアランス向上からアドヒアランスが不良と考えられる若年・中年患者にプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が使用されたことの両方が原因と考えられる.さらに2017年より使用可能となったラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤のなかで高齢患者(38.8%),若年・中年患者(39.6%)ともにもっとも多く使用されていた.この配合点眼薬は従来のチモロール点眼薬との配合ではなくカルテオロール点眼薬との配合である.カルテオロール点眼薬がチモロール点眼薬と眼圧下降効果は同等で,安全性はチモロール点眼薬よりも高いことが影響したと考えられる10,11).また,前回調査と比べて高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が有意に減少し,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が有意に増加した.単剤の併用よりも配合剤C1剤のほうがC1日の総点眼回数が少なく,アドヒアランスの面から配合剤が増加したと考えられる.また,若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬と炭酸脱水酵素阻害薬+a2作動薬が有意に減少したが,アドヒアランス向上の面からプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合224あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(92)剤が増加したことが原因と考えられる.今回調査ではC65歳を境にして高齢患者と若年・中年患者に分けたところ高齢患者が若年・中年患者に比べてC2.0倍多かった.もう少し高い年齢で区切って検討したほうがよい可能性がある.また,高齢患者では緑内障の罹病期間が長く,治療が落ちつき同じ点眼薬が継続的に使用されていることも考えられる.一方,年齢的に手術適応ではなく,多剤併用のままアドヒアランスにやや問題があっても継続使用している高齢患者も存在すると考えられる.あるC1回の外来受診時に使用している薬物調査のため,患者個々人の経時的変化が不明なことが今回調査の問題点と考えられる.今回調査はC78施設C5,303例,前回調査4)はC57施設C4,288例で行った.前回調査,今回調査ともに参加した施設はC53施設であった.施設数や症例数も異なるため,両調査を直接的に比較することは妥当性がない可能性も考えられる.前回調査と同一施設,同一患者で調査を行うのが理想だが,現実にはむずかしい.そこで,なるべく多くの施設,多くの症例からデータを集めることで緑内障患者の実態がより判明すると考えて施設や症例を増加させて今回の検討を行った.今回の結果をまとめる.高齢と若年・中年の緑内障患者の薬物治療を比較すると,高齢患者,若年・中年患者ともに単剤例では依然としてプロスタグランジン関連薬が最多だった.2剤例では,高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤がもっとも多かった.配合剤はC2剤例で高齢患者ではC49.6%,若年・中年患者では67.9%の症例で使用されていた.前回調査4)との比較では,使用薬剤数が高齢患者では増加した.単剤例は高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が減少した.2剤例は高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が減少し,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が増加した.今後ますます配合剤や新しい眼圧下降の作用機序を有する点眼薬(EP2作動薬)の使用が増加すると予想される.文献1)内閣府:令和C2年版高齢社会白書(全体版)第C1章高齢化の状況2)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20043)InoueK:ManagingCadverseCe.ectsCofCglaucomaCmedica-tions.ClinOphthalmolC12:903-913,C20144)井上賢治,岡山良子,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C10:627-633,C20175)井上賢治,塩川美菜子,岡山良子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2012年度版:高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C6:869-874,C20136)野崎令恵,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版─高齢患者と若年・中年患者.臨眼C66:495-501,C20127)増本美枝子,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査高齢患者と若年・中年患者.臨眼C63:1897-1903,C20098)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20199)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:Changesinpros-taglandin-associatedCperiobitalCsyndromeCafterCswitchCfromconventionalprostaglandinF2atreatmenttoomide-nepagCisopropylCinC11consecutiveCpatients.CJCGlaucomaC29:326-328,C202010)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC123:129-140,C201611)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C2010C***(93)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C225

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1299.1308,2020cブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験相原一*1関弥卓郎*2*1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2千寿製薬株式会社CPhaseIIIStudytoEvaluatetheE.cacyandSafetyofNovelBrimonidine/BrinzolamideOphthalmicSuspensionComparedwithBrinzolamideOphthalmicSuspensioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucoma(Broad-De.nition)orOcularHypertensionMakotoAihara1)andTakuroSekiya2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)の眼圧下降効果および安全性をC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)と比較した.原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症患者を対象に,ブリンゾラミドをC4週間投与した後,眼圧値がC18.0CmmHg以上のC423例にCSJP-0125またはブリンゾラミドをC4週間投与した.治療期C4週の眼圧変化値は,SJP-0125群C.3.7±2.1mmHg,ブリンゾラミド群C.1.7±1.9CmmHgで,群間差は.2.0CmmHg(95%信頼区間:C.2.4.C.1.5,p<0.0001)であり,SJP-0125のブリンゾラミドに対する優越性が検証された.副作用はCSJP-0125群C8.8%,ブリンゾラミド群C10.2%に発現し,両群で同程度であった.重篤な副作用も認められなかったことから,SJP-0125の安全性に問題はないと考えられた.CPurpose:ToCcompareCtheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationCophthalmicCsuspensionCofCbrimonidineCtartrate0.1%/Cbrinzolamide1%(SJP-0125)withCthoseCofCbrinzolamide1%(brinzolamide).Subjects:Thisstudyinvolved423patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhyperten-sionwhoseIOPwas≧18.0CmmHgafterbrinzolamideadministrationfor4weeksandwhounderwentSJP-0125orbrinzolamideadministrationforanadditional4weeks.ThemeanIOPchangesatWeek4ofthetreatment-periodwere.3.7±2.1CmmHgintheSJP-0125groupand.1.7±1.9CmmHginthebrinzolamidegroup,andthedi.erencebetweenthetwogroupswas.2.0CmmHg(95%CI:.2.4to.1.5,p<0.0001)C,thusdemonstratingthesuperiorityofSJP-0125tobrinzolamide.IntheSJP-0125groupandthebrinzolamidegroup,treatment-relatedadverseevents(TRAEs)wereCobservedCin8.8%Cand10.2%,Crespectively,CandCtheCratesCinCbothCgroupsCwereCsimilar.CNoCseriousCTRAEsCwereCreported.CConclusion:SJP-0125CwasCfoundCe.ectiveCforCloweringCIOPCandCsafe,CwithCnoCseriousCTRAEs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1299.1308,C2020〕Keywords:ブリモニジン,ブリンゾラミド,配合剤,緑内障,比較試験.brimonidine,brinzolamide,.xedcombi-nationophthalmicsuspension,glaucoma,comparativestudy.Cはじめにである1).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場緑内障は進行性かつ非可逆的な視野障害を引き起こす疾患合は単剤療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤であり,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).一方,わ〔別刷請求先〕関弥卓郎:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakuroSekiya,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANCが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合わせはプロスタグランジン関連薬とCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬,a2作動薬とCb遮断薬のC3種のみであるため,これら以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点で臨床的意義があると考える.また,緑内障に対して適切な治療が行われない場合,失明に至る可能性がある1)ため,早期発見と早期治療による視機能障害の進行抑制が重要となるが,自覚症状に乏しいことから点眼治療のアドヒアランスが悪いことが報告されており2.4),アドヒアランスの不良は緑内障が進行する重要な要因の一つとなっている1).多剤併用による治療を行う場合には,薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤を使用することで,患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)は,Ca2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミドを有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激し,毛様体上皮でCcyclicCade-nosinemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す5,6).ブリモニジン酒石酸塩点眼液は,わが国ではC2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬(アイファガンCR点眼液C0.1%)であり,唯一のCa2作動薬である.臨床試験では他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており7,8),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている9).一方,ブリンゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬であり,II型炭酸脱水酵素を特異的に阻害して,CHCO3C.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑制し,その結果房水の産生を抑制して眼圧を下降させる10,11).両剤は良好な眼圧下降効果と忍容性により,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬の単剤では目標眼圧に達しない患者に対し,第二選択薬として併用されることが多い.また両剤は,プロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬を副作用または禁忌のために使用できない患者にも使用されている.SJP-0125は作用機序の異なるC2成分を配合することから,各単剤よりも高い眼圧下降効果が期待できることに加えて,各単剤を併用するよりも患者の利便性が増し,アドヒアランスを向上させることが期待される.そこで,SJP-0125の第CIII相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0125の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0125の有効成分の一つであるC1%ブリンゾラミド点眼剤(以下,ブリンゾラミド)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,表1に示す全国C45医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験情報の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMINC000028494).C2.目的原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0125をC1日C2回C4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性を,ブリンゾラミドを対照に比較検討する.さらに,参照群としてC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびブリンゾラミドの併用群を設定し,SJP-0125の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.C3.対象原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,ブリンゾラミドをC4週間投与後の眼圧がC18.0CmmHg以上で,表2の基準に該当する患者を対象とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.C4.方法a.被験薬被験薬(SJP-0125)は,点眼剤C1Cml中にブリモニジン酒石酸塩をC1Cmg,ブリンゾラミドをC10Cmg含有する懸濁性点眼剤である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮蔽(評価者遮蔽)並行群間比較試験として実施した.観察期にブリンゾラミドをC1回C1滴,1日C2回朝(8:00.10:00)および夜(20:00.22:00),両眼にC4週間点眼した後,治療期にCSJP-0125,ブリンゾラミド,ブリモニジンおよびブリンゾラミドの両剤のいずれかを,1回C1滴,1日2回朝および夜,両眼にC4週間点眼した.ブリモニジンおよびブリンゾラミドの併用群では,治験薬の点眼間隔はC10分以上C15分以内とした.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬割付責任者が識別不能性を確認した後,治験薬の無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値のC2時間値および観察期終了日(治療期開始日)のC2時間値のスクリーニング検査日表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師医療法人社団山田眼科特定医療法人丸山会丸子中央病院医療法人社団いとう眼科医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック医療法人社団優美会川口あおぞら眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院三橋眼科医院道玄坂加藤眼科成城クリニック医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科医療法人豊潤会松浦眼科医院医療法人社団富士青陵会なかじま眼科医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院医療法人社団優あい会小野眼科クリニック北川眼科医院医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科医療法人社団康順会丹羽眼科医療法人やすまつ佐藤眼科医院医療法人社団風帆会赤塚眼科はやし医院日本医科大学付属病院医療法人社団高友会立川通クリニック医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック医療法人社団浩仁医会水天宮藤田眼科大谷地裕明野原雅彦大原睦子渋谷裕子清水潔呉輔仁三橋正忠加藤卓次松﨑栄佐藤功松浦雅子中島徹村松知幸小野純治北川厚子石田玲子丹羽やす子佐藤圭吾林殿宣中元兼二高橋義徳岡山良子藤田浩司実施医療機関治験責任医師医療法人光耀会菊地眼科クリニック菊地琢也医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬大塚眼科クリニック大塚宏之医療法人社団律心会辻眼科クリニック辻一夫医療法人社団ケアライトさいとう眼科医院齋藤憲医療法人庸倫会スズキ眼科服部博之京都大学医学部附属病院赤木忠道かなもり眼科クリニック金森章泰医療法人社団おじま眼科クリニック尾島知成医療法人朔夏会さっか眼科医院属佑二医療法人中森眼科医院中森玄司医療法人圭明会原眼科病院原岳医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック安達京大阪大学医学部附属病院松下賢治慶應義塾大学病院結城賢弥琉球大学医学部附属病院古泉英貴杉浦眼科杉浦寅男医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団うえだ眼科クリニック上田裕子表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力がC0.3以上の者3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値がC18.0CmmHg以上C31.0CmmHg以下の者おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去C180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon.下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)角膜障害を有する者10)ブリモニジン酒石酸塩または他のCa2作動薬,ブリンゾラミドまたは他の炭酸脱水酵素阻害薬,スルホンアミド系薬剤,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者11)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬,1日あたりC4.5Cgを超えるアスピリンの大量投与または別に規定したもの以外の眼局所の治療薬を使用する予定のある者12)治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者スクリーニング検査日治療期観察期前治療4週4週現行治療(緑内障点眼剤の・ブリンゾラミドを点眼SJP-0125群:SJP-0125を点眼種類は問わない)または無治療・観察期終了日の0時間値およびブリンゾラミド群:ブリンゾラミドを点眼2時間値の眼圧値が18.0mmHg以上併用群:ブリモニジンおよび31.0mmHg以下の場合、治療期へブリンゾラミドを点眼移行する図1治験デザイン表3検査・観察スケジュール○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.測定時点C7時間での眼圧,血圧・脈拍数は,原則測定した.からの眼圧変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的に割付群を決定した.SJP-0125群,ブリンゾラミド群,併用群の割付比はC3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被.験.者.数SJP-0125群とブリンゾラミド群の眼圧下降の差をC1.0mmHg,共通の標準偏差を約C2.6CmmHgと推定,有意水準両側C5%,検出力C90%と設定し必要な評価被験者数を各群144例と算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を50例とした.中止脱落を考慮してCSJP-0125群,ブリンゾラミド群の目標被験者数を各群C160例,併用群をC56例,合計C376例と設定した.C5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,細隙灯顕微鏡検査所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野,血圧・脈拍数の各検査を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前かつC8:00.10:00の間にC0時間値を測定し,点眼後はC2時間値および原則としてC7時間値を測定した.また,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用と表4被験者背景(FAS)SJP-0125ブリンゾラミド併用合計項目分類(n=181)(n=176)(n=61)(n=418)性別男79(C43.6)87(C49.4)27(C44.3)193(C46.2)女102(C56.4)89(C50.6)34(C55.7)225(C53.8)年齢(歳)平均値±標準偏差C60.5±12.9C62.3±12.7C62.1±11.8C.最小値.最大値28.9C026.8C932.8C2C.対象疾患1原発開放隅角緑内障(広義)115(C63.5)121(C68.8)42(C68.9)278(C66.5)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障79(C43.6)89(C50.6)27(C44.3)195(C46.7)前視野緑内障36(C19.9)32(C18.2)15(C24.6)83(C19.9)高眼圧症66(C36.5)55(C31.3)19(C31.1)140(C33.5)緑内障治療薬2有127(C70.2)134(C76.1)46(C75.4)307(C73.4)無54(C29.8)42(C23.9)15(C24.6)111(C26.6)眼局所の合併症2有108(C59.7)102(C58.0)42(C68.9)252(C60.3)無73(C40.3)74(C42.0)19(C31.1)166(C39.7)眼局所以外の合併症有128(C70.7)122(C69.3)44(C72.1)294(C70.3)無53(C29.3)54(C30.7)17(C27.9)124(C29.7)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層390(C49.7)84(C47.7)32(C52.5)206(C49.3)(有効性評価対象眼)中眼圧層457(C31.5)57(C32.4)19(C31.1)133(C31.8)高眼圧層534(C18.8)35(C19.9)10(C16.4)79(C18.9)例数(%)C.:該当なし1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経障害の存在2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした3:18CmmHg以上C20CmmHg未満4:20CmmHg以上C22CmmHg未満5:22CmmHg以上した.C6.併用薬および併用処置治験期間中,表2の除外基準に抵触する薬剤または処置の併用は禁止した.C7.評価方法および解析方法a.有効性最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を有効性の主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期C4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした(優越性の検証).欠測値に対しては,lastCobservationCcarriedforward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の各観察日(治療期C2週および治療期C4週)の眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれのC0時間値,2時間値,7時間値,0時間値とC2時間値の平均値,0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値)とした.t検定(有意水準両側C5%)によりCSJP-0125群およびブリンゾラミド群のC2群間で比較した.参照群との比較には検定を行わないこととした.眼圧値は,治療期開始日と投与後の各観察日の値をCpairedt検定(有意水準両側C5%)で比較した.また,治療期C4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に解析した.Cb.安全性治療期に組み入れられた被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,治療期開始日以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS例数)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧・脈拍数は治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野はスクリーニング検査日からの悪化の有無を比較した.CII結果1.被験者の構成同意を取得した被験者はC498例,観察期にブリンゾラミドの投与を開始したのはC483例であった.このうち無作為化され,治療期の投与を開始したのはC423例であった.治験完了例はC414例,治験未完了例はC9例であった.治療期の投与を開始したC423例(SJP-0125群C182例,ブ表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移(FAS)測定時点CSJP-0125ブリンゾラミド併用0時間値治療期開始日眼圧値C20.7±2.0(1C81)C20.6±1.9(1C76)C20.5±2.0(61)治療期C2週眼圧値C18.5±2.5*†(1C80)C19.3±2.4*†(1C74)C18.2±2.4*(60)変化値C.2.3±2.0†(1C80)C.1.2±1.9†(1C74)C.2.3±2.1(60)変化率C.10.9±9.7†(1C80)C.5.9±9.2†(1C73)C.10.9±9.9(60)治療期C4週眼圧値C18.2±2.8*†(1C80)C19.0±2.7*†(1C73)C18.1±2.1*(59)変化値C.2.5±2.1†(1C80)C.1.6±2.0†(1C73)C.2.4±1.9(59)変化率C.12.3±10.2†(1C80)C.7.7±9.7†(1C73)C.11.6±8.4(59)2時間値治療期開始日眼圧値C20.1±2.0(1C81)C20.0±1.9(1C76)C19.8±1.8(61)治療期C2週眼圧値C16.5±2.4*†(1C80)C18.5±2.4*†(1C74)C16.7±2.6*(60)変化値C.3.6±2.2†(1C80)C.1.5±1.6†(1C74)C.3.2±2.1(60)変化率C.17.7±10.3†(1C80)C.7.7±7.8†(1C73)C.15.9±10.2(60)治療期C4週眼圧値C16.4±2.5*†(1C80)C18.3±2.6*†(1C73)C16.5±2.7*(59)変化値1C.3.7±2.1†(1C81)C.1.7±1.9†(1C76)C.3.4±2.4(60)変化率C.18.1±10.3†(1C80)C.8.5±9.3†(1C73)C.17.1±11.6(59)7時間値治療期開始日眼圧値C19.1±2.1(1C64)C19.2±2.1(1C57)C19.0±2.3(55)治療期C2週眼圧値C16.8±2.6*†(1C63)C18.0±2.4*†(1C54)C17.0±2.4*(54)変化値C.2.3±2.2†(1C63)C.1.1±1.9†(1C54)C.2.0±1.8(54)変化率C.12.0±11.4†(1C63)C.5.7±9.7†(1C54)C.10.2±9.1(54)治療期C4週眼圧値C16.8±2.5*†(1C63)C17.8±2.7*†(1C54)C16.7±2.2*(53)変化値C.2.2±2.1†(1C63)C.1.4±1.9†(1C54)C.2.3±1.7(53)変化率C.11.5±10.7†(1C63)C.7.4±9.8†(1C54)C.11.9±8.8(53)0時間値とC2時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.4±1.9(1C81)C20.3±1.9(1C76)C20.2±1.8(61)治療期C2週眼圧値C17.5±2.3*†(1C80)C18.9±2.3*†(1C74)C17.4±2.3*(60)変化値C.2.9±1.8†(1C80)C.1.4±1.5†(1C74)C.2.7±1.9(60)変化率C.14.3±8.7†(1C80)C.6.9±7.3†(1C74)C.13.4±8.9(60)治療期C4週眼圧値C17.3±2.5*†(1C80)C18.7±2.6*†(1C73)C17.3±2.2*(59)変化値C.3.1±1.9†(1C80)C.1.6±1.7†(1C73)C.2.9±1.9(59)変化率C.15.2±9.2†(1C80)C.8.2±8.5†(1C73)C.14.4±8.8(59)0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.0±1.9(1C64)C19.9±1.9(1C57)C19.8±1.8(55)治療期C2週眼圧値C17.3±2.3*†(1C63)C18.6±2.2*†(1C54)C17.4±2.1*(54)変化値C.2.7±1.8†(1C63)C.1.3±1.4†(1C54)C.2.4±1.5(54)変化率C.13.6±8.7†(1C63)C.6.7±6.9†(1C54)C.12.4±7.3(54)治療期C4週眼圧値C17.2±2.4*†(1C63)C18.3±2.5*†(1C54)C17.1±2.1*(53)変化値C.2.8±1.7†(1C63)C.1.6±1.5†(1C54)C.2.7±1.5(53)変化率C.14.1±8.7†(1C63)C.8.2±7.9†(1C54)C.13.5±7.4(53)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.*:p<0.0001(治療期C2週またはC4週の眼圧値Cvs治療期開始日の眼圧値Cpairedt検定,有意水準両側5%)C†:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドCt検定,有意水準両側5%)リンゾラミド群C177例,併用群C64例)をCSSとした.このC2.有効性うち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データの眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率ないC3例および除外基準に抵触したC2例を除くC418例(SJP-を表5,眼圧変化値の推移を図2,対象疾患別,治療期開始0125群C181例,ブリンゾラミド群C176例,併用群C61例)を日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期C4週,FASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2時間値)を表6,図3および図4に示した.主要評価項目である治療期C4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,SJP-0125群ではC.3.7±2.1CmmHg,ブリ0時間値1ンゾラミド群では.1.7±1.9CmmHgであり,統計学的に有0意な差を認め(点推定値:C.2.0mmHg,95%両側信頼区間:-1-2*.2.4.C.1.5CmmHg,p<0.0001),SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する優越性が検証された.副次評価項目である治療期C2週および治療期C4週の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,すべての測定時点で-3*-4-5SJP-0125ブリンゾラミド併用-6SJP-0125群のブリンゾラミド群に対する統計学的に有意な治療期開始日治療期2週治療期4週差を認めた(いずれもCp<C0.01).さらに,治療期C2週および2時間値治療期C4週の眼圧値は,いずれの群もすべての測定時点で投1与前と比較して統計学的に有意に低下した(いずれもCp<0.0001).併用群の眼圧下降効果は,SJP-0125群と同程度であった.また,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に治療期4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を解析した結果,いずれの層も全体の解析結果と同じ傾向を示した.眼圧変化値(mmHg)0-1-4**-2-3-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用3.安全性治療期開始日治療期2週治療期4週治療期にCSJP-0125群,ブリンゾラミド群および併用群に7時間値発現した有害事象はそれぞれ47例(25.8%)59件,43例C1**-3眼圧変化値(mmHg)(24.3%)67件およびC12例(18.8%)13件であった.このうち副作用は,それぞれC16例(8.8%)22件,18例(10.2%)23件,7例(10.9%)7件で,各群の発現割合は同程度であった.治療期の副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,SJP-0125群では霧視C6例(3.3%),点状角膜炎C5例(2.7%),0-1-2-4-5-6SJP-0125ブリンゾラミド併用ブリンゾラミド群では霧視C11例(6.2%),点状角膜炎C4例(2.3%),味覚障害C3例(1.7%),併用群では眼刺激C2例(3.1%)であった.重度と判定された副作用はいずれの群にもなく,中等度と判定された副作用は併用群でC1例C1件(眼瞼紅斑)認めた.その他の副作用は軽度であった.副作用による中止は併用群でC2例(霧視,眼瞼紅斑)であった.副作用による死亡および重篤な副作用はなかった.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数には,臨床上問題となるような変動や所見はみられなかった.CIII考按SJP-0125の有効性を検証するにあたり,SJP-0125の有効成分の一つであり,わが国で第二選択薬として広く使用されているブリンゾラミドを対照に比較試験を行った.治療期C4週での眼圧変化値(2時間値)を比較した結果,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも優れた眼圧下降効果を示した.さらに,治療期C2週および治療期C4週のC0,2,7時間のすべての時点で,SJP-0125群はブリンゾラミド群よりも大きな眼圧下降を示し,1日を通して良好な眼圧下降効治療期開始日治療期2週治療期4週平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0125vsブリンゾラミドt検定,有意水準両側5%)図2眼圧変化値の推移果を示した.また,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点でCSJP-0125群と併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0125はブリンゾラミド単剤から切り替えることで追加の眼圧下降効果が得られ,ブリモニジンとブリンゾラミドの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬のC3剤併用でコントロール不良の患者を対象とした臨床研究では,ブリモニジンの追加投与で眼圧下降効果が得られることが確認されている12).このことから,ブリンゾラミドを第一選択薬であるプロスタグランジン関連薬またはCb遮断薬と併用している場合にも,ブリンゾラミドからCSJP-0125への切り替えによってさらなる眼圧下降効果が得られることが期待される.また,対象疾患別に解析した結果から,SJP-0125は原発開放隅角緑内障,前視野緑内障および高眼圧症のいずれに対しても眼圧下降効果を示すと考えられる.さらに,治療期開表6対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期4週,2時間値)項目CSJP-0125ブリンゾラミド併用眼圧値(治療期開始日,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C20.0±2.0(1C15)C19.9±1.8(1C21)C19.9±2.0(42)原発開放隅角緑内障C20.1±2.2(79)C20.0±1.8(89)C19.6±1.6(27)前視野緑内障C19.7±1.4(36)C19.5±1.7(32)C20.6±2.4(15)高眼圧症C20.4±2.1(66)C20.4±2.1(55)C19.7±1.6(19)眼圧値(治療期開始日,2時間値)低眼圧層:1C8CmmHg以上C20CmmHg未満C18.6±0.5(90)C18.5±0.5(84)C18.5±0.6(32)中眼圧層:2C0CmmHg以上C22CmmHg未満C20.5±0.6(57)C20.4±0.5(57)C20.3±0.4(19)高眼圧層:2C2CmmHg以上C23.6±1.5(34)C23.2±1.3(35)C23.3±1.0(10)図3対象疾患別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)SJP-0125ブリンゾラミド併用低眼圧層中眼圧層高眼圧層眼圧変化率(%)0-5-10-15-20-25-30-35平均値±標準偏差低眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)18mmHg以上20mmHg未満中眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)20mmHg以上22mmHg未満高眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)22mmHg以上図4治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)表7治療期の副作用一覧(SS)SJP-0125ブリンゾラミド併用副作用名1C(n=182)(n=177)(n=64)件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体C2216(C8.8)C2318(C10.2)C77(C10.9)眼障害C2015(C8.2)C2016(C9.0)C66(9C.4)霧視C66(3C.3)C1111(C6.2)C11(1C.6)点状角膜炎C75(2C.7)C54(2C.3)C00(0C.0)結膜充血C11(0C.5)C11(0C.6)C11(1C.6)眼脂C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼の異物感C11(0C.5)C11(0C.6)C00(0C.0)眼刺激C11(0C.5)C00(0C.0)C22(3C.1)眼瞼炎C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼乾燥C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)硝子体浮遊物C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)眼痛C00(0C.0)C11(0C.6)C00(0C.0)眼瞼紅斑C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)眼そう痒症C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)胃腸障害C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)口内乾燥C00(0C.0)C00(0C.0)C11(1C.6)臨床検査C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)視野検査異常C11(0C.5)C00(0C.0)C00(0C.0)神経系障害C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)味覚異常C11(0C.5)C33(1C.7)C00(0C.0)1:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.始日(2時間値)の眼圧値別に解析した結果から,SJP-012525.8%,ブリンゾラミド群でC24.3%,併用群でC18.8%であは投与開始前の眼圧値にかかわらず眼圧下降効果を示すと考り,各群での発現割合は同程度であった.副作用発現割合もえられる.3群間で同程度であり,いずれの群でも重篤な副作用は認め安全性に関しては,有害事象の発現頻度はCSJP-0125群でなかった.SJP-0125群で比較的発現頻度の高かった副作用は霧視(3.3%)および点状角膜炎(2.7%)であったが,これらはC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液またはC1%ブリンゾラミド点眼液において既知の副作用であり13,14),発現割合はブリンゾラミド群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではCSJP-0125の安全性はブリンゾラミド単剤および併用療法と同様に良好であると考える.海外ではC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(SIMBRINZACR,米国CAlconCResearch,Ltd.)が市販されている.単剤で眼圧コントロール不良または眼圧降下薬を多剤併用している開放隅角緑内障または高眼圧症患者のうち,休薬期間後の眼圧値がC9:00時点でC24.36CmmHg,11:00時点でC21.36CmmHgである患者を対象とした海外第CIII相試験では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群の投与開始日からの眼圧変化値(0,2,7時間値の平均)は投与C2週でC.7.6mmHg,3カ月でC.7.9CmmHg,6カ月でC.7.8CmmHgであり,投与後2週からC6カ月にかけて安定した眼圧下降効果が確認されている15).これらのことから,SJP-0125も同様に,本試験で検証したC4週間を超えて長期間投与した場合でも,安定した眼圧下降効果を示すことが期待される.また,投与C6カ月における有害事象の発現頻度はC0.2%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤群と各単剤群および併用群で同程度であったことから15,16),SJP-0125でも長期投与時の安全性に問題はないことが期待される.以上の結果より,SJP-0125は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるブリンゾラミド点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に大きく,その効果は1日を通じて良好であること,安全性に問題のないことを確認した.このことから,ブリンゾラミド単剤からCSJP-0125に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より優れた眼圧下降効果を得ることができると考えられる.この追加の眼圧下降効果は,第一選択薬とブリンゾラミドを併用している場合にブリンゾラミドをCSJP-0125に変更することでも得られると期待される.また,すでにCa2作動薬および炭酸脱水酵素阻害薬を併用している場合は,SJP-0125に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0125はわが国初のCb遮断薬を含まない配合点眼剤であり,さらにプロスタグランジン関連薬も含まないことから,それら単剤で効果不十分またはそれらを使用できない患者に使用できる配合剤としても期待される.以上より,SJP-0125は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内C1308あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)GrayCTA,COrtonCLC,CHensonCDCetal:InterventionsCforCimprovingadherencetoocularhypotensivetherapy.CochraneDatabaseSystRevC2009:CD006132,C20093)QuigleyHA,FriedmanDS,HahnSR:Evaluationofprac-ticeCpatternsCforCtheCcareCofCopen-angleCglaucomaCcom-paredwithclaimsdata:theglaucomaadherenceandper-sistencystudy.OphthalmologyC114:1599-1606,C20074)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarri-ersCinglaucoma:aCsystematicCclassi.cation.CJCGlaucomaC12:393-398,C20035)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:E.ectsofbrimo-nidineConCaqueousChumorCdynamicsCinChumanCeyes.CArchCOphthalmolC113:1514-1517,C19956)BurkeCJ,CSchwartzM:PreclinicalCevaluationCofCbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19967)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌C116:955-966,C20128)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液C0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究─使用成績調査中間報告.臨眼C71:859-867,C20179)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentCstudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C201110)中島正之:新しい緑内障治療薬:点眼用炭酸脱水酵素阻害剤.あたらしい眼科10:959-964,C199311)IesterM:BrinzolamideCophthalmicsuspension:aCreviewCofCitsCpharmacologyCandCuseCinCtheCtreatmentCofCopenCangleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmolC2:517-523,C200812)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害剤のC3剤併用でコントロール不十分な症例に対するブリモニジン点眼液の追加処方.あたらしい眼科31:1059-1062,C201413)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201214)MarchCWF,COchsnerCKI,CtheCBrinzolamideCLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyande.cacyofCbrinzolamide1.0%(Azopt)inCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC151:671-681,C201115)AungCT,CLaganovskaCG,CHernandezCParedesCTJCetal:CTwice-dailyCbrinzolamide/brimonidineC.xedCcombinationCversusbrinzolamideorbrimonidineinopen-angleglauco-maCorCocularChypertension.CAmericanCAcademyCofCOph-thalmologyC121:2348-2355,C201416)GandoliSA,LimJ,SanseauACetal:Randomizedtrialofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbrimo-nidineCforCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAdvTherC31:1213-1227,C2014(132)

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III 相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1289.1298,2020cブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験相原一*1関弥卓郎*2*1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2千寿製薬株式会社CPhaseIIIStudytoEvaluatetheE.cacyandSafetyofNovelBrimonidine/BrinzolamideOphthalmicSuspensionComparedwithBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucoma(Broad-De.nition)orOcularHypertensionMakotoAihara1)andTakuroSekiya2)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo,2)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)の眼圧下降効果および安全性をC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)と比較した.原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症患者を対象に,ブリモニジンをC4週間投与した後,眼圧値がC18.0CmmHg以上のC355例にCSJP-0125またはブリモニジンをC4週間投与した.治療期C4週の眼圧変化値は,SJP-0125群C.2.9±2.0mmHg,ブリモニジン群C.2.4±2.0CmmHgで,群間差は.0.6CmmHg(95%信頼区間:C.1.0.C.0.1,p=0.0109)であり,SJP-0125のブリモニジンに対する優越性が検証された.副作用はCSJP-0125群C12.9%,ブリモニジン群C1.1%に認められた.重篤な副作用は認めず,おもな副作用は既知のものであったことから,SJP-0125の安全性に問題はないと考えられた.CPurpose:ToCcompareCtheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationCophthalmicCsuspensionCofCbrimonidineCtartrate0.1%/brinzolamide1%(SJP-0125)withCthoseCofCbrimonidineCtar-trate0.1%(brimonidine)C.Subjects:Thisstudyinvolved355patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension,whoseIOPwas≧18.0CmmHgafterbrimonidineadministrationfor4weeksandwhounderwentSJP-0125orbrimonidineadministrationforanadditional4weeks.ThemeanIOPchangesatWeek4ofthetreatment-periodCwereC.2.9±2.0CmmHgCinCtheCSJP-0125CgroupCandC.2.4±2.0CmmHgCinCtheCbrimonidineCgroup,CandCtheCdi.erencebetweenthetwogroupswas.0.6CmmHg(95%CI:.1.0to.0.1,Cp=0.0109)C,thusdemonstratingthesuperiorityCofCSJP-0125CtoCbrimonidine.CInCtheCSJP-0125CgroupCandCtheCbrimonidineCgroup,Ctreatment-relatedCadverseevents(TRAEs)wereCobservedCin12.9%Cand1.1%,Crespectively.CAlthoughCpreviouslyCreportedCTRAEsCassociatedwithbrimonidineorbrinzolamidecommonlyoccur,noseriousTRAEswereobserved.Conclusion:SJP-0125wasfounde.ectiveforloweringIOPandsafe,withnoseriousTRAEs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1289.1298,C2020〕Keywords:ブリモニジン,ブリンゾラミド,配合剤,緑内障,比較試験.brimonidine,brinzolamide,.xedcombi-nationophthalmicsuspension,glaucoma,comparativestudy.Cはじめに治療法は眼圧下降である1).わが国では単剤としてプロスタ緑内障治療の目的は患者の視機能を維持させることであグランジン関連薬,Cb遮断薬,Ca2作動薬,炭酸脱水酵素阻り,現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な害薬,Rhoキナーゼ阻害薬,Ca1遮断薬,交感神経非選択性〔別刷請求先〕関弥卓郎:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakuroSekiya,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANC作動薬,副交感神経作動薬が承認されている.緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合まず単剤療法から開始し,目標眼圧に達していないなど有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1)が,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合わせはプロスタグランジン関連薬とCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とCb遮断薬,Ca2作動薬とCb遮断薬のC3種のみである.そのため,上記以外の組み合わせで配合点眼剤を開発することは治療の選択肢を広げることができる点で臨床的意義があると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/1%ブリンゾラミド配合懸濁性点眼剤(以下,SJP-0125)は,Ca2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミドを有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は房水産生を抑制し,ぶどう膜強膜路からの房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す2).また,眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている3).ブリンゾラミドは房水産生を抑制することで眼圧下降効果を示す4).そこで,SJP-0125の第CIII相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0125の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0125の有効成分の一つであるC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)を対照に比較検討したので報告する.CI方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,表1に示す全国C55医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験情報の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMINC000028493).C2.目的原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0125をC1日C2回C4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性を,ブリモニジンを対照に比較検討することを目的とした.C3.対象原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,ブリモニジンをC4週間投与後の眼圧がC18.0CmmHg以上で,表2の基準に該当する患者を対象とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.C4.方法a.被験薬被験薬(SJP-0125)は,点眼剤C1Cml中にブリモニジン酒石酸塩をC1Cmg,ブリンゾラミドをC10Cmg含有する懸濁性点眼剤である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮蔽(評価者遮蔽)並行群間比較試験として実施した.観察期にブリモニジンをC1回C1滴,1日C2回朝(8:00.10:00)および夜(20:00.22:00),両眼にC4週間点眼した後,治療期にCSJP-0125またはブリモニジンをC1回C1滴,1日C2回朝および夜,両眼にC4週間点眼した.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬割付責任者が識別不能性を確認した後,治験薬の無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値のC2時間値および観察期終了日(治療期開始日)のC2時間値のスクリーニング検査日からの眼圧変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的に割付群を決定した.SJP-0125群,ブリモニジン群の割付比はC1:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被.験.者.数SJP-0125群とブリモニジン群の眼圧下降の差を1.0mmHg,共通の標準偏差を約C2.6CmmHgと推定,有意水準両側C5%,検出力C90%と設定し,必要な評価被験者数を各群C144例と算出した.中止脱落を考慮してCSJP-0125群,ブリモニジン群の目標被験者数を各群C160例とし,合計C320例と設定した.C5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,細隙灯顕微鏡検査所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野,血圧・脈拍数の各検査を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前かつC8:00.10:00の間にC0時間値を測定し,点眼後はC2時間値および原則としてC7時間値を測定した.また,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用とした.C6.併用薬および併用処置治験期間中,表2の除外基準に抵触する薬剤または処置の併用は禁止した.C7.評価方法および解析方法a.有効性最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を有効性の表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師たかはし眼科髙橋俊明松村眼科医院松村明金沢大学附属病院杉山和久医療法人明和会宮田眼科病院大谷伸一郎医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック貞松良成医療法人陽山会井後眼科馬渡祐記医療法人社団深志清流会清澤眼科医院清澤源弘医療法人恕心会さめしま眼科鮫島基泰医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人社団彩光会札幌かとう眼科加藤祐司たまがわ眼科クリニック關保中の島たけだ眼科竹田明野村眼科野村亮二東北大学病院津田聡吉村眼科内科医院吉村弦公益財団法人湯浅報恩会寿泉堂綜合病院神田尚孝医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌眼科君塚医院君塚佳宏医療法人大宮はまだ眼科濱田直紀医療法人誠療会尾﨏眼科クリニック尾﨏雅博医療法人大宮はまだ眼科西口分院福岡詩麻市橋眼科クリニック市橋慶之医療法人社団泰成会こんの眼科今野泰宏東京大学医学部附属病院坂田礼医療法人社団うえだ眼科クリニック上田裕子東京浜松町眼科クリニック南光太郎医療法人社団瑞英会野近眼科医院吉見裕美子藤井眼科藤井博明医療法人社団碧明会大沢眼科・内科大澤彰岸根公園眼科斉藤秀典武蔵小金井さくら眼科安田佳守臣国保直営総合病院君津中央病院中村洋介医療法人社団慶翔会両国眼科クリニック岩崎美紀医療法人天神疋田眼科医院*疋田直文東京医科大学病院丸山勝彦渡辺眼科渡辺純子いまい眼科今井雅仁大森町眼科クリニック天野由紀医療法人湘山会眼科三宅病院三宅豪一郎医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治医療法人社団秀明会遠谷眼科遠谷茂東京慈恵会医科大学附属病院久米川浩一健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子諸星眼科クリニック諸星計草津眼科クリニック望月英毅西府ひかり眼科野口圭医療法人鈴木眼科クリニック鈴木亨医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功医療法人宮本眼科宮本秀久医療法人かがやきくぼた眼科久保田泰隆望月眼科望月泰敬医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二医療法人杏水会右田眼科右田雅義杉浦眼科杉浦寅男医療法人宮嶋会みやじま眼科宮嶋聖也*旧:医療法人福ビル疋田眼科医院表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力がC0.3以上の者3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値がC18.0CmmHg以上C31.0CmmHg以下の者おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去C180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon.下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)角膜障害を有する者10)ブリモニジン酒石酸塩または他のCa2作動薬,ブリンゾラミドまたは他の炭酸脱水酵素阻害薬,スルホンアミド系薬剤,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者11)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬,1日あたりC4.5Cgを超えるアスピリンの大量投与または別に規定したもの以外の眼局所の治療薬を使用する予定のある者12)治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者スクリーニング検査日前治療現行治療(緑内障点眼剤の種類は問わない)または無治療図1治験デザイン表3検査・観察スケジュール○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.測定時点C7時間での眼圧,血圧・脈拍数は,原則測定した.主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期C4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした(優越性の検証).欠測値に対しては,lastCobservationCcarriedforward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の各観察日(治療期C2週および治療期C4週)の眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれのC0時間値,2時間値,7時間値,0時間値とC2時間値の平均値,0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値)とした.t検定(有意水準両側C5%)によりCSJP-0125群およびブリモニジン群のC2群間で比較した.眼圧値は,治療期開始日と投与後の各観察日の値をCpairedt検定(有意水準両側5%)で比較した.また,治療期C4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に解析した.Cb.安全性治療期に組み入れられた被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,治療期開始日以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS例数)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧・脈拍数は治療期の治験薬投与前後を比較し表4被験者背景(FAS)SJP-0125ブリモニジン合計項目分類(n=173)(n=177)(n=350)性別男87(C50.3)91(C51.4)178(C50.9)女86(C49.7)86(C48.6)172(C49.1)年齢(歳)平均値±標準偏差C62.7±12.9C61.5±13.3C.最小値.最大値21.8C522.8C7C.対象疾患1原発開放隅角緑内障(広義)126(C72.8)126(C71.2)252(C72.0)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障87(C50.3)89(C50.3)176(C50.3)前視野緑内障39(C22.5)37(C20.9)76(C21.7)高眼圧症47(C27.2)51(C28.8)98(C28.0)緑内障治療薬2有137(C79.2)133(C75.1)270(C77.1)無36(C20.8)44(C24.9)80(C22.9)眼局所の合併症2有118(C68.2)112(C63.3)230(C65.7)無55(C31.8)65(C36.7)120(C34.3)眼局所以外の合併症有131(C75.7)131(C74.0)262(C74.9)無42(C24.3)46(C26.0)88(C25.1)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層3102(C59.0)105(C59.3)207(C59.1)(有効性評価対象眼)中眼圧層441(C23.7)41(C23.2)82(C23.4)高眼圧層530(C17.3)31(C17.5)61(C17.4)例数(%)C.:該当なし1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経障害の存在2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.3:18CmmHg以上C20CmmHg未満4:20CmmHg以上C22CmmHg未満5:22CmmHg以上た.眼底および視野はスクリーニング検査日からの悪化の有無を比較した.CII結果1.被験者の構成同意を取得した被験者はC452例,観察期にブリモニジンの投与を開始したのはC438例であった.このうちC355例が無作為化され,治療期の投与を開始した.治験完了例はC345例,治験未完了例はC10例であった.治療期の投与を開始したC355例(SJP-0125群C178例,ブリモニジン群C177例)をCSSとした.このうち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データのないC4例および除外基準に抵触したC1例を除くC350例(SJP-0125群C173例,ブリモニジン群C177例)をCFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.C2.有効性眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率を表5,眼圧変化値の推移を図2,対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期C4週,2時間値)を表6,図3および図4に示した.主要評価項目である治療期C4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,SJP-0125群ではC.2.9±2.0CmmHg,ブリモニジン群では.2.4±2.0CmmHgであり,統計学的に有意な差を認め(点推定値:C.0.6CmmHg,95%両側信頼区間:C.1.0.C.0.1CmmHg,p=0.0109),SJP-0125群のブリモニジン群に対する優越性が検証された.副次評価項目である治療期C2週および治療期C4週の眼圧値は,治療期C4週のC2時間値を除くすべての測定時点でCSJP-0125群のブリモニジン群に対する統計学的に有意な差を認めた(いずれもCp<0.05).また,治療期C2週および治療期C4週での眼圧変化値および眼圧変化率は,すべての測定時点でSJP-0125群のブリモニジン群に対する統計学的に有意な差を認めた(いずれもCp<0.05).さらに,治療期C2週および治療期C4週の眼圧値は,すべての測定時点で投与前と比較して統計学的に有意に低下した(いずれもp<0.0001).また,対象疾患別および治療期開始日の眼圧値別に治療期4週の眼圧変化値および眼圧変化率(2時間値)を解析した結果,いずれの層も全体の解析結果と同じ傾向を示した.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移(FAS)測定時点CSJP-0125ブリモニジン0時間値治療期開始日眼圧値C21.2±2.3(173)C21.1±2.4(177)治療期C2週眼圧値C19.0±2.8*††(171)C19.8±3.1*††(173)変化値C.2.2±1.9††(171)C.1.3±1.9††(173)変化率C.10.5±8.8††(171)C.6.1±9.3††(173)治療期C4週眼圧値C18.6±2.8*††(172)C19.5±3.2*††(173)変化値C.2.6±2.0††(172)C.1.6±2.0††(173)変化率C.12.2±9.4††(172)C.7.6±9.9††(173)2時間値治療期開始日眼圧値C19.9±2.1(173)C19.8±2.1(177)治療期C2週眼圧値C17.1±2.8*†(171)C17.8±2.9*†(173)変化値C.2.7±1.9††(171)C.2.0±2.1††(173)変化率C.14.0±9.9††(171)C.10.2±10.4††(173)治療期C4週眼圧値C16.9±2.9*(172)C17.5±2.9*(173)変化値1C.2.9±2.0†(173)C.2.4±2.0†(177)変化率C.14.8±10.3†(172)C.12.1±10.5†(173)7時間値治療期開始日眼圧値C19.6±2.6(163)C19.5±2.7(164)治療期C2週眼圧値C17.4±2.7*††(161)C18.4±3.1*††(159)変化値C.2.2±1.9††(161)C.1.1±2.3††(159)変化率C.10.8±9.7††(161)C.5.3±12.2††(159)治療期C4週眼圧値C17.3±2.8*††(161)C18.2±3.1*††(158)変化値C.2.3±1.9††(161)C.1.3±2.1††(158)変化率C.11.8±9.4††(161)C.6.3±10.9††(158)0時間値とC2時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.5±2.1(173)C20.5±2.2(177)治療期C2週眼圧値C18.0±2.6*††(171)C18.8±2.9*††(173)変化値C.2.5±1.6††(171)C.1.6±1.8††(173)変化率C.12.2±8.1††(171)C.8.2±8.9††(173)治療期C4週眼圧値C17.8±2.7*†(172)C18.5±2.9*†(173)変化値C.2.7±1.8††(172)C.2.0±1.8††(173)変化率C.13.5±8.7††(172)C.9.8±9.0††(173)0時間値とC2時間値とC7時間値の平均値治療期開始日眼圧値C20.2±2.2(163)C20.1±2.2(164)治療期C2週眼圧値C17.8±2.6*††(161)C18.7±2.8*††(159)変化値C.2.4±1.5††(161)C.1.4±1.6††(159)変化率C.11.8±7.6††(161)C.7.3±8.2††(159)治療期C4週眼圧値C17.6±2.6*†(161)C18.4±2.9*†(158)変化値C.2.6±1.6††(161)C.1.7±1.6††(158)変化率C.12.8±8.0††(161)C.8.7±8.6††(158)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.*:p<0.0001(治療期C2週またはC4週の眼圧値Cvs治療期開始日の眼圧値Cpairedt検定,有意水準両側5%)C†:p<0.05C††:p<0.01(SJP-0125vsブリモニジンCt検定,有意水準両側5%)C3.安全性31件,2例(1.1%)2件であった.治療期にCSJP-0125群およびブリモニジン群に発現した有治療期の副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,害事象はそれぞれ50例(28.1%)68件および32例(18.1%)SJP-0125群では霧視12例(6.7%),眼刺激5例(2.8%),36件であった.このうち副作用は,それぞれC23例(12.9%)味覚異常C4例(2.2%),結膜充血C2例(1.1%),眼の異常感C2例(1.1%)および結膜炎C2例(1.1%),ブリモニジン群では0時間値1結膜充血C1例(0.6%)およびアレルギー性結膜炎C1例(0.6%)であった.-2**副作用はすべて軽度であった.副作用による中止はCSJP-0125群でC1例(結膜炎)あり,副作用による死亡および重篤な副作用はなかった.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血-3**-4-5SJP-0125ブリモニジン-6圧・脈拍数には,臨床上問題となるような変動や所見はみら治療期開始日治療期2週治療期4週れなかった.2時間値III考按SJP-0125の有効性を検証するにあたり,SJP-0125の有効成分の一つであり,わが国で第二選択薬として広く使用されているブリモニジンを対照に比較試験を行った.治療期C4週での眼圧変化値(2時間値)を比較した結果,SJP-0125群はブリモニジン群よりも優れた眼圧下降効果を示した.さら眼圧変化値(mmHg)-2-3*-4-5SJP-0125ブリモニジン-6に,治療期C2週および治療期C4週の0,2,7時間値のいずれ治療期開始日治療期2週治療期4週でもCSJP-0125群はブリモニジン群よりも優れた眼圧下降を7時間値1****-3-4示し,1日を通して良好な眼圧下降効果を示した.治療期C4週のC2時間値では,SJP-0125群のブリモニジン群に対する追加の眼圧下降効果はC0.6CmmHgに留まったが,0時間値およびC7時間値での追加眼圧下降効果はC2時間値よりも大きかった(図2).この結果から,ブリンゾラミドの炭酸脱水酵素阻害作用による終日にわたる基礎房水分泌の抑制作用が,ブ眼圧変化値(mmHg)0-1-2-5SJP-0125ブリモニジン-6リモニジンの眼圧下降効果を補完することで,SJP-0125は治療期開始日治療期2週治療期4週ブリモニジン単剤と比較してより良好なC1日を通した眼圧下降効果を示すと期待される.これらのことから,ブリモニジン単剤からCSJP-0125への切り替えは有用であると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤はプロスタグランジン関連薬と併用することでさらなる眼圧下降効果を示すことが国内第CIII相試験で確認されている5).またチモロールの単独治療で効果不十分の患者を対象とした海外第CIII相試験では,1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤により追加の眼圧下降効果が得られることが確認されている6).これらのことから,SJP-0125も作用機序が異なる他の緑内障治療薬と併用することで追加の眼圧下降効果を示すことが期待される.また,対象疾患別に解析した結果から,SJP-0125は原発開放隅角緑内障,前視野緑内障および高眼圧症のいずれに対しても眼圧下降効果を示すと考えられる.さらに,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別に解析した結果から,SJP-0125は投与開始前の眼圧値にかかわらず眼圧下降効果を示すと考えられる.安全性に関しては,有害事象の発現頻度はCSJP-0125群で28.1%,ブリモニジン群でC18.1%,副作用の発現頻度はSJP-0125群でC12.9%,ブリモニジン群でC1.1%であり,いずれの群にも重篤な副作用は認めなかった.SJP-0125群で平均値±標準偏差,*:p<0.05**:p<0.01(SJP-0125vsブリモニジンt検定,有意水準両側5%)図2眼圧変化値の推移比較的発現頻度の高かった副作用は霧視(6.7%),眼刺激(2.8%),味覚異常(2.2%)であり,これらはC0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤またはC1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤で既知の副作用である7,8).もっとも頻度の高かった霧視はC1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤でもおもな副作用として報告されており,SJP-0125群でのみ認められた.また,1%ブリンゾラミド懸濁性点眼剤の点眼後,涙液の白濁化や涙液層の不安定化によって霧視が生じることが報告されている9,10)ことから,ブリンゾラミドを懸濁させた製剤であるCSJP-0125でも,同様の機序で霧視が発現した可能性が考えられる.これらのことから,各単剤と比較して,4週間の使用ではCSJP-0125の安全性に問題はないと考える.以上の結果より,SJP-0125は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるブリモニジンに比べ眼圧下降効果は有意に高く,その効果はC1日を通じて良好であること,安全性に問題のないことを確認した.ま表6対象疾患別,治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化値および眼圧変化率(治療期4週,2時間値)項目CSJP-0125ブリモニジン眼圧値(治療期開始日,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C19.7±2.1(126)C19.5±2.0(126)原発開放隅角緑内障C19.6±2.1(87)C19.5±2.2(89)前視野緑内障C20.0±2.0(39)C19.5±1.6(37)高眼圧症C20.3±2.1(47)C20.6±2.3(51)眼圧値(治療期開始日,2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C18.5±0.6(102)C18.5±0.5(105)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C20.6±0.6(41)C20.5±0.5(41)高眼圧層:22CmmHg以上C23.5±1.9(30)C23.7±1.7(31)眼圧変化値(治療期C4週,2時間値)C1対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C.3.0±2.1(126)C.2.4±2.0(126)原発開放隅角緑内障C.3.1±2.0(87)C.2.4±2.1(89)前視野緑内障C.2.9±2.2(39)C.2.4±2.1(37)高眼圧症C.2.7±2.0(47)C.2.3±2.0(51)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C.2.8±2.0(102)C.2.5±2.0(105)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C.3.3±1.7(41)C.1.9±2.0(41)高眼圧層:22CmmHg以上C.2.8±2.5(30)C.2.6±2.3(31)眼圧変化率(治療期C4週,2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)C.15.5±10.5(125)C.12.5±10.9(123)原発開放隅角緑内障C.15.9±10.2(87)C.12.5±10.8(86)前視野緑内障C.14.5±11.2(38)C.12.4±11.1(37)高眼圧症C.13.1±9.7(47)C.11.1±9.6(50)治療期開始日の眼圧値(2時間値)低眼圧層:18CmmHg以上C20CmmHg未満C.15.3±10.8(102)C.13.5±10.8(103)中眼圧層:20CmmHg以上C22CmmHg未満C.15.9±8.6(41)C.9.2±9.8(39)高眼圧層:22CmmHg以上C.11.4±10.5(29)C.10.9±9.6(31)平均値±標準偏差(例数)眼圧値および変化値の単位:mmHg,変化率の単位:%1:LOCFにより欠測データを補完した.CSJP-0125ブリモニジン眼圧変化率(%)平均値±標準偏差図3対象疾患別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)眼圧変化率(%)SJP-0125ブリモニジン0低眼圧層中眼圧層高眼圧層-5-10-15-20-25-30(102)(103)(41)(39)(29)(31)(例数)平均値±標準偏差低眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)18mmHg以上20mmHg未満中眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)20mmHg以上22mmHg未満高眼圧層:治療期開始日の眼圧値(2時間値)22mmHg以上図4治療期開始日の眼圧値別の眼圧変化率(治療期4週,2時間値)表7治療期の副作用一覧(SS)副作用名1CSJP-0125(n=178)ブリモニジン(n=177)件数例数(%)件数例数(%)全体C3123(C12.9)C22(1C.1)眼障害C霧視C眼刺激C結膜充血C眼の異常感C結膜炎Cアレルギー性結膜炎C結膜浮腫C眼脂C点状角膜炎C27125222111122(C12.4)C12(C6.7)C5(2C.8)C2(1C.1)C2(1C.1)C2(1C.1)C1(0C.6)C1(0C.6)C1(0C.6)C1(0C.6)C20010010002(1C.1)0(0C.0)0(0C.0)1(0C.6)0(0C.0)0(0C.0)1(0C.6)0(0C.0)0(0C.0)0(0C.0)神経系障害C味覚異常C444(2C.2)C4(2C.2)C000(0C.0)0(0C.0)1:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.た,各単剤の臨床試験結果より,SJP-0125を作用機序が異なる緑内障治療薬と併用することで追加の眼圧下降効果が期待されることから,各単剤と他の緑内障治療薬との併用で効果不十分な場合に,各単剤からCSJP-0125への切り替えが有効であると考えられる.さらに,SJP-0125はわが国で初めてのCb遮断薬を含まない配合点眼剤であり,プロスタグランジン関連薬も含まないことから,それらが使用できない患者にも使用できる配合剤として期待される.加えてCSJP-0125は眼圧下降効果に相応しない視野維持効果が報告されている3)ブリモニジン酒石酸塩を有効成分として含有することから,SJP-0125でも同様の効果が期待される.以上より,SJP-0125は緑内障治療において有用性の高い配合点眼剤であると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)BurkeCJ,CSchwartzM:PreclinicalCevaluationCofCbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19963)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentCstudy.AmJOphthalmolC151:671-681,C20114)IesterM:BrinzolamideCophthalmicsuspension:aCreviewCofCitsCpharmacologyCandCuseCinCtheCtreatmentCofCopenCangleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmolC2:517-523,C20085)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,C20126)MichaudCJE,CFrirenB:ComparisonCofCtopicalCbrinzol-amide1%CandCdorzolamide2%CeyeCdropsCgivenCtwiceCdailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC132:235-243,C20017)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C20128)MarchCWF,COchsnerCKI,CtheCBrinzolamideCLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyande.cacyofCbrinzolamide1.0%(Azopt)inCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CAmCJCOph-thalmolC151:671-681,C20119)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬投与に伴う霧視について.日眼会誌110:689-692,C200610)野口毅,川﨑史朗,溝上志朗ほか:ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生機序.日眼会誌114:369-373,C2010***

ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):345?352,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社Long-TermE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は多くの場合きわめて慢性に経過する進行性の疾患で,長期の点眼や定期的な経過観察を要し,かつ自覚症状がないことが多いことから,アドヒアランスの維持は治療の成否に大きくかかわる1).緑内障患者を対象としたアンケート調査では,薬剤数の増加により点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え,点眼を忘れる頻度が高くなることが報告されている2).薬剤数および点眼回数を減らすことのできる配合点眼剤は,患者のアドヒアランスを向上させ,治療効果を上げることに貢献することが期待される.〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師渡辺眼科医院渡邉広己富士見台眼科浅野由香三橋眼科医院三橋正忠道玄坂加藤眼科加藤卓次成城クリニック松﨑栄医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功たまがわ眼科クリニック關保医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子北川眼科医院北川厚子医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔赤羽しまだ眼科島田典明0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は,a2受容体を選択的に刺激して,毛様体上皮においてcyclicadenos-inemonophosphate(cyclicAMP)産生を抑制して房水の産生を抑制し,さらに,ぶどう膜強膜流出路を介して房水流出を促進することで眼圧下降効果を示す3).0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)は,わが国では2012年に千寿製薬株式会社が承認を得た緑内障治療薬であり,唯一のa2作動薬である.臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られており4,5),眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている6).チモロールマレイン酸塩はb遮断薬であり,毛様体上皮のb受容体を遮断して,cyclicAMP産生を抑制することにより,房水産生を抑制して眼圧下降効果を示す7,8).0.5%チモロール点眼剤(以下,チモロール)は,わが国では1981年に承認され,プロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されている.わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている9).SJP-0135は,作用機序の異なる2成分を配合することにより各単剤よりも強い眼圧下降効果が期待されることに加えて,配合剤に変更することで点眼回数の減少に伴う患者の利便性向上が期待される.さらに,現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,わが国初のa2作動薬を含有した配合点眼剤であるSJP-0135は治療選択肢の拡大に貢献すると考えられる.今回は,SJP-0135の第III相長期投与試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象として,SJP-0135を長期点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年1月?2018年6月に表1に示す全国16医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026471).2.目的SJP-0135を52週間点眼したときの眼圧下降効果および安全性の検討を目的とした.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が15.0mmHg以上で,選択基準を満たし,除外基準に抵触しない患者とした.おもな選択基準および除外基準を表2に示した.なお,すべての被験者から治験参加前に,文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼液1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同非対照非遮閉試験として実施した.観察期開始日から既存の緑内障治療薬をチモロールに切り替え,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期としてSJP-0135を,両眼にそれぞれ1回1滴,1日2回(朝および夜),52週間点眼した.c.症例数「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)」に基づき,評価症例数を100例とした.さらに中止脱落率表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも眼圧下降治療(点眼)を受けており,今後も継続が必要な者3)両眼とも最高矯正視力が0.3以上4)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が15.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者3)コンタクトレンズの装用が必要な者4)高度の視野障害がある者5)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者6)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者7)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者8)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有するまたは既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)若しくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬および炭酸脱水酵素阻害薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者を約20%程度と想定し,目標症例数を125例に設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧・脈拍数および臨床検査の各検査および観察を表3のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合は副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とし,要約統計量を算出し,投与後の推移を検討した.副次評価項目は,主要評価項目を除く,各観察日における治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧値および眼圧変化率とし,要約統計量を算出し,各々の推移を検討した.眼圧値については,各測定時点における治療期開始日と投与後の各観察日をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,SJP-0135の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とし,有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧,脈拍数および臨床検査を評価し,有害事象の発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧,脈拍数および臨床検査は,SJP-0135投与前後の比較を行った.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は157例で,スクリーニング脱落例5例を除いた152例が観察期としてチモロールの投与表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(52週)スクリーニング検査日治療期開始日投与4,8,12,20,36,44週投与28,52週中止脱落時測定時点(時間)?02020202同意取得○背景因子●●点眼●●●最高矯正視力●●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●●眼圧●●●●●●●●●眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●●●●●●●臨床検査●●●点眼状況注1●●●●有害事象注1○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.注1:投与16,24,32,40,48週でも実施した.を受けた.このうち観察期脱落例16例を除いた136例が治療期に組み入れられ,SJP-0135の投与を受けた.治験完了例は108例で,治験未完了例は28例であった.治療期に組み入れられ,SJP-0135を投与した136例全例をSSとした.SSから4例(除外基準に抵触2例,治療期開始日以降の適切な検査データなし2例)を除いた132例をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値の推移を図1に,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表5に示した.主要評価項目である治療期の眼圧変化値(2時間値)の平均値±標準偏差は,治療期投与4週から52週まで,?3.4±2.3??2.8±1.8mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果が認められた.副次評価項目については,治療期の眼圧値の0時間値,2時間値および0時間値と2時間値の平均値は,いずれも治療期投与4週から52週まで,治療期開始日の眼圧値よりも低下し,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた(いずれもp<0.0001).治療期の眼圧変化値および眼圧変化率の0時間値および0時間値と2時間値の平均は,いずれも約?3??2mmHg,約?10??20%の範囲で推移した.眼圧変化値(2時間値)を対象疾患別に原発開放隅角緑内障(広義)[原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障(高眼圧群,正常眼圧群)]および高眼圧症で層別解析した結果を表6に,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別に,低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満,18mmHg以上20mmHg未満),中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)および高眼圧層(22mmHg以上)に層別解析した結果を図2に示した.いずれの層別解析でも主要評価項目の結果と同様に,治療期投与4週から52週まで,いずれの層においても安定した眼圧下降効果が認められた.3.安全性有害事象は98例(72.1%)271件認めた.このうち,副作用は27例(19.9%)34件であった.副作用一覧を表7に示した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.重度と判定された副作用はなく,中等度と判定された副作用は2例(1.5%)2件(いずれもアレルギー性結膜炎)で,その他の副作用[25例(18.4%)32件]は軽度であった.治験薬投与の中止を必要とした副作用は9例(6.6%)に10件(アレルギー性結膜炎7件,眼瞼炎3件)認めた.死亡例,重篤な副作用はなかった.臨床検査値,バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=132)性別男女平均±値標準偏差最小値?最大値原発開放隅角緑内障(広義)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)高眼圧症有無有無有無58(43.9)74(56.1)年齢(歳)65.0±9.730?85対象疾患注1107(81.1)(有効性評価対象眼)30(22.7)45(34.1)15(11.4)17(12.9)25(18.9)緑内障治療薬注2132(100.0)0(0.0)眼局所の合併症注297(73.5)35(26.5)眼局所以外の合併症116(87.9)16(12.1)例数(%)注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1)(2)を満たす者前視野緑内障(高眼圧群):以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者正常眼圧緑内障:以下の(1)(2)(3)すべてを満たす者前視野緑内障(正常眼圧群):以下の(2)(3)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在,(3)過去に眼圧値が21.0mmHg以上を示した既往がない.注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.0時間値242時間値2420201616121248122028364452観察日(週)48122028364452観察日(週)図1眼圧値の推移*p<0.0001(投与前との比較)pairedt検定,平均値±標準偏差(mmHg).眼圧値は,0時間値および2時間値とも治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移測定時点眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)0時間値治療期開始日18.1±2.5(132)??治療期投与4週16.1±2.4*(130)?2.0±1.7(130)?11.1±8.5(130)治療期投与8週15.8±2.4*(129)?2.3±2.0(129)?12.2±10.0(129)治療期投与12週15.7±2.4*(126)?2.4±2.1(126)?13.1±10.9(126)治療期投与20週15.9±2.8*(124)?2.2±2.3(124)?11.9±12.2(124)治療期投与28週16.1±2.6*(119)?2.0±2.3(119)?10.4±12.4(119)治療期投与36週16.0±2.8*(115)?2.0±2.3(115)?10.6±12.5(115)治療期投与44週16.0±2.7*(108)?1.9±2.4(108)?10.4±12.9(108)治療期投与52週15.8±2.7*(108)?2.1±2.0(108)?11.6±11.0(108)2時間値治療期開始日17.5±2.3(132)??治療期投与4週14.7±2.6*(130)?2.8±1.8(130)?16.0±10.2(130)治療期投与8週14.5±2.4*(129)?3.0±1.9(129)?16.7±10.6(129)治療期投与12週14.1±2.3*(126)?3.4±2.3(126)?19.1±11.8(126)治療期投与20週14.3±2.4*(124)?3.2±2.2(124)?17.8±11.4(124)治療期投与28週14.4±2.4*(119)?3.1±2.2(119)?17.3±12.1(119)治療期投与36週14.1±2.5*(115)?3.3±2.2(115)?18.7±11.9(115)治療期投与44週14.5±2.4*(108)?2.8±2.1(108)?16.1±11.8(108)治療期投与52週14.5±2.6*(107)?2.9±2.2(107)?16.3±12.4(107)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日17.8±2.3(132)??治療期投与4週15.4±2.3*(130)?2.4±1.4(130)?13.6±7.7(130)治療期投与8週15.2±2.3*(129)?2.6±1.7(129)?14.6±9.1(129)治療期投与12週14.9±2.2*(126)?2.9±1.9(126)?16.1±9.9(126)治療期投与20週15.1±2.5*(124)?2.7±2.0(124)?14.9±10.6(124)治療期投与28週15.2±2.3*(119)?2.5±2.0(119)?13.9±10.6(119)治療期投与36週15.1±2.5*(115)?2.6±2.0(115)?14.7±10.8(115)治療期投与44週15.2±2.4*(108)?2.4±2.0(108)?13.3±11.1(108)治療期投与52週15.1±2.5*(107)?2.5±1.8(107)?14.1±10.2(107)平均値±標準偏差(例数),*p<0.0001〔各VISIT(測定時点)?治療期開始日(測定時点)のpairedt検定有意水準:両側5%〕眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.眼圧値は,すべての観察日で,投与前と比較して統計学的に有意な差を認めた.表6対象疾患別眼圧変化値(2時間値)対象疾患原発開放隅角緑内障(広義)高眼圧症原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障前視野緑内障(高眼圧群)前視野緑内障(正常眼圧群)治療期投与?2.7±1.9?2.2±2.0?2.8±1.9?3.0±1.8?2.7±1.9?3.4±1.64週(106)(29)(45)(15)(17)(24)治療期投与?3.2±2.1?3.2±1.9?3.3±2.5?2.8±1.8?3.2±1.7?4.3±2.812週(102)(28)(43)(14)(17)(24)治療期投与?2.9±2.2?2.9±2.0?3.1±2.4?2.0±2.2?3.3±1.8?3.8±2.328週(95)(26)(41)(13)(15)(24)治療期投与?2.7±2.1?2.2±2.3?3.1±2.0?1.9±2.3?3.0±1.8?3.5±2.452週(85)(21)(39)(11)(14)(22)平均値±標準偏差(例数)いずれの対象疾患でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.低眼圧層(15mmHg以上18mmHg未満表7治療期副作用の発現割合低眼圧層(18mmHg以上20mmHg未満)中眼圧層(20mmHg以上22mmHg未満)0高眼圧層(22mmHg以上)-2-4-6-84122852観察日(週)図2治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の眼圧変化値(2時間値)平均値±標準偏差(mmHg).いずれの眼圧層でも眼圧変化値(2時間値)は,治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果が認められた.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.おもな副作用は,アレルギー性結膜炎12例(8.8%),点状角膜炎10例(7.4%),眼瞼炎3例(2.2%),結膜充血2例(1.5%)であった.III考按わが国では数多くの作用機序の異なる緑内障治療薬が使用可能であるが,緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,目標眼圧に達していないなど,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)を行うとされている1).そのため,本治験では,チモロールからSJP-0135へ切り替えた場合の安全性および有効性を確認するため,観察期としてチモロールを4週間投与した後,観察期終了日の眼圧値が15.0mmHg以上であった患者を対象に,治療期としてSJP-0135に切り替えて52週間投与した.有効性に関しては,眼圧値は治療期のすべての測定時点において投与前と比較して統計学的に有意に低下し,治療期52週まで安定した眼圧下降効果を認めた.層別解析の結果,いずれの対象疾患(原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,前視野緑内障,高眼圧症)においても治療期投与4週から52週まで,安定した眼圧下降効果を認めた.また,治療期開始日(2時間値)の眼圧値別の層別解析の結果,いずれの層においても,治療期投与4週から52週まで,眼圧値はベースラインより2.0mmHg以上低下し,かつ安定した眼圧下降効果を認めた.以上より,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えた場合はさらなる眼圧下降効果が期待でき,長期投与時でもその効果は減弱しないと考えられる.さらに,SJP-0135は対象疾患および投与開始前の眼圧値にかかわらず,眼圧下降効果を示すと考えられる.安全性に関しては,有害事象は72.1%,副作用は19.9%で認めたが,治療期52週を通じて重篤な副作用は認めなかった.比較的発現頻度の高かった副作用は,アレルギー性結膜炎(8.8%),点状角膜炎(7.4%)および眼瞼炎(2.2%)であり,いずれもアイファガン点眼液0.1%およびチモロール点眼液において既知の副作用であった.アイファガン点眼液0.1%では,長期投与によりアレルギー性結膜炎の発現頻度が高くなる傾向が認められており,投与52週におけるアレルギー性結膜炎の副作用発現頻度は18.4%である10).この値は今回の8.8%に比べて髙かった.海外では0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロール配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が市販されている.COMBIGANの臨床試験において,投与12カ月を通してCOMBIGANの眼圧下降効果はチモロール単剤(1日2回)およびブリモニジン(1日3回)と比べて優れ,かつ安定していたことが確認されている11).このことから,SJP-0135も同様に,長期投与時をした場合でも各単剤に比べて髙い眼圧下降効果を示すと考える.また,安全性については投与12カ月におけるアレルギー性結膜炎の発現頻度は0.2%ブリモニジン酒石酸塩群(9.4%)に比べてCOMBIGAN群(5.2%)では約半数であり,有意に低いことが報告されている11).なお,a作動薬による細胞容積の減少および傍細胞流の増加による潜在的な炎症誘発因子の結膜組織内への侵入12)がb遮断薬により抑制される13)ことで,ブリモニジン由来の眼部アレルギーの発現頻度がチモロールにより低下するという報告があり,配合剤でのアレルギー性結膜炎の発現頻度減少の一つの仮説として考えられている14).そのため,SJP-0135においても,アイファガン点眼液0.1%に比べてアレルギー性結膜炎の発現頻度が低下する可能性がある.以上の結果より,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,SJP-0135は52週間点眼したとき,安定した眼圧下降効果を維持し,安全性に問題のない治療薬となりうると考える.SJP-0135はわが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤であること,SJP-0135への切り替えにより薬剤数および総点眼回数が減ることで患者の治療効果の向上が期待できることから,SJP-0135は緑内障治療の薬物療法において有用性の高い選択肢になると考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20182)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20123)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(S-1):S9-S18,19964)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)新家眞,坂本祐一郎:ブリモニジン点眼液0.1%の臨床的有用性に関する多施設前向き観察的研究―使用成績調査中間報告.臨眼71:859-867,20176)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20117)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,20018)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,19789)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC10)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201211)SherwoodMB,CravenER,ChouCTetal:Twice-daily0.2%brimonidine-0.5%timolol?xed-combinationtherapyvsmonotherapywithtimololorbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension:a12-monthran-domizedtrial.ArchOphthalmol124:1230-1238,200612)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine:Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,199513)AlvaradoJA,MurphyCG,Franse-CarmanLetal:E?ectofbeta-adrenergicagonistsonparacellularwidthand?uid?owacrossout?owpathwaycells.InvestOphthalmolVisSci39:1813-1822,199814)AlvaradoJA:Reducedocularallergywith?xed-combination0.2%brimonidine-0.5%timolol.ArchOphthalmol125:717-718,2007◆**

ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第III相臨床試験―チモロールとの比較試験

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):336?344,2020?ブリモニジン/チモロール配合点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした第II相臨床試験―チモロールとの比較試験新家眞*1福地健郎*2中村誠*3関弥卓郎*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4千寿製薬株式会社PhaseIStudytoEvaluatetheE?cacyandSafetyofNovelBrimonidine/TimololOphthalmicSolutionComparedwithTimololOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-angleGlaucoma(BroadDe?nition)orOcularHypertensionMakotoAraie1),TakeoFukuchi2),MakotoNakamura3)andTakuroSekiya4)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,3)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltdはじめに緑内障は,わが国における視覚障害原因の第1位を占めているが1),根本治療法はなく,エビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である2).緑内障診療ガイドラインでは,薬物治療を行う場合,まず単剤(単薬)療法から開始し,有効性が十分でない場合には多剤併用(配合点眼剤を含む)〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN336(88)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYを行うとされており2),多剤併用患者は年々増えている3?5).その一方で,アドヒアランスの低下や点眼剤に含まれる保存剤による角膜上皮障害,点眼間隔を十分に空けずに点眼することによる治療効果の減弱(洗い流し効果)などの多剤併用治療特有の問題も発生している6?8).それらを軽減または回避するため,多剤併用の際には配合点眼剤の使用による患者のアドヒアランスを考慮する必要がある2).現在,わが国で承認されている配合点眼剤の有効成分の組み合せはプロスタグランジン関連薬とb遮断薬,または炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の組合せのみであることから,上記以外の組み合わせの配合点眼剤の開発は治療の選択肢を拡大するという点において臨床的意義があると考える.0.1%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(以下,SJP-0135)は,a2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩とb遮断薬であるチモロールマレイン酸塩を有効成分とする,わが国初のa2作動薬を含む配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は第二選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出促進することで眼圧下降効果を示す9).臨床試験においては他の緑内障治療薬と併用することでさらなる眼圧下降効果が得られている10).また,眼圧下降効果に相応しない視野維持効果があることも報告されている11).チモロールマレイン酸塩は第一選択薬として使用される薬剤であり,房水産生抑制により眼圧下降効果を示す12,13).わが国では,ブリモニジン酒石酸塩点眼剤の使用患者の約6割にb遮断薬が併用されている14).SJP-0135は作用機序の異なる両有効成分を配合していることから,相加的な眼圧下降効果が期待される.海外では,0.2%ブリモニジン酒石酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼剤(COMBIGAN,米国Allergan,Inc.)が60を超える国と地域で承認,販売されている.今回は,SJP-0135の第III相比較試験として,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象に,SJP-0135の有効性(眼圧下降効果)および安全性について,SJP-0135の有効成分の一つである0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤(以下,チモロール)を対照に比較検討したので報告する.I方法1.実施医療機関および治験責任医師本治験は,2017年3月?2017年12月に表1に示す全国67医療機関で実施した.治験開始に先立ち,すべての医療機関の治験審査委員会で審議され,治験の実施が承認された.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,本治験実施計画書,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」第14条第3項および第80条の2に規定する基準,ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.治験の実施状況の登録は,UMIN-CTRに行った(UMIN試験ID:UMIN000026472).2.目的SJP-0135を4週間点眼したときの有効性(眼圧下降効果)および安全性について,チモロールを対照に比較検討する.さらに,参照群として0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼剤(以下,ブリモニジン)およびチモロールの併用群を設定し,SJP-0135の有効性および安全性が各単剤の併用と同程度であることを確認する.3.対象対象は,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,チモロールを4週間投与後の眼圧が18.0mmHg以上で,表2の基準に該当する患者とした.すべての被験者から治験参加前に文書による同意を得た.4.方法a.被験薬被験薬は,点眼剤1ml中にブリモニジン酒石酸塩を1.0mg,チモロールを5.0mg(チモロールマレイン酸塩として6.8mg)含有する水性点眼剤である.b.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮閉(評価者遮閉)並行群間比較試験として実施した.観察期にチモロールを両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した後,治療期に,SJP-0135群はSJP-0135およびSJP-0135基剤(プラセボ)点眼剤,チモロール群はチモロールおよびプラセボ点眼剤,併用群(参照群)はブリモニジンおよびチモロールを,両眼に1回1滴,1日2回(朝および夜),4週間点眼した.治験薬の点眼間隔は5分以上10分以内とした.遮閉性を確保するため,SJP-0135群およびチモロール群ではプラセボ点眼剤を用い,すべての投与群で2剤の治験薬を点眼した.治験デザインを図1に示した.治験薬は点眼容器を小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬の割付は,割付責任者が,識別不能性を確認したのち,無作為割付を行った.被験者への割付は,観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値の2時間値および観察期終了日(治療期開始日)の2時間値のスクリーニング検査日からの変化値を因子とし,施設および各因子の群間のバランスを確保するため,動的割付を行った.SJP-0135群,チモロール群,併用群の割付比は,3:3:1とした.割付表は厳封し,開鍵時まで割付責任者が保管した.c.被験者数SJP-0135群とチモロール群の眼圧下降の差を1.0mmHg,共通の標準偏差を約2.8mmHgと推定し,有意水準両側5%,検出力90%と設定し,必要な評価被験者数を各群166例と表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師富士見台眼科浅野由香医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌三橋眼科医院三橋正忠医療法人かがやきくぼた眼科久保田泰隆道玄坂加藤眼科加藤卓次医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二成城クリニック松﨑栄医療法人泰明堂福島アイクリニック狩野廉医療法人社団はしだ眼科クリニック橋田節子医療法人前田眼科前田秀高医療法人社団ひいらぎ会若葉台眼科佐藤功医療法人創夢会むさしドリーム眼科武蔵国弘たまがわ眼科クリニック關保尾上眼科医院尾上晋吾医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹医療法人稲本眼科医院稲本裕一医療法人社団ムラマツクリニックむらまつ眼科医院村松知幸医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治杉浦眼科杉浦寅男医療法人社団橘桜会さくら眼科松久充子ふじつ眼科藤津揚一朗北川眼科医院北川厚子医療法人社団鈴木眼科鈴木克佳医療法人良仁会柴眼科医院柴宏治新井眼科医院新井三樹東北大学病院津田聡医療法人杏水会右田眼科右田雅義福井大学医学部附属病院稲谷大松村眼科医院松村明東京大学医学部附属病院坂田礼医療法人慶明会宮崎中央眼科病院髙岸麻衣北里大学病院松村一弘姶良みやもと眼科宮本純孝岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人陽山会井後眼科馬渡祐記熊本大学医学部附属病院井上俊洋医療法人恕心会さめしま眼科鮫島基泰株式会社日立製作所土浦診療健診センタ坪井一穂医療法人耕真会えとう眼科クリニック江藤耕太郎医療法人社団いとう眼科大原睦子新潟大学医歯学総合病院福地健郎医療法人社団悠琳会しぶや眼科クリニック渋谷裕子さいとう眼科齋藤代志明医療法人社団泰成会こんの眼科今野泰宏医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック貞松良成医療法人社団優美会川口あおぞら眼科清水潔医療法人社団済安堂お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子医療法人社団恵香会やまぐち眼科クリニック山口恵子医療法人健究社スマイル眼科クリニック岡野敬医療法人社団深志清流会清澤眼科医院清澤源弘神戸大学医学部附属病院中村誠いまい眼科今井雅仁みなもと眼科皆本敦医療法人社団善春会若葉眼科病院吉野啓医療法人社団仁香会しすい眼科医院呉輔仁医療法人高橋眼科髙橋研一東海大学医学部付属東京病院山崎芳夫医療法人豊潤会松浦眼科医院松浦雅子東邦大学医療センター大橋病院石田恭子野村眼科野村亮二東海大学医学部付属病院中川喜博医療法人湘山会眼科三宅病院三宅豪一郎祇園すやま眼科クリニック須山貴子長坂眼科クリニック長坂智子みぞて眼科溝手秀秋吉村眼科内科医院吉村弦算出した.併用群は参照群とし,評価被験者数を55例とした.中止脱落を考慮し,SJP-0135群,チモロール群の目標被験者数を各群175例,併用群を58例,合計408例と設定した.5.検査・観察項目眼圧,最高矯正視力,眼科的所見(結膜・眼瞼・角膜),眼底,視野および血圧・脈拍数の各検査を表2のスケジュールで実施した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8時?10時の間に測定し,点眼後は2時間値を測定した.有害事象は,治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を収集した.治験薬との因果関係を否定できない場合表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)20歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)両眼とも最高矯正視力が0.3以上3)観察期終了日(治療期開始日)の眼圧値が18.0mmHg以上31.0mmHg以下おもな除外基準1)緑内障に対する手術またはレーザー療法,内眼手術(各種レーザー療法を含む),角膜移植術または角膜屈折矯正手術の既往のある者2)コンタクトレンズの装用が必要な者3)高度の視野障害がある者4)スクリーニング検査日の過去180日以内に副腎皮質ステロイドの眼内注射,Tenon?下注射または結膜下注射を実施した者5)治験期間中に病状が進行するおそれのある網膜疾患を有する者6)原発開放隅角緑内障(広義),高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者7)がんに罹患している者,または重篤な全身性疾患(例:肝障害,腎障害,心血管系疾患,内分泌系疾患)を有する者8)脳血管障害,起立性低血圧,心血管系疾患などの循環不全を有する者9)気管支喘息,気管支痙攣もしくは重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,または既往のある者10)コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度)もしくは心原性ショックを有するまたは既往のある者11)肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスまたはコントロール不十分な糖尿病のある者12)ブリモニジン酒石酸塩または他のa2作動薬,チモロールマレイン酸塩または他のb遮断薬,本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者13)緑内障・高眼圧症に対する治療薬,副腎皮質ステロイド,交感神経刺激薬,交感神経遮断薬,副交感神経刺激薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,抗うつ薬,炭酸脱水酵素阻害薬,抗コリン作用を含む治療薬および眼局所の治療薬を使用する予定のある者14)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験への参加が適切でないと判断した者SCR注1前治療観察期治療期4週・現行治療(緑内障点眼薬の種類は問わない)または無治療・チモロールを点眼・観察期終了日の0時間値および2時間値の眼圧値が18mmHg以上31mmHg以下の場合,治療期へ移行する・SJP-0135群:SJP-0135+プラセボチモロール群:チモロール+プラセボ併用群:ブリモニジン+チモロールを点眼注1:スクリーニング検査日図1治験デザインは副作用とした.6.併用薬および併用処置治験期間中は,表3の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および解析方法a.有効性有効性は,最大の解析対象集団(fullanalysisset:FAS)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治療期の投与4週における治療期開始日からの眼圧変化値(2時間値)とした.欠測値に対しては,lastobservationcarriedfor-ward(LOCF)によりデータを補完した.副次評価項目は,治療期の投与4週における眼圧値,治療期開始日からの眼圧変化値,眼圧変化率(それぞれの0時間値,2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均値および0時間値と2時間表3検査・観察スケジュール観察期(4週)治療期(4週)Visit1Visit2Visit3中止脱落時スクリーニング検査日観察期終了日(治療期開始日)4週─測定時点(時間)─027027027同意取得○背景因子●●点眼●●最高矯正視力●●●●結膜・眼瞼・角膜所見●●●●●●眼圧●●●(●)●●(●)●●(●)眼底●●●視野●●●血圧・脈拍数●●●(●)●●(●)●●(●)点眼状況●●●有害事象○:スクリーニング実施前に文書による同意を取得した.(●):7時間値を測定することに同意が得られた被験者について実施した.値と7時間値の平均値)とした.7時間値測定は,7時間値測定に同意が得られた被験者のみを対象とした.t検定(有意水準両側5%)によりSJP-0135群およびチモロール群の2群間で比較した.眼圧値については,治療期開始日と治療期の投与4週をpairedt検定(有意水準両側5%)により比較した.b.安全性安全性は,治療期に組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(治療期開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象,最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,眼底,視野,血圧および脈拍数を評価した.有害事象は,発現割合(発現例数/SS)を算出した.最高矯正視力,結膜・眼瞼・角膜所見,血圧および脈拍数は,治療期の治験薬投与前後を比較した.眼底および視野は,スクリーニング検査日からの悪化の有無について比較した.II結果1.被験者の構成同意を取得できた被験者は487例で,観察期としてチモロールの投与を開始したのは470例であった.このうち385例が無作為化され,治療期の投与を開始した.治験完了例は380例,治験未完了例は5例であった.治療期を開始した385例全例(SJP-0135群163例,チモロール群164例,併用群58例)をSSとした.このうち,治療期開始日以降の有効性評価が可能な検査データがなかった5例を除く380例(SJP-0135群159例,チモロール群163例,併用群58例)をFASとした.被験者背景(FAS)を表4に示した.2.有効性眼圧値ならびに治療期開始日からの眼圧変化値および眼圧変化率を表5に,治療期投与4週の眼圧変化値を図2に示した.主要評価項目である,治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)(LOCF)の平均は,SJP-0135群では?3.1±2.4mmHg,チモロール群では?1.8±2.1mmHgであり,統計学的に有意な差を認め(点推定値:?1.3mmHg,95%両側信頼区間:?1.8??0.9mmHg,p<0.0001),SJP-0135群のチモロール群に対する優越性を検証できた.副次評価項目の治療期投与4週における眼圧値,眼圧変化値,変化率は,2時間値および0時間値と2時間値の平均で,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めたが,0時間値は両投与群間で統計学的に有意な差を認めなかった(いずれもp<0.01).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.001).SJP-0135群およびチモロール群で,治療期投与4週における眼圧値は,すべての測定時点で投与前と比較して,統計表4被験者背景(FAS)項目分類SJP-0135(n=159)TIM(n=163)併用(n=58)合計(n=380)性別男75(47.2)72(44.2)24(41.4)171(45.0)女84(52.8)91(55.8)34(58.6)209(55.0)年齢(歳)平均値±標準偏差62.0±12.462.1±12.861.7±14.7?最小値?最大値32?8722?8520?87?対象疾患注1原発開放隅角緑内障(広義)115(72.3)121(74.2)43(74.1)279(73.4)(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障80(50.3)86(52.8)26(44.8)192(50.5)前視野緑内障35(22.0)35(21.5)17(29.3)87(22.9)高眼圧症44(27.7)42(25.8)15(25.9)101(26.6)緑内障治療薬注2有128(80.5)124(76.1)47(81.0)299(78.7)無31(19.5)39(23.9)11(19.0)81(21.3)眼局所の合併症注2有113(71.1)104(63.8)37(63.8)254(66.8)無46(28.9)59(36.2)21(36.2)126(33.2)眼局所以外の合併症有116(73.0)114(69.9)42(72.4)272(71.6)無43(27.0)49(30.1)16(27.6)108(28.4)例数(%),TIM:チモロール?:該当なし注1:対象疾患は下のように定義した.原発開放隅角緑内障:以下の(1),(2)を満たす者前視野緑内障:以下の(2)を満たし治療が必要と判断された者(1)緑内障性視野異常の存在,(2)緑内障性視神経乳頭の存在注2:左右眼どちらか一方でも該当した場合,有とした.表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率測定時点SJP-0135TIM併用0時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.9±1.9(159)20.2±1.7(163)20.3±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)18.1±2.5*(159)18.5±2.6*(163)17.9±2.2(58)変化値(mmHg)?1.8±2.3(159)?1.7±2.0(163)?2.3±1.9(58)2時間値変化率(%)?8.8±11.0(159)?8.6±9.9(163)?11.5±9.0(58)治療期開始日眼圧値(mmHg)19.7±1.8(159)19.7±1.9(163)19.8±1.8(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.6±2.4*†(159)17.9±2.7*†(163)16.8±2.2(58)変化値(mmHg)?3.1±2.4†(159)?1.8±2.1†(163)?3.0±2.2(58)変化率(%)?15.7±11.4†(159)?9.2±10.7†(163)?14.9±10.0(58)7時間値治療期開始日眼圧値(mmHg)18.9±2.4(137)19.2±2.1(137)19.5±2.2(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)16.9±2.7*†(136)18.1±2.5*†(137)17.1±2.5(47)変化値(mmHg)?2.0±2.2†(136)?1.1±2.0†(137)?2.3±2.1(47)変化率(%)?10.1±10.9†(136)?5.4±10.1†(137)?11.8±10.1(47)0時間値と2時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.8±1.7(159)20.0±1.7(163)20.0±1.7(58)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.4±2.2*†(159)18.2±2.5*†(163)17.4±2.1(58)変化値(mmHg)?2.5±2.0†(159)?1.8±1.8†(163)?2.7±1.9(58)変化率(%)?12.3±9.6†(159)?8.9±9.2†(163)?13.2±8.7(58)0時間値と2時間値と7時間値の平均値治療期開始日眼圧値(mmHg)19.5±1.8(137)19.7±1.7(137)20.0±1.8(47)治療期投与4週眼圧値(mmHg)17.2±2.2*†(136)18.2±2.4*†(137)17.4±2.1(47)変化値(mmHg)?2.4±1.7†(136)?1.5±1.6†(137)?2.5±1.8(47)変化率(%)?12.0±8.4†(136)?7.5±8.2†(137)?12.7±8.3(47)平均値±標準偏差(例数),TIM:チモロール*:p<0.0001(SJP-0135およびチモロールの眼圧値について,治療期開始日と治療期投与4週をpairedt検定で比較した.有意水準:両側5%)†:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)00時間値2時間値-1-2-3-4-5-6■SJP-0135チモロール■併用7時間値(159)(163)(58)(159)(163)(58)(136)(137)(47)平均値±標準偏差,*:p<0.01(SJP-0135vsチモロールt検定,有意水準:両側5%)図2治療期投与4週の眼圧変化値(例数表6治療期副作用の発現割合安全性解析対象集団例数SJP-0135(n=163)TIM(n=164)併用(n=58)副作用名注1件数例数(%)件数例数(%)件数例数(%)全体2218(11.0)77(4.3)55(8.6)眼障害2118(11.0)66(3.7)44(6.9)点状角膜炎44(2.5)33(1.8)11(1.7)眼刺激44(2.5)22(1.2)11(1.7)結膜充血44(2.5)11(0.6)22(3.4)角膜びらん22(1.2)00(0.0)00(0.0)眼部不快感22(1.2)00(0.0)00(0.0)結膜浮腫11(0.6)00(0.0)00(0.0)アレルギー性結膜炎11(0.6)00(0.0)00(0.0)羞明11(0.6)00(0.0)00(0.0)閃輝暗点11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)眼障害以外11(0.6)11(0.6)11(1.7)徐脈00(0.0)11(0.6)00(0.0)耳そう痒症11(0.6)00(0.0)00(0.0)傾眠00(0.0)00(0.0)11(1.7)TIM:チモロール.注1:副作用名はICH国際医薬用語集MedDRA/JVersion19.1のPT(基本語)を用いて分類した.学的に有意な変化を認めた(いずれもp<0.0001).測定時点に7時間値を含む7時間測定同意症例の結果についても,同様であった(いずれもp<0.0001).併用群の治療期投与4週における眼圧変化値(2時間値)の平均は,?3.0±2.2mmHgであり,SJP-0135群の眼圧下降効果と同程度であった.3.安全性本治験でSJP-0135群,チモロール群および併用群に発現した有害事象はそれぞれ39例(23.9%)54件,29例(17.7%)34件および11例(19.0%)12件で,各投与群の発現割合は同程度であった.このうち副作用は,それぞれ18例(11.0%)22件,7例(4.3%)7件,5例(8.6%)5件で,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用の発現割合を表6に示した.おもな副作用は,SJP-0135群では点状角膜炎4例(2.5%),眼刺激4例(2.5%),結膜充血4例(2.5%),角膜びらん2例(1.2%)および眼部不快感2例(1.2%),チモロール群では点状角膜炎3例(1.8%)および眼刺激2例(1.2%),併用群では結膜充血2例(3.4%)であった.重度と判定された有害事象はいずれの投与群にもなく,中等度と判定された有害事象はSJP-0135群に3例(1.8%)3件,チモロール群に1例(0.6%)1件,併用群に2例(3.4%)2件であり,その他は軽度であった.有害事象による中止例,死亡例,重篤な副作用はなかった.バイタルサイン,身体的所見および安全性に関連する他の観察項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.III考按今回,SJP-0135の有効性を検証するにあたり,SJP-0135の有効成分の一つであり,わが国でプロスタグランジン関連薬とともに第一選択薬として広く使用されているチモロールを対照薬として用い,比較試験を行った.有効性に関しては,治療期投与4週における2時間値の眼圧変化値および眼圧変化率の比較の結果,SJP-0135群のチモロール群に対する統計学的に有意な差を認めた.また,測定時点に7時間値を含む日内眼圧下降効果の検討において,眼圧変化値および眼圧変化率はともに,SJP-0135群で治療期投与4週の2時間値,7時間値,0時間値と2時間値の平均および0時間値と2時間値と7時間値の平均のいずれにおいても統計学的に有意な差を認め,1日を通して良好な眼圧下降効果を確認した.さらに,眼圧変化値および眼圧変化率は全測定時点において,SJP-0135群と参照群とした併用群で同程度であった.これらのことから,SJP-0135はチモロール単剤から切り替えることで,追加の眼圧下降効果が得られること,ブリモニジンとチモロールの併用から切り替えることで薬剤数を減らしかつ同程度の眼圧下降効果が得られると考える.SJP-0135と同様にチモロールと第二選択薬の配合点眼剤として,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液(コソプト配合点眼液)およびブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)がわが国では販売されている.いずれの製剤においてもSJP-0135と同様に観察期にチモロール点眼液(1日2回)を点眼した国内第III相二重遮閉比較試験の報告がある.これらの治験開始時および終了時の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩点眼液で20.58±2.07mmHg,18.04±2.79mmHg15),ブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液20.7±2.5mmHg,17.5±3.3mmHg16,17)であった.一方,本治験では,SJP-0135群における治験開始時および治療期4週の2時間値の眼圧値(平均値±標準偏差)は19.7±1.8mmHg,16.6±2.4mmHgであった.このことから,SJP-0135は他の配合点眼薬と同様に,チモロール単剤からの切り替えにより良好な眼圧下降効果を示すことが期待される.安全性に関しては,有害事象の発現割合はSJP-0135群で23.9%,チモロール群で17.7%,併用群で19.0%に認め,各投与群の発現割合は同程度であった.副作用発現割合も3群間で同程度であり,いずれの群においても重篤な副作用は認めなかった.SJP-0135群で比較的発現割合の高かった副作用は点状角膜炎(2.5%)および眼刺激(2.5%)であったが,これらは0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)およびチモロール点眼液において既知の副作用であり,発現割合はチモロール群および併用群と同程度であった.このことから,4週間の使用ではSJP-0135の安全性はチモロール単剤および併用療法と同様に良好であると考える.以上の結果より,SJP-0135は原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者に対して,既承認薬であるチモロール点眼剤に比べ眼圧下降効果は有意に高く,その効果は1日を通じて良好であること,さらに安全性に問題のないことを確認した.このことから,b遮断薬単剤からSJP-0135に変更することで,薬剤数および点眼回数を変えることなく,より高い眼圧下降効果を得ることができると考えられる.また,すでにa2作動薬およびb遮断薬を併用している場合は,SJP-0135に変更することで併用治療と同程度の治療効果が得られることに加え,薬剤数および総点眼回数が減ることで患者のアドヒアランスが向上すると考えられる.SJP-0135はa2作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を有効成分として含有するわが国初の配合点眼剤である.ブリモニジン酒石酸塩は眼圧下降効果に相応しない視野維持効果が報告されていることから11),SJP-0135でも同様の効果が期待される.以上より,SJP-0135は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液であると考える.文献1)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the?rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti?edvisu-allyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第4版.日眼会誌122:5-53,20183)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20064)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の治療実態調査2016年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼71:1541-1547,20175)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,20066)溝上志朗:点眼アドヒアランスに影響する要因とその対処法.薬局65:1835-1839,20147)ChraiSS,MakoidMC,EriksenSPetal:Dropsizeandinitialdosingfrequencyproblemsoftopicallyappliedoph-thalmicdrugs.JPharmSci6:333-338,19748)FukuchiT,WakaiK,SudaKetal:Incidence,severityandfactorsrelatedtodrug-inducedkeratoepitheliopathywithglaucomamedications.ClinOphthalmol4:203-209,20109)BurkeJ,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimoni-dine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,199610)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験─チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,201211)KrupinT,LiebmannJM,Green?eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelow-pressureglaucomatreat-mentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,201112)LarssonLI:Aqueoushumor?owinnormalhumaneyestreatedwithbrimonidineandtimolol,aloneandincombi-nation.ArchOphthalmol119:492-495,200113)CoakesRL,BrubakerRF:Themechanismoftimololinloweringintraocularpressure:Inthenormaleye.ArchOphthalmol96:2045-2048,197814)2014年4月?2018年3月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社JMDC15)北澤克明,新家眞;MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,201116)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:E?cacyandsafetyofbrinzolamide/timolol?xedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,201417)アゾルガ配合懸濁性点眼液添付文書.ノバルティスファーマ株式会社,2019◆**

カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):425.428,2015cカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較内田英哉*1鵜木一彦*2山林茂樹*3岩瀬愛子*4*1内田眼科*2うのき眼科*3山林眼科*4たじみ岩瀬眼科ComparisonofOcularHypotensiveEffectandSafetyBetweentheUnfixedCombinationofLong-ActingCarteolol2%HydrochlorideAddedtoLatanoprost0.005%andtheFixedCombinationOphthalmicSolutionofLatanoprost0.005%/TimololMaleate0.5%HideyaUchida1),KazuhikoUnoki2),ShigekiYamabayashi3)andAikoIwase4)1)UchidaEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)YamabayashiEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinicカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性を比較検討した.ラタノプロスト点眼が4週以上単剤投与され,効果不十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者44例44眼に対し,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液併用群(22眼)またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液切り替え群(22眼)に振り分け,眼圧下降効果および副作用を検討した.点眼変更後4週および8週後の併用群と配合剤群は,変更前に比べ有意な眼圧下降(p<0.0001)を示し,眼圧下降効果に両群間での差はなかった(p=0.054,p=1.000).点眼時眼刺激感は配合剤群で多かった.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と同等の眼圧下降効果が得られ,忍容性に優れていた.Inthisstudy,wecomparedtheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetybetweenlong-actingcarteolol2%hydrochloride(LA)addedtolatanoprost0.005%(Lat)andthefixedcombinationophthalmicsolutionofLat/Timololmaleate0.5%.Forty-foureyesof44patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadaninsufficientresponsetoLatmonotherapywereenrolled.IOPreductionaswellasgeneralandtopicalsideeffectswerecomparedbetweentheunfixedcombinationgroup(22eyes)andthefixedcombinationgroup(22eyes).SignificantIOPreductionwasobservedinalleyesofbothgroupsatthe4-and8-weekfollow-upperiodsafterswitchingtherapy(p<0.0001).NostatisticallysignificantdifferencesinIOPreductionwerefoundbetweenthetwogroups(p=0.054and1.000,respectively).Eyesurfaceirritationwasmorefrequentlyobservedinthefixedcombinationgroup.ThefindingsofthisstudyshowedthatIOPreductionintheunfixedcombinationgroupwassimilartothatinthefixedcombinationgroup,yetwithlesssideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):425.428,2015〕Keywords:ラタノプロスト,カルテオロール,配合剤,眼圧,刺激感.latanoprost,carteolol,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,irritation.はじめになり,点眼薬への反応,あるいは個人の背景因子など多様化緑内障疫学調査(多治見スタディ)1)より,わが国の40歳することが想像される.以上の20人に1人は緑内障であり,その9割が未治療であ緑内障診療ガイドライン2)では,薬剤による眼圧下降治療ると報告されている.今後,点眼治療を要する患者数は多くは単剤(単薬)から開始し,眼圧下降が不十分な場合に作用〔別刷請求先〕内田英哉:〒500-8879岐阜市徹明通4-18内田眼科Reprintrequests:HideyaUchida,M.D.,UchidaEyeClinic,4-18Tetsumei-dori,Gifu-shi,Gifu500-8879,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)425 機序の異なる薬剤による多剤併用療法を行うことを推奨しており,上記の多彩さのなかでは,追加眼圧下降効果とともに副作用に留意する必要がある.こうした,点眼治療薬の選択には多くの組み合わせが必要である.一方,わが国でも,アドヒアランスの向上を目的とした配合剤が発売され,多剤併用療法時の選択肢として広く臨床使用されている.しかし,配合剤に含まれる有効成分は併用で使用される場合と比べて,1日当たりの点眼回数が少ない場合もあり,眼圧下降作用が併用療法に比べるとやや劣るという報告3.5)もある.さらに,bブロッカー点眼薬を含有する配合薬は,現時点ですべてチモロールが使用されており,その選択は限定されている.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液は2007年の発売以来,広く臨床応用されている1日1回点眼のb遮断薬である.単剤使用のみならず,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合にカルテオロール塩酸塩持続製剤により併用治療されるケースは多く,併用投与時の眼圧下降効果を検討した報告6.8)はあるが,配合剤と比較検討した報告はない.今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を比較対照として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液併用時の眼圧下降作用,眼刺激症状,全身的副作用を評価した.I対象および方法本臨床研究は,多施設共同オープンラベル試験として2012年12月.2013年5月に,表1に示す4施設において,北町診療所倫理審査委員会(東京都武蔵野市)にて実施前に審査を行い承認を得た研究実施計画書を用いて実施された.対象は,4週間以上のラタノプロスト点眼液(商品名:キサラタンR点眼液0.005%,1日1回夜点眼)(以下,Lat)単独治療を行ったにもかかわらず,主治医が目標眼圧に達していないと判断した眼圧15mmHg以上29mmHg以下の,広義原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者である.研究参加については文書で同意を得た.眼圧下降効果不十分症例に対する点眼治療の変更としては,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液(商品名:ミケランRLA点眼液2%,1日1回朝点眼)(以下,LA)の併用(併用群),またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(商品名:ザラカムR配合点眼液,表1試験参加施設および試験責任医師一覧医療機関名試験責任医師たじみ岩瀬眼科岩瀬愛子山林眼科山林茂樹うのき眼科鵜木一彦内田眼科内田英哉1日1回夜点眼)(以下,Lat/Tim)へ切り替え(配合剤群)のいずれかに無作為に割り付け(中央割付),4週後,8週後に経過観察を行った.なお,6カ月以内に白内障手術を含む内眼手術,レーザー線維柱帯形成術もしくは線維柱帯切開術,角膜屈折矯正手術の既往がある患者,また線維柱帯切除術などの濾過手術の既往がある患者などは対象から除外した.点眼変更時,点眼4週後,点眼8週後には,眼圧,脈拍,血圧の測定および点眼時刺激感についてアンケートを実施した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて午前中(原則として同一時間帯)に測定を行い,3回測定した平均値を評価に用いた.ただし,併用群においては検査日当日の朝はLAを点眼せずに来院させ,眼圧測定後LAを1回1滴点眼し,点眼2時間後に再度眼圧測定を行い,それぞれ眼圧下降効果のトラフ値およびピーク値として評価した.また,併用群の脈拍数および血圧もLAの点眼前後で2回測定を行った.点眼時刺激感については,「なし」「少ししみる」「しみる」「かなりしみる」の4段階で評価し(,)た.解析眼は,眼(,)圧の高い(,)ほうの眼,同一の場合は右眼とした.点眼変更時の各群間での眼圧の比較はKruskal-Wallisの検定により評価した.4週後,8週後各測定点の併用群(トラフ値・ピーク値)と配合剤群の眼圧値の比較には,Bonferroniによる多重性の調整を行った共分散分析を用いた.また,各群での点眼変更前と変更後4週後,8週後の眼圧比較には,多重性を考慮したSteel検定を用いた.眼刺激感は,観察期間中の最大スコアを用いWilcoxon順位和検定で比較し,血圧および脈拍数はStudentt検定を用いた.被験者の背景因子に関しては,Fisherの直接確率検定またはt検定を用いた.II結果本研究にエントリーされた44例44眼(原発開放隅角緑内障27例27眼,正常眼圧緑内障11例11眼,高眼圧症6例6眼,男性22例22眼,女性22例22眼,年齢41.80歳)のうち,併用群は22例22眼,配合剤群は22例22眼で,全例を解析対象とした.性別,年齢,病型,眼合併症,眼手術歴,全身合併症および薬物アレルギーの各項目において,両群間で有意差は認められなかった.眼圧の推移を図1に示す.点眼変更前の眼圧は,併用群が18.2±1.5mmHg(平均±標準誤差偏差),配合剤群が17.7±1.9mmHgであり,両群間に有意差は認められなかった(p=0.412).併用群,配合剤群とも点眼治療変更前と比較して変更後4週後,8週後は,すべての測定時点において眼圧が有意に下降していた(p<0.0001).点眼治療変更後,併用群において4週後の朝点眼前の眼圧は,15.8±1.5mmHg,配合剤群では14.4±2.1mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間では差は認められなかった(p=0.054).一方,併用群のおけるLA点眼2時間後の426あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(116) 併用群:トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧併用群:ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧■併用群トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧■併用群ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧17.714.414.718.215.814.718.213.413.3051015202530n.s.※n.s.n.s.***眼圧(mmHg)******眼圧(mmHg)201518.215.817.714.414.714.713.413.31050点眼変更時4週目8週目平均(mmHg).解析は、多重性を考慮したSteel検定を用いた.*:p<0.0001.図1点眼変更後の眼圧の推移併用群,配合剤群とも変更後4週後および8週後のすべての測定点において点眼変更前に比べ,有意な眼圧下降がみられた(p<0.001)少しあるなし21例95%併用群かなりあるザラカム群1例3例5%14%あるなし8例36%少しある9例41%2例9%点眼変更時4週目8週目平均±標準偏差(mmHg).ANCOVA多重性の調整はBonferroniの方法を用いた.ただし※はt-test.*:p<0.05,**:p<0.01.図2併用群と配合剤群の各測定点での眼圧4週後,8週後において配合剤群に対して併用群のピーク値が有意に低値(p=0.012,p=0.0024)であった.一方,併用群のトラフ値では4週後で併用群に比べ高値(有意差を認めず)であったが,8週後では同等の値となった.比較して有意な変化はなかった.有害事象は,配合剤群でのみ3例に3件認められ,その内訳は色素上皮異常症1例1件,刺激感2例2件であった.いずれも点眼薬との関連性はありと判断された.III考按Wilcoxon順位和検定図3点眼時の眼刺激感眼刺激の評価には,4週および8週の時点での最大スコアを用いた.併用群に比べ配合剤群で眼刺激感が有意に多かった(p<0.0001).眼圧は13.4±1.1mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.012).8週後の朝点眼前の眼圧においても,併用群トラフ値では14.7±1.5mmHg,配合剤群では14.7±2.0mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間に有意差は認められなかった(p=1.000).一方,LA点眼2時間後の眼圧は13.3±1.2mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.024)(図2).眼刺激感の評価には,4週もしくは8週の時点において点眼時の刺激感をもっとも強く感じたスコアを採用した.併用群においては「なし」21例(95%),「少しある」1例(5%),配合剤群では「なし」8例(36%),「少しある」9例(41%),「ある」2例(9%)「かなりある」3例(14%)であり,両群間に有意差が認められ(,)た(p<0.0001)(図3).脈拍数,拡張期血圧,収縮期血圧は,LA点眼前および点眼2時間後のいずれの時点においても,併用群は配合剤群と(117)これまで,プロスタグランジン製剤とb遮断薬の併用治療と配合剤治療の眼圧下降効果を比較した報告では,無作為化二重盲検試験で非劣性が検証された報告9,10)がある一方で,配合剤による眼圧下降効果のほうが有意に劣っていたとの報告3.5)もある.本研究では,緑内障薬物治療のファーストラインとして使用されていることが多い,ラタノプロスト点眼液で眼圧下降効果が不十分な症例を対象に,bブロッカーの1回点眼を加える方法として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液のいずれかに切り替えた場合の,眼圧下降および安全性について比較検討した.点眼時刻については,臨床現場での一般的な投与方法に則し,併用群はLAを朝1回,Latを夜1回,Lat/Tim配合剤は夜1回点眼を行うこととした.眼圧測定は両群とも午前中に行った.LA併用群の眼圧をより詳細に評価するために,LA点眼前および点眼2時間後の2時点で測定を行った.LAのそれぞれの眼圧は,眼圧下降効果のトラフ時およびピーク時の眼圧であり,配合剤群では点眼後12時間から18時間後の眼圧と比較することになった.眼圧については,両群ともに点眼変更前に比べ,4週後,8週後すべての測定ポあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015427 イントで有意な眼圧下降が得られた.4週後,8週後の併用群の朝点眼前の眼圧値(トラフ値)は配合剤群と差は認められなかった(p=0.054,1.000)が,LA併用群の点眼後2時間後の眼圧値(ピーク値)は4週,8週ともに同じ時刻の配合剤群より低かった(p=0.012,0.0024).配合剤群は夜間に点眼するため,併用群に比べbブロッカーの効果が眼圧測定時(午前中)に減弱していたことが示唆された.安全性に関して,併用群のLA点眼2時間後はカルテオロールの血中濃度が上昇する時間帯,配合剤群の評価時点はチモロールの血中濃度が低下した時間帯であり,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を有してはいるものの11),血圧および脈拍数において2群間に差がみられることが予想されたが,両群間で有意差は認められなかった.刺激感については,配合剤群で刺激感を報告した患者数は64%と併用群に比べて多かった(p<0.0001).わが国で臨床使用可能なb遮断薬は複数あり,患者の症状に合わせた使い分けが可能であるが,現在市販されているb遮断薬の配合剤は,いずれもチモロールマレイン酸塩が用いられており,選択範囲は狭い.本研究は,ラタノプロストとカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用群と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果について検討した初めての報告である.ラタノプロスト点眼液とカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用はラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と比較して,トラフでは同等の眼圧下降作用を,またピークでは同時刻の配合薬より有意な眼圧下降を示した.1日2回点眼と同様の眼圧下降効果をもつ,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬12)をラタノプロスト点眼薬に組み合わせることにより,配合剤と同等の眼圧下降効果が得られた可能性がある.今回の観察期間においては,配合点眼液群,併用群ともに全身的な副作用は有意差がなかった.一方,点眼時の刺激感は,LA併用のほうが少なかった.緑内障配合点眼薬は,薬剤数および点眼回数が減少することでアドヒアランスの向上が期待されるのも事実であり,今後,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合の薬剤選択の一つとして,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬を含む配合薬の開発が待たれる.文献1)日本緑内障学会:多治見疫学調査報告書(2000-2001年),2012年12月2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20123)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponantsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20044)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofsafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,20055)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20056)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,20107)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:ラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科28:1017-1021,20118)新垣淑邦,與那原理子,澤口昭一:2種類の持続型b遮断薬のラタノプロストへの追加効果と副作用の比較.眼臨紀6:91-96,20139)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,200610)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,201311)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareffectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol123:465-477,199712)山本哲也,カルテオロール持続性点眼薬研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:463-472,2007***428あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(118)

トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え効果

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):979.983,2012cトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え効果生杉謙吾*1,2伊藤邦生*3江崎弘治*4杉本浩多*5,6三浦功也*7築留英之*1八木達哉*1宇治幸隆*1,8近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学*2名張市立病院眼科*3鈴鹿いとう眼科*4江崎眼科クリニック*5杉本眼科クリニック*6市立四日市病院眼科*7みうら眼科*8東京医療センター・感覚器センターEfficacyofSwitchingfromUnfixedCombinationtoFixedCombinationofTravoprost/TimololMaleateOphthalmicSolutionKengoIkesugi1,2),KunioIto3),KojiEsaki4),KotaSugimoto5,6),KatsuyaMiura7),HideyukiTsukitome1),TatsuyaYagi1),YukitakaUji1,8)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NabariCityHospital,3)SuzukaItoEyeClinic,4)EsakiEyeClinic,5)SugimotoEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiCityHospital,7)MiuraEyeClinic,8)NationalInstituteofSensoryOrgans,TokyoMedicalCenter目的:多剤併用療法を行っている緑内障患者においてトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)へ切り替えたときの眼圧下降効果および安全性を検討する.対象および方法:対象はプロスタグランジン製剤(PG製剤)とb遮断薬を併用して使用している原発開放隅角緑内障(広義),落屑緑内障および高眼圧症患者40例40眼.PG製剤とb遮断薬の併用療法からウォッシュアウト期間を設けずデュオトラバR配合点眼液へ変更し,1,2,3カ月後の眼圧,角結膜所見,全身所見として血圧および脈拍を評価した.結果:眼圧は,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後で,それぞれ15.4±3.3mmHg,15.3±3.5mmHg,15.5±4.1mmHg,15.6±3.6mmHgとなり有意な変化はなかった.角結膜所見では,角膜上皮障害の程度はArea-Density分類にて,結膜充血所見は重症度分類により4段階で評価したが,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後にていずれも有意な変化を認めなかった.全身所見として,切り替え前に比べ2カ月後の脈拍が有意に上昇したが,経過観察中の最高血圧および最低血圧に有意な変化はみられなかった.結論:デュオトラバR配合点眼液の眼圧下降効果は併用療法と有意な差はみられず,安全性も良好であると考えられる.Purpose:Theaimofthisstudywastoassesstheefficacyandsafetyofswitchingfromanunfixedcombinationtoafixedcombinationoftravoprost/timolol.SubjectandMethods:Thesubjectscomprised40patientswithprimaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucomaorocularhypertensionwhowereconcurrentlyreceivingunfixedcombinationtherapyconsistingofprostaglandinanalogsandb-antagonist.Thepatientswereswitchedtoafixedcombinationoftravoprost/timololmaleateophthalmicsolution(DuotravRCombinationOphthalmicSolution),withnowashoutperiod.Observations,includingintraocularpressure(IOP)measurement,ocularsurfaceexaminations,bloodpressureandpulserateexaminations,wereperformedbeforetheswitchandat1,2and3monthsaftertheswitch.Results:AverageIOPwas15.4±3.3mmHgbeforetheswitch,15.3±3.5mmHgat1monthaftertheswitch,15.5±4.1mmHgat2monthaftertheswitchand15.6±3.6mmHgat3monthsaftertheswitch.NostatisticallysignificantIOPchangeswerenotedduringtheobservationperiod.Ocularsurfaceexaminationswereperformedusingthesuperficialpunctatekeratopathy(SPK)gradeandseveritygradesofconjunctivalinjection;nosignificantchangeswereobserved.However,significantchangeswerenotedinthepulserateat2monthsaftertheswitch,withnosignificantchangesinbloodpressureseenduringtheobservationperiod.Conclusions:Intermsofefficacy,thetravoprost/timololfixedcombinationwasequivalenttotheunfixedcombination;safetywasalsosatisfactoryafterswitching.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):979.983,2012〕〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2丁目174番地三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,TsuCity514-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)979 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):979.983,2012〕Keywords:配合剤,トラボプロスト,チモロールマレイン酸塩,眼圧,脈拍.fixedcombination,travoprost,timololmaleate,intraocularpressure,pulserate.はじめに海外ではすでに10年以上の使用実績がある緑内障配合点眼液であるが,2010年より日本でも3種類の配合点眼液が新たに認可され使用可能となった.配合剤の使用により従来の併用療法に比べ少ない点眼回数と点眼時間で治療が行えるため,患者負担の軽減に伴うアドヒアランスの改善などから投薬効果の向上が期待されている.たとえば,プロスタグランジン製剤(PG製剤)単独で目標眼圧を達成できない症例においてさらなる眼圧下降が望まれる場合,PG製剤とb遮断薬の配合剤へ切り替えると,同じ点眼回数でより強力な眼圧下降効果が期待できる1.3).一方,すでにPG製剤とb遮断薬,さらに3剤目として炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)が使用されているような多剤併用症例を配合剤へ切り替える場合では,点眼回数や点眼時間が減り治療負担の軽減により患者の利便性が向上するが,切り替え後も同程度の眼圧下降効果が維持できるかなどの検証が必要である.今回,筆者らは多剤併用療法を行っている緑内障患者においてトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)へ切り替えたときの眼圧下降効果および安全性について検討する.I対象および方法対象はPG製剤とb遮断薬を併用で使用している切り替え前の眼圧が21mmHg以下の原発開放隅角緑内障(広義),落屑緑内障および高眼圧症患者40例40眼(男性21例,女性19例)で,平均年齢は71.1±11.1歳(平均±標準偏差).エントリー期間は,2010年7月から同年12月である.対象症例の内訳は,PG製剤としてラタノプロスト(キサラタンR)使用例が24例,トラボプロスト(トラバタンズR)使用例が12例,タフルプロスト(タプロスR)使用例が4例であった.前述の3つのPG製剤とはやや異なる薬理作用機序をもつといわれているビマトプロスト(ルミガンR)およびウノプロストン(レスキュラR)使用例は含まれていない.b遮断薬では,0.5%チモロール使用例が28例(0.5%チモプトールR13例,0.5%チモプトールXER11例,0.5%リズモンTGR4例),2%カルテオロール使用例が12例(2%ミケランLAR11例,2%ミケランR1例)である.CAIについては,ブリンゾラミド(エイゾプトR)使用例が13例,ドルゾラミド(トルソプトR)使用例が2例である.1例1眼を対象とし切り替え前眼圧の高い眼を選択,眼圧が同じ値であれば右眼を対象とした.緑内障点眼薬2剤使用例(PG製剤とb遮断薬の併用)が25例,3剤使用例(PG製剤,b遮断薬およびCAIの併用)が15例であった.980あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012併用療法中のPG製剤およびb遮断薬を,ウォッシュアウト期間を設けずデュオトラバR配合点眼液へ変更し,1,2,3カ月後の眼圧を測定した.副作用の評価として,角膜上皮障害についてはArea-Density(AD)分類4)のSPK(superficialpunctatekeratopathy)スコアにより評価した.結膜充血所見は重症度分類5)の基準写真を用いて,0(充血なし)から+3(高度充血)までの4段階のスコアで評価した.全身所見として安静時の血圧および脈拍を測定した.眼圧,血圧および脈拍の測定時間は症例により異なるが,経過観察期間内において同一症例内では一定とした.眼圧,血圧および脈拍の有意差検定には対応のあるt検定を,SPKスコアおよび結膜充血の重症度スコアについてはWilcoxonの順位和検定を用いた.多重性比較法としてBonferroniの補正を行い,今回は補正後の有意水準を1.17%とした.本臨床研究の実施にあたっては,三重大学医学部臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.研究参加者へは研究の内容について事前に文書および口頭にて担当医より説明を行い,研究開始前に文書による同意を得ている.また,本臨床研究は筆頭筆者および共著者らがそれぞれの所属施設で行った多施設共同研究である.II結果全対象症例の平均眼圧は,切り替え前15.4±3.3mmHgに対し切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,15.3±3.5mmHg,15.5±4.1mmHg,15.6±3.6mmHgとなり有意な変化を認めなかった.2剤使用例では,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,15.0±3.3mmHg,14.9±3.5mmHg,15.3±4.1mmHg,15.4±3.6mmHg,3剤使用例では,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,16.0±4.3mmHg,15.9±4.4mmHg,16.1±4.9mmHg,15.8±4.6mmHgであり,いずれも有意な変化を認めなかった(図1).切り替え後の眼圧下降値群間差(切り替え後の眼圧値.切り替え前の眼圧値)およびその95%信頼区間は,切り替え1,2,3カ月後でそれぞれ.0.1[.0.8,0.7],0.3[.0.7,1.2],0.4[.0.5,1.2]であった.配合剤の併用療法に対する非劣性の設定として,あらかじめ群間差の95%信頼区間の上限を1.5mmHg未満としてあったため,今回の症例群では多剤併用療法から配合剤への切り替えにおける眼圧下降効果は統計学的に非劣性であると考えられた(図2).眼表面の副作用に関する評価項目として,SPKスコアは,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,0.55±0.99,0.58±0.96,0.53±1.06,0.53±0.94となり,切り替え前に比べ切り替え後3カ月まで有意な変化はみられなかっ(104) た.結膜充血の重症度スコアについては,切り替え前,切りで,有意な変化はなかった.一方,脈拍については,切り替替え1,2,3カ月後がそれぞれ,0.50±0.60,0.46±0.55,え前,切り替え1,2,3カ月後で,67.3±7.7拍/分,68.7±0.35±0.48,0.40±0.49となり,切り替え前後で有意な変化7.9拍/分,70.7±8.6拍/分,69.6±7.7拍/分となり,切り替はみられなかった(図3).血圧および脈拍の結果を図4に示す.血圧については,収縮期・拡張期ともに,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後0.550.580.530.5300.511.5角膜びらん(SPKスコア)(点)NSNSNS15.415.315.515.605101520眼圧(mmHg)(全症例)NSNSNS切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)0.500.460.350.4000.51結膜充血(重症度スコア)(点)NSNSNS15.014.915.315.405101520眼圧(mmHg)(2剤使用例)NSNSNS図3多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の角結膜所見切り替え前切り替え切り替え切り替えBonferroni補正法を用いたWilcoxonの順位和検定,NS:not(n=25)1カ月後2カ月後3カ月後significant.(n=25)(n=23)(n=23)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)NSNS切り替え切り替え切り替え16.015.916.115.805101520切り替え前眼圧(mmHg)(3剤使用例)NS(n=15)1カ月後2カ月後3カ月後(n=15)(n=13)(n=13)最高血圧および最低血圧(mmHg)170NSNSNS150142.1140.9141.3137.41301109081.581.282.180.270NSNSNS切り替え前0切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図1多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の眼圧Bonferroni補正法を用いた対応のあるt検定,NS:notsignificant.NS(p=0.048)67.368.770.769.6606570758085NS(p=0.250)p=0.0060脈拍(拍/分)眼圧下降値(mmHg)3210-1-2-0.10.30.4[-0.8,0.7][-0.7,1.2][-0.5,1.2]切り替え1カ月後切り替え2カ月後切り替え3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図2多剤併用療法から配合剤への切り替え後の眼圧下降値切り替え後の眼圧下降値群間差(切り替え後.切り替え前)[95%信頼区間]併用療法に対する非劣性の設定:群間差の95%信頼区間の上限が1.5mmHg未満.(105)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図4多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の血圧および脈拍Bonferroni補正法を用いた対応のあるt検定,NS:notsignificant.あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012981 え前に対し切り替え2カ月後で有意に増加していた.経過観察中に脱落した症例は,緑内障治療とは関係のない全身既往症の悪化により入院のため通院不可(86歳,男性),通院を自己中断(77歳,男性),眼瞼の色素沈着が増加(64歳,女性:キサラタンRと0.5%チモプトールXER使用例),眼圧上昇および頭痛の自覚(69歳,女性:12mmHgから16mmHgへ眼圧上昇・キサラタンR,2%ミケランLARおよびエイゾプトR使用例)の4例であった.III考按2010年日本で初めて緑内障配合剤が承認された.配合剤に期待される利点として,特に併用療法から配合剤へ切り替える場合,点眼回数の減少によるアドヒアランスの向上があげられる6,7).緑内障治療において点眼薬の使用薬剤数とアドヒアランスの関係については,薬剤本数が少ないほど点眼のアドヒアランスが良好と評価できる患者の割合が多く,点眼瓶の本数が多くなるほどアドヒアランスが低下すると報告されている8).その他の利点としては,多剤併用時に必要な5分間の点眼間隔が不要になり,薬剤の洗い流しを回避し薬効の低下を防ぐことができ,点眼の順序も考えなくてよい.点眼される薬液の量が軽減されるので,点眼液に含まれる防腐剤の量が減少し眼表面の障害を軽減できる可能性もある.また,複数の点眼薬を併用するより配合剤を使用するほうが,一般的に投薬にかかる経済的負担が減り医療資源を有効に活用できるという社会的な利点も考えられる.一方,配合剤使用時の注意点としては,配合剤の成分2剤ともの副作用に留意が必要であることや,単剤の併用時と比べ同等の眼圧下降効果が得られるかという懸念もある.つまりPG製剤とb遮断薬の配合剤の場合,通常の基材のb遮断薬が1回点眼となるため,24時間の眼圧下降効果を考えるとトラフ値に近い時間帯では眼圧下降効果が併用療法に比べ弱いことが考えられる.今回の筆者らの結果では,2剤併用例からの切り替え群および3剤併用例からの切り替え群,そして全症例群のいずれも切り替え前後で眼圧の有意な変化はなかった.また,切り替え後3カ月までの眼圧下降値は切り替え前に比べ統計学的に非劣性であり,過去の報告2,3,9)と同様に併用療法からデュオトラバR配合点眼液への切り替えによる眼圧下降効果は切り替え前と比べ同程度であると考えられた.単剤の併用療法から配合剤への切り替えでは,前述のような理由で薬理学的には眼圧下降効果に劣ることが危惧されるが,実際にはアドヒアランスの向上などの利点により効果が維持できていると考えられた.一方,今回の研究では,配合剤の点眼時間と眼圧測定の時間が症例により一定でない点には注意が必要で,配合剤の朝点眼を行った症例が全体の3/4,夜点眼の症例が1/4あり,配合剤点眼から眼圧測定までの平均時間は約7時間で,薬物の眼圧下降効果判定が切り替え前と982あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012異なる時間帯に行われている例が含まれている.さて今回の併用療法から配合剤へ切り替え試験においては,切り替え後の眼圧下降効果は切り替え前と比べ同程度で眼圧下降効果の維持という点からも配合剤の有用性が認められたが,一方,個々の症例については切り替え後にさらなる眼圧下降が得られる例や反対に眼圧上昇例を経験することもある.筆者らの今回の症例群でもたとえば,切り替え1カ月後に2mmHg以上眼圧が下降した症例は全体の22.5%,眼圧が維持できた例(±1mmHg以下)も55.0%あったが,残りの22.5%の症例で2mmHg以上の眼圧上昇がみられた.どのような症例で切り替え後に眼圧が下降または逆に上昇するのか,その背景は現在明らかではないが,これらのことからも併用療法から切り替えを行うときには,個々の症例について患者の個性や点眼切り替え前のアドヒアランス,眼圧下降効果の長期的な評価などを考慮し,配合剤をうまく活用した処方パターンを考えていくべきであると考える.今回の研究では点眼薬の切り替えによる眼表面への影響も評価した.国内で認可されたデュオトラバR配合点眼液は,防腐剤として塩化ポリドロニウムが使用され,ベンザルコニウム塩化物(BAC)が含まれていない点が海外での従来のものと異なる.BAC非含有配合剤では眼表面への障害が軽減され角膜所見の改善が見込まれる.今回の切り替え試験では,点眼回数の減少や点眼薬がBAC非含有となることで角膜所見の改善が期待されたが,切り替え前から切り替え後3カ月までの間に,角膜所見の有意な変化はなかった.これについては,切り替え前のSPKスコアが0(点)の症例が全体の75%あり,切り替え前平均SPKスコアは0.55と低く元々角膜びらんがないか比較的軽度の症例が多かったため,配合剤への切り替えによる角膜所見の改善効果が評価しづらかったことも切り替え前後で有意な変化がなかった理由の一つと考えられる.結膜充血については重症度分類を用いて評価したが,切り替え前に比べ切り替え後に平均スコアはやや減少し充血が軽減される傾向があったが,統計学的に有意な変化ではなかった.また,併用療法から配合剤へ切り替え後の全身への影響の評価として,今回筆者らは,最高血圧,最低血圧および脈拍の変化をみた.結果,最高血圧および最低血圧ともに経過観察期間中,有意な変化はなかったが,脈拍については切り替え以降上昇傾向があり,切り替え2カ月後で統計学的に有意な上昇がみられた.過去には併用療法から配合剤への切り替え前後の脈拍の変化について特に有意な変化はなかったと報告されている10).しかし,切り替え前後の脈拍数の変化がb遮断薬の作用によるものであるとすれば,今回の筆者らの結果からは,切り替え前に使用していたb遮断薬と配合剤に含まれるチモロールマレイン酸塩の薬理効果の差が,切り替え前後の脈拍数の変化と関連している可能性があると考えら(106) れた.今回筆者らは,緑内障多剤併用療法からデュオトラバR配合点眼液への切り替え効果について報告した.前述のように配合剤の最も有利な点は,患者の利便性向上であろう.今後も新たな機序による緑内障点眼治療薬が使用可能となるにつれて点眼薬の併用療法を行う患者の増加が考えられる.そのような流れのなかで,2種類の薬剤を一度に点眼できる配合剤は,今後,緑内障薬物治療を考えるうえでさらに重要な位置を占めていくと思われる.日本国内では配合剤の使用経験に関する報告はまだ少なく,今後さらにさまざまな処方例での長期的な評価が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19982)BarnebeyHS,Orengo-NaniaS,FlowersBEetal:Thesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationophthalmicsolution.AmJOphthalmol140:1-7,20053)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyofafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20054)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20035)大野重昭,内尾英一,石崎道治ほか:アレルギー性結膜疾患の新しい臨床評価基準と重症度分類.医薬ジャーナル37:1341-1349,20016)中田哲行:緑内障・高眼圧症治療薬ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤「ザラカム配合点眼液」.眼薬理25:17-21,20117)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバ配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20118)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20099)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200510)KitazawaY,SmithP,SasakiNetal:Travoprost0.004%/timolol0.5%-fixedcombinationwithandwithoutbenzalkoniumchloride:aprospective,randomized,doubled-maskedcomparisonofsafetyandefficacy.Eye(Lond)25:1161-1169,2011***(107)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012983

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):831.834,2012cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討木内貴博*1井上隆史*2高林南緒子*1大鹿哲郎*3*1筑波学園病院眼科・緑内障センター*2井上眼科医院*3筑波大学医学医療系眼科Long-termEfficacyafterSwitchingfromUnfixedCombinationofLatanoprostandTimololMaleatetoFixedCombinationTakahiroKiuchi1),TakafumiInoue2),NaokoTakabayashi1)andTetsuroOshika3)1)DepartmentofOphthalmology/GlaucomaCenter,TsukubaGakuenHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukubaInoueEyeClinic,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の2剤併用療法中の広義開放隅角緑内障16例16眼を対象とし,配合剤へ切り替えたときの眼圧変化とアドヒアランスについて2年間の観察を行った.平均眼圧は切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで差はなく(p=0.088),経時的にも有意な変化はみられなかった(p=0.944).アドヒアランスに関し,完全点眼達成率は切り替え前が18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012).しかしながら,切り替え前は無点眼日があったとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%にも及んだ.配合剤への切り替えは眼圧に影響を及ぼさず,アドヒアランスの改善が期待できる.ただし,切り替え後の点眼のさし忘れは1日を通してまったく治療が行われないことを意味し,注意が必要である.Weevaluatedintraocularpressure(IOP)andadherenceafterswitchingfromunfixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatetofixedcombinationin16eyesof16patientswithopenangleglaucomafortwoyears.AverageIOPbeforeandafterswitchingwas14.4±2.7mmHgand14.8±2.3mmHg,respectively;nosignificantdifferencewasfound(p=0.088),norwasanystatisticallysignificantdifferenceobservedinthetimecourseofchangesinIOP(p=0.944).Drugadherencerateincreasedsignificantly,from18.8%to62.5%asaresultofswitching(p=0.012).Aftertheswitch,37.5%ofpatientsfailedtocompletethefixedcombinationsolutioninstillationregimenforatleastoneday,whiletherewerenosuchfailuresbeforetheswitch.SwitchingtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatedidnotinfluenceIOPandwashelpfulinimprovingadherence.Attentionmustbepaid,however,tothefactthatfailureofinstillationaftertheswitchmeansthatglaucomatreatmentsarenotbeingadministeredthroughouttheentireday.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):831.834,2012〕Keywords:ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,配合剤,眼圧,アドヒアランス.latanoprost,timololmaleate,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,adherence.はじめに近年,わが国でも眼圧下降薬として配合剤が使用できるようになり,緑内障に対する薬物療法の選択肢が広がりつつある.わが国初の配合剤は,プロスタグランジン関連薬であるラタノプロストとb遮断薬である0.5%チモロールマレイン酸塩を組み合わせた,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(ザラカムR配合点眼液,ファイザー)であり,2010年4月の上市をもって配合剤処方の門戸が開かれることとなったが,海外では2000年にスウェーデンで初めて承認されて以来,現在に至るまで100カ国以上で発売されており,すでに緑内障薬物療法の一翼を担う存在となっている.必然的に,本剤に関する臨床研究は外国人を対象としたものが圧倒〔別刷請求先〕木内貴博:〒305-0854茨城県つくば市上横場2573-1筑波学園病院眼科Reprintrequests:TakahiroKiuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaGakuenHospital,2573-1Kamiyokoba,Tsukuba,Ibaraki305-0854,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)831 的に多く,なかでも多剤併用療法から配合剤へ切り替える方法により,眼圧の推移やアドヒアランスの変化などを検討したものが多勢を占める1.5).ところが,欧米人と日本人とでは,緑内障の疾患構成に違いがあること6,7)や,薬剤に対する反応性が異なる可能性もあることなどから,わが国でも配合剤に関するデータベース作りが急務と思われるが,発売後間もないこともあり,そのような臨床試験はあまり行われていない.さらに,いくつか散見される学術集会レベルの報告をみても,症例の組み入れ条件が一定でなかったり,観察期間が短期限定であったりするものがほとんどである.そこで今回,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩に限定し,これら2剤による併用療法から配合剤1剤へ切り替えたときの眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について,比較的長期にわたる観察を行って検討したので報告する.I対象および方法1.対象ラタノプロスト(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー)と2回点眼のチモロールマレイン酸塩(チモプトールR点眼液0.5%,MerckSharp&Dohme)の2剤併用にて,2年以上にわたり治療が継続されてきた広義開放隅角緑内障の患者を対象とした.著しい眼表面疾患を有する者,眼圧値に影響を及ぼす可能性のある眼疾患および全身疾患を有する者,眼圧下降のための外科治療およびレーザー治療の既往のある者,組み入れ前の1年以内に別の眼圧下降薬(ラタノプロスト以外のプロスタグランジン関連薬やチモロールマレイン酸塩以外のb遮断薬を含む)へ変更または追加,あるいは点眼中止のあった者は除外とし,上記の基準を満たし,かつ,十分な説明のうえで同意の得られた18例が本研究に組み入れられた.最終的に,決められた通院スケジュールを遵守できなかった2例が除外され,16例を検討の対象とした.性別は男性10例,女性6例,平均年齢は62.2±13.1歳(39.80歳)であった.全症例とも点眼治療は両眼になされており,検討には右眼のデータを採用した.なお,本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て行われた.2.点眼スケジュール切り替え前の2剤併用時は,ラタノプロストの夜1回とチモロールマレイン酸塩の朝夕2回の点眼スケジュールであったが,その後,休薬期間なしに配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替えを行い,切り替え後は夜のみ1回点眼を指示した.3.検討事項切り替え前後における眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について調査を行った.眼圧に関しては2カ月ごとに,切り替え前1年と切り替え後1年,つまり計2年間にわたって追跡を行い,切り替え前後それぞれの期間における全測定832あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012値の平均の比較,および,切り替え前後を通じた経時変化について検討した.なお,各々の患者について,切り替え前にはすべての眼圧測定時刻が3時間以内であったことを確認し,切り替え後も同様の時間帯に測定を行った.アドヒアランスに関しては,切り替え前1カ月と,切り替え1年経過時,すなわち本研究終了直前1カ月間の点眼状況をアンケート方式にて抽出した.切り替え前は2剤で3回点眼がノルマであるため,1日のうち1回でも点眼忘れがあれば,その日は不完全点眼日として,また1日を通じてまったく点眼しなかった日があれば,これを無点眼日と定義して,それぞれ該当日数をカウントした.一方,切り替え後は1剤のみ1回点眼となるため,点眼をさし忘れた日があれば,その日は必然的に無点眼日とみなした.そのうえで,1カ月間の該当日数を,なし(完全な点眼ノルマ達成),1日以上4日以内,5日以上8日以内に区分し,切り替え前後のアドヒアランスの変化を検討した.4.統計学的解析平均眼圧の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を,眼圧の経時変化については一元配置分散分析を,アドヒアランスの検討にはFisherの直接確率検定またはKruskal-Wallis検定を用い,危険率5%未満を有意とした.II結果1.眼圧の推移平均眼圧は,切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで有意な差はなかった(p=0.088).切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた症例とそれより下降した症例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられたが,そのほとんどは1mmHgを若干超えた程度の軽微な上昇の範囲にとどまっていた(図1).切り替え前後の眼圧の変化を図2に示す.経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).なお,今回の検討では,眼圧測定25%75%■:>+1mmHg■:±1mmHg:<-1mmHg020406080100(%)図1切り替え前後の平均眼圧の変化切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた例とそれより下降した例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられた.(110) 切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.前日および当日の点眼を忘れた例はなかった.2.アドヒアランスの変化1カ月の間,点眼忘れがまったくなかった症例の割合,すなわち完全点眼達成率は,切り替え前がわずか18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと大幅に改善した(p=0.012).点眼遵守状況の詳細を図3に示す.無点眼日数のみを抽出すると切り替え前後で有意な差はなかったものの(p=0.070),切り替え前の不完全点眼日数と切り替え後の無点眼日数との間には有意差が認められ(p=0.036),切り替え後は点眼忘れの頻度が減少していた.しかしながら,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,毎日なんらかの点眼がなされていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日でも点眼忘れがあったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.III考按緑内障診療において唯一の治療的エビデンスを有するのは眼圧下降であり,特別な事情がない限り,まずは点眼による治療が優先される.一般に,点眼は1剤から開始されるのが通例であるが,眼圧下降が不十分であると判断されたときは薬剤の変更や追加が考慮される8).当然ながら,目標眼圧達成のノルマが厳格になればなるほど多剤併用療法にシフトされる傾向が強くなり,それに伴いアドヒアランスの低下や副作用発現の増加といったトラブルも増すことになる.一方,2種類の独立した薬効を併せ持つ配合剤には,薬剤数と点眼回数の減少に伴う患者の利便性の向上が期待できる,複数の点眼薬の連続点眼による洗い流し効果がない,防腐剤の曝露量が減少するため眼表面疾患の発症リスクを最小限にできるなどといったさまざまな利点を有することが指摘されている9).したがって,配合剤の適切な使用は,多剤併用療法が抱えるいくつかの欠点を補う可能性があり,現在のところ,(111)不完全LAT点眼日数+TIM無点眼日数LTFC無点眼日数0%80%100%18.8%68.7%12.5%100%62.5%20%40%60%31.3%6.2%:なし/月■:1~4日/月■:5~8日/月図3点眼遵守状況完全点眼達成率は切り替え前の18.8%から切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012)が,切り替え前は無点眼日があるとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%に認められた.LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).配合剤の成分を含む2種類の点眼からの切り替え,あるいは,単剤に別の薬効をもつ薬剤の追加を考慮する際などにおいて,投与が検討されうる立ち位置にあるものと考えられる.多剤併用と配合剤との比較試験に関する海外からの報告を参照すると,眼圧下降効果は配合剤へ変更後も同等と結論づけるものが多いなか1.3),Hamacherらはさらに下降4),Diestelhorstらはむしろ上昇したとしている5).このうち上昇に転じたとするDiestelhorstらの検討5)では,配合剤の点眼時刻が朝8時であった点が,夜に点眼をさせたとする他の報告とは異なるため,解釈には若干注意が必要である.今回は,切り替え前の治療薬をラタノプロストと2回点眼のチモロールマレイン酸塩のみに限定したことに加え,除外基準を厳格化することで研究精度をできるだけ保つよう努めただけでなく,切り替え前後それぞれ1年という比較的長期にわたる観察期間を設定したため,組み入れ症例数は少数にとどまったが,眼圧に関しては,経時的にも平均値の比較においても切り替え前後で有意差を認めず,この点については海外の多くの報告と同様であった.平均眼圧の変化に関してPoloら3)は,切り替え後,79%の症例が1mmHg以内に維持,または,それより下降したとしており,これも今回の筆者らの結果と類似している.したがって,2剤併用療法から配合剤へ切り替えたときの眼圧下降効果は,多くの症例で同等であると考えて差し支えないと思われる.一方,点眼に対する動機付けを強いられる今回のような臨床試験とは異なり,実際の日常臨床においては,少なくとも多剤併用時の点眼忘れの頻度はもっと高いものであると推察される.そのような状況下において配合剤へ変更した場合,臨床試験のときと比べ,患者は利便性の向上感をより強く自覚することが予想され,そうなると点眼遵守度の大幅な改善が期待されることから,切り替え後の眼圧はさらに下降する可能性が考えられあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012833 る.よって,今回の筆者らの結果も踏まえて考察するに,配合剤は,少なくとも眼圧に関しては比較的安心感をもって使用できるものであると思われる.従来から,点眼薬数や点眼回数の増加によるアドヒアランスの悪化が指摘されている10)が,配合剤はこれを改善させうることが報告されている2).今回の検討でも,点眼忘れがまったくなかったとする症例の割合が,切り替え後は大幅に増加したことに加え,切り替え前の不完全点眼日数との比較においても,切り替え後の点眼忘れの頻度は有意に減少し,アドヒアランスは明らかに改善したことが示された.一方で,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,3回点眼という完全なノルマを達成できなかった日であっても,ラタノプロストまたはチモロールマレイン酸塩の両方,あるいは,どちらか一方が,1回ないし2回は点眼されていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日であっても無点眼日があったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.Okekeらは,1日1回の単剤点眼でさえ,実際に点眼回数が守られていたのは約7割にすぎないことを報告しており11),このことは今回の筆者らの結果を裏づけるものであると思われる.配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩のみで治療を行う場合,点眼忘れのあった日は,1日を通して治療がまったく行き渡らないことを意味しており,したがって,切り替えにより包括的にアドヒアランスが向上したとしても,これを無条件で歓迎するのは危険である.万一,無点眼日の眼圧が大幅に上昇しているとすれば,眼圧の日々変動が大きくなり,結果,緑内障性視神経症の悪化につながらないとも限らない.よって,配合剤に切り替えた後の点眼忘れには特に注意を払い,これまでにも増して点眼指導の徹底を図ることが重要であると思われる.一方,本研究の組み入れ症例数はきわめて少ないものであったため,今回の結果をもってただちに結論を導き出すのは時期尚早といえる.今後,わが国においても大規模かつ多施設での試験が積極的に行われることを期待し,多くの貴重なデータの蓄積を待ちたいところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)DunkerS,SchmuckerA,MaierH:Tolerability,qualityoflife,andpersistencyofuseinpatientswithglaucomawhoareswitchedtothefixedcombinationoflatanoprostandtimolol.AdvTher24:376-386,20073)PoloV,LarrosaJM,FerrerasAetal:Effectondiurnalintraocularpressureofthefixedcombinationoflatanoprost0.005%andtimolol0.5%administeredintheeveninginglaucoma.AnnOphthalmol40:157-162,20084)HamacherT,SchinzelM,Scholzel-KlattAetal:Shorttermefficacyandsafetyinglaucomapatientschangedtothelatanoprost0.005%/timololmaleate0.5%fixedcombinationfrommonotherapiesandadjunctivetherapies.BrJOphthalmol88:1295-1298,20045)DiestelhorstM,LarssonLI:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20046)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1161-1169,20047)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1641-1648,20058)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20129)石川誠,吉冨健志:緑内障治療薬配合剤.あたらしい眼科27:1357-1361,201010)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,200911)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Interventionsimprovepooradherencewithoncedailyglaucomamedicationsinelectronicallymonitoredpatients.Ophthalmology116:2286-2293,2009***834あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(112)