‘酵母様真菌’ タグのついている投稿

治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):100.104,2022c治療前のステロイド点眼使用歴による真菌性角膜炎の検討河内さゆり*1坂根由梨*2鳥山浩二*3原祐子*2白石敦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学医学部眼科学教室*3松山赤十字病院眼科CReviewofFungalKeratitisinPatientsWithandWithoutTopicalSteroidAdministrationBeforeInitiatingTreatmentSayuriKouchi1),YuriSakane2),KojiToriyama3),YukoHara2)andAtsushiShiraishi2)1)DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:真菌性角膜炎について,治療前のステロイド点眼使用の有無による傾向を検討する.方法:対象はC2008年1月.2019年C12月に愛媛大学医学部附属病院で治療した真菌性角膜炎C30例C30眼.抗真菌薬の治療開始前にステロイド点眼が使用されていた使用群と非使用群について,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植数を検討した.結果:非使用群はC11眼,使用群はC19眼で,使用群のC14眼は角膜炎発病前から,5眼は発病後から使用していた.起炎菌は非使用群が全例糸状菌で,使用群は酵母様真菌C8眼,糸状菌C11眼であった.治療開始までの期間は,非使用群C9.4±10.3日に比べ使用群はC39.1±61.4日と有意に遅かった(p=0.002).軽快までの期間も非使用群C36.7±32.7日,使用群C53.4±32.2日と使用群は長期化していた(p=0.041).治療的角膜移植数は,非使用群がC11眼中C2眼,使用群がC19眼中C5眼で有意差はなかったが,使用群のみでは発病後から使用の症例はC5眼中C4眼と治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006).結論:治療開始前にステロイド点眼を使用している患者では,所見がマスクされることで診断や治療開始が遅れ,治療が長期化する可能性がある.真菌性角膜炎発病後からのステロイド点眼使用は,治療的角膜移植に至る率を高めるため注意が必要である.CPurpose:ToCexamineCtheCcharacteristicsCofCtheCfungalkeratitis(FK)inCpatientsCwithCandCwithoutCtopicalCste-roidCadministrationCbeforeCinitialCtreatment.CSubjectsandmethods:ThirtyCpatientsCdiagnosedCwithCFKCatCEhimeCUniversityHospitalbetweenJanuary2008toDecember2019werereviewedandclassi.edintotwogroups:ste-roidCusegroup(GroupS:n=19Cpatients)andCsteroidCnon-usegroup(GroupCN:n=11patients).CBetweenCtheCtwoCgroups,wecomparedthecausativefungi,theperiodfromFKonsetCtomedicaltreatment,theperiodfrominitiatingCtreatmentCtoCimprovement,CandCtheCnumberCofCtheCcasesCthatrequiredCpenetratingCkeratoplasty(PKP).CResults:InCGroupCS,CtheCcausativeCfungusCwasCyeast-likeCfungiCinC8CpatientsCandC.lamentousCfungiCinC11Cpatients,CwhileCinCGroupCN,CtheCcausativeCfungusCwasC.lamentousCfungiCinCallC11patients.CTheCperiodCfromCFKConsetCtoCmedicalCtreat-mentCandCfromCinitiatingCtreatmentCtoCimprovementCwereCbothCsigni.cantlyClongerCinCGroupCSCthanCinCGroupCN.CTwoCpatientsCinCGroupN(18.2%)andC5CpatientsCinCGroupS(26.3%)underwentCPKP.CConclusion:PatientswithFKCwhoCuseCtopicalCsteroidsCmayChaveCaClongerCtreatmentCperiodCdueCtoCdelayedCdiagnosisCandCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(1):100.104,C2022〕Keywords:真菌性角膜炎,ステロイド,酵母様真菌,糸状菌.fungalkeratitis,topicalsteroid,yeast-likefungi,.lamentousfungi.Cはじめにる重篤な症例も少なくない.真菌性角膜炎の原因としては,真菌性角膜炎は難治性であり,治療期間が長期にわたるこ植物などによる外傷,ステロイド点眼の使用,コンタクトレとも多く,最終的に治療的角膜移植など手術加療を必要とすンズの装用などがおもなものとしてあげられる1.4).とくに〔別刷請求先〕河内さゆり:〒790-0024愛媛県松山市春日町C83愛媛県立中央病院眼科Reprintrequests:SayuriKouchi,DepartmentofOphthalmology,EhimePrefecturalCentralHospital,83Kasugamachi,Matsuyama-city,Ehime790-0024,JAPANCステロイド点眼は真菌性角膜炎を発病後も診断の遅れや診断の誤りから使用を継続されているケースがあり,角膜炎の重篤化につながり,治療に難渋することがある.日本眼感染症学会による真菌性角膜炎に関する多施設共同研究では,予後不良因子としてステロイドの使用は有意ではなかった5)が,別の報告では糖尿病またはステロイド点眼使用歴のある症例では手術加療に至ることが多かったという報告6)や,ステロイド点眼が真菌性角膜炎の重症度に関する因子の一つであったという報告7)がなされている.そこで,今回筆者らは愛媛大学医学部附属病院(以下,当院)で検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断され治療した症例について,治療が開始されるまでのステロイド点眼使用の有無を調査し,それぞれの背景,使用されたステロイド点眼の種類と使用期間,起炎菌,発病から治療開始までの期間,軽快までの期間,治療的角膜移植数について検討した.CI対象および方法2008年C1月.2019年12月に当院で入院加療を行った,検鏡または培養検査で真菌性角膜炎と診断されたC30例C30眼(男性C9眼,女性C21眼,平均年齢C72.4C±11.6歳)を対象とした.基本的な治療方針としては,糸状菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏を併用し,全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.難治例ではミカファンギン点眼やアムホテリシンCB点眼など他の抗真菌薬点眼も併用した.酵母様真菌ではボリコナゾール点眼とナタマイシン眼軟膏の併用,もしくはボリコナゾール点眼またはミカファンギン点眼を単独使用し,重症例では全身投与としてボリコナゾールもしくはイトリコナゾールの内服・静注を行った.治療初期はC1.2時間ごとの頻回点眼を行い,所見の改善に伴って点眼回数を漸減し,ほぼ鎮静化した段階でC4回まで点眼回数を減らし,再燃がないことを確認して投薬終了とした.検討方法は,対象を抗真菌薬による治療が開始されるまでステロイド点眼を使用していた群(使用群)と使用していなかった群(非使用群)のC2群に分け,発病の背景,使用していたステロイド点眼の種類と,病後からステロイド点眼を中止するまでの期間,起炎菌,発病から抗真菌薬治療開始までの期間,治療開始から軽快までの期間,治療的角膜移植に至った症例数について検討した.軽快の定義は,前述の当院での治療方針から,抗真菌薬点眼がすべてC4回以下に減量されるまでとし,治療的角膜移植に至った症例は除外とした.CII結果対象のうち,ステロイド点眼非使用群はC11眼,使用群は19眼であった.性別は非使用群が男性C4眼,女性C7眼,使用群は男性C5眼,女性C14眼であり,平均年齢は非使用群74.7±10.6歳,使用群C71.0C±12.2歳であった.ステロイド点眼使用群のうちC14眼は角膜炎発病前からステロイド点眼を使用しており,5眼は発病後から使用を開始していた.発病の背景としては,非使用群は農作業中の外傷がC8眼ともっとも多く,コンタクトレンズ装用がC2眼,兎眼がC1眼であった.使用群では角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,角膜移植後がC2眼,他の内眼手術後がC4眼と術後点眼として使用されていた症例が多く,他は周辺部角膜潰瘍がC2眼,Stevens-Johnson症候群がC1眼,円板状角膜実質炎C1眼,ぶどう膜炎C1眼,角膜内皮炎C1眼,睫毛乱生1眼,麦粒腫C1眼であった.発病後から使用開始していたC5眼では,外傷後の消炎目的がC2眼,ヘルペス性角膜炎疑いでの処方がC2眼,周辺部角膜潰瘍疑いでの処方がC1眼であった(表1).また,発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.使用されていたステロイド点眼の種類は,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼(以下,BM)がC12眼,0.1%フルオロメトロン点眼(以下,FM)がC7眼で,真菌性角膜炎を発病してからステロイド点眼使用を中止するまでの期間は平均C30.9C±60.5日であった(表2).起炎菌の検討では,非使用群は全例が糸状菌であり,Fusarium属がC7眼ともっとも多く,ついでCColletotrichum属がC3眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった.使用群では発病前からステロイド点眼を使用していた症例ではCCandidaalbicansが5眼,Candidaparapsilosisが3眼,Fusarium属1眼,Alternaria属1眼,Penicillium属1眼,Paecilomyces属1眼,Beauveria属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例C1眼で,約半数が酵母様真菌であった.一方,発病後からステロイド点眼を開始していた症例は5眼とも糸状菌であり,Fusarium属がC2眼,Alternaria属1眼,Aspergillus属C1眼,検鏡でのみ糸状菌が検出された症例がC1眼であった(図1).発病から抗真菌薬治療が開始されるまでの期間は,非使用群が平均C9.4C±10.3日であったのに比べ,使用群では平均C39.1±61.4日と治療開始が有意に遅かった(p=0.002,Wil-coxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用していた症例と発病後からの症例では有意差はみられなかった(p=0.199,Wilcoxon順位和検定)(表3).治療開始から軽快するまでの期間は,非使用群は平均C36.7±32.7日,使用群は平均C53.4C±32.2日で,使用群のほうが有意に軽快までの期間が長かった(p=0.041,Wilcoxon順位和検定).使用群のうち発病前から使用の症例と発病後から使用の症例では,軽快までの期間に有意差はみられなかった(p=0.894,Wilcoxon順位和検定)(表4).また,使用されたステロイドの種類による軽快までの期間は,BM群が平均C47.4C±12.8日,FM群が平均C60.3C±46.8日で有意差は表1発病の背景非使用群(11眼)使用群(19眼)発病前から使用(14眼)発病後から使用(5眼)農作業中の外傷8眼コンタクト関連2眼兎眼1眼角膜移植後2眼内眼手術後4眼周辺部角膜潰瘍2眼Stevens-Johnson症候群1眼円板状角膜実質炎1眼ぶどう膜炎1眼角膜内皮炎1眼睫毛乱生1眼麦粒腫1眼農作業中の外傷2眼ヘルペス角膜炎疑い2眼周辺部角膜潰瘍疑い1眼表2ステロイド点眼の種類と使用期間ステロイド点眼の種類発病から使用中止までの期間0.1%BM12眼C30.9±60.5日(1.266日)0.1%FM7眼BM:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム,FM:フルオロメトロン.表3発病から治療開始までの期間ステロイド点眼治療開始までの期間p値非使用群(11眼)C9.4±10.3日(3.39日)C0.002使用群(19眼)C39.1±61.4日(5.266日)発病前から(14眼)C41.8±72.4日(5.266日)C0.199発病後から(5眼)C32.0±14.1日(11.47日)Wilcoxon順位和検定.非使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)糸状菌(検鏡)Beauveria属糸状菌(検鏡)1眼Pencillium属1眼1眼1眼1眼図1起炎菌起炎菌は非使用群では全例が糸状菌であった.使用群では,角膜炎発病前からステロイド点眼を使用していた症例は,半数以上が酵母様真菌であったが,発病後から使用を開始した症例は全例糸状菌であった.表4治療開始から軽快までの期間ステロイド点眼軽快までの期間p値非使用群(9眼)C36.7±32.7日(7.112日)使用群(14眼)C53.4±32.2日(18.148日)C0.041発病前から(13眼)C53.3±33.7日(18.148日)C0.894発病後から(1眼)55日Wilcoxon順位和検定.みられなかった(p=0.866,Wilcoxon順位和検定).軽快後に再度悪化し,治療を強化した症例はなかった.発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数)がみられ,治療開始が遅れるほど軽快まで時間がかかっていることが示された(図2).発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間には,相関はみられなかった(r=.0.12,p=0.704,Spear-man順位相関係数).治療的角膜移植に至ったケースは,非使用群ではC11眼中2眼(18.2%),使用群ではC19眼中C5眼(26.3%)であり,非使用群と使用群に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定)(図3).起炎菌は全例が糸状菌であった.使用群のうち角膜炎発病後から使用開始した症例と発病前か治療開始から軽快まで(日)160140120100806040200*p=0.012,Spearman順位相関係数図2治療開始までと軽快までの期間発病から抗真菌薬治療開始までの期間と,治療開始から軽快するまでの期間には有意な相関がみられた(r=0.54,p=0.012,Spearman順位相関係数).非使用群と使用群の治療的角膜移植数使用群内の治療的角膜移植数非使用群使用群使用群(発病前から)使用群(発病後から)治療的移植あり治療的移植なし1眼(7.1%)1眼(20.0%)図3治療的角膜移植数非使用群と使用群において,治療的角膜移植に至った症例の割合に有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).使用群内のみで検討すると,発病前から使用していた症例より発病後からステロイド点眼を開始した症例では,治療的角膜移植に至る割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定).ら使用していた症例を比較すると,発病前から使用していた症例で治療的角膜移植に至ったのはC14眼中C1眼(7.1%)だったのに比し,発病後から使用開始した症例ではC5眼中C4眼(80.0%)と,治療的角膜移植に至った割合が有意に高かった(p=0.006,Fisher正確検定)(図3).使用されたステロイド点眼の種類による治療的角膜移植の割合は,BM群が12眼中3眼(25.0%),FM群が7眼中2眼(28.6%)で有意差はみられなかった(p=1.000,Fisher正確検定).CIII考按真菌性角膜炎には大きく分けて糸状菌によるものと,酵母様真菌によるものがあり,おもな誘因として糸状菌によるものは植物などによる外傷が,酵母様真菌によるものはステロイド点眼の使用による免疫力低下があげられ,石橋らは前者を「農村型」,後者を「都市型」と区分して考えることを以前から提唱している8).今回の検討でもステロイド点眼非使用群と,使用群のうち発病後からステロイド点眼を始めた症例は,全例が糸状菌による感染であり,発病の背景としても農作業中の外傷が最多であった.一方,使用群のうち発病前からステロイド点眼を使用していた症例では,起炎菌の半数以上が酵母様真菌と都市型の病型を示し,またC14眼中C13眼で抗菌薬点眼が併用されていた.酵母様真菌は眼表面の常在菌の一つであり,ステロイド点眼による免疫力低下に抗菌薬点眼による結膜.の菌叢の変化が重なって,感染を惹起した可能性が考えられた.発病から抗真菌薬での治療が開始されるまでの期間を,非使用群と使用群で比較すると,使用群のほうが有意に治療開始まで時間がかかっており,ステロイド点眼の影響で充血や浸潤などの炎症所見がマスクされたことが,診断を困難にして治療を遅らせた可能性が考えられる.また,治療開始から軽快までの期間も,非使用群より使用群のほうが有意に長く,発病から治療開始までの期間と治療開始から軽快までの期間には相関がみられた.ステロイドを使用すると数日でも菌糸の発育が著明になるという報告9)もあり,ステロイド点眼の影響による診断の遅れが,治療開始の遅れと菌糸の発育をもたらし,治療期間が長期化したのではないかと考えられた.治療的角膜移植に至った症例の割合は,非使用群と使用群で有意差はみられず,ステロイド点眼の使用の有無による差はなかった.しかし,非使用群は酵母様真菌の症例がC19眼中C8眼あり,酵母様真菌は糸状菌に比べ薬剤感受性が良好であるという報告10)や,今回治療的角膜移植に至った症例の起炎菌は全例とも糸状菌であったことから,起炎菌の違いにより予後に差が出にくくなった可能性がある.使用群内のみで検討すると,発病前からステロイド点眼を使用していた症例は半数以上が酵母様真菌による感染であり,治療的角膜移植はC14眼中C1眼のみであったのに比べ,発病後から使用開始されていた症例は全例が糸状菌感染で,治療的角膜移植が5眼中C4眼と非常に予後不良で有意差がみられた.この発病後からステロイド点眼を使用開始されていたC5眼のうちC2眼は,外傷後の消炎目的で処方されており,安易なステロイドの処方が重篤な結果をもたらしたといえる.残りのC3眼はヘルペス角膜炎や周辺部潰瘍の診断のもとに治療をされており,真菌性角膜炎が比較的まれで一般的な診療ではなじみの少ない疾患であり,診断が困難なことが一因であったと考えられる.治療がなかなか奏効しない,治療に抵抗する角膜炎では,真菌性角膜炎の可能性も考慮するべきであり,ステロイド点眼を処方する際は注意が必要である.使用されていたステロイド点眼の種類は,BMとCFMのC2種類があった.BMはステロイドの力価が高く眼内移行性もよい11)ため,ステロイド点眼としては強めの効果があると考えられており,一方CFMは角膜への浸透性が低い12)ことから比較的弱めであるといわれている.しかし,両群の軽快までの期間や治療的角膜移植に至った割合に有意差はなく,発病からステロイド点眼を中止するまでの期間と軽快までの期間にも相関はみられなかった.以上の結果から,ステロイドの種類や投与期間にかかわらず,ステロイド点眼の使用にはリスクがある可能性が示唆された.また,今回の検討では重症度の指標として,軽快までの期間と治療的角膜移植の有無を用いており,各症例の病巣の範囲や深度,所見,治療経過などの面からは検討していない.今後さらに詳しく分析していくことで,新たな知見が得られるかもしれない.結論として,植物などの外傷やステロイド点眼と抗菌薬点眼が併用されている患者の角膜炎では,真菌性角膜炎を常に意識しておく必要がある.とくにステロイド点眼を使用している場合では,炎症所見がマスクされることで診断と治療開始が遅れ,結果として治療期間が長期化する可能性がある.感染後からのステロイド点眼使用は,重篤化し治療的角膜移植に至る可能性を高めるため,感染が疑われる場合の安易なステロイド処方は厳に避けるべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GalarretaCDJ,CTuftCSJ,CRamsayCACetal:FungalCkeratitisCinLondon:microbiologicalandclinicalevaluation.CorneaC26:1082-1086,C20072)GargP:Fungal,CMycobacterial,CandCNocardiaCinfectionsandtheeye:anupdate.EyeC26:245-251,C20123)UrseaCR,CLindsayCAT,CFengCMTCetal:Non-traumaticCAlternariakeratomycosisinarigidgas-permeablecontactClenspatient.BrJOphthalmolC94:389-390,C20104)YildizEH,HareshA,HammersmithKMetal:AlternariaandCpaecilomycesCkeratitisCassociatedCwithCsoftCcontactClenswear.CorneaC29:564-568,C20105)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.患者背景・臨床所見・治療・予後の現況.日眼会誌120:5-16,C20166)山本昇伯,石井美奈,門田遊ほか:久留米大学病院における真菌性角膜炎の検討.臨眼67:1879-1883,C20137)DanCJ,CZhouCQ,CZhaiCHCetal:ClinicalCanalysisCofCfungalCkeratitisinpatientswithandwithoutdiabetes.PLoSOneC13:e0196741,C2018)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症のC2病型.臨眼51:1447-1452,C19979)金井淳,沖坂重邦:角膜真菌症の病理.眼科C25:651-660,C198310)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:真菌性角膜炎に関する多施設共同前向き観察研究.真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌120:17-27,C201611)WatsonCFG,CMcGheeCCN,CMidgleyCJMCetal:PenetrationCoftopicallyappliedbetamethasonesodiumphosphateintohumanaqueoushumor.EyeC4:603-606,C199012)KupfermanCA,CLeibowitzHM:PenetrationCofC.uoro-metholoneintothecorneaandaqueoushumor.ArchOph-thalmolC93:425-427,C1975***