《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1085.1088,2023cブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過塩川美菜子*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyofSwitchingtoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationfromConcomitantUseMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに調査する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からCBBFCへ変更した原発開放隅角緑内障,高眼圧症C116例を対象とした.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を比較した.副作用と脱落例を調査した.結果:眼圧は変更前C14.3C±2.9CmmHg,変更3,6,9,12カ月後がC14.0C±3.1,C14.0±3.1,14.2C±3.2,14.1C±3.2CmmHgで維持された.MD値は変更前C.10.12±6.11CdB,12カ月後C.9.63±6.13CdBで同等だった.副作用はC8例(6.9%)で出現し,掻痒感,結膜充血などだった.脱落例はC32例(27.6%)あった.結論:BBFCは,1年間にわたり併用治療と同等の眼圧,視野を維持でき,安全性もほぼ良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheC1-yearCoutcomesCandCsafetyCofCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhypertension.PatientsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved116patientswithPOAGorocularhypertensionwhosetreatmentwasswitchedCfromCtheCconcomitantCuseCofCbrimonidineCandCbrinzolamideCtoCBBFC.CIntraocularpressure(IOP)andCmeandeviation(MD)IOPvaluesusingtheHumphreyvisual.eldtestprogramwerecomparedatbaselineanduptoC12CmonthsCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCalsoCinvestigated.CResults:IOPCwasCfoundCtoCbeCmaintainedat3,6,9,and12monthspostswitch(i.e.,14.0±3.1,C14.0±3.1,C14.2±3.2,CandC14.1±3.2CmmHg,respec-tively)comparedwithatbaseline(14.3C±2.9mmHg)C.TheMDIOPvalueatbaselineandat12monthspostswitchwere.10.12±6.11CdBand.9.63±6.13CdB,respectively,thusillustratingnosigni.cantdi.erencebetweenthetwo.In8(6.9%)ofthe116patients,adversereactionssuchasitching,conjunctivalhyperemia,andotherdidoccur,andin32(27.6%)ofthe116patients,administrationwasdiscontinued.Conclusion:BBFCe.ectivelymaintainedIOPandvisual.eldsequivalenttothoseofconcomitanttherapyovera1-yearperiod,andtheoverallsafetywassatis-factory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1085.1088,C2023〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,副作用,変更,長期.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,switching,long-term.CはじめにsiveCglaucomasurgery:MIGS),チューブシャント手術な緑内障は進行性,非可逆性の視神経症で,現在のところエどが普及してきているものの,緑内障の主たる治療が薬物治ビデンスのある唯一の治療は眼圧下降である1).近年,レー療であることは現時点では変わらない.内服薬であれば多剤ザー線維柱帯形成術や低侵襲緑内障手術(minimallyCinva-を一度に服用することが可能であるが,点眼薬の場合はC5分〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC以上の点眼間隔をあけなければならず,薬剤数が多いほど時間がかかり日常生活に大きな負担を強いることとなる.緑内障診療においては点眼治療の継続率が悪いことが課題である2)が,多剤併用症例では使用点眼薬剤数が増加するに従ってアドヒアランスが低下することも報告されている3).点眼指導,アドヒアランスの向上が疾患の進行抑制に重要であることが緑内障診療ガイドラインにも記されている1).アドヒアランス向上をめざして配合点眼薬が開発され,わが国では現在C9種類の配合点眼薬が使用可能となった.なかでもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)はC2020年C6月に発売されたCb遮断薬を含まない数少ない配合点眼薬の一つで,心疾患,慢性閉塞性呼吸器疾患,高齢者などCb遮断薬使用が禁忌または望ましくない患者への有用性が期待される.井上眼科病院(以下,当院)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬をC3.6カ月使用時の効果と安全性について検討し報告した4,5).今回はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後C1年間の眼圧下降効果と安全性を検討したので報告する.CI対象および方法対象は当院に通院中の原発開放隅角緑内障と高眼圧症で,2020年C6月.2021年C6月にC0.1%ブリモニジン点眼薬とC0.1%ブリンゾラミド点眼薬の併用治療からC0.1%ブリモニジン/0.1%ブリンゾラミド配合点眼薬に変更したC116例C116眼とした.方法はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用治療からCwashout期間を設けずにブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例について,診療録より後ろ向きに調査した.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化,変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査(30-2SITAstandardプログラム)のCmeandeviation値(MD値)の変化,副作用と脱落例を検討項目とした.眼圧については眼圧変化量をC2mmHg以上下降,2mmHg未満の変化,2mmHg以上上昇に分けた調査も行った.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化の解析にはCANOVAとCBonferroniCandDunn検定を用いた.変更前と変更C12カ月後のCMD値の比較にはCWil-coxonの符号順位検定を用いた.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認を得た.研究情報は院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果1.患者背景116例中,男性はC62例,女性はC54例,平均年齢はC65.5C±11.8歳(33.89歳)であった.病型は狭義原発開放隅角緑内障C96例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C3例であった.平均使用薬剤数はC4.3C±0.7剤(3.6剤)だった.配合剤はC2剤とカウントした.C2.眼圧変化眼圧変化を図1に示す.変更前平均眼圧はC14.3C±2.9mmHg,変更C3カ月後C14.0C±3.1CmmHg,6カ月後C14.0C±3.1mmHg,9カ月後C14.2C±3.2CmmHg,12カ月後C14.1C±3.2mmHgで,変化なく維持された.12カ月後の眼圧変化量は,変更前と比べてC2CmmHg以上下降C25例(29.4%),2CmmHg未満C37例(43.5%),2CmmHg以上上昇C23例(27.1%)だった(図2).2CmmHg未満C37例の内訳はC2CmmHg未満の上昇がC12例,不変C9例,2CmmHg未満の下降がC16例だった.C3.MD値MD値の変化を図3に示す.変更前CMD値はC.10.12±6.11dB,変更C12カ月後C.9.63±6.13CdBで変化はみられなかった(p=0.2895).C4.副作用・脱落副作用はC116例中C8例(6.9%)で出現した.内訳は掻痒感がC2例で変更C1カ月後,3カ月後に出現,結膜充血がC2例で変更C3カ月後,5カ月後に出現した.霧視が変更C3カ月後に,角膜障害が変更C4カ月後に,アレルギー性結膜炎が変更C6カ月後に,眼瞼炎が変更C9カ月後に各C1例出現した.8例中C6例は投与を中止した.中止により症状は改善した(表1).脱落はC116例中C32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇が9例,薬剤追加がC8例,副作用がC6例,併用薬による副作用がC5例,白内障手術がC2例,転院がC2例だった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はわが国で行われた臨床試験において良好な眼圧下降と安全性が報告された6,7).市販後のブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果については,当院だけでなく他施設からも報告されている8.10).短期的検討としてCOnoeらは,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更したC22例を対象に行った研究で,眼圧は変更前がC15.0C±4.1CmmHg,変更C3カ月後がC14.8CmmHgで同等で,3カ月後の角膜上皮障害の軽度の悪化がみられたものの結膜充血に変化はなかったと報告した8).高田らは併用治療から配合点眼薬へ変更したC33例を対象とし,眼圧は変更前がC13.5C±2.3CmmHg,変更C3カ月後がC12.9C±3.1CmmHgで有意差はなく,副作用はなかったと報告した9).当院で行20NS18162mmHg以上下降眼圧(mmHg)25例,29.4%121014.3±2.914.0±3.114.0±3.114.2±3.214.1±3.28n=116n=115n=99n=92n=85642n=850変更前変更変更変更変更3カ月後6カ月後9カ月後12カ月後図1変更前後の眼圧眼圧は変更前後で変化はなかった(NS).C図2変更12カ月後の眼圧変化量2CmmHg未満(3C7例)の内訳は,2CmmHg未満上昇12例,不変9例,C2CmmHg未満下降16例だった.0NS副作用表1変更後の副作用発現時期継続・中止MD値(dB)-53カ月後継続1例-10結膜充血2例3カ月後継続1例5カ月後中止1例霧視1例3カ月後中止-20変更前変更12カ月後角膜障害1例4カ月後中止図3変更前後のMD値アレルギー性結膜炎1例6カ月後中止MD値は変更前後で変化はみられなかった(p=眼瞼炎1例9カ月後中止-15-10.12±6.11(n=80)-9.63±6.13(n=52)0.2895).った併用治療から配合点眼薬への変更後C3カ月の調査でも,眼圧は変更前はC14.2C±3.0mmHg,変更C3カ月後はC14.9C±4.4CmmHgで変化はなかった4).長期的効果で山田らは併用治療から配合点眼薬に変更した8例C15眼を対象として,眼圧は変更前C12.9C±2.1CmmHg,変更C3カ月後C13.6C±2.3mmHg,変更C6カ月後C12.6C±1.7CmmHgで有意差はなく,副作用として霧視がC2例,眼瞼皮膚炎がC1例出現したと報告した10).当院ではC102例を対象にブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更C6カ月後の調査を行い,眼圧は変更前がC14.4C±3.0mmHg,変更C6カ月後がC13.9C±2.8CmmHgと同等,副作用はC7例,6.9%に出現し,結膜充血がC3例,掻痒感がC2例,霧視がC1例,アレルギー性結膜炎を伴う眼瞼炎がC1例あったと報告した5).今回はC1年間の調査でわが国における既報はないものの,3カ月,6カ月後と同様にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後も眼圧は変わらず維持され,併用治療と同等副作用はC8例(6.9%)で出現したが,6例は投与中止により症状が改善した.の効果を得られた.変更C12カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg以上下降がC29.4%,2CmmHg未満がC43.5%,2CmmHg以上上昇がC27.1%であった.併用治療よりも眼圧下降が得られた症例のなかには,点眼本数が減ったことにより点眼遵守が良好となった症例がある可能性が示唆された.一方,配合剤のデメリットとして,1剤の点眼忘れがC2成分の眼圧下降効果減少を招くことがあげられる.眼圧が上昇した症例のなかにはもともとアドヒアランスが不良で,点眼本数が減っても点眼遵守につながらなかった症例も含まれている可能性がある.今後は点眼状況の聴取などアドヒアランスに重点をおいた前向き調査も検討の必要があると考えた.MD値はC1年間では変更前後に変化はなかった.さらに長期的な経過観察が必要であるが,緑内障は疾患の性質上,治療により目標眼圧に達していても視野障害が悪化する症例は存在するため11),長期になるほど点眼薬との関連を考察することは困難となることも予想される.副作用はC8例(6.9%)に出現し,内訳は掻痒感,結膜充血,霧視,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎であった.わが国で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の臨床試験では,ブリモニジンからの変更で副作用の出現が12.9%6),ブリンゾラミドからの変更でC8.8%7),内訳はいずれも霧視,結膜充血,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼刺激などで,重篤な副作用はなかったと報告されている.当院で行ったC6カ月の調査における副作用の出現はC6.9%5)で,今回はC1年の調査であったが副作用の発現頻度の増加はなく内訳も既知のものだった.長期使用による新たな事象もみられず比較的安全に使用できる点眼薬であることが示唆された.脱落がC32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇,薬剤追加,副作用,併用薬による副作用,白内障手術,転院だった.眼圧上昇のC9例中C6例は他の薬剤を追加,3例は患者の希望によりブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻した.薬剤追加したC8例は眼圧に変化はないものの,さらなる眼圧下降を期待して他の点眼薬を追加していた.副作用による脱落6例はブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻し,ブリモニジンかブリンゾラミドを中止した症例だった.併用薬による副作用C5例は結膜充血,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎で併用していたリパスジルの副作用を疑い,リパスジルを中止した症例だった.配合点眼薬のデメリットとして含有する2成分のどちらの成分の副作用か不明になることがある.利便性やアドヒアランスの問題はあるものの,最初にブリモニジンとブリンゾラミド併用治療を行い,十分に効果と安全性を確認してから配合点眼薬へ変更するほうが患者の理解も得やすいかもしれない.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はC1年間にわたり併用治療と同等の眼圧下降効果が得られ安全性も良好で,とくにCb遮断薬の使用が望ましくない患者に対する緑内障治療に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20143)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20094)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-441,C20226)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20207)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20208)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfrombrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationCofbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CinCglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20219)高田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C202210)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C202211)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C1998***