《原著》あたらしい眼科37(4):490.492,2020c原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響窪倉真樹子中元兼二白鳥宙髙野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室CLong-TermE.ectofLaserIridotomyonCornealEndothelialCellDensityinCasesofPrimaryAngle-ClosureGlaucomaMakikoKubokura,KenjiNakamoto,NakaShiratori,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC日本医科大学付属病院緑内障外来を受診した患者のうち,原発閉塞隅角症(PAC)および原発閉塞隅角緑内障(PACG)患者を対象に,レーザー虹彩切開術(LI)による角膜内皮細胞密度(CD)への影響を調べた.CD減少率を目的変数,LI施行日から最終CCD検査日までの期間(観察期間)を説明変数として回帰分析を行った.PAC(G)患者は15例26眼(男性3例5眼,女性12例21眼),年齢64±12歳,LI施行日からの観察期間はC34.5±15.7月であった.CDはCLI:治療前C2,810±173個/mm2,治療後C2,682±197個/mm2で有意に減少していた(p=0.02).CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=.0.4+0.1×観察期間(月),p=0.046,r2=0.16).PAC(G)に対する予防的CLIでは,CDは年間C1.6%減少し,約C40年間で半減すると予測された.CWeevaluatedthee.ectoflaseriridotomy(LI)oncornealendothelialcelldensity(ECD)inprimaryangle-clo-sureandprimaryangle-closureglaucomapatients.Thesubjectswere26eyesof15cases(male:3cases,5eyes;female:12Ccases,C21eyes).CTheCmeanCpatientCageCwasC64±12Cyears,CandCtheCmeanCfollow-upCperiodCwasC34.5±15.7months.ThemeancornealECDsigni.cantlydecreasedfrom2,810±173Ccells/mm2CpreLIto2,682±197Ccells/Cmm2CpostLI(p=0.02).Asigni.cantcorrelationwasfoundbetweentherateofcornealECDreductionandlengthofthepostoperativeobservationperiod(p=0.046).CornealECDwasestimatedtodecrease1.6%peryearpostLI,withanestimatedlossof50-percentat40-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):490.492,C2020〕Keywords:原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,レーザー虹彩切開術,角膜内皮細胞,長期的影響.primaryCangleclosure,primaryangleclosureglaucoma,laseriridotomy,cornealendothelialcell,long-terme.ect.Cはじめに緑内障はわが国の中途失明原因の第一位であるが1),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)は原発開放隅角緑内障に比し数倍失明率が高く2),臨床上注意を要する緑内障病型である.また,原発閉塞隅角症(pri-maryangleclosure:PAC)は無治療で経過観察すると,5年以内にC22%がCPACGに移行することが報告されており3),PACG発症予防のため外科的治療が必要である.わが国における緑内障の治療指針を示した緑内障診療ガイドライン第4版では,瞳孔ブロックによるCPACおよびCPACGに対しては,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または水晶体再建術が標準治療となっている4).LIは外来で簡便に瞳孔ブロックを解除できるので有用な治療法であるが,術後長期を経て発症する水疱性角膜症の合併はいまだ皆無ではない5.7).今回,筆者らは日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における急性緑内障発作の既往のないCPACおよびCPACGに対するCLIが角膜内皮細胞に及ぼす影響を後ろ向きに検討し,角膜内皮障害への長期的影響が予測できたので報告する.〔別刷請求先〕窪倉真樹子:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:MakikoKubokura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC490(114)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(114)C4900910-1810/20/\100/頁/JCOPY3,5003,000LI後細胞密度(個/mm2)LI後眼圧(mmHg)151052,500005101520LI前眼圧(mmHg)図1LI前後の眼圧変化眼圧はCLI前後で有意差はなかった(p=0.60).C1510500102030405060702,0002,0002,5003,0003,50025LI前細胞密度(個/mm2)図2LI前後の角膜内皮細胞密度の変化角膜内皮細胞密度はCLI施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02).しているものとした.LIの術式は全例アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法であった.アルゴンレーザー(グリーン)で穿孔予定部位周囲を照射し虹彩を伸展菲薄化後,Nd:YAGレーザーで穿孔した.それぞれのレーザー設定と照射数は,アルゴンレーザーにて第一段階としてC200Cμm,0.2秒,200CmWでC4発,第二段階としてC50Cμm,0.02秒,1,000CmWでC10.20発したのち,Nd:YAGレーザーにてC1.5CmJで1.2発照射とし,全例この範囲で施行した.CD減少率(%)-5観察期間(月)図3CD減少率と観察期間との関係CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),rC2=0.16,Cp=0.046).CI対象および方法2016年C6月.2016年C11月に当科を受診した患者のうち,緑内障専門医(K.N.)が施行した予防的CLI後のCPACおよびPACG患者を対象とした.内訳は,年齢(平均値C±標準偏差)C64±12歳(39.78歳),男性C3例(5眼),女性C12例(21眼)のC15例C26眼であった.病型の内訳は,PACがC11例C19眼,PACGがC4例C7眼であった.選択基準は,LI前後に角膜内皮細胞測定が行われているものとした.除外基準は,内眼手術の既往,滴状角膜,Fuchs角膜内皮ジストロフィなど,緑内障以外の眼疾患を有するものとした.PACおよびCPACGの診断は,LI術前のカルテ所見より行った.緑内障診療ガイドライン4)に準じて,PACは,原発隅角閉塞によって眼圧上昇(少なくともC20CmmHgをC1回でも超える)をきたしている,もしくは周辺虹彩前癒着があるが緑内障性視神経症がないものとした.PACGはCPACに緑内障性視神経症を有角膜内皮細胞はスペキュラマイクロスコープCSP-2000P(トプコン)を用いて測定し,角膜中央部のデータを解析に用いた.視力,眼圧,角膜内皮細胞密度(celldensity:CD)(個/Cmm2)をCLI前後で比較した(WilcoxonCsigned-ranktest).また,CD減少率を[(LI前CCD-最終観察時CCD)/LI前CCD]C×100(%)として算出し,目的変数をCCD減少率,説明変数をCLI施行日から最終角膜内皮細胞検査日までの期間(観察期間)として,直線回帰分析を行った.統計解析は,JMP8(SASInstitute社)を用いて,有意水準p<0.05(両側検定)で検定した.CII結果1.視力(logMAR)および眼圧の変化視力については,LI前後で視力測定が行われていたC15例24眼で検討した.LI前(平均値C±標準誤差):.0.06±0.04(.0.08.0),LI後:0.02C±0.20(C.0.08.0.7)(p=0.03)であり,白内障進行により有意に低下した.また,眼圧の検討では,LI前:13.8C±3.8CmmHg(7.5.21CmmHg),LI後:C13.5±3.7CmmHg(8.21CmmHg)であり,LI前後に有意差はなかった(p=0.60,図1).C2.CDの変化およびCD減少率と観察期間との関係観察期間はC34.5C±15.7月であった.角膜内皮細胞数はCLI前:2,810C±173/mm2,LI後:2,682C±197mm2であり,LI(115)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C491施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02,図2).また,目的変数をCCD減少率(%),説明変数を観察期間(月)として直線回帰分析を行ったところ,両者に有意な正の関係があった〔CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),Cr2=0.16,Cp=0.046,図3〕.CIII考按今回,アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法によるLIが施行されたCPACおよびCPACG患者を対象に,LIの角膜内皮細胞への影響について後ろ向きに検討したところ,LI後のCCD減少率はC1.6%/年であり,加齢によるCCD減少率は0.3.0.7%/年8)に比し早かった.また,これは同様の検討をした宇高らの報告9)におけるCCD減少率C1%/年より早かった.本検討の結果から算出すると,CDはCLI施行後約C40年間で半減することがわかった.ただし,回帰式の決定係数はCr2=0.16と低く,回帰式の精度の問題がある.PACGにおけるCLI後では,通常,眼圧は有意に下降することが多いが10),今回の検討では有意な眼圧下降はなかった.この原因として,対象にCPACGの割合が少ないこと,治療前に眼圧下降薬が使用されている症例が含まれていることなどが考えられる.本検討の問題点および限界としては,①CCDがCLI前後で1回ずつしか測定されていないため,測定値の精度が低い可能性があること,②大学病院での後ろ向き研究のため,通院困難などの理由で近医に転院した症例が多く,結果として症例数が少ないこと,③今回対象から除外された症例のなかには,LIではなく水晶体再建術が施行されたものも多く,とくに隅角閉塞機序に水晶体因子の影響が強い症例などは除外されている可能性が高いこと,などがあげられる.最近,白内障のないCPACおよびCPACGを対象としたCLIと水晶体再建術の前向き比較試験(EAGLEstudy)10)の結果が報告され,水晶体再建術のほうが,LIより生活の質,経済面および眼圧コントロールにおいて優れていることが高いエビデンス・レベルで実証された.そのため,最近ではPACおよびCPACGにおける第一選択は水晶体再建術となりつつある11).しかし,PACおよびCPACGに対する水晶体再建術は通常の手術に比し手術難易度が高いため,術中合併症のリスクがより高くなることが知られている4).元来,水晶体再建術でもCCDは減少し,ときに水疱性角膜症もきたしうるという問題もある5).ただし,角膜内皮細胞の再生医療の進歩は目覚ましく12),将来は,LIによるものも含めて水疱性角膜症が現在ほど重篤な合併症の扱いではなくなる可能性がある.今回の結果からCPACおよびCPACGに対するCLIによって,CD減少率は年間C1.6%/年減少し,CDはCLI後約C40年間で半減すると予測された.LIは簡便で瞳孔ブロック解除に有用な治療法であるが,現時点では年齢およびCLI前のCCDを考慮して慎重に適応を決める必要がある.文献1)白神史雄:厚生労働科学研究研究費補助金,難治性疾患克服研究事業2)QuigleyCHA,CBromanAT:TheCnumberCofCpeopleCwithCglaucomaCworldwideCinC2010CandC2020.CBrCJCOphthalmolC90:262-267,C20063)ThomasCR,CParikhCR,CMuliyilCJCetal:Five-yearCriskCofCprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:ACpopulation-basedCstudy.CActaCOphthal-molScandC81:480-485,C20034)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20185)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveryonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)SchwartzAL,MartinNF,WeberPAetal:Cornealdecom-pensationCafterCargonClaserCiridectomy.CArchCOphthalmolC106:1572-1574,C19887)LimLS,HoCL,AngLPetal:Inferiorcornealdecompen-sationfollowinglaserperipheraliridotomyinthesuperioriris.AmJOphthalmolC142:166-168,C20068)天野史郎:正常者の角膜内皮細胞.あたらしい眼科C26:C147-152,C20099)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科C28:553-557,C201110)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C201611)KimCYY,CJungHR:ComparisonCofC2007-2012CKoreanCtrendsinlaserperipheraliridotomyandcataractsurgeryrates.JpnJOphthalmolC58:40-46,C201412)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglJMedC378:995-1003,C2018***(116)