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パノラマ広角光干渉断層血管撮影が病態の進行評価に有用であった閉塞性網膜血管炎の1例

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1361.1365,2024cパノラマ広角光干渉断層血管撮影が病態の進行評価に有用であった閉塞性網膜血管炎の1例安藤諒太*1木村雅代*1加藤亜紀*1物江孝文*1野崎実穂*1丸山和一*2安川力*1*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2大阪大学大学院医学系研究科視覚情報制御学寄附講座CACaseofOcclusiveRetinalVasculitisEvaluatedbyPanoramicOpticalCoherenceTomographyAngiographyRyotaAndo1),MasayoKimura1),AkiKato1).TakafumiMonoe1),MihoNozaki1),KazuichiMaruyama2)andTsutomuYasukawa1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUmiversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofAdvancedDeviceMedicine,GraduateSchoolofMedicine,OsakaUniversityC目的:パノラマ広角光干渉断層血管撮影(OCTA)が病態の進行評価に有用であった閉塞性網膜血管炎のC1例を経験したので報告する.症例:43歳,女性.右眼の見えにくさがあり近医受診し,当院へ紹介された.両眼に網膜出血と網膜血管の白鞘化を認めた.フルオレセイン蛍光造影(FA)では蛍光漏出および周辺部に広範な無灌流領域が存在し,両眼の閉塞性網膜血管炎と診断した.プレドニゾロン(PSL)内服を開始したが,FAで無灌流領域の拡大を認めたため,初診C22カ月後にステロイドパルス療法を施行した.経過中に施行したパノラマ広角COCTAでは,右眼黄斑部上方および両眼耳側周辺部の無灌流領域が描出可能で,受診のたびに撮影し,無灌流領域拡大の有無を評価した.考察:パノラマ広角COCTAは短時間で周辺部まで鮮明に無灌流領域の撮影が可能であり,閉塞性網膜血管炎の病態評価に有用と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCocclusiveCretinalvasculitis(ORV)inCwhichCpanoramicwide-.eld(WF)opticalCcoherencetomographyCangiography(WF-OCTA)wasCusefulCforCassessingCtheCprogressionCofCtheCdisease.CCasereport:AC43-year-oldCfemaleCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCblurredCvisionCinCherCrightCeyeCwasCreferredCtoCNagoyaCityUniversityHospital.Bilateralretinalhemorrhageandretinal-vesselsheathingwasobserved.Fundus.uorescenceangiography(FA)showedleakageandextensivenonperfusionarea(NPA)intheperiphery.ShewasdiagnosedCwithCbilateralCORVCandCtreatedCwithCoralCadministrationCofCprednisolone.CAtC22CmonthsCafterCtheCinitialCdiagnosis,CFACshowedCenlargementCofCtheCNPAs,CdespiteCtreatment.CThus,CintravenousCmethylprednisoloneCpulseCtherapyCwasCadministered.CPanoramicCWF-OCTACwasCperiodicallyCperformed,CandCrevealedCthatCNPAsCatCtheCregionsuperiortothemaculaintherighteyeandatthetemporalperipheryofbotheyesremainedstable.Conclu-sionsPanoramicWF-OCTAdetectedNPAsevenintheperiphery,andwasusefulforevaluatingthepathologicalprogressionineyeswithORV.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(11):1361.1365,C2024〕Keywords:閉塞性網膜血管炎,パノラマ広角光干渉断層血管撮影,フルオレセイン蛍光造影.occlusiveretinalvasculitis,panoramicwide-.eldopticalcoherencetomographyangiography,.uorescein.uorescencefundusangiog-raphy.Cはじめにかし,造影剤によるアナフィラキシーなどの副作用のリスク網脈絡膜疾患の診断および経過観察にはフルオレセイン蛍や患者への侵襲を考えると頻回に施行することはむずかし光造影検査(.uoresceinangiography:FA)が望ましい.しい1,2).〔別刷請求先〕木村雅代:〒467-0001愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学病院眼科Reprintrequests:MasayoKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityHospital,1,Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-0001,JAPANC図1初診時超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia)所見網膜出血(C.),網膜血管白鞘化(C.),軟性白斑(.)を認める.図2初診時フルオレセイン蛍光造影(OptosCalifornia)所見周辺部に広範な無灌流領域(C.)と蛍光漏出(C.)を認める.光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangi-ography:OCTA)は光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の静的シグナルを減算し血球由来の動的シグナルを検出することにより,網脈絡膜の血管構造を非侵襲的に画像化する装置であり,FAに代替しうるものであるが,初期のCOCTAでは撮像範囲が後極部に限られていた.しかし,機器の進歩により,最近ではパノラマ合成により広範囲の眼底撮像が可能となっている.今回,パノラマ広角OCTAが病態の進行評価に有用であった閉塞性網膜血管炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:43歳,女性.主訴:右眼のみえづらさ現病歴:患者は,以前よりCRaynaud症状および抗核抗体640倍と異常高値の指摘があり,近医膠原病内科にて混合性結合組織病の疑いとされていた.しかし,確定診断はついておらず経過観察となっていた.1週間前より右眼の見えにくさが出現したため,近医眼科を受診した.近医では右眼視力C1.2(n.c.),左眼視力C1.0(1.2C×sph+0.25D(cyl.0.50DAx160°),右眼眼底に軟性白斑,両眼に網膜出血および血管の狭小化を認めたため,翌日当院眼科紹介受診となった.既往歴:混合性結合組織病疑い,月経困難症(低用量ピル内服中),偏頭痛,副鼻腔炎,両眼近視に対してClaser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)施行(30代の頃)家族歴:特記すべき事項なし.妊娠,出産歴:なし.初診時所見:初診時視力は右眼C1.5(n.c.),左眼C1.5(n.c.),前眼部・隅角・中間透光体には異常所見は認めなかった.眼底には両眼とも血管に沿った網膜出血,網膜動静脈の白鞘化,軟性白斑が存在し(図1).FAでは周辺部に広範な無灌流領域と蛍光漏出がみられた(図2).毛細血管瘤は認められなかった.図3ステロイドパルス療法前パノラマ広角OCTA(XephilioCanonA1)17.5mm×17.5mm画像右眼黄斑部上方および両眼耳側の無灌流領域が描出可能であった.図4最終受診時パノラマOCTA(XephilioCanonS1)約33mm×約27mm画像XephilioCanonA1による撮影範囲(点線枠内)より広角で,OptosFAとほぼ同じ範囲が描出されている.ステロイドパルス療法前と比較し両眼周辺部無灌流領域の拡大はみられない.肝炎,梅毒,結核,ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルス,ヒト免疫不全ウイルス,ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型,トキソプラズマといった感染症の採血検査は陰性であり感染症に伴う血管炎は否定的であった.自己免疫疾患に伴う網膜血管炎を疑い膠原病内科にて精査となった.採血では抗カルジオリピン抗体がC1,785Cmg/ml,IgGがC12CU/mlと弱陽性であったが,抗CSm抗体,抗CDNA抗体,抗CRNP抗体,抗CScl-70抗体抗CSS-A抗体,抗セントロメア抗体,PC3-ANCA,MPO-ANCAは陰性であった.また,眼底以外に明らかな臓器病変は認められず全身疾患の診断には至らなかったため,特発性閉塞性網膜血管炎の診断となった.II経過広範囲にわたって網膜血管の閉塞を認めたが視力低下はなく,自覚症状も軽度であり,治療介入行わず経過観察を行っていた.しかし,初診時よりC9カ月後に再度CFA検査を行ったところ,周辺部の無灌流領域の拡大を認めた.そのため,膠原病内科に相談のうえ,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)1日C30Cmgで内服を開始した.しかし,PSL内服による自覚的倦怠感が強く,内服早期に減量を開始し,内服開始からC3カ月後にはCPSL15Cmg内服とし,その後継続した.初診C22カ月後からはCFA検査の代わりにパノラマ広角OCTA(XephilioCanonA1およびCXephilioOCT-S1,キヤノン)を用いて無灌流領域の評価を行った.初診時より継続的に周辺部無灌流領域の拡大が進行したため(図3),初診22カ月後にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000Cmg点滴静注/日をC3日間)施行し,バイアスピリン内服(100Cmg)も開始した.ステロイドパルス療法後はCPSL40mg内服とし,その後,漸減した.初診24カ月後にはPSL減量のためシクロスポリン(cyclosporinA:CyA)をC1日C150Cmgから開始し,パノラマ広角COCTAで周辺部無灌流領域の拡大がないことを確認しながら,PSLを漸減した.ステロイドパルス療法後から最終受診時(初診C36カ月後,ステロイドパルス療法後C14カ月)までパノラマ広角COCTAで無灌流領域の拡大は認めなかった(図4).最終受診時にはCPSL17.5Cmg内服を継続しており,右眼視力C1.2(n.c.),左眼視力C0.9(1.0C×cyl.0.50DAx150°)と視力低下は認めていない.CIII考按パノラマ広角COCTAが病態評価と治療方針の決定に有用であった閉塞性網膜血管炎のC1例を経験した.OCTAはCOCTを用いて非侵襲的に網膜の血流情報を層別に捉え評価が可能なイメージング技術でありC2006年に初めて報告された3).網膜動脈閉塞症4),網膜静脈閉塞症5),糖尿病網膜症6)などの疾患において新生血管や無灌流領域の描出に有用であるとされており,ぶどう膜炎の診断においても網脈絡膜血管の循環動態の評価にCOCTAが有用であるとの報告がある7).網膜血管閉塞が病態の一因となる特発性の網膜血管炎,網膜血管瘤,視神経網膜炎をきたすCidiopathicCretinalCvasculitis,CaneurysmsCandneuroretinitis(IRVAN)症候群8)や自己免疫機序により頭蓋内,内耳,網膜の微小血管に炎症をきたし,脳症,難聴,視力障害を生じるCSusac症候群9)でも,その診断および経過観察にCOCTAが有用であったと報告されている.初期のCOCTAの撮像範囲はC3C×3Cmm程度と撮像範囲が狭く後極部に限られていた.OCTAを撮像する際に+20Dのレンズを装用することで,より広範囲のCOCTA画像を撮像するCextendC.eldimaging法も発表されていたが10),器械性能の向上により近年撮影可能範囲が飛躍的に拡大した.今回,筆者らは,キヤノンのC2種類のCOCTAを用いて閉塞性血管炎のC1例を経過観察した.XephilioOCT-A1Angiogra-phyModelではC1回の撮影で最大C10C×10mmのCOCTA画像を取得し,パノラマ画像合成ソフトウェアによりC5枚のOCTA画像を合成することで最大C17.5C×17.5Cmmのパノラマ画像を構築できる.XephilioOCT-S1ではC1回の撮影で最大C23C×20Cmm(画角約C80°)の画像を取得し,パノラマ合成により最大約C33CmmC×約C27mm(画角約C110°)の画像を構築できる.周辺無灌流領域の評価を要した本症例の病態評価にも有用であった.従来,網膜血管病変の診断にはCFAが用いられてきた.造影剤を用いることにより網膜血管形態や無灌流領域の描出とともに,網膜血管内から血漿成分が血管外に移動する現象は蛍光漏出としてとらえられ,これらを経時的に観察することで網膜疾患の診断法の一つとして用いられてきた.しかし,造影剤に対する反応として嘔気や嘔吐,アナフィラキシーなどの副作用が出現する可能性があり,また腎不全患者や小児,妊婦などには積極的に施行できないというデメリットも有している1,2).これに対し,OCTAは造影剤を用いずに血管を描出することが可能であるため,造影剤使用による副作用がなく,また検査時間も短いという利点がある.一方で,OCTAではCFAで確認できる蛍光漏出や蛍光貯留をとらえることはできず,完全なCFAの代用にはならないが,非侵襲的に頻回に施行できるメリットは大きい.糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,加齢黄斑変性のいずれかの疾患を有する患者に対しCFAとCOCTAを施行し病変検出率を検討した論文では,FAとCOCTAの病変検出率ほぼ同等であったとされている11).また,Hiranoら12)はCswept-source(SS)C-OCTAC15Cmm×15Cmm硝子体網膜界面(vitreoretinalCInter-face:VRI)画像と同じC15CmmC×15Cmm領域のCFAによって検出された新生血管の数を比較し,FAによって検出された100本の新生血管うちC73本の新生血管をCSS-OCTAVRI画像で検出することができ,さらにセグメンテーションを手動で修正した場合には感度はC73%からC84%まで改善したと報告している.本症例では周辺部の無灌流領域や新生血管の描出が病態評価に重要であるため,頻回なCOCTAでの経過観察および病態評価が治療方針決定に有用であった.閉塞性網膜血管炎は膠原病に伴う続発性と特発性に分けられる.膠原病に伴う閉塞性網膜血管炎では全身性エリテマトーデス,多発性筋炎および皮膚筋炎,結節性多発動脈炎,全身性進行性硬化症(強皮症),関節リウマチ,混合性結合組織病,Sjogren症候群などにより,さまざまな網膜病変を示す.網膜出血,軟性白斑,網膜毛細血管床閉塞,網膜動静脈閉塞,網膜色素上皮異常などの所見を呈し,閉塞性血管炎の結果,新生血管を伴うこともある.今回の症例でも膠原病の関与が疑われ精査を重ねたが全身性疾患の診断には至らず,特発性閉塞性網膜血管炎として加療,経過観察を行った.本症例ではもともと月経困難症に対し低用量ピルを内服していたが初診C18カ月後のタイミングで内服は中止となっている.現在までに低用量ピル内服による網膜静脈閉塞症または網膜動脈閉塞症の症例報告がなされている13).一方で,CSongら14)のコホート研究では低用量ピルでは網膜静脈閉塞症および網膜動脈閉塞症のリスクは増加しないと報告されている.今回のような閉塞性網膜血管炎に低用量ピルが関連しているという報告はなされていないが,病態的に発症や進行に関与していた可能性は考えられる.特発性閉塞性網膜血管炎はCJampolら15)によって提唱された疾患であり,網膜微小梗塞とそれに続発する網膜血管新生を特徴とし網膜出血と硝子体出血を引き起こすが疾患原因や病態は不明な点も多い.本症例についても今後十分な経過観察が必要である.今回,パノラマ広角COCTAにて病態把握と治療効果を評価した閉塞性網膜血管炎のC1例を経験した.広角COCTAのパノラマ合成画像を用いた周辺部の無灌流領域や新生血管評価は,経過観察や治療方針の決定に有用と考えられた.文献1)XuCK,CTzankovaCV,CLiCCCetal:IntravenousC.uoresceinCangiography-associatedadversereactions.CanJOphthal-molC51:321-325,C20162)湯澤美都子,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか:眼底血管造影実施基準委員会.眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌C115:67-75,C20113)MakitaCS,CHongCY,CYamanariCMCetal:OpticalCcoherenceCangiography.OptExpressC14:7821-7840,C20064)deCCastro-AbegerCAH,CdeCCarloCTE,CDukerCJSCetal:COpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCcomparedCtoC.uoresceinangiographyinbranchretinalarteryocclusion.OphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC46:1052-1054,C20155)SuzukiCN,CHiranoCY,CYoshidaCMCetal:MicrovascularCabnormalitiesConCopticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phyinmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmolC161:126-132,C20166)TakaseN,NozakiM,KatoAetal:Enlargementoffovealavascularzoneindiabeticeyesevaluatedbyenfaceopti-calcoherencetomographyangiography.RetinaC35:2377-2383,C2015C7)DingerkusVLS,MunkMR,BrinkmannMPetal:OpticalcoherencetomographyCangiography(OCTA)asCaCnewCdiagnostictoolinuveitis.JOphthalmicIn.ammInfectC9:C10,C20198)OuederniCM,CSassiCH,CChellyCZCetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCidiopathicCretinalCvasculitis,aneurysmsandneuroretinitis(IRVAN)syndrome:acasereport.EurJOphthalmolC32:144-148,C20229)Alba-LineroC,Liscombe-SepulvedaJP,LlorencVetal:CUseCofCultra-wideC.eldCretinalCimagingCandCopticalCcoher-enceCtomographyCangiographyCinCtheCdiagnosisCofCincom-pleteCSusacCsyndrome.CEurCJCOphthalmolC31:3238-3247,C202110)KimuraM,NozakiM,YoshidaYetal:Wide-.eldopticalcoherenceCtomographyCangiographyCusingCextendedC.eldCimagingCtechniqueCtoCevaluateCtheCnonperfusionCareaCinCretinalCveinCocclusion.CClinCOpththalmolC10:1291-1295,C201611)野崎実穂,園田祥三,丸子一郎ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼C71:651-659,C201712)HiranoCT,CHoshiyamaCK,CHirabayashiCKCetal:VitreoretiC-nalCinterfaceCslabCinCOCTCangiographyCforCdetectingCdia-beticCretinalCneovascularization.COphthalmolCRetinaC4:C588-594,C202013)ChapinCJ,CCarlsonCK,CChristosCPJCetal:RiskCfactorsCandCtreatmentCstrategiesCinCpatientsCwithCretinalCvascularCocclusions.ClinApplThrombHemostC21:672-677,C201514)SongCD,CNadelmannCJ,CYuCYCetal:AssociationCofCretinalCvascularCocclusionCwithCwomenC.llingCaCprescriptionCforCfemaleChormoneCtherapy.CJAMACOphthalmolC139:42-48,C202115)JampolLM,IsenbergSJ,GoldbergMF:Occlusiveretinalarteriolitiswithneovascularization.AmJOphthalmolC81:C583-589,C1976C***

ブロルシズマブ硝子体注射後に閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障に至った1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1012.1016,2024cブロルシズマブ硝子体注射後に閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障に至った1例岸愛恵*1根元栄美佳*1河本良輔*1,2大須賀翔*1小林崇俊*1角野晶一*1吉田裕一*1小嶌祥太*1喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2河本眼科クリニックCACaseofNeovascularGlaucomaDuetoOcclusiveRetinalVasculitisafterIntravitrealInjectionofBrolucizumabManaeKishi1),EmikaNemoto1),RyohsukeKohmoto1,2),ShouOosuka1),TakatoshiKobayashi1),AkikazuSumino1),YuichiYoshida1),ShotaKojima1)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)KohmotoEyeClinicC緒言:ブロルシズマブ硝子体内注射後に広範な閉塞性網膜血管炎をきたし血管新生緑内障(NVG)に至った症例を経験したので報告する.症例:78歳,男性,高血圧にて内服加療中.両眼加齢黄斑変性に複数回アフリベルセプト投与後,右眼をブロルシズマブ投与へ切り替えた.投与後C21日目,右眼視力は投与前(0.4)から(0.02)へ低下し,結膜充血と前房内炎症,網膜動脈炎と蛍光眼底造影検査にて広範囲の網膜血管閉塞を認めた.ベタメタゾン点眼,トリアムシノロンCTenon.下注射とプレドニゾロン内服で加療したが約C5カ月後にCNVGを発症した.開放隅角期であったが,ただちに汎網膜光凝固術を施行したがコントロールできず,閉塞隅角となり眼圧C50CmmHgと上昇したため硝子体手術併用CAhmed緑内障バルブ挿入術を施行した.術後視力(0.01),眼圧C7.10CmmHgを推移している.結論:ブロルシズマブによる重篤な網膜血管炎・血管閉塞に血管新生緑内障が続発する可能性があり,慎重な経過観察が必要である.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)duetoocclusiveretinalvasculitisafterintravitrealinjectionCofCbrolucizumab.CCase:AC78-year-oldCmaleChadCbeenCundergoingCtreatmentCviaCintravitrealCinjectionCofCa.iberceptCforCbilateralCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(AMD)forC7Cyears.CHowever,CdueCtoCa.iberceptCbecomingCinsu.cientCforCtheCtreatmentCofCtheCneovascularCAMDCinChisCrightCeye,CitCwasCswitchedCtobrolucizumabinthateye.Twenty-onedayslater,thevisualacuity(VA)inhisrighteyewasfoundtohavedeteri-oratedfrom(0.4)to(0.02).CUponCexamination,CconjunctivalChyperemia,Canterior-chamberCin.ammation,CretinalCarteritis,CandCextensiveCretinalCvascularCocclusionCwereCobservedCinChisCrightCeye.CTreatmentCwithCbetamethasoneCeyedropsandsub-Tenon’sinjectionoftriamcinoloneacetonidewastheninitiated,withoraladministrationofpred-nisoloneCforConeCweekCthereafter.CFiveCmonthsClater,CheCdevelopedCNVG.CPanretinalCphotocoagulationCwasCimmedi-atelyCperformed,CyetCtheCNVGCcouldCnotCbeCcontrolledCandChisCintraocularpressure(IOP)increasedCtoC50CmmHg.CThus,Ahmedglaucomavalveimplantationcombinedwithparsplanavitrectomywasperformed,andVAbecame(0.01)andCIOPCdecreasedCtoC7-10CmmHgCpostCsurgery.CConclusion:AlthoughCrare,CsevereCretinalCvasculitisCandCextensiveCretinalCvascularCocclusionCmayCoccurCandCdevelopCintoCNVGCafterCintravitrealCinjectionCofCbrolucizumab,Csocarefulfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1012.1016,C2024〕Keywords:ブロルシズマブ硝子体内注射,閉塞性網膜血管炎,血管新生緑内障,Ahmed緑内障バルブ挿入術.in-travitrealinjectionofbrolucizumab,occlusiveretinalvasculitis,neovascularglaucoma,Ahmedglaucomavalveim-plantation.C〔別刷請求先〕岸愛恵:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:ManaeKishi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1012(140)ab図1右眼フルオレセイン蛍光所見a:早期(30秒後).腕網膜循環時間の遅延を認めた.b:後期(10分後).網膜血管の広範囲な閉塞を認めた.はじめに滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)治療において,ブロルシズマブは分子量C26CkDaと小さいため高濃度投与が可能となり,従来の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)阻害薬より強い治療効果と長い持続性が期待されている.しかし,副作用として網膜血管炎や網膜血管閉塞など重篤なものを含む眼内炎症(intraocularin.ammation:IOI)が報告されている1).今回,ブロルシズマブ硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofbrolucizumab:IVBr)後に広範囲の閉塞性網膜血管炎をきたし,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に至った症例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:高血圧,高尿酸血症.現病歴:当院でCnAMDに対してCX-7年にアフリベルセプト硝子体内注射(IVBr)とのCprorenata(PRN)投与を開始し,右眼計C12回,左眼計C28回の投与後であった.アフリベルセプトの効果が不十分であったため,X年C8月,右眼はブロルシズマブへ切り替えCIVBrを施行した.注射前視力は(0.4),ブロルシズマブの副作用であるCIOIの予防目的に術翌日よりベタメタゾン点眼を開始した.IVBr後C14日目に右眼の結膜充血を認めたため,IVBr1週間後から自己判断で中断していたベタメタゾン点眼の再開を指示した.IVBr後C21日目に右眼視力低下を自覚し受診した.受診時所見:右眼視力C0.02Cp(n.c.)と低下し,右眼眼圧は24CmmHg(IVBr前C12CmmHg)であった.結膜充血,角膜後面沈着物はなく,前房内に炎症細胞を認めた.眼底検査では右眼の広範な網膜血管炎とそれに伴う網膜出血を認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,網膜内層の高輝度変化を認めた.フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)では右眼の腕網膜循環時間はC30秒と遅延しており,網膜血管の広範囲の閉塞を認めた(図1).経過:右眼CIVBr後のCIOIと診断し,ベタメタゾン点眼を継続し,トリアムシノロンCTenon.下注射(sub-Tenon’sCinjectionCofCtriamcinoloneacetonide:STTA)を行った.前眼部所見は改善傾向を示したが網膜血管炎や網膜閉塞の改善は乏しく,IVBr後C28日目よりプレドニゾロン(predniso-lone:PSL)内服をC30Cmg/日から開始した.その後は改善がみられ,PSL内服は約C1カ月ごとにC5Cmg/日ずつ漸減した.IOI発症から約C5カ月後,右眼視力C0.03(n.c.),右眼眼圧C35mmHgと上昇し,虹彩新生血管を認めたが,結膜充血や前房内炎症細胞は認めなかった.隅角鏡検査では右眼の隅角全周に新生血管,鼻側に小範囲の周辺虹彩前癒着を認めた(図2a).眼底検査では右眼のアーケード内に軟性白斑,広範な網膜出血と血管白線化を認めたが,血管炎は改善傾向であった(図2b).右眼閉塞性網膜血管炎からのCNVGと診断し,開放隅角期であり,ただちに汎網膜光凝固術を施行し,緑内障点眼を追加した.しかし眼圧のコントロールは困難で,約1カ月後に全周閉塞隅角となり右眼眼圧はC50CmmHgとさらに上昇した(図3).そこで,X+1年C3月に右眼硝子体手術併用CAhmed緑内障バルブ挿入術を施行した.網膜光凝固を追加し,チューブは毛様体扁平部より挿入した.術後は炎症ab図2眼内炎症発症から約5カ月後の右眼所見a:隅角所見.隅角の全周に新生血管,鼻側に周辺虹彩前癒着(.)を認めた.Cb:眼底所見.軟性白斑や網膜出血,網膜血管炎後で血管白線化を認めた.図3血管新生緑内障発症から約1カ月後の右眼所見a:隅角所見.周辺虹彩前癒着で隅角は全周閉塞していた.b:眼底所見.汎網膜光凝固術後.が強く,チューブ先端部がフィブリンにより閉塞したため,など重篤なものを含むCIOIを引き起こすことが懸念されてお術後C7日目にベタメタゾン結膜下注射を施行した.術後C14り,今回の症例では広範な閉塞性網膜血管炎から,筆者が文日目にフィブリンは溶解しチューブの閉塞は解除され,右眼献を渉猟した範囲では既報告のない血管新生緑内障にまで至眼圧C7CmmHgと下降が得られた.その後は右眼視力(0.01),った.IOI発症率はアフリベルセプトのC1.1%と比較して,右眼眼圧7.10CmmHgで経過している.HAWKおよびCHARRIER試験ではブロルシズマブはC4.6%CII考按であり,網膜血管炎を伴うものはC3.3%,血管閉塞を伴うものはC2.1%,投与から発症までの期間は平均C18日と報告さブロルシズマブは副作用として網膜血管炎や網膜血管閉塞れている1).HAWK試験には日本も参加しており,わが国のみの結果ではCIOI発症率はC12.9%,網膜血管炎を伴うものはC9.9%,網膜血管閉塞を伴うものはC5.0と,日本人はIOI発症率が2.3倍高い2)とされる一方で,わが国で行われたCJARC試験ではCIOI発症率はC9.4%と高いが,網膜血管炎を伴うものはC3.1%,網膜血管閉塞を伴うものはC1.6%とHAWKおよびCHARRIER試験の全体の発症率と同等とも報告されている3).IOI発症の危険因子として女性,高齢,高血圧,抗CVEGF薬硝子体内注射既往,眼底所見として高血圧性網膜血管変化と網膜下高反射病巣が報告されている4.6).本症例では高齢者,高血圧,抗CVEGF薬注射歴が該当する.IOIの発症機序はいまだ解明されていないが,抗CVEGF注射後に生じる抗薬剤抗体との関連が示唆されている.抗薬剤抗体の検出頻度はラニビズマブやアフリベルセプトでは投与前は各0.0.9%,1.3%,投与後はC4.4.6.3%,1.3%である.一方,ブロルシズマブでは投与前からC36.52%に認められ,投与後はC53.67%であり,従来の抗CVEGF薬に比較し有意に抗体検出率が高い7.9).治療中に誘導あるいは増加する抗薬剤抗体が関与している可能性があり,HARRIER試験においてCIOIは抗ブロルシズマブ抗体が誘導・増強された患者ではC6.2%,そうではない患者ではC1.9%であった.ブロルシズマブは一本鎖抗体フラグメントでありCFc領域を欠くため補体活性ができず,抗体依存性細胞障害を起こすことはないため,遅延型免疫反応が考えられている.これはバンコマイシンの眼内投与後に起こる出血性閉塞性網膜血管炎と同様の機序である10,11).治療はステロイドが基本となり,既報のフローチャートによる推奨治療が参考になる12).前眼部の炎症に対してはステロイド点眼,網膜血管炎や網膜血管閉塞がある場合はステロイドのCTenon.下注射や硝子体内注射,内服が推奨される.網膜血管閉塞をきたしている場合は血管新生のマネジメントも重要となる.網膜血管炎やそれに伴う網膜血管閉塞は,動脈でも静脈でも,中枢側でも周辺部でも起こりうる13).Baumalらによると,閉塞性血管炎をきたした症例の網膜画像を解析したところ,血管障害は網膜動脈C91%,網膜静脈79%,脈絡膜血管C48%であった5).また,Hikichiらにより,IOIの改善に伴い網膜血管の白鞘化が改善したとの報告がある14).網膜血管閉塞のメカニズムの一つとして,炎症による血管収縮,血流速度の低下,血小板凝集の亢進が関与しており,ステロイド投与により消炎されることでこれらが改善し,網膜血管の白鞘化と網膜血管血流が改善したと考按されている.とくに黄斑部の網膜血管閉塞は重篤な視力低下をもたらすため,迅速な治療が重篤な視力低下のリスクを軽減するであろう.今回の症例では,IOI発症時から網膜血管炎により広範囲の網膜血管閉塞を生じておりCNVGに至った.ブロルシズマブ投与時にCSTTAを併用するとCIOIが生じなかったと報告15)があり,投与時にCSTTAを併用しておくべきであったとの反省点がある.IVBr後は閉塞性血管炎など重篤なものを含むCIOI発症に留意し,慎重な経過観察とCIOI発症時には適切な治療選択が重要である.またCIBVrの際には,IOI発症の可能性も説明し,視力低下や飛蚊症などの症状出現時には早期に受診するよう患者指導をすることも必要と考える.本症例は,第C34回日本緑内障学会で発表した.文献1)SingerCM,CAlbiniCTA,CSeresCACetal:ClinicalCcharacteris-ticsCandCoutcomesCofCeyesCwithCintraocularCin.ammationCafterbrolucizumab:postChocCanalysisCofCHAWKCandCHARRIER.OphthalmolRetinaC6:97-108,C20222)IidaCT,CTakahashiCK,CKinfemichaelCGCetal:Sub-popula-tionCanalysisCofCJapaneseCpatientsCfromCbrolucizumabCHAWKstudy.Presentedatthe74thAnnualCongressofJapanClinicalOphthalmology.October15-18,20203)MarukoI,OkadaAA,lidaTetal:Brolucizumab-relatedintraocularCin.ammationCinCJapaneseCpatientsCwithCage-relatedCmaculardegeneration:aCshort-termCmulticenterCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC259:2857-2859,C20214)MukaiCR,CMatsumotoCH,CAkiyamaH:RiskCfactorsCforCemergingintraocularin.ammationafterintravitrealbrolu-cizumabCinjectionCforCage-relatedCmacularCdegeneration.CPLoSOneC16:e0259879,C20215)BaumalCCR,CSpaideCRF,CVajzovicCLCetal:RetinalCvasculi-tisandintraocularin.ammationafterintravitrealinjectionofbrolucizumab.OphthalmologyC127:1345-1359,C20206)SotaniCR,CMatsumiyaCW,CKimCKWCetal:ClinicalCfeaturesCandCassociatedCfactorsCofCintraocularCin.ammationCfollow-ingCintravitrealCbrolucizumabCasCswitchingCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:GraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2359-2366,C20237)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20068)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC119:2537-2548,C20129)BuschM,PfeilJM,DahmckeMetal:Anti-drugantibod-iestobrolucizumabandranibizumabinserumandvitre-ousCofCpatientsCwithCocularCdisease.CActaCOphthalmolC100:903-910,C202210)WitkinCAJ,CShahCAR,CEngstromCRECetal:PostoperativeChemorrhagicCocclusiveCretinalCvasculitis.CExpandingCtheCclinicalCspectrumCandCpossibleCassociationCwithCvancomy-cin.OphthalmologyC122:1438-1451,C201511)WitkinCAJ,CChangCDF,CJumperCJMCetal:Vancomycin-associatedChemorrhagicCocclusiveCretinalvasculitis:clini-calCcharacteristicsCofC36Ceyes.COphthalmologyC124:583-595,C201712)BaumalCR,BodaghiB,SingerMetal:Expertopiniononmanagementofintraocularin.ammation,retinalvasculitis,in.ammationCafterCintravitrealCbrolucizumabCinjectionsCinCandvascularocclusionafterbrolucizumabtreatment.Oph-oneclinic.JpnJOphthalmolC65:208-214,C2021CthalmologyRetinaC5:519-527,C202115)HikichiT:Sub-TenonC’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonide13)WitkinCAJ,CHahnCP,CMurrayCTGCetal:OcclusiveCretinalCinjectionCtoCpreventCbrolucizumab-associatedCintraocularCvasculitisfollowingintravitrealBrolucizumab.JVitreoretinCin.ammation.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC260:CDisC4:269-279,C2020C2529-2535,C202214)HikichiT:ThreeCJapaneseCcasesCofCintraocular***