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悪性緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術が奏効した1症例

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1319.1321,2020c悪性緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術が奏効した1症例中西美穂中島圭一井上俊洋熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座CACaseofMalignantGlaucomaSuccessfullyTreatedwithMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationMihoNakanishi,Kei-IchiNakashimaandToshihiroInoueCDepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversityC症例:94歳,女性.近医にて左眼閉塞隅角症に対し水晶体再建術を施行した.左眼術前眼圧はC38CmmHgであり,術翌日,浅前房は残存するが左眼眼圧はC17CmmHgへと下降した.術後C2日目から眼圧C34CmmHgと上昇し,降圧点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始したが,眼圧上昇が持続した.悪性緑内障が疑われ,Nd:YAGレーザーにて後.および前部硝子体膜切開を行ったが,眼圧下降を認めず熊本大学病院紹介となった.受診時(水晶体再建術C6日),著明な浅前房と高眼圧を認めており,悪性緑内障と診断した.高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったために硝子体手術を含む観血的加療を希望されなかった.そのため,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)を施行した.左眼術前眼圧C28CmmHg,術翌日,1週後,3週後の眼圧はそれぞれC23CmmHg,10CmmHg,6CmmHgと下降を認めた.前房深度についてはCMP-CPC施行C3週後に改善を認めた.結論:悪性緑内障に対して従来の治療方法が困難な場合,MP-CPCが有効である可能性が示された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofmalignantCglaucoma(MG)postCcataractCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedwithmicropulsetransscleralcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)C.Casereport:Thisstudyinvolveda94-year-oldwomanCwhoCunderwentCcataractCsurgeryCforCprimaryCangleCclosureCinCtheCleftCeye.CTheCpreoperativeCIOPCwasC38CmmHg,yetitdecreasedto17CmmHgat1-daypostoperative.However,at2-dayspostoperative,itincreasedto34CmmHg.ShewasdiagnosedasMG,andunderwentincisionoftheposteriorcapsuleandanteriorvitreousmem-braneCwithCaNd:YAGClaser.CHowever,CtheCtreatmentCwasCine.ective.CSinceCsheCwasCelderlyCandCsu.eringCfromCdementia,shewastreatedwithMP-TSCPCinsteadofvitrectomy.TheIOPat1-daypreand1-day,1-week,and3-weeksCpostoperativeCwasC28CmmHg,C23CmmHg,C10CmmHg,CandC6CmmHg,Crespectively,CandCtheCanteriorCchamberCbecamedeepat3-weekspostsurgery.Conclusion:MP-TSCPCcanbeane.ectivetreatmentforMGwhencon-ventionaltreatmentscannotbeperformed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1319.1321,C2020〕Keywords:悪性緑内障,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術,水晶体再建術,続発緑内障,閉塞隅角症.malig-nantglaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,cataractsurgery,secondaryglaucoma,primaryangleclosure.Cはじめに悪性緑内障は極端な浅前房と高眼圧をきたす重篤な続発緑内障であり,1869年にCVonCGraefeにより従来の治療法が奏効しないことからその名が付けられた1).Simmonsらは悪性緑内障に対する初期治療は薬物療法であると報告している2).悪性緑内障に対する薬物療法としては,アトロピン,交感神経Cb受容体遮断薬の点眼,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼あるいは内服,高張浸透圧薬の点滴である.薬物療法に奏効しない場合は,Nd:YAGレーザーによる前部硝子体膜の切開,経強膜毛様体光凝固術,硝子体切除術を行う3).経強〔別刷請求先〕中西美穂:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座Reprintrequests:MihoNakanishi,DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,1-1-1Honjo,Chuo-ku,Kumamoto860-8556,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(143)C1319図1前眼部OCT検査結果a:右眼.やや浅前房であり,有水晶体眼であった.Cb:左眼マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)施行前.眼内レンズが前方移動し,浅前房であった.周辺は虹彩と角膜が接触していた.Cc:左眼CMP-CPC施行C3週間後の左前眼部COCT検査結果.左前房の著明な深化を認めた.膜毛様体光凝固術はC1930年代から悪性緑内障のような難治緑内障に対し用いられてきたが,疼痛,前房出血,視力低下,低眼圧,眼球癆などの副作用から,他の治療法が有効な場合には敬遠されてきた4).しかし,近年用いられているマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtranss-cleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は,ON/OFFサイクルを繰り返すことで周囲組織の熱凝固を抑え,効率よく凝固することでそれらの副作用を抑えることができると報告されているが5),悪性緑内障に使用した報告はない.今回,閉塞隅角緑内障に対する水晶体再建術後に生じた悪性緑内障に対し,MP-CPCが奏効した症例を経験したので報告する.CI症例患者:94歳,女性.現病歴:近医にて左眼閉塞隅角症に対し水晶体再建術を施行され問題なく終了した.左眼術前眼圧はC38CmmHgであり,術翌日に浅前房は残存するものの左眼眼圧はC17CmmHgに下降した.術後C2日目から左眼眼圧はC34CmmHgと上昇し,降圧点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始したが,眼圧下降が得られなかった.悪性緑内障が疑われ,Nd:YAGレーザーにて後.および前部硝子体膜切開を行ったが,眼圧下降を認めず,水晶体再建術C6日後に当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(矯正不能),左眼C0.06C×IOL(0.7C×IOL×sph.6.00D(cyl.2.5DAx100°).眼圧は右眼10CmmHg,左眼C20CmmHg.右眼はやや浅前房で有水晶体眼であった(図1a).左眼は眼内レンズが前方移動し,浅前房であった.周辺は虹彩と角膜が接触していた(図1b).眼底は両眼ともに視神経乳頭拡大や網膜神経線維層厚の菲薄化などの緑内障性変化を認めなかった.眼軸長は右眼がC20.75mm,左眼がC20.95Cmmであり,両眼とも短眼軸であった.経過:初診時左眼圧が前医よりも下降傾向であったことと,左中心前房深度が典型的な悪性緑内障の状態よりは深くなっていることから,病状が改善傾向である可能性を考え,外来で経過観察の方針となった.初診時よりC10日後,左眼圧C27CmmHgと高値を認めたため,手術加療を勧めたが,高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったため,硝子体手術を含む観血的手術は希望されなかった.そのため,MP-CPCを施行した.左眼CMP-CPC術前眼圧はC28CmmHgであったが,術翌日,1週後,3週後の眼圧はそれぞれC23mmHg,10CmmHg,6CmmHgと下降を認めた.左眼前房深度はCMP-CPC施行C3週後に著明な深化を認めた(図1c).MP-CPC施行C3カ月後の左眼矯正視力はC0.5,眼圧はC9CmmHgで,前房深度は保たれていた.CII考按悪性緑内障の平均発症年齢はC70歳で,男女比はC3:11とされている6).閉塞隅角緑内障眼の術後にC2.4%の頻度で発症し,手術既往なく発症することもある7).また,アジア人に多いとされているが,その原因は眼軸が短く,前房が浅い傾向にあるためと推測されている8).今回の症例では両眼ともに短眼軸であり,高齢の女性であったことから,悪性緑内障のリスクを有していた可能性がある.悪性緑内障の機序は明確にはわかっていないが,房水異常流入が考えられてきた.房水異常流入では毛様体から前部硝子体,水晶体,眼内レンズにかけて房水流出が阻害され,房水が前房ではなく,硝子体腔に流入することにより硝子体圧が上昇し,浅前房と高眼圧を引き起こすと考えられている9).また,白内障手術中は急激な眼圧下降により毛様体が前方回旋し,毛様体扁平部と硝子体が離れることにより房水異常流入が生じるという報告もある10).その他の機序としては,術中,術後の低眼圧が脈絡膜.離を引き起こし,それにより前1320あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(144)房が浅くなるとの報告もある11).悪性緑内障の初期治療は薬物療法であるとCSimmonsらは報告している2).薬物療法には,毛様体筋を弛緩させ,lens-irisdiaphragmを後方回転させる毛様体麻痺薬の点眼,房水産生を抑制するための房水産生抑制薬の点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の内服,硝子体を収縮させるための高張浸透圧薬の点滴などがある3).Luntzらはかつて悪性緑内障のC50%は薬物療法をC5日間継続し治癒したと報告している12).薬物療法で効果がない場合は,白内障術後であればCNd:YAGレーザーによる後.,前部硝子体膜の切開,それでも治癒しない場合は硝子体切除術を行い,段階的に治療することで効果がより期待できるとCVarmaらは報告している13).今回の症例では薬物療法およびCNd:YAGレーザーによる後.,前部硝子体膜切開を行うも治癒しなかったために硝子体切除術の適応があったと考えられるが,前述のように高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったためにCMP-CPCを施行した.従来型の経強膜毛様体光凝固術は,これまでも悪性緑内障に対し選択されてきた治療法である.Daveらは,悪性緑内障C28眼のうち,4眼は薬物療法,7眼の眼内レンズ挿入眼はCYAGレーザー,4眼は硝子体切除術,12眼は経強膜毛様体光凝固術で治癒したと報告している.彼らは,経強膜毛様体光凝固術の奏効機序として,毛様体突起の凝固壊死と収縮が毛様体と硝子体の境界面を変化させ,この変化が房水産生の抑制だけでなく,房水流出の促進と毛様体の後方回転に寄与しているのではないかと考察している3).今回筆者らが使用したCMP-CPCでは,従来型の経強膜毛様体光凝固術とは異なり,マイクロパルス秒でレーザー照射のCON/OFFを繰り返すことで周囲組織の熱凝固を抑えることができるのではないかと推測されている4).ONサイクルでは,マイクロ秒で繰り返されるレーザー照射が色素上皮に吸収され,色素上皮の熱エネルギーが上昇することで熱凝固を引き起こすが,無色素上皮では熱エネルギーを吸収しづらく,OFFサイクルでのクーリングタイムを得られるために凝固されることがないと報告されている14).MP-CPCの眼圧下降の作用機序の詳細は解明されておらず,作用機序解明のためにリアルタイムビデオを用いてレーザー照射中の房水流出路の観察が行われた研究も報告されている(JohnstoneCMACetCal,CARVOCAnnualCMeeting2019).それによると,強膜厚の変化,毛様体筋の収縮による脈絡膜上腔の拡大,線維柱帯の内方,後方回転によるCSchlemm管の拡大が観察されている.また,毛様体無色素上皮への傷害は認めなかった.そのため,MP-CPCの眼圧下降機序は房水産生抑制よりも房水流出促進の影響が大きいと思われる.今回の症例では,従来の経強膜毛様体光凝固術の作用機序である房水産生抑制による前房と後房の圧格差の解消に加え,毛様体筋の収縮および毛様体皺襞部の後方回転により房水異常流入が解除(145)されたため,前房が深くなり,房水流出が促進されたことにより眼圧が下がったと推測される.悪性緑内障は比較的まれな疾患ではあるが,発症リスクを理解したうえでの的確な診断,および段階的な治療を施すことにより視機能を保てる可能性が高くなる.薬物療法およびNd:YAGレーザーによる後.・前部硝子体膜切開が奏効せず,観血的手術困難な悪性緑内障に対して,MP-CPCが有効である可能性が示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vonGraefeA:BeltragezurPathologieundTherapiedesGlaucomas.ArchivfurOphthalmologieC15:108-252,C18692)SimmonsCRJ,CBelcherCCD,CDallowRL:PrimaryCangle-clo-sureCglaucoma.In:DuaneC’sCClinicalOphthalmology(Tas-manCW,CJaegerCEA,eds.)C.CVolC3,CPhiladelphia,CLippincott,Cp23-31,C19853)DaveCP,CSenthilCS,CRaoCHLCetal:TreatmentCoutcomesCinCmalignantglaucoma.OphthalmologyC120:984-990,C20134)NdulueCJK,CRahmatnejadCK,CSanvicenteC:EvolutionCofCcyclophotocoagulation.CJCOphthalmicCVisCResC13:55-61,C20185)AbdelrahmanAM,ElSayedYM:Micropulseversuscon-tinuouswavetransscleralcyclophotocoagulationinrefrac-torypediatricglaucoma.JGlaucomaC27:900-905,C20186)TropeCGE,CPavlinCCJ,CBauCACetal:MalignantCglaucoma.CClinicalCandCultrasoundCbiomicroscopicCfeatures.COphthal-mologyC101:1030-1035,C19947)SchwartzCAL,CAndersonDR:C“MalignantCGlaucoma”inCanCeyeCwithCnoCantecedentCoperationCorCmiotics.CArchCOphthalmolC93:379-381,C19758)ShenCCJ,CChenYY,CSheuSJ:TreatmentCcourseCofCrecur-rentmalignantglaucomamonitoringbyultrasoundbiomi-croscopy:aCreportCofCtwoCcases.CKaohsiungCJCMedCSciC24:608-613,C20089)KaplowitzK,YungE,FlynnRetal:CurrentconceptsintheCtreatmentCofCvitreousCblock,CalsoCknownCasCaqueousCmisdirection.SurvOphthalmolC60:229-241,C201510)MuqitMK:MalignantCglaucomaCafterCphacoemulsi.ca-tion:treatmentCwithCdiodeClaserCcyclophotocoagulation.CJCataractRefractSurgC33:130-132,C200711)QuigleyHA,FriedmanDS,CongdonNG:Possiblemecha-nismsofprimaryangle-closureandmalignantglaucoma.JGlaucomaC12:167-180,C200312)LuntzMH,RosenblattM:Malignantglaucoma.SurvOph-thalmolC32:73-93,C198713)VarmaDK,BelovayGW,TamDYetal:Malignantglau-comaaftercataractsurgery.JCataractRefractSurgC40:C1843-1849,C201414)KucharS,MosterMR,ReamerCBetal:Treatmentout-comesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCadvancedglaucoma.LasersMedSciC31:393-396,C2016あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1321