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緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(127)10310910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(7):10311034,2008cはじめに小切開で行う超音波水晶体乳化吸引術と折りたたみ式眼内レンズ(PEA+IOL)の普及で白内障手術の安全性は飛躍的に高まった.このことを背景として,開放隅角緑内障に対しても白内障手術が積極的に行われるようになっている.緑内障手術既往のない症例では白内障術後に眼圧は下降し,緑内障点眼薬数も減少すると報告されることが多い14).一方で線維柱帯切除術の既往のある症例ではさまざまな報告がなされており,眼圧コントロール不良になることがある5,6),長期的にみても眼圧に悪影響を及ぼさない7,8)など意見が一致しない.そこで今回,開放隅角緑内障眼にPEA+IOLを行ったときの眼圧および併用緑内障点眼薬数の変動を調べ,線維柱帯切除術既往が及ぼす影響について検討した.I対象および方法2004年11月から2007年6月に広島大学病院眼科にて白内障手術を施行した原発開放隅角緑内障患者34例34眼(男性22例,女性12例)を対象とし,別に白内障以外に眼疾患〔別刷請求先〕原田陽介:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:YosukeHarada,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響原田陽介*1望月英毅*2高松倫也*2木内良明*2*1県立広島病院眼科*2広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EectonIntraocularPressureafterPhacoemulsicationinGlaucomatousEyesYosukeHarada1),HidekiMochizuki2),MichiyaTakamatsu2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,HiroshimaPrefecturalHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity緑内障眼に対する白内障術後早期の眼圧について手術既往のない開放隅角緑内障22眼と線維柱帯切除術を受けている12眼で手術前および術後2カ月の時点での眼圧,点眼薬数について検討した.眼圧は手術既往のない群では術前14.37±3.01mmHgから術後13.22±3.45mmHgへ,線維柱帯切除術既往群では12.61±2.86mmHgから11.41±2.64mmHgへ低下した.緑内障点眼数は手術既往のないものでは1.66±1.01剤から1.00±0.94剤へ,線維柱帯切除術既往群は1.08±1.51剤から0.33±0.15剤へとともに術前に比べて減少した.しかし,線維柱帯切除術を受けている症例では1例が術後眼圧コントロール不良に,1例が濾過胞の機能不全となり,線維柱帯切除術や濾過胞再建術を施行されている.緑内障眼に白内障手術を行った場合,手術既往のない緑内障眼では術後眼圧は下降する傾向を認めたが,濾過胞を有する症例には細心の注意が必要である.Cataractsurgerywasperformedon34eyeswithopen-angleglaucoma,comprising22eyeswithnohistoryofsurgery(phaco-onlygroup)and12eyesthathadundergonelteringsurgery(trabeculectomygroup).Preopera-tiveintraocularpressure(IOP)was14.37±3.01mmHginthephaco-onlygroupand12.61±2.86mmHginthetra-beculectomygroup,whichdecreasedto13.22±3.45mmHgand11.41±2.64mmHgintwomonthsaftersurgery,respectively.Meannumberoftopicalmedicationsalsodecreased,from1.66±1.01to1.00±0.94inthephaco-onlygroupandfrom1.08±1.51to0.33±0.15inthetrabeculectomygroup.However,2outof12eyesinthetrabeculec-tomygroupunderwentadditionallteringsurgeryaftercataractsurgeryduetolossofIOPcontrolorreducedblebfunction.Theseresultsindicatethatineyeswithoutpreviouslteringsurgery,cataractsurgeryisbenecialforIOPcontrol,butthatinsomeeyeswithpreviouslteringsurgeryitmayjeopardizetheeect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10311034,2008〕Keywords:白内障手術,開放隅角緑内障,術後眼圧,線維柱帯切除術,一過性眼圧上昇.cataractsurgery,open-angleglaucoma,postoperativeintraocularpressure(IOP),trabeculectomy,transientIOPelevation.———————————————————————-Page21032あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(128)±2.90mmHg(p=0.014)といずれの群においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(表1).一過性眼圧上昇の有無を検討したところ,対照群では32眼中1眼のみであったのに対し,緑内障眼では手術既往のないものは22眼中7眼,線維柱帯切除術既往のあるものは12眼中5眼とともに対照群と比較して有意に一過性眼圧上昇をきたしやすいことが明らかになった(手術既往なし:p=0.004,線維柱帯切除術既往:p=0.001)(図1).緑内障眼においては一過性眼圧上昇の有無で年齢,術前眼圧,術前併用点眼薬数,術前MD値について検討したが,手術既往の有無にかかわらずこれらの因子との間には明らかな相関関係は指摘できなかった.2.併用緑内障点眼薬数の変化手術既往のない群では術前は平均1.66±1.01剤であった併用点眼薬数は術後2カ月の時点で1.00±0.94剤と有意に減少していた(p=0.014).一方,線維柱帯切除術既往のある症例では術前1.08±1.51剤が術後2カ月で0.33±0.15剤と減少傾向があるものの有意差はなかった(p=0.109)(表2).3.緑内障再手術が必要になった症例線維柱帯切除術の既往がある12眼のうち2眼は濾過手術が追加された.緑内障再手術に至る経緯としては,1眼では術前眼圧16mmHgから術後1日より30mmHgを超える眼圧上昇が続き,濾過胞の機能不全もきたしたため白内障手術後4日目に線維柱帯切除術を施行した.もう1眼は術後の急激な眼圧上昇はなかったが,術後1カ月より濾過胞機能不全となり,その後も改善が認められなかったため,白内障術後のない32例32眼の成績と比較した.緑内障患者において両眼白内障手術を施行された症例については,視野障害の進行した眼側を対象とした.症例の内訳は,手術既往のないものが22眼,線維柱帯切除術の既往があり,濾過胞のあるものが12眼である.対象には正常眼圧緑内障4眼(手術既往なし3眼,線維柱帯切除既往あり1眼)も含まれている.手術既往のない症例では強角膜切開で,濾過胞を有する症例では耳側角膜切開で白内障手術を行い折りたたみレンズを内に挿入した.全例とも白内障手術は問題なく行われ,術中に後破損,硝子体脱出などの合併症を生じた症例は対象から除外した.線維柱帯切除術は全例鼻上側または耳上側で施行している.各症例の手術前後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.術前眼圧は手術前の別の日に測定した2回の眼圧の平均とし,術後は術翌日から退院時までと術後1カ月,2カ月の眼圧を調べた.また,術後退院までに眼圧が30mmHg以上になったとき,術前と比べて5mmHg以上の眼圧が上昇したときを術後一過性眼圧上昇と定義し,緑内障群と対照群でその頻度を比較した.緑内障群では一過性眼圧上昇をきたした症例に共通の特徴があるか調べるために年齢,術前眼圧,術前点眼薬数,術前MD(平均偏差)値について検討した.結果は平均±標準偏差で表記し,術前後の眼圧変化はpaired-t検定,点眼数の変化はWilcoxonsigned-rankedtestを用い,p<0.05を有意差ありとした.緑内障群と対照群における術後一過性眼圧上昇をきたす頻度の比較はMann-WhitneyUtestを用い,Bonferroniの補正を行って,p<0.025を有意差ありとした.II結果1.眼圧の経過白内障手術前眼圧は緑内障手術の既往のない緑内障眼22眼では14.37±3.01mmHgであり,線維柱帯切除術を受けている12眼では12.61±2.86mmHgであった.白内障以外に眼疾患のない対照群の術前平均眼圧は14.23±3.17mmHgであった.白内障手術後2カ月の時点の眼圧は緑内障手術既往のないものは13.22±3.45mmHg(p=0.040),線維柱帯切除術の既往症例は11.41±2.64mmHg(p=0.031),対照群では12.47表1術前後の眼圧変化n術前眼圧(Mean±SDmmHg)術後眼圧(2カ月)(Mean±SDmmHg)対照群3214.23±3.1712.51±2.90(p=0.002)手術既往なし2214.37±3.0113.22±3.45(p=0.040)TLE既往1212.61±2.8611.41±2.64(p=0.031)手術既往なし:手術既往のない緑内障眼,TLE既往:線維柱帯切除術既往のある緑内障眼.(Pairedt-test)表2術前後の緑内障点眼薬数の変化術前,剤数(Mean±SD)術後(2カ月),剤数(Mean±SD)手術既往なし1.66±1.011.00±0.94(p=0.014)TLE既往1.08±1.510.33±0.15(p=0.109)Wilcoxonsingle-ranktest.図1術後早期における一過性眼圧上昇TLE既往(眼)Mann-WhitneyUtest手術既往なし対照群———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081033(129)の眼圧上昇は術後1カ月の時点で全例改善しているのに対し,手術既往のある1症例は術後早期の眼圧上昇が持続したため緑内障再手術に至っている.白内障術後の眼圧上昇のピークは術後46時間後に起こるとの報告もあり13),術後当日に眼圧測定し早期の対応ができるようにするなど注意が必要である.以上より,緑内障眼に対して白内障手術を行った症例を検討した結果,手術既往のない群では術後早期の一過性眼圧上昇はきたしやすいものの,術後2カ月の時点では点眼数が減少した状態で術前に比べ眼圧下降が得られた.一方,線維柱帯切除術既往例では手術既往のない群と同様に眼圧下降効果は認めるも,症例数は少ないが2/12の確率で術後に眼圧コントロール不良,濾過胞機能不全による緑内障再手術が必要となっている.したがって,患者へリスクの説明を十分行い,手術中には水晶体残渣や粘弾性物質を取り除くべく前房灌流を十分行い,術後は眼圧変動,濾過胞の状態に注意することが必要と考える.文献1)MonicaLM,ZimmermanTJ,McMahanLB:Implantationofposteriorchamberlensesinglaucomapatients.AnnOphthalmol109:9-10,19852)PohjalainenT,VestiE,UnsitaloRetal:Phacoemulsica-tionandintraocularlensimplantationineyeswithopen-angleglaucoma.ActaOphthalmolScand79:313-316,20013)尾島知成,田辺昌代,板谷正紀ほか:白内障単独手術を施行した原発性開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,偽落屑緑内障の術後経過.臨眼59:1993-1997,20054)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発性開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19965)CassonR,RahmanR,SalmonJF:Phacoemulsicationwithintraocularlensimplantationaftertrabeculectomy.JGlaucoma11:429-433,20026)EhrnroothP,LehtoI,PuskaPetal:Phacoemulsicationintrabecutomizedeyes.ActaOphthalmolScand83:561-565,20057)ParkHJ,KwonYH,WeitzmanMetal:Temporalcornealphacoemulsicationinpatientswithlteredglaucoma.4カ月で濾過胞再建術を行った(表3).III考按今回筆者らは開放隅角緑内障眼に白内障手術を行った後の眼圧および緑内障点眼薬数の変化について検討した.その結果,線維柱帯切除術の既往のない群では,白内障術後2カ月の時点では術前と比べて眼圧は下降し,必要とされる緑内障点眼薬数も減少して,過去の報告14)と矛盾しないものであった.眼圧が下降する機序としては,①手術による房水産生量の低下,②血液房水関門の変化,③手術操作による線維柱帯からの房水排泄効率の上昇,④白内障手術により前房が深くなるためなどの仮説がある912)が詳細は不明である.線維柱帯切除術既往のある群では,眼圧は手術既往のないものと同様に下降していた.しかし点眼数については,減少効果はあるものの有意差はなかった.これは症例数が限られていたことも要因となっているであろう.手術既往群では12眼中2眼で緑内障再手術が必要となっていることは注目に値する.手術既往のある症例に対する白内障手術の眼圧への影響は1年以上経過を追っている文献でも,眼圧上昇傾向を示すもの5)もあれば逆に眼圧に悪影響を及ぼさないとの報告7,8)もあり意見は分かれている.白内障手術後1年間経過観察したParkらの報告によると,白内障術後3カ月以降は術前眼圧とほぼ同等になっているが,白内障術後1カ月までは眼圧は変動し術前に比べ高眼圧の傾向にある7).われわれもひき続き長期的に眼圧の変動を観察し過去の報告との比較検討が必要である.しかし,白内障手術により血液房水関門が破綻し,炎症メディエーターが前房中に放出されることで,強膜弁の瘢痕形成と周辺結膜の癒着が起こり,濾過胞の機能不全に陥る可能性は十分考えられる.したがって,手術既往のある症例に対する白内障手術は術後早期に緑内障再手術の危険性を伴うことを念頭に置く必要がある.術後の一過性眼圧上昇は対照群に比べ,手術既往の有無にかかわらず,緑内障眼で高頻度に起こった.術後の一過性眼圧上昇をきたす機序としては,①血液房水関門の破綻,②線維柱帯の浮腫や屈曲による流出障害,③水晶体残渣による流出抵抗の増大,④房水蛋白の増加,⑤粘弾性物質の残留などが考えられている13).また,手術既往のない緑内障群ではこ表3術後眼圧上昇をきたした2例過去の緑内障手術の回数術前眼圧(mmHg)一過性眼圧上昇経過症例1(77歳,男性)2線維柱帯切除術1濾過胞再建116+眼圧上昇のため術後4日目に線維柱帯切除術施行症例2(80歳,女性)1線維柱帯切除術114.7眼圧上昇,濾過胞限局化のため術後4カ月で濾過胞再建施行———————————————————————-Page41034あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008ArchOphthalmol115:1375-1380,19978)MietzH,AndersenA,WelsandtGetal:Eectofcata-ractsurgeryonintraocularpressureineyeswithprevi-oustrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol239:763-769,20019)BiggerJF,BeckerB:Cataractsandprimaryopen-angleglaucoma:theeectofuncomplicatedcataractextractiononglaucomacontrol.TransAmAcadOphthalmolOtolar-yngol75:260-272,197110)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Evtracapsularcata-ractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198711)MeyreMA,SavittML,KopitasE:Theeectofphaco-emulsicationonaqueousoutowfacility.Ophthalology104:1221-1227,199712)SteuhlKP,MarahrensP,FrohnCetal:Intraocularpres-sureandanteriorchamberdepthbeforeandafterextra-capsurecataractextractionwithposteriorchamberlensimplantation.OphthalmicSurg23:233-237,199213)大西健夫,小池昇,浅野徹ほか:白内障術後24時間における瞳孔径・眼圧・角膜乱視の経時的変化.あたらしい眼科10:835-839,1993(130)***

初回手術と同一部位から行うトラベクロトミー再手術の試み

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(127)8770910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):877880,2008cはじめにトラベクロトミーは,原発開放隅角緑内障や落屑緑内障などの開放隅角緑内障に対して選択される1).よく奏効しているトラベクレクトミーの術後眼圧に比べると,トラベクロトミー単独の術後眼圧は高いため,進行した緑内障眼に対してはトラベクレクトミーがより効果的であると考えられる.しかしながら,トラベクレクトミーは術後に濾過胞が形成されるので,濾過胞からの房水漏出や術後感染などの合併症に留意しながら経過観察を行わなければならない.とりわけ下方の結膜からトラベクレクトミーを行うと上方から行った場合よりも術後感染の発生頻度が高いため,上方から行うことが望ましい.トラベクロトミー,トラベクレクトミーのいずれの術式でも,術後期間が長くなるにつれて眼圧コントロールが不良となる症例の割合は増加してゆく.したがって患者の余命を考慮して緑内障治療を考えるとき,初回手術としては下方からトラベクロトミー,追加手術としては初回手術とは反対側で下方の部位からトラベクロトミーを行い,上方結膜は将来トラベクレクトミーが必要となった場合のために温存しておく考え方が提唱されている24).これをさらに進めて,下方から行った初回のトラベクロトミーと同一部位を使って再度トラベクロトミーを行うことが有効であれば,将来トラベクレ〔別刷請求先〕岡田守生:〒710-8602倉敷市美和1-1-1倉敷中央病院眼科Reprintrequests:MorioOkada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital,1-1-1Miwa,Kurashiki710-8602,JAPAN初回手術と同一部位から行うトラベクロトミー再手術の試み岡田守生王英泰高山弘平内田璞倉敷中央病院眼科PilotStudyofRepeatedTrabeculotomyatSiteofPreviousSurgeryMorioOkada,HideyasuOh,KouheiTakayamaandSunaoUchidaDepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital初回手術と同一部位からのトラベクロトミー(以下,LOTと略す)再手術の有効性を調べた.対象は,初回手術(全例で耳下側からLOTと白内障手術の同時手術を施行)で眼圧下降を得た後に年余を経て眼圧再上昇をきたした開放隅角緑内障症例3眼である.再手術までの期間は4年から6年で,再手術決定時の眼圧は35mmHg(眼圧下降薬点眼4剤と炭酸脱水酵素阻害薬内服),22mmHg(点眼3剤),18mmHg(点眼4剤と炭酸脱水酵素阻害薬内服)であった.再手術は,全例にLOT+シヌソトミー+Schlemm管内壁の内皮網除去を施行し,全例で両側のSchlemm管内壁を開放できた.全例で術後一時的に25mmHgを超える高眼圧となったが,保存的治療で眼圧は下降した.それぞれの症例の再手術後の眼圧はおのおの21mmHg,19mmHg,17mmHgであった.初回手術と同一部位から行うLOT再手術は有効である可能性がある.Theeectofrepeatedtrabeculotomyatthesiteoftheprevioussurgerywasstudiedin3patientswithopen-angleglaucomawhohadundergonecombinedtrabeculotomyandcataractsurgeryandwhoshowedintraocularpressure(IOP)increaseafter4to6yearsdespitemaximalmedicaltreatment,includingperoraladministrationofcarbonicanhydraseinhibitor.Wesuccessfullyperformedtrabeculotomyandsinusotomywithpeelingofthebroticliningfromthejuxtacanaliculartrabecularmeshworkinalleyes.Afterre-operation,anIOPspikewasnotedinalleyes;respectiveIOPthendecreasedfrom35mmHgto21mmHg,from22mmHgto19mmHgandfrom18mmHgto17mmHg.Thisstudysuggestsapossiblehypotensiveeectofrepeatedtrabeculotomyatthesiteoftheprevi-oussurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):877880,2008〕Keywords:開放隅角緑内障,緑内障手術,トラベクロトミー,再手術.open-angleglaucoma,glaucomasurgery,trabeculotomy,re-operation.———————————————————————-Page2878あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(128)(点眼2剤使用),症例3:25mmHg(点眼3剤使用)であった.初回手術の術式は,全例で耳下側からトラベクロトミー(症例3ではシヌソトミーを併用)を行い,同じ部位で白内障超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った.全例で両側のSchlemm管内壁の切開に成功し,bloodreuxを確認した.初回手術後の眼圧は,症例1:15mmHg以下(点眼3剤使用),症例2:1619mmHg(点眼3剤使用),症例3:12mmHg(点眼2剤使用)であった.その後年余を経て眼圧が再上昇したために再手術となったが,再手術までの期間は,症例1:4年,症例2:6年,症例3:6年であった.再手術前の眼圧は,症例1:35mmHg(点眼3剤を使用し,さらに炭酸脱水酵素阻害薬内服),症例2:1722mmHg(3剤使用),症例3:18mmHg(3剤使用し,さらに炭酸脱水酵素阻害薬内服)であった.再手術前の視野は,湖崎分類で,症クトミーを選択する際に用いる上方結膜を温存できる.今回,初回手術としてトラベクロトミーを耳下側から行い眼圧下降を得た後に年余を経て眼圧が再上昇した症例に,初回手術と同一部位からトラベクロトミーを行い眼圧下降を得たので報告する.I対象および方法対象は,初回手術が当科で合併症なく施行され眼圧下降を得た後,年余を経て眼圧再上昇をきたした開放隅角緑内障3眼〔原発開放隅角緑内障(POAG)1眼,落屑緑内障(PE)2眼〕で,いずれも2006年に当科で再手術を行った.症例1は63歳,女性でPE,症例2は80歳,女性でPOAG,症例3は75歳,男性でPEである.おのおのの初回手術前の眼圧は,症例1:28mmHg(眼圧降下薬点眼3剤使用)(以下,「眼圧降下薬点眼」を「点眼」と略す),症例2:21mmHg図1初回手術創初回手術部の結膜を離し,強膜創を露出.図2Schlemm管の同定Schlemm管内壁を露出.図4Bloodreuxトラベクロトームを回転しSchlemm管内壁を切開した.両側のbloodreuxを認める.図3内皮網除去トラベクロトームを挿入後,線維柱帯内皮網を除去.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008879(129)眼圧はやや上昇傾向を認め,症例1:21mmHg(術後10カ月,点眼3剤),症例2:19mmHg(術後8カ月,点眼2剤),症例3:17mmHg(術後6カ月,点眼2剤)であった.図5に,初回手術から再手術後間での眼圧の経過を示す.III考按トラベクロトミー施行眼の再手術に際しては,初回手術以外の部位からトラベクロトミーを行うか,あるいは上方の結膜からトラベクレクトミーを行うことが通常である.特にトラベクロトミーを再手術として行う場合は,上方を避け下方から行うことによって,将来必要となるかもしれないトラベクレクトミーのための上方結膜を温存することができる.同様に,上方結膜を温存する意味で初回にトラベクロトミーを行った部位と同一部位で再度トラベクロトミーを行うことができ,それが有効であればさらに有利であろうと考えられる.トラベクロトミーの効果が次第に減じてゆく原因としては,Schlemm管内壁の切開部の再閉鎖が考えられるが,これまで再手術の部位として前回と同一部位を用いた報告はない.これは,初回手術の部位の瘢痕を離し手術部を露出することの困難さと,一旦手術した部位のSchlemm管の働きが失われているのではないかという危惧が原因であろう.今回の症例では初回手術の際にトラベクロトミーに加え一部ではシヌソトミーを併用していたが,全例で初回手術部を露出でき両側のSchlemm管内壁を初回と同様に切開することができた.再手術の際でもトラベクロトームを回転してSchlemm管内壁を切開したときには,初回手術と同様にSchlemm管内壁からの抵抗が感じられたことから,初回手術の内壁切開創は再閉鎖していたのではないかと考えられ,これが眼圧再上昇の原因と推察された.Schlemm管内壁切開によって隅角からbloodreuxを認めたことにより,同部が房水静脈との交通を維持していることが示され,Schlemm管の機能が残っていることが示唆された.術後高眼圧が全例に起こったが,いずれも眼圧下降薬点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行い,術後59日で眼圧下降を得た.トラベクロトミーと同時にシヌソトミーを,さらには内皮網除去を併用すると,術後一過性眼圧上昇が少ないことが報告されている510).今回はシヌソトミーと内皮網除去の両方を行ったにもかかわらず全例で術後一過性の高眼圧をきたした.これは前房出血が比較的多かったことが原因と推測されるが,出血が多い理由は不明である.幸い術後に視野狭窄が進行した例はなかったが,本法を行う際には術後眼圧上昇の可能性に留意しておく必要があると思われる.術後の一時的な高眼圧の時期を過ぎた後の眼圧経過をみると,全例で再手術前の眼圧より低下しており手術の効果が認められた.シヌソトミーを併用すると,若干の房水が結膜下例1:Ⅲb,症例2:Ⅲa,症例3:Ⅲaであった.再手術前の手術眼の隅角は,全例でテント状周辺虹彩前癒着が散在するも,おおむね開放隅角を保っていた.再手術の術式は,全例で初回手術の術創を再び用いてトラベクロトミーを行い,シヌソトミーとSchlemm管内壁の内皮網除去を併用した.まず,円蓋部基底の結膜切開を施行し結膜癒着を離した(図1).ついで初回手術の強膜弁を離してゆくと初回手術時に露出したSchlemm管内壁が確認できた(図2).同部を用いてSchlemm管にトラベクロトームを挿入した.ついで内皮網除去を施行した後(図3),トラベクロトームを前房に向かって回転させてSchlemm管内壁の切開を行った(図4).強膜弁は10-0ナイロン5糸にて縫合するとともに,シヌソトミーを行った.手術後当日は手術部が上になるように側臥位安静とした.II結果全例で両側のSchlemm管内壁の切開に成功し,両側の切開部からのbloodreuxを認めた.同じく全例でSchlemm管内壁の内皮網除去とシヌソトミーを施行できた.トラベクロトームを回転しSchlemm管内壁を切開する際には,初回手術時に経験するようなSchlemm管内壁の抵抗を感じた.術翌日には全例にやや多目の前房出血を認め,25mmHg以上(症例1:25mmHg,症例2:40mmHg,症例3:30mmHg)の一時的な眼圧上昇が起こったが,保存的治療(眼圧降下薬点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服)で59日後には20mmHg以下となった.術後,シヌソトミー部の結膜に軽度の濾過胞を認めたが,速やかに吸収され濾過胞が残存したものはなかった.その他の合併症として1例で前房出血が硝子体腔へ回り硝子体出血となったが,自然吸収された.再手術後の眼圧は,症例1:16mmHg(術後3カ月,点眼2剤),症例2:16mmHg(術後4カ月,点眼2剤),症例3:15mmHg(術後2カ月,点眼2剤)であった.その後の図5手術前後の眼圧経過初回手術および再手術後に眼圧が下降している.4035302520151050眼圧(mmHg)初回手術前初回手術後再手術前再手術後2~4カ月再手術後6~10カ月:症例1:症例2:症例3———————————————————————-Page4880あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(130)は適応があると考えられる.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleectoftrabeculotomyabexternoinadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndorome.ArchOphthalmol111:1653-1661,19932)黒田真一郎:緑内診療のトラブルシューティングVI.手術治療1.トラベクロトミー1)初回は上からか下からか.眼科診療プラクティス98:150,20033)南部裕之,尾辻剛,桑原敦子ほか:下方から行ったトラベクロトミー+サイヌソトミーの術後成績.眼科手術15:389-391,20024)桑円満喜,南部裕之,安藤彰ほか:下方から行ったトラベクロトミー+シヌソトミーの術後3年の成績.眼臨99:684,20055)熊谷映治,寺内博夫,永田誠:TrabeculotomyとSinuso-tomy併用後の眼圧.臨眼46:1007-1011,19926)谷口典子,岡田守生,松村美代ほか:トラベクロトミー,シヌソトミー併用手術の効果と問題点.眼科手術7:673-676,19947)南部博之,岡田守生,西田明弘ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独手術の術後成績.眼科手術8:153-156,19958)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独手術との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19969)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:トラベクロトミー術後の一過性高眼圧に対する内皮網除去の効果.あたらしい眼科20:685-687,200310)富田直樹,徳山洪一:サイヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期成績.眼科手術18:425-429,200511)塩田伸子,岡田丈,稲見達也ほか:内皮網除去を併用したトラベクロトミーの手術成績.あたらしい眼科22:1693-1696,200512)伊藤正臣,中野匡,高橋現一郎ほか:非穿孔性線維柱帯切除術およびサイヌソトミーを併用した線維柱帯切開術の術後4年後の成績.眼科手術17:557-562,200413)小寺由里子,林寿子,田村和寛ほか:線維柱帯切開術に併用した深部強膜切除術の変法に術後短期経過.臨眼59:1561-1565,2005に流れて軽度の濾過胞を形成することがあるが,これは速やかに消失する.今回の症例でも軽度の濾過胞は速やかに消失したので,房水濾過の要素が眼圧下降に作用しているとは考えられない.再手術後,短期の眼圧は初回手術後の眼圧にほぼ匹敵することから,再手術の効果は短期的には初回手術とほぼ同程度ではないかと思われた.トラベクロトミーにシヌソトミーあるいは内皮網除去を併用すると,濾過胞の形成を認めないにもかかわらず,トラベクロトミー単独手術より術後眼圧が低く保たれることが報告されている413).今回はシヌソトミーと内皮網除去を施行しているが,術後眼圧はいずれも16mmHgを超えており,ロトミー単独手術の術後眼圧に近い印象がある.また,術後6カ月を越えたころから次第に眼圧上昇傾向を示している.これらの現象は,同一部位から行う方法の限界を示すものかもしれない.今回の症例では再手術時の強膜弁離で困難を感じることはなく,初回手術創を切開し脈絡膜が透けて見える程度の深さで強膜弁離を開始すると,途中で自然と前回手術の深さでの強膜弁が離してきた.トラベクロトームの挿入が困難であった例はなかったが,トラベクロトームをSchlemm管に挿入する際の一般的な注意としてSchlemm管内壁を破らないように,Schlemm管断端にトラベクロトームの先端をわずかに挿入したら,トラベクロトームを離して持針器などでそっとトラベクロトームの尻をつつくようにして挿入した.もし早期に前房に穿孔した場合は,持針器でトラベクロトームの案内側のアーム(挿入しないほうのアーム)を持ち,先端部をSchlemm管に挿入したら,持針器で持ったままトラベクロトームの挿入側のアームをSchlemm管外壁に押し付けるような感じで挿入すると成功することがある.症例数が少なく経過観察期間も短いが,本法は初回手術あるいは別の部位から行うトラベクロトミー再手術に準ずる眼圧下降効果があった.再手術としてトラベクロトミーが適応となる症例,特にトラベクレクトミーを行う部位を残しておきたいが,すでに複数回の手術を行っており同一部位からトラベクロトミーを行わざるをえない症例などに対して,本法***