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Vogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPD の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):389.394,2023cVogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPDの1例大久保麻希坂本万寿夫岩橋千春日下俊次近畿大学医学部眼科学教室CACaseofMTX-LPDwithOcularManifestationsSimilartoVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseMakiOkubo,MasuoSakamoto,ChiharuIwahashiandShunjiKusakaCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineC目的:Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似の眼病変で発症したメトトレキサート(MTX)関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)の症例を報告する.症例:68歳,男性.両眼視力低下と眼瞼腫脹を自覚し眼科受診,初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.2),両眼結膜浮腫,前房内炎症,脈絡膜肥厚,右眼漿液性網膜.離を認めた.同時期より間欠性の発熱や頸部リンパ節腫脹などがみられたこと,血清CsIL-2R36,478CU/ml,前房水CIL-10/IL-6>1より,リンパ腫病変を疑い頸部リンパ節生検を施行した.びまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫であり,また,3年前に発症した関節リウマチに対してC3カ月前よりCMTXの内服が開始されていたことより,MTX-LPDと診断した.MTX休薬を行うも全身症状が悪化したため,初診C2週間後よりCR-CHOP療法を施行,治療開始C4週間後には両眼とも視力(0.9)となり,眼炎症所見は速やかに改善した.しかし,4カ月後に中枢神経病変を認め,R-MPV療法を施行するも中枢神経病変増悪のため発症C7カ月後に死亡した.経過中,眼所見の再発はみられなかった.結論:MTX-LPDに原田病類似の眼所見を伴う可能性がある.CPurpose:Toreportapatientwithmethotrexate(MTX)-associatedlymphoproliferativedisorders(MTX-LPD)CwhoCpresentedCwithCocularCmanifestationsCsimilarCtoVogt-Koyanagi-Harada(VKH)disease.CCasereport:A68-year-oldmanpresentedwiththeprimarycomplaintofbilateralblurredvisionandswellingoftheeyelids.Anophthalmicexaminationshowedconjunctivaledemaandchoroidalthickeninginbotheyes,aswellasaserousreti-naldetachmentintherighteye,whichmatchedthesymptomsofVKH.Intermittentfeverandcervicallymphade-nopathy,CsymptomsCofCsystemicCinvolvement,CwereCobserved,CandCaCcervicalClymphCnodesCbiopsyCrevealedCdi.useClargeB-celllymphoma.HewasdiagnosedwithMTX-LPDbasedonhishistoryoforalMTXuse.MTXdiscontinu-ationwasine.ective,soR-CHOPtherapywasadministered.Fourweeksaftertreatmentinitiation,theocularmani-festationsimprovedrapidlyandtheconcentrationofinterleukin-10intheanteriorchamberwasnormalized.How-ever,CtheCpatientCdiedC7CmonthsCafterCtreatmentCdueCtoCtheCexacerbationCofCaCcentralCnervousCsystemClesion.CConclusion:MTX-LPDmaybeaccompaniedbyVKH-likeocularmanifestations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):389.394,C2023〕Keywords:MTX-LPD,関節リウマチ,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,眼内リンパ腫.methotrexate-associatedlymphoproliferativedisorders,rheumatoidarthritis,serousretinaldetachment,choroidalthickening,intraocularClymphoma.Cはじめにメトトレキサート(methotrexate:MTX)は葉酸代謝拮抗作用を有し抗腫瘍薬として悪性リンパ腫や急性白血病などに用いられる薬剤である.一方でCMTXは低用量で免疫抑制薬として自己免疫疾患にしばしば用いられており,とくに関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に対し,日本では2000年頃より治療の第一選択薬として使用されている.1991年,Ellemanら1)によりCMTX投与中のリンパ腫発症が報告され,同様な症例の報告数増加に伴いメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associatedClymphop-〔別刷請求先〕大久保麻希:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakiOkubo,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-higashi,Osakasayama,Osaka589-8511,JAPANC図1治療前後の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T2W画像)a:初診時右眼前眼部写真.耳側を中心に著明な結膜浮腫を認める.b:治療開始C4週間後の右眼前眼部写真.結膜浮腫は改善している.c:治療前の頭部CMRI.両眼眼球周囲,眼窩に軟部影(.),右眼の漿液性網膜.離を認める(▲).d:治療開始C5カ月後の頭部MRI.眼球周囲,眼窩の軟部影は消失している.roliferativedisorders:MTX-LPD)として疾患概念が確立された.2008年の世界保健機関(WorldCHealthCOrganiza-tion:WHO)によるリンパ系腫瘍の組織分類第C4版では「他の医原性免疫不全症関連増殖性疾患」の一つに分類されている2).MTX-LPDの多くはCRA患者であり,原因は明らかではないものの欧米よりわが国からの報告が多い.病理組織像はびまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫(di.useClargeCB-celllymphoma:DLBCL)がC35.60%,Hodgkinリンパ腫がC12.25%とされる3).60%の症例で節外病変を生じ,肺,骨髄,消化管・皮膚の順に多く4),近年は中枢神経系(centralner-voussystem:CNS)病変の報告が散見される5).一方,筆者らの知る限りでは眼科領域におけるCMTX-LPDは眼窩6)および眼内7)に発症した症例がC1例ずつであり,いずれも全身所見を伴わず眼単独病変である.今回,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似病変で眼症状を発症し,同時に間欠性の発熱や体重減少などリンパ腫に伴う全身症状も出現したMTX-LPDの症例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.3年前にCRAと診断され,プレドニゾロン2.5Cmg/日とサラゾスルファピリジンC1Cg/日で加療されていたが,RAのコントロール不良のため1年前のC12月よりCMTX8Cmg/週を追加されていた.翌年C3月より両眼の視力低下と眼瞼腫脹を自覚,近医眼科で右眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)と両眼脈絡膜肥厚を認めたため,原田病疑いでC4月に近畿大学病院眼科を紹介受診となった.初診時矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.2),眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C7CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両眼の結膜浮腫,前房内炎症C1+,角膜後面沈着物を認めた(図1a).眼底検査で右眼のCSRDを認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼の脈絡e図2初診時眼底写真および治療前後のOCT所見a,b:初診時広角眼底写真(Ca:右眼,b:左眼).硝子体混濁や網膜下腫瘤性病変は認めない.c,d:初診時黄斑部水平断のCOCT(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離を認める.Ce,f:治療開始C4週間後の黄斑部水平断のCOCT(Ce:右眼,f:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離が改善している.膜肥厚がみられた(図2a~d).網膜下の腫瘤性病変や硝子体混濁はみられなかった.急性期原田病にみられる頭痛,頭髪の違和感,耳鳴り,難聴はみられなかったが,全身症状としてC3月頃より間欠性の発熱,体重減少,4月以降には頸部リンパ節腫脹とそれに伴う食事摂取困難を伴っていた.血液検査で白血球数C5,950/μl,血色素量C12.2g/dl,血小板数137,000/μl,CRP6.941Cmg/dl,乳酸脱水素酵素(LDH)989U/l,可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)36,478CU/ml,フェリチンC1,550Cng/dl,EBV-DNA定量C3.18ClogIU/mlであった.全身状態不良のため,蛍光造影検査や眼病巣の生検は困難であったが,前房内のCIL-10,およびCIL-6の測定を行ったところ,IL-10:440Cpg/ml,IL-6:386Cpg/mlであり,眼内リンパ腫を疑う結果であった.血液内科の診察では悪性リンパ腫のCB症状である間欠性の発熱や体重減少がみられたこと,sIL-2RおよびCLDHの異常高値などの所見より悪性リンパ腫が疑われた.頸部および胸腹部CCTで多発する頸部リンパ節腫大(図3a),頭部CMRIでは眼窩周囲に軟部影を認めたがCCNS病変はみられなかった(図1c).頸部リンパ節生検を施行し,大型のリンパ球様の腫瘍細胞のびまん性増殖を認めた.免疫染色で,Bリンパ球表面抗原(CD20)陽性,多数のCKi-67陽性細胞を認めたことから,組織型はびまん性大細胞型(DLBCL)と判断された(図3c,d).MTX投与の既往や病理検査結果からCMTX-LPDと診断された.初診時よりCMTXを休薬していたものの,全身状態図3頸部リンパ節の病理組織検査およびCNS病変a:初診時頸部CCT.リンパ節腫大を複数認める(.).b:治療C7カ月後の頭部CMRI.左前頭部の病変(〇)による脳室圧迫がみられる.c:頸部リンパ節生検.HE染色(×200).大型のリンパ球様腫瘍細胞のびまん性増殖を認める.d:頸部リンパ節生検.CD20染色(×200).CD20陽性細胞を多数認める.の悪化とCsIL-2RがC43,023CU/mlまで上昇したため,初診日よりC2週間後から全身化学療法としてCR-CHOP(リツキシマブ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法を開始した.治療開始C4週間後に視力は右眼(0.9),左眼(0.9)まで改善し,結膜浮腫は消失し(図1b),OCTで両眼の脈絡膜肥厚や右眼のCSRDの改善がみられた(図2e,f).R-CHOP療法をC4クール施行し,治療開始C3カ月後には全身のリンパ節腫脹は縮小,sIL-2Rも579CU/mlまで低下した.しかし,4カ月後のCMRIでCCNS病変が出現しCR-MPV(リツキシマブ,メトトレキサート,オンコビン,プロカルバジン)療法を開始した.5カ月後診察時は両眼(1.0),眼窩軟部影の再燃,SRDおよび脈絡膜肥厚は認めず(図1d),前房水CIL-10:20Cpg/mlと眼病変再燃はみられなかった.しかし,治療開始C6カ月以降にCCNS病変の拡大により脳室圧迫が進行(図3b),CNS病変に対する放射線治療が追加されるも意識障害の出現と全身状態の急激な悪化のため治療開始C7カ月後に死亡した.CII考察本症例はCRAに対するCMTX導入C3カ月後に全身病変とともに原田病類似の眼病変が同時期に出現した患者であった.本症例では初診時の全身状態が不良のため硝子体生検や結膜生検が施行できず細胞診による眼疾患の診断は不可能であったが,前房水CIL-10/IL-6比がC1を超えていたこと,化学療法により早期に眼内病変および結膜病変も改善したこと,前房水中のCIL-10濃度が正常化したことから眼症状もCMTX-LPDに伴うものと考えられた.また,過去のCMTX-LPDに伴う眼病変では全身病変と合併した報告はなく,本症例は,MTX-LPDの全身病変と眼病変を同時期に発症したまれな一例と考えられる.MTX-LPDの発症年齢中央値はC65.70歳,RAの罹病期間中央値はC10年以上,MTXの服用期間中央値はC5.10年とされているが,本症例のようにCMTX内服開始後数カ月で発症することもあり8),MTX服用期間にかかわらずCRAに対しCMTX服用中の患者では常にCMTX-LPDの発症リスクを考え,疑わしい場合には本症例のようにリンパ節生検を行い確定診断することが重要である.本症例の眼病変は脈絡膜肥厚とCSRDを伴っており原田病が鑑別疾患としてあげられる.全身状態として発熱や倦怠感があったものの,原田病に特徴的な頭痛,難聴,皮膚症状はみられず,化学療法中もプレドニゾロンの増量なく眼病変は改善しており,症状や経過から原田病とは一致しないと考えられた.プレドニゾロンの投与歴やCOCT所見からは中心性漿液性網脈絡膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)の可能性も考えられるが,結膜浮腫や前房内炎症の眼随伴所見が一致せず,化学療法で脈絡膜肥厚も含め眼病変が改善していることからCCSCも否定的と考えられた.眼科領域におけるCMTX-LPDの報告は少ないが,本症例は頸部リンパ節の生検の結果,DLBCLであったことから,DLBCLが約C95%を占める眼内リンパ腫(intraocularClym-phoma:IOL)と類似した病態であることが予想される.IOLでみられる所見は硝子体混濁(91%)や網膜下の腫瘤性病変(57%)が多く,虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%),網膜血管炎(10%)など多彩であるが9),原田病に類似したCSRDや脈絡膜肥厚を伴う症例はCFukutsuらの報告を含む数例のみである10).Soneら7)は硝子体混濁が主体とするMTX-LPDの眼内病変に対して硝子体手術とCMTX休薬で軽快した症例を報告しており,MTX-LPDにおいてもさまざまな眼所見や経過を呈する可能性がある.IOLでみられるSRDや脈絡膜肥厚のメカニズムは明らかではないが,Chanら11)はCIOL眼の脈絡膜生検の結果として網膜と網膜下に悪性リンパ腫細胞,脈絡膜にはCT細胞が存在すること,このT細胞は腫瘍細胞に対する免疫反応を反映し,T細胞の増加が脈絡膜間質の面積の増加に寄与していると考えられることを報告している.一方,リンパ腫細胞の脈絡膜浸潤の可能性も否定されておらず,Fukutsuら10)はCIOLにおいても腫瘍細胞による脈絡膜肥厚と循環障害がCSRD出現に関与していると推測している.以上のことから本症例においても脈絡膜における炎症性細胞もしくはリンパ腫細胞の急激な浸潤による脈絡膜肥厚と脈絡膜循環障害によりCSRDが生じた可能性が考えられる.MTX-LPDの機序は不明な点も多いが,RAなどの自己免疫疾患による慢性炎症やCMTXの投与によるリンパ増殖抑制機能低下がCLPD発症に関与すると考えられている.また,EBVの関与も指摘されており,MTX投与による免疫抑制がCEBVを再活性化することでリンパ増殖をきたすとされ,MTX-LPD患者のC60%がCEBV陽性である12).MTX-LPDを疑った場合は,MTXを休薬することで約C2/3の患者で病変は自然退縮するが,自然退縮が得られなかった症例では化学療法が行われる.徳平ら13)はCDLBCL群では非退縮率が高い傾向にあり,またCMTX-LPD発症時のCCRP,LDH,sIL-2Rが高い群(平均値CCRP5.6Cmg/dl,LDH403.5CIU/l,CsIL-2R3,100CU/ml)では非退縮例が多いと報告している.本症例ではCMTXを休薬するも全身状態悪化とCsIL-2Rのさらなる上昇がみられたため化学療法を行った.化学療法により眼内病変や結膜病変はC1カ月以内に消失し視力の改善も得られたが,4カ月後にCCNS病変が出現し,7カ月後にCCNS病変増悪のため死亡した.EBV陽性であったことからMTX-LPDの発症リスクを有し,また組織型のCDLBCLと初診時のCCRP,LDH,sIL-2Rの値が大幅に非退縮群の平均値を上回っていたことから予後不良群であったと考えられる.IOLではC16%の症例で眼病変の診断時にCCNS病変の既往があり,眼病変の診断時にはCCNS病変を伴わない症例においても,経過中にCCNS病変を発症する症例も多く,眼病変とCCNS病変は前後して発症することが多い9).同様に眼病変を伴うCMTX-LPDではCCNS病変を後に発症する可能性があるため,経過観察中CCNS病変の出現に注意する必要があると考えられる.今回筆者らは,MTX服用中に原田病類似の眼病変および全身のリンパ腫病変を生じたC1例を経験した.MTXを休薬するも改善なく,化学療法で眼病変は改善したものの半年後に発症したCCNS病変により不幸な転帰をたどった.MTX-LPDでは原田病類似の眼病変を合併する可能性があり,MTX服用中のCRA患者で原田病に似た病変を呈する患者では,MTX-LPDを鑑別疾患にあげる必要があると考えられた.利益相反:日下俊次[F]参天製薬千寿製薬文献1)EllmanCMH,CHurwitzCH,CThomasCCCetal:LymphomaCdevelopingCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCtakingClowCdoseCweeklyCmethotrexate.CJCRheumatolC18:1741-1743,C19912)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,4thedition,volume2,IRAC,2008C3)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,revised4thedition,Volume2,IRAC,20174)TokuhiraM,SaitoS,OkuyamaAetal:Clinicopathologicinvestigationofmethotrexate-inducedlymphoproliferativedisorders,CwithCaCfocusConCregression.CLeukCLymphomaC59:1143-1152,C20185)UnedaCA,CHirashitaCK,CKandaCTCetal:PrimaryCcentralCnervousCsystemCmethotrexate-associatedClymphoprolifera-tivedisorderinapatientwithrheumatoidarthritis:casereportandReviewofLiterature.NMCCaseRepJC7:121-127,C20206)KobayashiCY,CKimuraCK,CFujitsuCYCetal:Methotrexate-associatedorbitallymphoproliferativedisorderinapatientwithCrheumatoidarthritis:aCcaseCreport.CJpnCJCOphthal-molC60:212-218,C20167)SoneK,UsuiY,FujiiKetal:Primaryintraocularmetho-trexate-relatedClymphoproliferativeCdisorderCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCundergoingClong-termCmetho-trexateCtherapy.COculCImmunolCIn.ammC29:456-459,C2021C8)BurgCMR,CSchneiderSW:EarlyConsetCofCmethotrexate-associatedClymphoproliferativeCdisorderCmimickingCHodg-kin’slymphoma.HautarztC73:71-74,C20229)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoCHCetal:ClinicalCfeaturesCandCdiagnosticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C201210)FukutsuCK,CNambaCK,CIwataCDCetal:Pseudo-in.am-matoryCmanifestationsCofCchoroidalClymphomaCresemblingCVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmultimodalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C202011)ChanCC:MolecularCpathologyCofCprimaryCintraocularClymphoma.CTransCAmCOphthalmolCSocC101:275-292,C200312)IchikawaCA,CArakawaCF,CKiyasuCJCetal:Methotrexate/CiatrogenicClymphoproliferativeCdisordersCinCrheumatoidarthritis:histology,CEpstein-BarrCvirus,CandCclonalityCareCimportantCpredictorsCofCdiseaseCprogressionCandCregres-sion.EurJHaematolC91:20-28,C201313)徳平道英,木崎昌弘:臨床的視点から理解するメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患.臨床血液C60:932-943,C2019C***

CTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例

2020年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科37(5):636.639,2020cCTLA4Igのパラドキシカルリアクションが疑われた強膜炎の2症例大石典子*1,2武田彩佳*1,3堀純子*1,3*1日本医科大学眼科学教室*2日本医科大学千葉北総病院眼科*3日本医科大学多摩永山病院眼科CTwoCasesofScleritisInducedasaParadoxicalReactiontoCTLA4IgNorikoOishi1,2),AyakaTakeda1,3)andJunkoHori1,3)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChiba-HokusoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolTama-NagayamaHospitalC背景:近年,生物学的製剤の投与によるパラドキシカルリアクションが報告されている.今回,関節リウマチ(RA)に対してCCTLA4Igを導入され,パラドキシカルリアクションとして強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したので報告する.症例:症例C1はC64歳,女性.RAに対しアバタセプト(ABT)を導入したC3カ月後に左眼周辺部角膜浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し,眼瞼炎,続発緑内障を合併した.ABTは投与継続とし,ステロイド眼局所治療で強膜炎は消炎した.症例C2はC76歳,女性.RAに対しCABT投与歴があり,右眼びまん性強膜炎を発症し遷延化したため,内科から重症感染症のリスクが低いCABTが再度選択された.ABT導入後C1週間で強膜炎は増悪し黄斑浮腫も併発しC10週後も改善せず,ゴリムマブへ変更後C1カ月で速やかに鎮静化した.考察:RA患者に対するCCTLA4Ig投与はパラドキシカルリアクションとして強膜炎を発症することがあり,強膜炎の鎮静化にはステロイド治療の追加やCTNF-a阻害薬への変更が有用であった.CPurpose:Multipleparadoxicalreactionstobiologicalagentshavebeenidenti.ed,includingincasesofoculardisease.CHereCweCreportC2CcasesCofCscleritisCinducedCbyCCTLA4Ig.CCasereport:CaseC1CinvolvedCaC64-year-oldCfemalepatienthadbeenreceivingabataceptforrheumatoidarthritis.After3months,shedevelopeddi.usescleri-tisCwithCperipheralCcornealCin.ltration,Cblepharitis,CandCsecondaryCglaucoma.CTopicalCsteroidsCwereCadministered,CandCtheCsymptomsCresolved.CSheCcurrentlyCcontinuesCtoCreceiveCabatacept.CCaseC2CinvolvedCaC76-year-oldCfemaleCpatientCwhoCdevelopedCpneumocystisCpneumoniaCassociatedCwithCabatacept.CAbataceptCwasCsuspended,CandCsheCdevelopedCdi.useCscleritis.CAbataceptCwasCre-administered,CbutCtheCscleritisCworsenedCandCwasCaccompaniedCbyCmacularCedema.CAfterCswitchingCfromCabataceptCtoCgolimumab,CherCscleritisCandCmacularCedemaCcompletelyCresolved.Conclusion:Scleritis,asaparadoxicalreaction,canbeinducedbyCTLA4Ig.Scleritisresolvedfollowingadministrationofsteroidtherapyorswitchingthebiologictreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(5):636.639,C2020〕Keywords:強膜炎,パラドキシカルリアクション,生物学的製剤,アバタセプト,CTLA4Ig,関節リウマチ.scleritis,paradoxicalreaction,biologicalproducts,abatacept,CTLA4Ig,rheumatoidarthritis(RA).Cはじめに近年,炎症性疾患の治療薬としての生物学的製剤の開発はめざましく,多様な炎症性サイトカインや細胞表面分子の機能調節をする製剤が臨床応用されている.しかし一方で,生物学的製剤が炎症を誘発するパラドキシカルリアクション(paradoxicalreaction:逆説的反応)とよばれる現象が,副反応として報告されるようになった1).生物学的製剤を投与された患者に,パラドキシカルリアクションによる眼炎症が誘発された報告も散見される2).関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は強膜炎に随伴する疾患としてもっとも頻度が高いが,今回,眼炎症疾患の既往のないCRA患者にCTLAIg製剤であるアバタセプト(ABT)がCRA治療目的で〔別刷請求先〕大石典子:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:NorikoOishi,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusoHospital,1715Kamagari,Inzai,Chiba270-1694,JAPANC636(134)abcd図1症例1の左眼前眼部所見と眼窩MRI像関節リウマチに対するアバタセプト導入C3カ月後に角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎を発症し(Ca),眼窩CMRI(T2脂肪抑制CSTIR)で左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(Cb.).強膜炎はステロイド点眼薬と免疫抑制薬点眼およびセレコキシブ内服では消退せず(Cc),トリアムシノロンアセトニド結膜下注射により消炎した(Cd).導入され,パラドキシカルリアクションによる強膜炎の発症が疑われたC2症例を経験したため報告する.CI症例〔症例1〕64歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛,左眼瞼腫脹.既往歴:RA.現病歴:59歳でCRAと診断され,近医内科でメソトレキサート(MTX)内服下でCRAはC4年間寛解状態であった.その後CRAの全身症状が再燃したため,プレドニゾロン(PSL)5Cmg,タクロリムス(Tac)1Cmgを投与されたが軽快せず,当院リウマチ内科に紹介されCABTを導入された.ABT導入のC3カ月後に左眼の充血と疼痛,眼瞼腫脹を自覚し近医眼科を受診し,左眼の強膜ぶどう膜炎,眼瞼炎,続発緑内障の診断でC201X年C1月C23日に日本医科大学眼炎症外来(以下,当科)に紹介された.なお,今回まで眼炎症疾患の既往はなかった.初診時所見:矯正視力は右眼C0.6(0.9C×sph.1.75D(cylC.1.75DAx80°),左眼C0.4(0.6C×sph+2.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C21mmHg,左眼C26mmHgであった.左眼瞼腫脹と,左眼の角膜周辺部浸潤を伴うびまん性強膜炎(図1a),前房内炎症細胞(セル)1+を認めた.右眼の前眼部には異常所見は認めなかった.両眼ともCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底図2症例2の右眼前眼部所見関節リウマチに対するアバタセプト(ABT)投与歴がありプレドニゾロンとタクロリムス内服中に強膜炎を発症した(Ca).ステロイド点眼と免疫抑制薬点眼,セレコキシブ内服,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射のC6カ月後も強膜炎症は遷延した(Cb).ABT再投与のC1週間後に強膜炎は増悪し(Cc),10週間後にCABTをゴリムマブに変更したところC1カ月で消炎した(Cd).A.Dのそれぞれ上段は右眼上方,下段は右眼鼻側.に異常を認めなかった.初診時の眼窩CMRI(T2脂肪抑制STIR)像で,左眼瞼と眼球壁に一致した高輝度を認めた(図1b).経過:リウマチ内科からのCABTは継続したままで,ベタメタゾンC0.1%点眼左眼C6回,免疫抑制薬点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服,眼圧下降薬点眼(ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩,ブリモニジン酒石酸塩)を追加したところ,1週後には眼瞼腫脹は消退し,眼圧は正常値(16/20CmmHg)になったが,強膜炎は消炎しなかった(図1c).そのため,トリアムシノロンアセトニド結膜下注射を施行したところ,そのC1カ月後には消炎した(図1d).2カ月後には左眼矯正視力は(1.2C×sph+2.00D(cyl.2.75DAx90°)まで改善を認めた.〔症例2〕76歳,女性.主訴:右眼の充血と疼痛.既往歴:RA,2型糖尿病(HbA1c7.5%,リナグリプチン5Cmg1日C1回内服にて加療中).現病歴:67歳でCRAと診断され,近医内科でCPSLとCMTXの内服併用で加療されていた.一時関節炎のコントロール不良時にCABT導入されたがニューモシスチス肺炎を発症したため中止し,当院リウマチ内科に紹介されCPSL4CmgとCTac2Cmg内服中に右眼の充血と疼痛を自覚し,201X年C3月C22日に当科に紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(0.8C×sph+0.50D(cyl.1.50CDAx70°),左眼(0.9C×sph+1.75D(cyl.1.75DAx100°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C12CmmHgであった.両眼に強膜血管の拡張と怒張,強い充血を認め,びまん性強膜炎の所見を呈した(図2a).角膜浸潤や前房内炎症は認めなかった.両眼にCEmery-Little分類C2の加齢性白内障は認めたが,硝子体混濁は認めず,眼底に異常を認めなかった.経過:ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C4回とCTac0.1%点眼C5回,セレコキシブC200Cmg内服により,8週後には左眼の強膜炎は消退したが,右眼は消炎せず,トリアムシノロンアセトニドC0.1Cml結膜下注射施行後も約C6カ月強膜炎は遷延化した(図2b).そのためリウマチ内科にCTNFCa阻害薬の導入を依頼したが,肺炎の既往があり重症感染症リスクがCTNFa阻害薬よりも低い薬剤選択が望ましいという理由でABTが投与された.ところが,ABT導入後C1週で右眼の強膜炎は増悪し(図2c)黄斑浮腫も併発した.その後も改善を認めず,ABT導入C10週後にリウマチ内科でCABTをゴリムマブ(GLM)に変更したところC1カ月で強膜炎は速やかに消炎した(図2d).CII考按RAは,早期に集中した治療を行うことが寛解や炎症活動性の低下に結びつくとして,従来の抗リウマチ薬(disease-modifyingCantirheumaticdrugs:DMARDs)無効例に対し,生物学的製剤(biologicaldrugs)の導入が推奨されている.現在わが国では,ABTを含むC7種類の生物学的製剤が承認され臨床的に使用されている3).ABTは,CTLA4CIg4)すなわち,CTLA4分子の細胞外ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のCFc領域からなる可溶性融合蛋白である.CTLA4は免疫チェックポイント分子の一つであり,CTLA4IgはCD80/86に結合することで,CD80/86のCT細胞表面レセプターであるCCD28を介したCT細胞の活性化を阻害する4).わが国でも欧米に続き,関節リウマチ治療薬として承認され,有効性および安全性が報告されている5).生物学的製剤は,単一のサイトカインや細胞表面分子を阻害して抗炎症効果を発揮するが,逆に炎症を誘発する現象が起きることがあり,これをパラドキシカルリアクションとよぶ1).代表的なものとして,TNFCa阻害薬による乾癬の発生がよく知られるが,パラドキシカルリアクションの臨床症状は多彩であり,皮膚症状,炎症性腸疾患,ぶどう膜炎や強膜炎,サルコイドーシス,血管炎,その他の自己免疫性疾患などの発生が報告されている1).眼科領域では,TNFCa阻害薬のエタネルセプトがパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎を誘発することが広く知られているが2),眼炎症疾患に対する高い治療効果が知られるインフリキシマブとアダリムマブによるパラドキシカルリアクションとして眼炎症疾患の発症や増悪が起きた報告もまれではあるが存在する6).パラドキシカルリアクションを生じる生物学的製剤は,TNFCa阻害薬の他にも,IL-12/23p40抗体であるウステキヌマブ,CD20抗体であるリツキシマブ,IL-6抗体であるトシリズマブ,ABTなど多種が報告されている1).ABTによるパラドキシカルリアクションは乾癬様皮疹の発生の報告が多く,その機序として,T細胞サブセットのCTh1細胞の活性化を抑制するCCTLA-4Igは,むしろCTh17を活性化させ,Th17細胞が炎症病態の中心的役割をもつ乾癬が誘発されると考えられている7).わが国では,眼科領域の疾患に対して,ABTの保険適応はなく,欧米でも眼炎症疾患に対するその治療効果については明らかではない8).また,ABTによるパラドキシカルリアクションとしてぶどう膜炎や強膜炎が発症した報告も筆者らが検索した範囲ではなく,本論文が最初の症例報告である.実験的ぶどう膜炎においてはCCTLA4Igは網膜炎の抑制効果をもつことが示されている9).しかし,その一方で,ぶどう膜炎と強膜炎の病態にCTh17が関与することは報告されており10),前述したCCTLA4Igによる乾癬発症の機序7)から推察すれば,CTLA4IgによりCTh1の炎症は抑制されても,一方でCTh17が誘導され,Th17による強膜炎が誘発された可能性がある.今回経験したCCTLA4Ig投与後に発症した強膜炎のC2症例のうち,症例C1は眼局所ステロイド治療で強膜炎および眼瞼炎症は改善した.しかし,症例C2は眼局所ステロイド治療後も強膜炎が遷延化したため,生物学的製剤をCABTからCTNFa阻害薬であるCGLMに切り替えたところ,強膜炎は速やかに消退した.眼炎症疾患の原因として薬剤のパラドキシカルリアクションが疑われた場合は,薬剤の切り替えが有用である.とくにCGLMは眼炎症を誘発した報告はなく,他剤のパラドキシカルリアクションを疑う場合に,切り替え候補薬として念頭に置く必要がある.また,今回のC2症例においては皮膚症状や炎症性腸疾患などの眼科領域以外のパラドキシカルリアクションの症状は認めなかった.最後に,生物学的製剤の開発と臨床応用の進歩はめざましいものがあり,RAや炎症性腸疾患をはじめとする難治性炎症疾患の治療予後が向上しているのは間違いない.しかし,その一方で,生物学的製剤のパラドキシカルリアクションの原因薬剤と臨床症状は多様化し増加しているので注意を要する.眼炎症疾患の患者の診療においては,背景となる全身疾患を把握するとともに,他科での薬剤投与歴を正確に把握し,パラドキシカルリアクションを疑ったら他科と連携して薬剤変更を検討することが必要である.文献1)PuigL:Paradoxicalreactions:Anti-tumorCnecrosisCfac-torCalphaCagents,Custekinumab,Csecukinumab,Cixekizumab,Candothers.CurrProblDermatolC53:49-63,C20182)SassaY,KawanoY,YamanaTetal:Achangeintreat-mentCfromCetanerceptCtoCin.iximabCwasCe.ectiveCtoCcon-trolCscleritisCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritis.CActaCOphthalmologicaC90:e161-e162,C20123)SmolenCJS,CLandeweCR,CBijlsmaCJCetal:EULARCrecom-mendationsCforCtheCmanagementCofCrheumatoidCarthritisCwithCsyntheticCandCbiologicalCdisease-modifyingCantirheu-maticCdrugs.C2016Cupdate.CAnnCRheumCDisC76:960-977,C20174)GreeneJL,LeytzeGM,EmswilerJetal:Covalentdimer-izationCofCCD28/CTLA-4CandColigomerizationCofCCD80/CCD86CregulateCTCcellCcostimulatoryCinteractions.CJCBiolCChemC271:26762-26771,C19965)KremerCJM,CDougadosCM,CEmeryCPCetal:TreatmentCofCrheumatoidarthritiswiththeselectivecostimulationmod-ulatorabatacept:twelve-monthCresultsCofCaCphaseCiib,Cdouble-blind,Crandomized,Cplacebo-controlledCtrial.CArthri-tisRheumC52:2263-2271,C20056)ToussirutE,AibinF:ParadoxicalreactionsunderTNF-ablockingCagentsCandCotherCbiologicalCagentsCgivenCforCchronicCimmune-medicateddiseases:anCanalyticalCandCcomprehensiveoverview.RMDOpenC2:e000239,C20167)AndersonCDE,CBieganowskaCKD,CBar-OrCACetal:Para-doxicalinhibitionofT-cellfunctioninresponsetoCTLA-4blockade;heterogeneitywithinthehumanT-cellpopu-lation.NatMed6:211-214,C20008)ChristophT,ElisabettaM,BahramBetal:Abataceptinthetreatmentofsevere,longstanding,andrefractoryuve-itisassociatedwithjuvenileidiopathicarthritis.JRheuma-tolC42:706-711,C20159)IwahashiC,FujimotoM,NomuraSetal:CTLA4-Igsup-pressesCdevelopmentCofCexperimentalCautoimmuneCuveitisCinCtheCinductionCandCe.ectorphases:ComparisonCwithCblockadeofinterleukin-6.ExpEyeResC140:53-64,C201510)Amadi-ObiA,YuCR,LiuXetal:TH17cellscontributetoCuveitisCandCscleritisCandCareCexpandedCbyCIL-2CandCinhibitedbyIL-27/STAT1.NatMedC13:711-718,C2007

関節リウマチ治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎の1例

2019年5月31日 金曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(5):677.679,2019c関節リウマチ治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎の1例阿部駿廣瀬尊郎後藤浩東京医科大学眼科学分野CACaseofFungalScleritisandEndophthalmitisinaPatientReceivingRheumatoidArthritisTreatmentShunAbe,TakaoHiroseandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversitySchoolofMedicineC目的:関節リウマチに対する治療中に生じた真菌性強膜炎および眼内炎のC1例を報告する.症例:症例はC73歳の女性で,近医で右眼のぶどう膜強膜炎と診断され,ステロイドの局所投与と内服による治療が行われたが改善なく,硝子体混濁が出現,さらに前部強膜の炎症を伴った腫瘤の形成がみられたため当院へ紹介となった.結節性強膜炎の診断のもとシクロスポリン内服を追加したが改善が得られず,診断目的に強膜生検を施行した.球結膜下膿瘍の塗抹検鏡では病原微生物は検出されなかったが,カンジダ寒天培地で酵母が分離され,術中に採取した前房水CPCRではCCandidaalbicansが検出された.真菌性眼内炎および強膜炎と診断し,抗真菌薬による治療を行ったところ,炎症所見は改善していった.結語:ステロイド治療に抵抗する強膜炎では,真菌感染を念頭に置く必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCfungalCscleritisCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritis.CCase:AC73-year-oldCfemalewasdiagnosedwithuveoscleritisinherrighteye.Despitesystemicandtopicalcorticosteroidtherapy,therewasCnoCimprovement.CSheCwasCreferredCtoCourChospitalCforCvitreousCopacityCandCfocalCmassCwithCin.ammationCobservedintheanteriorsclera.Oraladministrationofcyclosporinewasnote.ective.Scleralbiopsywasthenper-formedandpuswasobtainedunderneaththebulbarconjunctiva.Althoughsmeartestingofthepuswasnegative,fungusCwasCpositiveCinCculture.CAtCtheCsameCtime,CCandidaCalbicansCwasCdetectedCfromCaqueousChumorCbyCPCR.CAfterCsystemicCandCtopicalCantifungalCtreatment,CtheCscleritisCandCintraocularCin.ammationCresolved.CConclusion:CInfectiousscleritisincludingfungalinfectionshouldbeconsideredwhenevercorticosteroidtherapyisine.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(5):677.679,C2019〕Keywords:真菌性強膜炎,関節リウマチ,ステロイド.fungalscleritis,rheumatoidarthritis,corticosteroid.はじめに一般的に感染性強膜炎の診断は容易でなく,しばしば診断の確定に時間を要する1).なかでも真菌性強膜炎は比較的まれな疾患であり,治療にも難渋することが多いとされている2,3).今回筆者らは,関節リウマチに対して治療中の免疫不全状態にあったと思われる症例に生じた真菌性強膜炎および眼内炎のC1例を経験したので報告する.I症例患者:73歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:関節リウマチに対してメトトレキサートを内服中である.6年前に両眼の白内障手術が施行されている.現病歴:右眼の霧視を主訴に近医眼科を受診し,右眼のぶどう膜強膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼および結膜下注射,プレドニゾロンの内服治療が行われたが改善なく,その後は徐々に硝子体混濁が出現し,さらに強膜に限局性の炎〔別刷請求先〕阿部駿:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学眼科学講座Reprintrequests:ShunAbe,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C677図1当院初診時の右眼前眼部所見上耳側に腫瘤形成を伴う強膜炎がみられる.図2初診から2週後の右眼前眼部所見強膜の炎症とともに腫瘤はやや増大し,やや黄褐色の色調を呈している.図3抗真菌療法に変更した後の右眼前眼部所見(初診から2カ月後)強膜炎は軽快し,初診時からみられた隆起性病変も平坦化した.症を伴った腫瘤の形成もみられるようになり,眼内腫瘍の可能性も疑われたため東京医科大学病院眼科(以下,当院)へ紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼C0.01(矯正不能),左眼C0.15(0.8C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx85°),眼圧は右眼13mmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部は前房内に中等度の炎症細胞浮遊,ごくわずかな前房蓄膿のほか,上耳側に限局性の強膜充血を伴った隆起性病変を認めた(図1).眼底は硝子体混濁のため透見不能であった.左眼の前眼部および眼底に異常はなかった.経過:白内障手術からすでにC6年が経過していること,もともと関節リウマチに罹患し,治療中であったことから,リウマチに関連した結節性強膜炎の可能性を考慮し,前医からのステロイド内服(プレドニゾロンC30Cmg/日)およびステロイド薬点眼治療(ベタメタゾン点眼)に加え,免疫抑制薬であるシクロスポリンの内服をC3Cmg/kgの容量で追加した.しかし,強膜炎症状は軽快せず,腫瘤もわずかに増大傾向を示したため(図2),初診からC1カ月後に診断の確定を目的と678あたらしい眼科Vol.36,No.5,2019(108)して経結膜的生検を計画した.生検時,球結膜に切開を加えたところ黄白色の膿が現れたため,これを吸引および綿棒で回収して検体として諸検査を行った.その結果,グラム染色では多数の好中球やマクロファージが確認されたが,グロコット染色,PAS染色,さらに抗酸菌染色では病原微生物は検出されなかった.一方,菌種の同定はできなかったが,カンジダ寒天培地で酵母が分離された.また,生検施行時に採取した前房水でCPCRを行ったところ,CandidaCalbicansのCDNAが検出された.なお,これらの検査結果をもとに検索した血清Cb-Dグルカンは陰性であった.以上の検査結果から真菌性強膜炎および眼内炎と診断し,シクロスポリンの内服をただちに中止,また通院中のリウマチ膠原病内科と相談のうえ,メトトレキサートの内服も中止とした.眼病変に対して新たにピマリシン点眼(8回/日),ボリコナゾール点滴静注〔160CmgC×2/日(初日のみC200CmgC×2/日)〕,アムホテリシンCB硝子体内注射(5Cμg)を計2回施行したところ,強膜炎と硝子体混濁は徐々に改善し,強膜にみられた腫瘤も平坦化していった(図3).最終的には強膜に限局性の菲薄化をきたしたが,矯正視力はC0.4まで回復した.その後,強膜炎の再燃はないものの,眼内炎は遷延し,抗真菌薬の減量のたびに硝子体混濁の再燃がみられた.残存した硝子体混濁に対して,初診からC4カ月後に硝子体手術を施行した.術中採取した硝子体液の培養は陰性だった.術後はしばらく炎症の再燃を繰り返したが,当院初診からC13カ月経過した現在はすべての薬物療法を中止しているが,炎症の再燃はみられていない.CII考按真菌性強膜炎はまれな疾患であるが,免疫不全状態にある症例では,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者におけるCCandidaalbicansによる感染例4)や,糖尿病患者におけるFusariumによる強膜炎の報告1)がみられる.白内障術後の真菌性強角膜炎患者C7名中C6名が糖尿病に罹患していたとの報告5)もある.免疫健常者における真菌性強膜炎はさらにまれであるが,白内障術後のCAspergillusによる感染例などが複数報告されている6,7).今回の症例では,関節リウマチに対して長期にわたってメトトレキサートによる治療が行われていた.前医あるいは当院でも全身の免疫状態に関する検査は行っていないため詳細は不明であるが,感染症を生じやすい免疫抑制状態にあった可能性は十分に考えられる.本症例における真菌感染の成立機序であるが,発症初期の眼所見が不明のため断定はできないが,全身状態は良好で血清Cb-Dグルカンは陰性も陰性であったことから,内因性の真菌性眼内炎が先行し,その後に強膜炎が発症した可能性は低いと思われた.前医では当初,眼内の透見は良好であったことからも,本症例ではまず強膜に真菌感染が生じ,その後(109)に眼内へと炎症が波及したものと推察される.真菌が強膜や角膜に感染した場合,その局在は組織の深層にあることが多く,抗真菌薬は病巣へ到達しづらいため治療に難渋することが知られている2).白内障術後に生じた強膜炎の既報においても,擦過培養検査では何ら検出されなかったものの,強膜生検ではじめて真菌が検出された症例や,白内障術後の角膜炎発症例では角膜生検や前房水検査によってはじめて真菌が検出された報告がある5).本症例では結膜下の膿瘍を用いた培養で菌種の同定はできなかったが,酵母が分離された.また,眼内炎を併発していたことから,強膜生検施行時に前房水を用いたCPCRを行い,検査施行後まもなくCCandidaalbicansのCDNAが検出され,その後の治療の変更につなげることができた.前房蓄膿は非感染性の眼内炎症でもみられることはあるが,原因としてはやはり感染を第一に疑う必要があり8),本症例の場合も,もう少し早い段階で感染症の可能性を考慮すべきであったと思われる.今回経験した症例から,関節リウマチなどの背景があったとしても,安易に非感染性,自己免疫性の強膜炎と診断するのではなく,ステロイドによる治療が奏効しない場合,さらには免疫抑制状態にあると考えられる症例では,原因として真菌を含めた感染性強膜炎の可能性を考慮する必要があることを改めて認識させられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JeangLJ,DavisA,MadowBetal:Occultfungalscleritis.OculOncolPatholC3:41-44,C20172)Rodriguez-AresMT,DeRojasSilvaMV,PereiroMetal:CAspergillusCfumigatusCscleritis.CActaCOphthalmolCScandC73:467-469,C19953)加治優一:真菌性強膜炎.眼科60:693-697,C20184)SharmaCH,CSudharshanCS,CThereseCLCetal:CandidaCalbi-cansscleralabscessinaHIV-positivepatientanditssuc-cessfulCresolutionCwithCantifungalCtherapy─aC.rstCcaseCreport.JOphthalmicIn.ammInfectC6:24,C20165)GargCP,CMaheshCS,CBansalCAKCetal:FungalCinfectionCofCsuturelessCself-sealingCincisionCforCcataractCsurgery.COph-thalmologyC110:2173-2177,C20036)CarlsonAN,FoulksGN,PerfectJRetal:Fungalscleritisaftercataractsurgery.CorneaC11:151-154,C19927)BernauerW,AllanBD,DartJKetal:Successfulmanage-mentofAspergillusscleritisbymedicalandsurgicaltreat-ment.CEyeC12:311-316,C19988)DoshiRR,HarocoposGJ,SchwabIRetal:ThespectrumofCpostoperativeCscleralCnecrosis.CSurvCOphthalmolC58:C620-623,C2013あたらしい眼科Vol.36,No.5,2019C679

分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔の1例

2019年2月28日 木曜日

分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔の1例奥村峻大*1,2福岡秀記*2高原彩加*2吉川大和*1,2田尻健介*1池田恒彦*1外園千恵*2*1大阪医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学眼科学教室CACaseofCornealPerforationinaPatientwithRheumatoidArthritisinRemissionviaMolecular-targetTherapeuticAgentTakahiroOkumura1,2)C,HidekiFukuoka2),AyakaTakahara2),YamatoYoshikawa1,2)C,KensukeTajiri1),TsunehikoIkeda1)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC緒言:分子標的治療薬により内科的に関節リウマチ(RA)が寛解していたにもかかわらず角膜穿孔をきたし,表層角膜移植術(LKP)を施行した症例を報告する.症例:63歳,女性.25歳頃にCRAを発症し,近年はトシリズマブ(抗IL-6レセプター抗体)点滴加療を受け内科的に寛解状態であった.経過中突然左眼に角膜穿孔を生じ,応急処置とステロイド内服で加療された.角膜穿孔の発症からC3週間後に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.左眼矯正視力は(0.15)と低下しており,角膜穿孔と虹彩嵌頓,房水漏出を認め,保存的治療を開始した.内科ではCRAの再燃はないとの評価であった.その後も穿孔の閉鎖が得られなかったため,発症からC3カ月後に左眼CLKPを施行した.角膜穿孔は閉鎖し,矯正視力は(0.4)まで改善した.結論:分子標的治療薬により内科的に寛解状態であってもリウマチ性角膜穿孔を生じることがある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCrheumatoidarthritis(RA)withCcornealCperforationCunderCmedicallyCinducedCremissionCviaCmolecular-targetCtherapeuticCagentCthatCrequiredClamellarkeratoplasty(LKP)C.CCaseReport:A63-year-oldfemalewasreceivingtocilizumab(anti-IL-6receptorantibody)tokeeptheRAinastateofremission.Cornealperforationoccurredinherlefteye;.rst-aidandcorticosteroidtreatmentwereadministered.At3weeksafterperforationonset,shepresentedattheDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedi-cineCwithCdecreasedCvisualacuity(VA)inCherClefteye;conservativeCtreatmentCforCperforationCwasCinitiated.CRACwasCnotCexacerbated.CAsCtheCperforationCwasCnotCclosedCwithCconservativeCtreatment,CLKPCwasCperformedCatC3Cmonthspost-onset.AfterLKP,thecornealperforationclosed.Conclusion:Our.ndingsrevealedthatRA-associat-edCcornealCperforationCcanCoccurCevenCwhenCRACisCinCremissionCviaCmolecular-targetCtherapeuticCdrug,CsoCstrictCattentionisvital.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):282.285,C2019〕Keywords:関節リウマチ,角膜潰瘍,角膜穿孔,表層角膜移植術.rheumatoidarthritis,cornealulcer,cornealperforation,lamellarkeratoplasty.Cはじめにある1).RAはCtumorCnecrosisCfactor(TNF)C-aやCinterleu-関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は,免疫学的kin(IL)-6などの炎症性サイトカインが病態形成に関与する機序により引き起こされた滑膜炎により関節軟骨や関節近傍とされ,IL-6は細胞膜結合型受容体を介したクラシカルシの骨が破壊されることで関節機能が障害されていく関節炎でグナルリングと可溶性受容体を介したトランスシグナルとい〔別刷請求先〕奥村峻大:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakahiroOkumura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC282(152)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(152)C2820910-1810/18/\100/頁/JCOPYするCRAの病態に対して,抗CIL-6受容体抗体であるトシリズマブは,シグナル伝達を阻害し,治療薬として臨床的・機能的・構造的寛解をもたらす効果がある2).リウマチ性角膜潰瘍はCRA患者に併発し,角膜周辺部.傍中心部に潰瘍を生じる.既報によると,リウマチ性角膜潰瘍はCRA患者のC1.4.2.5%に認められた3,4).また,角膜穿孔をきたす部位としては,瞳孔辺縁部あるいは最周辺部より中間部に多いとの報告がある5).今回筆者らは,分子標的治療薬であるトシリズマブにより内科的にCRAが寛解していたにもかかわらず角膜穿孔をきたしたため,表層角膜移植術(lamellarkeratoplasty:LKP)を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.眼科既往歴:ドライアイにて近医通院加療中.現病歴および経過:25歳頃にCRAを発症し,近年は膠原病内科外来にてトシリズマブ(抗Cinterleukin-6レセプター抗体)静脈内注射をC6.7週間隔でなされていた.2016年C10月に血清Cmatrixmetalloproteinase(MMP)-3がC133Cng/ml(基準値:17.3.59.7Cng/ml)に上昇し(図1),トシリズマブの静脈内注射はC4週間隔に変更となった.以降もCMMP-3は高値のまま経過したが,RA症状の再燃は認めず,臨床的にCRAは寛解状態とされていた.2017年C2月末に仕事にて海外渡航中に突然の左眼の流涙を自覚し,医療機関を受診したところ,左眼角膜穿孔と診断された.DermabondCR塗布と治療用ソフトコンタクトレンズにて応急処置が行われ,プレドニゾロン内服C50Cmg/日を処方され帰国した.帰国後眼科C2施設を受診し,2017年C3月中旬に京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.初診時,左眼矯正視力(0.15)と低下しており,治療用ソフトコンタクトレンズ脱落,角膜穿孔,虹彩嵌頓,前房水漏出を認めた(図2).右眼の角膜に傍中心部潰瘍を認めたものの,穿孔は認めなかった.原疾患治療の強化のために膠原病内科へ照会したが,RA症状の再燃は認めず,RAは寛解状態と判断され治療は強化されなかった.治療用ソフトコンタクトレンズを再度装用し,0.1%フルオロメトロン点眼左眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼左眼C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏左眼C1日C1回,バンコマイシン眼軟膏左眼C1日C2回,プレドニゾロンC30Cmg/日内服,ソフトサンティアCRとヒアレインミニR左眼適宜にて治療を開始した.プレドニゾロンは,その後漸減した.初診時に行った眼脂培養にてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は否定的であり,バンコマイシン眼軟膏は投薬開始C14日後に中止とした.初診後29日の診察で右眼に角膜上皮欠損を認めたため,リウマチ性角膜潰瘍の悪化を疑い,両眼C0.1%ベタメタゾン点眼C1日3回,0.3%ガチフロキサシン点眼C1日3回に変更とした.しかし,左眼はその後も点眼,軟膏による保存的加療にて改善が得られなかったため,初診後C68日に左眼にCLKPを施行した(図3).術後も治療用ソフトコンタクトレンズを連続装用とし,0.1%ベタメタゾン点眼左眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼左眼C1日C4回,ソフトサンティアCR点眼左眼C1日C4回に変更した.左眼CLKP後,前房水漏出がなくなったことによりドライアイが悪化したため,ソフトサンティアRよりジクアホソルナトリウム左眼C1日C6回へ変更した.術後穿孔部は閉鎖し,房水漏出はなく,虹彩は整復された.術C1カ月後には,左眼矯正視力は(0.4)まで改善した.プレドニゾロン内服は,術C8カ月後の最終受診時にはC9Cmg/日まで漸減しており,角膜潰瘍の再発はない.CII考按リウマチ性角膜潰瘍は,RAにおける関節外病変の一つである.潰瘍部に接する結膜からのコラゲナーゼの産生6)やCIII型アレルギーによる免疫複合体が輪部血管網において血管炎を引き起こし,辺縁角膜に沈着する免疫学的機序によるものが原因と考えられている7).他の眼病変には,上強膜炎や強膜炎,虹彩炎や二次性CSjogren症候群による涙液分泌型ドライアイなどがある.とくに角膜潰瘍は角膜穿孔につながる可能性があるため,重篤な合併症である8).MMP-3(ng/ml)18016014012010080604020血清0図1血清matrixmetalloproteinase(MMP).3の推移2016年C10月に血清CMMP-3はC133.3Cng/mlと女性の基準値(59.7Cng/ml)を上回り,以降高値が継続している.(153)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C283図2症例の画像所見a:左眼前眼部.傍中心部の角膜の菲薄化と穿孔(C.)を認める.また,同部位は虹彩が嵌頓している.Cb:左眼フルオレセイン染色.前房水の漏出(C.)を認める.Cc:左眼前眼部三次元光干渉断層像.虹彩嵌頓(C.)を認め,下方の前房が一部消失している.図3Lamellarkeratoplasty(LKP)1カ月後の検査所見a:左眼前眼部.穿孔部は閉鎖されている(C.).Cb:左眼フルオレセイン染色.LKPにより穿孔は閉鎖された(.).前房水の漏出を認めない.Cc:左眼前眼部三次元光干渉断層像.虹彩は整復され,前房が形成された.角膜穿孔に対する外科的治療には,今回施行したCLKPのほかに,羊膜移植,全層角膜移植,結膜被覆などがある8.11).本症例では,穿孔部位と穿孔周囲の角膜菲薄化の状態などを総合的に考慮し,円形のCLKPを選択した.RA患者における角膜潰瘍の発症および悪化の分子生物学的メカニズムについて文献的検討を行った.RAは,IL-6を介した病態機序により滑膜炎を生じ,滑膜組織の増殖によるパンヌス形成や骨びらんの形成,軟骨変性,血管新生,破骨細胞分化因子(receptorCactivatorCofCNF-kBligand:RANKL)発現,matrixmetalloproteinase(MMP)産生による関節の破壊などを起こすとされている2).ヒトのCMMPにはC20種類以上あることが知られているが,RAの病態を反映するものとして血清CMMP-3があり,正常者と比較しCRA患者で有意に上昇することが知られている.MMP-3は軟骨や基底膜を構成する軟骨プロテオグリカン,III,IV,V,VII,IX型コラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンおよびゼラチンを分解する12).過去の動物実験での報告によると,MRL/Mp-1pr/1pr(MRL/1系)RAモデルマウスにおいては角膜上でおもにMMP-1のCmRNAが発現し,それと同期してCIL-1Cbが角膜上皮細胞から高いレベルで発現している13).このCIL-1bは,さらにCMMP-1を発現させ,そのほかにCMMP-9の発現を引き起こす13,14).MMP-9は角膜上皮基底膜に欠損を引き起こしCMMP-1が角膜実質障害に作用する.ただしMMP-1が角膜実質に作用するためには活性型に転換される必要があるが,MMP-3がその転換に必要である.MMP-3により活性化されたCMMP-1が角膜実質のコラーゲン線維に作用し,角膜潰瘍や角膜穿孔へと至ると考えられる15,16).本症例ではC20年以上前からCRAを発症し,近年ではトシリズマブ静脈内投与でコントロールされていた.しかし,臨床的に寛解状態であったにもかかわらずC2016年C10月以降,血清CMMP-3は基準値を超え高値となり,以降高値のまま経過した(図1).その後トシリズマブ治療の強化(投与期間の短縮化)がされたが,血清CMMP-3は高値のままであった.その経過中に,左眼角膜穿孔と右眼角膜潰瘍を認めたことから,血清CMMP-3の上昇が,血清CMMP-1の活性化などを介した角膜潰瘍のカスケードを進行させた可能性が考えられる.血清CMMP-3高値が持続した状態に対する治療強化について考察した.RAにおける生物学的製剤の薬効評価では,薬剤間で評価に差が生じない指標を用いる必要があり,血清MMP-3ではなくCClinicalCDamageCActivityIndex(CDAI)が有効であると考えられており17),治療が効いているかどうかの評価は血清CMMP-3には必ずしも依存しないと考えら(154)III結論今後さらなる検討が必要であるが,RAが寛解状態であっても,角膜潰瘍が進行する可能性があるため,内科と眼科との連携が重要となると考えられた.文献1)緒方篤:関節リウマチにおけるCIL-6阻害治療.ClinCRheumatol27:228-231,C20152)駒井俊彦,藤尾圭志,山本一彦:RAにおけるCIL-6の役割とトシリズマブの重要性.ClinCRheumatolC25:192-197,C20133)WatanabeCR,CIshiiCI,CYoshidaM:UlcerativeCkeratitisCinCpatientsCwithCrheumatoidCarthritisCinCtheCmodernCbiologicera:aCseriesCofCeightCcasesCandCliteratureCreview.CIntJRheumDisC20:225-230,C20174)BetteroCRG,CCebrianCRF,CSkareTL:PrevalanceCofCocularCmanifestationCinC198CpatientsCwithCrheumatoidarthritis:CaretrospectiveCstudy.CArqCBrasCOftalmolC71:375-369,C20085)野崎優子,福岡秀記,稲富勉ほか:リウマチ性角膜潰瘍穿孔例に対する臨床的検討.日眼会誌122:700-704,C20186)EifermanCRA,CCarothersCDJ,CYankeelovCJAJr:PeriperalCrheumatoidulcerationandevidenceforconjunctivalcolla-genaseproduction.AmJOpthalmolC87:703-709,C19797)MichelsCML,CCoboCLM,CCaldwellCDSCetal:RheumatoidarthritisCandCsterileCcornealCulceration.CAnalysisCofCtissueCimmunee.ectorcellsandocularepithelialantigensusingmonoclonalantibodies.ArthritisRheumC27:606-614,C19848)福岡秀記,外園千恵:救急疾患ごとの基本的な対処法5.角膜・結膜・強膜関節リウマチ患者の角膜が穿孔しています.どうしたらいいでしょう.あたらしい眼科C34:146-148,C20179)大路正人,切通彰,木下茂:膠原病の角膜穿孔に対する周辺部表層角膜移植.臨眼40:202-203,C198610)田村忍:辺縁に生じた角膜潰瘍の穿孔に対する手術療法.臨眼C77:1753-1756,C198311)BernauerCW,CFickerCLA,CWatsonCPGCetal:TheCmanage-mentCofCcornealCperforationsCassociatedCwithCrheumatoidCarthritis.AnnRheumDisC36:428-432,C197712)大内栄子,岩田和士,山中寿:関節リウマチにおける血清CMMP-3測定の有用性.In.ammationCandCRegenerationC24:154-160,C200413)近藤容子,岡本全泰,岡本茂樹ほか:慢性関節リウマチ患者における涙液中CIL-1Cb.眼紀C48:1363-1366,C199714)TsengHC,LeeIT,LinCCetal:IL-1CbpromotescornealepithelialCcellCmigrationCbyCincreasingCMMP-9CexpressionCthroughCNF-kB-andCAP-1-dependentCpathways.CPLoSCOne8:1-13,C210315)梁磯勇,清木元治:マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)研究の歴史と最先端.日消誌C100:144-151,C200316)崎元暢:角膜実質融解におけるCMMP.臨眼C66:342-345,C201217)鈴木康夫:関節リウマチの診断と治療.Up-to-date..日内会誌C104:519-525,C2014***(155)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C285

TNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例

2018年6月30日 土曜日

《第51回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科35(6):825.828,2018cTNF阻害薬が有効であった強膜ぶどう膜炎の2症例河野慈*1石原麻美*1澁谷悦子*1井田泰嗣*1竹内正樹*1山根敬浩*1蓮見由紀子*1木村育子*1,2石戸みづほ*1水木信久*1*1横浜市立大学大学院医学研究科眼科教室*2南大和病院CTwoCaseofSclerouveitisTreatedbyTNFInhibitorsShigeruKawano1),MamiIshihara1),EtsukoSibuya1),YasutsuguIda1),MasakiTakeuchi1),TakahiroYamane1),YukikoHasumi1),IkukoKimura1,2)C,MizuhoIshido1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MinamiyamatoHospital目的:TNF阻害薬〔インフリキシマブ(IFX),アダリムマブ(ADA)〕で治療した難治性強膜ぶどう膜炎のC2症例の報告.症例:症例1)50歳,女性.右眼強膜ぶどう膜炎のため,2012年C3月当院受診.プレドニゾロン(PSL)にメトトレキサート(MTX)を併用したが消炎せず,同年C9月にCIFXを導入.その後,右眼裂孔原性網膜.離を生じ硝子体手術を施行.2015年C2月に血小板増多のためCIFXを中止後,炎症が再燃したが,再開により速やかに改善した.症例2)79歳,女性.関節リウマチに伴う強膜ぶどう膜炎のため,2016年C3月当院受診.非ステロイド系抗炎症薬を内服したが,右眼に.胞様黄斑浮腫(CME)出現.間質性肺炎の既往のためCMTXは使用できず,同年C12月にCADAを導入.6週間後にCCMEは消失した.結論:難治性強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬による治療は有効である.CPurpose:Toreporttwopatientswithrefractorysclerouveitistreatedwithtumornecrosisfactor(TNF)inhib-itors,Cin.iximab(IFX)andCadalimumab(ADA)C.CCase:CaseC1:AC50-year-oldCfemaleCwithCright-eyeCsclerouveitiswasCreferredCtoCusCinCMarchC2012.COralCprednisolone(PSL)andCmethotrexate(MTX)treatmentCwasCine.ective.CIFXwasaddedtothetreatmentregimeninSeptember2012.Vitrectomyforrhegmatogenousretinaldetachmentwassubsequentlyperformed.InFebruary2015,thesclerouveitisrelapsedafterIFXdiscontinuationduetothrom-bocytosis.ThepatientsoonwentintoremissionafterrestartingIFXtreatment.Case2:A79-year-oldfemalewithrheumatoidCarthritis-associatedCsclerouveitisCwasCreferredCtoCusCinCMarchC2016.CCystoidCmacularCedema(CME)Cdevelopeddespitetreatmentwithnon-steroidalanti-in.ammatorydrugs.AhistoryofinterstitialpneumoniameantMTXCwasCnotCadministered.CADACtreatmentCwasCcommencedCinCDecemberC2016.CCMECdisappearedCafterCsixCweeks.Conclusions:TNFinhibitorsmaybee.ectiveintreatingrefractorysclerouveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):825.828,C2018〕Keywords:強膜ぶどう膜炎,インフリキシマブ,アダリムマブ,プレドニゾロン経口投与,関節リウマチ.scler-ouveitis,in.iximab,adalimumab,oralCprednisolone,rheumatoidarthritis.Cはじめに強膜ぶどう膜炎は進行すれば失明の可能性のある炎症性眼疾患であり,感染性と非感染性に分けられる.非感染性強膜ぶどう炎の原因としては特発性がもっとも多いが,関節リウマチ(rheumatoidCarthritis:RA)をはじめとして多発血管性肉芽腫症,全身性エリテマトーデス,結節性多発動脈炎,再発性多発軟骨炎,炎症性腸疾患,強直性脊椎炎などの全身性疾患が背景として存在することもある1).治療はまず,ステロイド薬点眼・免疫抑制薬点眼,症例によってはステロイド薬結膜下注射などの局所治療を行う.全身治療としては,非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)内服で消炎しなければ,プレドニゾロン(PSL)経口投与が行われる.さらにステロイド薬内服でも炎症のコントロールがつかなければ,免疫抑制薬の全身投与が行われる.非感染性ぶどう膜炎に保険適用のあるシクロスポリンのほか,RAが原疾患であればメトトレキサート(MTX)〔別刷請求先〕河野慈:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:ShigeruKawano,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANが使用される2).それでも炎症のコントロールが得られない場合,TNF阻害薬の導入が考慮される.原疾患のCRAに対し,インフリキシマブ(IFX)やアダリムマブ(ADA)をはじめとする種々のCTNF阻害薬が使用できる2).また,ADAに関してはC2016年C9月より既存治療抵抗性の非感染性ぶどう膜炎(中間部,後部,汎ぶどう膜炎)に保険適用となったため3),特発性の強膜ぶどう膜炎(後眼部病変を伴う場合)に対して使用可能となった.今回,筆者らは既存の治療に奏効しなかった非感染性の強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,TNF阻害薬(IFX1例,ADA1例)を導入して炎症コントロールが得られたので報告する.CI症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2010年C5月に右眼の充血と眼痛を主訴に近医眼科受診し,両強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼に加え,PSLをC30Cmg/日より漸減内服して軽快したが,2011年C12月に右眼の炎症が再燃した.PSL30mg/日にシクロスポリンC3Cmg/kg/日を併用したが,PSL漸減中に再燃を繰り返したため,2012年C3月に横浜市立大学附属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時眼所見:視力は,VD=(1.2C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx10°),VS=(1.2C×sph+0.50D(cyl.1.25DCAx170°).眼圧は,右眼C20CmmHg,左眼C20CmmHg.右眼に全周性に強膜の表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:当科受診後よりCPSLをC40Cmg/日に増量し,右眼の強膜ぶどう膜炎はコントロールできていたが,2013年C5月,5mg/日まで漸減した際,両眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した.PSLをC40Cmg/日に増量してCMTX6Cmg/週を併用したが,右眼の強膜ぶどう膜炎のコントロールは得られず,9月には漿液性網膜.離(serousCretinalCdetachment:SRD)を合併したため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC500Cmg×3日間)を施行した.その後,網膜裂孔が見つかり,PSLとCMTX内服に加えC11月よりCIFX導入後,硝子体手術を施行した.術後,網膜は復位し,炎症の再燃もみられなかった.2015年C4月に多血症を認めたため,IFXを中止したが,約C2カ月後に右眼の強膜ぶどう膜炎が再燃した(図1a).IFXの再開後,速やかに強膜ぶどう膜炎は軽快し(図1b),同年C9月にCPSL内服を漸減中止した.現在までCIFXとCMTXを継続しており,強膜ぶどう膜炎の再燃はない.〔症例2〕79歳,女性.主訴:右眼充血,眼痛.既往歴:開放隅角緑内障,関節リウマチ,間質性肺炎.現病歴:2016年C2月に右眼の眼痛と充血を主訴に近医受診し,右眼強膜ぶどう膜炎と診断された.ベタメタゾン点眼,タクロリムス点眼に加え,デキサメタゾン結膜下注射を施行したが消炎しないため,2016年C3月当科紹介受診となった.初診時所見:視力は,VD=0.2(1.2C×sph.0.25D(cyl.2.25DAx90°),VS=0.3(1.2C×sph+1.25D(cyl.2.50DCAx85°).眼圧は,右眼C12CmmHg,左眼C11CmmHg.右眼の耳上側の強膜に表在性および深在性血管の充血がみられたが,眼内に炎症所見はなかった.左眼の強膜および眼内には炎症所見はみられなかった.経過:2016年C4月に右.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedama:CME)が出現したため,トリアムシノロン後部Tenon.下注射を施行した.さらにCNSAIDsの内服を開始したが,9月には右眼内炎症の増悪と,わずかにCSRDを伴図1多血症のためIFX中止後の再燃時(a)およびIFX再開後(b)の右眼前眼部写真IFX中止後,強膜の血管充血は増強したが(Ca),再開後は速やかに充血は改善し,上方に強膜の菲薄化がみられた(b).C図2増悪時の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)耳上側の強膜の血管充血が増悪し(Ca),OCTにて,わずかに漿液性網膜.離を伴った.胞様黄斑浮腫がみられた(b).C図3ADA導入後の右眼前眼部写真(a)およびOCT写真(b)強膜の血管充血は軽快し(Ca),OCTにて黄斑部は正常化が確認された(Cb).CったCCMEを認めた(図2).PSL内服を勧めたが,間質性肺炎の治療でCPSLを半年間内服した際に副作用歴があるため内服しなかった.また,間質性肺炎の既往によりCMTXも使用できないため,同年C12月にCADAを導入した.4回注射後,炎症所見は軽快するとともに,CMEは消失した(図3).現在もCADAを継続し再燃なく経過している.CII考察今回筆者らは,既存治療に抵抗した難治性強膜ぶどう膜炎2例に対し,IFXまたはCADAを導入し,消炎が得られた症例を報告した.強膜ぶどう膜炎や強膜炎に対するCTNF阻害薬の有効性を示した海外の症例報告はいくつかあり,数種類の免疫抑制薬で炎症コントロールが困難であった強膜ぶどう膜炎C2症例に対し,IFXを導入することで速やかに消炎した報告4)や,MTX単剤でコントロール不良な結節性強膜炎の症例に対し,ADAを併用することにより消炎が得られた報告5)などがある.一方,わが国では,強膜炎に対するTNF阻害薬の保険適用はないが,既存治療抵抗性の中間部,後部,汎ぶどう膜炎にCADAが使用できるようになった.IFXに関しては,強膜炎に保険適用外で使用した報告が散見される6,7)が,強膜炎,強膜ぶどう膜炎に対するCADAの使用報告はまだない.症例C1は特発性強膜ぶどう膜炎であるが,ADAが非感染性ぶどう膜炎に適応となる前であったため,倫理委員会の承認を得てCIFXを導入した.網膜.離に対する硝子体手術の前に導入し,術後炎症が予防できたが,ステロイドパルス療法も術前に施行しているために,IFX単独の効果であったかどうかは不明である.しかし,血小板増多症をきたした際にCIFXを中止したところ,強膜ぶどう膜炎が再燃し,IFX再開後に速やかに消炎したため,本症例の炎症コントロールにCIFXが有効であると考えられた.症例C2では,既往症にRAに伴う間質性肺炎があり,その治療に使用したステロイド薬の副作用歴があったため,MTXおよびCPSLを使用せずにCADAを導入し,速やかな消炎がみられた.Ragamら8)はCADA単剤で炎症コントロール可能であった強膜炎症例を報告している.TNF阻害薬はステロイド薬や免疫抑制薬などで効果不十分な場合に併用する薬剤であるが,本症例のように,既存治療薬剤が副作用などで使用できない場合に限って,ADA単剤使用を考慮してもよい可能性が示唆された.海外では難治性強膜炎に対し,TNF阻害薬を含む生物学的製剤が積極的に使用されている.deCFidelixら9)は,おもに結節性および壊死性前部強膜炎に対してC2015年までに投与された生物学的製剤の統計を報告しており,IFXはC46/81例(57%)ともっとも多く使用されていた.IFX投与群はC96%(45/46例)で有効であり,ADA投与群はC2例だけであるが,2例とも有効であった.海外でもCADAの使用頻度は他の薬剤と比べて非常に少ないが,今後適応の拡大とともに増えると考えられる.また,非感染性・非壊死性強膜炎に対し,IFXとCADAのどちらが有効かを検討した報告8)があるが,両薬剤の効果に有意差はないという結果であった.強膜ぶどう膜炎や強膜炎におけるCTNF阻害薬の中止(バイオフリー)の目安についてのコンセンサスはまだないが,4年間の治療後にCADAを中止することができた結節性強膜炎の症例報告がある10).症例C1では多血症のためCIFXを中止後に炎症が再燃したが,ステロイド薬がオフになってから現在までのC2年間では炎症の再燃はない.慎重に経過をみながら中止時期を検討していく予定である.既存治療に抵抗する,後眼部病変を合併した強膜ぶどう膜炎に対し,TNF阻害薬(IFX,ADA)は有効であると考えられた.しかし,わが国ではCADAを使用した報告がなく,その有効性の評価については,今後の症例の蓄積が待たれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SmithJR,MackensenF,RosenbaumJT:Therapyinsight:CscleritisCandCitsCrelationshipCtoCsystemicCautoimmuneCdis-ease.NatClinPracticeC3:219-226,C20072)日本リウマチ学会:関節リウマチ(RA)に対するCTNF阻害薬使用ガイドライン(2017年C3月C21日改訂版)httpC://www.Cryumachi-jp.com/info/guideline_TNF.html3)日本眼炎症学会CTNF阻害薬使用検討委員会:非感染性ぶどう膜炎に対するCTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(2016年版).日眼会誌121:34-41,2017http://www.Cnichgan.or.jp/menber/guidline/tfn_manual.pdf4)DoctorP,SultanA,SyedSetal:In.iximabforthetreat-mentCofCrefractoryCscleritis.CBrCJCOphthalmolC94:579-583,C20105)RestrepoCJP,CMolinaCMP:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCnodularCscleritisCwithCadalimumab.CClinCRheumatolC29:C559-561,C20106)小溝崇史,寺田裕紀子,子島良平ほか:インフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科31:595-598,C20147)杉浦好美,増田綾美,松本功ほか:レミケードが奏功した難治性壊死性強膜炎のC1例.眼臨紀5:613,C20128)RagamCA,CKolomeyerCAM,CFangCCCetCal:TreatmentCofCchronic,noninfectious,nonnecrotizingscleritiswithtumornecrosisCfactorCalphaCinhibitors.COculCImmunolCIn.ammC22:469-477,C20149)deCFidelixCTS,CVieiraCLA,CdeCFreitasCD:BiologicCtherapyforCrefractoryCscleritis:aCnewCtreatmentCperspective.CIntCOphthalmol35:903-912,C201510)BawazeerCAM,CRa.aCLH:AdalimumabCinCtheCtreatmentCofCrecurrentCidiopathicCbilateralCnodularCscleritis.COmanCJCOpthalmol4:139-141,C2011***

インフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎の1例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):595.598,2014cインフリキシマブが有効であった関節リウマチによる壊死性強膜炎の1例小溝崇史*1寺田裕紀子*1子島良平*1宮田和典*1望月學*1,2*1宮田眼科病院*2東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科眼科学分野NecrotizingScleritisSecondarytoRheumatoidArthritisSuccessfullyTreatedwithInfliximabTakashiKomizo1),YukikoTerada1),RyoheiNejima1),KazunoriMiyata1)andManabuMochizuki1,2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversityGraduateSchoolofMedicine関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に伴う壊死性強膜炎が発症し,一眼は強膜穿孔により眼球摘出に至ったが,後に発症した僚眼の壊死性強膜炎はインフリキシマブで治療できた症例を経験したので報告する.症例は71歳,女性.右眼の霧視と疼痛を自覚した.右眼に強い強膜炎と,硝子体脱出を伴う強膜穿孔があった.左眼に異常所見はなかった.RAに伴う壊死性強膜炎による強膜穿孔と診断し,翌日に強膜穿孔を閉鎖する目的で,保存角膜と羊膜を用いて強膜補.術を行った.しかし,移植片と強膜の融解は進行し眼球摘出に至った.術後7カ月,左眼に壊死性強膜炎を発症した.右眼の経過より,難治性と判断し,副腎皮質ステロイド薬の内服に加えて,インフリキシマブ加療を開始した.現在,左眼の強膜炎発症後3年経過するが,強膜穿孔には至らずに強膜炎は消炎されている.難治性の壊死性強膜炎には,インフリキシマブが有効であると考えられた.A71-year-oldfemalewasreferredtoourclinicduetosevereocularpainandblurringofvisioninherrighteye.Ocularexaminationrevealedseverescleritisandscleralperforation,withvitreousprolapseintherighteye.Thelefteyewasnormal.Systemicexaminationrevealedthatthepatienthadbeensufferingfromrheumatoidarthritisformorethan20years.Thescleralperforationwascoveredwithgraftsoffrozenpreservedcorneaandamnioticmembrane.However,thescleralandcornealgraftsmeltedwithinaweekandtheeyewasenucleated.Sevenmonthsafterenucleation,scleritisoccurredinthelefteye.Inconsiderationoftheclinicalcourseoftherighteye,thescleritisinthelefteyewastreatedwithinfliximab(3mg/kg)togetherwithprednisolone(15mg/day),whichsuccessfullyresolvedtheseverescleritisofthelefteye.Infliximabisthereforerecommendedforrefractorynecrotizingscleritis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):595.598,2014〕Keywords:壊死性強膜炎,関節リウマチ,インフリキシマブ,免疫抑制療法,強膜穿孔.necrotizingscleritis,rheumatoidarthritis,infliximab,immunomodulatorytherapy,scleralperforation.はじめに壊死性強膜炎は強膜炎の5%を占める稀な疾患であるが,予後はきわめて不良である1,2).重症例では,強膜穿孔し眼球摘出に至ることも少なくない.また,強膜炎は関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)などの全身性の自己免疫性疾患を合併することがあるが,壊死性強膜炎では45.80%と高率に合併する1,2).抗ヒトTNF(腫瘍壊死因子)-aモノクローナル抗体であるインフリキシマブは,RAやCrohn病,眼科領域ではBehcet病などの治療に最近承認された免疫抑制薬であるが,海外では,強膜炎に対しても良好な治療効果が報告されている3,4).しかし,わが国でその報告は少ない.今回筆者らは,関節リウマチに伴う壊死性強膜炎を発症し,一眼は強膜穿孔により眼球摘出に至ったが,後に発症した僚眼の壊死性強膜炎はインフリキシマブで治療できた症〔別刷請求先〕小溝崇史:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:TakashiKomizo,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)595 例を経験したので,患者に理解と同意を取得したうえ,報告する.I症例患者:71歳,女性.主訴:右眼の霧視と疼痛.既往歴:1990年にRAを発症,内科においてブシラミンとロキソプルフェンで治療されていた.1998年より増悪したため,追加治療として関節内ステロイド注射を頻回に受けていた.疼痛コントロールは良好であったが,RAに伴う肘・膝・肩関節の拘縮と心不全もあるため,日常生活動作(activitiesofdailyliving:ADL)は不良であった.また,2006年に両眼の白内障手術を受けた.現病歴:2009年11月,右眼の霧視と疼痛を自覚し,同日に近医を受診した.強膜穿孔があり,翌日に宮田眼科病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼0.02(0.04×+3.00D),左眼0.5(1.5×.0.50D(cyl.1.25DAx150°)眼圧は右眼測定不能,左眼9mmHgであった.右眼に強い充血あり,強膜は上方が菲薄化しており,菲薄化した中央部は穿孔し硝子体の脱出があった(図1).前房にはfibrinを伴う強い炎症がみられた.眼底は透見不能であったが,超音波Bモード断層検査にて全周に脈絡膜.離,下方に漿液性網膜.離があった.左眼は前眼部・中間透光体・眼底に異常所見はみられなかっ毛様(,)た.経過:RAに伴う壊死性強膜炎による強膜穿孔と診断し,翌日に強膜穿孔を閉鎖する目的で,保存角膜と羊膜を用いて強膜補.術を行った.術後早期の移植片の生着は良好であったが,移植術後11日目より移植片と強膜の融解が生じた(図2).経過から感染の可能性は低いと考え,0.1%ベタメサゾン点眼6回/日に加え,プレドニゾロン20mgとアザチオプリン50mgの内服を開始した.しかし,内服開始後も移植角膜片の融解は軽快せず,移植片と強膜の融解部位はさらに広く深くなった.移植術後50日目に,眼球温存は困難と判図2強膜補.術後11日目の前眼部写真移植片と強膜に融解がみられる(矢印).図1初診時の右眼前眼部写真(下方視)点線で囲まれた黒い部分は,壊死融解し穿孔した強膜と脱出した硝子体である.図3再診時の左眼前眼部写真(下方視)強膜の菲薄化がみられる(矢印)が,穿孔はなかった.596あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(118) 図4最終受診時の左眼前眼部写真(左:正面視,右:下方視)上方強膜が菲薄化している(矢印)が,充血はなく,強膜炎は消炎されている.断し,眼球摘出術を行った.その間,左眼に異常所見はなかった.右眼球摘出術後の2カ月後より,肺水腫で内科に入院したため,当院への通院が途絶え,プレドニゾロンとアザチオプリンは中断していた.内科入院中,左眼に強膜炎を発症し,入院した病院の眼科で0.1%ベタメサゾン点眼により治療されていた.右眼球摘出7カ月後,肺水腫が軽快し内科を退院したため,当院を再診した.再診時所見(2010年8月):右眼は義眼が挿入され炎症所見はなかった.左眼は視力0.2(1.5×.0.25D(cyl.1.50DAx90°),眼圧は12mmHg,強膜深層血管に拡張あり,上方強膜は菲薄化していたが穿孔はなかった(図3).前房中にcell2+程度の虹彩炎がみられたが,中間透光体,眼底に異常所見はなかった.右眼の経過より,左眼も難治性の壊死性強膜炎と診断した.0.5%レボフロキサシン点眼4回/日,0.1%ベタメサゾン点眼4回/日,0.1%タクロリムス点眼2回/日に加えて,プレドニゾロン15mgの内服と内科に依頼してインフリキシマブ2mg/kgの点滴静注を行った.その後,骨粗鬆症の合併症のリスクを考慮し,プレドニゾロンを2カ月ごとに2.5mgずつ減量し,プレドニゾロン10mg/日に減量した時点でメトトレキセート8mg/週を併用し,1年6カ月かけてプレドニゾロンを中止した.現在までインフリキシマブ(2mg/kg)は継続している.インフリキシマブ導入前は,5.0であったCRP(C反応性蛋白)は導入後には1.0前後と減少し,関節リウマチのコントロールは良好である.2013年8月29日現在,壊死性強膜炎は消炎され,強膜の菲薄化はあるものの穿孔はなく(図4),視力も0.3(0.6×.0.5D(cyl.2.50DAx90°)と良好である.II考按強膜炎は,原因により感染性と非感染性に大別され,解剖学的には前部強膜炎(94%),後部強膜炎(6%)に分けられ,さらに,前部強膜炎はびまん性(75%),結節性(14%),壊死性(5%)に分類される2).このように壊死性強膜炎は稀な疾患であるが,強膜穿孔や眼球摘出に至り,予後が不良な例が少なくない1,2).本症例でも,右眼は壊死性強膜炎により強膜穿孔し,保存角膜と羊膜の移植による強膜補.術を行ったが,術後比較的短期のうちに眼球摘出に至った.壊死性強膜炎による強膜穿孔に対しては,大腿筋膜を用いた補.術で眼球温存が可能であったとの報告5)があるが,本例と異なり強膜穿孔前より免疫抑制薬を使用していた.本例では,強膜穿孔時,抗リウマチ薬と副腎皮質ステロイド薬点眼だけであり,強膜補.術後もしばらくの間,免疫抑制薬治療を行っていなかった.強膜補.術後の経過では,移植片の融解だけでなく,強膜の融解も進行したため,移植片の脱落の原因は,おもに拒絶反応でなく強膜炎の活動性が高かったことであると思われ,移植片の生着には免疫抑制薬治療を用いた強膜炎の十分な消炎が必要であると考えられた.壊死性強膜炎の治療は,局所治療のみでは不十分なことが多く,全身治療が必要である.全身治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬の内服だが,それ単独で治療可能なのは約3割であり,多くは免疫抑制薬の併用が必要であると報告されている1).さらに,すべての壊死性強膜炎で副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬の併用が必要であるとしている6)との報告もある.さらに,免疫抑制薬の併用でも治療に難渋する症例では,インフリキシマブなどの生物学的製剤が有効との報告がある3,4,6).本例では,右眼摘出後,内科入院中に左眼に(119)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014597 も壊死性強膜炎を発症したが,治療は当院再診までの間,ステロイド点眼による局所治療のみであった.当院再診後速やかに,副腎皮質ステロイド薬,メトトレキセート,インフリキシマブの全身治療を行ったところ,右眼の経過とは異なり,左眼は強膜穿孔に至らずに強膜炎は沈静化した.また,RAに関しても,当院初診時,CRPは5.0で関節内ステロイド注射を頻回に受けるほどに関節炎は強く,肘・膝・肩関節の拘縮と心不全のためADLは不良であったが,当院最終受診時にはADLは変わらないもののCRPは1.0と低下し,RAのコントロール状態も改善した.以上のように,本例ではインフリキシマブが壊死性強膜炎の消炎とRAの療法に有効であったと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TuftSJ,WatsonPG:Progressionofscleraldisease.Ophthalmology98:467-471,19912)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalezLAetal:Clinicalcharacteristicsofalargecohortofpatientswithscleritisandepiscleritis.Ophthalmology119:43-50,20123)GalorA,PerezVL,HammelJPetal:Differentialeffectivenessofetanerceptandinfliximabinthetreatmentofocularinflammation.Ophthalmology113:2317-2323,20064)DoctorP,SultanA,SyedSetal:Infliximabforthetreatmentofrefractoryscleritis.BrJOphthalmol94:579583,20105)生杉,前川,福喜多ほか:Wegener肉芽腫症による強膜穿孔に対し自己大腿筋膜移植術を行った1例.臨眼54:381384,20006)SainzdelaMazaM,MolinaN,Gonzalez-GonzalesLAetal:Scleritistherapy.Ophthalmology119:51-58,2012***598あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(120)

若年女性に発症した視神経乳頭炎に起因する網膜中心静脈閉塞症の1例

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):707.711,2013c若年女性に発症した視神経乳頭炎に起因する網膜中心静脈閉塞症の1例齊間麻子*1古谷達之*1陳麗理*2豊口光子*3堀貞夫*4*1済生会川口総合病院眼科*2東京女子医科大学眼科学教室*3東京女子医科大学八千代医療センター眼科*4西葛西・井上眼科病院CentralRetinalVeinOcclusionResultingfromOpticDiscVasculitisinYoungFemaleAsakoSaima1),TatsuyukiFuruya1),ChenReiri2),MitsukoToyoguchi3)andSadaoHori4)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKawaguchiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityYachiyoMedicalCenter,4)NishikasaiInoueEyeHospital目的:関節リウマチと貧血がある若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の症例を報告する.症例:31歳,女性.右眼の霧視を主訴に東京女子医科大学病院を受診.右眼矯正視力は1.2で,前眼部に特記すべき所見はなかったが,網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部網膜出血,視神経乳頭の軽度腫脹を認めた.左眼には特記すべき所見はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影では視神経乳頭の軽度過蛍光と網膜静脈からの蛍光色素の漏出は認めたが虚血性変化はなかった.1カ月後に眼底所見が増悪したため,貧血の是正と,関節リウマチの治療としてのステロイド薬を2.5mg/日から30mg/日に増量した.1.5カ月後に眼底所見は改善し,その後2年間にわたり再発を認めなかった.結論:関節リウマチと貧血に合併してCRVOを発症したと考えられた.ステロイド薬の増量と貧血の是正が奏効し,本症例は乳頭血管炎に起因するCRVOと考えられた.Purpose:Toreportacaseofcentralveinocclusioninayoungfemalewithsystemiccomplicationsofrheumatoidarthritisandanemia.Case:A31year-oldfemalevisitedTokyoWomen’sMedicalUniversityHospitalwithcomplaintofblurredvisioninherrighteye.Correctedvisualacuitywas1.2;fundusexaminationrevealedtortuousdilatationintheretinalvein,scatteredretinalbleedingintheperipheryandmilddiscswelling,withnofindingsintheanteriorsegment.Noabnormalsignsweredetectedinthelefteye.Fluoresceinangiographyshowedmildhyperfluorescenceonthediscandslightstainingoftheretinalveinwithoutnon-perfusionarea.Thesefindingsworsenedafter1month;doseinsystemicadministrationofsteroid,whichhadbeenadministeredtotreattherheumatoidarthritis,wasincreasedfrom2.5mg/dayto30mg/dayandcorrectedtheanemia.Thesymptomssubsidedin1.5months,withnoregressioninthe2yearssince.Conclusion:Thecentralretinalveinocclusion(CRVO)wasthoughttohaveoccurredasacomplicationofrheumatoidarthritisandanemia.Theincreaseddoseofsteroidadministrationresultedinthehealingofthesymptoms.TheCRVOinthiscasewasconsideredtohaveresultedfromopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):707.711,2013〕Keywords:中心静脈閉塞症,関節リウマチ,貧血,ステロイド,乳頭血管炎.centralveinocclusion,rheumatoidarthritis,anemia,steroid,opticdiscvasculitis.はじめに化が主要要因と考えられている1)が,7.20%くらいの頻度網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:で50歳以下の若年者に発症すると報告されている2).広範CRVO)はおもに高齢者に発症し,高脂血症,高血圧,糖尿な火炎状網膜出血を特徴とし,強膜篩状板またはその付近で病などの全身疾患を背景として発症するものが多く,動脈硬の網膜中心静脈の圧迫や,血栓形成により中枢側への血流の〔別刷請求先〕齊間麻子:〒332-8558川口市西川口5-11-5済生会川口総合病院眼科Reprintrequests:AsakoSaima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKawaguchiGeneralHospital,5-11-5Nishikawaguchi,Kawaguchi,Saitama332-8558,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(129)707 障害が原因とされている3).CRVOの自然経過は予後不良で,初診時視力が不良なほど最終視力が悪く,初診時視力が20/200では最終視力が20/200未満であり,初診時視力が20/200.20/50では改善が19%,不変が44%,悪化が37%であったと報告されている4).50歳未満の若年者では喫煙,高血圧,経口避妊薬,過剰な水分の摂取,血液の過粘稠状態に由来する深部静脈血栓などが危険因子とされている3).原因疾患として,鉄欠乏性貧血,抗リン脂質抗体症候群,潰瘍性大腸炎,インターフェロン治療中の慢性C型肝炎,長期にわたるステロイド薬の内服などの報告例がある5.12).若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOを,Hayrehは乳頭血管炎(opticdiscvasculitis)としてまとめ,病型は多くの場合非虚血型でその経過は緩徐であるが予後は良好であり,後遺症として,基幹網膜静脈および乳頭上の拡張した血管の白鞘形成がみられるとしている13).今回筆者らは,既往歴にコントロール不良の関節リウマチと小球性低色素性貧血がある若年女性の片眼の乳頭血管炎に起因すると思われるCRVOにおいて,すでに投与されていたプレドニゾロン全身投与を増量したことと,貧血の是正が奏効した症例を経験したので報告する.I症例患者:31歳,女性.主訴:右眼の霧視.既往歴:23歳発症の関節リウマチ,30歳発症の貧血.現病歴:平成22年6月初診.9日前から右眼の中心付近の霧視を自覚するようになり,徐々に増悪したため近医眼科を受診した.切迫型CRVOの疑いで精査目的にて東京女子医科大学病院に紹介受診となった.既往歴の関節リウマチは関節痛が強く,コントロール不良でありプレドニゾロン内服の増量が検討されていた.貧血も約1カ月前から治療開始されたが,それまで1年以上未治療であった.初診時所見:視力は右眼0.02(1.2×.8.5D),左眼0.03(1.2×.7.0D(cyl.0.5DAx5°),眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHgであった.相対的瞳孔求心路障害は両眼とも陰性で,前眼部,中間透光体に異常は認めなかった.右眼眼底に網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部に網膜出血の散在,および視神経乳頭の軽度腫脹を認め,左眼眼底には異常所見はみられなかった(図1a).フルオレセイン蛍光眼底撮影では早期像で右眼動静脈循環時間の遅延はなく(図1b),後期像では視神経乳頭に軽度過蛍光と後極静脈からの蛍光色素の漏出を認めたが,虚血性変化はなかった(図1c).光干渉断層計では.胞様黄斑浮腫は検出されなかった.血液生化学検査では血小板数(Plt)が高値であり,ヘモグロビン値(Hb),ヘマトクリット値(Ht),平均赤血球容積(MCV)の低値を認708あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013め,小球性低色素性貧血であった(表1).血糖,コレステロールおよび中性脂肪値は正常で,糖尿病や高脂血症はなかった.経過:初診時の眼所見から右眼の切迫型CRVOと診断された.右眼矯正視力1.2と良好であり,若年の非虚血型CRVOであったので,以前より内科で処方されていた.プレドニゾロン2.5mg/日,メトトレキサート12.5mg/週,溶性ピロリン酸第二鉄5mg/日は同量のまま継続とし,新たにアスピリン81mg/日とカリジノゲナーゼ150mg/日の内服を開始して経過観察した.初診から1カ月後の視力は矯正1.2と良好であったが,右眼眼底に網膜静脈の蛇行・拡張,火炎状網膜出血,軟性白斑の散在と一部にRoth斑を認め,視神経乳頭は発赤腫脹し乳頭血管炎の所見を呈していた(図1d).血液生化学検査ではHb,Ht,MCVは低値のままで,Pltも高値のままであり,C反応性蛋白(CRP)は1.32mg/dlと高値を示していた.関節リウマチと小球性低色素性貧血以外の血管閉塞をきたす疾患も考えられたため,抗リン脂質抗体症候群およびSjogren症候群について検査を施行したが,異常値は認めなかった(表1).同日よりウロキナーゼによる線溶療法(24万単位/日の点滴静注を2日間,12万単位/日の点滴静注を2日間,6万単位/日の点滴静注を2日間)を行ったが,ほとんど改善は認めなかった.初診後33日よりワルファリンカリウム5mg/日の内服を開始し,内科と相談のうえさらにプレドニゾロンを30mg/日に増量した(図2).プレドニゾロン増量後11日には右眼眼底の網膜静脈の蛇行・拡張は改善し,火炎状網膜出血は減少し,視神経乳頭腫脹の改善を認めた(図1e).そのさらに約1カ月後には視力は矯正1.2と良好なままであり,点状出血が残存するものの網膜静脈の蛇行・拡張および視神経乳頭腫脹はさらに改善していた(図1f).同日の血液生化学検査では,Hb,Ht,MCVは上昇して小球性低色素性貧血は改善,Pltの減少とCRPの上昇も改善した(表1).その後3カ月ごとの経過観察を行ったが,関節リウマチと貧血のコントロールも安定し再発は認めず,約2年後にも再発はなかった.II考按若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOを,Hayrehは乳頭血管炎(opticdiscvasculitis)としてまとめた13).その臨床的特徴として,健常な若年者の片眼に発症し,軽い霧視が唯一の症状であり,視力低下は軽度で経過中に正常に復すること,眼底所見は著明な乳頭浮腫と網膜静脈の拡張・蛇行,乳頭およびその周辺の網膜出血を伴うこと,病型は多くの場合非虚血型でその経過は緩徐であるが予後は良好であり,後遺症として基幹網膜静脈および乳頭上の拡張した血管の白鞘形成がみられるとしている.さらに乳頭浮腫が著明なI型と,(130) abcdefabcdef図1初診時および投薬後の所見a:初診時の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張,周辺部に網膜出血の散在および視神経乳頭の軽度腫脹を認める.b:初診時のフルオレセイン蛍光眼底写真.早期像で眼動静脈循環時間の遅延は認めない.c:初診時のフルオレセイン蛍光眼底写真.後期像では視神経乳頭に軽度過蛍光と後極静脈からの蛍光色素の漏出はあるが,虚血性変化は認めない.d:初診から1カ月後の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張,火炎状網膜出血,軟性白斑散在と一部にRoth斑があり,視神経乳頭は発赤腫脹し,乳頭血管炎の所見を認める.e:プレドニゾロン増量後11日の右眼眼底写真.網膜静脈の蛇行・拡張は改善し,火炎状網膜出血は減少している.視神経乳頭腫脹の改善を認める.f:プレドニゾロン増量後40日の右眼眼底写真.点状出血が残存するものの,網膜静脈の蛇行・拡張および視神経乳頭腫脹はさらに改善している.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013709 CRVOに類似したII型に分類し,I型は篩状板前部における毛様血管の非特異的炎症によるもの,II型は乳頭部または篩状板後部における網膜中心静脈の炎症としている.I型はステロイド薬に著効し予後良好で,II型はI型よりも効果的ではないがやはり予後良好として,ステロイド薬の有効性を認めている13).本症例は,高脂血症,高血圧,糖尿病などの血管閉塞を起こしうる基礎疾患がない若年発症の片眼のCRVOに合致する病態であり,主訴が霧視であるが視力は良好で乳頭浮腫を伴い非虚血型で,Hayrehの提唱する乳頭血管炎と考えられた.既往歴にコントロール不良の関節リウマチと小球性低色素性貧血があった.線溶療法を施行するも眼所見の改善は軽度にとどまり,関節リウマチに対するステロイド薬の増量により,血清学的な炎症反応の改善と,短期:ウロキナーゼ(万単位):プレドニゾロン(mg)35:ワルファリンカリウム(mg)3025201510507/277/297/318/28/48/128/287/287/308/18/38/68/149/12図2投与薬の経時的経緯間に眼底出血および視神経乳頭腫脹の著明な改善を認めた.眼所見の改善を認める経過中に,血清学的な小球性低色素性貧血も改善されており,貧血による相対的血小板増多が血栓形成を容易にする5.8)との報告もあることから,貧血の改善も眼底所見の改善に効果的であったと考えられた.これまでにも関節リウマチに合併したCRVO14,15)や貧血に合併したCRVO5.8)の報告はあるが,関節リウマチと貧血とを合併したCRVOの報告はない.以上より,本症例のCRVOの原因として関節リウマチに伴う血管炎と貧血が考えられた.本症例のように,若年者における乳頭浮腫を伴うCRVOの原因は単一ではなく,多因子が関与すると想像される.したがって,一つひとつの基礎疾患に対応した治療が必要となると考えられた.今回良好な経過をたどったのは,関節リウマチに伴う血管炎に対する治療と貧血の是正が奏効したと考えられた.若年者に発症したCRVOにおいて,高脂血症,高血圧,糖尿病などの血管閉塞をきたす疾患がない場合には,全身疾患の検索が必要であり,関節リウマチがあった場合は経過を把握し,状況に応じては内科医とも相談しステロイド薬などの抗炎症薬の全身投与の開始あるいは増量を検討するべきであり,さらに貧血があった場合には貧血の是正をするべきであると考えられた.文献1)HayrehSS:So-called“centralretinalveinocclusion”.I.表1採血結果の推移検査項目(正常値)平成22年6月29日(初診)平成22年7月27日平成22年9月17日Hb(g/dl)(12.16)7.88.011.2Ht(%)(35.43)28.828.236.7RBC(μm/μl)(380×104.480×104)395×104397×104456×104MCH(pg)(28.35)19.720.224.6MCV(fl)(82.102)71.471.080.5Plt(μm/μl)(15×104.35×104)40.8×10437.2×10429.2×104WBC(μm/μl)(4.0×103.8.6×103)6×1035.4×1037.2×103CRP(mg/dl)(≦0.30)1.30.07CH50(U/ml)(30.45)41.8C3(mg/dl)(65.135)110.0C4(mg/dl)(13.35)22.5ループスアンチコアグラント(<1.3)0.95抗CL-b2GPI(U/ml)(<3.5)≦1.2抗CL-IgG抗体(U/ml)(<10)≦8抗SS-A抗体(.)抗SS-B抗体(.)710あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(132) Pathogenesis,terminology,clinicalfeatures.Ophthalmologica172:1-13,19762)AndrewCO,FongMD,SchatzHetal:Centralretinalveinocclusioninyoungadults.SurvOphthalmol37:393417,19933)HartCD,SandersMD,MillerSJ:Benignretinalvasculitis.Clinicalandfluoresceinangiographicstudy.BrJOphthalmol55:721-733,19714)TheCentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19975)朝蔭博司,堀江英司,伊地知洋ほか:網膜中心静脈閉塞に毛様網膜動脈閉塞が併発した鉄欠乏性貧血症の1例.臨眼45:17-19,19916)高木康宏,瀬口ゆり,田村充弘:鉄欠乏性貧血患者に合併した毛様網膜動脈閉塞と網膜中心静脈切迫閉塞.臨眼51:1377-1379,19977)川崎厚史,橋田徳康,金山慎太郎ほか:鉄欠乏性貧血を伴った網膜中心静脈閉塞症の3症例.臨眼57:732-736,20038)冨田真知子,賀島誠,吉田慎一ほか:鉄欠乏性貧血の若年女性に発症した網膜中心静脈閉塞と網膜中心動脈分枝閉塞の合併症例.臨眼60:1219-1222,20069)須賀裕美子,本間理加,横地みどりほか:若年者の潰瘍性大腸炎に合併した網膜静脈閉塞症の1例.臨眼59:913916,200510)岡田泰助,品原正幸,前田明彦ほか:慢性C型肝炎に対するIFN-a療法中に網膜中心静脈閉塞症と網膜動脈の血流低下を呈した若年発症1型糖尿病の1例.小児臨56:47-50,200311)小林晋二,山崎広子:若年者に発症した両眼の網膜静脈閉塞症の1例.臨眼58:815-818,200412)新井麻美子,伊集院信夫,北野保子ほか:若年者に網膜中心静脈閉塞症を発症した抗リン脂質抗体症候群の1例.眼紀54:830-834,200313)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,197214)田代忠正,佐藤末隆,市岡東洋ほか:慢性関節リウマチに併発した半側網膜静脈閉塞症.明海大歯誌22:276-283,199315)青山さつき,岡本紀夫,栗本拓治ほか:半側網膜中心静脈閉塞症に網膜中心動脈閉塞症が続発したリウマチ性関節炎の1例.眼科49:731-735,2007***(133)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013711

日本医科大学付属病院眼科における強膜炎患者の統計的観察

2010年5月31日 月曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(91)663《第43回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科27(5):663.666,2010cはじめに強膜炎は,日常診療で遭遇することが珍しくない疾患であるが,自然軽快する症例から眼球摘出や失明に至る症例まで,その臨床像はさまざまである.強膜炎の約25.50%に全身性の免疫関連疾患がみられることが知られており1),感染性のものとしてヘルペスや梅毒,結核,非感染性のものとして関節リウマチ,血清反応陰性脊椎関節症,再発性多発軟骨炎などが知られている2).しかし,わが国における多数例についての統計報告は少なく,荒木ら3)の75例や黒坂ら4)の106例,伊東ら5)の170例があるのみである.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における最近の4年間の強膜炎および上強膜炎患者について統計学的検討を行った.I対象および方法2004年4月.2008年3月の4年間に当科外来を受診した強膜炎・上強膜炎患者59例(男性23例,女性36例)を対象とし,血液検査などの臨床検査結果の異常値の頻度,全身〔別刷請求先〕若山久仁子:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:KunikoWakayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN日本医科大学付属病院眼科における強膜炎患者の統計的観察若山久仁子堀純子塚田玲子伊藤由紀子高橋浩日本医科大学眼科学教室ReviewofScleritisandEpiscleritisatNipponMedicalSchoolHospitalKunikoWakayama,JunkoHori,ReikoTsukada,YukikoItoandHiroshiTakahashiDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool目的:過去4年間の強膜炎,上強膜炎の解析.対象:2004年から2008年までの4年間に当科を受診した強膜炎,上強膜炎患者59例.結果:男性23例,女性36例.平均年齢52.6歳.全体の52.5%が前部びまん性強膜炎で,ついで上強膜炎,前部結節性強膜炎,前部壊死性強膜炎,後部強膜炎と続いた.臨床検査結果に異常を示した割合は92%であり,異常頻度の高いものに蛋白分画,補体価,抗核抗体,リウマチ因子,免疫グロブリン値などがあった.約22%に全身性随伴疾患を認め,頻度の高い疾患として関節リウマチが38.5%,サルコイドーシスと再発性多発軟骨炎が各15.4%を占め,他に結核,血清反応陰性関節炎,トキソプラズマがあった.強膜炎の精査を契機に随伴疾患の診断に至った症例は69.2%であった.結論:強膜炎患者の9割が臨床検査結果に異常を呈し,約7割に随伴疾患が発見された.強膜炎診療における全身精査は重要である.Purpose:Toreviewcasesofscleritisandepiscleritisinourdepartment.Cases:Thisretrospectivestudyinvolved59newcasesofscleritisandepiscleritisduring4years,through2008.Results:Theseriescomprised23malesand36females,withanaverageof52.6years.Thetypeofscleritiswasdiffuseanteriorin52.6%,followedbyepiscleritis,nodularanteriorscleritis,necrotizinganteriorscleritisandposteriorscleritis.Ofourcases,92%hadabnormalresultsinlaboratorytests.Anassociatedsystemicdiseasewasrecognizedin13/59patients(22%);rheumatoidarthritiswasfoundin5ofthe13(38.5%),followedbysarcoidosisin2(15.4%),andrelapsingpolychondritisin2(15.4%).Thefindingofassociatedsystemicdiseasewasaresultoftheinitialdiagnosisin9ofthe13patients(69.2%).Conclusion:92%ofourcasesshowedabnormalresultsinlaboratorytests.Specificattentionisneededtodetectassociateddiseasewhenscleritisisdiagnosedinitially.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(5):663.666,2010〕Keywords:強膜炎,上強膜炎,全身性随伴疾患,関節リウマチ.scleritis,episcleritis,associatedsystemicdisease,rheumatoidarthritis.664あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(92)性随伴疾患についてレトロスペクティブに検討した.臨床所見に基づく分類はWatson分類6)に準じた.すなわち,今回の対象を上強膜炎,前部びまん性強膜炎,前部結節性強膜炎,前部壊死性強膜炎,後部強膜炎の5つに大別し,患者数,年齢,性別,異常を示した検査項目や全身性随伴疾患などについて検討した.強膜炎の原因検索のための臨床検査項目として,血算,生化学検査に加えて免疫グロブリン,リウマチ因子,補体価など表1にあげた検査を施行した(表1).II結果1.患者数,年齢,性別対象期間中の当科における全初診患者に対する強膜炎新患患者の割合は約0.3%(59/20,412人)であった.内眼炎初診患者における割合は13.6%(59/433人)であった7).初診時の年齢は22.83歳で,全体の平均年齢は52.6歳(男性48.6歳,女性54.9歳)であった.分布は20歳代から80歳代にわたり,40歳代でのみ男性に多い以外は他の年代ではすべて女性に多く,30歳代と50.60歳代に多いという二峰性のピークを示した.性別は男性23例,女性36例で,1:1.57と女性に多い傾向であった(図1).2.部位別・形状別分類強膜炎の約52.5%が前部びまん性強膜炎で最も多く,ついで上強膜炎27.1%,前部結節性強膜炎17%,前部壊死性強膜炎1.7%,後部強膜炎1.7%と続いた.男女比では上強膜炎のみ男性に多く,他は女性に多くみられた(図2).上強膜炎,前部結節性強膜炎は50歳代に最も多く,前部びまん性強膜炎は60歳代に最も多かった.前部壊死性強膜炎と後部強膜炎に関しては,症例数が少ないため,今後継続した観察が必要と思われる(図3).3.臨床検査結果全強膜炎患者のうち,臨床検査結果に何らかの異常を示した割合は92%で,男性では76%,女性では100%すべての症例で何らかの異常を認めた.異常頻度の高いものとして,蛋白分画〔そのうちアルブミン(Alb),a1,a2,gグロブリン〕,補体価(CH50,C3),抗核抗体(ANA),免疫グロブリン,リウマチ因子(RF),C反応性蛋白(CRP)などがあった(表2).また,ツベルクリン反応で強陽性を認めた4例のうち,1例は胸部X線上も異常陰影を認め,呼吸器内科で結核の診断に至った(表2).病型別では,症例の50%以上に異常を示したa2グロブリンは,検査を実施していなかった前部壊死性強膜炎を除い表1検査項目血算,生化学,血液像免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)リウマチ因子(RF,RAPA)補体価(CH50,C3)蛋白分画(Alb,a1,a2,b,g)抗核抗体(ANA)抗好中球細胞質抗体(ANCA)アンギオテンシン変換酵素(ACE)トキソプラズマ抗体抗マイクロソーム抗体ツベルクリン反応胸部X線23年齢(歳)□男性■女性例数741614121086420~1011~1021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~903587122321図1強膜炎,上強膜炎患者症例の性別・年齢別分布□後部強膜炎■前部壊死性■前部結節性■前部びまん性■上強膜炎1614121086420例数年齢(歳)~1011~1021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~90図3部位別・形状別分類における年齢別分布前部びまん性(31例,52.5%)男性11女性20前部結節性(10例,17%)男性1女性9前部壊死性(1例,1.7%)男性0女性1上強膜炎(16例,27.1%)男性10女性6後部強膜炎(1例,1.7%)男性0女性1図2部位別・形状別分類(93)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010665て,どの病型でも全般的に異常高値を示した.上強膜炎は,a2グロブリンとリウマチ因子では高い異常頻度を示したが,他の病型で異常頻度の高いCH50やC3といった補体価や抗核抗体では異常を示さず,検査所見陽性の割合が低い傾向にあった(表3).4.全身性随伴疾患全強膜炎患者の13例(男性4例,女性9例),約22%に全身性随伴疾患を認め,そのうち5例(38.5%)は関節リウマチであった.ついで再発性多発軟骨炎,サルコイドーシスが2例(約15.4%)であり,他に血清反応陰性脊椎関節症,結核,交感性眼炎,トキソプラズマが各1例であった(図表4全身性随伴疾患上強膜炎前部後部びまん性結節性壊死性16例31例10例1例1例59例(%)Total1831013(22.0%)関節リウマチ再発性多発軟骨炎サルコイドーシス血清反応陰性脊椎関節症結核交感性眼炎トキソプラズマ010000021201112001000100000000000005(8.5%)2(3.4%)2(3.4%)1(1.7%)1(1.7%)1(1.7%)1(1.7%)()内の数字は全59例における割合を示す.表3病型別分類における異常頻度の高い検査項目症例数a2(%)26/48(54.2)CH50(%)11/29(37.9)C3(%)1/5(20)ANA(%)6/33(18.2)RF(%)7/50(14)上強膜炎167/12(58.3)0/7(0)0/1(0)0/10(0)3/14(21.4)強膜炎前部結節性106/8(75)3/4(75)1/3(33.3)0/7(0)2/8(25)前部びまん性3112/27(44.4)7/17(41.2)0/1(0)6/25(24)2/27(7.4)前部壊死性1─────後部11/1(100)1/1(100)0/0(0)0/1(0)0/1(0)*異常値を示した例数/検査した例数(%).再発性多発軟骨炎:2例(15.4%)サルコイドーシス:2例(15.4%)血清反応陰性脊椎関節症:1例(7.7%)結核:1例(7.7%)交感性眼炎:1例(7.7%)トキソプラズマ:1例(7.7%)関節リウマチ:5例(38.5%)図4全身性随伴疾患表2異常を示した検査項目項目頻度(異常値の例数/検査例数)蛋白分画66.7%(32/48)Albumin27.1%(13/48)a110.4%(5/48)a254.2%(26/48)b4.2%(2/48)g10.4%(5/48)CH5037.9%(11/29)C320.0%(1/5)ANA8.2%(6/33)RF14.0%(7/50)免疫グロブリン14.9%(7/47)IgA4.3%(2/47)IgE6.4%(3/47)IgG2.1%(1/47)IgM2.1%(1/47)CRP10.2%(5/49)抗マイクロソーム抗体7.5%(3/40)ANCA(MPO)7.1%(1/14)WBC6.3%(3/48)RAPA5.1%(2/39)ZTT5.0%(2/40)CPK4.8%(2/42)ツベルクリン反応:陰性4.8%(1/21):強陽性19.1%(4/21)Xp異常陰影19.1%(4/21)666あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(94)4).このうち,強膜炎の精査がきっかけで随伴疾患の診断に至った症例は69.2%であり,平均年齢は52.6歳であった.病型別では,関節リウマチに随伴した強膜炎の病型は,前部びまん性強膜炎が2例,結節性2例,壊死性が1例であった.一方,再発性多発軟骨炎では上強膜炎,前部びまん性強膜炎1例ずつで,サルコイドーシスでは2例とも前部びまん性強膜炎であった(表4).III考按わが国において,強膜炎の多数例について検討した報告は3報ある.それらと今回の結果を比較した.また,今回は欧米の報告とも比較検討するため,Watsonら6)による病型別分類に従い,上強膜炎も含め検討した.本研究における症例数は4年間で59例で,年間平均約14例である.これは他施設の年間約6.8例3.5)という結果に比べ多いことがわかった.男女比は,従来の欧米の報告では,強膜炎は女性に多い疾患とされ,わが国の報告でも同様だが,慶應義塾大学4)でのみ男性に多いという報告である.当科は他の大学での報告と同じく女性に多いという結果を示していた.平均年齢も既報とほぼ同様で,50歳前後であった.年齢分布は30歳代と50.60歳代に多いという二峰性の分布を示しており,既報と比較すると伊東ら5)の上強膜炎の分布でも同様に二峰性の分布を示していた.臨床分類において最も多かった前部びまん性強膜炎は,当科では52.5%であり,伊東ら5)の57.7%,黒坂ら4)の約60%の報告とほぼ一致していた.欧米のWatsonら6),Tuftら8)の40%前後と比し,わが国では前部びまん性強膜炎の割合が高いと推測される.全身の臨床検査結果で何らかの異常を認めた割合は,全強膜炎の92%,男性では76%,女性ではすべての症例で異常を認めたが,これは女性のほうが膠原病の発生が多いことや眼炎症疾患の頻度が高いことなどが背景としてうかがえる.強膜炎の臨床検査項目として,当科では血算,生化学,血液像に加えて免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM),リウマチ因子(RF),補体価(CH50,C3),蛋白分画,抗核抗体(ANA),抗好中球細胞質抗体,アンギオテンシン変換酵素(ACE),抗マイクロソーム抗体,トキソプラズマ抗体,ツベルクリン反応,梅毒血清,胸部X線などを実施している.過去の報告において,RF高値の頻度は,Lachmannら9)の29%を除くと13.5.18.0%4.6,8)であり,当科の14%とほぼ同様の結果であった.抗核抗体陽性は当科では18.2%であり,他施設の20.5%4)や25%5)とほぼ同様である.しかし,抗核抗体は健常人でも低力価(40.160倍程度)の抗核抗体を検出することはまれではないといわれており,他の検査項目や問診などにより検査結果は総合的に判断することが必要と思われる.病型別の検査所見陽性の割合は,当科では上強膜炎が低い傾向にあったが,これは伊東ら5)の報告と同様であった.強膜炎と全身性疾患の関連はよく知られており,約25.50%に免疫関連疾患を合併するといわれている1).当科での合併率は22%であった.すべての施設で最も多いとされている随伴疾患は,関節リウマチで共通していた.頻度は当科では11.6%(強膜炎43例中5例,上強膜炎では0例)であり,黒坂ら4)の3.8%を除き他施設の10.1.15%3,6,8)と同様であった.随伴疾患を認めたもののうち,約7割が強膜炎を契機に随伴疾患の診断に至った.当科では,強膜炎患者に上記の検査項目を施行しスクリーニングするとともに,詳しい問診を施行している.検査結果に異常を認めた症例,問診から随伴疾患の合併が疑われたりする症例については,リウマチ科や膠原病内科,呼吸器内科などと連携し,可能な限りその発見に努めている.このことにより,このような高い発見率になったと思われる.強膜炎において全身性随伴疾患の検索は重要である.なお,今回の対象症例においては,随伴疾患を認めた症例と認めなかった症例との間で,臨床検査結果の異常頻度に差を認めなかった.当科では,今後も症例を増やして継続した検討を行いたいと考えている.文献1)SmithJR,MackensenF,RosenbaumJT:Therapyinsight:scleritisanditsrelationshiptosystemicautoimmunedisease.NatClinPractRheumatol3:219-226,20072)堀純子:強膜炎と全身性疾患.日本の眼科79:1-5,20083)荒木かおる,中川やよい,多田玲ほか:最近11年間における強膜炎75例の解析.臨眼41:1075-1078,19874)黒坂裕代,村木康秀,鈴木参郎助:慶應義塾大学眼科における強膜炎106例の検討.眼紀45:797-803,19945)伊東崇子,園田康平,有山章子ほか:九州大学眼科における20年間の強膜炎の検討.臨眼60:1213-1217,20066)WatsonPG,HayrehSS:Scleritisandepiscleritis.BrJOphthalmol60:163-191,19767)伊藤由紀子,堀純子,塚田玲子ほか:日本医科大学付属病院眼科における内眼炎患者の統計的観察.臨眼63:701-705,20098)TuftSJ,WatsonPG:Progressionofscleraldisease.Ophthalmology98:467-471,19919)LachmannSM,HazlemanBL,WatsonPG:Scleritisandassociateddisease.BrMedJ1:88-90,1978***