《第2回日本視野学会原著》あたらしい眼科31(6):891.894,2014c正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科VisualFieldDefectandVariousFactorsinNormal-TensionGlaucomaPatientsKenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の視野障害度による各種要因の関連を検討した.対象および方法:NTG289例を対象とし,視野欠損の程度分類で初期群139例,中期群81例,後期群69例に分けた.全症例で視野のmeandeviation(MD)値と年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数の相関を検討した.3群間で上記の因子と配合点眼薬使用率,角膜上皮障害の有無を比較した.結果:MD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)に有意な負の相関を認めた.使用薬剤数は,後期群(2.0±1.0剤),中期群(1.3±0.7剤),初期群(1.1±0.7剤)の順に多かった.配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)が中期群(12.8%),後期群(10.6%)に比べて有意に少なかった.結論:NTG患者では視野障害の進行に伴い使用薬剤数や配合点眼薬使用が増えていた.Purpose:Drugtherapybydegreeofvisualfielddefectinnormal-tensionglaucoma(NTG)patientswasinvestigated.SubjectsandMethods:Subjectswere289NTGpatients,classifiedinto3groupsbasedondegreeofvisualfielddefect:139earlystage,81middlestageand69finalstage.Correlationwasinvestigatedbetweenmeandeviation(MD)valueofvisualfieldandage,intraocularpressure,refractiondegree,glaucomahistoryandnumberofeyedropsused.Thesefactors,fixed-combinationeyedropusagerateandcornealepitheliumdisorderwerealsocomparedamongthe3groups.Results:SignificantnegativecorrelationwasrecognizedbetweenMDvalueandage(correlationcoefficientr=.0.263),numberofeyedrops(r=.0.392)andglaucomahistory(r=.0.165).Thenumberofeyedropswassignificantlygreaterinthefinalstagegroup.Therateoffixed-combinationeyedropswassignificantlylowerintheearlystagegroup.Conclusion:Thenumberofeyedropsandfixed-combinationeyedropsincreasedduetoprogressionofvisualfielddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):891.894,2014〕Keywords:正常眼圧緑内障,視野障害,薬物治療,配合点眼薬,関連.normal-tensionglaucoma,visualfielddefect,drugtherapy,fixed-combinationeyedrop,relation.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の残存視野の維持であるが,視野の維持に対して高いエビデンスが得られているのが眼圧下降である1).眼圧を下降させるために通常点眼薬を第一選択として使用するが,治療にあたっては目標眼圧を設定することが緑内障診療ガイドライン2)で提唱されている.目標眼圧の設定は病期,無治療時眼圧,余命,視野障害進行,その他の危険因子を考慮すると記されている.岩田は視野障害と目標眼圧について報告し,(狭義)原発開放隅角緑内障ではI期(Goldmann視野正常)は19mmHg以下,II期(弧立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ)は16mmHg以下,III期(視野欠損1/4以上)は14mmHg以下,正常眼圧緑内障は12mmHg以下とした3).また正常眼圧緑内障では30%以上の眼圧下降により視野が維持された患者が有意に多かったと報告されている1).しかし臨床現場において患者の視野障害度に関連して点眼薬をはじめとした各種要因を調査した報告はない.そこで今回,正常眼圧緑内障患者を対象として,視野障害度と各種要因の関連を検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)891I対象および方法2012年3月12日.18日に井上眼科病院を受診した正常眼圧緑内障患者で以下の条件を満たした289例289眼を対象として後ろ向きに調査を行った.対象の条件は,Humphrey視野検査を2011年12月以降に実施しており,固視不良が20%以下,偽陽性率33%以下,偽陰性率33%以下とした.両眼該当症例は右眼を,片眼該当症例は患眼を対象とした.白内障手術,緑内障手術を施行している症例は除外した.対象は,男性143例,女性146例,年齢は25.90歳で,平均年齢は61.1±12.5歳(平均値±標準偏差)だった.眼圧は13.6±2.2mmHg,8.21mmHgだった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardのmeandeviation(MD)値は.7.9±6.7dB,.29.5.+1.8dBだった.これらの症例をAndersonらによるHumphrey視野における視野欠損の程度分類4)を参考にして初期群,中期群,後期群の3群に分けた.具体的にはMD値>.6dBを初期群,.12dB≦MD値≦.6dBを中期群,MD値<.12dBを後期群とした.初期群は139例,中期群は81例,後期群は69例だった.全症例において視野のMD値と年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数の相関を各々検討した(Spearmanの順位相関係数).初期群,中期群,後期群の3群間で年齢,眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,使用薬剤数,配合点眼薬使用率,角膜上皮障害の有無を各々比較した(ANOVA,Kruskal-Wallis検定).なお配合点眼薬は2剤として解析した.また,当研究は井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得た後に行った.II結果全症例においてMD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)で各々有意な負の相関を認めた(p<0.01)(図1).一方MD値と屈折度数,眼圧には相関がなかった.初期群,中期群,後期群の3群間の比較では,年齢は後期群(66.7±11.4歳)が初期群(58.7±11.4歳),中期群(60.5±13.7歳)に比べて有意に高かった(p<0.0001)(表1).使用薬剤数は3群間に有意差があり,後期群(2.0±1.0剤),中期群(1.3±0.7剤),初期群(1.1±0.7剤)の順に多かった(p<0.0001).配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)が中期群(12.8%),後期群(10.6%)に比べて有意に少なかった(p<0.05).眼圧,屈折度数,緑内障罹病歴,角膜上皮障害の有無は3群間で同等だった.III考按今回,正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連を調査した.視野障害度(MD値)と年齢,緑内障罹病歴,使用薬剤数に負の相関を認めた.これらは若年者で,緑内障罹病歴が短く,視野障害が初期で,単剤使用の症例が多数含まれていたためと考えられ,緑内障の早期発見,早期治療の観点からは好ましい結果であった.使用薬剤数の結果は視野障害が進行すれば,たとえ眼圧が安定していても,さらに低い目標眼圧を設定し直すことになり,薬剤の追加が行われる状況を反映していた.一方,屈折度数や眼圧は全症例においても3群間(初期,中期,後期)の比較においても視野障害度との相関や視野障害度別の差がなかった.近視は緑内障発症の危険因子と報告されており5),今回も3群ともに屈折度数は近視を示していたが,視野障害度との関連はなかった.今回の調査では調査日測定の眼圧値のために,眼圧の変動については考慮されていない.また測定した眼圧がその患者の目標眼圧に到達しているかどうかも不明である.配合点眼薬使用率は初期群(3.4%)に比べて中期群(12.8%),後期群(10.6%)で有意に多かったが,使用薬剤数が関与していると考えられる.多剤併用症例ではアドヒアランスが低下するため6),配合点眼薬を使用することで点眼液数,総点眼回数を減らし,アドヒアランスの向上が期待できる.角膜上皮障害は使用薬剤数の多い中期群,後期群で出現しやすいと予想したが,3群間で有意差はなかった.今回は配合点眼薬を2剤として解析したが,角膜上皮障害の原因の一つである防腐剤は配合点眼薬では1剤分しか含有していないことが寄与したと考えられる.もし配合点眼薬を1剤として解析した場合は,今回の症例の使用薬剤数は初期群1.1±0.7剤,中期群1.2±0.5剤,後期群1.8±0.9剤となり差は縮まる.ただし角膜上皮障害は防腐剤だけではなく,基剤やドライアイなども関与するためにその原因の特定はむずかしい.正常眼圧緑内障患者を対象として視野障害度と各種要因の検討を行った報告は少ない7).NakagamiらはHumphrey視野のMD値を基準にして.6dB以上の初期群(29例),.6..12dBの中期群(34例),.12dB以下の後期群(29例)に分けて,背景因子を検討した7).年齢,性別,経過観察期間,屈折度,1日の最高眼圧,1日の平均眼圧,1日の最低眼圧,1日の眼圧変動幅,視神経乳頭出血の頻度のすべての因子において3群間で差がなかった.今回の結果とは異っていたが,その理由は不明である.一方,正常眼圧緑内障患者の視野障害進行に関連する因子については多数報告されている1,7.13).近視8),年齢9),性別(女性)10),視神経乳頭出血7,10,11),経過観察時の平均眼圧1,7,12,13)などが指摘されている.これらの報告では数年間の経過観察を行い,視野障害進行に関連する因子を抽出してお892あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(118)(119)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014893(歳)(dB)a:年齢(r=-0.263,p<0.0001)(剤)b:使用薬剤数(r=-0.392,p<0.0001)60-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-3660-6-12-18-24-30-36(dB)(dB)(dB)0(歳)0020406080100012345c:緑内障罹病歴(r=-0.165,p=0.0048)(dB)510152025(mmHg)(D)d:屈折度数(r=0.0041,p=0.510)e:眼圧(r=-0.032,p=0.589)-20-15-10-50510510152025図1視野障害と各種要因の相関a:年齢,b:使用薬剤数,c:緑内障罹病歴,d:屈折度数,e:眼圧.MD値と年齢(相関係数r=.0.263),使用薬剤数(r=.0.392),緑内障罹病歴(r=.0.165)で有意な負の相関を認めた.MD値と屈折度数,眼圧に相関は認めなかった.表1初期群,中期群,後期群間の各種要因の比較初期群中期群後期群p値例数1398169─年齢(歳)58.7±11.460.5±13.766.7±11.4<0.0001眼圧(mmHg)13.4±2.513.4±2.213.7±2.10.6241屈折度数(D).3.0±4.0.3.3±4.3.3.7±4.80.6256緑内障罹病歴(年)5.6±4.36.5±5.27.2±4.90.0542使用薬剤数(剤)1.1±0.71.3±0.72.0±1.0<0.0001配合剤使用率(%)3.412.810.6<0.05角膜上皮障害出現率(%)6.51.24.30.1944り,今回のようにある時点における比較とは異なる.今回の症例では,薬物治療で眼圧が十分に下降し,視野障害進行が抑制されている症例や,現在行っている薬物治療では眼圧下降が不十分で,視野障害が進行中の症例などが含まれていることがこれらの報告1,7.13)との相違の原因と考えられる.結論として,正常眼圧緑内障患者の視野障害度と各種要因の関連を調査したところ,視野障害の進行に伴い年齢や緑内障罹病歴が増加しており,また使用薬剤数や配合点眼薬の使用が増えていた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20123)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19924)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,2ndedition,p121-190,Mosby,St.Louis,19995)WilsonMR,HertzmarkE,WalkerAmetal:Acase-controlstudyofriskfactorsinopenangleglaucoma.ArchOphthalmol105:1066-1071,19876)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJ:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20097)NakagamiT,YamazakiY,HayamizuF:Prognosticfactorsforprogressionofvisualfielddamageinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol50:38-43,20068)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,20139)DeMoraesCG,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Riskfactorsforvisualfieldprogressioninthelow-pressureglaucomatreatmentstudy.AmJOphthalmol154:702711,201210)DranceS,AndersonDR,SchulzerM:Riskfactorsforprogressionofvisualfieldabnormalitiesinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol131:699-708,200111)IshidaK,YamamotoT,SugiyamaK:Diskhemorrhageisasignificantlynegativeprognosticfactorinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol129:707-714,200012)中神尚子,山崎芳夫,早水扶公子ほか:正常眼圧緑内障の視野障害進行に対する薬物用法の効果.日眼会誌108:408-414,200413)中神尚子,山崎芳夫,早水扶公子:正常眼圧緑内障の視野障害進行に対する薬物療法と臨床背景因子の検討.日眼会誌114:592-597,2010***894あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(120)