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シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(121)5530910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):553556,2009cはじめに臨床の場においてはコンタクトレンズ(CL)を装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が少なからず認められ,特にアレルギー性結膜炎やドライアイなどの患者で多く認められる1).しかし,CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによって,CLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も繁用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAC)であるが,一方で角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている46).筆者は過去に〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo610-0121,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofAcitazanolastHydrateOphthalmicSolution(ZEPELINROphthalmicSolution)forSiliconeHydrogelContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic抗アレルギー点眼薬のアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)は防腐剤にクロロブタノール,パラベン類が使用されており,角結膜やコンタクトレンズ(CL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として2種類のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(アキュビューRオアシスTM,O2オプティクス)装用中にゼペリンR点眼液を点眼した場合の安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,各CL中に主成分またはクロロブタノールが検出されたが,検出量はいずれも微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ゼペリンR点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.Theanti-allergicagentacitazanolasthydrateophthalmicsolution(ZEPELINRophthalmicsolution)containschlorobutanolandp-aminobenzoicacidsaspreservatives.Therefore,itsinuenceonthekeratoconjunctivaandcontactlens(CL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.AllergicconjunctivitispatientswereincludedinthisstudytoinvestigatethesafetyandCLabsorptionofactiveingredientandpreservativesinZEPELINRophthalmicsolution,instilledinwearesof2typesofsiliconehydrogelcontactlenses(ACUVUEROASISTM,O2OPTIX).Resultsshowedthattheactiveingredientorchlorobutanol,wasdetectedineachCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthetting.Fur-thermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeectswereobserved.Withsucientperiodicinspec-tionsunderadoctor’ssupervision,theuseofZEPELINRophthalmicsolutioninthepresenceofcontactlensesisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):553556,2009〕Keywords:アシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤,クロロブタノール,パラベン類,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角結膜障害,吸着.acitazanolasthydrateophthalmicsolution,preservatives,siliconehydrogelcontactlens,adverseeectsonthekeratoconjunctiva,absorption.———————————————————————-Page2554あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(122)BAC以外の防腐剤のクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液(以下,ゼペリンR点眼液)の酸素透過性ハードコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズおよび2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7).しかし,その後日本におけるCLの市場はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの普及が進み,今後もシェアの拡大傾向が予想される.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型CLと材質や表面処理,含水率などが異なるため,主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象当院を受診したアレルギー性結膜炎患者でCLの継続使用を希望し,かつ使用可能な患者5名(年齢2142歳,平均31.4歳,女性5名)を対象とした.2.使用レンズ2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:アキュビューRオアシスTM〔FDA(米国食品・医薬品局)分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:103[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:38%,中心厚:0.07mm(3.00D),直径:14.0mm〕.1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:O2オプティクス〔FDA分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:140[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:24%,中心厚:0.08mm(3.00D),直径:13.8mm〕.3.方法試験開始前に試験の趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た.ゼペリンR点眼液を1回2滴,1日4回(朝,昼,夕および就寝前),両眼に4週間点眼した.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはアキュビューRオアシスTM,O2オプティクスともに両眼に終日装用で4週間使用させ,アキュビューRオアシスTMは2週間ごとに交換し,点眼開始2週間目に交換したCLを回収した.O2オプティクスは4週間装用し,点眼開始4週間目にCLを回収した.回収したCLの1枚は主成分のアシタザノラスト定量用とし,他方1枚は防腐剤のクロロブタノールおよびパラベン類定量用とした.4.CLに吸着した主成分および防腐剤の定量a.主成分の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつpH7.0リン酸緩衝液2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液について液体クロマトグラフ法によりCLに吸着していたアシタザノラストを定量した.b.防腐剤の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつアセトニトリル2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液についてガスクロマトグラフ法によりCLに吸着していたクロロブタノールおよびパラベン類を定量した.5.自覚症状試験開始前,試験開始2週,4週目に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.6.細隙灯顕微鏡検査試験開始前,試験開始2週,4週目にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察と試験開始時,CL装脱直前に角結膜の観察およびCLフィッティング状態の判定を行った.7.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果A.アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表1に示す.主成分のアシタザノラストは5検体すべてから検出され,平均検出量は2.44±1.43μg/CLであっNNNHNH2ONHCOCOOH有効成分のアシタザノラスト水和物有効成分の含量:1.08mg/ml添加物:モノエタノールアミン,イプシロン-アミノカプロン酸,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,クロロブタノール,プロピレングリコール,ポリソルベート80pH:4.56.0浸透圧比:約1(生理食塩液に対する比)図1ゼペリンR点眼液の概要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009555(123)た.クロロブタノールは1検体のみから検出され,検出量は10μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められず,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.B.O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表2に示す.主成分のアシタザノラストは4検体から検出され,平均検出量は0.40±0.45μg/CLであった.クロロブタノールは3検体から検出され,平均検出量は2.58±2.78μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.また,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAC,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されてお表2O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.753.4NDND0.075NDNDNDNDNDNDND0.152.8NDND1.06.7NDND平均値±SD0.40±0.452.58±2.78検出限界(μg/CL)0.0110.840.400.56ND:検出限界以下.表1アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.60NDNDND1.9NDNDND2.1NDNDND4.4NDNDND3.210NDND平均値±SD2.44±1.432.00±4.47検出限界(μg/CL)0.0100.880.440.60ND:検出限界以下.———————————————————————-Page4556あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(124)り,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている814).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,1518).筆者はBACよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用したゼペリンR点眼液の従来型CL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,日本におけるCLの市場は2004年にわが国で初めてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるO2オプティクス(チバビジョン)が発売されて以降,普及が進み,現在ではこのレンズを含め同タイプのレンズは5種類7製品が販売されている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型素材のハイドロゲルコンタクトレンズの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルコンタクトレンズで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型ハイドロゲルコンタクトレンズと素材や表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,CLの種類により,主成分のCLへの吸着量に差が認められたが,防腐剤の吸着量は差が認められなかった.主成分についてはO2オプティクスと比較し,アキュビューRオアシスTMからの検出量が有意に多く(p<0.05:Student’st-test),CLへの主成分の吸着は使用期間よりもCLの素材と主成分の相互作用やCLの表面処理および含水率の違いにより,CL中に取り込まれる点眼液の量が影響している可能性が示唆された.また,検出量は通常の1日投与量に対して約1/4,2671/73と非常に少ない量であった.防腐剤については,クロロブタノールのみが検出され,アキュビューRオアシスTMとO2オプティクスで検出量に差は認められず,検出量は通常の1日投与量に対して約1/2861/80と非常に少ない量であった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用中の点眼使用による症状の悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:1387-1397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20038)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19779)PsterRR,BursteinN:Theeectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascan-ningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197610)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplidedrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198011)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198712)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,199113)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199114)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199315)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199216)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199217)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199318)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリュージョン,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,2008***

ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(117)3990910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):399403,2009cはじめに点眼薬の製剤設計においては,薬効だけでなく①角膜透過性および組織内移行性を含めた有効性,②角結膜および眼組織に対する安全性,③薬物の配合変化などの安定性,④さし心地(点眼時の眼刺激性)の4つの条件が要求される.これらの条件を満たすために,通常,点眼薬には主成分となる主剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,防腐剤,可溶化剤,安定化剤,懸濁化剤,粘稠化剤などが含まれている1).これらの成〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Daigaku1-1,Uchinada-machi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響福田正道佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)CytotoxicEfectsofNewQuinoloneAntibioticOphthalmicSolutionsandNonsteroidalAnti-InlammatoryOphthalmicSolutionsonCulturedRabbitCornealCellLineMasamichiFukudaandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.方法:SIRC(2×105cells)を培養5日後に4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬〔0.5%LVFX(レボフロキサシン),0.3%GFLX(ガチフロキサシン),0.3%TFLX(トスフロキサシン),0.5%MFLX(モキシフロキサシン)〕および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬(ジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%)1mlを060分間接触させ,生存細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.結果:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上と長く,細胞障害への影響は少なかった.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬のCDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められ,両薬剤間で有意差を認めた(p<0.001,Studentt-検定).結論:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬の細胞障害への影響は少なかったのに対し,2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は細胞障害性が強いことが示唆された.Weinvestigatedtheeectsof4newquinoloneantibioticophthalmicsolutions〔(0.5%LVFX(levooxacin),0.3%GFLX(gatioxacin),0.3%TFLX(tosuoxacin),and0.5%MFLX(moxioxacin)〕and2nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions(0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolutionand0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution)onaculturedrabbitcornealcellline(SIRC).CulturedSIRC(2×105cells)incubatedfor5dayswereexposedtothe6solutionsfor060min.SurvivingcellswerecountedbyaCoultercounter,and50%celldeathtime(CDT50;min)wascalculated.Cytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionswerealllowgrade(CDT50;>60min).Cytotoxiceectsof0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolution(CDT50;1.16min)and0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution(CDT50;2.56min)werehighgrade;asignicantdierencewasnoted(p<0.001,Student’st-test).Theseresultssuggestthatthecytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionsarelessthanthoseofthe2nonsteroidalophthalmicsolutionstested.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):399403,2009〕Keywords:ニューキノロン系抗菌点眼薬,非ステロイド性抗炎症点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),防腐剤,ベンザルコニウム塩化物.newquinoloneantibioticophthalmicsolutions,nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions,culturedrabbitcornealcellline(SIRC),preservative,benzalkoniumchloride.———————————————————————-Page2400あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(118)分はいずれもアレルギー反応などによって角結膜に障害をひき起こす可能性があるが,なかでも防腐剤は難治性の障害を起こしうることから特に注意が必要である2,3).現在,細菌性外眼部感染症や眼科周術期においては,幅広い抗菌スペクトルを有するニューキノロン系抗菌点眼薬や抗炎症作用を有する非ステロイド性抗炎症点眼薬などが汎用されているが,一定期間,反復点眼する必要があることを考えると安全性の確保も大きな関心事の一つである.本研究では4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.I実験材料および方法〔実験材料〕検討した点眼液は,レボフロキサシン水和物(LVFX)点眼液0.5%(クラビットR点眼液0.5%:参天製薬),トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)点眼液0.3%(トスフロR点眼液0.3%:ニデック,オゼックスR点眼液0.3%:大塚製薬),ガチフロキサシン水和物(GFLX)0.3%点眼液(ガチフロR0.3%点眼液:千寿製薬),モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)点眼液0.5%(ベガモックスR点眼液0.5%:アルコン),以上4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,およびジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%(ジクロードR点眼液0.1%:わかもと製薬),ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬),以上2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬である.なお,TFLX点眼液0.3%は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.各点眼薬の添加物については表1,2に示した.細胞は,DME(Dulbeccomodiedeagle)-10%FBS(fatalbovineserum)培地で37℃,5%CO2下で培養した家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60SIRC)を使用した.〔実験方法〕1.各種点眼薬のSIRCに対する影響SIRC(2×105cells)を35×10mm細胞培養ディッシュ(FALCONR)のDME-10%FBS培地で5日間培養後,コンフルエントになった状態で,前記4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬を各々1ml,0,2,4,8,15,30,60分間接触させた後,シャ表1ニューキノロン系抗菌点眼薬の有効成分と添加物クラビットR点眼液0.5%トスフロR点眼液0.3%*オゼックスR点眼液0.3%ガチフロR0.3%点眼液ベガモックスR0.5%点眼液有効成分(1ml中)レボフロキサシン水和物(LVFX)トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)ガチフロキサシン水和物(GFLX)モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)5mgトスフロキサシンとして2.04mgガチフロキサシンとして3mgモキシフロキサシンとして5mg添加物塩化ナトリウム硫酸アルミニウムカリウム塩化ナトリウムホウ酸pH調整剤ホウ砂塩酸等張化剤塩化ナトリウム水酸化ナトリウムpH調整剤2成分pH調整剤pH6.26.84.95.55.66.36.37.3浸透圧1.01.10.91.1(生理食塩水に対する比)0.91.1(0.9w/v%塩化Na液に対する比)0.91.1(0.9塩化Na液に対する比)*トシル酸トスフロキサシン(TFLX)は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.表2非ステロイド性抗炎症点眼薬の有効成分と添加物ジクロードR点眼液(0.1%)ブロナックR点眼液(0.1%)有効成分ジクロフェナクナトリウム1mg/mlブロムフェナクナトリウム水和物1mg/ml添加物ホウ酸ホウ砂クロロブタノールポビドンポリソルベート80ホウ酸,ホウ砂,乾燥亜硫酸ナトリウムエデト酸ナトリウム水和物,ポビドンポリソルベート80ベンザルコニウム塩化物水酸化ナトリウムpH6.07.58.08.6浸透圧約1.0———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009401(119)ーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.CDT50は,得られた生存率を基にして,時間-細胞死の曲線が二次関数になると仮定し,最小近似法で二次関数を決定後,細胞死が50%になる時間を算出した.二次方程式の解の公式,ax2+bx+c=0(≠0),x=b±-4ac/2aを用いた.CDT50を基準に,①5分以内(高度障害),②530分(中度障害),③30分以上(低度障害)に分類した.2.塩化ベンザルコニウムのSIRCに及ぼす影響SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地で5日間培養後,生理食塩水と各濃度のベンザルコニウム塩化物溶液(0.01%,0.002%,0.005%)を各々1ml,0,2,4,8,15,30分間接触させた後,シャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測しCDT50を算出した.II結果1.各種点眼薬のSIRCに対する影響(図1,2)4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上で,細胞障害の程度は低く,角膜障害への影響は少ないと考えられた.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は接触時間の経過とともに細胞生存率が徐々に減少し,CDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められた.また,その影響はジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%で有意に大きかった(p<0.001,Studentt-検定).2.ベンザルコニウム塩化物のSIRCに及ぼす影響(図3)生理食塩液,0.002%および0.005%ベンザルコニウム塩化物溶液のCDT50はいずれも30分以上と長く,細胞障害への影響は少なかったが,0.01%溶液では8.1分であり中度の障害がみられた.III考按筆者らはこれまでにSIRCを用いて種々の点眼薬の角膜細胞への影響を評価している.このSIRCは米国の細胞バンクにある家兎の角膜由来の樹立細胞で,世界的にさまざまな分野の研究に用いられている.眼の角膜障害試験においても広く使用されており,筆者らはSIRCを用いた角膜障害の評価法を独自に開発し,これまでに数多くの薬物の評価を行っている1,9).また,未公開の成績であるが,予備実験において筆者らはSIRCで得た抗菌点眼薬の細胞障害の成績とヒト由来角膜上皮細胞株(HCE-T)を用いた成績では大きな差がないことを確認したうえで,SIRCを実験に用いている.今回は,有効成分が抗菌作用を示し添加物に防腐剤が含まれていないニューキノロン系抗菌点眼薬に着眼し,防腐剤を含む非ステロイド性抗炎症点眼薬との角膜細胞への影響の相理時間(分)生存率(%)20406080100012340*:p<0.001Student’st-testn=5~6*******:ブロムフェナクナトリウム2.56:ジクロフェナクナトリウム水和物1.16CDT50(分)図2非ステロイド系抗菌点眼薬のSIRCへの影響分=5~6CDT50(分)020406080100051525301020:ベンザルコニウム塩化物0%(生食)>30:ベンザルコニウム塩化物0.002%>30:ベンザルコニウム塩化物0.005%>30:ベンザルコニウム塩化物0.01%8.1図3ベンザルコニウム塩化物溶液のSIRCへの影響0分1分4分8分15分30分60分TFLX100.097.691.596.194.496.895.9GFLX100.092.587.392.295.189.975.8LVFX100.096.698.193.491.179.661.4MFLX100.086.289.680.076.567.552.8図1ニューキノロン抗菌点眼薬のSIRCへの影響=4~6生存率(%)処理時間(分)———————————————————————-Page4402あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(120)違を検討した.眼科医療に携わる者にとって,点眼薬の安全性を知ることは,臨床において大変重要な事項である.点眼薬による角膜上皮障害は主剤あるいは添加物による細胞毒性が直接かかわると考えられる3).添加物の一つである防腐剤には,ベンザルコニウム塩化物,クロロブタノール,パラオキシ安息香酸エステル類などが使用されているが,これらは難治性の角膜上皮障害をひき起こす可能性が報告されている3).認可市販されている点眼薬のうち,60%にベンザルコニウム塩化物が使用されているといわれており4),その濃度は0.0010.01%である5,6).高橋ら7)は,ヒト結膜上皮細胞を用いた細胞毒性試験においてベンザルコニウム塩化物は低濃度でも細胞に障害を認めるため,通常濃度としては0.00250.005%が妥当であるとしながらも,たとえ0.0025%でも頻回点眼により粘膜障害を生じる可能性があることを報告している.点眼薬の角膜細胞障害性の客観的評価方法についてこれまであまり検討されてこなかったが,筆者らはCDT50(分)を指標とする評価方法を考案し,活用している.今回もSIRCを5日間培養した後,各点眼薬を一定時間接触させてシャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測して生存率(%)を算出し,培養細胞に接触してから細胞生存率が50%にまで減少した時点の時間で評価した.今回の検討では,薬剤接触後60分間測定を行ったが,4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上であり,細胞障害は低度であることが確認された.また,臨床的には05分までの点眼早期におけるCDT50が重要な意味をもつと考えているが,今回の成績では,いずれの点眼薬の早期の生存率も高く,角膜障害性が低いことが予想された.細胞障害性が低かった原因として,主剤そのものの細胞障害性が低いことに加え,防腐剤が含まれておらず,添加物の数も少なかったことが推察される.なお,点眼薬の接触時間とともにMFLX点眼液,LVFX点眼液,GFLX点眼液,TFLX点眼液の順で細胞生存率の減少がみられた.4薬剤間の有意差は検討していないが,TFLX点眼液における生存率減少カーブは緩やかであり,細胞障害への影響が最も少ない結果であった.この結果は,薬液添加後72時間培養後の細胞増殖に対する影響をみた櫻井ら8)の報告と異なるものとなったが,これは櫻井らが主剤の原末を溶解して使用したのに対して,本研究では臨床での影響を直接評価するために点眼液をそのまま用いたことなどが理由にあげられる.今回,家兎由来SIRC細胞で角膜障害性を評価したが,その一方で,多くの研究者によって角膜実質細胞に対しても評価が行われ,角膜上皮細胞との相違点が明らかにされている811).一方,非ステロイド性抗炎症点眼薬においては,防腐剤のベンザルコニウム塩化物が点眼による副作用として角膜上皮障害を起こすことが報告されている12).ジクロフェナクナトリウム点眼液においては,主剤とクロロブタノールとの相互作用により細胞障害が増加している可能性が高いことを,筆者らは確認している13).また,主剤である非ステロイド性抗炎症薬が角膜上皮障害を起こしうることも示唆されており,その原因としてシクロオキシゲナーゼ阻害によりリポキシゲナーゼが活性化され,生成されたさまざまなケミカルメディエーターにより炎症細胞の浸潤が起こる,細胞増殖抑制作用による,角膜知覚低下によるなどさまざまな説が提唱されている14).今回の検討において,ジクロフェナクナトリウム点眼液のCDT50は1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分であり,両薬剤ともに高度の細胞障害がみられた.ジクロフェナクナトリウム点眼液には防腐剤としてクロロブタノールが,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液にはベンザルコニウム塩化物が含まれており,角膜障害には主剤そのものの影響に加え,これら防腐剤の影響があったものと推察される.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では,主剤以外に種々の添加物を含み,特にベンザルコニウム塩化物を含んでいることが障害の大きな原因ではないかと考えている.ベンザルコニウム塩化物を含まないジクロフェナクナトリウム点眼液において細胞障害が有意に強かったが,これは白内障術後の角膜上皮障害について検討した進藤ら11)の報告とも一致する.防腐剤を含めた添加物の濃度は各点眼薬により異なり,その種類も多いことから,ベンザルコニウム塩化物以外の添加物またはその濃度が複雑に角膜上皮に影響を及ぼしている可能性がある.したがって,主剤はもちろん防腐剤を含めた添加物の種類およびその濃度による影響については今後の検討課題である.いずれにしろ,今回検討したニューキノロン系抗菌点眼薬はいずれも角膜細胞への影響が少ないことがCDT50を用いた評価で確認された.客観的評価に基づく今回の結果は,細菌性外眼部感染症および眼科周術期におけるニューキノロン系抗菌点眼薬の有用性を細胞障害性,すなわち安全性の側面から裏付ける有意義な知見といえよう.文献1)福田正道,村野秀和,山本佳代ほか:クロモグリク酸ナトリウム点眼液の角膜細胞への影響.あたらしい眼科22:1675-1678,20052)小玉裕司:コンタクトレンズと点眼薬.日コレ誌49:268-271,20073)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,20084)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,19935)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,1989———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009403(121)6)島潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,19917)高橋信夫,向井佳子:点眼用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19878)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20069)SeitzB,HayashiS,WeeWRetal:Invitroeectofami-noglycosidesanduoroquinolonesonkeratocytes.InvestOphthalmolVisSci37:656-665,199610)LeonardiA,PapaV,FregonaIetal:Invitroeectsofuoroquinoloneandaminoglycosideantibioticsonhumankeratocytes.Cornea25:85-90,200611)CutarelliPE,LassJH,LazarusHMetal:Topicaluoro-quinolones:antimicrobialactivituabdinvitrocornealepi-thelialtoxicity.CurrEyeRes1:557-563,199112)新城百代,仲村佳巳,酒井寛ほか:防腐剤を含まないb遮断薬による角膜上皮障害の改善.臨眼97:539-542,200313)福田正道,山代陽子,萩原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,200514)進藤さやか,飯野倫子,大下雅世ほか:白内障術後の非ステロイド抗炎症薬による角膜上皮障害.眼紀56:247-250,2005***