《原著》あたらしい眼科33(11):1641?1644,2016cアカントアメーバ角膜炎治療薬の基礎的検討川添賢志*1宮永嘉隆*1中林夏子*2野口敬康*2堀貞夫*1井上賢治*3*1西葛西・井上眼科病院*2わかもと製薬相模研究所*3井上眼科病院BasicConsiderationofanAcanthamoebaKeratitisCurativeKenjiKawazoe1),YoshitakaMiyanaga1),NatsukoNakabatyashi2),TakayasuNoguchi2),SadaoHori1)andKenjiInoue3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)InouyeEyeHospital目的:現在アカントアメーバ角膜炎に対して使用されている薬剤について,抗アカントアメーバ活性測定用培地を調製し,disc法またはカップ法を用いてそれらの阻止円を検証することにより,どのような治療効果が期待できるかを検討した.方法:培養したAcanthamoebacastellaniiに対し,アムホテリシンB,フルコナゾール,ミカファンギン,カスポファンギン,クロルヘキシジンさらにラクトフェリン,ポリビニルアルコールヨウ素を作用させ,その阻止効果を検討した.結果:Acanthamoebacastellaniiに対する抗アカントアメーバ活性は,0.05%以上のクロルヘキシジンのみに認められ抗真菌薬は無効であった.結論:アカントアメーバ角膜炎の治療において0.05%以上のクロルヘキシジンの有効性が示唆された.Purpose:WeexaminedtheeffectofthezoneofinhibitiontestonAcanthamoeba.Methods:Weassessedantifungaldrugs(amphotericinB,fluconazole,micafunginandcaspofungin),chlorhexidinegluconate,lactoferrinandpolyvinylalcoholiodineonAcanthamoebacastellaniiusingthezoneofinhibitiontest.Results:Onlychlorhexidinegluconatemorethan0.05%exhibitedanti-Acanthamoebaactivity.Conclusion:Useofmorethan0.05%chlorhexidinegluconateisrecommendedforAcanthamoebakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1641?1644,2016〕Keywords:Acanthamoebacastellanii,クロルヘキシジン,disc法,阻止円.Acanthamoebacastellanii,chlorhexidinegluconate,zoneofinhibitiontest.はじめにアカントアメーバ角膜炎は1988年にわが国で報告されて以来1),すでに約25年が経過している.角膜ヘルペスや角膜真菌症と類似した所見を呈することが多く,病変の進行は緩徐ではあるが炎症反応が強く,また角膜深層へ進展することもあり,治療が遅れると高度の視力低下を残すこともある.治療としては抗真菌薬内服,病巣掻爬,クロルヘキシジン点眼が発表され2),現在ではこれらの3者併用療法が基本的な治療となった3).コンタクトレンズケアの啓発による発症例の減少,さらに眼科医の初期における診断力の向上により角膜炎の重症化は減少傾向にあると思われる.しかし,一度発症してしまうと治療に難渋することが多く,現在臨床上使用されている治療薬がどのような機序で奏効しているのか明確でないところが多々ある.今回,今まで治療薬として使われてきたいくつかの抗真菌薬と消毒薬およびアカントアメーバに効果があると報告された薬剤について,抗アカントアメーバ活性をdisc法またはカップ法で確認して,今後のアカントアメーバ角膜炎に適応すべき薬剤の可能性について検討した.I目的現在アカントアメーバ角膜炎に対して使用されている薬剤について抗アカントアメーバ活性測定用培地を調製し,disc法またはカップ法を用いてその薬剤の阻止円を検証することにより,どのように治療上効果を発揮しているかを検討することを目的として下記の実験を行った.II材料と方法1.抗アカントアメーバ活性測定用培地の調製Escherichiacoli(ATCC8739)をSCD寒天培地(日本製薬)に培養し,滅菌水に浮遊させた.60℃1時間処理した後,OD660=0.5に調製した.1.5%寒天培地に0.3ml塗布し,乾燥させた.その培地に血球計算盤で計測したAcanthamoebacastellanii(ATCC30011)を1×108個塗布して25℃で1?3日間培養した.2.対象とした薬剤①0.02%アムホテリシンB(LifeTechnologies)②0.2%フルコナゾール(富士製薬工業)③0.25%ミカファンギン(アステラス製薬)④カスポファンギン(MSD)⑤クロルヘキシジン(山善製薬)0.02%,0.05%,0.5%⑥ラクトフェリン(和光純薬工業)⑦ポリビニルアルコールヨウ素(日本点眼薬研究所)3.抗アカントアメーバ活性の測定抗アカントアメーバ活性測定用培地上で抗真菌薬(①?④),クロルヘキシジン,ポリビニルアルコールヨウ素についてはdisc法,ラクトフェリンについてはカップ法により,阻止円を検討した.①?③は抗真菌薬として承認されているので,流通している近似濃度により検討した.それ以外のクロルヘキシジンを含む薬剤は,推奨される薬剤濃度が不詳だったため,いくつかの濃度を設定し検討した.III結果1)濃度を変えたクロルヘキシジンと抗真菌薬による阻止円の検討(図1)では,0.5%クロルヘキシジンによる阻止円が著明に陽性で,0.05%でも陽性であったが0.02%では陰性であった.アムホテリシンB,フルコナゾールおよびミカファンギンは陰性であった.2)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたカスポファンギンの各濃度の阻止円の検討(図2)では,各濃度のカスポファンギンによる阻止円はすべて陰性であった.3)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたラクトフェリンの各濃度の阻止円の検討(図3)では,各濃度のラクトフェリンによる阻止円はすべて陰性であった.4)0.5%クロルヘキシジンを基準薬としたポリビニルアルコールヨウ素の各濃度の阻止円の検討(図4)では,各濃度のポリビニルアルコールヨウ素による阻止円はすべて陰性であった.IV考按現在アカントアメーバ角膜炎治療に使用されている抗真菌薬やクロルヘキシジンが,どの程度の抗アカントアメーバ活性を示すかについて,視覚的に判断可能であるためMIC法に比べて判定が容易なdisc法またはカップ法で検討した.disc法が抗生物質同様に消毒薬を均等に拡散するかについては不明であったが,クロルヘキシジンにより阻止円が認められたことから,消毒薬も同様にdisc法にて判定できると判断した.また,臨床的には使用されていないが,抗アカントアメーバ活性をもつとされるカスポファンギン4)やラクトフェリン5),手術時に消毒薬としておもに用いられているポリビニルアルコールヨウ素6)の抗アカントアメーバ活性も検討した.その結果,現在のアカントアメーバ角膜炎治療に使用されている抗真菌薬や抗アカントアメーバ活性をもつとされるカスポファンギン,ラクトフェリン,ポリビニルアルコールヨウ素では,阻止円による抗活性は認められなかった.一方,抗真菌薬と同様に治療薬として使用されているクロルヘキシジンでは,0.02%では認められなかったが,0.05%以上の濃度であれば抗活性が認められた.クロルヘキシジンは0.02%で使用されている報告3)があり,Sunadaらは0.02%で効果があると報告している7).今回の結果では0.02%クロルヘキシジンは効果を認めなかったことから,0.02%はアメーバの増殖を抑制できる濃度ではないと考えられるため,角膜などの生体への副作用が認められないならば,0.05%クロルヘキシジンに近い濃度での使用がより効果的であると示唆される.抗真菌薬のアカントアメーバ角膜炎に対する効用については,さらなる検討が必要と考える.クロルヘキシジンの角膜に対する影響については,福田ら8)の報告がある.ウサギ角膜上皮細胞による検討ではあるが,50%細胞増殖阻止濃度は希釈液がリン酸緩衝液の場合,クロルヘキシジン濃度は0.05%,蒸留水の場合では濃度は0.02%であった.また,希釈液のみの場合の培養角膜上皮細胞の平均生存率を100%とした場合,0.02%クロルヘキシジンはリン酸緩衝液では88%,蒸留水では41%.0.05%クロルヘキシジンはリン酸緩衝液では41%,蒸留水では10%とクロルヘキシジンの濃度の違いが角膜上皮に及ぼす影響について報告している.今回,筆者らの実験では抗アカントアメーバ活性などについてdisc法またはカップ法で判定しており,日本コンタクトレンズ学会が消毒効果テストの際に実施したSpearman-Karber法9)とは判定方法が異なっている.今後は0.03%や0.04%クロルヘキシジンの濃度も加え,Spearman-Karber法での検討も必要と考える.また,抗真菌薬についても判定方法を変えての再検討が必要と考える.今回用いたAcanthamoebacastellaniiは土壌中に多いが,同様に土壌中に広く分布するAcanthamoebapolyphagaについても角膜炎の原因としての報告があるので10),Acanthamoebapolyphagaについても同様の実験が必要である.さらにアカントアメーバを分離するとパラクラミジア属菌などのあらゆる種類の存在が認められているので11),アカントアメーバが単独で増殖が可能かどうかも興味深いところである.また,近年アカントアメーバ角膜炎の症状悪化には共存状態にあるグラム陰性菌が関与していると報告されている12).わが国では最初に飯島12)が報告したアカントアメーバ角膜炎も緑膿菌との関係を示唆している.したがって,今後こういった菌との関係についても検討が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科5:1689-1696,19882)坂本麻里,藤岡美幸,椋野洋和ほか:角膜上皮掻爬と0.02%クロルヘキシジン点眼が奏効したアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:841-844,20043)丸尾敏夫,本田孔士,臼井雅彦:眼科学第2版.文光堂,p107-108,20114)BouyerS,ImbertC,DaniaultGetal:EffectofcaspofunginontrophozoitesandcystsofthreespeciesofAcanthamoeba.JAntimicrobChemother59:122-124,20075)鈴木智恵,矢内健洋,野町美弥ほか:ラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響.あたらしい眼科32:551-555,20156)小浜邦彦,末廣龍憲:PVP-Iodineのアカントアメーバに対する効果.日本災害医学会会誌44:689-693,19967)SunadaA,KimuraK,NishiIetal:InvitroevaluationsoftopicalagentstotreatAcanthamoebakeratitis.Ophthalmology121:2059-2065,20148)福田正道,村野秀和,山代陽子ほか:グルコン酸クロルヘキシジン液の培養角膜上皮細胞に対する影響.眼紀56:754-759,20059)ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.独立行政法人国民生活センター発表資料,200910)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,201011)Marciano-CabralF,CabralG:Acanthamoebaspp.asagentsofdiseaseinhumans.ClinicalMicrobiolRev16:273-307,200312)川口浩一,鈴木泰子,中本博直ほか:コンタクトレンズ装用により発生したアカントアメーバ角膜炎の3例.和歌山県臨衛技38:6-9,201113)飯島千津子,笹井幸子,宮永嘉隆:コンタクトレンズ付属器より分離されたAcanthamoeba緑膿菌性角膜潰瘍患者症例から.眼科30:1389-1392,1988〔別刷請求先〕川添賢志:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:KenjiKawazoe,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(103)1641図1各種薬剤の抗アカントアメーバ活性5%だけではなく,0.05%クロルヘキシジンにおいても阻止円が認められる.??が阻止円(5%クロルヘキシジンのdisc周りの白い円は薬剤による円であり,阻止円はその白い円の周りの黒く抜けて見える部分)である.Negativecontrolは,Acanthamoebacastellaniiを塗布していない抗アカントアメーバ活性測定用培地を用いて,抗アカントアメーバ活性の測定と同様に行った結果である.また,図1?4のすべてに認めるシャーレ内の白点は大腸菌であり,試験そのものには関係ない1642あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(104)図2カスポファンギンの各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもカスポファンギンに抗アカントアメーバ活性は認めなかった.図3ラクトフェリンの各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもラクトフェリンに抗アカントアメーバ活性は認めなかった.図4ポリビニルアルコールヨウ素の各濃度の阻止円の検討濃度を高めてもポリビニルアルコールヨウ素に抗アカントアメーバ活性は認めなかった.(105)あたらしい眼科Vol.33,No.11,201616431644あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(106)