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経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1194.1197,2019c経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進引間知広井上茉莉九州工業大学情報工学部生命化学情報工学科治療システム研究室CTrans-scleralIontophoreticDeliveryofHighMolecularWeightCompoundintothePosteriorSegmentoftheEyeTomohiroHikimaandMariInoueCDepartmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnologyC後眼部へ高分子薬物を送達させる方法として,経強膜イオントフォレシス(IP)の可能性をCinvitro実験で検討するとともに,促進メカニズムについて考察した.ブタ眼球から強膜,ならびに強膜・脈絡膜・網膜からなるCSCR膜を切り出し,眼球用水平拡散セルに取りつけた.電場は電流密度C0.8.6CmA/cm2,適用時間はC10.30分間として,平均分子量C10,000のイソチオシアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10)の累積透過量を測定した.その結果,IP適用によりCFD-10の透過速度は,最大C6.3倍まで増加した.促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加が大きな要因であり,また網膜色素上皮における損傷の可能性が示唆された.CWeconductedanexperimentoninvitrodrugdeliveryintotheposteriorsegmentthroughthesclera/choroid/retina(SCR)byCiontophoresis(IP)andCevaluatedCtheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIP.CScleraCorCSCRCwasCmountedCbetweenCsphericalCside-by-sideCpenetrationCcellsCandIP(currentdensity:0-8.6CmA/cm2)wasCappliedtothetissuefor10-30Cmin.Fluoresceinisothiocyanatedextran(averagemolecularweight:10,000,FD-10)Cwasusedasthemodeldrugofhighmolecularweight.ThepenetrationrateofFD-10withIPapplicationwas6.3timesChigherCthanCthatCwithoutCIPCapplication.CTheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIPCincreasedCFD-10Cconcentrationinthesclera,accompaniedbytheelectroosmoticwater.owofIPapplication,andmightpresentthepossibilityofdamagetoretinalpigmentepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1194.1197,C2019〕Keywords:後眼部,強膜,イオントフォレシス,電気浸透.posterior,sclera,iontophoresis,electroosmosis.はじめに社会の高齢化が進行するにつれて,加齢黄斑変性や糖尿病網膜症といった後眼部疾患の患者数が増加している1).これらは先進国においておもな失明原因疾患となっており,生活の質(qualityoflife)を大きく損なう原因となっている.治療薬は血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)阻害薬などの高分子化合物であり,治療薬投与方法はおもに硝子体内への注射である.長期間の繰り返し眼内注射は,感染症,外傷性白内障,そして網膜.離などが起きるといった問題点があげられる.そのため,非侵襲的な新規の後眼部組織への治療薬投与方法の確立が望まれている.そこで本研究では,後眼部疾患部位へ高分子薬物を送達させる方法として,電場を用いた経強膜イオントフォレシス(IP)に注目した.電場による高分子薬物の透過促進条件の検討,さらに経強膜CIPにおける透過促進メカニズムの検討を行った.CI実.験.方.法1.眼組織および試薬実験当日に屠殺されたブタ(月齢C6カ月前後の三元豚あるいは四元豚,メスまたは去勢済みのオス)の眼球を,福岡食肉販売株式会社より購入した.運搬中は氷を用いて冷やし,〔別刷請求先〕引間知広:〒820-8502飯塚市川津C680-4九州工業大学大学院情報工学研究院生命化学情報工学研究系Reprintrequests:TomohiroHikima,Ph.D.,DepartmmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnology,680-4Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-8502,JAPANC1194(92)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(92)C1194C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYa3.0)2.52.01.51.00.500.0累積透過量(μg/cm2図1眼科用球面型水平拡散セルの模式図0.00.501.01.52.02.53.03.5時間(h)実験は屠殺からC4時間以内に開始した.解剖用メスを使用しCb60て硝子体,水晶体,虹彩,毛様体を取り除き,強膜(sclera),50脈絡膜(choroid)/網膜(retina)からなるCSCR膜,ならびにピンセットにより脈絡膜と網膜(CR膜)を除去した強膜を単離した.モデル薬物として平均分子量C10,000のイソチオ)累積透過量(μg/cm24030シアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10,Sigma-Aldrich社)を用い,その他の試薬はすべて特級グレードを20用いた.2.SCR膜および強膜を用いたinvitro透過実験SCR膜あるいは強膜を球面型水平拡散セル(図1)の間に取り付け,レセプターセル(接続部分が凸型)にC5CmlのC120mMリン酸緩衝液(PB)を入れ,ドナーセル(接続部分が凹型)にC5CmlのC0.1%FD-10溶液を入れて透過実験を開始した.両セルに白金電極(ドナー側を陽極)を挿入し,実験開始C30分後から電場(電流密度はC0.43.8.6CmA/cmC2,通電時間はC10.30分間)を適用した.経時的にレセプターからC500μlサンプリングし,サンプル中のCFD-10濃度を蛍光分光光度計により定量した.C3.強膜における含水率およびFD.10含有量の測定電場を適用しない場合(control)とCIP適用(電流密度C4.3CmA/cm2)の場合における強膜内含水率,およびCFD-10含有量の変化を測定した.レセプターセルおよびドナーセルにPBを5Cml入れ,30分間実験を行った.ただちに強膜のCPBに接した部分を切り出し,湿重量を測定した.その後,約70℃の乾燥器内でC15時間以上乾燥させ,乾燥重量を測定して含水率を求めた.同様にして強膜を切り出し,強膜表面をPBで洗浄したあとに,試薬瓶に入れた.試薬瓶に抽出溶媒としてC50Cμg/mlゲンタマイシン硫酸塩含有CPBをC2Cml入れてCFD-10の抽出を行った.この操作をCFD-10が検出できなくなるまで繰り返した.CII結果1.IP適用による透過促進効果図2に適用時間をC30分間としたCFD-10累積透過量を示100時間(h)図2SCR膜(a)および強膜(b)透過に及ぼす電流密度の影響○:control(0CmA/cmC2),◆:0.43CmA/cmC2,■:4.3CmA/cmC2,●:8.6CmA/cmC2.した.SCR膜における累積透過量は,IP適用を止めたC30分後(実験開始からC1.5時間後)から増加した.一方,強膜においては,IP適用C20分後から透過量が増大し,IP停止後30分程度で,曲線の傾きである透過速度はCcontrolとほぼ同じになった.SCR膜と強膜では,IP促進効果が現れる時間帯が大きく異なるが,IP適用により増大した透過速度を最大透過速度とした.さまざまなCIP適用条件下での最大透過速度を表1にまとめた.SCR膜における最大透過速度はC129CmA/cm2・minのIP適用条件で頭打ちの傾向を示した(図3a)が,強膜では適用時間ならびに電流密度の増大に伴い,増大した(図3b).C2.IP適用による強膜含水率およびFD.10含有量の変化表2に強膜における含水率とCFD-10含有量をまとめて示した.実験前における強膜含水率はC71.1C±1.66%であったが,30分間CPBに浸してもCIPを適用してもほぼ変化がなく,有意差が生じなかった.FD-10含有量はCIP適用により,有意に増大した.(93)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1195C表1FD.10のSCR膜および強膜における最大透過速度(μg/cm2/h)電流密度(mA/cm2)IP適用時間10分20分30分SCR膜0(Control)C0.210±0.252C0.43C4.3C8.6C.C0.491±0.586C0.658±0.514C.C0.715±0.189C0.856±0.347C0.0907±0.0684C1.06±0.737C1.33±0.7640(Control)C10.2±7.07C強膜0.43C4.3C8.6C.C17.1±1.05C26.9±11.9C.C20.4±6.45C50.3±3.11C19.6±5.21C28.8±7.07C53.9±14.1それぞれのデータは平均値±標準偏差(nC≧3)を表す.C表230分間のIP適用後における強膜内含水率およびFD.10含a2有量含水率(%)FD-10含有量(μg)最大透過速度(μg/cm21.510.50050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)80ControlC69.8±5.83C8.31±3.01CIPC75.4±2.08C12.6±3.00*それぞれのデータは含水率(n=4)とCFD-10含有量(n=8)の平均値C±標準偏差を表す.*controlと有意差あり(p<0.05).れている.IPを適用しないCcontrol実験において,FD-10の透過速度はCSCR膜でC0.210C±0.252Cμg/cm2/h,強膜でC10.2C±7.07Cμg/cm2/hであり,CR膜をほとんど透過しないことがわかった.ところがCIPを適用すると,FD-10の最大透過200250300b706050403020100050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)200250300速度はCSCR膜で最大C6.3倍(電流密度C8.6CmA/cmC2,適用時間C30分間),強膜で最大C5.3倍(SCR膜と同じ適用条件)となった.また図3より,最大透過速度は電流密度と適用時間の積に比例することがわかった.したがって,IPによる高分子薬物の後眼部への送達量は,電流密度と適用時間により制御可能であることが示唆された.つぎに後眼部組織におけるCFD-10の透過促進メカニズムについて検討した.IPの透過促進メカニズムは,電荷をもつ薬物と電極との電気反発,電位差勾配による陽極から陰極へ向かう水の動きに伴う薬物の動きである電気浸透である4).FD-10は負電荷をもっているが,高分子のため実質的/h)最大透過速度(μg/cm2図3SCR膜(a)および強膜(b)透過速度と電流密度×適用時間の関係III考察強膜はコラーゲンに富んだ微多孔質膜構造であり2),CR膜は外側血管網膜関門(網膜色素上皮におけるバリア機能)の存在により,親水性薬物に比べ脂溶性薬物が透過しやすく,さらに高分子薬物が透過しにくい構造である3)と報告さに電気的中性の分子と考えられている5).ドナーを陽極とした本実験で,FD-10の透過速度が増大した.したがって,FD-10の透過促進効果は,電気反発よりも電気浸透が大きく寄与していることがわかった.さらに促進メカニズムとして,1)IP適用により起きる眼組織の損傷,2)眼組織内の含水率の上昇,3)FD-10の眼組織内での溶解量の増加,が考えられる.強膜においてCIP適用時に増大した透過速度は,IP適用を止めるとCcontrolとほぼ等しくなるまで減少した(図2).また,強膜では電流密度をC50CmA/cmC2まで上げても組(94)織損傷がないとの報告がある6).これらの結果からCIP適用による強膜損傷はない.しかし,図2aにおいて,FD-10のSCR膜透過量が増加し続けている.この結果から,IPによる網膜色素上皮のバリア機能が損傷している可能性が考えられた.さらに表2より強膜内の含水率は増加しなかったが,FD-10の含有量は増大することがわかった.IP適用により強膜内のCFD-10濃度が急激に上昇するため,IP適用から20分程度で強膜を透過する累積透過量が増大する(図2b)が,CR膜には高分子薬物に対するバリア機能があるため,IPによる促進効果が遅く現れる(図2a)と予想できた.IPによるバリア機能への影響は,IPの臨床応用に向けて明らかにしなければならない課題である.本研究結果からバリア機能の損傷の可能性が示されたが,可逆的な損傷であることも示唆された.タイトジャンクションによるバリア機能の頑強性は,電気抵抗により評価できる3).さらなる検討を行い,バリア機能の損傷について明らかにする.以上の結果から,IP適用による促進メカニズムとして,FD-10は電流密度と適用時間に比例する電気浸透により強膜内に押し込まれ,強膜内CFD-10濃度が増大することによる透過促進であることが予想できた.CIV結論高分子薬物の後眼部組織への送達方法として,経強膜CIPの有効性を示すことができた.そして後眼部組織への薬物送達量ならびに透過速度は,電流密度と適用時間により制御可能であることを示した.また,経強膜CIPによる透過促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加によることを明らかにした.経強膜薬物送達による薬物眼内動態を明らかにするためには,脈絡膜循環による薬物回収やメラニン色素との薬物結合の影響も考察しなければならない課題である.しかし,本研究では,これらの課題が検討できていない.本研究で考察したバリア機能の損傷可能性と同様に,IPの経強膜薬物送達での基礎的な検討を行うことにより,IPの臨床応用が可能になると期待している.文献1)小椋祐一郎:網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究:3年計画のC2年目.平成C24年度総括・分担研究報告書:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業2)GeroskiCDH,CEdelhauserHF:DrugCdeliveryCforCposteriorCsegmenteyedisease.InvestOphthalVisSciC41:961-964,C20003)PitkanenL,RantaV-P,MoilanenHetal:Permeabilityofretinalpigmentepithelium:E.ectsofpermeantmolecularweightCandClipophilicity.CInvestCOphthalCVisCSciC46:641-646,C20054)GuyRH,KaliaYN,Delgado-CharroMBetal:IontophoreC-sis:electrorepulsionCandCelectroosmosis.CJCControlCRelC64:129-132,C20005)NicoliCS,CFerrariCG,CQuartaCMCetal:InCvitroCtransscleralCiontophoresisofhighmolecularweightneutralcompounds.EurJPharmSciC36:486-492,C20006)Behar-CohenCFF,CElCAouniCA,CGautierCSCetal:Trans-scleralcoulomb-controllediontophoresisofmethylprednis-oloneCintoCtheCrabbiteye:in.uenceCofCdurationCofCtreat-ment,CcurrentCintensityCandCdrugCconcentrationConCocularCtissueand.uidlevels.ExpEyeResC74:51-59,C2002***(95)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1197C