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人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):119.122,2014c人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連横田聡辻隆宏西川邦寿小堀朗福井赤十字病院眼科SuspectedGlaucomaandSystemicVascularDisorderunderHealthCheckupSatoshiYokota,TakahiroTsuji,KunihisaNishikawaandAkiraKoboriDepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital目的:当院における検診受診者で緑内障疑いと診断された症例について,検診検査項目のうち特に血管異常に関係する項目との関連について検討する.対象および方法:2010年1月から12月の間に当院検診センターを利用し,生活習慣病一般検査に加えて,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた全362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).Bodymassindex(BMI),腹囲,喫煙歴,血圧,血糖,脂質,眼圧,頭部MRI,頸部超音波検査の結果と眼底写真により判定した緑内障疑いとの関連について検討した.結果:362人のうち緑内障疑いは66人であった.緑内障疑い群では,収縮期血圧異常(37.9%),空腹時血糖異常(18.2%),頭部MRIでの虚血性変化あり(30%)の割合が対照群(それぞれ25.3%,8.8%,11%)と比較して有意に高かった(p<0.05:c2検定).平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHgであり,対照群の13.1mmHgと比較して有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定).また,回帰分析では,頭部MRI虚血性変化や高い眼圧は緑内障疑いのリスクファクターであった(p<0.05).結論:緑内障性の視神経変化には高眼圧のほか全身および頭部の血管障害が関与している可能性がある.Torevealtherelationbetweenglaucomatousfundusandcerebrovasculardisorder,wereviewed362patients(258males,104females)whohadundergonebrainmagneticresonanceimaging(MRI),cervicalultrasonographyandfunduscameraexaminationatourhospital’shealthcheckupcenterfromJanuarytoDecember2010.Bodymassindex(BMI),waistcircumference,smokinghistory,bloodpressure,fastingglucose,serumlipid,intraocularpressure(IOP),brainMRIandcervicalultrasonographywerestatisticallyanalyzedinrelationtodiscappearance.Ofthe362patients,66werediagnosedwithsuspectedglaucoma.Thesuspectedglaucomagroupwasmorelikelytohavesystolichypertension(37.9%),impairedfastingglucose(18.2%),brainischemia(30%)andhighaverageIOP(14.0mmHg),ascomparedtothecontrolgroup〔25.3%,8.8%,11%(chi-squaretest)and13.1mmHg(Student’st-test),respectively〕.MultivariatelogisticanalysisshowedthatbrainischemiaandhighIOPsubjectsweremorelikelytobeinthesuspectedglaucomagroup(p<0.05).OtherthanIOP,brainMRIischemicchangewasrelatedtosuspectedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):119.122,2014〕Keywords:緑内障,検診,頭部magneticresonanceimaging(MRI)虚血性変化,高血圧,耐糖能異常.glaucoma,healthcheckup,brainmagneticresonanceimaging(MRI)ischemicchange,hypertension,abnormalglucosetolerance.はじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).しかし,正常眼圧緑内障のなかには眼圧非依存因子を推定させる所見を呈することも多い2).過去にも,循環障害や糖尿病については緑内障の発症や進展因子として関与していることが示されている3).また,近年,網膜神経線維層欠損や視野障害と脳微小血管異常との関連が報告された4).これは,脳の微小循環障害のある患者においては網膜にも同様の微小循環障害があり影響を及ぼしたものと推察される.緑内障連続体5)として見たと〔別刷請求先〕横田聡:〒918-8501福井市月見2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:SatoshiYokota,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,Tsukimi2-4-1,Fukui,Fukui9188501,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)119 きに,どの時点から脳微小循環と眼の機能的構造的異常が関連しているか詳しく調べられた報告は少ない.今回,筆者らは検診における緑内障疑い例の緑内障性視神経異常と脳ドックを含む全身の検診の項目との関連について調べたので報告する.I対象および方法対象は2010年1月から12月の間に福井赤十字病院検診センターを利用し,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).院内の倫理規定に従い,検診用カルテより臨床情報を収集し後ろ向きに解析した.眼底検査は無散瞳カメラ(CanonCR-DG10)で眼底写真の撮影を行い,得られた写真より緑内障の有無を判定した.判定は日本緑内障学会による緑内障ガイドライン1)に沿って行い,いずれかの眼で緑内障診断基準もしくは緑内障疑いと判定する場合の基準を満たすものを緑内障疑い群,それ以外を対照群とした.すなわち,陥凹乳頭径比(C/D比)については,Glosterらの方法6)を採用し視神経乳頭陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径を定規で測定しその比を垂直C/D比とした.リム乳頭径比(R/D比)についても,Glosterらの方法6)を採用しリム部の幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径の比をR/D比とした.垂直C/D比とR/D比をもとに,Fosterらが提唱する診断基準7)を参考に,垂直C/D比が0.7以上,上極もしくは下極のリム幅が0.1以下,両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,網膜神経線維層欠損の存在のいずれかを満たすものを本研究においての緑内障疑い群とした.検診時の担当医の判定を知らない筆者らのうちの1人が改めて判定を行い,当時の検診担当医の判定と一致しない場合には筆者らの間で協議を行ったうえで決定した.Bodymassindex(BMI)は25以上を異常とした8).腹囲は男性で85cm以上,女性で90cm以上を異常とした9).喫煙歴は受診時までに1年以上の習慣的喫煙歴の有無で分けた.血圧は収縮期血圧が140mmHgを超えるものもしくは拡張期血圧が90mmHgを超えるもの10),もしくは受診時に降圧剤の内服をしているものを異常とした.耐糖能は空腹時血糖が126mg/dl以上のもの11),もしくは糖尿病治療薬の内服をしているものを異常とした.脂質代謝はTG(トリグリセリド)150mg/dl以上,HDL(高比重リポ蛋白)40mg/dl未満,LDL(低比重リポ蛋白)140mg/dl以上のいずれかを満たすものもしくは高脂血症の治療薬の内服をしているものを異常とした12).眼圧は非接触眼圧計(NIDEKNT-3000)を使用して計測した.頭部MRIは,放射線科医,神経内科医,脳神経外科医のいずれかが読影を行いラクナ梗塞を含む虚血性変化のあるものを異常とした.頸部超音波検査では放射線120あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014科医が読影を行い,内頸動脈の壁肥厚が1.3mm以上あるものを異常とした.各因子の異常の有無と眼底写真においての緑内障疑いとの関連について統計学的に解析を行った.統計解析にはJMP(SASInstituteInc.バージョン10.0.2)を用いた.II結果362人のうち緑内障疑いは66人であった.残りの296人を対照群とした.緑内障疑い群では男性48名,女性18名,平均年齢58.2歳,対照群では男性210名,女性86名,平均年齢56.0歳で両群間に男女比および年齢分布に有意な差は認められなかった(c2検定,Studentのt検定).BMI異常,腹囲異常,喫煙歴,血圧異常,脂質代謝異常,頸部超音波異常はそれぞれ緑内障群で27.3%,45.5%,59.1%,40.9%,50.0%,対照群で33.1%,47.0%,58.1%,29.4%.52.0%に認められたが,両群間に有意な差は認められなかった(それぞれc2検定).収縮期血圧異常は緑内障疑い群で37.9%,対照群で25.3%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).耐糖能異常は緑内障疑い群で18.2%,対照群で8.8%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).頭部MRIでの虚血性変化がみられた割合は緑内障疑い群で30%,対照群で11%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).左右の平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHg,対照群で13.1mmHgと緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定)(表1).単変量解析で用いたパラメータを用いて変数強制投入法によるロジスティック回帰分析を行ったところ,表2に示すように,頭部MRIでの虚血性変化および左右平均眼圧が高いことが緑内障疑い群となるリスクを有意に上げることがわかった(p<0.05).しかし,年齢はリスク要因とはならなかっ表1緑内障疑い群と対照群においての各パラメータの単変量解析対照群緑内障疑いn=296n=66男女比*1(男/女)210/8648/18年齢*256.058.2BMI肥満*198(33.1%)18(27.3%)腹囲異常*1139(47.0%)30(45.5%)喫煙歴あり*1172(58.1%)39(59.1%)高血圧*187(29.4%)27(40.9%)(収縮時高血圧)*175(25.3%)25(37.9%)p<0.05耐糖能異常*126(8.8%)12(18.2%)p<0.05脂質代謝異常*1153(51.7%)36(54.5%)MRI頭部虚血*133(11.1%)20(30.3%)p<0.05超音波頸動脈肥厚*1103(34.8%)29(43.9%)平均眼圧*213.1mmHg14.0mmHgp<0.01*1:c2検定,*2:Studentのt検定.(120) 表2ロジスティック回帰分析による緑内障疑いとなるリスクファクターオッズ比(95%信頼区間)pvalue男女比(男)0.975(0.439.2.184)0.952年齢*11.004(0.970.1.039)0.826BMI肥満0.597(0.270.1.310)0.198腹囲異常1.130(0.527.2.374)0.750喫煙歴あり0.910(0.453.1.855)0.910高血圧1.062(0.555.1.995)0.854耐糖能異常2.093(0.909.4.633)0.081脂質代謝異常1.106(0.617.1.991)0.734MRI頭部虚血3.190(1.496.6.812)0.003超音波頸動脈肥厚1.103(0.590.2.033)0.755平均眼圧*11.131(1.017.1.258)0.023*1:単位オッズ比(年齢は1歳,平均眼圧は1mmHgの変化の場合).た.III考按わが国の緑内障有病率は多治見スタディより5.0%程度とされている13,14).本研究では緑内障疑いは受診者の18.2%と高頻度であった.実際に緑内障と診断されるには視野検査が必要であり,今回はスクリーニング検査のため高値となった.実際の緑内障患者で今回と同様の結果になるかは今後の検討課題である.緑内障と全身疾患との関連については過去にも報告されている15).既報3,16)と同様に,検診での緑内障疑い例と収縮期血圧異常や耐糖能異常との関連が示された.肥満は眼圧上昇の誘因であるとの報告17)もあるが,本研究では肥満や脂質代謝異常と緑内障疑いとの関連は認められなかった.これら生活習慣病一般検査と緑内障の関連が示されていることで,食習慣や生活習慣の改善・運動の習慣化といった生活習慣病の予防につながるライフスタイルが緑内障の予防にもつながる可能性が示された.これまでも脳虚血性変化と視野進行の関連は報告されている4).本研究では新たに頭部MRIにおける虚血性変化と緑内障性視神経乳頭形状変化との関連が認められた.頭部での微小循環の障害の患者では同様に網膜や視神経乳頭においても微小循環が障害されている可能性が高く,緑内障の治療や診断面において眼局所での循環と緑内障の発症・進展との関係について今後注目すべきである.血圧異常,耐糖能異常,脳虚血性変化や緑内障は高齢になれば罹患率は上がるため年齢による交絡の可能性がある.しかし,本研究は多変量解析で,年齢は緑内障疑い群となる因子でなく,頭部MRI虚血性変化および高い眼圧が,年齢に関係なく緑内障疑い群となる因子の一つとして示された.眼圧以外に脳の微小循環障害はそれ単独でも緑内障危険因子と(121)なることが判明した.一方,本研究では検診受診時のデータを使用しており,測定している項目が限られているため緑内障と関連があるとすでに報告されている因子のいくつかについては検討ができなかった.多治見スタディでは,近視と開放隅角緑内障との関連が示されている18).しかし,当院の検診では持参の眼鏡やコンタクトレンズでの矯正視力の測定のみで,オートレフラクトリーメータや最大矯正視力検査を行っておらず,本研究では屈折値と緑内障疑い群との関連の検討はできなかった.本研究により緑内障は高血圧症や糖尿病,脳循環障害などの全身疾患との関連があることが明らかになった.緑内障の予防や治療にはこれら全身疾患の改善も必要であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,20133)雨宮哲士,関希和子,笹森典雄ほか:人間ドックデータと緑内障性眼底変化との関連.山梨医科大学雑誌14:91-97,19994)SuzukiJ,TomidokoroA,AraieMetal:Visualfielddamageinnormal-tensionglaucomapatientswithorwithoutischemicchangesincerebralmagneticresonanceimaging.JpnJOphthalmol48:340-344,20045)WeinrebRN,KhawPT:Primaryopen-angleglaucoma.Lancet363:1711-1720,20046)GlosterJ,ParryDG:Useofphotographsformeasuringcuppingintheopticdisc.BrJOphthalmol58:850-862,19747)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20028)松沢佑次,坂田利家,池田義雄ほか:肥満症治療ガイドライン.肥満研究12:93,20069)メタボリックシンドローム診断基準検討委員会:メタボリックシンドローム診断基準.日内会誌94:794-809,200510)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2009.200911)糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病53:450-467,201012)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版.201213)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,200414)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmologyあたらしい眼科Vol.31,No.1,2014121 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