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入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(125)5570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):557560,2009cはじめに感染性角膜炎全国サーベイランスによると,2003年に全国24施設に来院した感染性角膜炎患者の年齢分布は20歳代と60歳代にピークを認める二峰性を示し,20歳代の患者のコンタクトレンズ(CL)使用率は89.8%であったという1).2002年以降の東邦大学医学部医療センター大森病院(以下,当院)にて入院を要した感染性角膜炎の症例においても同様の傾向を示しており,2005年,2006年では約半数がCL使用者であった.近年,CL装用は従来型のハードコンタクトレンズ(HCL)やソフトコンタクトレンズ(SCL)からディス〔別刷請求先〕岡島行伸:〒143-8451東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医学部医療センター大森病院眼科学教室Reprintrequests:YukinobuOkajima,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8451,JAPAN入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討岡島行伸小早川信一郎松本直平田香代菜杤久保哲男東邦大学医学部眼科学教室EvaluationofClinicalandEpidemiologicalFindingsinContactLens-RelatedInfectiousCornealUlcersRequiringHospitalizationatTohoUniversity,OmoriHospitalYukinobuOkajima,ShinichiroKobayakawa,TadashiMatsumoto,KayonaHirataandTetsuoTochikuboDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2005年1月から2007年12月の期間に東邦大学医学部大森病院にて入院加療を要したコンタクトレンズ(CL)が起因と思われる感染性角膜炎18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼,平均年齢25.5±7.9歳)を対象に,①視力(入院時および治療終了時),②種類,③装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年について検討した.入院時視力は0.1未満が7眼(36%),0.1から0.6以下は6眼(31%)であり,治療終了時視力は0.7以上が18眼(94%)であった.種類は,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)が3眼(16%),頻回交換型SCL(FRSCL)が9眼(47%)であった.装用方法は,守っていなかった例が8眼(42%)であった.角膜擦過から2眼(11%),CLあるいはCL保存液からは12眼中9眼(75%),細菌あるいはアカントアメーバが検出された.種類は角膜擦過から全例Pseudomonasaeruginosaが検出され,CLあるいはCL保存液からはPseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarce-scens5例,Acanthamoeba1例などが検出された.発生数は,2005年2眼(11%),2006年9眼(47%),2007年8眼(42%)であった.CL使用についてさらなる啓蒙が必要であると考えられた.AretrospectiveanalysiswascarriedoutinTohoUniversity,OmoriHospitaltoevaluatetheclinicalandepide-miologicalaspectsofcontactlens(CL)-relatedinfectiouscornealulcersrequiringhospitalization.Allpatientsinfor-mationastocultures,type,usage,outcomeandyearwasobtainedfromthe18patients(19eyes)includedinthestudy.Thevisualacuityof13eyesathospitalizationwasbelow12/20.ThreeeyesuseddailydisposableCL,9eyesusedfrequentlyreplacementCL.CLusagewasincorrectin8eyes.Bacteriawereculturedfromthecorneain2eyes,andfromCLstoragein10eyes.ThemostfrequentlyculturedorganismswerePseudomonas(8cases)andSerratia(5cases);Acanthamoebawasculturedin1case.Thenalvisualacuityof18eyeswasabove14/20.Therehadbeennooutbreakbefore2004;infectionoccurredin9eyesduring2006andin8eyesduring2007.ItiscriticaltoeducateCLwearersregardingproperwearingtechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):557560,2009〕Keywords:コンタクトレンズ,感染性角膜炎,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL),頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL),Pseudomonasaeruginosa.contactlens,infectiouskeratitis,disposablesoftcontactlens,frequentlyreplacementcontactlens,Pseudomonasaeruginosa.———————————————————————-Page2558あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(126)ポーザブルコンタクトレンズ(DSCL)や頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)へと急速に変化しており,さらにインターネットによって高度医療管理機器であるCLを眼科受診することなく購入できる環境となっている.今回,CLに関連した感染性角膜炎の動向を把握する目的で,当院にて入院加療を要した感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例について,検討を行った.I対象および方法対象は,2005年1月から2007年12月の3年間に当院に入院加療を要したCLに起因した感染性角膜炎(角膜潰瘍)18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼)で,平均年齢は25.5±7.9歳(1748歳)であった.入院加療の適応は,CLに起因した明らかな感染性角膜炎(角膜潰瘍)かつ角膜全体の混濁を認め,初診医が入院加療の必要性を認めた症例とした.各々の症例について,①視力(入院時および治療終了時),②使用CLの種類,③CLの装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年,⑥その他特記すべき背景について検討した.③CLの装用方法については,問診にて装用時間とCLケア方法を調査した.④病原体の分離,検出は,患者の同意を得たうえで病巣部(角膜)擦過およびCLやCLケースからの培養を施行した.角膜擦過は開瞼器をかけ,点眼麻酔下にて,円刃などを使用し病巣部の周辺部から中心へ擦過した.角膜擦過の検体,患者の使用していたCLおよびCLケース内の保存液は,シードスワブ2号(栄研化学㈱)および蒸留水入り滅菌試験管の2つに保存し当院検査部にて,培養を施行した.入院後の治療は,培養結果が得られるまで,レボフロキサシン(クラビッドR)またはガチフロキサシン(ガチフロR),トブラマイシン(トブラシンR),および塩酸セフメノキシム(ベストロンR)の計4種類の点眼を1時間ごと,オフサロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏R)の1日4回点入,および病巣部擦過を全症例に行った.さらに症状に応じて角膜掻破,抗菌薬の点滴および内服を追加した.培養結果が得られた後,計4種の点眼薬は適宜漸減した.なお,アカントアメーバが検出された症例では,イトラコナゾール(イトリゾールR)およびピマリシン(ピマリシン5%点眼液R)を追加した.対象となった症例に対しては治療経過中に臨床研究への参加の同意を得た.II結果1.視力(入院時および治療終了時)入院時視力:入院時0.01未満が5眼(26%),0.010.1以下が2眼(11%),0.1以上0.6以下が6眼(35%),0.7以上が4眼(21%),測定不能が2眼(11%)であった(図1).測定不能とは,痛みが強く検査に協力が得られず,正確な測定が行えなかった症例とした.7眼(37%)が入院時0.1未満であり,0.6以下は計13眼(68%)であった.治療終了時視力:治療終了時の矯正視力は,0.10.6が1眼(5%),0.7以上が18眼(95%)であった(図1).0.10.6の1眼は0.6であった.図中には示していないが,1.0以上得られた症例が14眼(74%)認められた.2.使用CLの種類入院前に使用されていたCLの種類については,不明の3眼(16%)を除き全例SCLが使用されていた(図2).DSCLが3眼(16%),FRSCL(2週間型)が9眼(47%),従来型SCLが4眼(21%)で,FRSCL(2週間型)を使用していた症例が最も多かった.3.CLの装用方法入院時に装用時間とCLケア方法について問診を行った.装用時間を守り,正しくケアを行っていた症例が7眼(37%),両方ともに怠っていた症例が8眼(42%),不明が4眼(21%)であった(図3).ほぼ行っていた,ときどき行っていなかったなどの回答は,守っていなかったと判定した.10.10.01LP治療終了時視力LPHMCF0.010.11入院時視力図1入院時および治療終了時の視力(n=19)LP:Lightperception(光覚弁),HM:Handmotion(手動弁),CF:Countingngers(指数弁).不明(3眼16%)従来型SCL(4眼21%)FRSCL(9眼47%)DSCL(3眼16%)図2使用CLの種類(n=19)DSCL:使い捨てSCL,FRSCL:頻回交換型SCL,SCL:softcontactlens.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009559(127)4.原因と推測される検出菌の種類と検出経路入院時に行った病巣部擦過および提供されたCLあるいはCLケース内の保存液の培養を行った(表1a,b).角膜擦過は全例(n=19),CLあるいはCLケース内の保存液の培養は12眼施行可能であった.角膜擦過では2眼(11%)のみ検出されたのに対し,CLあるいはCLケース内保存液からは9眼(47%)検出された.検出細菌の種類については,角膜擦過の検体からは,全例Pseudomonasaeruginosaが検出された(表1a).一方,CLあるいはCLケース内保存液からは,Pseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarcescens5例,Flavobacteriumindologenes4例,Bacillus属1例,Acanthamoeba1例が検出された(表1b).同一検体から複数の細菌が検出されることが多かった.5.発生年時2005年2眼,2006年9眼,2007年8眼であった(図4).2005年以降の増加が著しくみられた.2004年以前には入院治療となるような重症例はみられなかった.6.その他特記すべき背景両眼発症が1例2眼,過去に同様のトラブルを起こして加療したことがある症例が2例2眼(10%),アトピー性皮膚炎4例4眼(20%),カラーCL使用例が1例1眼(5%)であった.III考按現在,わが国でのCL使用者人口は1,500万人ともいわれている.特にDSCLやFRSCLは多様化し,利用者はさらに増加傾向にある.今回,筆者らが特に印象的であったのは,入院加療を要したCL由来の感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例が2005年以降急増していたことであった.この原因については,CL人口の自然増加にあるためとは考えにくく,むしろDSCLやFRSCL使用者を取り巻く環境や使用者の意識の変化といったものが関与していると思われる.平成18年6月から平成19年7月までに日本コンタクトレンズ協議会が行った,CLの装用が原因と思われる眼のトラブルによりCLの装用中止あるいは一時装用中止を経験したことのある人を対象とした調査では,眼科医療機関に併設する販売店から購入しているユーザーは全体の35.5%にすぎず,53.254.6%のユーザーは眼鏡店または量販店から,3.53.9%のユーザーはインターネットで購入している2).さらに同報告では,トラブル経験者では,27.649.2%のユーザーは定期検査すら受けていない.筆者らの結果,あるいは感染性角膜炎全国サーベイランスの結果から1),DSCLやFRSCLのトラブル例は20歳代が中心である.20歳代のユーザーが量販店やインターネットでCLを購入,定期検査をほとんど受けないで使用し,その結果感染性角膜炎を発症し医療機関を受診するという実態が浮かび上がる.また,症例にFRSCL装用者が多いことは,一度の購入価格が比較的低いことが影響しているのであろう.CLは高度医療管理機器であり,眼科医の管理下で適切に使用すべきであることをこれまで以上に社会に発信していくべきであると考える.今回筆者らは入院加療を要した症例を対象に検討を行ったが,病巣部あるいはCLケースや保存液からの検出菌はPseudomonasaeruginosaやSerratia属,Flavobacterium属といったグラム陰性菌が多数を占めた.感染性角膜炎の原因菌は,かつてPseudomonasaeruginosaが最大の原因菌であ不明(4眼21%)守っていなかった(8眼42%)守っていた(7眼37%)図3CLの装用方法(n=19)表1原因と推測される検出菌a:角膜擦過からの検出細菌ならびに検出数(n=19)Pseudomonasaeruginosa2眼検出されず17眼b:CLやCL保存液からの検出細菌ならびに検出数(n=19)検体提出なし(検査不可)7眼検体提出あり(検査可)12眼(検出なし3眼,検出あり9眼同一検体からの複数の細菌が検出)検出菌症例数P.aeruginosa8例Serratia属5例Flavobacterium属4例Bacillus属1例Acanthamoeba1例02468102005年2006年症例数2007年2例11%8例42%9例47%図4発生年———————————————————————-Page4560あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(128)ったが,1980年代以降はグラム陰性桿菌よりもグラム陽性球菌,特にStaphylococcusaureus,Staphylococcusepider-midis,Streptococcuspneumoniaeがかなりの割合を占めるとされる1).CL障害による角膜感染症では,通常の角膜感染症よりもグラム陰性菌の比率が高いとされ3),なかでもPseudomonasaeruginosaが最も多く検出される4,5).各施設,地域により原因菌の種類には差が出ると予測されるが,前者の報告は入院外来の別を問わず集計されたものであり,後者は大学病院における結果である.筆者らが今回対象としたような入院が必要な程度の角膜炎(重篤な症例)では,やはりPseudomonasaeruginosaが最多となるのであろう.さらに,難治例や特殊例の集中する施設では真菌やアカントアメーバが検出される割合が高い6).今回の筆者らの結果からは,真菌は検出されず,アカントアメーバが1例,CL保存液から検出されたが,原因病原体と考えるには疑わしい経過であった.今後,PseudomonasaeruginosaやSerratia属といったグラム陰性桿菌はもちろんのこと,真菌,アカントアメーバの可能性も念頭におく必要性があると考えられた.また,角膜擦過で細菌が検出された症例は全体の11%(2眼)にすぎなかったが,CLや保存液からは47%の症例にて細菌が検出された.すでに他院にて治療が行われていたこと,擦過するときに十分な協力が得られなかったことなども考えられるが,他の報告においても病巣からの検出率とCLからの検出率は一致しにくいとされる7).高浦らも述べているが,角膜感染症の起因菌はグラム陰性菌,特に緑膿菌の比率が非常に高く,CLや保存液からの検出菌もグラム陰性菌が高率に検出されることからCLや保存液,ケースの汚染が発症に深く関与していると考えられる8).大橋らは,感染様式として環境菌によるレンズケースの汚染+不完全なレンズケア→レンズの汚染→細菌性角膜炎発症という考えを述べているが,筆者らの症例の大部分はまさにその様式に該当するものと考えられる9).今回検討したなかでは,装用方法を正しく守っていたとされる例が8眼(40%)存在する.このことは,定期的なレンズケースの管理および洗浄の重要性を装用方法の順守とともに,医療従事者も含め,強く指導していく必要があると思われる.今回の結果では,来院時視力(入院時視力)はおおむね不良であったが,治療終了時の矯正視力は良好(0.7以上が95%)であった.症例の大部分が20歳代の健常人であることも大きく影響しているが,全般的に転帰は悪いものではなかった.しかし,潰瘍の位置によっては視力の数字だけでは評価できない影響があることは容易に想像され,長期加療による経済的損失も大きい.特に10歳代,20歳代のCL使用者に対しては,適切なCL管理の必要性を指導していくことが重要であると考えられる.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本コンタクトレンズ協議会:コンタクトレンズ眼障害アンケート調査の集計結果報告.日本の眼科78:1378-1387,20073)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57(増刊号):162-169,20034)Mah-SadorraJH,YavuzSG,NajjarDMetal:Trendsincontactlens-relatedcornealulcers.Cornea24:51-58,20055)VerhelstD,KoppenC,VanLooverenJetal:BelgianKeratitisStudyGroup.Clinical,epidemiologicalandcostaspectsofcontactlensrelatedinfectiouskeratitisinBel-gium:resultsofaseven-yearretrospectivestudy.BullSocBelgeOphtalmol297:7-15,20056)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の最近の動向.あたらしい眼科17:839-843,20007)白根授美,福田昌彦,宮本裕子ほか:近畿大学眼科におけるコンタクトレンズによる細菌性角膜潰瘍.日コレ誌43:57-60,20018)高浦典子:コンタクトレンズにおける感染症と角結膜障害.臨眼58:2242-2246,20049)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,2006***