《原著》あたらしい眼科40(2):271.277,2023c顕微鏡的多発血管炎治療中に網膜動脈分枝閉塞症を発症した1例飯田由佳*1林孝彰*1倉重眞大*2丹野有道*2中野匡*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター腎臓・高血圧内科*3東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofBranchRetinalArteryOcclusionduringTreatmentofMicroscopicPolyangiitisYukaIida1),TakaakiHayashi1),MahiroKurashige2),YudoTanno2)andTadashiNakano3)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DivisionofNephrologyandHypertension,DepartmentofInternalMedicine,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:全身性の抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に網膜動脈閉塞症の合併例の報告は少ない.今回,顕微鏡的多発血管炎(MPA)治療中に網膜動脈分枝閉塞症を発症したC1例を報告する.症例:78歳,男性.13年前にMPO-ANCA高値(600CEU)を認め,腎生検の結果CMPAと診断され,ステロイドと免疫抑制薬内服加療中であった.右眼下方視野異常を自覚したC2日後に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科を受診した.血清学的検査で,MPO-ANCAは陰性化していた.右眼の視力は(0.9)であった.眼底の血管アーケード内上方に網膜の白濁所見を認め,光干渉断層計画像で病変部網膜内層に高反射帯がみられた.光干渉断層血管撮影では病変部の網膜血管の描出不良を認め,フルオレセイン蛍光造影検査を施行し網膜動脈分枝閉塞症と診断された.慢性腎臓病ならびにCMPAに対して加療中であったため,アスピリン腸溶錠による加療を行った.発症C3カ月後,右眼視力(1.2)を維持していた.結論:MPAに対する治療によってCMPO-ANCAが陰性化しても,その経過中に網膜動脈分枝閉塞症は起こりうる.CPurpose:ThereChaveCbeenCfewCreportsCofsystemicCantineutrophilCcytoplasmicCantibody(ANCA)C-associatedCvasculitisCcomplicatedCwithCretinalCarteryCocclusion.CHereCweCreportCaCcaseCofCbranchCretinalCarteryCocclusion(BRAO)thatCoccurredCduringCtreatmentCofCmicroscopicpolyangiitis(MPA)C,ConeCofCtheCmostCcommonCformsCofCANCA-associatedvasculitis.Casereport:A78-year-oldmalewhohadanincreasedMPO-ANCAlevel(600EU)CandCwhoCwasCdiagnosedCwithCMPACafterCaCrenalCbiopsyC13CyearsCagoCandCwasCbeingCtreatedCwithCcorticosteroidsCandimmunosuppressivedrugspresentedwithalowervisual.eldabnormalityinhisrighteyeat2daysafterthesymptomConset.CSerologicCtestingCshowedCthatCMPO-ANCACwasCnegative,CandCbest-correctedCvisualCacuityCinChisCrighteyewas0.9.Funduscopyrevealedawhitishlesioninthesuperiorretinawithinthevasculararcade.Opticalcoherencetomography(OCT)revealedChyperre.ectiveCbandsCinCtheCinnerClayerCofCtheCretinaCatCtheClesion,CandCOCTangiographyshowedpoorvisualizationofretinalbloodvesselsinthelesion,.nallyleadingtothediagnosisofBRAOby.uoresceinangiography.SincethepatientwasundertreatmentforchronickidneydiseaseandMPA,hewastreatedwithaspirinenteric-coatedtablets.At3monthspostonset,thepatientmaintainedagoodvisualacu-ityCofC1.2CinCtheCrightCeye.CConclusion:BRAOCcanCoccurCduringCtheCcourseCofCMPA,CevenCafterCMPACtreatmentChasmadeMPO-ANCAnegative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(2):271.277,C2023〕Keywords:ANCA関連血管炎,顕微鏡的多発血管炎,網膜動脈閉塞症,光干渉断層計,光干渉断層血管撮影.an-tineutrophilcytoplasmicantibody(ANCA)C-associatedvasculitis,microscopicpolyangiitis,retinalarteryocclusion,Copticalcoherencetomography,opticalcoherencetomographyangiography.C〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANCはじめに全身性の抗好中球細胞質抗体(antineutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎は小血管(毛細血管,細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎で,ANCA陽性率が高いことを特徴とする1,2).肉芽腫性病変のみられないものが顕微鏡的多発血管炎(microscopicCpolyangiitis:MPA)と定義され,指定難病(告示番号C43)に認定されている.厚生労働省作成(https://www.nanbyou.or.jp/entry/245)によるMPAの診断基準を表1に示す.主要症候のC2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例,あるいは主要症候の①「急速進行性糸球体腎炎」および②「肺出血又は間質性肺炎」を含め2項目以上を満たし,myeloperoxidase(MPO)-ANCAが陽性の例はCDe.nite(確実例)と診断される.MPA罹患者の男女比はほぼC1:1で,好発年齢はC55.74歳と高齢者に多い.発熱,体重減少,易疲労などの全身症状とともに,組織の出血や虚血・梗塞による徴候が出現する.網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO)は,血管閉塞部位によって,網膜中心動脈閉塞症(centralRAO:CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)に分類される3).CRAOは急激な視力障害をきたす疾患で,網膜中心動脈への血栓や塞栓によって発症する.一方,BRAOは,網膜中心動脈の枝の網膜動脈が閉塞し発症する.過去に,ANCA関連血管炎にCRAOを合併した報告例は少ない.今回筆者らは,MPA治療中にCBRAOを発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:78歳,男性.主訴:右眼下方視野異常.現病歴:13年前の東京慈恵会医科大学葛飾医療センター(以下,当院)腎臓・高血圧内科受診時,全身性の高度炎症所見(白血球数C13,800/μl,CRP21.6Cmg/dl,血液沈降速度1時間値C140Cmm),腎障害(血清CCr値C2.97Cmg/dl),MPO-ANCAの抗体価高値(600CEU,基準値:20CEU未満)を認めた.白血球分画で好酸球数の増加はみられなかった.その後,出血性胃潰瘍がみられ,腎生検で急速進行性糸球体腎炎所見も認められた.MPAの主要症候のC2項目以上を満たし,かつ主要組織所見から確実例(表1)と診断された.診断後,ステロイドパルス療法および免疫抑制薬(タクロリムス水和物カプセルC2Cmg/日およびアザチオプリンC50Cmg/日)の治療により軽快し,約C1年半前よりプレドニゾロンC7.5Cmg/日および免疫抑制薬(ミコフェノール酸モフェチルC500Cmg/日)内服加療にて通院中であった.MPO-ANCAの直近C2年間の推移としてC1.0.4.5CU/ml(基準値:3.5CU/ml以下)であった.今回,2日前からの右眼下方視野の霧視を訴え当院眼科初診となった.既往歴:MPA,慢性腎臓病,高血圧,糖尿病,胃潰瘍,肺気腫,急性虫垂炎術後,右結腸切除後,肥満,帯状疱疹.初診時眼所見:視力は右眼C0.6(0.9C×sph+1.25D(cylC.1.75DCAx95°),左眼C0.4(0.9C×sph+1.25D(cyl.2.00DCAx85°),眼圧は右眼13mmHg,左眼10mmHgであった.両眼ともに偽水晶体眼である以外は,前眼部・中間透光体に特記すべき異常はなく,虹彩毛様体炎や強膜炎の所見はみられなかった.右眼眼底の血管アーケード内上方に網膜白濁とドルーゼンを認め,左眼眼底にはドルーゼンと視神経乳頭耳側下方に網膜神経線維欠損を認めた(図1).右眼黄斑部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,CirrusCHD-OCT5000)検査を施行し,中心窩の上方から耳側網膜内層に高反射帯所見を認め,同部位の網膜神経線維層は肥厚していた(図2).光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA,CirrusCHD-OCT5000)では,右眼の黄斑部上方網膜の網膜血管ならびに網膜毛細血管の描出不良を認めた(図2).同日,フルオレセイン蛍光造影検査を施行したところ,耳側に向かう網膜動脈の充盈遅延を認めた(図3).造影早期(造影C19秒,22秒,27秒後)から造影中期・後期(造影C44秒,1分10秒,7分11秒後)の画像(図3)をよく観察すると,閉塞動脈の起始部は視神経乳頭の耳側辺縁部からではなく中心部付近に存在していたことから,BRAOと診断した.一方,糖尿病網膜症の所見はみられなかった.血液検査所見:赤血球数,血小板数,凝固系,肝機能,電解質値に異常なし,白血球数C8,800/μl,CRP0.54Cmg/dl,血液沈降速度C1時間値C43Cmmと軽度の炎症反応を認めた.白血球分画は,好中球C79.5%,リンパ球C16.9%,単球C3.2%,好酸球C0.2%,好塩基球C0.2%でやや好中球の割合が高かった.Cr2.23Cmg/dl,eGFR23Cml/分/1.73CmC2,LDLコレステロール129mg/dl,HbA1c7.1%,MPO-ANCAC1.7U/ml,proteinase3(PR3)C-ANCA1.0CU/ml,リウマトイド因子C11.4CIU/ml,抗ストレプトリジン-O抗体20CIU/ml,可溶性CIL-2レセプター(solubleCinterleukin-2receptor:sIL-2R)604CU/ml,Cb-D-グルカンC6.0Cpg/ml,T-SPOT.TB(-)であり,腎障害に加えCsIL-2Rの軽度上昇を認めた.MPO-ANCAは陰性化していた.経過:発症から約C48時間経過しており,積極的な加療希望がなかったこと,慢性腎臓病ならびにCMPAに対してプレドニゾロンC7.5Cmg/日および免疫抑制薬内服加療中であったことから,内科医の許可を得て,同日よりアスピリン腸溶錠(100Cmg/日)のみ開始した.内服直後からふらつきを自覚し,自己中断していたため,クロピドグレル硫酸塩に変更した.変更後にふらつきは改善した.原因精査の目的で頸動脈超音波検査を施行し,両側総頸動脈分岐部から内頸動脈・外頸動脈にかけて高輝度プラーク(図4)を認めたが,閉塞や明らかな狭窄を疑う所見はみられなかった.頭部・眼窩単純表1顕微鏡的多発血管炎の診断基準(1)主要症候①急速進行性糸球体腎炎②肺出血または間質性肺炎③腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など(2)主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤(3)主要検査所見①CMPO-ANCA陽性②CCRP陽性③蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇④胸部CX線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎(4)診断のカテゴリー①CDe.nite(確実例)(a)主要症候のC2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例(b)主要症候の①および②を含めC2項目以上を満たし,MPO-ANCAが陽性の例②CProbable(疑い例)(a)主要症候のC3項目を満たす例(b)主要症候のC1項目とCMPO-ANCA陽性の例(5)鑑別診断①結節性多発動脈炎②多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)④川崎病動脈炎⑤膠原病(全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど)⑥CIgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)参考事項(1)主要症候の出現するC1.2週間前に先行感染(多くは上気道感染を認める例が多い.(2)主要症候①②は約半数例で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する.(3)多くの例でCMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する.(4)治療を早期に中止すると,再発する例がある.(5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる.難病情報センターのホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/245)より抜粋.図1初診時の眼底写真右眼眼底(左)にアーケード内上方の網膜白濁とドルーゼンを認め,左眼眼底(右)にはドルーゼンと視神経乳頭耳側下方に網膜神経線維欠損を認める.ab図2初診時の右眼黄斑部OCTおよびOCTA画像a:OCTのCganglioncellanalysisでは,中心窩の上方から耳側網膜内層に高反射帯所見を認め,同部位の網膜神経線維層は肥厚している.Cb:網膜全層のセグメンテーションによるCOCTA(3×3mm)で,黄斑部上方網膜の網膜血管ならびに網膜毛細血管の描出不良を認める.MRI検査を施行したところ,加齢性白質病変を認め,潜在的なCsmallCvesseldiseaseの存在が疑われた.MRI再評価の目的で脳神経外科にコンサルトし,クロピドグレル硫酸塩内服継続となった.Goldmann動的視野検査では右眼は網膜の病変部に一致した部位(中心下方)の視野障害を認め,左眼に視野異常はみられなかった.発症C2カ月後,右眼視力(1.0),OCT検査で右眼病変部の網膜神経線維層は菲薄化し,OCTAでは,病変部の網膜血管の血流シグナルは回復していたが,網膜毛細血管の血流シグナルは他の部位と比べ低下していた(図5).最終受診時(発症C3カ月後),右眼視力(1.2)を維持していた.CII考按今回,MPAに対してステロイドおよび免疫抑制薬内服加療中に,BRAOを発症した高齢男性例を報告した.全身性のCANCA関連血管炎は,MPAのほかに多発血管炎性肉芽腫症(旧称:Wegener肉芽腫症)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/Churg-Strauss症候群)がある2).MPO-ANCAは,MPAと好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で高率に検出され,PR3-ANCAは多発血管炎性肉芽腫症で検出されることが多い2).過去にCMPO-ANCAもしくはCPR3-ANCAが検出され,RAOを発症した報告例は大きくC2種類に分けられ,ANCA陽性で全身性のCANCA関連血管炎と診断されている症例と診断されていない症例である.これまでにわが国からCANCA陽性にCRAOもしくは毛様網膜動脈閉塞症を合併した報告例に関する文献検索を行った.全身性のCANCA関連血管炎の診断には至っていないものの,片眼性にCCRAOを発症し,血清学的検査でCMPO-ANCAが検出されたC4例の報告がある4.7).このC4例のうちC3例5.7)は高齢者で,1例4)はC26歳の男性であった.一方,小山らは,MPO-ANCAが検出された多発血管炎性肉芽腫症に対する治療直後に両眼のCBRAOを合併したC72歳の女性例を報告している8).58歳の男性が片眼のCCRAOを発症し,その後CPR3-ANCAが検出され多発血管炎性肉芽腫症と診断された報告例もある9).また,MPO-ANCA陽性の好酸球性図3初診時の右眼フルオレセイン蛍光造影写真各写真右上に造影開始からの時間経過を示す.造影早期(造影C19秒後)から後期(造影C7分C11秒後)にかけて観察すると,耳側に向かう網膜動脈の充盈遅延を認める(→).造影中期(造影C1分C10秒後)から閉塞網膜動脈の造影が観察される.造影早期(造影C19秒,22秒,27秒後)から造影中期・後期(造影C44秒,1分C10秒,7分C11秒後)の拡大画像をよく観察すると,閉塞動脈の起始部は視神経乳頭の辺縁部からではなく中心部付近に存在している.図4総頸動脈分岐部の超音波画像(長軸像)a:右総頸動脈分岐部から内頸動脈起始部に高輝度プラーク(.)を認める.Cb:左総頸動脈分岐部に高輝度プラーク(.)を認める.図5発症2カ月後の右眼黄斑部OCTおよびOCTA画像a:黄斑部COCTのCganglionCcellanalysisでは,病変部の網膜神経線維層は菲薄化している.Cb:網膜全層のセグメンテーションによるOCTA(3×3mm)で,病変部網膜血管の血流シグナルは回復しているが,網膜毛細血管の血流シグナルは他の部位と比べ低下している.多発血管炎性肉芽腫症にCCRAOを合併した高齢者C3例の報告10.12)や,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に両眼のCCRAOの合併例の報告もある13).これらC4例10.13)のCCRAOは,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の診断もしくは治療直後に発症している.一方,全身性のCANCA関連血管炎に毛様網膜動脈閉塞症を合併した報告例として,片眼性の毛様網膜動脈閉塞症発症直後にCMPO-ANCA陽性の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と診断されたC48歳の女性の報告があった14).MPO-ANCA陽性CMPAで経過観察されていた本症例は,フルオレセイン蛍光造影検査(図3)で右眼CBRAOと診断された.過去の報告をまとめると,全身性のCANCA関連血管炎と診断されていなくても,ANCAが検出されればCRAOを合併する可能性があり,PR3-ANCA陽性例に比べCMPO-ANCA陽性例の報告が多かった.また,発症時期に関しては,RAO/毛様網膜動脈閉塞症の発症を機にCANCA関連血管炎と診断された症例,ANCA関連血管炎の診断もしくは治療直後に発症した症例に分類された.本症例は,MPAと診断されたC13年後にCBRAOを発症した.筆者らが調べた限り,本症例のようにCMPAの確実例と診断され,その診断・治療前後においてCRAOもしくは毛様網膜動脈閉塞症を合併した報告例はなかった.このことから,全身性のCANCA関連血管炎のなかでもCMPAにCRAOを合併することは,まれな病態である可能性が示唆された.一方で,本症例は,発症時の年齢がC78歳と高齢で,コントロールは比較的良好であったものの,高血圧と糖尿病の存在,慢性腎臓病の加療中であったこと,さらに,頸動脈超音波検査で両側性に高輝度プラーク(図4)を認めたことから,MPAとは関係なく,BRAOを発症した可能性は否定できなかった.しかし,少なくともCMPAの存在がCBRAO発症のリスクを高めた可能性は考えられる.過去の報告と照らし合わせると,ANCA陽性であれば全身性のCANCA関連血管炎の診断の有無にかかわらず,RAO/毛様網膜動脈閉塞症は起こりうる合併症である.本症例を経験し,治療によってCMPO-ANCAが陰性化しても,MPAの経過中にCBRAOを発症する可能性がある.本論文の要旨は,第C38回日本眼循環学会(富山,2022)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本循環器学会ほか:血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版).p54-60,C20182)高田秀人,針谷正祥:血管炎ANCA関連血管炎.日本臨床C77:531-542,C20193)HayrehSS:AcuteCretinalCarterialCocclusiveCdisorders.CProgRetinEyeResC30:359-394,C20114)渡辺一順,加瀬学:網膜中心動脈閉塞症を呈したCP-ANCA陽性網膜血管炎.あたらしい眼科C17:1429-1432,C20005)YasudeT,KishidaD,TazawaKetal:ANCA-associatedvasculitisCwithCcentralCretinalCarteryCocclusionCdevelopingCduringCtreatmentCwithCmethimazole.CInternCMedC51:C3177-3180,C20126)土橋直史,八田和大,石丸裕康ほか:網膜中心動脈閉塞症,糸球体腎炎,間質性肺炎,脳梗塞,肥厚性硬膜炎を合併したCANCA関連血管炎の一例.日本リウマチ学会総会・学術集会プログラム・抄録集C03:660,C20167)高木麻衣,小林崇俊,高井七重ほか:ANCA関連血管炎に発症した網膜中心動脈閉塞症のC1例.眼臨紀C10:960,C20178)小山里香子,本間栄,坂本晋ほか:気管支粘膜病変と全身の血管炎が顕著であったCPR3-ANCA陰性ヴェゲナー肉芽腫症疑いのC1例.日本呼吸器学会雑誌C41:646-650,C20039)小林大介,和田庸子,村上修一ほか:網膜中心動脈閉塞で発症したCWegener肉芽腫症の一例.中部リウマチC40:C100-101,C201010)山下嘉郎,村上一雄,横田英介ほか:網膜中心動脈閉塞症,多発大腸潰瘍の合併を認めたアレルギー性肉芽腫性血管炎の1例.愛媛医学C25:128-133,C200611)AsakoCK,CTakayamaCM,CKonoCHCetal:Churg-StraussCsyndromeCcomplicatedCbyCcentralCretinalCarteryCocclu-sion:caseCreportCandCaCreviewCofCtheCliterature.CModCRheumatolC21:519-523,C201112)井上千鶴,中道悠太,杉山千晶ほか:前部虚血性視神経症と網膜中心動脈閉塞症が併発したアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)の症例.臨眼C67:369-376,C201313)UdonoCT,CAbeCT,CSatoCHCetal:BilateralCcentralCretinalCarteryCocclusionCinCChurg-StraussCsyndrome.CAmCJCOph-thalmolC136:1181-1183,C200314)安田貴恵,信藤肇,波多野裕二ほか:眼症状を伴ったアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)のC1例.臨床皮膚科C55:1027-1030,C2001***