《原著》あたらしい眼科30(11):1619.1622,2013c味覚センサを用いたムコスタR点眼液UD2%に含有されるレバミピドの苦味評価と飲食物による苦味抑制評価原口珠実宮崎愛里吉田都内田享弘武庫川女子大学薬学部臨床製剤学研究室TasteSensorEvaluationofBitternessofRebamipideContainedinMucostaROphthalmicSuspensionUD2%andBitternessSuppressionbyRefreshmentsTamamiHaraguchi,AiriMiyazaki,MiyakoYoshidaandTakahiroUchidaDepartmentofClinicalPharmaceutics,FacultyofPharmaceuticalSciences,MukogawaWomen’sUniversityムコスタR点眼液UD2%は,点眼後に主薬のレバミピドの苦味を呈することが知られている.本研究では味覚センサを用いてレバミピドの苦味を効果的に抑制しうる飲食物を探索することを目的とした.高速液体クロマトグラフィーを用いた測定により,ムコスタR点眼液UD2%に溶解しているレバミピドは約300μg/mLであった.レバミピドの濃度依存的に応答する脂質膜味覚センサAE1を用いてレバミピドの苦味を定量的に評価した.レバミピド溶液300μg/mLの膜応答値に及ぼす飲食物の影響を検討したところ,コーヒー,味噌汁,ココアの順にレバミピド溶液の膜応答を抑制した.味覚センサ測定結果とヒト官能試験結果には高い相関があり,レバミピドの苦味抑制に効果的な飲食物を探索する方法として味覚センサの有用性が示唆された.ムコスタR点眼液UD2%点眼後の苦味を抑制する飲食物として,コーヒーが最も有効であることが示唆された.TheinstillationofMucostaRophthalmicsuspensionUD2%totheeyesisknowntocauseabittertastederivingfromitsactiveingredient,rebamipide.Thepurposeofthisstudy,usingatastesensor,wastoscreenrefreshmentsthatcouldhaveapositiveeffectonsuppressingthebitternessofrebamipide.Wedeterminedviahigh-performanceliquidchromatography(HPLC)thattheconcentrationofrebamipidedissolvedinMucostaRophthalmicsuspensionUD2%wasapproximately300μg/mL.Wethenevaluatedthebitternessusingatastesensoroflipid/polymermembraneAE1,whichrespondstorebamipideinadose-dependentmanner.Thetastesensoroutputof300μg/mLrebamipidewasdecreasedbycoffee,cocoaandmisosoup,inthatorder.Therewasgoodcorrelationbetweenresultsoftastesensoroutputandhumansensationtest.Itissuggestedthatthetastesensorisusefulinscreeningrefreshmentsthatsuppressthebitternessofrebamipide.CoffeeisjudgedtobeagoodbeverageforsuppressingthebitternesscausedbyinstillingMucostaRophthalmicsuspensionUD2%totheeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1619.1622,2013〕Keywords:ムコスタR点眼液UD2%,レバミピド,苦味,味覚センサ,飲食物.MucostaRophthalmicsuspensionUD2%,rebamipide,bitterness,tastesensor,refreshments.はじめに涙液層,表層上皮細胞層におけるムチン増加作用などが期待される,レバミピドを有効成分とするムコスタR点眼液UD2%1)は,ドライアイ治療の新しい治療コンセプトTearFilmOrientedTherapy(TFOT)2)を踏まえた重要な点眼薬であるといえる.しかし,ムコスタR点眼液UD2%のおもな副作用として苦味があり,臨床試験で670例中105例(15.7%)が苦味を示したことが添付文書に記されている.これは,点眼液の主成分であるレバミピドが鼻涙管を通過して咽頭部で発生する苦味であるが,この苦味に対する有効な抑制方法についての報告は現在ない.そこで本研究では,これまでに当研究室で経口製剤の苦味予測に利用してきた味覚センサ3)を用いて,レバミピドの苦味を効果的に抑制しうる飲食物を探索することを目的とし〔別刷請求先〕内田享弘:〒663-8179兵庫県西宮市甲子園九番町11-68武庫川女子大学薬学部臨床製剤学研究室Reprintrequests:TakahiroUchida,Ph.D.,DepartmentofClinicalPharmaceutics,FacultyofPharmaceuticalSciences,MukogawaWomen’sUniversity,11-68,9-Bancho,Koshien,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8179,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)1619た.まず初めに,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてムコスタR点眼液UD2%に溶解しているレバミピドの濃度を測定した.つぎに,レバミピド溶液の苦味に及ぼす飲食物(緑茶,ココア,コーヒー,味噌汁)の影響について,味覚センサを用いて評価した.最後にヒト官能試験を行い,味覚センサ測定から得られた結果との相関性を確認した.I試薬と試験方法1.HPLCを用いたムコスタR点眼液UD2%に溶解しているレバミピドの濃度測定ムコスタR点眼液UD2%(大塚製薬株式会社)1mLを遠心分離(4℃,13×103rpm,15min)した上清を0.2μmフィルターで濾過した試料をHPLCで測定した.検量線作成にはN,Nジメチルホルムアミドを1.2%含むメタノールに溶解したレバミピド(LKTLabs,Inc)を用いた.pH6.2リン酸塩緩衝液(300→1,000)とアセトニトリルを体積比79:21で混合した試料を移動相とした.4.6mm×250mmのカラム(CAPCELLPAKC18UG120:資生堂)でカラム温度40℃,流速1.2mL/min,測定波長254nmに設定して測定した.2.味覚センサを用いたレバミピド溶液300μg.mLの苦味評価と飲食物の影響インテリジェントセンサーテクノロジー社の味認識装置SA402Bを使用した.舌を模倣した脂質膜センサを基準液に浸して膜電位(Vr)を測定後,センサをサンプルに浸して膜電位(Vs)を測定し,膜電位変化(Vs.Vr)をセンサ出力値とした.レバミピドの濃度依存的に応答が認められた脂質膜センサAE1を用い,レバミピド溶液のセンサ出力値に及ぼす各飲食物の影響について評価した.レバミピドの溶媒にはリン酸緩衝生理食塩水(phosphatebuffersaline:PBS)を用いた.レバミピド溶液に混合する飲食物として,市販の緑茶(キリン生茶),ココア(バンホーテンココアクオリティーテイスト),コーヒー(サントリーBOSS),味噌汁(永谷園あさげ)を用いた.600μg/mLのレバミピド溶液と各飲食物10,5,1倍希釈液を体積比1:1の割合で混合した試料(最終濃度:レバミピド300μg/mL,各飲食物5%,10%,50%)について,味覚センサ測定を行った.苦味抑制評価には,飲食物(希釈なし)を体積比1:1で混合した試料(最終濃度:レバミピド300μg/mL,各飲食物50%)とした.(武庫川女子大学倫理委員会承認日:平成24年12月19日,受付番号12-37)II結果HPLCによる測定の結果,ムコスタR点眼液UD2%に溶解しているレバミピドの濃度は300.85±41.93μg/mL(n=12)であった.味覚センサ測定では,レバミピド溶液125,250,500μg/mLは,濃度依存的に脂質膜センサAE1に応答した(図1).味強度は濃度の対数に比例するというウェーバー・フェヒナー(Weber-Fechner)の法則に基づき4),レバミピドの濃度の対数とAE1センサ出力値が相関することを確認した〔ピアソン(Pearson)の相関係数r=.0.9981〕.その他の苦味応答膜AC0,AN0,C00では応答が小さく濃度依存性の確認も困難であったため,本検討ではAE1センサを用いてレバミピドの苦味を評価した.ムコスタR点眼液UD2%に溶解している濃度である300μg/mLのレバミピド溶液のセンサ出力値に及ぼす飲食物の影響を検討したところ,緑茶を混合したレバミピド溶液の補間差分値はレバミピド溶液のセンサ出力値とほぼ同等の値を示したが,味噌汁,ココア,コーヒーをそれぞれ混合したレバミピド溶液の補間差分値はレバミピド溶液のセンサ出力値と比較して有意に低い値を示した(図2).2倍希釈(50%)の各飲食物を混合したレバミピド溶液の補間差分値とレバミピド溶液のセンサ出力値を比較すると,コーヒー,味噌汁,ココア,緑茶の順にレバミピド溶液のセンサ出力値を抑制することが明らかとなった(図3).ヒト官能試験では,300μg/mLのレバミピド溶液の苦味強度はt2.0±0.7であった.各飲食物を混合したレバミピド溶液の苦味強度は,緑茶混合液ではt2.5±0.41,ココア混レバミピド濃度(μg/mL)01002003004005006000-5センサ出力値(mV)食物単独での出力値を基準とした補間差分値を用いた.3.ヒト官能試験によるレバミピド溶液300μg.mLの苦-10-15味評価と飲食物の影響苦味の標準物質であるキニーネ塩酸塩水溶液0.01,0.03,0.1,0.3mMの苦味をそれぞれ苦味強度t0,1,2,3とした.熟練したパネラー4名は,苦味強度t0.3のキニーネ塩酸-20-25塩水溶液を各2mL口に5秒間含み,苦味を記憶した.つぎ-30Mean±SDn=3に,試験サンプルを各2mL口に含み,苦味強度を評価した.図1味覚センサ脂質膜AE1に対するレバミピドのセンサ試験サンプルは,レバミピドの水懸濁液600μg/mLと各飲出力値1620あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(128)A:レバミピド300μg/mLB:レバミピド300μg/mLC:レバミピド300μg/mLD:レバミピド300μg/mLB:レバミピド300μg/mLC:レバミピド300μg/mLD:レバミピド300μg/mL+緑茶+ココア+コーヒー+味噌汁00%5%10%50%00%5%10%50%0%5%10%50%0%5%10%50%00***-10-10-10-10**補間差分値(mV)-20-30-40-50-20-30-40-50**-20-30-40-50***††-20-30-40-50n=3Mean±SD**p<0.01,***p<0.001vs.control(0%),††p<0.001(Tukeytest)図2飲食物(0,5,10,50%)を混合したレバミピド溶液(300μg.mL)の補間差分値飲食物:緑茶(A),ココア(B),コーヒー(C),味噌汁(D).レバミピド300μg/mL苦味強度(t)の差〔(レバミピド+飲食物)-(飲食物のみ)〕3210n=4Mean±SE*p<0.05vs.control(水)(Dunnettest)*水緑茶ココアコーヒー味噌汁レバミピド300μg/mLの溶媒図4ヒト官能試験によるレバミピドの苦味抑制評価0水緑茶ココアコーヒー味噌汁(50%)図3各飲食物(50%)を混合したレバミピド溶液(300μg.mL)の補間差分値n=3Mean±SD*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001vs.control(水),††p<0.01(Tukeytest)******††-5補間差分値(mV)-10-15-20-25-30〔(レバミピド+飲食物)-(飲食物のみ)〕苦味強度(t)の差321Mean±SEr=-0.989(Pearson’scorrelationtest)合液ではt2.0±0,コーヒー混合液ではt1.88±0.25,味噌汁混合液ではt1.25±0.65であった.また,飲食物のみ(2倍希釈)の苦味強度は,緑茶はt0.88±0.63,ココアはt0.5±0.58,コーヒーはt1.13±0.25,味噌汁はt0.13±0.25であった.各飲食物を混合したレバミピド溶液の苦味強度と各飲食物のみの苦味強度の差は,飲食物が緑茶の場合1.63±0.48,ココアの場合1.5±0.58,味噌汁の場合1.25±0.65と低くなり,コーヒーの場合0.75±0.87と水と比較して有意-025-15-5に低値を示した(図4).味覚センサから得られた各飲食物を混合したレバミピド溶液の補間差分値と,官能試験による苦味強度(t)の差〔飲食物を混合したレバミピド溶液の苦味強度(t).飲食物のみ(2倍希釈)の苦味強度(t)〕には高い相関が認められた(**p<0.01,ピアソンの相関係数r=.0.989)(図5).III考察苦味は基本的に忌避されるが,カフェインの苦味は適度な(129)飲食物混合レバミピド溶液の補間差分値(mV)図5味覚センサによる評価とヒト官能試験結果の相関性濃度であればヒトに嗜好されるという性質をもつ5).カフェインを含むコーヒーについて,本検討におけるヒト官能試験の結果,コーヒー自体が苦味を有し,コーヒーと混合したレバミピド溶液の苦味強度とコーヒー単独の苦味強度の差が1未満であったことから,レバミピドの忌避される苦味はコーあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131621ヒーの嗜好される苦味により効果的にマスキングされる可能性が考えられた.口腔内に広がった匂い分子が揮発して鼻腔に達したものは味覚に大きく関与すると言われており6),ココアパウダーの匂い分子がレバミピドの苦味を抑制すること7),コーヒーの揮発性成分が,ヒトでのリラックス効果,マウスでのストレス緩和作用を示したこと8)が報告されている.本検討で,ココアの苦味抑制効果はヒト官能試験においてもほとんどなかった原因として,希釈によりココアの香りが減弱した可能性が考えられる.一方,コーヒーは,本検討での味評価において,レバミピドの苦味抑制に効果的であることが示唆された.この理由としては,コーヒーに含まれる苦味成分に加えてコーヒーの香りも味覚に重要な影響を与える可能性があり,コーヒーには味と香りの両面からの相加的なレバミピドの苦味抑制効果が期待される.ムコスタR点眼液UD2%点眼後には,苦味を抑制するために飲食物を摂取することが推奨されるが,本検討では,レバミピド溶液と混合する飲食物として,緑茶,ココア,コーヒー,味噌汁の4種類を用いた.これらのなかではコーヒー,味噌汁,ココア,緑茶の順にレバミピドの苦味を抑制する結果を得た.特にコーヒーでは,それ自身の嗜好的な苦味がレバミピドの忌避される苦味をマスキングする可能性が考えられた.すなわち,コーヒーとしての苦味を意識し許容するため,実質的には薬として感じる苦味が軽減してしまうことが考えられる.コーヒーを飲むことでムコスタR点眼液UD2%点眼後に発現する苦味を軽減でき,患者のQOL(qualityoflife)を向上させることができると期待される.文献1)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidShiffregent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20122)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコア・メカニズム─涙液安定性仮説の考え方─.あたらしい眼科29:291-297,20123)内田享弘:味覚センサを用いた医薬品の味評価.日本味と匂学会誌19:133-138,20124)DehaeneS:TheneuralbasisoftheWeber-Fechnerlaw:alogarithmicmentalnumberline.TrendsCognSci7:145-147,20035)北田亮,藤戸洋聡,呉性姫ほか:味細胞タイプ別のカフェイン味刺激伝達経路の解析.日本味と匂学会誌17:237-240,20106)HeilmannS,HummelT:Anewmethodforcomparingorthonasalandretronasalolfaction.BehavNeurosci118:412-419,20047)近藤千聡,福岡悦子,佐々木忠徳ほか:チョコレート風味の口腔内崩壊錠(チョコレット)の開発に関する研究(第3報)─患者ベネフィットの向上を目指したレバミピドチョコレット調製条件の最適化─.薬剤学67:347-355,20078)HayashiY,SogabeS,HattoriY:Behavioralanalysisofthestress-reducingeffectofcoffeevolatilesinmice.JJpnSocNutrFoodSci64:323-327,2011***1622あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(130)