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原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症

2017年2月28日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(2):292.295,2017c原発閉塞隅角合併白内障に対する水晶体再建術の術前,術中,術後合併症酒井寛與那原理子新垣淑邦力石洋平玉城環琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座Preoperative,IntraoperativeandPostoperativeComplicationsofSmallIncisionCataractSurgeryforCataractandPrimaryAngle-closureDiseasesHiroshiSakai,MichikoYonahara,YoshikuniArakaki,YoheiChikaraishiandTamakiTamashiroDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:原発閉塞隅角眼の白内障手術合併症の検討.対象:原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は原発閉塞隅角緑内障(PACG)98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,原発閉塞隅角症(PAC)40眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)26眼.方法:術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無を検討した.結果:術前高眼圧22mmHg以上32眼(17%),同30mHg以上8眼,CD1,500未満20眼(10%),同1,000未満5眼,3mm以下の散瞳不良8眼,毛様小帯の脆弱10眼(5.4%).術中合併症は,術中悪性緑内障で硝子体切除を施行1眼,術中フロッピーアイリス症候群1眼で,後.破損例はなく,毛様小帯の脆弱から眼内レンズ(IOL)毛様溝縫着となった1眼を除く全例でIOL.内固定された.術後高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上6眼,術後新たにCD1,500/mm2未満9眼.術後眼内炎の発症,水疱性角膜症など重篤な合併症はなかった.Subjects:184eyesof121primaryangle-closurediseasesunderwentsmallincisioncataractsurgeries.Mainoutcomemeasures:Preoperative,intraoperativeandpostoperativecomplicationsuntil3monthaftersurgeries,intraocularpressure(IOP),cornealendothelialcelldensity(CD)andweakenedzonules.Results:Preoperatively,ocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgin32eyes,CDlessthan1500/mm2in19eyes,smallpupildiameterlessthan3mmin8eyesandweakenedzonulesin10eyeswererecorded.Intraoperatively,apatientwithmalignantglaucomaunderwentcorevitrectomy,andintraoperative.oppyirissyndromeoccurredinoneeye.IOLwasimplantedinthebaginallcases,exceptingoneinwhichweakenedzonulesrequiredIOLsuture.xation.Postoperativeocularhypertensionequaltoormorethan22mmHgwasnotedin36eyes.CDlessthan1500/mm2wasnewlydiagnosedin9eyes.Therewerenoinstancesofpostoperativeendophthalmitisorbullouskeratopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):292.295,2017〕Keywords:原発閉塞隅角,白内障手術,術後合併症,高眼圧,角膜内皮細胞密度.primaryangleclosuredisease,cataractsurgery,postoperativecomplications,ocularhypertension,cornealendothelialcelldensity.はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は沖縄に多く,失明しやすい緑内障病型である1.3)が,手術により予防または治療が可能であり,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術または白内障手術が選択肢となる4).PACGの前段階であり緑内障性視神経症を伴わない原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),さらに眼圧上昇や周辺虹彩前癒着も伴わない原発閉塞隅角症疑い(PACS)に対しても予防的に手術加療が行われるが,その適応や合併症の発症率は明らかではない4).PACG,PACおよびPACSを包括した原発閉塞隅角(primaryangleclosuredesease:PACD)眼に対する白内障手術では,浅前房,角膜内皮細胞〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN292(150)密度の減少,毛様小帯の脆弱など術前から存在する合併症も存在し,術中,術後合併症の発症に影響を与えると考えられる.今回,筆者らはPAC眼に対する白内障手術の術前,術中,術後合併症について検討した.I対象琉球大学医学部附属病院眼科において,2010年の1年間に同一術者(H.S.)により施行された原発閉塞隅角合併白内障に対する小切開白内障手術の連続症例121例184眼.内訳は,PACG98眼,急性原発閉塞隅角症および緑内障(APAC)20眼,PAC40眼,PACS26眼.男性76眼,女性108眼,年齢は70±8.9歳(49.89歳)であった.対象の内訳を表1に示す.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着を前提として手術を予定した,術前から明らかな水晶体動揺がある症例は今回の検討には含んでいない.全例に緑内障専門医による隅角鏡検査,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)検査を行い診断した.PACSでは,UBMで4象限の閉塞がある場合,または3象限以上の閉塞があり,残る一象限も狭い場合を手術適応の基準とし,PACおよびPACGは,基本的に手術適応とし,いずれも本人への詳細な説明と同意のもとに手術を施行した.すでに,レーザー虹彩切開術(LI)が43眼(23%)に,周辺虹彩切除術が20眼(11%)に施行されていた.121眼(66%)では2.4mm耳側角膜切開による超音波乳化吸引術+IOL挿入術(PEA+IOL)を初回手術として施行した.麻酔は全例点眼麻酔で行った.II方法術前,術中,術後3カ月までの合併症,眼圧,角膜内皮細胞密度(CD),毛様小帯の脆弱の有無をカルテの記載より記録し検討した.術前に外来において手術の危険因子となりうるもの,および,手術開始後明らかになった合併症で手術前から存在したと考えられるものを術前合併症とした.前.切開(continuouscurvicularcapslotomy:CCC)開始時に明らかになった毛様小帯脆弱も術前合併症に分類した.術後合併症は術後3カ月までの早期合併症を検討した.III結果1.術前合併症緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない高眼圧(22mmHg以上)が32眼(17%)に,同30mHg以上が8眼にあった.術前スペキュラマイクロスコープにより測定されたCD値2,000/mm2未満が28眼(15%),1,500/mm2未満19眼(11%),1,000/mm2未満5眼(2.7%)に存在した.瞳孔径は,術前散瞳で手術開始時に3mm以下の散瞳不良で瞳孔拡張を必要とするものが8眼(4.3%),毛様小帯の脆弱が10眼(5.4%)であった.2.術中合併症1例で,超音波乳化吸引中に前房形成不良となり,術中悪性緑内障と診断した.硝子体切除を施行し前房形成が得られたため手術を完遂可能であった.1例で,術中フロッピーアイリス症候群を発症したが,低灌流設定で手術完遂した.CCCの亀裂や後.破損例はなかった.毛様小帯の脆弱から皮質吸引終了後IOLを毛様溝縫着した1眼を除く全例でIOLは.内固定された.3.術後合併症術後1週間以内の高眼圧22mmHg以上36眼(20%),同30mHg以上が6眼(3.8%)にあったが,1眼を除く全例で1カ月以内に緑内障点眼併用下に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.1眼では術後1週間で線維柱帯切除術を追加した.PACSの眼圧上昇はすべて術翌日のみで,点眼なしで1週間以内に眼圧は21mmHg以下にコントロールされた.術後初回外来受診時の測定で新たにCDが1,500/mm2未満となったものが9眼あった.この9眼のうち4眼ではCDは術後1カ月までに1,500/mm2以上となった.減少が持続した5眼のうち2眼にはLIの既往があり,1例はIOL縫着となった症例だった.術後1週の時点で,CD2,000/mm2未満は41眼(22%),1,500/mm2未満は17眼,1,000/mm2未満は3眼に確認された.術後2段階以上の矯正視力の低下した症例はなく,術後眼内炎の発症,水疱性角膜症などの重篤な合併症もなかった.4.病型別の合併症PACG,APAC,PAC,PACSの病型別の術前,術後合併症を表1に示す.術前高眼圧を除いて,病型間に術前,術後合併症の頻度の統計的な差はなかった(p>0.05,c2検定).IV考察2016年に眼圧30mmHg以上のPACおよびPACGを対象とした前向きのランダム化比較試験が示されPEA+IOLがLIよりも眼圧コントロール,QOL(qualityoflife),費用対効果の点で優れていることがLancet誌に報告された5).PEA+IOLがPACD眼の眼圧コントロールに優れていることも多くの報告があり,米国眼科アカデミーの報告と題したレビューも2015年にOphthalmology誌に掲載された6).PACG,PACに対するPEA+IOLの有効性は世界的に確認されたと考えられる.一方,PACD眼は浅前房であり,術前から眼圧が高いPAC,PACGが含まれ,LI,周辺虹彩切除術,APACの既往眼があり,CD減少や毛様小帯の脆弱を伴う症例が存在することが知られている.久米島で行われた疫学調査から,正常対象のCDは2,943±387/mm2で,CD2,000/mm2未満は.2S.D.未満と非常に稀であることが明らかになった.今回の症例では,CD2,000/mm2未満は術前に表1病型別の術前,術後合併症n性別n術前高眼圧術前高眼圧術前内皮散瞳不良術前毛様小帯術後高眼圧術後高眼圧術後内皮病型(症例)(男:女)(眼)年齢(*)(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満(3mm以下)の脆弱(22mmHg以上)(30mmHg以上)1,500未満PACG7131:419870±8.420(20.4%)5(5.1%)12(12%)5(5.4%)4(4.1%)22(22%)5(5.1%)12(12%)APAC196:132065±7.95(25%)3(15%)3(15%)1(5%)2(10%)2(10%)01(5%)PAC3411:234073±9.95(12.5%)02(5%)2(5%)1(2.5%)8(20%)1(2.5%)4(10%)PACS195:142671±9.2──2(7.7%)03(12%)4(15%)00±標準信差*平均PACG:原発閉塞隅角緑内障,APAC:急性原発閉塞隅角症,PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,内皮:角膜内皮細胞密度(/mm2).※術後高眼圧,術後内皮は術後1週間での頻度.※診断は眼単位で行われており両眼の病型が異なる症例が含まれているため,性別の合計症例数は全体よりも多い.15%,術後に22%と高い頻度であった.筆者らは,沖縄における原発閉塞眼の白内障手術の特徴として浅前房,短眼軸があり,術前からCDが少なく,術後CD減少は術前の浅前房と関連することを過去に報告している7,8).浅前房で前房内操作スペースが狭いことが術後CD減少の原因と考えられる.PAC眼のPEA+IOLの施行例の早期術後合併症としての角膜内皮障害の多さは術前から内皮障害が存在し,浅前房であることが原因になっていると考えられた.一方,眼圧は緑内障点眼薬やアセタゾラミド内服を用いてもコントロールできない22mmHg以上の高眼圧が17%,30mHg以上でも4%にあったが,術後は線維柱帯切除術を要した1眼を除き点眼にて眼圧コントロールが得られた.数多くの既報のとおり,PEA+IOLはPACD眼の眼圧コントロールにおいて優れている.角膜内皮減少にも注意が必要であるが,CD1,500/mm2未満は術前19眼に対して,術後1週で17眼と測定誤差による変動の範囲であった.今回の研究は後ろ向きの症例研究であり,無作為化されていない.また,患者の多くを紹介先病院へ逆紹介しているため経過観察期間が短いという限界がある.対象が沖縄という島嶼県の大学病院という重症例を中心とした紹介患者が中心となり,術者も熟練した単一術者によるものであり,結果を一般化することができない点も限界である.しかしながら,今回の研究の意義の一つは,現在の沖縄県における閉塞隅角緑内障診療の一面を合併症に焦点を当てて記録することである.また,相対的に一般化されうる事実としてPACD眼に術前の高眼圧,角膜内皮障害,毛様小帯の脆弱などが存在すること,こうした術前合併症に対して注意深い診察が必要なことをあげたい.事実,筆者らは術前に全例にUBMを行い,毛様小帯脆弱が著明な症例などには硝子体手術の併用など術式変更を考慮して適応を決定している.また,今回の症例には含まれなかったが角膜内皮移植を前提に手術を行うこともある.こうした条件のもとではPACD眼に対するPEA+IOLは安全で効果的であることが確認された.もしも,高リスク症例を厳密に区別することなく同様の検討を行えば,術後成績は低下すると考えられる.PACD眼の手術選択においては合併症を,術前,術中,術後の総合的な局面から考慮して決定することが望まれる.文献1)NakamuraY,TomidokoroA,SawaguchiSetal:Preva-lenceandcausesoflowvisionandblindnessinaruralSouthwestIslandofJapan:theKumejimastudy.Ophthal-mology117:2315-2321,20102)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20123)YamamotoS,SawaguchiS,IwaseAetal:Primaryopen-angleglaucomainapopulationassociatedwithhighprev-alenceofprimaryangle-closureglaucoma:theKumejimaStudy.Ophthalmology121:1558-1565,20144)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版)第4章緑内障の治療総論.日眼会誌116:22-29,20125)Azuara-BlancoA,BurrJ,RamsayCetal:E.ectivenessofearlylensextractionforthetreatmentofprimaryangle-closureglaucoma(EAGLE):arandomisedcon-trolledtrial.Lancet388:1389-1397,20166)ChenPP,LinSC,JunkAKetal:Thee.ectofphaco-emulsi.cationonintraocularpressureinglaucomapatients:AReportbytheAmericanAcademyofOph-thalmology.Ophthalmology122:1294-1307,20157)早川和久,酒井寛,仲村佳巳ほか:沖縄の白内障手術症例の特徴.臨眼56:789-793,20028)上門千時,酒井寛,早川和久ほか:超音波乳化吸引術後早期の角膜内皮細胞密度と前房深度との関係.臨眼56:1103-1106,2002.***

Nd:YAG レーザーを用いた前部眼内レンズ表面沈着物の除去

2012年1月31日 火曜日

126(12あ6)たらしい眼科Vol.29,No.1,20120910-1810/12/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科29(1):126?130,2012cはじめに種々の手術後,特に長時間を要する侵襲の大きい複雑な硝子体手術の後,しばしば虹彩後癒着や眼内レンズ表面に沈着物1?5)や色素塊が付着する6).眼内レンズ前面の増殖物は,直接視力に影響することは少ないとされている7)が,コントラスト感度の低下を招いたり7),術後の検査に支障となることがある.そこで,今回の研究では,眼内レンズ表面に付着した沈着物の除去を目的としてNd:YAGレーザーを用い,その有用性と安全性について検討した.I対象および方法対象は,10例10眼(54.3±10.2歳)で,その内訳を表1に示す.全症例とも硝子体手術および水晶体再建術(眼内レンズ挿入)の同時手術を施行してから3?14カ月間のステロ〔別刷請求先〕五十嵐弘昌:〒085-8512釧路市新栄町21-14釧路赤十字病院眼科Reprintrequests:HiromasaIgarashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KushiroRed-CrossHospital,21-14Shinei-cho,Kushiro085-8512,JAPANNd:YAGレーザーを用いた前部眼内レンズ表面沈着物の除去五十嵐弘昌*1五十嵐幸子*2鈴木裕嗣*1鈴木詠子*2*1釧路赤十字病院眼科*2さくら眼科RemovalofAnteriorIntraocularLensSurfaceDepositsusingNeodymium-Doped,YttriumAluminumGarnetLaser(Nd:YAGLaser)HiromasaIgarashi1),SachikoIgarashi2),YujiSuzuki1)andEikoSuzuki2)1)DepartmentofOphthalmology,KushiroRed-CrossHospital,2)SakuraEyeClinic目的:術後に発生する眼内レンズ(IOL)表面への付着物をNd:YAGレーザーにて除去する.対象および方法:対象は,10例10眼(54.3±10.2歳)で,ぶどう膜炎の術後3眼,増殖硝子体網膜症術後4眼,糖尿病網膜症術後が3眼であった.ELLEX社のULTRA-QOphthalmicLaserを用い,術前および術後1時間および24時間後に眼圧を測定し,さらに,術前および術後24時間後に視力測定と眼底写真撮影を行った.結果:全症例ともIOLに亀裂を生じることなく,付着物をほぼ完全に除去可能で,術直後に一過性に眼圧が1?2mmHgの上昇を認めたが,24時間後には全例術前値に回復した.視力は,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.2の視力改善は1例,0.1の改善が4例で,5例に変化を認めなかったが,悪化例はなかった.結論:本法は,特別な合併症を併発することなく,IOL表面の付着物を完全に除去可能である.Purpose:Toremoveaccumulatedsurfacedepositsfromanteriorintraocularlenses(IOL)aftervarioussurgeries.Methods:Subjectsofthisstudycomprised10eyesof10patients(54.3±10.2yearsofage);3eyeshadundergonesurgeryforcomplicatedcataractassociatedwithuveitis,4forproliferativevitreoretinopathyand3fordiabeticretinopathy.UltraQOphthalmicLaser(Ellex)wasused.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredjustbeforesurgeryandat1and24hourspostoperatively.Visualacuity(VA)wasmeasuredandfundusphotographywascarriedoutpreoperativelyandat24hourspostoperatively.Results:Inallpatients,mostdepositswereremovedcompletely.IOPincreasedtransientlyby1to2mmHgimmediatelypostsurgery,butreturnedtobaselinewithin24hours.In1patientanimprovedlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)VAof0.2wasnoted,4hadimprovementsof0.1andin5theVAremainedunchanged.Conclusion:TheNd:YAGlaserenablescompleteremovalofsurfacedeposits,withoutsubstantialcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):126?130,2012〕Keywords:沈着物,色素塊,眼内レンズ,Nd:YAGレーザー,高眼圧.deposit,pigmentclumps,intraocularlens,Nd:YAGlaser,intraocularhypertension.(127)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012127イド薬および抗生物質点眼の使用を経て,細隙灯顕微鏡所見および眼底所見で活動性の炎症所見がないにもかかわらず,術後に発生した眼内レンズ表面の沈着物や色素塊が術後2年以上残存し,これらが詳細な眼底検査(眼底写真撮影を含む)を困難としていると考えられた症例である.なお,全症例とも眼内レンズには,AMO社製アクリル眼内レンズ(AR40e)を使用していた.使用したNd:YAGレーザー装置(以下,YAGレーザー)は,ELLEX社製のULTRA-QOphthalmicLaserで,条件としては,wavelength:1,064nm,energy:0.6?0.8mJ,pulseduration:4ns,burstmodepulsesetting:1pulsepershot,treatmentbeamspotsize:11μm(fullwidthhalfmaximum,半値全幅:8μm),posterioroffset:150μmで行った.また,コンタクトレンズとしては,ionVISion社製の後発切開用コンタクトレンズDirectViewCapsulotomy(P-IOV-030)を使用した.操作方法としては,特別な技法を駆使することなく,上記の単一条件で通常の後発切開と同様の操作で施行した8)が,これまでの報告で,眼内レンズ表面のフィブリンなどの沈着物を除去するためのYAGレーザーの操作方法として,ターゲットに直接フォーカシングする方法9,10)と,ターゲットより意図的に焦点を前方にずらし,レーザーの衝撃波で間接的に除去する方法11,12)が報告されている.今回の筆者らの方法は,ターゲット(沈着物)の表面に焦点を置いているので,操作そのものは前者と同様であるが,150μmのposterioroffsetを設定していることより,実際の焦点は術者が合わせた焦点より後方にあり,厳密な意味では今回の手法はどちらの報告とも異なると考えている.ショット数は,各症例の眼内レンズ表面沈着物の大きさと数により異なるが,原則として,1つの沈着物に対し1ショットとし,最高で計55ショット,平均47ショット±4.5であった.また,術直前および術後1および24時間後に眼圧を測定し,さらに術前および術後24時間後に視力測定と眼底写真撮影を施行した.なお,術前1時間前および術直後に,1%アプラクロニジンを点眼した.また,研究に先立ち,患者へ本研究の目的と方法を十分説明したうえで,本人の自由意志による同意のもと本研究を施行した.II結果全症例ともに,眼内レンズに亀裂を作ることなく,沈着物はほぼ完全に除去可能であり,それに伴い良好な眼底検査(眼底写真撮影)も可能となった.その代表例の術前(図1a,2a,3a)および術後(図1b,2b,3b)の前眼部写真と,眼底写真を図4a,bに示す(術中の動画は配信可).また,眼圧は,術後1時間後に一過性に1?2mmHgの上昇(平均1.25±0.30)を認めたが,24時間後には術前値まで低下していた(表1).視力については,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.2以上の視力改善は1例,0.1以上の改善が4例と,それほど顕著な上昇を認めなかったが,悪化例は認めなかった(表1).なお,今回の検討ではコントラスト感度の測定は行っていないため,その客観的な評価は行っていない.III考按現在の硝子体手術は,同時に眼内レンズ挿入術を併施することが一般的に承認されているため,術中操作および術後の眼底検査が,水晶体の混濁により困難となることはない.し表1対象症例の内訳症例年齢(歳)ショット数眼圧(mmHg)視力(logMAR)原疾患術前術後1時間術前術後1664710120.30.3増殖糖尿病網膜症(BIII)2504418190.40.3サルコイドーシス3555017190.20.1PVR(硝子体手術後)4485214150.50.4PVR(強膜バックリング術後)5465515161.01.0増殖糖尿病網膜症(BIV)6463914150.40.3サルコイドーシス7674417180.70.7鉄片眼内異物による眼内炎8554817190.30.1増殖糖尿病網膜症(BII)970459100.50.5PVR(硝子体手術後)10404616170.40.4PVR(強膜バックリング術後)①PVR(増殖硝子体網膜症)の括弧内は,網膜?離の復位を目的とした初回術式を示す.②PVRを除きすべて初回手術.③増殖糖尿病網膜症の括弧内は,新福田分類を示す.128あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(128)ab図1代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その1)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.ab図3代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その3)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.ab図2代表例のYAGレーザー施行前・後の前眼部写真(その2)a:施行前,眼内レンズ表面に多数の沈着物を認める.b:施行後,眼内レンズ表面の沈着物はほぼ除去されている.(129)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012129かし,術後に発生する前部眼内レンズ表面への沈着物や色素塊6)は,今回の術前・術後の視力の比較からも明らかなように,沈着物自体による視力への影響は幸いさほどないようだ(表1)が,眼底検査については,それが詳細な検査になればなるほどそれらが障害となり,鮮明な眼底写真の撮影も困難となる(図4a,b).そこで,今回の研究目的は,それらをより安全にかつ確実に除去する方法の検討である.KwasniewskaとFrankhauserら13)は,眼内レンズ挿入術後の眼内レンズ表面に付着した沈着物の除去にYAGレーザーを使用している.しかし,彼らの症例は,眼内レンズ全面をカーペット状に被い顕著な視力低下をきたすような沈着物で,筆者らの症例(図1a,2a,3a)のように小さな島状・点状の散在する沈着物とは異なり,膜状物の切開に近い症例であり,今回の報告とは,その手技や効果などを単純に比較できないものと推測される.術後の眼内レンズ表面への沈着物は,術後炎症が長期にわたった場合,術中操作や血液房水柵の崩壊により放たれた赤血球・炎症細胞・フィブリン・色素・蛋白性物質などが線維増殖を伴って膜を形成するために起こる1?5).したがって,その予防や治療として,ステロイド薬の点眼が最も有効な手段と考えられる9,10).しかし,今回の症例のように,術直後より比較的長期間にわたりステロイド薬を含む点眼により加療されたにもかかわらず,眼内レンズ表面に沈着物が付着し,最終的に2年以上が経過しても消退しない場合,さらにいかなる薬物治療を追加しても,一般的にほとんど効果は期待できないものと推測される.このようなとき,外科的な対応,すなわち眼内レンズ表面の直接的研磨も可能かもしれないが,先にも述べたように,眼内レンズ表面の沈着物による視力障害がそれほど顕著ではないにもかかわらず(表1),観血的な手術の選択は躊躇される.そこで,筆者らは,今回,非観血的な手法としてYAGレーザーを選択した8).しかし,本法にもいくつかの懸念される問題がある14?20).なかでも,合併症のなかで最も頻度が高いとされる眼圧の上昇16)と,不可逆性の損傷となる眼内レンズへのダメージ(亀裂)である.しかし,今回の結論からも明らかなように,本法は,眼内レンズにスリットランプで確認できるような亀裂を生ずることなく,ほぼ完全に沈着物の除去が可能であり,さらには,1%アプラクロニジンは使用したものの,憂慮されるような顕著な眼圧の上昇も認めることはなかった.眼内レンズ表面に亀裂が生じなかった理由については,今回の研究だけでは推測の域を出ないが,今回,筆者らの使用した条件が,通常ある程度の厚さをもって眼内レンズ表面に付着する沈着物に対して,適当なoffsetとパワーであったのではないかと推測している.本法は,特別な合併症を併発することなく術後の眼内レンズ表面に付着する沈着物を完全に除去可能であった.本研究は,1種類の眼内レンズ,1種類の照射条件での検討であるので,今後,他の眼内レンズでの検討,種々のレーザー条件の検討,長期的な術後の経過観察などのいくつかの課題は残すが,有用な手段であることは明らかであり,今後,臨床の場で広く普及することが期待された.本論文の要旨の一部は,ARVO2011(2011年,フォートラーダーデール)にて発表した.文献1)EifzigDE:Depositsonthesurfaceoftheintraocularlens:apathologicstudy.SouthMedJ73:6-8,19862)AppleDJ,MamalisN,LoftfieldKetal:Complicationsofintraocularlenses─ahistoricalandhistopathologicalab図4YAGレーザー施行前・後の眼底写真a:施行前.b:施行後,aと比較し明らかに眼底が明るく撮影されている.130あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(130)review.SurvOphthalmol29:1-53,19843)UenoyamaK,KanagawaR,TamuraMetal:Experimentalintraocularlensimplantationintherabbiteyeandinthemouseperitonealspace─partI:cellularcomponentsobservedontheimplantedlenssurface.JCataractRefractSurg14:187-191,19884)WolterJR:Foreignbodygiantcellsonintraocularlensimplants.GraefesArchClinExpOphthalmol219:103-111,19885)WolterJR:Cytopathologyofintraocularlensimplantation.Ophthalmology92:135-142,19856)WolterJR:Pigmentincellularmembranesonintraocularlensimplant.OphthalmicSurg13:726-732,19827)林研:前?収縮.眼科プラクティス18巻(大鹿哲郎編),p413-414,文光堂,20078)GandhamSB,BrownRH,KatzLJetal:Neodymium:YAGmembranectomyforpapillarymembranesonposteriorchamberintraocularlenses.Ophthalmology102:1846-1852,19959)NorisWJ,ChizlsIA,SantryGJetal:Severefibrinousreactionaftercataractandintraocularlensimplantationsurgeryrequiringneodymium:YAGlasertherapy.JCataractRefractSurg16:637-639,199010)MiyakeK,MaekuboK,MiyakeYetal:Pupillaryfibrinmembrane:afrequentearlycomplicationafterposteriorchamberlensimplantationinJapan.Ophthalmology96:1228-1233,198911)VajpayeeRB,AngraSK,HonavarSGetal:Nd:YAG“sweeping”─anindirecttechniqueforclearingintraocularlensdeposits.OphthalmicSurg24:489-491,199312)KumarH,HonavarSG,VajpayeeRB:Nd:YAGlasersweepingoftheanteriorsurfaceofanintraocularlenses:anewobservation.OphthalmicSurg25:409-410,199413)FrankhauserF,KwasniewskaS:Neodymium:yttriumaluminumgarnetlaser.OphthalmicLasers(L’EsperanceFAJred),volII,p839-846,Mo:CVMosby,StLouis,199314)SteinertRF,PuliafitoCA,KumarSRetal:Cystoidmacularedema,retinaldetachment,andglaucomaafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol112:373-380,199115)HolwegerRR,MarefatB:Intraocularpressurechangeafterneodymium:YAGcapsulotomy.JCataractRefractSurg23:115-121,199716)AltamiranoD,Guex-CrosierY,BoveyE:ComplicationsofposteriorcapsulotomywithNd:YAGlaser.KlinMonatsblAugenheilkd204:286-287,199417)ChannelMM,BeckmanH:IntraocularpressurechangesafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.ArchOphthalomol102:1024-1026,198418)FourmanS,ApissonJ:Late-onsetelevationinintraocularpressureafterNd-YAGlaserposteriorcapsulotomy.ArchOphthalmol109:511-513,199119)Richman-BargerL,CraigWF,LarsonRSetal:RetinaldetachmentafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol107:531-536,198920)SteinertRF,PuliafitoCA,KumarSRetal:Cystoidmacularedema,retinaldetachment,andglaucomaafterNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.AmJOphthalmol112:373-380,1991***

片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)1090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):109112,2009cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は全身のムコ多糖やプロテオグリカンを多く含む組織(眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓など)に再発性の炎症およびそれに伴う組織の変形,破壊を生じる原因不明の炎症性疾患で,多彩な局所症状や全身症状を合併する.眼組織においては本疾患の5060%で炎症,変性や機能異常などの多彩な症状を呈し,全病期においては耳介軟骨炎,関節炎についで高い発症率である.本疾患の発症率は3.5人/100万人1)とまれであるが,眼組織において日常経験するあらゆる炎症所見に関係している可能性があり,適切な治療を行ううえで早期に本疾患を疑うことは重要であると考えられる.今回筆者らは片眼の虹彩炎〔別刷請求先〕内田真理子:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野25番地公立南丹病院眼科Reprintrequests:MarikoUchida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NantanGeneralHospital,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan629-0197,JAPAN片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例内田真理子*1伴由利子*1吉田祐介*1土代操*1山本敏也*2*1公立南丹病院眼科*2同耳鼻咽喉科ACaseofRelapsingPolychondritisOccurredbyUnilateralIritiswithOcularHypertentionMarikoUchida1),YurikoBan1),YusukeYoshida1),MisaoDoshiro1)andToshiyaYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOtolaryngology,NantanGeneralHospital70歳,男性,右眼視力低下を自覚,右眼虹彩炎と高眼圧があり,Posner-Schlossman症候群を疑われた.その後両上強膜炎および右耳介軟骨炎を発症し,プレドニゾロンの内服治療(30mg/日)に反応した.診断基準である,典型的な多発する炎症,ステロイド反応性の2項目を満たしたことにより再発性多発性軟骨炎と診断した.高眼圧の発症から診断までは約半年であった.初期の血液検査ではCRP(C反応性蛋白)値の上昇など,急性炎症の存在を示したが,抗Ⅱ型コラーゲン抗体の測定はステロイド治療の開始後に行われたため陰性であった.以後再発,寛解をくり返し,症状増悪時にはステロイドの増量が必要であった.ステロイドの減量をめざし,コルヒチン1mg/日またはシクロスポリン300mg/日内服を併用したが改善せず,現在もプレドニゾロン15mg/日内服を継続している.症状はほぼ軽快しているが,今後ステロイド内服に伴う眼合併症および全身合併症にも注意をしていく必要がある.A70-year-oldmalewithinitialsymptomsofvisualacuityloss,iritisandocularhypertensioninhisrighteyewassuspectedofhavingPosner-Schlossmansyndrome.Subsequently,hesueredepiscleritisinbotheyesandauricularchondritisintheleftear;theyrespondedwelltooralprednisolone30mg/d.Hewasdiagnosedwithrelapsingpolychondritis,inviewofthetypicalepisodeofcartilaginoustissueinammationanditsresponsetocor-ticosteroidtherapy.Itwasalmost6monthsfromtherstsymptomstoourdiagnosis.Laboratoryevaluationinitial-lyrevealedacuteinammatorychanges;circulatingautoantibodiestotypeIIcollagenwerenegativewhiletakingprednisolone15mg/d.Relapseagainoccurred,atwhichpointwehadtoincreasetheprednisolone.Wetriedadmin-isteringcolchicine1mg/dorcyclosporine-A300mg/dincombinationwithprednisolone,buttheyhadnorecogniz-ableeect.Thepatientisnowtakingprednisolone15mg/dandsymptomshavealmostcleared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):109112,2009〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,高眼圧,上強膜炎,虹彩炎,耳介軟骨炎,ステロイド療法,抗Ⅱ型コラーゲン抗体.relapsingpolychondritis,ocularhighpertentsion,episcleritis,iritis,auricularchondritis,corticosteroidtherapy,circulatingautoantibodiestotypeⅡcollagen.———————————————————————-Page2110あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(110)に伴う高眼圧の発症後に両上強膜炎を呈した後,右耳介軟骨炎を合併し,本疾患の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2005年1月6日,上記主訴にて近医を受診したところ,右眼眼圧46mmHgと上昇があり,軽度の虹彩炎を伴いPosner-Scholssman症候群の診断となった.眼圧は眼圧下降薬点眼にて20mmHg前後にコントロールされたが,経過中両上強膜炎を発症し2005年3月12日精査目的で当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.1(1.0×+2.5D(cyl1.25DAx90°),左眼0.15(0.7×+3.0D(cyl1.0DAx60°).眼圧はマレイン酸チモロール(チモプトールR)両眼2回/日,塩酸ドルゾラミド(トルソプトR)両眼3回/日点眼下にて,右眼20mmHg,左眼22mmHgであった.両眼とも角膜は透明で耳側上強膜に充血があり,前房内炎症はcell(+)であった.水晶体には中等度の白内障があったが,硝子体混濁や眼底には異常はなかった.隅角所見は両眼ともShaer分類grade2,右眼は3時-6時,左眼は8時-10時にかけ周辺虹彩前癒着の散在を認めたが結節は認めなかった.血液検査は白血球4,880/μlと正常値であったが,CRP(C反応性蛋白)4.1mg/dl,補体価58.7U,a1-globulin3.8%,a2-globulin9.7%,b-globulin11.1%,g-globulin25.4%,赤沈(60分値)52mmとそれぞれ上昇があり急性炎症を示す結果であった.リウマチ因子,抗核抗体や抗DNA抗体は陰性であった.その他ヘモグロビン12.6g/dl,MCV(平均赤血球容積)96.7,MCH(平均赤血球血色素量)32.3pg,MCHC(平均赤血球血色素濃度)33.4%と正球性正色素性貧血があった.II経過リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンR)両眼4回/日点眼にて約1カ月で両上強膜炎がほぼ軽快した.2005年5月右耳介の発赤腫脹を自覚(図1),耳鼻科にて右耳介軟骨炎と診断され,プレドニゾロン内服(30mg/日)を開始され,15mg/日まで漸減しながら約3カ月で寛解した.この時点で,上強膜炎およびステロイド投与に反応する耳介軟骨炎の合併を認めたことから,RPにおけるDamianiらの改革診断基準2)を満たし本症の診断となった.プレドニゾロン内服を10mg/日に漸減したところ両上強膜炎が再燃,プレドニゾロン20mg/日内服へ増量したが,再度10mg/日に自己判断で減量し,上強膜炎が悪化した(図2).そのため,プレドニゾロン15mg/日内服を継続して約1カ月で左眼症状はほぼ軽快した.抗Ⅱ型コラーゲン抗体検査は本人の承諾がなく未施行であったが,この時点で承諾を得られ調べたところ陰性であった.眼圧下降薬点眼下にて両眼圧が20mmHgを超えることもあり,ステロイド緑内障の発症を危惧しプレドニゾロン内服減量を目的にコルヒチン(コルヒチンR)1mg/日内服併用やシクロスポリン(ネオーラルR)300mg/日内服併用を試みたが,症状は改善せず,ステロイドの減量はむずかしかった.その後も強膜炎および耳介軟骨炎の再燃がみられ,さらに2007年9月左耳の耳鳴りを自覚,左内耳障害を疑い耳鼻咽喉科にてコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(サクシゾンR)を500mg/日より経静脈的に漸減投与され(500mg/日×3日,400mg/日×2日,300mg/日×2日,200mg/日×図1右耳介軟骨炎2005年5月,右耳介の発赤,腫脹がある.図2右上強膜炎再燃時2005年12月,上強膜全体に強い充血がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009111(111)2日,100mg×3日),上強膜炎および耳鳴りともに軽快した.現在もプレドニゾロン内服(15mg/日)を続けている.現在までのところ関節炎や呼吸器症状はない.眼圧は眼圧下降薬点眼下にて正常範囲内にあり視野異常はないが,両眼ともに皮質白内障に進行している.以上の経過を図3に示す.III考按RPは1923年にJaksch-Wartenhorstにより報告されて以来現在までに約1,000例ほど報告されてきている1).本疾患の原因は明らかではないが,自己免疫疾患の合併率が30%と高率でありムコ多糖類を多く含む組織を選択的に障害することや,急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇を認めること3),ステロイドや各種の免疫抑制薬に有効性を認めることから免疫異常が原因であると考えられている.好発年齢は4060歳だが新生児から90歳代まで報告がある4).性差はなく,遺伝性は報告されていない.初発症状で高率なのが鼻軟骨炎の約20%,眼症状の19%,呼吸器症状の14%である.全病期において最も発症率が高いのは耳軟骨炎の95%,ついで多いのは関節炎の5080%となっており,眼疾患や鼻軟骨炎も約5060%とそれらについで高率に発症する.気道閉塞,肺炎,心弁膜症,腎障害などにより1986年では10年生存率が55%であったが,早期にステロイド治療などを開始されるようになったため1998年で8年生存率は94%となっている.眼症状として最も多いのが結膜炎,上強膜炎,強膜炎で鼻軟骨炎や関節炎と平行して再燃,寛解をくり返すことが多い.強膜炎の3.1%が本症と診断されたという報告もある5).その他ぶどう膜炎(25%),角膜炎(10%),網脈絡膜炎(10%),静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼瞼浮腫,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎などが報告されており,全眼組織が本疾患で炎症を生じる可能性がある6).本疾患の診断は1976年にMcAdamらが提案した診断基準を,DamianiとLevineら2)が1979年に拡大したものが多く用いられている.診断においては,合併する局所症状の組み合わせが基準となるため,発症から診断までの期間は長く68%の症例で1年以上を要し,平均は2.9年ほどである.検査所見では赤沈値の亢進,CRP上昇やポリクローナルなグロブリン値上昇などの急性炎症の所見以外に正球性正色素性貧血を認めることが多い.その他急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体3)が陽性になるため診断確定の補助となる.またCRPは症状の増悪,軽快に平行して変動することが多く本疾患の活動性の指標になりうる.しかし,抗Ⅱ型コラーゲン抗体は慢性関節リウマチやMeniere病でも陽性となるため本疾患特異的な抗体ではない7).本症例においては,片眼の軽度虹彩炎と眼圧上昇という非典型的な初発症状で発症したが,3カ月後に上強膜炎を,5カ月後には耳介軟骨炎を発症し,約6カ月と平均に比べ比較的早期に診断が可能であった.図3発症より現在までの経過上強膜炎耳介軟骨炎内右右右耳介耳介耳り———————————————————————-Page4112あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(112)本症例は発症12カ月の時点で抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇がなかったが,すでにステロイド内服を開始していたことや急性期でなかったことが一因であると思われる.また,CRP値は耳介軟骨炎の増悪に一致して上昇する傾向を認めたが,上強膜炎とは関連性がなかった.治療法としてのガイドラインはないが,抗炎症薬,免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬に有効性が報告されている.軽微な局所症状のみであれば非ステロイド系抗炎症薬8)の内服,より重症と判断される場合はダプソン9)やステロイド(0.51mg/kgより開始)の全身投与,ステロイドパルス療法の施行,その他シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン10),メソトレキセートやコルヒチン8)などの単独投与またはステロイドとの併用の有効性が報告されている.症状が強い場合シクロホスファミドやアザチオプリンを第一選択とする場合もある11).また,アザチオプリンやメソトレキセート内服併用がステロイド減量に有効だったとの報告もある12).眼局所に対してはステロイド結膜下注射なども有効である.本症例ではプレドニゾロンに反応したが,減量すると増悪や再発を起こした.コルヒチン併用,シクロスポリン併用については明らかな効果がなかった.本症例は,片眼の虹彩炎および高眼圧にて発症したが,後に上強膜炎および耳介軟骨炎を合併しRPの診断となった.現在のところ発症時の主症状が高眼圧であった報告はほかに認めないが,高眼圧を伴う軽度の虹彩炎であっても本疾患を疑う必要性があると思われる.本症例の治療においてはプレドニゾロン内服を減量すると増悪するため維持量を継続せざるをえず,ステロイド内服によるステロイド緑内障および全身合併症にも注意をしていくことが重要である.文献1)GergelyP,PoorG:Relapsingpolychondritis.BestPractResClinRheumatol18:723-738,20042)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Oph-thalmology93:681-689,19863)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondrites.NEnglJMed299:1203-1207,19784)ArundellFW,HaserickJR:Familialchronicatrophicpolychondritis.ArchDermatol82:439-440,19605)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis.AmJOphthalmol130:469-476,20006)PeeboBB,MarkusP,FrennessonC:Relapsingpolychon-dritis:ararediseasewithvaryingsymptoms.ActaOph-thalmolScand82:472-475,20047)垣本毅一,真弓武仁:抗Ⅱ型コラーゲン自己抗体.日本臨牀63:643-645,20058)MarkKA,FranksAGJr:Colchicineandindomethacinforthetreatmentofrelapsingpolychondritis.JAmAcadDermatol46:S22-24,20029)MartinJ,RoenigkHHJr,LynchWetal:Relapsingpoly-chondritiswithdapsone.ArchDermatol112:1272-1274,197610)OrmerodAD,ClarkLJ:Relapsingpolychondritistreat-mentwithcyclosporineA.BrJDermatol127:300-301,199211)LetkoE,ZarakisP,BaltatzisSetal:Relapsingpoly-chondritis:Aclinicalreview.SeminArthritisRheum31:384-395,200212)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,1998***