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ポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1 例

2023年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(6):838.843,2023cポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1例石郷岡岳*1水野博史*1大須賀翔*1佐藤孝樹*1西川憲清*2喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2大山記念病院眼科CACaseofPolypoidalChoroidalVasculopathyComplicatedwithInternalCarotidArteryOcclusionGakuIshigooka1),HiroshiMizuno1),ShouOosuka1),TakakiSato,1)NorikiyoNishikawa2)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,OyamaMemorialHospitalC緒言:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と内頸動脈閉塞症は,高血圧や喫煙など共通の危険因子を有する.今回PCVの経過観察中に網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)や高血圧,内頸動脈閉塞症の診断に至った例を報告する.症例:50年の喫煙歴があるC70歳,男性.X年左眼CPCVと診断しアフリベルセプト硝子体注射(IVA)をC3回施行後,経過良好であったが,X+2年CBRAOを発症し,内科で脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症と診断された.X+3年,X+5年にCPCVが再燃しCIVAを施行した.その後蛍光眼底造影検査で腕網膜時間の延長を認め,頸動脈エコー検査で左内頸動脈閉塞と診断,網膜光凝固を施行した.最終CIVA施行後C2年経過時点でCPCVは鎮静化している.考按:BRAO発症時に内頸動脈病変が潜在していたと考えられた.本症のCBRAOや頸動脈病変とCIVAとの関連は低いが,IVA施行前に,高血圧の既往だけでなく長期の喫煙歴があれば,頸動脈病変の有無も視野に入れ,早期に頸動脈病変を検出することも大切と思われた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCpolypoidalCchoroidalvasculopathy(PCV)complicatedCwithCinternalCcarotidCarteryCocclusion.CCasereport:AC70-year-oldCmanCwithCaChistoryCofCheavyCtobaccoCsmokingCwasCreferredCtoCourChospitalCforCaCdiagnosisCofCPCVCinChisCleftCeye.CForCtreatment,CheCreceivedCanCintravitrealCinjectionCofCa.ibercept(IVA)threeCtimes.CTwoCyearsClater,CheCdevelopedCbranchCretinalCarterialocclusion(BRAO)andCwasCdiagnosedCwithCdyslipidemia,CborderlineCdiabetesCmellitus,CandCsystemicChypertension.CThreeCyearsCafterCthat,CheCreceivedCthreeCIVAsCforCtheCdeterioratedCPCV.CFluorescienCangiohraphyCshowedCprolongationCofCtheCarm-to-retinaCcircula-tiontime.Heunderwentechocardiographyofthecarotidartery,whichrevealedaleftinternalcarotidarteryocclu-sion.Twoyearslater,thePCVwasquiescent.Conclusions:Inthiscase,internalcarotidarteryocclusionseemedtoCbeCanCunderlyingCfactorCatCtheConsetCofCBRAO.CThus,CophthalmologistsCshouldCsuspectCstenosisCofCtheCcarotidCarteryinPCVpatientswithalonghistoryoftobaccosmoking.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(6):838.843,C2023〕Keywords:ポリープ状脈絡膜血管症,網膜動脈分枝閉塞症,内頸動脈閉塞症,喫煙,高血圧.polypoidalCchoroi-dalvasculopathy,branchretinalarteryocclusion,internalcarotidarteryocclusion,smoking,hypertension.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の特殊型1)であるポリープ状脈絡膜血管症(poly-poidalCchoroidalvasculopathy:PCV)は日本人の滲出型AMDのC54.7%とされ,欧米に比べわが国ではCPCVが多い2).PCVはインドシアニングリーン蛍光造影検査(Indo-cyanineCgreenangiography:IA)で特徴的なポリープ状の脈絡膜血管拡張を示し,発症平均年齢はC60.72歳と報告されているが3),その発症メカニズムはいまだ明らかではない.わが国においてSakuradaらは,PCVにおける喫煙率が68.4%,全身疾患の有病率は高血圧症がC44.9%,心血管疾患がC8.3%,脳血管障害がC3.2%,糖尿病がC12.2%,末期腎臓病がC0.2%4),またCTaniguchiらは滲出型CAMDと頸動脈狭窄症の合併はC28.2%で,PCVを含むCAMDでの重症頸動脈〔別刷請求先〕石郷岡岳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:GakuIshigooka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC838(126)狭窄症はC8.9%と報告した5).さらに,網膜動脈分枝閉塞症(branchCretinalCarteryocclusion:BRAO)について荻野らは,AMD76眼中C1眼に認めたと報告しているが6),PCVとBRAO,頸動脈病変の合併についての報告はない.今回筆者らは,健康診断で身体疾患がなかったCPCVに対して,3回のアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofafribercept:IVA)を行ったC2年後にCBRAOを発症し,内科へ紹介したところ高血圧症や境界型糖尿病の診断に至った.さらにそのC6年後,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)の施行により,内頸動脈閉塞症などの全身疾患が他科との連携により明らかになった,長期間経過観察できたCPCVのC1例を報告する.CI症例患者:70歳,男性.主訴:左眼視力低下.家族歴:特記事項なし.喫煙歴:1日C20本C×50年既往歴:特記事項なし.身体疾患の既往なし.現病歴:X年C7月健康診断で左眼の視力低下と黄斑変性を指摘され,大阪医科薬科大学病院(以下,当院)紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2C×sph+2.75D(cyl.0.50DAx80°),左眼C0.15(0.4×+2.00D),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHgで,両眼とも軽度の白内障以外,前眼部中間透光体に異常は認めなかった.眼底検査で右眼に明らかな異常所見はなかったが,左眼黄斑部に網膜下出血がみられ(図1a),黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で,網膜色素上皮の不整と網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認めた(図1b).CaFAでは左眼の腕網膜循環時間はC15秒で,黄斑部に早期からの蛍光漏出があり,IAでは左眼後期にポリープ病巣を認めた(図2).経過:左眼CPCVと診断し,7月,8月,9月とC3回連続してCIVAを施行した.その結果,SRFは消退し視力は(1.5)と良好に経過したため,X年C11月近医に逆紹介となった.CX+2年C6月,突然の左眼視力低下を自覚し,再び前医を受診した.左眼視力は(0.1)に低下,BRAOを発症しており,OCTでは下方網膜の白濁化と網膜内層の浮腫を認めた(図3a,b).BRAOの原因となる基礎疾患を調べるため内科に紹介したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症を指摘され,治療開始となった.飲酒時の意識消失発作もあり,冠動脈造影検査にて右冠動脈低形成を指摘されるも冠動脈狭窄は指摘されなかった.BRAOの発症C3カ月後,サルポグレラート・カリジノゲナーゼ・メコバラミン内服にて,左眼視力は(0.1)から(0.8)に改善したが,OCTでは下方網膜の菲薄化と網膜血管白鞘化がみられた(図3c,d).CX+3年C1月左眼視力低下を訴え予約外で当院を受診した.受診時視力は(0.1),後極部に出血性網膜色素上皮.離(hemorrhagicCretinalCpigmentCepithelialdetachment:HPED)と器質化した網膜下出血を認めた(図4a,b).PCVの再燃と診断しC4回目のCIVAを施行した.その後出血は器質化し,X+5年の時点で視力は(0.5)であった.禁煙を勧めたが喫煙を継続しており,高血圧や脂質異常と診断されてからの内科への通院は不定期で,内服も途切れがちで,X+5年C4月著明な高血圧症(236/115CmmHg)によるうっ血性心不全のため当院に救急搬送された.高血圧症や慢性腎臓病に対する加療により血圧はC130CmmHg程度まで改善した.IVA4回目施行よりC31カ月後の同年C9月,視力は(0.5)を維持していたが,視神経乳頭耳側に新たなCHPEDCb図1初診時a:左眼眼底写真.黄斑部に網膜下出血を認めた.b:左眼COCT画像.網膜下液を認めた.図2左眼蛍光造影写真a:FA21秒.Cb:FA6分.早期からの蛍光漏出を認めた.Cc:IA38秒.Cd:IA5分.後期にポリープ病巣を認めた.図3左眼BRAO発症時3カ月後a:発症時眼底写真.下方網膜は白濁化していた.Cb:OCT画像.網膜内層浮腫を認めた.Cc:3カ月後眼底写真.血管の白鞘化を認めた.d:OCT写真.下方網膜は菲薄化した.acbdf図4眼底写真とOCT画像a,b:X+3年1月.Cc,d:X+5年9月.Ce,f:X+7年7月.Cab図5X+6年2月左眼FA写真a:FA23秒.Cb:パノラマ写真.網膜動脈充盈遅延と耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めた.の出現とCSRFを認めた(図4c,d).PCVの再燃と判断してIVAをC12月までC3回連続施行した.HPEDは消退傾向となったが,左眼視力は(0.2)まで低下した.CX+6年C2月に再評価目的のためにCFAを再度施行したところ,FAの腕網膜時間はC23秒に延長しており,網膜動脈充盈は遅延していた.また耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤の形成を認めた(図5).頸動脈エコー施行したところ,左総頸動脈でC71%の内腔狭小化と左内頸動脈起始部より血流シグナルは消失していたことから,左内頸動脈閉塞症と診断した.当院脳外科に紹介したところ,頭部単一光子励起コンピュータ断層撮影(singlephotonemissioncomputedtomo-graphy:SPECT)では脳血流低下は軽度であるため内頸動脈閉塞症は経過観察となったが,その後左眼の眼虚血による血管新生緑内障の発症予防目的のため無灌流域に網膜光凝固術を施行した.CX+6年C12月に左眼の白内障手術を施行した.術後視力は(0.3).(0.4)となり,X+7年,滲出性変化は消退していた.最後のCIVAからC2年経過したCX+7年までCPCVは再発を認めず良好に経過している(図4e,f).CII考按本例はCPCVの治療および経過観察中にCBRAOや内頸動脈閉塞をきたした.PCVはポリープ状に脈絡膜血管が拡張することにより生じ,内頸動脈狭窄や閉塞は粥状動脈硬化により生じる.両者に直接の関係はないが,年齢だけでなく,高血圧症や喫煙歴など共通の危険因子1,6,7)があることから合併しやすいと想定される.本例では,1日C20本C×50年という長い喫煙歴があった.しかし当院初診時,健診で高血圧などの全身疾患は指摘されておらず,PCVの通院加療中にBRAOを発症したことにより内科受診を勧めたところ,高血圧や脂質異常症などの循環器系疾患が判明した.PCVを含むCAMDでの重症頸動脈狭窄症はC8.9%と報告されている5)ので,PCVを診察した場合に頸動脈病変が潜在している可能性を考えておく必要がある.また,高血圧はCPCVにおいて再発性網膜下出血の危険因子とされている8).PCVの治療は長期に及ぶことがあり,本例のように,眼科通院途中で高血圧治療を自己中断している場合もあるため,定期的に眼科医も全身状態を確認することは重要である.岡本らは,眼所見から頸動脈狭窄が疑われた患者についてFAとの関連を調べ,頸動脈エコーでの狭窄率がC100%であればCFAの腕網膜循環時間は平均C23.0C±6.1秒,50.90%でC17.4±4.8秒と報告した9).本例の場合,初診時は眼虚血によって生じる耳側周辺部出血斑を認めず,FAでの腕網膜循環時間はC15秒であり,積極的に頸動脈エコーを施行する理由がなかった.50%未満の頸動脈狭窄あるいは内壁にプラークの存在を否定できないと考えられるが,眼科初診時は脳虚血発作や一過性黒内障の自覚がないと頸動脈病変を疑いにくい.内頸動脈閉塞と診断されるC4年前のCX年C2月,BRAOの発症時に内科に原因精査を依頼したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧・右冠動脈低形成を初めて指摘されたが,頸動脈エコー検査は施行していなかった.荻原らは,高血圧・糖尿病・脂質異常症など心血管の危険因子をもつC479名に頸動脈エコー検査を施行したところ,67.8%に動脈硬化性プラークを認め,喫煙者の有プラーク率はC84.6%と報告している10).本例のCBRAOの原因として,発症時にはすでに頸動脈壁にプラークが存在していた可能性が考えられたため11,12),禁煙を指導するとともに内科で高血圧などの診断がされたあとに頸動脈エコー検査が施行されたかを確認すべきであったと反省される.本例ではCX+6年C2月に再評価のため施行したCFAにおいて,腕網膜循環時間の遅延だけでなく耳側周辺部で無灌流域と毛細血管瘤を認めたことより眼虚血を疑った.そこで頸動脈エコー検査を施行することにより,初めて内頸動脈閉塞が診断された.頸動脈にできたプラークが破綻して急速に閉塞した場合に,遊離した栓子による脳梗塞と同時に眼底に多発する軟性白斑を認めたことを細井らは報告したが13),本例では内頸動脈閉塞と診断される直前に脳梗塞や眼底に軟性白斑がみられなかったことより,頸動脈狭窄が長期にわたり緩徐に進行し閉塞に至ったのではないかと推測される.また,内頸動脈閉塞に対し脳外科に紹介したところ,頭部SPECTでは脳血流低下は軽度であったため,内頸動脈内膜.離術・バイパス手術・ステント治療などは施行せず経過観察となった.慢性期内頸動脈完全閉塞症における血流の低下は眼球循環に影響を及ぼし,乳頭新生血管・血管新生緑内障などの眼虚血症候群が生じやすい14.16).本例の場合,網膜周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めたため,血管新生緑内障の発生を危惧し光凝固を施行した.しかし,後極部網膜動脈壁からの蛍光色素透過性亢進がなければ虹彩新生血管は発生しにくく,周辺部に毛細血管瘤が存在してもC15年間悪化しなかった症例が報告されている17).本例ではCBRAOの既往により局所的な網膜酸素需要は低下していたと考えられ,しばらくCFAを施行しながら経過観察する余地があったと思われる.抗CVEGF薬の普及前に,加齢黄斑変性C76眼中C1眼にBRAOが発症したと報告6)されており,本症例におけるBRAOの発症は,3回目のCIVA施行からC20カ月後であったことより,抗CVEGF薬による副作用とは考えにくい.同様に,内頸動脈閉塞症に関しても抗CVEGF薬との因果関係は低いと考えられる.しかし,BRAOおよびその原因と考えられる頸動脈病変とCPCVは,高血圧症や喫煙など共通の危険因子を有しやすいと考えられる.抗CVEGF薬注射後に網膜動脈閉塞症による視力・視野障害や脳梗塞の発症はできる限り避ける必要があるため,初診時に喫煙歴を問診し,高血圧や頸動脈病変の有無を含めて既往歴を確認することは重要である.初診時の問診で既往歴なしと答えても,健診結果の確認や,眼科初診時に少なくとも血圧を測定しておけば,高血圧の有無を確認できる.高血圧症・糖尿病・脂質異常・喫煙は大血管障害を助長する1,18,19).PCV治療前にそれらの危険因子を有している場合,頸動脈エコー検査も視野に入れ,内頸動脈狭窄や閉塞の除外がなされているか確認することは有用である.また,PCVの治療は長期にわたる場合がある.最近では非侵襲的な光干渉断層計血管撮影(OCTangiography)検査の進歩によりCFA・IAを施行する機会がいっそう減少しているので,われわれ眼科医も,初診時の問診だけでなく再診時にも,本例のような頸動脈閉塞を早く見つけるために全身状態の把握は必要と思われる.本症例は,第C38回日本眼循環学会にて発表した.文献1)WongCW,YanagiY,LeeWKetal:Age-relatedmaculardegenerationCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCAsians.ProgRetinalEyeResC53:107-139,C20162)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmolC144:15-22,C20073)AnantharamanCG,CShethCJ,CBhendeCMCetal:PolypoidalCchoroidalvasculopathy:PearlsCinCdiagnosisCandCmanage-ment.IndianJOphthalmolC66:896-908,C20184)SakuradaCY,CYoneyamaCS,CImasawaCMCetal:SystemicCriskfactorsassociatedwithpolypoidalchoroidalvasculop-athyCandCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC33:841-845,C20135)TaniguchiCH,CShibaCT,CMaenoCTCetal:EvaluationCofCcarotidCatherosclerosis,CperipheralCarterialCdisease,CandCchronicCkidneyCdiseaseCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedmaculardegenerationwithoutcoronaryarterydis-easeorstroke.OphthalmologicaC233:128-133,C20156)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:網膜血管病変に合併した加齢黄斑変性の臨床像.臨眼61:773-778,C20077)ZuoC,ZhangX,LiMetal:CaseseriesofcoexistenceofpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithCotherCrareCfundusCdiseases.IntOphthalmolC39:987-990,C20198)ChungYR,SeoEJ,KimYHetal:HypertensionasariskfactorCforCrecurrentCsubretinalChemorrhageCinCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CCanCJCOphthalmolC51:348-353,C20169)岡本紀夫,松下賢治,西村幸英ほか:内頸動脈狭窄と眼循環の関係について─蛍光眼底検査による検討─.眼紀C49:465-469,C199810)萩原信宏:頸動脈エコーC479症例の検討.北海道勤労者医療協会医学雑誌32:41-45,C201011)西川憲清,井口直己,本倉眞代ほか:網膜動脈閉塞症における頸動脈病変II.頸動脈エコーとドプラ血流検査からの検討.臨眼48:1117-1120,C199412)田宮良司,内田環,岡田守生ほか:血管閉塞症と閉塞誠頸動脈疾患との関連について.日眼会誌C100:863-867,C199613)細井千草,井口直己,岩橋洋志ほか:眼底所見からみた内頸動脈閉塞について.眼紀48:1062-1066,C199714)DrakouCAA,CKoutsiarisCAG,CTachmitziCSVCetal:TheCimportanceCofCophthalmicCarteryChemodynamicsCinCpatientsCwithCatheromatousCcarotidCarteryCdisease.CIntCAngiolC30:547-554,C201115)HayrehCSS,CZimmermanMB:OcularCarterialCocclusiveCdisordersCandCcarotidCarteryCdisease.COphthalmolCRetinaC1:12-18,C201716)NanaP,SpanosK,AntoniouGetal:Thee.ectofcarotidrevascularizationConCtheCophthalmicCartery.ow:system-aticCreviewCandCmeta-analysis.CIntCAngiolC40:23-28,C202117)西川憲清,北出和史,宮谷真子ほか:15年間経過観察できた眼虚血症候群のC1例.眼科63:677-685,C202118)FloraCGD,CNayakMK:ACbriefCreviewCofCcardiovascularCdiseases,CassociatedCriskCfactorsCandCcurrentCtreatmentCregimes.CurrPharmDesC25:4063-4084,C201919)梅村敏:第C1章高血圧の疫学.高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編),p4-12,日本高血圧学会,2019***

一過性の網膜の増悪を認めた糖尿病網膜症の1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):546.551,2018c一過性の網膜の増悪を認めた糖尿病網膜症の1例岡本紀夫松本長太下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CDiabeticRetinopathyThatShowedAggravationofTransientRetinopathy─ACaseReportNorioOkamoto,ChotaMatsumotoandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine目的:貧血により眼底所見が変化した糖尿病患者の症例報告.症例:55歳,男性.糖尿病精査目的でC2010年C8月に受診.視力は右眼C0.4(0.9),左眼C0.3(0.9).眼圧正常.両眼とも軽度の白内障を認める.眼底は正常であった.そのときのCHbA1cC7.8%であった.その後はC7.9%台で推移していた.初診から約C4年半年後まで眼底検査では正常眼底であったが,2015年C3月の再診時に乳頭を中心に軟性白斑と網膜出血を認めた.4月の再診時には光干渉断層計で右眼に漿液性網膜.離,左眼に網膜浮腫を認めた.5月の再診時には網膜出血,軟性白斑は減少し,光干渉断層計で網膜浮腫は軽減していた.内科に治療経過を問い合わせたところ,2月のヘモグロビンはC6.6Cg/dlと低下しており,その後もC7Cg/dl以下であったため,3月下旬より腎性貧血疑いにてエリスロポイエチン点滴が開始されていた.血圧は,網膜出血発症前から発症後も腎不全による治療抵抗性高血圧のため高値であった.結論:糖尿病患者の経過観察を行うときは血糖値,HbA1c以外の検査にも目を向け,糖尿病以外の疾患の情報を得るべきである.CPurpose:WeCreportCtheCcaseCofCaCdiabeticCpatientCthatCshowedCalteredCocularC.ndingsCbecauseCofCanemia.CCase:AC55-year-oldCmaleCvisitedCourCclinicCforCthoroughCexaminationCofCdiabetesCinCAugustC2010.CInitialCvisualacuitywas0.4(0.9)ODand0.3(0.9)OS.Intraocularpressureandfundus.ndingswerenormal.Botheyesshowedmildcataract.HbA1catthattimewas7.8%,laterhoveringbetween7%and9%.During4.5yearsafterinitialvis-it,thefunduswasnormal.However,inMarch2015,atthetimeofafollow-upvisit,softexudateandretinalhem-orrhagewereseencenteringaroundtheopticdisc.InApril,opticalcoherencetomography(OCT)revealedserousretinalCdetachmentCinCtheCrightCeyeCandCretinalCedemaCinCtheCleftCeye.CAtCtheCrevisitCinCMay,CretinalChemorrhageCandCsoftCexudateChadCdecreased,CandCOCTCrevealedCamelioratedCretinalCedema.CWeCinquiredCofCtheCdoctorCatCtheCnearbyCclinicCofCinternalCmedicineCasCtoChowCtheCpatientChadCbeenCtreated,CandClearnedCthatChemoglobinCmeasure-mentCinCFebruaryChadCdeclinedCtoC6.6Cg/dlCandCbeenCkeptCbelowC7Cg/dl,CandCthatCintravenousCerythropoietinChadCbeenstartedinlateMarchwithsuspicionofrenalanemia.Bloodpressurewashighbothbeforeandaftertheonsetofretinalhemorrhage,duetothetreatment-resistanthypertensioncausedbyrenalfailure.Conclusion:Whenfol-lowingCupCaCpatientCwithCdiabetes,CweCshouldCbeCvigilantCnotConlyCregardingCtheCresultsCofCbloodCglucoseCandCHbA1c,butalsothoseofothertests,andtrytolookforinformationondiseasesotherthandiabetes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):546.551,C2018〕Keywords:腎性貧血,糖尿病網膜症,高血圧,長期経過,一過性.renalanemia,diabeticretinopathy,hyperten-sion,long-termfollowup,transient.Cはじめに筆者らは,腎性貧血を合併した糖尿病患者にエリスロポイエチン投与が有用であることを報告している1,2).しかし,今までの報告は,網膜症を発症してからのエリスロポイエチン投与の効果に対する報告で,網膜症発症前から長期にわたり追跡した報告ではなかった.また,エリスロポイエチン投与前後の血圧についても検討していなかった.今回筆者らは,治療抵抗性高血圧を合併した糖尿病患者の経過観察中に網膜症を発症し,エリスロポイエチン投与で網膜症が改善したC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312Izumi-cho,Suita-shi,Osaka564-0041,CJAPAN546(128)I症例患者:55歳,男性.既往歴:急性膵炎後に糖尿病と診断されている(10年前).インシュリン療法中.初診日:2010年C8月3日.視力は右眼C0.4(0.9),左眼C0.3(0.9).眼圧正常.両眼とも軽度の白内障を認める.眼底は正常であった(図1).そのときのCHbA1cC7.8%であった.その後はC7.9%台で推移していた.2014年C7月のCHbA1c6.5%であった.2014年C8月に膵炎で入院後,足のむくみを自覚しC9月より利尿薬が開始された.2015年C2月までの眼底検査では正常眼底であったが,3月の再診時には乳頭を中心に軟性白斑と網膜出血を認めた(図2).内科のデータを本人に見せてもらったところC1月の赤血球C259万/μl,ヘモグロビンC8.1Cg/dl,ヘマトクリットC24.9%と低下していた.4月の再診時には視力右眼C0.5(1.0p),左眼C0.3(1.2)と良好であるが光干渉断層計(OCT)で右眼に漿液性網膜.離(SRD),左眼に網膜浮腫を認めた(図3).4月中旬に某病院内科を入院となった.5月C11日来院.網膜出血,軟性白斑は減少し,OCTで網膜浮腫は軽減していた(図4,5).内科に治療経過を問い合わせたところ,2月のヘモグロビンC6.6Cg/dlと低下しており,その後もC7%g/dlであったため,3月C23日より腎性貧血疑いにてエリスロポイエチン点滴(ミラセルCR)が開始されていた.血圧は,網膜出血発症前から発症後も腎不全による治療抵抗性高血圧のため高値(アムロジンCR内服で血圧C170.150/100.90mmHg)であった.表1に血液データ(2015年1.8月まで)を示す.平成C29年C3月現在も糖尿病網膜症の悪化を認めていないが,慢性的な高血圧のため初診時と比べて動脈硬化が進行していた.血圧はいまだに高くC150/90CmmHgである.CII考察筆者は以前に腎性貧血を合併した症例を経験しエリスロポイエチンが網膜血管に直接の効果があることを示唆した1,2).しかし,その後,硝子体のエリスロポイエチン濃度を測定した論文では,エリスロポイエチンが血管内皮増殖因子(VEGF)と同じく網膜症の悪化因子であると報告されている3,4).Watanabeら4),Takagiら5)は糖尿病網膜症の増殖因子としてとらえているが,Zhangら6),Mitsuhashiら7)は網膜症に有効だと考えている.網膜症ではないが,中澤8)は腎性貧血に使用されているエリスロポイエチンは,研究レベルで強力な神経保護があると報告している.渡部ら9)は,腎性貧血がエリスロポイエチン投与により改善することは内科的,眼科的にも重要であり,エリスロポイエチン阻害が増殖糖尿病網膜症の治療に本当に有効であるかどうかは検討が必要であると報告している.王ら10)はエリスロポイエチンの網膜に作用点は多彩である報告している.エリスロポイエチンが眼に対する作用は一定の見解を得ていない.渡部11)は,過去に報告されたエリスロポイエチンで網膜症が改善した報告では,高血圧を検討していないことを指摘している.そこで,今回筆者らはエリスロポイエチン投与前後数カ月の血圧の変化についても追跡したが,治療抵抗性高図1眼底写真(2010年C8月)網膜症を認めない.図2眼底写真(2015年C3月)視神経乳頭を中心に網膜出血,軟性白斑を認める.一部にロート斑様の出血を認める.図3OCT(2015年C4月)右眼にSRD,左眼に網膜浮腫がある.図4眼底写真(2015年C5月)網膜出血,軟性白斑は減少している.図5OCT(2015年C5月)SRDは消失している.表1経時的変化(2015年1.8月まで)2015年1月2月3月4月5月6月8月RBC(万/Cμl)C259C210C220C298C288C297C345Ht(%)C24.9C19.9C24.5C24.5C26.3C27.2C31.7Hb(g/dCl)C8.1C6.6C7.9C8.7C8.3C8.5C10.3Plt(C×104/μl)C14.9C13.9C17.8C24.4C23.1C9HbA1c(%)C6.0C6.0C6.0C6.4C6.4C7.0ヘモグロビン正常値の下限値のC8.4Cg/dl以下に相当する値に下線を引いた.RBC:赤血球数,Ht:ヘマトクリット,Hb:ヘモグロビン,Plt:血小板数,HbA1c:ヘモグロビンCA1c.(131)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C549血圧のため血圧の変化はなかった.渡部11)が指摘する血圧による出血も考えたが,出血時の眼底所見をみるとロート斑様の出血があることから腎性貧血によるものと判断した.貧血性網膜症は,血小板数C5万/mmC3以下かヘモグロビンC6Cg/dl以下になると発症しやすく,ヘモグロビンや血小板のそれぞれ単独の低下と,両者がともに低下している場合を比較すると,両者とも低下の場合,高率に貧血性網膜症がみられる12).三ヶ尻ら13)は男性の糖尿病患者C2名が貧血網膜症を発症した症例で,正常男性のヘモグロビン正常値の下限値のC6割の値(ヘモグロビンC8.6Cg/dl)以下になると貧血網膜症を発症すると報告している.本症例を三ヶ尻ら13)の報告に照らし合わせると,網膜症を認めた時期はヘモグロビンC8.6Cg/dl以下の時期にほぼ一致していた.本症例は,一過性に網膜症が悪化したが,内科が腎性貧血に対して速やかに治療が行ったためと考えられる.しかしながら,ヘモグロビンの数値を経時的にみると,眼底所見は改善しているものの,ヘモグロビンの数値は正常値までにはなっていなかった.一方,徳川ら14)は,ヘモグロビンがC10Cg/dl以下であれば網膜症が進行し,自験例でヘモグロビンC10.7Cg/dlに改善し,貧血の改善とともに眼底も改善した症例を報告している.三ヶ尻ら13),徳川ら14),本症例のいずれもが男性であり,今後女性例も含めた多数例の検討が必要である.本症例のCHbA1cは貧血を発症した期間はC6.0.7.0%であったが,腎機能の低下のある糖尿病患者では,貧血やCHbの低下がCHbA1cに影響することを念頭に置く必要があり,実際の値はもう少し高い値である可能があるので注意が必要である.糖尿病黄斑浮腫はさまざまなタイプがあり,SRDを伴う糖尿病黄斑浮腫は抗CVEGFの治療に抵抗するタイプと報告されている15).SRD型における網膜下液は比較的網膜色素上皮から吸収されにくい成分のため,SRD消失まで抗VEGFを複数回投与する必要があると報告されている16).本症例は一時期にCSRDを認めたが抗CVEGFを投与することなく消失し,その後再発はなかった.石羽澤ら17)は,透析や腎移植で黄斑浮腫が改善したC5例を報告している.一方,善本ら18)は抗CVEGFの硝子体内投与により腎症の悪化した症例を報告していることから,腎症を有する糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF治療は注意が必要である.本症例は薬剤抵抗性の高血圧のためか,初診時とC2017年3月の眼底所見を比較すると動脈硬化が進行したことは明らかである.糖尿病患者の眼所見をみる場合は,糖尿病そのものによる病変か,他の因子に影響された病変が加わっていないかを検討する必要がある19)桂ら20)は硝子体内のエリスロポイエチンと血液中のエリスロポイエチンの構造の違いを報告していることから,筆者らはエリスロポイエチン製剤と硝子体内のエリスロポイエチンに構造上の違いがあるのではないかと推察している.本症例も,過去の報告と同様にエリスロポイエチンが糖尿病網膜症(とくに糖尿病黄斑浮腫)に有効であった可能性がある1,2,21.23).今後,糖尿病患者の経過観察中は腎性貧血にも注意を払い,腎性貧血に対してエリスロポイエチンが投与されていないかチェックすることが重要である.本稿の要旨は第C23回日本糖尿病眼学会にて発表した.文献1)岡本紀夫,松下賢治,西村幸英ほか:エリスロポイエチンにて改善をみた腎性貧血合併糖尿病網膜症のC1例.あたらしい眼科14:1849-1852,C19972)岡本紀夫,斎藤禎子,瀬口道秀ほか:腎性貧血を合併した糖尿病網膜症.眼紀58:437-442,C20073)KatsuraCY,COkunoCT,CMatsunoCKCetCal:ErythropoietinCisChighlyelevatedinvitreous.uidofpatientswithprolifera-tiveCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCCareC28:2252-2254,C20054)WatanabeCD,CSuzumaCK,CMatsuiCSCetCal:ErythropoietinCasaretinalangiogenicfactorinproliferativediabeticreti-nopathy.NEnglJMedC353:782-792,C20055)TakagiCH,CWatanabeCD,CSuzumaCKCetCal:NovelCroleCofCerythropoietininproliferativediabeticretinopathy.Diabe-tesResClinPractC77(Suppl1):S62-S64,20076)ZhangJ,WuY,JinYetal:Intravitrealinjectionoferyth-ropoietinCprotectsbothretinalvascularandneuronalcellsinearlydibeates.InvestOphthalmolVisSciC49:732-742,C20087)MitsuhashiCJ,CMorikawaCS,CShimizuCKCetCal:IntravitrealCinjectionCofCerythropoietinCprotectsCagainstCretinalCvascu-larregressionattheearlystageofdiabeticretinopathyinstreptozotocin-inducedCdiabeticCrats.CExCEyeCResC106:C64-73,C20138)中澤徹:眼科疾患に対する神経保護治療:あたらしい眼科25:511-513,C20089)渡部大介,高木均:増殖糖尿病網膜症とエリスロポイエチン.血管医学11:127-133,C200710)王英泰,高木均:糖尿病網膜症の分子病態と治療.プラクティス28:585-590,C201111)渡部大介:増殖糖尿病網膜症の網膜血管新生因子としてのエリスロポイエチン.日眼会誌111:892-898,C200712)ShorbCSR:AnemiaCandCdiabeticCretinopathy.CAmCJCOph-talmolC100:434-436,C198513)三ヶ尻健一,西川憲清:眼底所見から貧血を疑われた糖尿病患者のC2症例.眼紀58:698-702,C200714)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:一過性に糖尿病網膜症の悪化を認めたC1例.臨眼63:743-747,C200915)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C201316)村上智昭,鈴間潔,宇治彰人ほか:漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブの投与回数.日眼会誌121:585-592,C201717)石羽澤明弘,長岡泰司,横田陽匡ほか:腎移植または血液透析導入を契機に糖尿病黄斑浮腫が改善したC5症例.あたらしい眼科32:279-285,C201518)善本三和子,高橋秀樹,東原崇明ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化したC1例.あたらしい眼科34:419-424,C201719)西川憲清:糖尿病患者の眼所見.眼臨紀9:407-416,C201620)桂善也,小高以直,永瀬晃正ほか:増殖糖尿病網膜症における硝子体中および血中エリスロポイエチンの糖鎖構造について.日本糖尿病眼学会誌21:136,C201521)BermanCDH,CFriedmanCEA:PartialCabsorptionChardCexu-datesCinCpatientsCwithCdiabeticCend-stageCrenalCdiseaseCandCsevereCanemiaCafterCtreatmentCwithCerythropoietin.CRetina14:1-5,C199422)FreidmanEA,BrownCD,BermanDH:Erythropoietinindiabeticmacularedemaandrenalinsu.ciency.AmJKid-neyDisC26:202-208,C199523)SinclairSH,DelVecchioC,LevinA:TreatmentofanemiainCtheCdiabeticCpatientCwithCretinopathyCandCkidneyCdis-ease.AmJOphthalmolC135:740-743,C2003***

細胞性急性リンパ性白血病治療中に発症したPosterior Reversible Encephalopathy Syndrome の1例

2016年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(6):909.914,2016c細胞性急性リンパ性白血病治療中に発症したPosteriorReversibleEncephalopathySyndromeの1例鈴木貴英武居敦英宮川由起子上林功樹取出藍岩竹彰横山利幸順天堂大学医学部附属練馬病院眼科ACaseofPosteriorReversibleEncephalopathySyndromewithT-CellAcuteLymphoblasticLeukemiaTakahideSuzuki,AtsuhideTakesue,YukikoMiyagawa,KokiKanbayashi,AiToride,AkiraIwatakeandToshiyukiYokoyamaDepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital目的:T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)治療中に発症した可逆性後頭葉白質脳症(PRES)症例の報告.症例:T-ALL治療中の34歳,男性が朝からの急激な視力障害で受診した.視力は右眼矯正1.0,左眼矯正0.7,対光反射と中心フリッカー値の低下を認めたが,前眼部,中間透光体,眼底は異常なかった.頭部MRIではFLAIR(fluidattenuatedinversionrecovery)画像およびADC(apparentdiffusioncoefficient)MAPで両側前頭葉および両側後頭葉に高信号域を認め,血管原性浮腫が疑われた.また,当日朝から160/90mmHgの血圧上昇を認めていた.経過からPRESと診断し,当時の使用薬剤を中止し,降圧薬を内服投与したところ,加療から9日目に両眼矯正視力1.2と視力障害が改善され,1カ月後の頭部MRIでは高信号域の消失が認められた.結論:化学療法中の視力障害では,視力低下をきたす基礎疾患があっても,PRESを念頭に置いて検査・加療を行う必要がある.Purpose:Toreportacaseofposteriorreversibleencephalopathysyndrome(PRES)withT-cellacutelymphoblasticleukemia(T-ALL).Case:A-34-year-oldmalereferredtouscomplainingofsuddenvisualloss.Hiscorrectedvisualacuitywas1.0righteyeand0.7left.Lightreflexandcentralflickerfusionflequencywerediminished.Therewerenoocularabnormalfindings.Magneticresonanceimaging(MRI)ofthebrainshowedhyperintensityinthebioccipitalandbifrontalregions.MRIshowedhigh-intensityregioninapparentdiffusioncoefficient(ADC)MAPandfluidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)images,suggestingvasogenicoedema.Bloodpressurewas160/90mmHgatthattime.ThosefindingsledtothediagnosisofPRES.Afterstoppingchemotherapyandtreatinghypertension,visualacuityimprovedwithin9days;hyperintensitiesonMRIimprovedin1month.Conclusion:WeshouldassumePRESforvisuallossduringchemotherapyevenifthepatienthasabasicdiseasecausingvisualloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(6):909.914,2016〕Keywords:可逆性後頭葉白質脳症,T細胞性急性リンパ性白血病,メトトレキセート,高血圧,化学療法.posteriorreversibleencephalopathysyndrome,T-cellacutelymphoblasticleukemia,methotrexate,hypertension,chemotherapy.はじめに可逆性後頭葉白質脳症(posteriorreversibleencephalopathysyndrome:PRES)は,頭痛を伴う症候群の一つで,RPLS(reversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome)と同義で用いられることもある.1996年にHincheyらが,高血圧性脳症や子癇,免疫抑制剤の使用を原因として可逆性の臨床所見を呈した15症例をもとにして提唱した疾患概念である1).おもには急激な血圧上昇に続く血管透過性亢進や血管内皮細胞障害に起因する血管原性浮腫を呈すると考えられている.症状は頭痛,意識障害,痙攣,麻痺,視〔別刷請求先〕鈴木貴英:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:TakahideSuzuki,M.D.,DepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo177-8521,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(149)909 力・視野障害などが知られている.好発部位は頭頂後頭葉を中心に,前頭葉,側頭葉,視床,小脳,脳幹,基底核で,MRI検査で高信号域として描出される.一般的には可逆性の脳症であるが,非可逆性変化へと至る場合もあり,Grelatらは腰椎穿刺後に右片麻痺,意識障害,皮質盲,痙攣症状を呈するPRESを発症し,右片麻痺が後遺症として残存したPRESの症例を報告している2).また,皮質盲など視機能異常の原因となるため,眼科領域でも重要な疾患である.PRESには高血圧性以外にも,各種免疫疾患性,薬剤性などが知られており,これらの場合,血圧管理,痙攣管理,原因薬剤の中止などが治療となる.適切な治療により数日のうちに症状が軽快するとの報告3,4)が多い.今回,T細胞性急性リンパ性白血病(T-cellacutelymphoblasticleukemia:T-ALL)に対する化学療法中にPRESを発症したと考えられる1例を経験したので報告する.I症例患者:34歳,男性.主訴:視力障害.現病歴:2013年6月に頸部リンパ節腫脹から悪性リンパ腫を疑われ,8月に咽頭部腫瘤の生検にて,T-ALLと診断された.髄液細胞診では陰性であったものの,腰椎造影MRI所見ではL5/S1レベルに神経根に沿った多発する濃染が認められT-ALLの坐骨神経根浸潤が疑われた.9月より寛解導入療法を開始し,12月10日より地固め療法3クール目としビンクリスチン(2mg/日),アドリアマイシン(49mg/日)およびメトトレキサートの大量静注(90mg/日)とメトトレキサートの髄注(15mg/日)で加療されていた(表表1治療経過中の化学療法9月10月11月12月寛解導入地固め①地固め②地固め③VCR○○○DNR○CPA○HDAra-C○VP-16○DEX○○HDMTX○ITMTX○○○○ADR○VCR:vincristine,DNR:daunorubicin,CPA:cyclophosphamide,HDAra-C:highdosecytarabine,VP-16:etoposide,DEX:dexamethasone,HDMTX:highdosemethotrexate,ADR:adriamycin,ITMTX:intrathecalmethotrexate.PRES発症時には,12月10日より地固め療法3クール目としてvincristine,adriamycin,methotrexateの3剤が投与されていた.1).同年12月25日朝から両眼の急激な視力低下を自覚したため,同日当院当科初診となった.既往歴:特記なし.初診時所見:12月25日初診時の視力は右眼(1.0×sph.4.75D(cyl-0.50DAx175°),左眼(0.7×sph.3.75D(cyl-1.25DAx180°).眼位,眼球運動,眼圧は正常.頭痛および眼痛なし.前眼部から眼底にかけても異常所見を認めなかった.対光反射は正常からやや減弱していた.中心フリッカー値は右眼21-27Hz,左眼23-31Hzと両眼とも軽度低下が認められた.同日の頭部MRIではT1造影画像(図1)で両側後頭葉中心に小さな結節性増強効果を認め,fluidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)画像(図2)では両側前頭葉,両側後頭葉に高信号域を認めた.Apparentdiffusioncoefficient(ADC)MAP画像においても高信号域を認めたため,血管原性浮腫であると考えられた.また,同日朝は160/90mmHgと血圧の上昇を認めていた.経過:初診時の頭部MRI検査結果および髄液検査結果から,ウイルス性脳炎,ALLの両眼視神経への浸潤,脳梗塞,炎症性/脱髄性疾患は否定的であると考えられた.ALLの髄膜播種の可能性は否定できないものの,抗癌剤などによる薬剤性PRESが原因である可能性がもっとも高いと判断し,地固め療法3クール目を中止とした.同日よりデキサメタゾン内服(20mg/日),グリセオール静注(400mg/日)およびアムロジピン内服(5mg/日)による加療を開始した.診療時間外の診察依頼で視能訓練士が不在であったため,Goldmann動的視野検査および蛍光眼底造影検査は翌日の施行とした.翌26日再診時は,眼底所見(図3)および光干渉断層計,蛍光眼底造影検査では異常所見は認めなかった(図4,5)が,両眼視力は指数弁(矯正不能)に,中心フリッカー値は右眼7-15Hz,左眼15-25Hzに低下しており,Goldmann動的視野検査は測定できなかった(図6).28日の頭部MRI検査結果では,FLAIR画像(図7)およびADCMAP(図8)で両側後頭葉,両側前頭葉の高信号域の拡大を認め,ALLの両眼視神経への浸潤は認められなかった.翌年1月6日,再診時視力は右眼(1.2×sph.4.75D(cyl.0.50DAx175°),左眼(1.2×sph.3.75D(cyl.1.25DAx180°)へ,中心フリッカー値は右眼35Hz,左眼33Hzへと改善を認めた.1月29日の頭部MRI検査結果では,T1造影において両側後頭葉の結節性増強効果の消失,およびFLAIR画像において両側前頭葉,両側後頭葉の高信号域の消失が認められた.以後,1年間以上,正常視機能を維持している.910あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(150) 図112月25日T1造影MRI画像図212月25日FLAIR画像頭部MRIではT1造影画像で両側後頭葉中心に小さFLAIR画像では両側前頭葉,両側後頭葉に高信号域な結節性増強効果を認めた.を認めた.図312月26日眼底写真視力,中心フリッカー値の著明な低下を認め,GPは測定不能であったが,眼底,OCT,FAGでは異常所見は認めなかった.図412月26日OCT所見(151)あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016911 図512月26日FAG所見図612月26日Goldmann動的視野検査所見図712月28日FLAIR画像図812月28日ADCmap画像頭部FLAIR画像において両側後頭葉,両側前頭葉の頭部ADCmap画像において両側後頭葉,両側前頭高信号域の拡大を認めた.葉の高信号域の拡大を認めた.912あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(152) II考按今回の症例では,初診時の両眼視力低下の原因として,PRESのほかにも脳梗塞,ALLの両眼視神経への浸潤,ウイルス性脳炎,その他炎症性/脱髄性疾患,ALLの髄膜播種などが鑑別疾患にあげられたが,初診時の頭部MRI検査結果より,両側後頭葉白質の血管原性浮腫,すなわちPRESであると考えられた.MRIで画像診断する際,脳梗塞との鑑別が重要となる.両者ともT1造影画像およびFLAIR画像で高信号となる.一方でADCMAPにおいては,血管原性浮腫を呈するPRESは高信号となるが,細胞毒性浮腫である脳梗塞は低信号を呈する.本症例においては,MRI初診時のT1造影画像,FLAIR画像,ADCMAP画像にてPRESの好発部位である両側の前頭葉および後頭葉に高信号域を呈していたことから,脳梗塞は否定的と考えられた.また,両側の視神経所見は正常であり,ALLの両眼視神経への浸潤も否定的であった.髄液検査においては,検査数値に有意な異常値はなく,HSV,VZV,HHVも陰性であり,細胞診でも腫瘍細胞は検出されなかったため,ウイルス性脳炎および炎症性/脱髄性疾患は否定的と考えられた.経過中使用していた化学療法は表1のとおりであり,PRESの原因薬剤としては,12月10日より地固め療法3クール目として投与されていたビンクリスチン,アドリアマイシン,メトトレキサートの3剤いずれの可能性も考えられた.ただし,今回のPRES発症以前には,メトトレキサート大量投与48時間後の血中濃度が3.0×10.6mol/lと,投与48時間後の血中危険濃度とされる1.0×10.6mol/lを超える濃度で検出されているため,今回のPRESがメトトレキサートの大量投与に起因したものだと推測するには蓋然性がある.メトトレキサートの主たる副作用は,薬剤添付文書によると,ショック,アナフィラキシー,骨髄抑制,肝・腎不全などがあげられるが,頻度不明ながら,白質脳症含む脳症との記載もある.個別の症例に関しては,B細胞リンパ腫の患者に対しメトトレキサートの髄膜内注射後に発症したPRESの報告5)や,同じくB細胞リンパ腫に対しメトトレキサート大量静脈注射後に発症したPRESの報告6)があるが,本症例においても,メトトレキサートの髄注と大量静注の併用が行われていた.本症例では両眼視力低下発症時に投与していた3剤の迅速な中止と対症療法により軽快が得られているが,3剤同時の投与中止のため,原因薬剤の断定には至らなかった.一方で,本症例においては,過去に腰椎MRI画像よりALLの髄膜播種が疑われており,今回の視力低下出現においても髄膜播種が原因の一つとして考えられたため,PRESによる視力低下と髄膜播種による視力低下の鑑別も必要であ(153)った.しかし,両眼視力低下の発症が急性であったことは,過去の報告2)と一致し,PRESによる視力低下を疑う一助となった.また,過去の報告7)では,PRESの好発部位は前頭葉(78.9%)および後頭葉(98.7%)であり,今回の症例の初診時MRI所見において両側前頭葉かつ両側後頭葉の高信号域が認められたこと,そして原因薬剤の中止と対症療法で症状の軽快が得られたことは,PRESによる両眼視力低下を示唆する.PRESの病態ついてはいまだ議論されており,血圧が脳血流の自動調節能の閾値を超えて上昇するときにBBB(bloodbrainbarrier)が破綻し血管原性浮腫を生じるとするbreakthrough説の他にも,脳血管攣縮に伴う脳虚血により神経症候が出現するとするvasospasm説がある.両説はこれまで対立的に論じられてきたが,現在は両説が混在した病態,すなわち,内因性・外因性の要因がBBBを傷害し,さらに脳血管攣縮による虚血がそれに拍車をかけるという病態が指摘されている3).本症例においては,初診時の朝に160/90mmHgと血圧の上昇を認めていた.過去の報告8)では,PRES発症時の血圧について,120症例のうち86%にあたる97症例で,軽度高血圧とされる140/90mmHg以上の急性の血圧上昇を認めていたとされており,本症例においても血圧上昇が病態に関与していた可能性は否定できない.本症例での初診時の血圧上昇については薬剤起因性の可能性もあるが,両眼視力低下が発症した当時,ALL病状の進行による全身の疼痛の自覚もあったため,疼痛に伴う血圧上昇の可能性もある.今回のPRESにおいて,高血圧の治療と原因薬剤の使用中止で軽快に至った点から,PRESの原因としては,一過性の高血圧と,抗癌剤の使用の両方が考えられた.化学療法中の視力障害ではPRESを念頭において診断治療する必要があると考えられる.文献1)HincheyJ,ChavesC,AppignaniBetal:Areversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome.NEnglJMed334:494-500,19962)GrelatM,DebauxJB,SautreauxJL:Posteriorreversibleenchepalopathysyndromeafterdepletivelumbarpuncture.JMedCaseReports8:261,20143)HobsonEV,CravenI,BlankSC:Posteriorreversibleencephalopathysyndrome:atrulytreatableneurologicillness.PeriDialInt32:590-594,20124)ItoY,KawaiM,YasudaT:Don’tforgetreversibleposteriorleukoencephalopathysundorome(RPLS)/posteriorreversibleencephalopathysyndrome(PRES).JJpnSocIntensiveCareMed15:480-484,20085)GulerT,CakmakOY,ToprakSKetal:Intrathecalmethotrexate-inducedposteriorreversibleencephalopathysynあたらしい眼科Vol.33,No.6,2016913 drome(PRES).TurkJHematol31:109-110,2014sibleencephalopathysyndrome:incidenceofatypical6)PapayannidisC,VolpatoF,IacobucciIetal:Posteriorregionsofinvolvementandimagingfindings.AmJRoentreversibleencephalopathysyndromeinaB-cellacutegenol189:904-912,2007lymphoblasticleukemiayoungadultpatienttreatedwith8)FugateJE,ClaassenDO,CloftHJetal:Posteriorreversapediatric-likechemotherapeuticschedule.HematolRepibleencephalopathysyndrome:associatedclinicaland6:5565,2014radiologicalfindings.MayoClinProc85:427-432,20107)McKinneyAM,ShortJ,TruwitCLetal:Posteriorrever***914あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(154)

人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):119.122,2014c人間ドックにおける緑内障疑い例と循環障害因子との関連横田聡辻隆宏西川邦寿小堀朗福井赤十字病院眼科SuspectedGlaucomaandSystemicVascularDisorderunderHealthCheckupSatoshiYokota,TakahiroTsuji,KunihisaNishikawaandAkiraKoboriDepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital目的:当院における検診受診者で緑内障疑いと診断された症例について,検診検査項目のうち特に血管異常に関係する項目との関連について検討する.対象および方法:2010年1月から12月の間に当院検診センターを利用し,生活習慣病一般検査に加えて,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた全362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).Bodymassindex(BMI),腹囲,喫煙歴,血圧,血糖,脂質,眼圧,頭部MRI,頸部超音波検査の結果と眼底写真により判定した緑内障疑いとの関連について検討した.結果:362人のうち緑内障疑いは66人であった.緑内障疑い群では,収縮期血圧異常(37.9%),空腹時血糖異常(18.2%),頭部MRIでの虚血性変化あり(30%)の割合が対照群(それぞれ25.3%,8.8%,11%)と比較して有意に高かった(p<0.05:c2検定).平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHgであり,対照群の13.1mmHgと比較して有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定).また,回帰分析では,頭部MRI虚血性変化や高い眼圧は緑内障疑いのリスクファクターであった(p<0.05).結論:緑内障性の視神経変化には高眼圧のほか全身および頭部の血管障害が関与している可能性がある.Torevealtherelationbetweenglaucomatousfundusandcerebrovasculardisorder,wereviewed362patients(258males,104females)whohadundergonebrainmagneticresonanceimaging(MRI),cervicalultrasonographyandfunduscameraexaminationatourhospital’shealthcheckupcenterfromJanuarytoDecember2010.Bodymassindex(BMI),waistcircumference,smokinghistory,bloodpressure,fastingglucose,serumlipid,intraocularpressure(IOP),brainMRIandcervicalultrasonographywerestatisticallyanalyzedinrelationtodiscappearance.Ofthe362patients,66werediagnosedwithsuspectedglaucoma.Thesuspectedglaucomagroupwasmorelikelytohavesystolichypertension(37.9%),impairedfastingglucose(18.2%),brainischemia(30%)andhighaverageIOP(14.0mmHg),ascomparedtothecontrolgroup〔25.3%,8.8%,11%(chi-squaretest)and13.1mmHg(Student’st-test),respectively〕.MultivariatelogisticanalysisshowedthatbrainischemiaandhighIOPsubjectsweremorelikelytobeinthesuspectedglaucomagroup(p<0.05).OtherthanIOP,brainMRIischemicchangewasrelatedtosuspectedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):119.122,2014〕Keywords:緑内障,検診,頭部magneticresonanceimaging(MRI)虚血性変化,高血圧,耐糖能異常.glaucoma,healthcheckup,brainmagneticresonanceimaging(MRI)ischemicchange,hypertension,abnormalglucosetolerance.はじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).しかし,正常眼圧緑内障のなかには眼圧非依存因子を推定させる所見を呈することも多い2).過去にも,循環障害や糖尿病については緑内障の発症や進展因子として関与していることが示されている3).また,近年,網膜神経線維層欠損や視野障害と脳微小血管異常との関連が報告された4).これは,脳の微小循環障害のある患者においては網膜にも同様の微小循環障害があり影響を及ぼしたものと推察される.緑内障連続体5)として見たと〔別刷請求先〕横田聡:〒918-8501福井市月見2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:SatoshiYokota,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,Tsukimi2-4-1,Fukui,Fukui9188501,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)119 きに,どの時点から脳微小循環と眼の機能的構造的異常が関連しているか詳しく調べられた報告は少ない.今回,筆者らは検診における緑内障疑い例の緑内障性視神経異常と脳ドックを含む全身の検診の項目との関連について調べたので報告する.I対象および方法対象は2010年1月から12月の間に福井赤十字病院検診センターを利用し,頭部magneticresonanceimaging(MRI)・頸部超音波検査および眼底写真検査を受けた362人(男性258人,女性104人.平均年齢56.4歳).院内の倫理規定に従い,検診用カルテより臨床情報を収集し後ろ向きに解析した.眼底検査は無散瞳カメラ(CanonCR-DG10)で眼底写真の撮影を行い,得られた写真より緑内障の有無を判定した.判定は日本緑内障学会による緑内障ガイドライン1)に沿って行い,いずれかの眼で緑内障診断基準もしくは緑内障疑いと判定する場合の基準を満たすものを緑内障疑い群,それ以外を対照群とした.すなわち,陥凹乳頭径比(C/D比)については,Glosterらの方法6)を採用し視神経乳頭陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径を定規で測定しその比を垂直C/D比とした.リム乳頭径比(R/D比)についても,Glosterらの方法6)を採用しリム部の幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径の比をR/D比とした.垂直C/D比とR/D比をもとに,Fosterらが提唱する診断基準7)を参考に,垂直C/D比が0.7以上,上極もしくは下極のリム幅が0.1以下,両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,網膜神経線維層欠損の存在のいずれかを満たすものを本研究においての緑内障疑い群とした.検診時の担当医の判定を知らない筆者らのうちの1人が改めて判定を行い,当時の検診担当医の判定と一致しない場合には筆者らの間で協議を行ったうえで決定した.Bodymassindex(BMI)は25以上を異常とした8).腹囲は男性で85cm以上,女性で90cm以上を異常とした9).喫煙歴は受診時までに1年以上の習慣的喫煙歴の有無で分けた.血圧は収縮期血圧が140mmHgを超えるものもしくは拡張期血圧が90mmHgを超えるもの10),もしくは受診時に降圧剤の内服をしているものを異常とした.耐糖能は空腹時血糖が126mg/dl以上のもの11),もしくは糖尿病治療薬の内服をしているものを異常とした.脂質代謝はTG(トリグリセリド)150mg/dl以上,HDL(高比重リポ蛋白)40mg/dl未満,LDL(低比重リポ蛋白)140mg/dl以上のいずれかを満たすものもしくは高脂血症の治療薬の内服をしているものを異常とした12).眼圧は非接触眼圧計(NIDEKNT-3000)を使用して計測した.頭部MRIは,放射線科医,神経内科医,脳神経外科医のいずれかが読影を行いラクナ梗塞を含む虚血性変化のあるものを異常とした.頸部超音波検査では放射線120あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014科医が読影を行い,内頸動脈の壁肥厚が1.3mm以上あるものを異常とした.各因子の異常の有無と眼底写真においての緑内障疑いとの関連について統計学的に解析を行った.統計解析にはJMP(SASInstituteInc.バージョン10.0.2)を用いた.II結果362人のうち緑内障疑いは66人であった.残りの296人を対照群とした.緑内障疑い群では男性48名,女性18名,平均年齢58.2歳,対照群では男性210名,女性86名,平均年齢56.0歳で両群間に男女比および年齢分布に有意な差は認められなかった(c2検定,Studentのt検定).BMI異常,腹囲異常,喫煙歴,血圧異常,脂質代謝異常,頸部超音波異常はそれぞれ緑内障群で27.3%,45.5%,59.1%,40.9%,50.0%,対照群で33.1%,47.0%,58.1%,29.4%.52.0%に認められたが,両群間に有意な差は認められなかった(それぞれc2検定).収縮期血圧異常は緑内障疑い群で37.9%,対照群で25.3%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).耐糖能異常は緑内障疑い群で18.2%,対照群で8.8%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).頭部MRIでの虚血性変化がみられた割合は緑内障疑い群で30%,対照群で11%と緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:c2検定).左右の平均眼圧は緑内障疑い群で14.0mmHg,対照群で13.1mmHgと緑内障疑い群で有意に高かった(p<0.05:Studentのt検定)(表1).単変量解析で用いたパラメータを用いて変数強制投入法によるロジスティック回帰分析を行ったところ,表2に示すように,頭部MRIでの虚血性変化および左右平均眼圧が高いことが緑内障疑い群となるリスクを有意に上げることがわかった(p<0.05).しかし,年齢はリスク要因とはならなかっ表1緑内障疑い群と対照群においての各パラメータの単変量解析対照群緑内障疑いn=296n=66男女比*1(男/女)210/8648/18年齢*256.058.2BMI肥満*198(33.1%)18(27.3%)腹囲異常*1139(47.0%)30(45.5%)喫煙歴あり*1172(58.1%)39(59.1%)高血圧*187(29.4%)27(40.9%)(収縮時高血圧)*175(25.3%)25(37.9%)p<0.05耐糖能異常*126(8.8%)12(18.2%)p<0.05脂質代謝異常*1153(51.7%)36(54.5%)MRI頭部虚血*133(11.1%)20(30.3%)p<0.05超音波頸動脈肥厚*1103(34.8%)29(43.9%)平均眼圧*213.1mmHg14.0mmHgp<0.01*1:c2検定,*2:Studentのt検定.(120) 表2ロジスティック回帰分析による緑内障疑いとなるリスクファクターオッズ比(95%信頼区間)pvalue男女比(男)0.975(0.439.2.184)0.952年齢*11.004(0.970.1.039)0.826BMI肥満0.597(0.270.1.310)0.198腹囲異常1.130(0.527.2.374)0.750喫煙歴あり0.910(0.453.1.855)0.910高血圧1.062(0.555.1.995)0.854耐糖能異常2.093(0.909.4.633)0.081脂質代謝異常1.106(0.617.1.991)0.734MRI頭部虚血3.190(1.496.6.812)0.003超音波頸動脈肥厚1.103(0.590.2.033)0.755平均眼圧*11.131(1.017.1.258)0.023*1:単位オッズ比(年齢は1歳,平均眼圧は1mmHgの変化の場合).た.III考按わが国の緑内障有病率は多治見スタディより5.0%程度とされている13,14).本研究では緑内障疑いは受診者の18.2%と高頻度であった.実際に緑内障と診断されるには視野検査が必要であり,今回はスクリーニング検査のため高値となった.実際の緑内障患者で今回と同様の結果になるかは今後の検討課題である.緑内障と全身疾患との関連については過去にも報告されている15).既報3,16)と同様に,検診での緑内障疑い例と収縮期血圧異常や耐糖能異常との関連が示された.肥満は眼圧上昇の誘因であるとの報告17)もあるが,本研究では肥満や脂質代謝異常と緑内障疑いとの関連は認められなかった.これら生活習慣病一般検査と緑内障の関連が示されていることで,食習慣や生活習慣の改善・運動の習慣化といった生活習慣病の予防につながるライフスタイルが緑内障の予防にもつながる可能性が示された.これまでも脳虚血性変化と視野進行の関連は報告されている4).本研究では新たに頭部MRIにおける虚血性変化と緑内障性視神経乳頭形状変化との関連が認められた.頭部での微小循環の障害の患者では同様に網膜や視神経乳頭においても微小循環が障害されている可能性が高く,緑内障の治療や診断面において眼局所での循環と緑内障の発症・進展との関係について今後注目すべきである.血圧異常,耐糖能異常,脳虚血性変化や緑内障は高齢になれば罹患率は上がるため年齢による交絡の可能性がある.しかし,本研究は多変量解析で,年齢は緑内障疑い群となる因子でなく,頭部MRI虚血性変化および高い眼圧が,年齢に関係なく緑内障疑い群となる因子の一つとして示された.眼圧以外に脳の微小循環障害はそれ単独でも緑内障危険因子と(121)なることが判明した.一方,本研究では検診受診時のデータを使用しており,測定している項目が限られているため緑内障と関連があるとすでに報告されている因子のいくつかについては検討ができなかった.多治見スタディでは,近視と開放隅角緑内障との関連が示されている18).しかし,当院の検診では持参の眼鏡やコンタクトレンズでの矯正視力の測定のみで,オートレフラクトリーメータや最大矯正視力検査を行っておらず,本研究では屈折値と緑内障疑い群との関連の検討はできなかった.本研究により緑内障は高血圧症や糖尿病,脳循環障害などの全身疾患との関連があることが明らかになった.緑内障の予防や治療にはこれら全身疾患の改善も必要であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)SakataR,AiharaM,MurataHetal:Contributingfactorsforprogressionofvisualfieldlossinnormal-tensionglaucomapatientswithmedicaltreatment.JGlaucoma22:250-254,20133)雨宮哲士,関希和子,笹森典雄ほか:人間ドックデータと緑内障性眼底変化との関連.山梨医科大学雑誌14:91-97,19994)SuzukiJ,TomidokoroA,AraieMetal:Visualfielddamageinnormal-tensionglaucomapatientswithorwithoutischemicchangesincerebralmagneticresonanceimaging.JpnJOphthalmol48:340-344,20045)WeinrebRN,KhawPT:Primaryopen-angleglaucoma.Lancet363:1711-1720,20046)GlosterJ,ParryDG:Useofphotographsformeasuringcuppingintheopticdisc.BrJOphthalmol58:850-862,19747)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20028)松沢佑次,坂田利家,池田義雄ほか:肥満症治療ガイドライン.肥満研究12:93,20069)メタボリックシンドローム診断基準検討委員会:メタボリックシンドローム診断基準.日内会誌94:794-809,200510)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2009.200911)糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病53:450-467,201012)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版.201213)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,200414)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmologyあたらしい眼科Vol.31,No.1,2014121 112:1661-1669,200517)MoriK,AndoF,NomuraHetal:Relationshipbetween15)PacheM,FlammerJ:Asickeyeinasickbody?System-intraocularpressureandobesityinJapan.IntJEpidemiolicfindingsinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.29:661-666,2000SurvOphthalmol51:179-212,200618)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-16)KleinBE,KleinR,JensenSC:Open-angleglaucomaandangleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiolder-onsetdiabetes.TheBeaverDamEyeStudy.Oph-Study.Ophthalmology113:1613-1617,2006thalmology101:1173-1177,1994***122あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(122)

降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障の1例

2011年8月31日 水曜日

1172(11あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1172?1174,2011cはじめに高血圧症に対する治療薬のなかでa1受容体遮断薬やb受容体遮断薬は,眼局所に投与することで眼圧下降を認めることから緑内障治療薬として応用されている.一方,動物眼に対して,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)点眼により眼圧下降効果を認めた報告がある1).また,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬内服での眼圧下降2)や,ARB内服による眼圧下降3)の報告も認めるが,詳細な奏効機序は不明である.今回,正常眼圧緑内障(NTG)のベースライン眼圧測定中に降圧剤の内服により眼圧下降を認めた1例を経験したので報告する.I症例患者:49歳,男性.主訴:左眼飛蚊症.既往歴:高血圧症(受診時は未治療の状態であった).現病歴:2007年8月より他院で両眼緑内障にてラタノプロスト(キサラタンR)点眼薬を処方されていた.同年9月〔別刷請求先〕小林守:〒769-1695香川県観音寺市豊浜町姫浜708番地三豊総合病院眼科Reprintrequests:MamoruKobayashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MitoyoGeneralHospital,708Himehama,Kanonji-shi,Kagawa769-1695,JAPAN降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障の1例小林守*1馬場哲也*2廣岡一行*2藤原篤之*2白神史雄*2*1三豊総合病院眼科*2香川大学医学部眼科学講座EffectofOralAntihypertensiveAgentsonIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaMamoruKobayashi1),TetsuyaBaba2),KazuyukiHirooka2),AtsushiFujiwara2)andFumioShiraga2)1)DepartmentofOphthalmology,MitoyoGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine降圧剤の内服で眼圧下降を認めた正常眼圧緑内障(NTG)の1例を経験したので報告する.症例は49歳,男性.両眼のNTGと診断し,ベースライン眼圧測定を開始した.以後眼圧は両眼17~19mmHgで経過したが,高血圧症に対してカンデサルタンとドキサゾシンの内服が開始されたところ,眼圧が両眼12~16mmHgに下降した.しかし,血圧下降不十分のためテルミサルタン内服に変更となったところ,血圧は下降したが眼圧は上昇した.その後,カンデサルタンとアムロジピンとエプレレノン内服に変更になったところ,再度眼圧下降を認め,ドキサゾシンを追加しても眼圧に著変がなかったことから,本症例における眼圧下降についてはカンデサルタンが最も関与したと考えた.降圧剤の内服で眼圧下降を認めたNTGの1例を経験した.関与した薬剤としてカンデサルタンが考えられ,緑内障治療薬に応用できる可能性がある.Wereporttheeffectoforalantihypertensiveagentsonintraocularpressure(IOP)ina49-year-oldmalewithnormal-tensionglaucoma(NTG).FollowingthediagnosisofNTGinbotheyes,baselineIOPmeasurementwasinitiated.IOPwas17~19mmHginbotheyesatbaseline.Afteroraladministrationofcandesartananddoxazosinfortreatmentofhypertension,IOPdecreasedto12~16mmHg.However,themedicationwasswitchedtotelmisartanbecausethebloodpressure(BP)-loweringeffectwaspoor.AlthoughBPdecreasedafteroraladministrationoftelmisartan,IOPincreased.Aftermedicationwasagainswitched,tocandesartan,amlodipineandeplerenone,IOPagaindecreased,anddidnotchangeaftertheadditionofdoxazosin.WeconcludedthatcandesartanwasinvolvedintheIOPreductioninthiscase.Candesartancouldbeappliedtoglaucomatreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1172?1174,2011〕Keywords:アンジオテンシンII受容体拮抗薬,正常眼圧緑内障,眼圧,高血圧,カンデサルタン.angiotensinIItype1receptorantagonist,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,hypertension,candesartan.(113)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111173より左眼飛蚊症を自覚し,9月26日香川大学医学部附属病院眼科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.05(1.5×?6.0D(cyl?1.00DAx180°),左眼0.06(1.2×?5.5D(cyl?0.75DAx180°).眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg.両眼部とも前眼部,中間透光体に特記すべき所見は認めなかった.隅角は両眼とも開放隅角で異常所見は認めなかった.眼底は両眼とも視神経陥凹乳頭径比0.9と拡大を認め,陥凹底にlaminardotsign,乳頭上網膜血管のbayonetingを認め,右眼は耳下側に,左眼は下方~耳下側にかけて網膜神経線維層欠損を認め,緑内障性変化と考えられた.黄斑部,網膜血管走行および周辺部網膜に異常所見を認めなかった.HeidelbergRetinaTomographIIでの視神経乳頭解析によるGlaucomaProbabilityScoreは両眼とも正常範囲外であった.静的量的視野検査では,両眼ともブエルム(Bjerrum)領域に弓状暗点を認め,右眼では鼻側階段が出現しており,眼底所見と一致していることから緑内障性視野変化と考えた.経過(図1):両眼のNTGと診断し,2007年10月16日からベースライン眼圧を把握するために点眼を中止した.眼圧測定時刻は15時から17時の間とした.その後,両眼とも眼圧は17~19mmHgで経過していたが,2008年4月より他院で高血圧症に対してARBのカンデサルタン(ブロプレスR)とa1受容体遮断薬のドキサゾシン(カルデナリンR)の内服治療が開始されたところ,眼圧が両眼12~16mmHgに下降した.しかし,血圧コントロール不良のため,11月より他のARBであるテルミサルタン(ミカルディスR)内服に変更となったところ,血圧下降は得られたが眼圧は右眼19mmHg,左眼18mmHgと上昇した.内服飲み忘れなどの問題があり,2009年1月よりカンデサルタン再投与およびCa拮抗薬のアムロジピン(アムロジンODR),アルドステロン阻害薬のエプレレノン(セララR)内服に変更となったところ両眼13~16mmHgとなり再度眼圧下降を認めた.2009年3月よりドキサゾシンの内服が追加されたが,眼圧に著変を認めず,その後も眼圧は下降したまま現在に至っている.また,経過中の降圧薬と血圧,脈拍数を表1に示すが,眼圧に影響を及ぼすほどの大きな変動を認めていない.II考按緑内障に対するベースライン眼圧測定においては,眼圧日内変動や季節変動などの生理的眼圧変動の影響を受ける可能性がある4).しかし,今回の症例では眼圧はいずれも午後から夕方に測定されており,日内変動の影響による変化の可能性は低いものと考えられる.また,季節変動による影響の可能性に関しては,2007年から2008年にかけては内服薬が投与変更されていた時期であること,2009年以降は秋,冬にも眼圧上昇を認めないまま経過したことから,季節変動による可能性も低く,本症例における眼圧変動は投薬などによる外的要因によって生じたものと考える.今回の経過から,本症例における眼圧下降についてはARBが関与したと考えられる.その機序として,レニン・アンジオテンシン系は一般的に副腎皮質におけるアルドステロン生成・分泌,血管収縮作用により生体の血圧調節,および,電解質バランスの維持に関与している.眼局所においてもレニン・アンジオテンシン系が存在すること5)や,レニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与で眼圧下降が得られた表1降圧剤の内容と血圧,脈拍の経過期間内服内容収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)脈拍2008年4月~10月カンデサルタン12mg,ドキサゾシン4mg140~150100~11080~902008年11月~12月テルミサルタン40mg130~14590~11080~902009年1月~2月カンデサルタン12mg,アムロジピン2.5mg,エプレレノン50mg130~14590~10080~902009年3月以降カンデサルタン12mg,ドキサゾシン4mg,アムロジピン2.5mg,エプレレノン50mg130~14090~9570~80②①ドキサゾシンカンデサルタンドキサゾシンカンデサルタン’079月’082月’091月’102月10月12月4月5月7月9月10月11月3月6月9月12月5月8月眼圧(mmHg):右眼:左眼エプレレノンアムロジピン222018161412108図1眼圧の経過と投薬内容グラフ内の①はラタノプロスト点眼,②はテルミサルタン内服.2008年4月の降圧剤内服開始に伴って眼圧が下降している.眼圧下降はカンデサルタン投与期間と一致しており,2009年3月にドキサゾシンを追加した以降も眼圧に著変を認めていない.1174あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(114)との報告もあり1~3),レニン・アンジオテンシン系が房水動態に関与している可能性が考えられる.ARBはアンジオテンシンII1型(AT1)受容体を選択的に阻害することで,アンジオテンシンIIの薬理作用を抑制することが知られているが,ARBの眼局所作用としてぶどう膜強膜流出路を介する房水流出を促進することにより眼圧が下降したことが報告されている1).また,CostagliolaらはARBにより毛様体自体の代謝活性と房水産生を抑制することで眼圧が下降するという考え方をしている6).他にもARBの作用で毛様体無色素上皮におけるCaの情報伝達系を抑制し,カリウムイオンチャネルの活性と細胞容積の減少,毛様体無色素上皮における分泌を抑制するとの報告がある7).Caは毛様体無色素上皮におけるClチャネルを活性化することが知られており,Caの抑制はClチャネルの抑制につながると考えられる.毛様体無色素上皮のClチャネルによる後房へのClイオンの排出が房水産生量を律速すると考えられており8),Clチャネルの抑制は房水産生抑制につながると考えられる.いずれも実際の機序については解明がされていないのが現状であるが,ぶどう膜強膜流出路での房水流出促進,毛様体での房水産生抑制の両面から眼圧下降が生じた可能性が考えられる.本症例では,ARBのなかでもカンデサルタンが最も眼圧下降に関与した薬剤と考えたが,カンデサルタンと同種であるARBのテルミサルタンとの間で眼圧下降効果に違いがみられた.両者の違いとして,まず構造式やそれに伴う分子量の違い,薬物感受性に個人差があるのではないかと考えられる.薬効においては,まず,ARB同士のなかでもAT1受容体への結合親和性の違いがあり,カンデサルタンはテルミサルタンより結合親和性が強いとされていて9),AT1受容体と結合している時間が長いと考えられている.つぎに,ARBのなかではカンデサルタンが最も血液-脳関門を通過しやすいことが報告されており10),血液-網膜関門もカンデサルタンのほうが通過しやすく,その結果眼内のカンデサルタンの濃度が高くなった可能性がある.さらに,ARBにおいて,アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合しない状態でも存在するAT1受容体の自律活性までも阻害するインバースアゴニズムがARBの薬効の違いの一因でもあると考えられており9),カンデサルタンはテルミサルタンよりその作用が強いとされている11).これらにより眼局所におけるAT1受容体活性の阻害に差が生じ,眼圧下降の差を生じたことが推測される.今回の症例では,眼圧下降効果はカンデサルタンが強かったが,血圧下降効果はテルミサルタンのほうが強く,両者の効果に乖離を認めた.近年ARBの薬効である血圧下降作用に加えて臓器保護作用や抗炎症作用などが報告されているが,これらの作用の程度は各薬剤のわずかな化学構造の違いによって異なると考えられている9).また,各臓器への移行性・親和性も異なる可能性が考えられる.これらによって全身と眼内に対する作用がカンデサルタンとテルミサルタンの間で異なっていたために,眼圧への効果と血圧への効果に差を認めたのではないかと考えられる.以上,眼圧下降効果を生じた薬剤としてARBが考えられることから,緑内障患者の病状把握および治療に関しては降圧剤の内服の有無に留意する必要があると考える.ただし,今回の症例は1例であり薬剤の効果を判断するには症例が少ないと思われ,今後は症例を集め多症例で検討する必要があると考える.また,今後ARBが緑内障治療薬に応用できる可能性もあるが,今後さらなる作用機序の解明が必要であると思われる.文献1)InoueT,YokoyamaT,MoriYetal:TheeffectoftopicalCS-088,anangiotensinAT1receptorantagonist,onintraocularpressureandaqueoushumordynamicsinrabbits.CurrEyeRes23:133-138,20012)CostagliolaC,DiBenedettoR,DeCaprioLetal:Effectoforalcaptopril(SQ14225)onintraocularpressureinman.EurJOphthalmol5:19-25,19953)HashizumeK,MashimaY,FumayamaTetal:GlaucomaGeneResearchGroup;GeneticpolymorphismsintheangiotensinIIreceptorgeneandtheirassociationwithopen-angleglaucomainaJapanesepopulation.InvestOphthalmolVisSci46:1993-2001,20054)中元兼二,安田典子:眼圧に影響する諸因子.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p136,文光堂,20065)SavaskanE,LofflerKU,MeierFetal:Immunohistochemicallocalizationofangiotensin-convertingenzyme,angiotensinIIandAT1recptorinhumanoculartissues.OphthalmicRes36:312-320,20046)CostagliolaC,VerolinoM,DeRosaMLetal:Effectoforallosartanpotassiumadministrationonintraocularpressureinnormotensiveandglaucomatoushumansubjects.ExpEyeRes71:167-171,20007)CullinaneAB,LeungPS,OrtegoJetal:Renin-angiotensinsystemexpressionandsecretoryfunctioninculturedhumanciliarybodynon-pigmentedepithelium.BrJOphthalmol86:676-683,20028)DoCW,CivanMM:Basisofchloridetransportinciliaryepithelium.JMembrBiol200:1-13,20049)木谷嘉博,三浦伸一郎:ARBのクラスエフェクトとドラッグエフェクト.血圧17:698-703,201010)UngerT:Inhibitingangiotensinreceptorsinthebrain:possibletherapeuticimplications.CurMedResOpin19:449-451,200311)中木原由佳:ARBにおけるインバースアゴニスト活性について.鹿児島市医報46:9,2007