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アスタキサンチンの家兎眼内動態の検討

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(133)14610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14611464,2008cはじめにアスタキサンチン(astaxanthin:AX)はb-カロチンなどと同じカロテノイドの仲間で,サケ・エビ・カニや海藻などの魚介類に多く含まれる赤い色素である13).近年,AXには強力な抗酸化作用,抗動脈硬化作用など多くの分野での作用効果が報告されている4,5).さらに,近年,AXの抗炎症作用を介した脈絡膜新生血管抑制効果についても明らかにされている6).眼科領域では実験的ラット眼内炎症モデルに対する抗炎症作用,visualdisplayterminals(VDT)作業者における調節力改善,ヒトにおける調節機能改善などが報告され,これら調節機能改善効果の作用機序として毛様体機能の改善の可能性が考えられている719)が,経口投与されたAXの眼内動態に関する報告はなく,その詳細は不明である.今回,機能性食品素材であるAXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した.I実験材料および方法1.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重2.73.1kg)雄性24羽を用いた.2.検討した機能性食品素材アスタキサンチン(AX)含有ヘマトコッカス藻抽出物ア〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Uchinada,Ishikawa920-0293,JAPANアスタキサンチンの家兎眼内動態の検討福田正道*1高橋二郎*2西田康宏*2佐々木洋*1*1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)*2富士化学工業株式会社ライフサイエンス事業部IntraocularPenetrationofAstaxanthininRabbitEyesMasamichiFukuda1),JiroTakahashi2),YasuhiroNishida2)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)LifeScienceDivision,FujiChemicalIndustryCo.,Ltd.目的:アスタキサンチン(astaxanthin:AX)の経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定した.方法:白色家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0,3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で前房水,虹彩・毛様体および血清内移行濃度を測定した.AX濃度測定は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)で行った.AXの移行動態の濃度解析はノンコンパートメントモデルによる解析を行った.結果:最高濃度は,虹彩・毛様体では投与24時間後,血清では9時間後にみられた.モデル式から算出した最高濃度Cmaxは,虹彩・毛様体では79.3ng/g,血清では61.3ng/ml,前房水では検出されなかった.結論:AXは虹彩・毛様体内に達することが明らかになった.この結果はAXが眼内炎症への抗炎症効果や疲労改善に寄与する科学的根拠の一つになるものと考える.Weinvestigatedtheintraocularpenetrationofastaxanthin(AX)afteroraladministrationinalbinorabbiteyes.Theanimalsreceived100mg/kgofAXorallyinasingledose.Theobservationtimepointswereat0,3,6,9,12,24,48,72and168hoursafteradministration.AXconcentrationsinoculartissuesweredeterminedbyhigh-perfor-manceliquidchromatography(HPLC).Pharmacokineticparameterswerecalculatedusingthenon-compartmentmethod.MaximumAXconcentrations(Cmax)iniris/ciliarybodyandserumweremeasurableafter24and9hours,respectively.ThecalculatedCmaxwere79.3ng/gforiris/ciliarybodyand61.3ng/mlforserum.TheCmaxforaque-ouscouldnotbedetectedbythenon-compartmentmethod.AXshowedgoodpenetrationintheserumandiris/ciliarybody.WefeelthatthisresultoersscienticgroundforconcludingthatAXcontributestotheimprove-mentofeyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14611464,2008〕Keywords:アスタキサンチン,白色家兎眼,眼内動態,高速液体クロマトグラフィー法(HPLC),経口投与.astaxanthin,albinorabbiteyes,intraocularpenetration,high-performanceliquidchromatography(HPLC),orally.———————————————————————-Page21462あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(134)スタリールオイル50F(富士化学工業株式会社製)を用いた(図1).3.実験方法a.AXの家兎血中および眼内移行動態家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0(非投与),3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で左後耳静脈より約3mlを採血し,その後,前房水を約0.2ml採取し,眼球を摘出した.摘出した眼球は一旦20℃で凍結し,24時間以内に融解後各組織を分離,再度80℃以下の温度で試料処理時まで凍結保存した.b.試料処理法眼組織中の抽出は,Yeumらの方法を改変した方法で行った20).簡略に述べると,眼組織を冷PBS(リン酸緩衝液)中でハサミで細断し,冷却しながらポリトロンホモジナイザー(ポリトロン)を用いホモジナイズした.血清は,2倍にPBSで希釈し,そのまま試料として用いた.得られたホモジネートあるいは血清に50Uのコレステロールエステラーゼ(和光純薬),500Uのリパーゼ(Candidarugosa由来,シグマ-アルドリッチ),10μgのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加し,窒素充後,37℃で1時間インキュベートした.250ng/mlの内部標準(8¢-apo-b-carotene-8¢-oate),10μg/mlのBHTを含む冷EtOH溶液を同容積添加し激しく懸濁し,4倍量の冷塩化メチレンを添加し,窒素ガス充後4℃で60分間振盪した.振盪後,4倍量の冷PBS,20倍容の冷ヘキサンを添加し,再度,窒素ガス充後4℃で30分間振盪した後,4℃,4,000rpmで15分間遠心分離し,上清を集めた.残った下層は塩化メチレン-ヘキサンで3回抽出し,上清を集めた.集められた上清は,窒素ガス気流下で減圧乾固後,tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)に再溶解し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した.4.AX濃度測定方法a.HPLC装置および条件HPLC装置と使用条件は,デガッサ:DGU-20A,ポンプ:島津製作所LC-20A(流速:0.1ml/min),オートインジェクター:島津製作所SIL20A(設定温度4℃),検出器:島津製作所SPD-M20A(フォトダイオードアレイ検出器:測定波長250750nm,定量には474nm,リファレンス波長として630nmを用いた),カラムオーブン:島津製作所CTO20A(設定温度:16℃)分析カラムは,YMCCarote-noidColumn3S(2.0×150mm,YMC社)を用い移動相としてA液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=93:5:2,B液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=8:90:2を用い以下のようにグラジエント溶出を行った.すなわち,100%A液から7.6分でB液が13%,13.3分で20%,29分で50%,43分で100%になるようにリニアグラジエント溶出を行い,その後15分間B液で溶出を行った.b.眼組織および血清中のAX濃度測定法AXの濃度測定は内部標準法を用いた.AXは21,000ng/mlの濃度範囲内で良好な直線性を確認された.本実験に先立って虹彩・毛様体を用い添加回収試験を行った.AX非投与動物から摘出した虹彩・毛様体に100ng/mlになるようにAXおよび200ng/mlの濃度の内部標準を添加し,実験方法で述べた方法で抽出したところ回収率は,それぞれ80110%,85110%であった.AX定量値のCV(coecientsofvariation)値は5.4%であった.また,抽出動作の前後でそれぞれの化合物の分解および幾何異性化などの反応産物はほとんど認められなかったため,本実験で用いた抽出方法は,眼組織内のカロテノイド抽出において妥当な方法であると考えられた.定量下限値は前房水で2ng/ml,血清で2ng/ml,虹彩・毛様体では3ng/gであった.c.AXの薬物動態の解析AXの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移についてノンコンパートメントモデルによる解析を行った.血清および虹彩・毛様体のCmax(ng/gorng/ml),AUCt(ng・h/gorng・h/ml),Tmax(h),およびT1/2(h)を算出した.〔Cmax:最高組織中濃度,AUCt:最終時点tまでの組織中濃度-時間曲線下面積,Tmax(h):最高組織中濃度到達時間,T1/2(h):組織中濃度半減期〕.II結果1.AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化(表1,図2)血清および虹彩・毛様体では,経時的なAX濃度の増加および消失が認められた.血清中では,投与後9時間で最高濃度値61.26±26.87ng/ml(mean±SD,n=5)を示し,その後,徐々に減少し,投与72時間後には完全に消失した.一方,虹彩・毛様体では,投与後6時間目から徐々に増加し,24時間で最高濃度値(79.35±37.35ng/g)(mean±SD,n=6)となった.その後,緩やかに低下し,投与後7日目では完全に消失した.前房水では全経過を通してAXは測定限界以下であった.AXを経口投与前の前房水,血清および虹彩・毛様体においてはAXは検出されなかった.2.血清および虹彩・毛様体におけるAX濃度推移のノンコンパートメントモデルによる解析(表2)虹彩・毛様体のCmax(ng/g)は79.3,AUCt(ng・h/g)はOHOOHO図1アスタキサンチンの化学構造式———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081463(135)2955.7,Tmax(h)は24,T1/2(h)はN.C.であった.一方,血清ではCmax(ng/ml)は61.3,AUCt(ng・h/ml)は524.7,Tmax(h)は9,T1/2(h)は5.9であった.III考按AXの調節機能改善効果の機序を考えるうえで,その作用部位と考えられている毛様体へのAX移行動態の検討はきわめて重要である.本研究の目的は経口投与されたAXの眼内動態を明らかにすることである.AXの経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定することは投与法の設定,眼に対する安全性および有効性を知るうえで眼科用薬剤と同様に基礎的検討事項の一つであると考える.ところが,これまでにAXの眼内での定量法は筆者らが知る限りにおいては十分に検討されておらず,本研究に先立ちAXの眼組織内濃度測定法の設定を検討した.カロテノイド抽出法による眼組織からのAXの抽出やAXの定量にHPLC法を用いたことで,AXの眼組織内濃度測定が可能になった.AXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した今回の結果では,AXは虹彩・毛様体に移行することが確認できた.虹彩・毛様体では,投与6時間から徐々に上昇し,24時間で最高濃度値に達し,その後,徐々に減少した.一方,血清中では投与9時間まで濃度の増加が認められ,その後,徐々に減少傾向がみられた.ヒトの血中濃度の最高値もやはり投与後約9時間である21)ことより,今回の家兎の虹彩・毛様体における成績はヒトの眼内動態に近似している可能性が示唆された.血清に比べAXの虹彩・毛様体内での移行濃度が高く,最高濃度到達時間が遅れた原因については不明であるが,虹彩・毛様体は豊富な血管構造を有すること,また,メラニン色素も豊富なことも,AXが血清濃度以上に組織内濃度に滞留する原因の一つになっている可能性も考えられる.今回の実験で,AXの虹彩・毛様体内への移行が確認できたことはこれまでの種々のAXの眼の調節機能改善効果を証明するうえでも,意義ある結果であると考える.経口投与された抗菌薬が,投与12時間前後で血中最高濃度値に到達し,わずかに遅れて眼組織内最高濃度値に達することと比べると,AXの血中および眼組織内移行濃度の最高濃度到達時間が明らかに遅く,この点はAXの大きな特徴として把握しておく必要があると考える.IT機器の普及により,VDT作業はますます増加することが予想され,眼精疲労改善に寄与すると考えられるカロテノイドの一種であるAXの眼内移行動態の基礎的検討の意義は大きいと考える.文献1)JohnsonEA,AnGH:Astaxanthinfrommicrobialsources.CritRevBiotechnol11:297-326,19912)KobayashiM,KakizonoT,NishioNetal:AntioxidantroleofastaxanthininthegreenalgaHaematococcusplu-vialis.ApplMicrobiolBiotechnol48:351-356,19973)OshimaS,OjimaF,SakamotoHetal:Inhibitoryeectofb-caroteineandastaxanthinonphotosensitizedoxidationofphospholipidbilayers.JNutrSciVitaminol39:607-615,19934)MikiW:Biologicalfunctionsandactivitiesofanimalcaro-tenoids.PureApplChem63:141-146,19915)ShimizuN,GotoM,MikiW:Carotenoidsassingletoxy-genquenchersinmarineorganism.FishSci62:134-137,19966)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Inhibitationof表1AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化時間(h)369122472168血清9.10±6.8836.88±17.7761.26±26.8720.46±12.758.26±6.91NDND虹彩・毛様体ND4.76±2.2233.55±12.7446.51±24.1679.35±37.354.43±3.33ND眼房水NDNDNDNDNDNDNDND:検出限界以下.(ng/ml,g)1,0001001010.10.01020406080100120140160180:虹彩・毛様体:血アスタキサンチン濃度(ng/ml,g)投与後時間(分)図2アスタキサンチン100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化表2アスタキサンチンの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移をノンコンパートメントモデルによる解析組織薬物動態パラメータCmax(ng/gorng/ml)AUC(ng・h/gorng・h/ml)Tmax(h)血清61.3524.79虹彩・毛様体79.32955.724———————————————————————-Page41464あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(136)choroidalneovascularizationwithananti-inammatorycarotenoidastaxanthin.InvestOphthalmolVisSci49:1679-1685,20087)OhgamiK,ShiratoriK,KotakeSetal:Eectsofastaxan-thinonlipopolysaccharide-inducedinammationinvitroandvivo.InvestOphthalmolVisSci44:2694-2701,20038)SuzukiY,OhgamiK,ShiratoriKetal:Suppressiveeectsofastaxanthinagainstratendotoxin-induceduveitisbyinhibitingtheNFkBsignalpathway.ExpEyeRes82:275-281,20069)KimJH,KimYS,SongGGetal:Protectiveeectofastaxanthinonnaproxen-inducedgastricantralulcerationinrat.EurJPharmacol514:53-59,200510)UchiyamaK,NaitoY,HasegawaGetal:Astaxanthinprotectsb-cellsagainstglucosetoxicityindiabeticdb/dbmice.RedoxRep7:290-293,200211)AoiW,NaitoY,YoshikawaTetal:Astaxathinlimitsexercise-inducedskeletalandcardiacmuscledamageinmice.AntioxidRedoxSignal5:139-144,200312)NagakiY,HayasakaS,YamadaTetal:Eectsofastax-anthinonaccomodation,criticalickerfusion,andpatternvisualevokedpotentialinvisualdisplayterminalworkers.JTradMed19:170-173,200213)中村彰,磯部綾子,大高康博ほか:アスタキサンチンによる視機能の変化.臨眼58:1051-1054,200414)新田卓也,大神一浩,白取謙治ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした摂取量設定試験─.臨床医薬21:543-556,200515)白取謙治,大神一浩,新田卓也ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした効果確認試験─.臨床医薬21:637-650,200516)長木康典,三原美晴,塚原寛樹ほか:アスタキサンチン含有ソフトカプセル食品の調節機能及び疲れ眼に及ぼす影響.臨床医薬22:1-14,200617)岩崎常人,田原昭彦:アスタキサンチンの眼疲労に対する有用性.あたらしい眼科23:829-834,200618)高橋奈々子,梶田雅義:アスタキサンチンが調節機能の回復に及ぼす影響.臨床医薬21:432-436,200519)長木康典,三原美晴,高橋二郎ほか:アスタキサンチンの網膜血管血流におよぼす影響.臨床医薬21:537-542,200520)YeumKJ,TaylorA,TangGetal:Measurementofcaro-tenoids,retinoids,andtocopherolsinhumanlenses.InvestOphthalmolVisSci36:2756-2761,199521)OdebergJM,LignellA,PetterssonAetal:Oralbioavail-abilityoftheantioxidantastaxanthininhumansisenhancedbyincorporationoflipidbasedformulations.EurJPharmSci19:299-304,2003***