———————————————————————- Page 1(117) 16930910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(12):1693 1696,2009cはじめに特発性黄斑円孔の発症機序には,黄斑への硝子体の牽引が重要な役割を果たしていると考えられている.黄斑部網膜に付着している硝子体皮質が収縮すると接線方向の牽引を生じ,傍中心窩では局所的な後部硝子体 離(PVD)を生じて弧が弦になろうとするために,残った黄斑部には接線方向と前後方向の牽引が生じる.硝子体皮質は黄斑部に生理的に強く接着しているために,黄斑部で PVD が生じないと網膜に裂隙を生じ,黄斑円孔を形成すると考えられている1).黄斑円孔の治療は通常硝子体切除,内境界膜 離を行い,網膜への牽引を解除し,ガスタンポナーデにより円孔を閉鎖する2).今回筆者らは,もともと黄斑前膜として経過観察していた患者で,光干渉断層計(optical coherent tomography:OCT)上明らかな PVD または局所的な PVD を伴わないが,なん〔別刷請求先〕伊藤忠:〒036-8562 弘前市在府町 5弘前大学大学院医学研究科眼科学Reprint requests:Tadashi Ito, M.D., Department of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, 5 Zaifu-cho, Hirosaki 036-8562, JAPAN内境界膜自然 離を伴った黄斑円孔症例伊藤忠*1山崎仁志*1横井由美子*1目時友美*1竹内侯雄*1木村智美*1 中澤満*1楠美智巳*2*1 弘前大学大学院医学研究科眼科学*2 弘前大学大学院医学研究科病理生命科学A Case of Macular Hole with Internal Limiting Membrane DetachmentTadashi Ito1), Hitoshi Yamazaki1), Yumiko Yokoi1), Tomomi Metoki1), Kimio Takeuchi1), Satomi Kimura1), Mitsuru Nakazawa1) and Tomomi Kusumi2)1)Department of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, 2)Department of Pathology and Bioscience, Hirosaki University Graduate School of Medicine緒言:術前から内境界膜の自然 離がみられた黄斑円孔症例に対して硝子体手術を施行したので報告する.症例:57 歳,男性.平成 19 年 10 月頃から左眼視矇を自覚し,同年 12 月前医受診,左眼黄斑円孔を指摘され 12 月 11 日弘前大学眼科(以下,当科)紹介受診となった.左眼黄斑円孔に対する手術目的で平成 20 年 4 月 7 日当科入院.入院時視力は左眼(0.2),検眼鏡的に左眼は星状硝子体症および黄斑円孔を認め,光干渉断層計では網膜表層の分離所見がみられた.4 月 9 日左眼に白内障硝子体手術を施行.血管アーケード内で内境界膜 離があることを確認し, 離している内境界膜を切除し 20% SF6(六フッ化硫黄)ガスタンポナーデで手術を終了した.切除した膜様物の病理所見は内境界膜で矛盾はなかった.退院時左眼視力は(0.15),術後 4 カ月には(0.7)と向上した.考察:星状硝子体症による牽引が内境界膜 離,さらに黄斑円孔を形成した可能性が考えられた.We report a case of macular hole with internal limiting membrane detachment before vitreous surgery. The patient, a 57-year-old male, had experienced blurred vision 2 months previously. A macular hole had been discov-ered in his left eye in December 2007;he was admitted to our hospital for surgery in April 2008. Left-corrected visual acuity was 20/100 before surgery. Fundus examination showed asteroid hyalosis and macular hole in the left eye. Optical coherence tomography disclosed separation of retinal surface. During vitrectomy, the internal limit-ing detachment in the vascular arcade was identi ed and removed by the extractor. The pathological ndings for the removed membrane corresponded with internal limiting membrane. The postoperative corrected visual acuity was 20/125 at 2 weeks postsurgery and 20/32 at 4 months. Traction by the asteroid hyalosis could have caused the internal limiting membrane detachment and macular hole.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(12):1693 1696, 2009〕Key words:黄斑円孔,内境界膜,星状硝子体症,後部硝子体 離.macular hole, internal limiting membrane, asteroid hyalosis, posterior vitreous detachment.———————————————————————- Page 21694あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(118)らかの牽引により内境界膜が術前から自然 離していた黄斑円孔の症例に対して硝子体手術を施行し,円孔閉鎖を得られたので,その経過について報告する.I症例患者:57 歳,男性.主訴:左眼視矇感.既往歴:糖尿病,高血圧.家族歴:兄,姉 糖尿病.現病歴:平成 18 年頃より前医で両眼黄斑前膜を指摘されていたが,自覚症状なく経過観察されていた.平成 19 年 10月頃より左眼視矇感を自覚し,同年 12 月に前医受診の際に左眼層状黄斑円孔を指摘され,同年 12 月 11 日弘前大学眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時所見:矯正視力は右眼 0.07(0.9×sph 7.00 D(cyl 1.00 D Ax75°),左眼 0.04(0.2×sph 6.00 D(cyl 1.00 D Ax75°),眼圧は右眼 15 mmHg,左眼 14 mmHgであった.図 1初診時の左眼後極眼底写真黄斑前膜および層状黄斑円孔を認める.硝子体は星状硝子体症による変性を認める.図 2初診時の左眼OCT所見全層黄斑円孔,傍中心窩硝子体膜 離および限局性の網膜 離がみられる.矯正視力 0.2.図 4退院時左眼OCT所見黄斑円孔は閉鎖しているものの,中心窩の小さな網膜 離が残存している,矯正視力 0.15.100?m図 3除去した膜様構造組織の病理所見除去した膜様構造組織は PAS 染色陽性で ILM として矛盾はなかった.また,黄斑前膜による細胞浸潤も認める.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091695(119)細隙灯顕微鏡検査では角膜,前房に異常なく,水晶体は軽度白内障を認めた.眼底検査では右眼に黄斑前膜,左眼に星状硝子体症および黄斑円孔を認めた(図 1).糖尿病網膜症は認めなかった.光干渉断層計(OCT)では,黄斑円孔および網膜表層での膜様物の分離所見を認めた(図 2).明らかなPVD は認めず,Gass の stage 3 と考えられた.経過:手術目的に平成 20 年 4 月 7 日入院.4 月 9 日左眼白内障同時硝子体手術施行.硝子体手術用メニスカスレンズで観察し,後極部全面に及ぶ内境界膜(internal limiting membrane:ILM) 離があることを確認した.星状硝子体症があり,後部硝子体膜と網膜の癒着が強いためか,人工的後部硝子体 離を行うも不完全だった.ILM 鉗子で残存後部硝子体皮質ごと 離している ILM を除去した.ILM は円孔縁でのみ網膜と強固に接着していたが,網膜が裂けないよう注意して接着を外した.除去した膜を病理組織学的に検索したところ,periodide acid Schi (PAS)染色陽性であり,ILM として矛盾のない結果だった(図 3).20% SF6(六フッ化硫黄)ガスタンポナーデで手術を終了した.術後ガスが消退してきて OCT を施行したところ,黄斑円孔は閉鎖していたものの,中心窩の小さな網膜 離が残存している状態で,視力は 0.05(0.15)であった(図 4).術後 4 カ月後の OCTでは中心窩の網膜 離は消失しており,中心窩陥凹もみられ,視力は 0.06(0.7)と改善していた(図 5).術後 8 カ月後には視力 0.06(0.8)となった.II考察本症例の術前 OCT では硝子体側の網膜表層の分離所見がみられた.もともと黄斑前膜がみられた症例であり,この画像のみでは分離している層が黄斑前膜なのか,内境界膜 離も伴っているのかは不明であった.硝子体手術中に硝子体手術用のメニスカスコンタクトレンズで拡大観察したところ,内境界膜 離のようにみられたので,内境界膜鉗子で残存硝子体膜ごと除去した.術中に採取した膜様物の病理組織学的検索では,PAS 染色陽性であり,組織学的に ILM であることがわかった.内境界膜は神経上皮性細胞である Muller 細胞の基底膜であり,PAS 染色陽性となる3).よって本症例の術前 OCT でみられた網膜表面の分離所見は内境界膜自然 離によるものであることが判明した.通常,黄斑円孔は硝子体の牽引から生じるので OCT でみると,黄斑部を牽引している後部硝子体皮質がみられる.また,PVD が生じている Gass stage 4 では 離した後部硝子体皮質とそれに付着する円孔の蓋がみられることが多い4).しかし本症例の OCT 所見では黄斑円孔が生じているにもかかわらず,明らかな後部硝子体皮質はみられなかった.また,術中トリアムシノロンを用いて PVD の有無を確認したが後部硝子体 離は完成しておらず,しかも人工的後部硝子体 離の作製を試みるも困難であったため,結局残存していた後部硝子体皮質ごと 離していた内境界膜を除去した.一般的に星状硝子体症では硝子体はあまり液化していないことが多く,PVD も生じにくい5).Yamaguchi ら6)は星状硝子体症があり視力低下をきたした症例に硝子体手術を施行しており,いずれも黄斑部での網膜と硝子体の癒着が強く,そのなかで黄斑浮腫をきたしていた例もあったと報告している.実際,本症例でも PVD 作製が困難であり,不完全であった.本症例の黄斑円孔は,星状硝子体症による後部硝子体皮質と網膜の癒着が,より強い網膜への牽引を生じたために発生したものであると思われた.また,同時に星状硝子体症よる広い範囲の牽引が,血管アーケード内に内境界膜 離を生じさせた可能性が考えられた.このように本症例は,通常の特発性黄斑円孔と様相は異なっていたが,硝子体切除,内境界膜除去により黄斑部への牽引解除をすることで,円孔閉鎖が得られた.退院時の OCT では円孔は閉鎖しているものの,中心窩の小さな網膜 離が残存しており,矯正視力も(0.15)にとどまっていたが,術後 4 カ月後の OCT では網膜 離は消失し,矯正視力も(0.7),8 カ月後には(0.8)と向上しており,硝子体手術によって解剖学的にも機能的にも改善がみられ,通常の特発性黄斑円孔と同様,経過は良好であった.本論文の要旨は第 32 回日本眼科手術学会にて報告した.文献 1) Kishi S, Hagimura N, Shimizu K:The role of the premac-ular lique ed pocket and premacular vitreous cortex in idiopathic macular hole development. Am J Ophthalmol 図 5術後4カ月の左眼OCT所見中心窩の網膜 離は消失しており,中心窩陥凹も認める.矯正視力 0.7.———————————————————————- Page 41696あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(120)122:622-628, 1996 2) 山根真,門之園一明:網膜硝子体疾患.あたらしい眼科 22(臨増):155-158, 2005 3) 向野利彦,猪俣孟:網膜内境界膜の厚さ.臨眼 46:222-223, 1992 4) 岸章治:黄斑円孔.あたらしい眼科 24(臨増):78-83, 2007 5) 秋葉純:硝子体の変性.眼科学(丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦ほか)I 巻,p238-243,文光堂, 2002 6) Yamaguchi T, Inoue M, Ishida S et al:Detecting vitreo-macular adhesions in eyes with asteroid hyasosis with tri-amcinolone acetonide. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 245:305-308, 2007***