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外傷性黄斑円孔が自然閉鎖した後に再発がみられた1例

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1291.1293,2012c外傷性黄斑円孔が自然閉鎖した後に再発がみられた1例山本裕樹*1,2佐伯忠賜朗*1鷲尾紀章*1土田展生*1幸田富士子*1*1公立昭和病院眼科*2お茶の水・井上眼科クリニックLateReopeningofSpontaneouslyClosedTraumaticMacularHoleHirokiYamamoto1,2),TadashiroSaeki1),NoriakiWashio1),NobuoTsuchida1)andFujikoKoda1)1)DepartmentofOphthalmology,ShowaGeneralHospital,2)OchanomizuInouyeEyeClinic症例は13歳,男性で,軟式野球ボールが右眼に当たり受傷した.初診時の視力は右眼(0.3),左眼1.2(矯正不能),右眼眼底に黄斑円孔,および軽度の硝子体出血,網脈絡膜萎縮を認めた.受傷約1カ月後に円孔は自然閉鎖した.しかし受傷後約1年で黄斑円孔の再発を認めた.しばらくしても自然閉鎖が得られず,円孔の拡大および視力低下をきたしたため,硝子体手術を施行した.術後円孔は閉鎖した.自然閉鎖した外傷性黄斑円孔の再発はまれであるが,閉鎖後も再発の可能性があることに留意すべきである.また,再発した外傷性黄斑円孔に対し硝子体手術は有用であった.A13-year-oldmalewasstruckintherighteyebyarubberball.Best-correctedvisualacuitywas0.3rightand1.2left.Fundusexaminationdisclosedmacularhole,slightvitreoushemorrhage,andchorioretinalatrophy.Onemonthlater,themacularholeclosedspontaneously.Aboutoneyearafterthetrauma,themacularholereopenedanddidnotspontaneouslyclose,butenlarged.Vitrectomywasperformed.Themacularholeclosedafterthesurgery.Whilemacularholereopeningmightbeararecomplication,ophthalmologistsshouldbeawareofitspossibleoccurrenceaslatecomplicationofaspontaneouslyclosedtraumaticmacularhole.Vitrectomywasaneffectivetreatmentforreopeningofaspontaneouslyclosedtraumaticmacularhole.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1291.1293,2012〕Keywords:外傷性黄斑円孔,自然閉鎖,再発,黄斑前膜,硝子体手術.traumaticmacularhole,spontaneousclosure,reopening,epiretinalmembrane,vitrectomy.はじめに鈍的外傷に続発する外傷性黄斑円孔は,自然閉鎖が早期より認められることが多い.受傷後約3カ月の経過観察のあとに,閉鎖しない場合は硝子体手術が有効であると報告されている1.5).一旦自然閉鎖したのち再発した外傷性黄斑円孔は,非常にまれな合併症6)である.今回,自然閉鎖したのち再発した外傷性黄斑円孔を経験し,硝子体手術により閉鎖し良好な結果を得られたので報告する.I症例患者:13歳,男性.初診:2008年9月24日.主訴:右眼視力低下.現病歴:2008年9月15日軟式ボールが右眼に当たり,その後視力低下を自覚して近医を受診し,公立昭和病院眼科を紹介された.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.3),左眼は1.2(矯正不能),眼圧は右眼18mmHg,左眼は14mmHg,右眼は軽度散瞳状態であった.眼底に軽度の硝子体出血,視神経乳頭の発赤,網脈絡膜萎縮,約0.2乳頭径大の黄斑円孔を認めた(図1).経過:受診から約1カ月後の10月22日に黄斑円孔は自然閉鎖し(図2),矯正視力も(0.5)に改善した.その後も脈絡膜萎縮は残るものの,円孔は閉鎖していた.受傷から約8カ月後の2009年5月27日に矯正視力(0.8)であった(図3).2009年9月9日の再診時,黄斑円孔の再発,黄斑前膜を認めた(図4).しかし,矯正視力が(0.9)で比較的良好で,自覚症状もなかったため,経過観察とした.2009年11月25日受診時には矯正視力が(0.4)に低下し,円孔の拡大を〔別刷請求先〕山本裕樹:〒187-8510東京都小平市天神町2-450公立昭和病院眼科Reprintrequests:HirokiYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaGeneralHospital,2-450Tenjin-cho,KodairaCity,Tokyo187-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1291 図42009年9月9日のOCT写真黄斑円孔の再発を認め,網膜萎縮部に収縮した黄斑前膜を認める.図1a2008年9月24日の眼底写真軽度の硝子体出血,黄斑鼻側に網脈絡膜萎縮,視神経乳頭の発赤,約0.2乳頭径大の黄斑円孔を認める.図1b2008年9月24日の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)写真全層の黄斑円孔を認める.図5a2009年11月25日の眼底写真1/3乳頭径の黄斑円孔の再発を認める.図5b2010年11月25日のOCT写真図4と比較し黄斑円孔の拡大を認める.図22008年10月22日のOCT写真黄斑円孔は閉鎖しているが,網膜の萎縮を認める.図62010年12月24日のOCT写真黄斑円孔は閉鎖し,黄斑上膜は認めない.図32009年5月27日のOCT写真黄斑円孔は閉鎖しており,網膜の萎縮がみられる.1292あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(116) 図72010年7月21日の眼底写真黄斑円孔は閉鎖している.認めた(図5).2009年12月10日,右経毛様体扁平部硝子体切除術〔人工的後部硝子体.離作製+内境界膜.離+20%SF6(六フッ化硫黄)ガスタンポナーデ併用〕を施行した.術後に黄斑円孔は閉鎖し(図6),矯正視力は(0.3)であった.その後も再発なく経過している(図7).II考察鈍的外傷に続発する外傷性黄斑円孔は,自然閉鎖が早期より認められることがある.円孔が閉鎖しない場合には,硝子体手術が有効であるといわれている1.5).自然閉鎖したのち再発するのはまれである6).特発性黄斑円孔の場合,再発の原因は,黄斑円孔手術後の黄斑前膜によるもの,白内障手術施行後の黄斑浮腫によるものとの報告がある7,8).本症例では受傷1カ月後に自然閉鎖し,約1年後,黄斑円孔の再発を認めた.再発の原因としては網脈絡膜萎縮側の黄斑前膜の収縮により黄斑部に水平方向の牽引がかかり,閉鎖した円孔の再発を惹起したことが考えられる.再発時,自覚症状もなく矯正視力も変化ないため,再び自然閉鎖を期待して経過観察したが,円孔の拡大および視力低下を認め,収縮した黄斑前膜に変化がないため自然閉鎖は期待できないと考え,硝子体手術を施行した.外傷性黄斑円孔の再発はまれであるが,その原因として黄斑前膜が関与して再発する可能性が今回考えられた.自然閉鎖後も経過観察が必要だと思われる.また,再発した症例に対して硝子体手術は有効であった.文献1)MitamuraY,SaitoW,IshidaMetal:Spontaneousclosureoftraumaticmacularhole.Retina21:385-389,20012)徐麗,新城ゆかり,蟹江佳穂子ほか:外傷性黄斑円孔の治療.眼紀53:287-289,20023)長嶺紀良,友寄絵厘子,目取真興道ほか:外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術成績.あたらしい眼科24:1121-1124,20074)土田展生,西山功一,戸張幾生:外傷性黄斑円孔に対し内境界膜.離が有効であった2症例.臨眼54:961-964,20005)佐久間俊郎,田中稔,葉田野宜子ほか:外傷性黄斑円孔の治療方針について.眼科手術15:249-255,20026)KamedaT,TsujikawaA,OtaniAetal:Latereopeningofspontaneouslyclosedtraumaticmacularhole.RetinalCases&BriefReports1:246-248,20077)PaquesM,MassinP,SantiagoP:Latereopeningofsuccessfullytreatedmacularholes.BrJOphthalmol81:658662,19978)PaquesM,MassinP,BlainPetal:Long-termincidenceofreopeningofmacularhole.Ophthalmology107:760766,2000***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121293