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改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固 術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1 症例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):410.414,2023c改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1症例馬場口紘成藤代貴志杉本宏一郎相原一東京大学医学部附属病院眼科CACaseofMacularEdemainBothEyesafterBilateralMicropulseCyclophotocoagulationUsingtheImprovedProbeKouseiBabaguchi,TakashiFujishiro,KoichiroSugimotoandMakotoAiharaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)後に両眼に黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.症例:48歳,男性.落屑緑内障による両眼高眼圧の治療のため当院を受診した.両眼にCMP-CPCを行い,右眼,左眼とも術後C28日で黄斑浮腫を発症した.右眼は術後C56日の時点で自然軽快したが,左眼は黄斑浮腫の程度が強く,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行い,術後C79日で改善を得た.結論:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブによるCMP-CPCで黄斑浮腫を発症した初めての報告である.MP-CPC後の黄斑浮腫の治療にCSTTAが有効である可能性がある.CPurpose:Toreportacaseofmacularedema(ME)inbotheyesafterbilateralmicropulsecyclophotocoagula-tion(MP-CPC)usingtheMicroPulseP3DeviceRev2(IridexCorp.)probe.Casereport:A48-year-oldmalewasreferredtoourhospitalfortreatmentofhighintraocularpressureinbotheyesduetoexfoliationglaucoma.Bilater-alCMP-CPCCwasCperformed,CyetCMECdevelopedCinCbothCeyesCatC28-daysCpostoperative.CAtC56-daysCpostoperative,CtheMEinhisrighteyeresolvedspontaneously,yetat42-dayspostoperative,theMEinhislefteyewassevere,sosub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonideinjection(STTA)wasCadministeredCandCimprovementCwasCachievedCat79-dayspostoperative.Conclusion:Thisisthe.rstreportedcaseofMEinbotheyesafterbilateralMP-CPCwiththeMicroPulseP3DeviceRev2probe,andSTTAmaybeane.ectivetreatmentforMEafterMP-CPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):410.414,C2023〕Keywords:緑内障,マイクロパルス毛様体光凝固術,MicroPulseP3DeviceRev2,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.glaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,MicroPulseP3DeviceRev2,macularedema,sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに緑内障は視神経と視野に特徴的な変化を有する疾患であり,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一の治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法としては点眼加療,レーザー治療,観血的治療などがある.これまでは点眼やレーザー治療による眼圧下降が不十分な場合は手術で眼圧下降を行っていたが,社会的な理由(高齢,僻地)などにより入院や通院が困難で,加療ができずに失明に至る患者もおり課題が残っていた.近年日本に導入されたマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は合併症が少なく安全に眼圧下降を得られ,入院や頻回の通院を必要としない治療として注目されている1).今回,新型のプローブ(MicroPulseCP3CDeviceRev2)を用いて両眼にCMP-CPCを行い両眼とも術後黄斑浮腫(macu-laredema:ME)を発症した患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕馬場口紘成:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:Kouseibabaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC410(128)I症例患者:48歳,男性.既往歴:重症アトピー性皮膚炎.手術歴:2001年に両眼水晶体再建術,2019年に右眼,2021年に左眼眼内レンズ強膜内固定術.現病歴:2013年に両眼落屑緑内障(pseudoexfoliationsyndrome:PE)の診断を受け,近医で点眼加療を受けていた.両眼にカルテオロール塩酸塩ラタノプロストC1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミドC2回,リパスジル塩酸塩水和物C2回を点眼していたが,2022年C3月に右眼眼圧C38mmHg,左眼眼圧C29CmmHgと両眼眼圧上昇を認めたため,緑内障治療目的に東京大学医学部附属病院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼矯正視力(0.7)(logMAR換算値0.16),左眼矯正視力(1.2)(logMAR換算値C.0.08).眼圧はGoldmann圧平眼圧計で右眼C28CmmHg,左眼C22CmmHg.角膜に異常はなく,前房炎症もなかった.両眼とも落屑物質が虹彩縁にみられCPEと診断した.両眼眼内レンズ強膜内固定後で正位,両眼底とも光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)上で黄斑浮腫はなかった.網膜静脈分枝閉塞症などの血管閉塞性病変の合併もなかった.重症アトピー症候群のため瞼裂は非常に狭小で眼瞼肥厚を認めた.Humphrey30-2静的視野検査では平均偏差(meandeviation:MD)値は右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdBと右眼で,進行した視野障害を認めた(図1).CII経過眼瞼の状態が悪く術野の確保が困難であるため,手術加療が困難であると判断し,MP-CPCを行う方針となった.2022年3月に右眼MP-CPC,2022年4月に左眼MP-CPCを,それぞれCCycloG6GlaucomaLaserSystem(Iridex社)を用いて行った.CMicroPulseCP3CDeviceRev2プローブを用い,麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon.下麻酔C3Cml,レーザー設定は出力C2,500CmW,dutycycle31.3%,経結膜で上下半球それぞれ片道C20秒かけて往復しC2往復ずつ(計C80C×2秒)照射した.両眼とも眼内レンズ強膜内固定後であるが,4時,10時方向の眼内レンズ固定部位へも他の部位と同様に照射した.術中にとくに疼痛の訴えはなかった.術後点眼としてガチフロキサシン点眼C4回,0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル点眼C4回をC1週間使用した.右眼は術後C7日で眼圧C16CmmHg,28日後C15CmmHg,56日後C22CmmHg,77日後C23CmmHgと眼圧下降を認めたが,98日後にC40CmmHgと再上昇した.眼瞼の状態が悪く線維柱帯切除術後の濾過胞維持が困難と予想され,Ahmed-FP7によるチューブシャント手術を予定している.術後の前房炎図1静的視野検査MD値:右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdB.右眼でとくに進行した視野障害を認めた.症は軽度であった.術後C28日の時点でごく軽度のCMEを認めたが,術後C56日の時点では自然軽快しており,以降再発なく経過している(図2).矯正視力は術前ClogMAR換算値0.16に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.40と低下を認め,ME改善後も視力は変化していない.左眼は術後C7日で眼圧C13CmmHg,28日後C14CmmHg,49日後C20CmmHg,79日後C15CmmHgと眼圧下降を認めた.術後の前房炎症は軽度であった.術後C7日後の時点では,MEを認めなかったが,術後C28日で著明なCMEを認め,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)(20mg)を行った.術後C79日でCMEはほぼ消失した(図3).矯正視力は術前logMAR換算値C.0.08に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.52と悪化を認めたが,術後C79日でCMEがほぼ消失するとC0.10と回復した.この間,高眼圧に対する治療としては,MP-CPC術後点眼以外に点眼の追加や内服の追加は行わなかった.STTA後に点眼の追加は行わず,非ステロイド性抗炎症薬(snon-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAID)点眼は使用しなかった.CIII考按MP-CPCは従来型の連続波CPCと比較して遷延性低眼圧,ME,視力低下,眼球勞などの重篤な合併症の率が少ないことが特徴である2,3).MP-CPCは従来型プローブとしてC2017年に日本に導入されたが,先端が大きいため狭瞼裂症例で照射困難をきたすことがあり,先端部分の面積が小さく改良され,プローブ先端が眼球面に沿うように形状が改良されたRev2プローブが導入された.MP-CPCによって組織に供給されるエネルギーに影響を与える既知の因子として,出力,時間,dutyCcycle(実際の照射時間:CycloCG6CGlaucomaCLaserSystemでは,照射時間のC31.3%),sweep時間(プローブを眼球に押し当てて結膜上を滑らす片道移動時間)の四つの変数が報告されている4.6).MP-CPCの有効性と安全性眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図2右眼経過術後C28日でごく軽度の黄斑浮腫を発症したが,経過観察のみで術後C56日で軽快した.術後C98日で眼圧C40mmHgと上昇を認め,チューブシャント手術を予定している.眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図3左眼経過術後C28日で著明な黄斑浮腫を発症し,術後C42日でCSTTAを行った.黄斑浮腫発症に伴い視力低下を認めたが,術後C79日でCMEが改善すると視力も改善傾向を認めた.(130)表1MP-CPCと黄斑浮腫についての既報術前眼圧最終受診眼圧Sweep時間黄斑浮腫視力低下低眼圧眼球勞既報(mmHg)(mmHg)エネルギー(J)(秒)(%)(%)(%)(%)Limetal11)C31.5±12.0C23.8±11.8(術後C2年)31.3.C125.2C10C1.4C13.9C0.5C3.4CWilliamsetal10)C31.9±10.251%眼圧低下(術後C8カ月)75.1.C225.4C-5.0C17.0C8.8C0CLimetal12)C35.2±11.0C31.8±13.2(術後C3年)31.3.C112.7C-2.3C32.6C7.0C4.7CChamardetal13)C24.9±7.1C18.9±6.3(術後C6カ月)C75.1C15C1.4C14.3C1.1C0CdeCrometal15)C23.5±9.4C16.8±9.2(術後C2年)100.2.C112.7C-1.4C24.7C0.7C0のバランスには出力(W)C×時間(s)C×dutycycle(0.313)で計算されるエネルギー(J)が関与すると報告されており7,8),SanchezらはC112.150CJのエネルギーを理想的なレーザーパラメーターとして報告している9).MP-CPC後の合併症として知られるCMEは,その頻度は決して高くなくC1.1.5%程度ではあるが10),視力低下をきたしうる重要な合併症の一つである.従来型プローブを用いた既報ではCLimらはC62.8C±12.2JのCMP-CPC後にC1.4%でMEを発症し,いずれも発症後C3カ月以内に自然消退したと報告している11).また,別の報告ではC31.3J.112.7JのMP-CPC後にC2.3%でCMEを発症し,2カ月以内に自然消退したと報告している12).ChamardらはC75.1CJのCMP-CPC後1週間でC1.1%の症例にCMEを認めたが,自然消退したと報告している13).本症例では両眼ともC125.2CJのCMP-CPC後28日でCMEを発症した.左眼はCSTTAを行ったが,両眼ともCMEの発症時期や軽快までの期間は既報と同程度であった.また,MP-CPC術後に両眼CMEを発症した報告はこれまでになく,きわめてまれと考える(表1)10.14).MEの治療に関して,一般的なCMEの治療としてはNSAIDs点眼やステロイド点眼,長期に効果が持続するSTTAが有効である15).既報ではCMP-CPC後のCMEは自然治癒したが,本症例では左眼のCMEの程度が強く,STTAを行い,STTA後C37日(MP-CPC後C79日)で改善を得た.MP-CPC後のCMEは症例数が少ないためにまだ確立した治療法はなく,STTAの治療が適切であるかどうか今後の検討が必要である.既報との相違点としては,まずCME発症の既報は従来型のCMP-CPCプローブを用いて行われたのに対して,今回は新プローブのCRev2を用いていることと,sweep時間も既報のなかでは長いC20秒であったことである.MEが発症した理由として,一つめは,本症例では重症アトピー症候群および長期間のCFP受容体作動薬使用により眼瞼の状態がきわめて悪く,瞼裂が非常に狭小であった.その平均値±標準偏差ためCRev2を用いても治療に十分な照射スペースを確保することがむずかしく,今回のような狭瞼裂に対しては従来型のプローブよりも容易に照射可能であるが,照射の向きが従来型のプローブと異なり,従来型のプローブでは眼球に対して垂直に照射するのに対して,Rev2では視軸に対して平行に照射する.そのため従来型プローブとCRev2で同じエネルギー照射量であったとしても,Rev2の照射は網膜側に向かうため,エネルギーが散乱することで網膜方向へある程度のレーザーエネルギーが伝わり,炎症性のCMEを惹起した可能性が考えられた.二つめは,sweep時間は術者によって異なる因子であり,片道約C5秒.30秒の間で報告されている4).レーザープローブのCsweepの時間を変化させることで治療効果や副作用を比較した報告はまだないが,同じレーザー出力の設定であってもsweep時間が長くなるほど組織の熱変性が大きくなると考えられ,今回は片道C20秒でレーザープローブをCsweepさせたため,既報のなかではプローブのCsweep時間が長いために熱変性が大きくなり炎症性のMEが生じた可能性が考えられた.三つめは,本症例は両眼とも眼内レンズ強膜内固定術後であり,後.が残っておらず無硝子体眼であったこともCME発症に関与していた可能性がある.ME発症時の僚眼へのCMP-CPCに関して,両眼発症の報告はなく不明だが,片眼でCMP-CPC術後にCMEを生じた場合は僚眼のCMP-CPCによるCMEの発症リスクが通常より高い可能性も十分考えられる.治療の際は僚眼への適応を慎重に考え,術前にはCME発症リスクについて患者に十分に説明したうえで理解を得る必要があると考える.また術後は,眼圧だけでなく,OCTで黄斑部の定期的な検査の必要があると考えられた.CIV結論今回,筆者らはCRev2を使用して両眼にCMP-CPCを行い,両眼にCMEを発症した症例を経験した.Rev2によるMP-CPCでCMEを発症した初めての報告であり,ME発症にはCRev2の照射角度やエネルギー,sweep時間,眼瞼の状態などが関与していた可能性がある.MP-CPC後のCMEの治療としてCSTTAが有効である可能性があるが,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C36:933-936,C20192)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)VarikutiCVNV,CShahCP,CRaiCOCetal:OutcomesCofCmicro-pulsetransscleralcyclophotocoagulationineyeswithgoodcentralvision.JGlaucomaC28:901-905,C20194)AbdelmassihY,TomeyK,KhoueirZ:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation.JCurrGlaucomaPractC15:C1-7,C20215)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20206)NguyenCAT,CMaslinCJ,CNoeckerRJ:EarlyCresultsCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CEurCJCOphthalmolC30:700-705,C20207)JohnstoneCMA,CShaozhenCS,CPadillaCSCetal:Microscopereal-timevideo(MRTV)C,high-resolutionOCT(HR-OCT)&histopathology(HP)toCassessChowCtranscleralCmicro-pulselaser(TML)a.ectsCthesclera,CciliaryCbody(CB)C,muscle(CM)C,secretoryCepithelium(CBSE)C,Csuprachoroi-dalspace(SCS)&CaqueousCout.owCsystem.CInvestCOph-thalmolVisSciC60:2825,C20198)SanchezCFG,CPeirano-BonomiCJC,CBrossardCBarbosaCNCetal:UpdateConCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion.JGlaucomaC29:598-603,C20209)SanchezFG,Peirano-BonomiJC,GrippoTM:Micropulsetransscleralcyclophotocoagulation:aChypothesisCforCtheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOphthal-molC7:94-100,C201810)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C201811)LimCEJY,CAquinoCCM,CLimCDKACetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCadvancedCglauco-ma.JGlaucomaC30:257-265,C202112)LimEJY,AquinoCM,LunKWXetal:E.cacyandsafe-tyofrepeatedmicropulsetransscleraldiodecyclophotoco-agulationCinCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC30:566-574,C202113)ChamardC,BachouchiA,DaienVetal:E.cacy,safety,andCretreatmentCbene.tCofCmicropulseCtransscleralCcyclo-photocoagulationCinCglaucoma.CJCGlaucomaC30:781-788,C202114)deCCromCR,CSlangenCC,CKujovic-AleksovCSCetal:Micro-pulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCoutcomes.CJCGlauco-maC29:794-798,C202015)ReichenbachCA,CWurmCA,CPannickeCTCetal:MullerCcellsCasCplayersCinCretinalCdegenerationCandCedema.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC245:627-636,C2007***

SGLT2 阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な 視力低下をきたした2 型糖尿病症例

2021年5月31日 月曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(5):567.572,2021cSGLT2阻害薬内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした2型糖尿病症例上野八重子*1藤部香里*1石口絵梨*1野田浩夫*1徳田あゆみ*2近本信彦*3*1宇部協立病院内科*2宇部興産中央病院眼科*3近本眼科CACaseofType2DiabeteswithSuddenLossofVisionDuetoNeovascularGlaucomawhileTakingSGLT2InhibitorYaekoUeno1)CKaoriHujibe1)CEriIshiguchi1)CHirooNoda1)CAyumiTokuda2)andNobuhikoChikamoto3),,,,1)DepartmentofInternalMedicine,UbeKyoritsuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UbeKosanCentralHospital,3)ChikamotoEyeClinicC新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を内服中に血管新生緑内障による急激な視力低下をきたした糖尿病症例を報告する.症例はC40歳,男性.10年余り治療を放置しC4年前に他院にて前増殖網膜症を指摘されたが,自己判断で治療を中断し,2年前より宇部協立病院内科で治療を再開.高血糖に対しCSGLT2阻害薬をビグアナイド類と併用.血糖値は改善傾向で視力は維持されたが,8カ月後に急な左眼視力低下をきたし宇部協立病院眼科を受診.両眼とも黄斑浮腫はなく,高眼圧(右眼C22CmmHg,左眼C54CmmHg)と左眼角膜浮腫とびらん,左眼優位の虹彩ルベオーシスを認めた.頭頸部CMRAにて右内頸動脈CC3の軽度狭窄を認めた.両眼隅角に新生血管が多発しており汎網膜光凝固術にて右眼の視力は維持されたが,左眼は高眼圧による視神経萎縮で失明した.糖尿病網膜症が悪化する際には黄斑浮腫による視力低下を伴うことが多いが,この症例ではCSGLT2阻害薬内服によって黄斑浮腫が抑制された可能性がある.急な経過より眼虚血症候群との関連も否定できなかった.CPurpose:Toreportthecaseofa40-year-oldmalewithdiabeteswhosu.eredasuddendropinvisualacuity(VA)dueCtoCneovascularCglaucomaCwhileCtakingCSGLT2Cinhibitor,CaCnovelCantidiabeticCdrug.CCase:ThisCstudyCinvolvedCtheCcaseCofCaC40-year-oldCmaleCpatientCwithCdiabetesCinCwhomCtheCdiseaseCwasCleftCuntreatedCforCmoreCthan10years.Fouryearsprevious,hewasdiagnosedwithpre-proliferativeretinopathyatanotherhospital.Twoyearsago,hepresentedatourhospital,andatreatmentinvolvingthecombineduseofSGLT2inhibitorwithotherdrugsforhyperglycemiawasrestarted.HisbloodglucosewasimprovingandhisVAwaswell-maintained,yet8monthslater,heexperiencedasuddendropofVAinthelefteye.Highintraocularpressure(54mmHg)andcorne-aledemawereobserved,buttherewasnomaculaedemainbotheyes.MildstenosisofthecarotidarteryC3wascon.rmedCviaCaCheadCMRACexamination.CConclusion:SGLT2CinhibitorsCmayCimproveCmacularCedemaCdueCtoCtheCdiuretice.ect,fromthesuddenprogressconsideredtherelationshipwithocularischemicsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(5):567.572,C2021〕Keywords:SGLT2阻害薬,糖尿病網膜症,血管新生緑内障,眼虚血症候群,黄斑浮腫.SGLT2inhibitor,diabeticretinopathy,neovacularglaucoma,ocularischemicsyndrome,maculaedema.Cはじめにナトリウムグルコース共輸送体C2(sodium/glucoseCcotransporter2:SGLT2)阻害薬は,近位尿細管において糖の再吸収を阻害して尿糖排泄量を増加させることにより血糖値を低下させる新規経口血糖降下薬である.2014年C4月に1剤目のイプラグリフロジンが発売された当初は高齢者への投与において脳血栓などのリスクが懸念されたが,その後の評価で脱水や全身状態に注意すれば年齢を限らず使用可能とされた1).発売後C5年以上を経過した現在では,血糖降下作用以外に心疾患や腎障害に対する効果についてエビデンスが〔別刷請求先〕上野八重子:〒755-0005山口県宇部市五十目山町C16-23宇部協立病院内科Reprintrequests:UenoYaeko,UbeKyoritsuHospital,16-23Gojumeyama,Ube,Yamaguchi755-0005,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(87)C567蓄積されたことや,インスリン分泌を介さない作用機序によりC1型糖尿病にも適応が拡大されており,抗糖尿病薬において中心的位置を占めてきている.今回,糖尿病性合併症のある若年患者にCSGLT2阻害薬を使用したところ,血糖値は改善したが,血管新生緑内障による眼圧上昇により急激な視力低下をきたしたので,原因を考察しつつ症例を呈示する.CI症例患者:40歳代,男性.主訴:下腿浮腫.既往歴:27歳で糖尿病を指摘.ケトーシスでの入院歴あり(他県の病院).過去最大体重:110Ckg(20歳代)家族歴:特記すべきことなし.Ca2016年11月(内科初診時)現病歴:27歳で糖尿病を指摘されたが,10年以上治療を放置した.2015年に職場検診にて糖尿病・高血圧症・脂質異常症を指摘され,宇部興産中央病院内科で糖尿病治療(インスリン療法)を開始した.同院眼科で両眼に前増殖網膜症を指摘されたがC3カ月後には事情で内科・眼科ともに治療を中断.2016年C11月,産業医より受診を勧められ宇部協立病院内科を初診.現症および検査所見:体重C81Ckg,血圧C191/100CmmHg,脈拍C105/分,右眼視力C0.07(0.8),左眼視力C0.05(0.8),血糖C422Cmg/dl(食後C2.5時間),HbA1c12.1%,GOT14CU/l,GPT19CU/l,CgGTP27CU/l,総コレステロールC267Cmg/dl,中性脂肪C652Cmg/dl,HDLコレステロールC43Cmg/dl,LDLコレステロール127mg/dl,WBC8,200μl,RBC553μl,CHbC15.4Cg/dl,Ht47.5%,尿蛋白(3+),尿潜血(2+),尿b2018年3月(内科定期受時時,左眼の見えにくさあり)図1内科で施行した眼底検査所見a:初診時には小出血や少数の軟性白斑を認め,軽度の前増殖型網膜症の所見.Cb:視力が悪化するC1週間前の所見.左眼の透見性がやや低下している.左黄斑部上方には硬性白斑を認める.左眼(水平断)図2視力悪化時に初診した眼科での左眼OCTおよび前眼部所見OCTでは黄斑浮腫は認めない.左眼虹彩瞳孔縁に明らかなルベオーシスが出現している.左眼虹彩ルベオーシス左眼(垂直断)ケトン体(C.).眼底写真:両側網膜に点状出血と少数の軟性白斑を認める(図1a).C1.内科での治療経過糖尿病腎症C3期と診断し降圧薬とメトホルミンを開始したが,その後は半年間来院がなく,2017年C6月に内服治療を再開した.空腹時血糖C364Cmg/dlと高く,メトホルミンC500mgに加えてCSGLT2阻害薬のイプラグリフロジンC50Cmgを開始した.6週間は内服継続したが,その後C4カ月間にわたり中断し,2017年C12月に来院した.HbA1cはC13.2%で著明な高血糖があり,イプラグリフロジンC50CmgとメトホルミンC500Cmgで治療再開した.その後治療は継続し,3カ月後にはCHbA1c10.9%まで改善した.2018年C3月当院内科にて無散瞳眼底検査を施行したところ出血の増悪や新生血管を疑わす所見は認めなかったが,左黄斑部上方に硬性白斑を少数認めた(図1b).その際に左眼がやや見えにくいと訴えたため,中断していた眼科への早急な受診を勧めた.2018年C3月下旬,1週前より左眼が急に見えなくなったと近医眼科を初診.左眼の虹彩ルベオーシス,著明な高眼圧(左眼C48CmmHg)を指摘され,眼底検査では出血・白斑は少数で単純.前増殖網膜症の所見であった.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.15).眼圧は右眼C20CmmHg,左眼48CmmHg.網膜光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)にて両眼とも黄斑浮腫を認めず.左眼前眼部に虹彩ルベオーシスあり(図2).左眼ブリモニジン(アイファガン),ドルゾラミド(トルソプト),リパスジル(グラナテック),ラタノプロスト(キサラタン)の点眼開始.血管新生緑内障の診断で同眼科より以前の病院眼科に紹介されC2日後に受診した.C2.眼科での所見と治療経過眼圧上昇(右眼C14CmmHg,左眼C54CmmHg)を認め,左眼は角膜浮腫を認め中央に角膜びらんを伴っており(図3)強い眼痛あり.視力は右眼C0.06(1.0),左眼C0.02(0.03).両眼虹彩面に新生血管(右眼<左眼)・右眼隅角全周に新生血管あり.左眼隅角は浮腫とびらんのため観察できなかったが,閉塞隅角であると推測され,両眼血管新生緑内障および両眼増殖糖尿病網膜症と診断した.両眼グラナック,キサラタン点眼,左眼アイファガン,トルソプト点眼に変更し,左眼オフロキサシン(タリビッド)眼軟膏を開始した.蛍光眼底検査は未施行であったが両眼虹彩ルベオーシスを認めるなど両眼に血管閉塞病変が強く疑われ,頸動脈および頭蓋内疾患検索のため,再初診C4日後に脳外科に紹介となった.頭頸部MRAを施行し右内頸動脈CC3に軽度の狭窄所見があり,反対側同部位にも石灰化を認めたが内頸動脈閉塞は認めず,脳外科的には問題なしとされた(図4).同日には左眼の角膜びらんが改善したため,再初診C1週後より両眼の汎網膜光凝固療法を開始.左眼視力(0.2p)で左眼隅角に著明な新生血管を認め抗血管内皮増殖因子(vasucularCendtherialCgrowthfactor:VEGF)薬注射を勧めたが費用の面で同意を得られなかった.そのC1週後には両眼虹彩炎が確認されベタメタゾンリン酸エステルナトリウム液(リンベタ)を開始した.右眼の眼圧は正常化したが左眼は眼圧降下治療に抵抗し高眼圧a右眼b左眼c左眼前眼部図3病院眼科紹介(再初診)時の所見a:軽度の前増殖網膜症が疑われる所見.Cb:角膜浮腫のため眼底を透見できない.Cc:角膜びらんを認める.図4頭部MRAの所見右内頸動脈CC3に軽度狭窄を認め,左内頸動脈同部位にも石灰化がめだつ(C.).(頸部CMRAでは有意な狭窄所見なし)と強度の眼痛が続いた.線維柱帯切除術は視力の回復があまり期待できず患者も消極的であり施行していない.7カ月後に行った右眼蛍光造影検査では光凝固の頻回施行にもかかわらず,右眼網膜血管からの漏出像や無血管領域を認めた(図5).左眼は角膜混濁があり施行困難であった.2019年C7月にCOCTを施行し両眼とも黄斑所見に異常は認めず.右眼視力はC0.05(0.7)と比較的維持されたが,左眼は高眼圧の持続で視神経萎縮をきたし光覚(-)となった.内科的には治療中断がなくCSGLT2阻害薬も継続している.2018年C10月にはCHbA1c8.0%,2020年C4月現在ではCHbA1c6.6%と改善している.CII考察血管新生緑内障により急激な視力低下を生じた症例を経験し,SGLT阻害薬投与との関連について検討した.SGLT2阻害薬は腎症や心血管障害への好影響が認められており3),CAmericanCDiabetesAssociation(ADA)およびCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)のCconsen-susreportにおいてC.rst-lineの薬剤としても推奨されるに至っており糖尿病臨床において使用頻度が増加している4).イプラグリフロジンと同効薬であるエンパグリフロジンについての大規模スタディ(EMPA-REGOUTCOME)では網膜症への影響についてサブ解析が報告されている5).7,020人(平均年齢:63.1C±8.6歳,HbA1c:8.07C±0.85%)について平均C3.1年のフォローの結果,網膜症出現や悪化の頻度はエンパグリフロジン群ではC1.6%とCplaceboのC2.1%を下回り,改善していると評価されているが有意差はない(HR0.78,p=0.1732).同報告のなかでエンパグリフロジン群の失明は4例でCplaceboにおける失明C2例より多かったが,少数のた図5光凝固療法開始7カ月後の蛍光眼底写真(右眼)頻回の光凝固にもかかわらず,網膜血管からの漏出や無血管領域を認める.左眼は角膜混濁にて撮影不能であった.め有意差検定はされておらず失明例の詳細も不明である.一方,SGLT2阻害薬には黄斑浮腫を改善する効果があることが複数症例での検討や後ろ向き研究により報告されている6,7).津田らがまとめたC1996年の報告では,長期放置後の治療開始時に単純網膜症や前増殖網膜症を認めC6カ月以内に悪化した症例では,ほぼ全例で黄斑症を合併していたとされ,0.7以下の視力低下の原因はすべて黄斑症であったとされている8).今回の症例では糖尿病性腎症およびネフローゼ症候群を合併しており,治療開始時に前増殖網膜症の初期と診断されていたため,当初より網膜症の悪化や黄斑浮腫の発症が懸念されていた.緑内障による視力低下発症時に初診した近医眼科でC2018年C3月下旬に施行した左眼COCTにて黄斑浮腫をまったく認めなかった点が,糖尿病治療放置症例としてはやや異例の経過であった.当院内科初診時のC2016年11月に施行した左眼眼底写真では認めなかった硬性白斑が2018年C3月の眼底写真では少数出現しており,このC1年C4カ月の間に何らかの網膜浮腫が存在したことを示唆すると思われた.SGLT2阻害薬の投与で黄斑浮腫が抑制された可能性もあるが,高度に虚血を伴った増殖網膜症でも黄斑浮腫を伴わない症例も存在する.左眼COCTでは虚血を示唆する所見は認めなかったが,蛍光造影検査が未施行であるため正確な評価はむずかしい.黄斑浮腫の存在や硝子体出血で生ずる視力低下を自覚することなく,血管新生緑内障が悪化するまで眼科を受診しなかったことで高度な視力障害に至ったと考えられた.一方,突然の視力低下をきたしたもう一つの背景として眼虚血症候群(ocularCischemicsyndrome:OIS)がベースとなった可能性について検討した.この患者の特徴としてC40歳代という若年にもかかわらず頭部CMRAにて眼動脈の分岐部近傍の右内頸動脈CC3部分に狭窄を認めた.左内頸動脈の同部位にも石灰化があり,血管新生緑内障発症の背景として,もともと眼循環に異常があった可能性が否定できない.動脈硬化に関連した糖尿病網膜症とCOISの関連についての総説9)によれば,内頸動脈閉塞のない症例でも眼虚血に起因すると考えられる血管新生緑内障の報告がある.OISのC20%は両側性に病変を生ずるとされる.また,白内障手術など眼科的処置の際には脳血管障害の状態や眼循環を評価することが重要とされている.この症例が病院眼科を再初診した際には,角膜浮腫とびらんにより左眼眼底は透見不能で蛍光造影検査は施行できず,7カ月後に右眼蛍光造影検査を行った結果では蛍光色素の流入遅延や腕網膜循環遅延は認められなかったため,積極的にCOISと診断する根拠に乏しい.しかし,当院にて行った頸動脈エコーでは左内頸動脈起始部付近にC1.7CmmのCsoftplaqueを認め,左内頸動脈の最高血流速度はC24Ccm/秒と異常低値を示し,右側はC38Ccm/秒とやや低値であり,かつ左右の速度に有意な差があった.当症例は糖尿病歴が長く両眼前眼部に多数の新生血管を認めており,血管新生緑内障は増殖糖尿病網膜症に起因する続発緑内障と考えるのが一般的である.しかし,眼底所見では増殖性変化を認めないまま隅角ルベオーシスまで急激に進行したことより,動脈硬化の進行をベースとした左右内頸動脈の血流速度低下が眼循環低下に関連した可能性もあると考えた.この症例で使用したCSGLT2阻害薬と眼虚血との関連についての報告は検索した範囲にはなく,イプラグリフロジンの発売後調査の結果により両者の関連を検討した.イプラグリフロジン発売直後C2014年C4月.8月までの短期間にC12例の脳梗塞が報告されており,開始後C9日目で発症したという症例報告もあった10).イプラグリフロジン販売後C1年半での調査では重篤な眼障害がC6件あり,糖尿病網膜症C1件,虚血性視神経症C1件,網膜動脈閉塞症がC1件,眼瞼浮腫C5件のうち2件が重篤とされていた.さらに涙器障害C1件が重篤とされていた(詳細な情報はない).眼圧については言及がなく,眼痛・霧視・視力障害など緑内障や眼圧上昇との関連が否定できない症状がC8例あった.これらがCSGLT2阻害薬に直接起因する副作用であるかどうかは不明であるが,いずれにしても投与開始時に生ずる脱水や低血圧症が脳梗塞や網膜循環不全に関連する可能性については軽視できず,今後もSGLT2阻害薬使用症例における眼合併症への影響を考慮した経過観察が必要と考えられた.CIII結語若年者であっても重症かつ病歴の長い糖尿病患者に新規糖尿病治療薬CSGLT2阻害薬を使用する際には,動脈硬化症を評価し,眼虚血リスクのある症例では血管新生緑内障の発生に注意する必要がある.眼圧や前眼部変化について眼科での定期的なチェックが望ましい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SinclairCJ,CBodeCB,CHarrisS:E.cacyCandCsafetyCofCcana-gli.ozininindividualsaged75andolderwithtype2dia-betesmellitus:Apooledanalysis.JAmGeriatrSocC64:C543-552,C20162)橋本洋一郎,米村公伸,寺崎修司ほか:総説眼虚血症候群─神経超音波検査の役割─.Neurosonology17:55-61,C20043)DaviesCJ,CD’AlessioCA,CFradkinCJCetal:ManagementCofChyperglycemiaintype2diabetes,2018.AconsensusreportbyCtheCAmericanCDiabetesAssociation(ADA)andCtheCEuropeanCAssociationCforCtheCStudyCofDiabetes(EASD)C.CDiabetesCareC41:2669-2701,C20184)ZinmanB,WannerC,LachinMetal:EMPAREGOUT-COMECInvestigators.CEmpagli.ozin,CcardiovascularCout-comes,CandCmortalityCinCtypeC2Cdiabetes.CNCEnglCJCMedC373:2117-2128,C20155)InzucchiE,WannerC,HehnkeUetal:Retinopathyout-comesCwithCempagli.ozinCversusCplaceboCinCtheCEMPA-REGOUTCOMETrial.DiabetesCare2019CJan;dc1813556)前野彩香,前田泰孝,宮崎亜希ほか:SGLT2阻害薬で改善を認めた糖尿病黄斑浮腫のC4症例.糖尿病61:253,C20187)MienoCH,CYonedaCK,CYamazakiM:TheCe.cacyCofCsodi-um-glucoseCcotransporter2(SGLT2)inhibitorsCforCtheCtreatmentCofCchronicCdiabeticCmacularCoedemaCinCvitrect-omisedeyes:aCretrospectiveCstudy.CBMJCOpenCOphthal-molC3:e000130,C20188)津田晶子,千葉泰子,矢田省吾ほか:長期間血糖コントロール不良放置例C39例における治療開始後の網膜症の変化─黄斑症の重要性について.糖尿病C39(Suppl1):305,19969)吉成元孝:眼外循環と糖尿病網膜症.糖尿病C47:786-788,C200410)阿部眞理子,伊藤裕之,尾本貴志ほか:SGLT2阻害薬の投与開始後C9日目に脳梗塞を発症した糖尿病のC1例.糖尿病C57:843-847,C2014***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):821.825,2019c網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内投与の効果小池直子*1尾辻剛*1前田敦史*1西村哲哉*1髙橋寛二*2*1関西医科大学総合医療センター眼科*2関西医科大学眼科学教室CComparativeE.cacyofIntravitrealRanibizumabandA.iberceptforCentralRetinalVeinOcclusionwithMacularEdemaNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),AtsushiMaeda1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityC網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)とアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)を施行し,12カ月以上経過を追えたC38例C39眼(IVR群C17眼,IVA群C21眼)について,その効果に差があるかを後ろ向きに検討した.12カ月後のClogMAR視力は,IVR群では投与前C0.99からC0.79に,IVA群でも0.69からC0.49と両群とも有意に改善し,両群間で視力変化率には有意差はなかった.12カ月後の中心窩網膜厚はCIVR群では投与前C670.5CμmからC334.5Cμmに有意に減少し,IVA群でもC830.7CμmからC389.0Cμmに有意に減少し,両群間で有意差はなかった.12カ月までの平均投与回数はCIVR群C3.7回に対しCIVA群C2.9回と有意差はなかった.12カ月後に浮腫が消失していたものはCIVR群でC7眼(58.8%),IVA群でC16眼(76.2%)と両群間で有意差はなかった.両群とも投与後C12カ月の時点で視力と浮腫が改善し,その効果において両群間に有意差はみられなかった.CWecomparedthee.cacyofintravitrealranibizumab(IVR)anda.ibercept(IVA)formacularedemasecond-arytocentralretinalveinocclusion(CRVO)C.Thisretrospectivestudyinvolved38eyesof39patientswithmacu-larCedemaCassociatedCwithCRVO;allCwereCfollowedCupCforCmoreCthanC12months.CSeventeenCeyesCreceivedCIVRCand21eyesreceivedIVA.LogMARbestcorrectedvisualacuiby(BCVA)improvedfrom0.99to0.79inpatientstreatedCwithCIVRCandCfromC0.69toC0.49inCpatientsCtreatedCwithCIVA.CCentralCretinalthickness(CRT)decreasedCfrom670.5Cμmto334.5CμminIVRgroupandfrom830.7Cμmto389.0CμminIVAgroup.Therewasnosigni.cantdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroupsCinCchangeCofCBCVACandCCRT.CTheCnumberCofCinjectionsCaveragedC3.7inCIVRCgroupand2.9inIVAgroup.At12months,therewere7eyes(58.8%)withoutmacularedemainIVRgroupand16eyes(76.2%)inIVAgroup.BothIVRandIVAweree.ectiveformacularedemasecondarytoCRVOupto12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(6):821.825,C2019〕Keywords:網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,VEGF,ラニビズマブ,アフリベルセプト.centralretinalveinoc-clusion,macularedema,vascularendotherialgrowthfactor,ranibizumab,a.ibercept.Cはじめに網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療としては,これまでに網膜光凝固,ステロイド投与,硝子体手術が行われてきた.CRVOに対する光凝固治療としては,CVOStudyGroupによって格子状光凝固が視力向上に関しては無効と報告された1).また,硝子体手術に関しては大規模臨床研究によって効果が証明されておらず,ステロイド注射に関してはある程度の視力改善が報告されたが,高頻度で発生した合併症が問題となった2).このようにCCRVOに伴う黄斑浮腫に対しては満足できる治療法が存在しなかったのが実情であったが,現在では抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthC〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8607大阪府守口市文園町C10-15関西医科大学総合医療センター眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityMedicalCenter,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8607,JAPANCfactor:VEGF)薬の硝子体内投与が治療の第一選択として広く行われるようになっている3).ラニビズマブは抗CVEGF抗体の一種で,ヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり,CRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果としては,大規模研究であるCCRUISEstudyによって,偽注射に対してラニビズマブ治療の優位性が証明された3,4).わが国でもC2013年に初めてCCRVOに対するラニビズマブによる抗CVEGF療法が承認され,広く使用されるようになった.その後アフリベルセプトがCCRVOに対して使用可能となった.アフリベルセプトは,ヒト免疫グロブリン(Ig)G1のCFcドメインにヒトCVEGF受容体C1およびC2の細胞外ドメインを結合した遺伝子組み換え融合糖蛋白質であり,VEGF-Aと優れた親和性を有する5)だけでなく,その他のCVEGFファミリーであるCVEGF-B,胎盤成長因子(pla-centagrowthfactor:PlGF)とも結合することができるといった特徴がある.このアフリベルセプトもCCRVOに対する大規模臨床研究によりその有効性が示されている6,7).しかし,このラニビズマブとアフリベルセプトのCCRVOに伴う黄斑浮腫に対する効果の直接比較を行った報告は少ない.今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ラニビズマブの硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR),あるいはアフリベルセプトの硝子体内投与(intravitreala.iber-cept:IVA)を施行し,その効果について検討した.本研究に関しては関西医科大学総合医療センター研究倫理審査委員会の承認のもと行った.CI対象および方法1.対象対象は,平成C26年C3月.平成C29年C3月に関西医科大学総合医療センター眼科にてCCRVOに伴う黄斑浮腫に対してIVRまたはCIVAを施行し,12カ月以上経過を追えたC38例39眼(IVR群18眼,IVA群21眼)である.他の抗VEGF薬の投与歴のあるものや経過中に他の治療を行ったものは除外した.治療前のCIVR群とCIVA群のそれぞれの患者の背景として,男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前の中心窩網膜厚(centralCretinalthickness:CRT),虚血型の割合,浮腫のタイプを調査した.虚血型の定義はフルオレセイン蛍光眼底造影のパノラマ撮影にて無灌流領域が10乳頭面積以上確認されたものとした.浮腫のタイプについては光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME),スポンジ状,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)に分類し,同一症例で所見が複数存在する場合はそれぞれのタイプに重複してC1例ずつカウントした.2.方法ラニビズマブ(0.5Cmg)硝子体内投与(IVR)もしくはアフリベルセプト(2Cmg)硝子体内投与(IVA)を行い,これらの症例の投与前と投与C3,C6,C9,12カ月後の視力,OCTで測定したの変化,12カ月までの投与回数,OCTでみたC12カ月後の浮腫の消失について後ろ向きに検討した.CRTはCRTVue-100R(Optovue社)を用いて測定した.薬剤の選択はC2013年C11月までは全例CIVRで,2013年C12月以降は全身状態に問題のない症例は原則としてCIVAを行った.投与方法はCIVRまたはCIVAの初回投与後のC2回目以降は必要時投与(prorenata:PRN)で行った.PRNの再投与基準は,OCTで黄斑浮腫を認めた場合としたが,残存浮腫があってもCCRTがC1/3以下に減少するなど明らかに浮腫の減少がみられる場合は次回診察までの経過観察とした.視力低下や出血の増加のみでは再投与の基準とはしなかった.また,虚血型の症例については網膜出血がある程度減少した時期に血管アーケード外に汎網膜光凝固を行った.統計学的解析にはCIBMCSPSSstatistics(IBM社)を使用した.治療前後の視力の比較はCWilcoxonの符号付順位和検定を,CRTの値は正規分布していたためその比較には対応のあるCt検定を,両群間の視力改善,CRTの減少率および投与回数の比較にはCMann-WhitneyのCU検定を,浮腫の消失の比較にはCc2検定を用い,p<0.05を統計学的に有意とした.視力に関する検討では,小数視力をClogMAR(logarith-micCminimumCangleCofresolution)視力に換算し,logMARでC0.3以上の変化を有意とした.CII結果男女比,年齢,発症から初回投与までの期間,投与前視力,投与前のCCRT,虚血型の割合,浮腫のタイプで両群間に有意差はみられなかった(表1).対象となった全例の平均ClogMAR視力は,投与前はC0.83,3カ月後はC0.66,6カ月後はC0.62,9カ月後はC0.63,12カ月後はC0.63であった.図1のグラフに示すようにCIVR群,IVA群の平均ClogMAR視力はそれぞれ投与前C0.99,0.69で,3カ月後はC0.88,0.49,6カ月後はC0.74,0.52,9カ月後は0.75,0.54,12カ月後はC0.79,0.49であった.投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,C6,C9,12カ月で有意に改善した(p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).IVR群でCIVA群に比べ投与前視力が悪かったが両群間で有意差はなかった(表1).また,投与前からC12カ月後における視力変化には両群間で有意差はなかった(p=0.59:Mann-WhitneyCUtest).12カ月後における視力変化は,IVR群では改善C6眼(35.3%),不変C10眼(58.8%),悪化C1眼(5.9%)であり,IVA群では改善C9眼(42.9%),不変C9眼(42.9%),悪化C3眼(14.3表1投与前の患者背景IVR群(18眼)IVA群(21眼)男:女6:1110:11Cp=0.33(Fisher’sexactprobabilitytest)平均年齢70.4(52.86)歳73.8(58.92)歳Cp=0.27(Student’sttest)発症から初回治療までの期間6.5カ月3.8カ月Cp=0.21(Mann-WhitneyUtest)虚血型5眼3眼p=0.23(Fisher’sexactprobabilitytest)治療前ClogMAR視力C0.99C0.69Cp=0.09(Mann-WhitneyUtest)中心窩網膜厚C648.5C670.6Cp=0.81(Student’sttest)CMEC15C20浮腫のタイプ(重複あり)スポンジ状C9C11Cp=0.98(chi-squareforindependencetest)CSRD8C11Cすべての項目において両群間に有意差なし.CME:.胞様黄斑浮腫,SRD:漿液性網膜.離.1.8表212カ月後における視力変化0.8IVR群とCIVA群の間に有意差なし(*p=0.93:Mann-Whitney1.6改善不変悪化1.4IVR6眼(35.3%)10眼(58.8%)C1.2IVA9眼(42.9%)9眼(42.9%)1眼(5.9%)3眼(14.3%)*n.s.ClogMAR視力1logMARでC0.3以上の変化を有意とした.Utest).0.60.40.21,0009000800-0.2700600500400CRT(μm)図1視力変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.05:WilcoxonCsigned-ranktest).12カ月での視力改善は両群間に有意差なし(p=0.52:Mann-WhitneyUtest).300200%)であった(表2).視力悪化したC4眼のうちC12カ月後のC100n.s.時点で浮腫が残存していたものはC2眼であった.CRTに関しては,投与前はC660.7Cμm,3カ月後はC331.1μm,6カ月後はC266.1Cμm,9カ月後はC343.2Cμm,12カ月後はC308.5Cμmで,IVR群,IVA群の平均CCRTはそれぞれ投与前C670.6μm,648.5μmで,3カ月後はC360.6μm,294.6μm,6カ月後はC260.3Cμm,273.3Cμm,9カ月後はC342.3Cμm,344.3Cμm,12カ月後はC327.3Cμm,285.2Cμmと両群ともC3,6,9,12カ月後のCCRTは有意に減少(p<0.01:pairedttest)したが,両群間に有意差はなかった(p=0.92:Mann-Whit-neyUTest)(図2).12カ月までの平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった(p=0.06:Mann-Whit-neyCUtest)(図3).12カ月後に浮腫が消失していたものは,IVR群ではC17眼中C10眼(58.8%),IVA群ではC21眼中C16眼(76.2%)と有意差はなかった(p=0.21:Fisher’sexactprob-abilitytest)(表3).浮腫のタイプ別での浮腫消失を図4に示す.IVR群ではすべての浮腫のタイプで有意差はなかっ0投与前図2中心窩網膜厚(CRT)の変化投与前と比べてCIVR群,IVA群ともにC3,6,9,12カ月で有意に改善した(*p<0.01:pairedttest).12カ月でのCCRTの減少率は両群間に有意差なし(p=0.92:Mann-WhitneyUtest).た(p=0.58:chi-squareforindependencetest).IVA群においても浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest).すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(FisherC’sCexactprobabilitytest).CIII考按今回筆者らはCCRVOに伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブとアフリベルセプトの効果について検討した.IVRおよびIVAはいずれもCCRVOの黄斑浮腫に対し,投与後C12カ月の時点で浮腫を軽減させる効果があった.浮腫消失率はCIVR表312カ月後における浮腫の消失消失残存8IVR10眼(58.8%)7眼(41.2%)*n.s.7IVA16眼(76.2%)5眼(23.8%)C65*p=0.21(Fisher’sexactprobabilitytest)C43p=0.28p=0.37p=0.142100眼数図312カ月までの投与回数IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差なし(p=0.06:Mann-WhitneyUtest).群ではC58.8%に対し,IVA群ではC76.2%と有意差はなく,平均投与回数は,IVR群で平均C3.7回,IVA群では平均C2.9回と有意差はなかった.また,視力変化やCCRTの変化には両群間で有意差はなかった.既報においても,LoteryらはCRVOにおいてC1年間の平均投与回数を比べると,IVRは4.4回,IVAはC4.7回で有意差はなかったと報告している8).また,ChatziralliらはCCRVOに対するCIVRとCIVA(導入期3回+必要時投与)ではC18カ月の時点で視力,CRTの変化ともに有意差はなく,浮腫消失率にも差はなかった(IVR群:50%,IVA群:42.9%)としている9).また,SaishinらはC6カ月の前向き検討でCCRVOに対するCIVRあるいはCIVAを隔月投与したところ,視力,CRTの変化ともに有意差はなく,前房水CVEGF濃度では投与開始C2カ月後で両群とも有意に減少したが,IVA群ではC11眼中C8眼が測定限界値以下まで減少したとしている10).今回のCCRVOの黄斑浮腫に対する後ろ向き検討のC1年間の結果において,既報と同様に視力変化やCCRTの変化,浮腫消失率,投与回数においてCIVA群とCIVR群の間に有意差はなかった.ただし,対象症例数が少なく検討項目のなかには統計学的処理においてCp値が小さいものがあるので,今後症例数が増加すれば再検討が必要であり,前向き検討も必要である.視力がClogMARでC0.3以上悪化したC4眼については,治療開始までの期間や虚血の有無など,治療前での共通した特徴はなく,治療前の予測は困難と思われた.また,このC4眼のうちC12カ月後の時点で浮腫が残存していたものはC2眼であり,一方でC10眼は浮腫が残存していても視力が維持改善できた.CRVOにおいては浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのかもしれない.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の投与方法については,筆者らの報告のように初回投与後のCPRNや,導入C3回投与後にCPRNといった方法が行われており,確立さ200CMEスポンジ状SRD図4浮腫のタイプ別消失率IVR群(p=0.58:chi-squareCforCindependencetest),IVA群(p=0.98:chi-squareCforCindependencetest)ともに浮腫のタイプにかかわりなく浮腫が消失した.すべての浮腫のタイプで両群間で消失率に有意差はなかった(Fisher’sexactprobabilitytest).れた治療プロトコールは存在しないが,できるだけ少ない治療回数で効果が得られるのであれば患者の経済的負担や全身的副作用の点からも望ましいと思われる.視力良好例では,滲出型加齢黄斑変性と同様に厳格な基準でのCPRNが重要であるが,投与前視力が不良のCCRVOでは浮腫の完全消失に持ち込むのは非常に困難な症例がある.一方,前述のようにCRVOにおいて浮腫の残存は視力低下のおもな原因ではないのであれば,このような難症例において浮腫の完全消失にこだわらなくてよいのかもしれない.すなわち抗CVEGF薬を繰り返し投与しても浮腫が残存するような症例では,いったん視力改善が頭打ちになった後の維持期の投与は,視力低下を再投与条件とした必要時投与で十分なのかもしれない.この研究は過去の診療録を調べることによる実臨床での後ろ向き研究で症例数も限られており,今後長期にわたる観察とさらなる検討が必要である.文献1)TheCCentralCVeinCOcclusionCStudyGroup:EvaluationCofCgridCpatternCphotocoagulationCforCmacularCedemaCinCcen-tralCveinCocclusion.CMCreport.COphthalmologyC102:1425-1433,C19952)IpCMS,CScottCIU,CVanVeldhuisenCPCCetal:ACrandomizedCtrialCcomparingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCtri-amcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinocclusion:theStandardCarevsCoricosteroidforRetinal消失率(%)8060401回2回3回4回5回6回7回VeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C20093)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CAwhCCCCetal:SustainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCcentralCretinalCveinocclusion:twelve-monthCoutcomesCofCaphase3study.OphthalmologyC118:2041-2049,C20114)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizum-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseC3study.OphthalmologyC117:1124-1133,C20105)HolashCJ,CDavisCS,CPapadopoulosCNCetal:VEGF-trap:aCVEGFCblockerCwithCpotentCantitumorCe.ects.CProcCNatlCAcadSciUSAC99:11393-11398,C20026)HolzCFG,CRoiderCJ,COguraCYCetal:VEGFCTrap-EyeCforCmacularCoedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclu-sion:6-monthCresultsCofCtheCphaseCIIICGALILEOCstudy.CBrJOphthalmolC97:278-284,C20137)BoyerCD,CHeierCJ,CBrownCDMCetal:VascularCendothelialCgrowthfactorTrap-EyeformacularedemasecondarytocentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCtheCphaseC3COPERNICUSCstudy.COphthalmologyC119:1024-1032,C20128)LoteryAJ,RegnierS:Patternsofranibizumabanda.iber-cepttreatmentofcentralretinalveinocclusioninroutineclinicalpracticeintheUSA.EyeC29:380-387,C20159)ChatziralliI,TheodossiadisG,MoschosMMetal:Ranibi-zumabCversusCa.iberceptCforCmacularCedemaCdueCtoCcen-tralCretinalCveinocclusion:18-monthCresultsCinCreal-lifeCdata.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1093-1100,C201710)SaishinY,ItoY,FujikawaMetal:Comparisonbetweenranibizumabanda.iberceptformacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.JpnJOphthalmolC61:C67-73,C2017C***

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1418.1426,2018c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験小椋祐一郎*1飯田知弘*2伊藤雅起*3志村雅彦*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2東京女子医科大学眼科学教室*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京医科大学八王子医療センター眼科Phase3ClinicalTrialofSub-Tenon’sInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainRetinalVeinOcclusionYuichiroOgura1),TomohiroIida2),MasakiIto3)andMasahikoShimura4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,LTD.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者C50人を対象に,WP-0508STの有効性および安全性を検討するため多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.WP-0508ST20CmgをCTenon.下に単回投与し,投与後C12週とスクリーニング時の中心窩平均網膜厚の変化量を比較した結果,平均値は.150.0Cμm,95%信頼区間は.200.9..99.1Cμmであった.本治験において,あらかじめ有効性の基準として設定したC95%信頼区間上限の.100Cμmとの差はC1Cμm以内であり,平均値では十分な改善効果が認められ,中心窩平均網膜厚ではスクリーニング時と比較し有意な減少が示された.投与後12カ月までのおもな副作用は,眼圧上昇(14.0%),結膜充血(12.0%),結膜浮腫(10.0%),血中コルチゾール減少(10.0%)および血中トリグリセリド増加(8.0%)であり,水晶体混濁の発現率はC4.0%であった.いずれも軽度または中等度であり,外科的処置は行われなかった.以上より,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者におけるCWP-0508STの有効性および安全性が確認された.CWeCconductedCaCmulticenter,Cnon-masked,CuncontrolledCstudyConC50CRetinalCVeinOcclusion(RVO)patientsCwithmacularedematoinvestigatethee.cacyandsafetyofWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicInjection40mg).Afterasinglesub-Tenon’sinjectionofWP-0508ST,wecomparedtheamountofchangeinmeancentralmacularthicknessbetweentimeofscreeningand12weekslater.Theresultsrevealedameanvalueof.150.0Cμmanda95%con.denceinterval(CI)of.200.9Cto.99.1Cμm,indicatingthatthedi.erenceinthe95%CIwaswithin1CμmoftheCmaximum95%CCICpreviouslyCsetCasCtheCcriteriaCfore.cacy(.100Cμm).CInCaddition,CtheCmeanCvalueCdemon-stratedsu.cientimprovement,andthemeancentralmacularthicknessshowedsigni.cantdecreasefromthetimeofCscreening.CTheCmajorCadverseCe.ectsCobservedCupCtoC12CmonthsCpost-administrationCwereCintraocularCpressureincrease(14.0%),conjunctivalChyperemia(12.0%),chemosis(10.0%),CdecreasedCbloodcortisol(10.0%)andCincreasedbloodtriglycerides(8.0%).Theincidenceoflensopacitywas4.0%.Allcasesweremildtomoderate,sosurgicalCtreatmentCwasCnotCperformed.CTheCaboveCresultsCindicateCthatCWP-0508STCisCe.ectiveCandCsafeCinCRVOCpatientswithmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1418.1426,C2018〕Key.words:網膜静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,有効性,安全性,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,WP-0508ST.retinalveinocclusion,branchretinalveinocclusion,centralretinalveinocclusion,macularedema,e.cacy,safety,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection,WP-0508ST.C〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,M.D.,Ph.D.,CDepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC1418(106)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は,高血圧,糖尿病,高脂血症などが危険因子となり,血栓の形成により網膜静脈が閉塞し,網膜に出血,浮腫,毛細血管閉塞などの病態を引き起こす.RVOは網膜中心静脈閉塞症(cen-tralCretinalCveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)とに分類される.網膜浮腫が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫となり,視力障害の原因となる.黄斑浮腫が遷延すると,慢性的かつ不可逆的な視力障害に至る.RVOによる黄斑浮腫は,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)についで頻度が高く,有病率はC40歳以上の成人のC2.1%であることが報告されている1).RVOの黄斑浮腫の治療には,格子状網膜レーザー光凝固術および硝子体手術が行われてきたが,2001年にCJonasら2)がトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を硝子体内に注射することで,DMEに対する有効性を報告して以来CTAが使用されるようになった.その後,2002年にはCGreenbergら3)がCCRVOに伴う黄斑浮腫に,2004年にはCChenら4)がCBRVOに伴う黄斑浮腫にCTAの硝子体内投与による有効性を報告している.硝子体内投与は低頻度ながらも眼内炎が報告されているため5),国内では感染のリスクを軽減し低侵襲なTAのTenon.下投与(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が臨床上多用されている.抗CVEGF薬は,特異的にCVEGFを阻害するため浮腫に対する治療効果が大きいが,頻回投与が必要とされていることから,患者への負担軽減および経済性のため,補助的治療としてCSTTAが選択されることもある.TAを有効成分とし無菌的に充.された粉末注射剤であるマキュエイドR(WP-0508)は,硝子体内手術時の可視化を目的に,2010年に手術補助剤として承認され,2012年には硝子体投与によるCDME治療の効能・効果が追加承認されている.さらにC2017年C3月には,Tenon.下投与によるDME,ぶどう膜炎およびCRVOに伴う黄斑浮腫の軽減に対する効能・効果が追加承認された.今回筆者らは,RVOに伴う黄斑浮腫の効能・効果承認のために実施された,多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬機法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」および治験計画書を遵守し実施した.I対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験は,2014年C12月.2016年C6月に,表1に示した全国C13医療機関において実施された.治験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象表2に示したCRVOの分類基準6)に従い,BRVO(半側RVOを含む)およびCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された患者を対象とした.ただし,虚血型のCCRVOは被験者に対する安全性を考慮し,本試験からは除外した.表3にはおもな選択および除外基準を示した.なお開始前に,すべての被験者に対し本治験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意書を得た.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験とし,単群で実施した(第CIII相試験).Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTA40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,耳側下方の角膜輪部より後方を結膜小切開し,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿っ表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*桑園むねやす眼科竹田宗泰順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本大学病院服部隆幸東京医科大学八王子医療センター野間英孝,安田佳奈子聖路加国際病院大越貴志子独立行政法人国立病院機構東京医療センター野田徹名古屋市立大学病院吉田宗徳名古屋大学医学部附属病院安田俊介大阪市立大学医学部附属病院河野剛也医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学医学部・歯学部附属病院坂本泰二鹿児島市立病院上村昭典*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).表.2網脈静脈閉塞症の分類基準網膜静脈分岐閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞をC1象限以下に認める半側網膜静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC1象限を超え,4象限未満に認める網膜中心静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC4象限すべてに認める表.3おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢が満C20歳以上(2)スクリーニング検査来院前C52週間以内に,対象眼がCBRVOまたはCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された者(3)対象眼の最高矯正視力(ETDRS)が,35文字からC80文字(小数視力換算でC0.1以上C0.8以下)である者(4)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計[スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)]による測定でC300Cμm以上である者(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下である者(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)緑内障,虚血性CCRVO*,糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシス,強度近視の症状を対象眼に有する(2)いずれかの眼に活動性の眼内炎または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(3)血清クレアチニンがC2.0Cmg/dl以上(4)治験薬投与前C52週以内に,対象眼に薬剤の硝子体内投与を実施(5)対象眼に薬剤の硝子体内投与を治験薬投与前C52週以内に実施(6)対象眼に副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与を,治験薬投与前C24週以内に実施(7)対象眼にレーザー治療または内眼手術を,治験薬投与前C12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与を,治験薬投与前C4週以内に実施(9)妊婦または授乳婦(10)その他,治験責任医師または治験分担医師が不適と判断*蛍光眼底造影による無灌流領域がC10乳頭面積以上.て押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬にて感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表4に示した.スクリーニング時に蛍光眼底造影検査を行い,黄斑浮腫の有無および無灌流領域の面積を判断した.中心窩平均網膜厚は,各実施医療機関で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて対象眼の測定を行い,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会において専門家による判定を行った.観察項目はCETDRS(EarlyTreatmentCDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いた最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査とした.治験薬投与後C12週を観察期間とし,この間は被験者の利益性から必要となる場合を除き,本治験の評価に影響を及ぼす併用治療(レーザー治療,内眼手術,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,透析治療)は禁止とした.さらに,治験薬投与後12カ月まで追跡調査を実施した.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,スクリーニング時と比較した投与後C12週(最終評価時)の中心窩平均網膜厚の変化量とし,各評価時期の中心窩平均網膜厚および最高矯正視力の推移と変化量を副次評価項目とした.12週以内に中止または脱落した場合は,もっとも遅くに測定されたデータを最終評価時データとして採用した.中心窩平均網膜厚の変化量は,以下の既報を参考に基準を定めた.1)RVOに対する非投与(Sham)群における中心窩平均網膜厚の変化量の平均値は.85Cμm,95%信頼区間は.101.43.C.68.57μm7),2)RVOにおける抗VEGF薬投与による黄斑浮腫改善の定義として,50Cμm以上の網膜厚の減少を設定した8,9).これらを指標にC.100μmを臨床的に改善効果が示された基準として設定し,本治験で得られた変化量のC95%信頼区間上限値がC.100Cμm以下であれば,WP-0508STの有効性が確認されたものとした.Cb..安全性治験薬投与後C12カ月までに発現した有害事象のうち,WP-0508STとの因果関係が否定できないものを副作用とし,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査の各項目について安全性を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団有効性は,最大の解析集団(FullAnalysisSet:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerCProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は投与が実施され表.4検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●Cたすべての被験者から得られたデータを対象とした.Cb..解.析.方.法中心窩平均網膜厚は,各評価時期および最終評価時おけるスクリーニング時からの変化量について要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.検定は両側検定で行い有意水準はC5%とした.最高矯正視力についても中心窩平均網膜厚と同様の解析で実施した.主要評価項目は,最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量についてC95%信頼区間を算出した.CII試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し,スクリーニング検査を実施した被験者はC56例であり,50例が登録され全例で投与が実施された.このうち,8例が治験薬投与後C12週以内に中止・脱落し,42例がC12週間の観察期間を完了した.中止・脱落となった理由は,有害事象が発現し,治験責任医師または治験分担医師が中止すべきと判断したためがC7例(眼圧上昇,視力悪化などにより併用禁止薬および併用禁止治療が必要と判断),治験開始後に被験者が同意を撤回したためがC1例であった.12週間の観察期を完了したC42例のうち,2例が同意撤回により投与後C12週で本治験を終了した.その後C1例(治験薬投与後C7カ月で治験責任医師の判断で治験終了)を除くC39例がC12カ月までの安全性追跡調査を終了した.解析対象集団CFASの被験者背景を表5に示した.被験者のCRVO罹病期間は平均C2.22カ月であり,病型の内訳はBRVOがC45例,CRVOはC5例であった.C2..有効性投与が実施された被験者C50例のうち,FAS不採用例は認められなかった.1例でスクリーニング検査からC12カ月の追跡調査期間を通じて最高矯正視力検査の測定手順の逸脱があったため,最高矯正視力の有効性解析では当該C1例をPPS不採用とした.したがって,有効性解析対象集団のFASはC50例,PPSはC50例(最高矯正視力の解析ではCPPSはC49例)となった.Ca..主要評価項目に関する結果本治験の主要な解析対象集団CFASにおける,最終評価時の中心窩平均網膜厚を表6に示した.中心窩平均網膜厚の変化量の平均値(95%信頼区間下限.上限)はC.150.0Cμm(.200.9.C.99.1Cμm)であり,信頼区間の上限と設定したC.100Cμmとの差はC1Cμm以内であった.中心窩平均網膜厚はスクリーニング時と比較した対応あるCt検定で有意な減少が認められた(p<0.001).なおCPPSはCFASと同一の結果であった.また,病型別での中心窩平均網膜厚の変化量を表7に示した.BRVOがC.152.6μm(C.209.2.C.96.1μm),CRVO8例2例1例投与後12カ月追跡調査終了例数39例性別男C29(58.0)女C21(42.0)登録被験者数治験薬被験者数投与12週観察期間終了例数項目50例50例42例投与12週内中止・脱落例数投与12週時終了例数投与7カ月終了例数図.1被験者の内訳表.5被験者背景(FAS)解析対象被験者数C50C年齢(歳)平均値±標準偏差C64.7±8.0最小.最大47.77RVO罹病期間(カ月)平均値±標準偏差C2.22±2.41最小.最大0.133カ月未満C40(C80.0)3カ月以上C6カ月未満C6(C12.0)6カ月以上C4(8C.0)病型網膜静脈分枝閉塞症C45(90.0)網膜中心静脈閉塞症C5(10.0)中心窩平均網膜厚(μm)平均値±標準偏差C575.3±176.5最小.最大301.1047400Cμm未満C8(C16.0)400Cμm以上C500Cμm未満C11(C22.0)500Cμm以上C600Cμm未満C9(C18.0)600Cμm以上C22(C44.0)最高矯正視力(文字)平均値±標準偏差C67.1±9.5最小.最大41.80眼圧(mmHg)平均値±標準偏差C15.0±2.3最小.最大10.21被験者数(%)が.126.0Cμm(C.194.8.C.57.2Cμm)であった.Cb..副次評価項目に関する結果FASにおける中心窩平均網膜厚および変化量の推移を図2および表8に示した.各評価時期および最終評価時のスクリーニング時からの変化量は,投与後C1週より減少し,投与後のすべての観察期において有意な減少がみられた(いずれもp<0.001).また,FASにおける最高矯正視力および変化量の推移を図3および表9に示した.各評価時点におけるスクリーニング時からの中心窩平均網膜厚は,治験薬投与後4週から有意な文字数の改善がみられたが(4週でCp=0.023,8週およびC12週でCp=0.001),最終評価時は有意差が認められなかった.なおいずれもCPPSでもCFASと同一の結果であ表.6最終評価時における中心窩平均網膜厚(FAS)中心窩平均網膜厚中心窩平均網膜厚(μm)変化量(μm)被験者数C50C50平均値C±標準偏差C425.4±191.3C.150.0±179.1最小.最大184.0.C1018C.683.0.C31395%信頼区間(下限.上限)C─C.200.9.C.99.1対応あるCt検定p<C0.001C─表.7最終評価時における病型別中心窩平均網膜厚の変化量平均値±標準偏差最小.最大95%信頼区間病型被験者数(下限.上限)(μm)(μm)(μm)網膜静脈分枝閉塞症C45C.152.6±188.1C.683.0.313.0C.209.2.C.96.1網膜中心静脈閉塞症C5C.126.0±55.4C.197.0.C.69.0C.194.8.C.57.2C中心窩平均網膜厚(μm)8007006005004003002001000スクリーニング時図.2中心窩平均網膜厚の推移(FAS)平均値C±標準偏差.***:p<0.001対応あるCt検定.表.8中心窩平均網膜厚変化量の推移(FAS)1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C5046C44C42C50C平均値C±標準偏差(μm)C.84.0±114.1C.124.3±116.4C.167.9±155.0C.192.1±155.5C.150.0±179.1Cった.C3..安全性a..副作用治験薬投与後C12カ月までにC5%以上発現した副作用は,眼圧上昇,結膜充血,結膜浮腫,血中コルチゾール減少および血中トリグリセリド上昇であった(表10).なお重篤な副作用は認められなかった.治験薬投与後C12週以内に,スクリーニング時に認められた現病の悪化によりC8例が中止に至り,その内訳は,RVOの悪化C4例,一過性の視力低下C3例,黄斑浮腫の悪化C1例であった.これらはいずれも投与対象眼に発現し,程度は軽度から中程度の悪化とされ,治験薬との因果関係は「関係なし」と判定された.Cb..眼圧上昇および水晶体混濁投与対象眼での眼圧上昇はC7例(14.0%)に認められ,その内訳は治験薬投与後C12週までにC5例(10.0%),12週以降12カ月後までにC2例(4.0%)であった.これらC7例の眼圧上昇はC24CmmHg未満がC1例(2%),24CmmHg以上C30CmmHg未満がC5例(10.0%),30CmmHg以上がC1例(2.0%)であった.治験薬投与後C12週までにみられたC5例については,いずれも眼圧下降点眼薬の使用により,転帰は軽快または消失となった.12週以降C12カ月後までのC2例は,被験者への連最高矯正視力(文字)1009080706050403020100スクリーニング時1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値C±標準偏差.*:p<0.05,**:p<0.01対応あるCt検定.表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C50474442C50C平均値±標準偏差(文字)C1.7±8.1C2.3±6.8C3.9±7.1C4.6±8.1C2.6±9.8C表.10副作用一覧副作用名発現数(%)CMedDRA/Jver.18.150例眼結膜浮腫眼脂水晶体混濁点状角膜炎硝子体.離硝子体浮遊物結膜充血前房内細胞眼圧上昇5例(1C0.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)6例(1C2.0%)1例(2C.0%)7例(1C4.0%)眼以外アラニンアミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)血中コルチゾール減少血中ブドウ糖増加血圧上昇血中トリグリセリド増加血中尿素減少血中尿素増加尿中ブドウ糖陽性白血球数減少好中球百分率増加単球百分率増加リンパ球百分率減少筋骨格痛体位性めまい頭痛5例(1C0.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)4例(8C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)絡がとれなかったことおよび治験薬投与C12カ月時に眼圧上昇がみられたことから,転帰は不変と判定した.なお,WP-0508ST投与から眼圧上昇が発現されるまでの期間は,平均C100.1日(最小C29日,最大C357日)であり,持続した期間は平均C157日(最小C28日,最大C315日)であった.水晶体混濁はC2例(4%)で発現し,治験薬投与後C57日目およびC169日後にそれぞれC1例が認められ,細隙灯顕微鏡検査による水晶体混濁では,投与後C12カ月の時点でいずれもC1段階の進展であった(WHO分類).なおすべてにおいて外科的処置は行われなかった.CIII考察RVOは網膜内に分枝した静脈が閉塞するCBRVOと,視神経内で静脈が閉塞するCCRVOとに大別されるが,いずれも黄斑浮腫に起因して視力障害を引き起こす.黄斑浮腫の悪化にはCIL-6やCVEGFなどの炎症性サイトカインが関与するため10),これらを抑制するCTAは有効であることが報告されている11,12).黄斑浮腫は自然治癒する場合も認められるが,慢性化することも多く症例により予後には大きな違いがある.本治験における罹病期間の平均はC2.22カ月であるが,症状の悪化に伴い投与後C12週以内に中止となったC7例の罹病期間は平均0.86カ月であった.これらの患者は,VEGFや炎症性サイトカインが急激に産生され悪化したと推察された.そのため中止例により信頼区間幅が拡大し,最終評価時におけるC95%信頼区間上限があらかじめ設定した基準に及ばなかったと考えられた.しかし,その差異はC1Cμm以内とわずかであり,(112)投与後C12週における中心窩平均網膜厚はC.192.1Cμmの減少を示し,変化量のC95%信頼区間はC.240.5.C.143.6Cμmと信頼区間上限は.100Cμmを超える改善が示された.また,早期の時点(投与後C1週目)に中止となったC2例を除外した最終評価時の平均値は.163.4Cμm,信頼区間上限はC.114.8μmであり,投与後すべての観察期で中心窩平均網膜厚に有意差が認められたことからも,本治験におけるCWP-0508STの有効性は示されたと判断した.病型別の部分集団におけるそれぞれの中心窩平均網膜厚の変化量を既報と比較すると,TAの硝子体内投与による中心窩平均網膜厚の変化量は,BRVOではC.142Cμm11)およびCRVOではC.196Cμm12)に対し,本治験ではCBRVOはC.152.6μmおよびCCRVOではC.126.0Cμmと,CRVOでは報告された数値よりも改善効果が低かった.この背景には,CRVOの被験者数はわずかC5例であったため,例数不足により十分に評価されなかったことに起因していると考えられた.TAの局所投与は硝子体内やCTenon.下に行われるが,STTAのほうが効果はやや劣る可能性が報告されている13).STTAは投与されたCTAが強膜や短後毛様動脈を介して脈絡膜に移行するが,硝子体内投与は,TAが病変部である網膜に直接接触するためCSTTAよりも即効性に優れていると考えられる.しかし,本治験において最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量が.150Cμmであったこと,また投与後C12週の結果と比較しても,BRVOではCTAの硝子体内投与の報告11)と同程度であった.そのため,Tenon.下投与においても黄斑浮腫の改善効果は硝子体内投与と同等であることが期待される.硝子体内投与は,Tenon.下投与と比べると眼内炎のリスクが懸念され,またCTAによる眼圧上昇や水晶体混濁の副作用を軽減するためにも,日本ではCTenon.下投与が選択されることが多い.TAの硝子体内投与における眼圧上昇はC33.50%,白内障はC59.83%で発現する報告例があり14,15),またCWP-0508の硝子体内投与16)で報告された眼圧上昇(25.6.27.3%),白内障(15.2.23.5%)と比較しても本治験では半分程度の発現率であった.したがってCWP-0508STのCSTTAによるCRVOに伴う黄斑浮腫の改善は,副作用の軽減を目的とする意味においても十分有用であると考えられる.また,硝子体内投与に比べCSTTAは,外来などで比較的に簡易的に行えるメリットもある.しかし,ステロイドに対し過敏に反応して眼圧が上昇するステロイドレスポンダーが存在し,その頻度は原発開放隅角緑内障およびその血縁者,若年者,高度近視患者,糖尿病患者に多いことが報告されているため17),TAの投与には十分な配慮が必要となる.黄斑浮腫の治療に用いられる抗CVEGF薬は,浮腫を抑制する効果は高いものの,1.2カ月ごとに投与を繰り返す必要がある.一方CTAは抗CVEGF薬と比べ,即効性に劣るが持続期間は約C3カ月と長く,頻回投与が避けられる特徴がある.そこで抗炎症作用を有するCTAと抗CVEGF薬の併用による有効性が検討され,Choら18)はベバシズマブの硝子体内注射とCSTTAを組み合わせることによる中心窩平均網膜厚の改善効果を,またCMoonら19)はCSTTAにより抗CVEGF薬の投与間隔の延長が可能であることを報告している.これらの結果は,抗CVEGF薬による治療が必要とされながらも,長期的な継続使用が困難な患者にとっては一助となるものであろう.したがって,WP-0508STのCSTTAは,RVOに伴う黄斑浮腫治療法の選択肢の拡大に寄与するものである.利益相反:小椋祐一郎,飯田知弘,志村雅彦(カテゴリーCC:わかもと製薬㈱)文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamaStudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)JonasCJB,CSofkerA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C20013)GreenbergCPB,CMartidisCA,CRogersCAHCetal:IntravitrealCtriamcinoloneacetonideformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmolC86:247-248,C20024)ChenCSD,CLochheadCJ,CPatelCCKCetal:IntravitrealCtriam-cinoloneCacetonideCforCischaemicCmacularCoedemaCcausedCbyCbranchCretinalCvainCocclusion.CBrCJCOphthalmolC88:C154-155,C20045)MoshfeghiCDM,CKaiserCPK,CScottCIUCetal:AcuteCendo-phthalmitisCfollowingCintravitrealCtriamcinoloneCacetonideCinjection.AMJOphthalmolC136:791-796,C20036)TheCSCORECStudyCInvestigatorCGroup.CSCORECStudyCReport2:InterobserverCagreementCbetweenCinvestigatorCandCreadingCcenterCclassi.cationCofCretinalCveinCocclusionCtype.OphthalmologyC116:756-761,C20097)OZURDEXCGENEVACStudyGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.OphthalmologyC117:1134-1146,C20108)KreutzerCTC,CAlgeCCS,CWolfCAHCetal:IntravitrealCbeva-cizumabCforCtheCtreatmentCofCmacularCoedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC92:C351-355,C20089)PriglingerSG1,WolfAH,KreutzerTCetal:IntravitrealbevacizumabCinjectionsCforCtreatmentCofCcentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCaCprospectiveCtrial.CRetinaC27:1004-1012,C200710)坂本泰二:黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療.あたらしい眼科27:1333-1337,C201011)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1115-1128,C200912)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C200913)CardilloJA,MeloLA,CostaRAetal:Comparisonofintra-vitrealCversusCposteriorCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.OphthalmologyC112:1557-1563,C200514)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Ran-domizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,201015)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Three-yearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabet-icmacularedema.ArchOphthalmolC127:245-251,C200916)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたCWP-0508(マキュエイドCR硝子体内投与)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:138-146,C201417)RazeghinejadCMR,CKatzLJ:Steroid-inducedCiatrogenicCglaucoma.OphthalmicRes47:66-80,C201218)ChoCA,CChoiCKS,CRheeCMRCetal:CombinedCtherapyCofCintravitrealbevacizumabandposteriorsubtenontriamcin-oloneinjectioninmacularedemawithbranchretinalveinocclusion.JKoreanOphthalmolSocC53:276-282,C201219)MoonJ,KimM,SagongM:Combinationtherapyofintra-vitrealCbevacizumabCwithCsingleCsimultaneousCposteriorCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCdueCtobranchretinalveinocclusion.EyeC30:1084-1090,C2016***

非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):552.559,2018c非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験後藤浩*1志村雅彦*2宮井裕子*3飯田知弘*4*1東京医科大学臨床医学系眼科学分野*2東京医科大学八王子医療センター眼科*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京女子医科大学眼科学教室Phase3ClinicalTrialofSub-TenonInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainNoninfectiousUveitisHiroshiGoto1),MasahikoShimura2),HirokoMiyai3)andTomohiroIida4)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenter,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityWP-0508ST(マキュエイドR眼注用C40Cmg)のCTenon.下投与における有効性および安全性を確認するため,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者C40例を対象に,多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.投与後C8週における中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,臨床的に有効であると判断される基準として設定したC95%信頼区間の上限値.50Cμmを上回る改善であった.また,投与後C12週までの中心窩網膜厚,最高矯正視力および炎症スコア(前房細胞数および前房フレア)の推移において,スクリーニング時と比較して有意な改善が認められた.おもな副作用としては,眼圧上昇(15.0%),血中コルチゾールの減少(10.0%)および水晶体混濁進展(5.0%)がみられた.眼圧上昇例は眼圧下降薬の点眼または内服によりコントロール可能であった.水晶体混濁例は白内障手術に至ったが,視力予後は良好であった.WP-0508STは非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫治療の選択肢として有用であると考えられる.ToCevaluateCtheCe.cacyCandCsafetyCofCsub-TenonCinjectionCofCWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicCInjection40Cmg),CweCconductedCaCmulticenter,Copen-label,CuncontrolledCstudyConC40CsubjectsCwithCmacularCedemaCinCnon-infectiousuveitis.Theresultsindicatedthatthechangeincentralmacularthickness(CMT)at8weeksaftertheadministrationshowedimprovementexceedingtheupperlimitofthe95%con.denceintervalof.50Cmm,thecri-terionCforCclinicalCe.ectiveness.CInCaddition,CCMT,Cbest-correctedCvisualCacuityCandCin.ammationCscore(anteriorchamberCcellCcountCandCanteriorCchamberC.are)observedCupCtoC12CweeksCpost-administrationCindicatedCaCsigni.-cantCimprovementCfromCbaseline.CTheCmainCadverseCdrugCreactionsCwereCelevatedCintraocularCpressure(15.0%),decreasedbloodcortisol(10.0%),andprogressionoflensopacity(5.0%).Itwaspossibletocontroltheintraocularpressurewiththeeyedropsorinternalmedicinesforglaucoma.Thecaseswithlensopacityrequiredcataractsur-gery,CbutCtheCprognosisCforCvisualCacuityCwasCsatisfactory.CTheseCresultsCsuggestCthatCWP-0508STCisCanCe.ectiveCtherapeuticoptionforthetreatmentofmacularedemainnoninfectiousuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):552.559,C2018〕Key.words:非感染性ぶどう膜炎,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,有効性,安全性,WP-0508ST.noninfectiousCuveitis,CmacularCedema,CtriamcinoloneCacetonide,Csub-tenonCinjection,e.cacy,Csafety,CWP-0508ST.C〔別刷請求先〕後藤浩:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:HiroshiGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity.6-7-1Nishi-Shinjyuku,Shinjyuku,Tokyo160-0023,JAPAN552(134)はじめにぶどう膜炎は,その病因から非感染性ぶどう膜炎と感染性ぶどう膜炎に分類されるが,2009年の日本眼炎症学会によるわが国におけるぶどう膜炎の原因疾患調査では,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,急性前部ぶどう膜炎など,その上位はいずれも非感染性ぶどう膜炎が占めていた1).非感染性ぶどう膜炎の治療としては,第一に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の局所投与または内服が行われ,これらの治療で効果不十分の場合にはシクロスポリン,メトトレキサートなどの免疫抑制薬治療が行われるのが一般的である2).ステロイドによる治療においても,可能な限り局所投与での治療から試みることが原則となる3).ぶどう膜炎はその原因にもよるが予後不良に至ることも珍しくなく,ぶどう膜炎患者の約C35%が重度の視覚障害あるいは社会的失明に至ることが報告されている4,5).一方,ぶどう膜炎患者の約C3割が黄斑浮腫を伴うことが知られている4).黄斑浮腫の慢性化は視細胞に不可逆的な障害をきたし,恒久的な視力障害に至ることが危惧されるため,治療時期を逃がさずに黄斑浮腫を抑制することが重要である.トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneCacetonide:TA)を有効成分としたCWP-0508ST(マキュエイドCR眼注用40Cmg)は,硝子体手術時の硝子体可視化薬および硝子体内投与による糖尿病黄斑浮腫治療薬として製造販売承認を取得しており,2017年C3月にCTenon.下の投与経路において「糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫及び非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果の追加承認を取得した.本報告では,「非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」の効能・効果承認のために実施された多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」,ならびに治験実施計画書を遵守し実施された.CI対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験はC2015年C1月.2016年C7月に全国C13医療機関において,各々の治験責任医師のもと実施された(表1).試験実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象対象患者は,活動性の眼感染(ウイルス,細菌,真菌,寄生虫,原虫など)を除いた,非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫を有する患者とした.おもな選択・除外基準は表2に示した.本治験の開始に先立ち,すべての被験者に対して試験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意を本表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*北海道大学病院南場研一東北大学病院丸山和一順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本医科大学付属病院堀純子東京医科大学病院毛塚剛司東京大学医学部附属病院蕪城俊克東京医科歯科大学医学部附属病院高瀬博東京慈恵会医科大学附属病院酒井勉,久米川浩一名古屋市立大学病院吉田宗徳JCHO大阪病院大黒伸行山口大学医学部附属病院園田康平,柳井亮二宮田眼科病院宮田和典淀川キリスト教病院中井慶*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).人から文書にて取得した.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験として実施した.Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTAC40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,結膜円蓋部下耳側に剪刀を用いて小切開を加え,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿って眼球後方まで針先を押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬の点眼による感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表3に示した.まず,蛍光眼底造影検査によって黄斑浮腫の有無を確認し,選択基準の判定および糖尿病網膜症などの除外基準の判定を行った.中心窩網膜厚は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い,中心窩から半径C0.5Cmm範囲の平均網膜厚の値を評価した.なお,実施医療機関で撮像されたCOCT画像については,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会にて専門家による判定が行われた.最高矯正視力の測定はEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudy(ETDRS)チャートを用いて行った.その他,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査を観察項目とした.投与後に認められた臨床上好ましくない疾病あるいは徴候を収集し,有害事象として評価した.なお,投与後C12週までを「観察期間」とし,対象疾患に対する併用治療(ステロイドの全身投与や抗CVEGF薬の局所投与,硝子体手術,レーザー治療など)および視力に影響を及ぼす可能性のある処置(白内障手術,緑内障手術など)を禁止とした.ただし,表.2おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢がC20歳以上C80歳未満(2)対象眼が非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫と判断された者(3)対象眼の視力がCETDRS視力表を用いてC20文字からC80文字(小数視力換算でC0.05以上C0.8以下)(4)対象眼の中心窩網膜厚が,OCTによる測定でC300Cμm以上(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)対象眼に,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑虚血,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシスまたは強度近視の症状を有する(2)対象眼に,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査またはCOTCによる中心窩網膜厚の評価および測定が困難なほどの透光体混濁(網膜前・硝子体出血,または水晶体混濁など)を認める(3)対象眼に,角膜上皮.離または角膜潰瘍を有する(4)対象眼に,緑内障,高眼圧症または既往歴を有する(5)対象眼に眼内悪性リンパ腫を有する(6)コントロール不能な全身性疾患を有する(7)全身衰弱,重篤な心疾患,重篤な脳血流障害または肝硬変を有する(8)対象眼への硝子体手術が治験薬投与前C52週以内に実施(9)対象眼への副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与が治験薬投与前C24週以内に実施(10)対象眼への薬剤の硝子体内投与が治験薬投与前C24週以内に実施(11)免疫抑制薬,免疫調節薬,代謝拮抗薬またはアルキル化薬の投与が治験薬投与前C24週以内に実施(12)対象眼へのレーザー治療または内眼手術が,治験薬投与前C12週以内に実施(13)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,抗CTNF-a抗体薬,ワルファリンまたはヘパリンの投与が,治験薬投与前C4週以内に実施(14)妊婦または授乳婦(15)その他治験医師または治験分担医師が不適と判断表.3検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日週1週4週8週12中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●C表.4前房細胞数の判定基準スコア00.5+1+2+3+4+SUNCWorkingCGroupによるスコア分類(視野サイズは縦C1CmmC×横C1Cmmのスリット光)被験者の利益性を優先し治療が必要とされた場合は本治験を中止・終了とした.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量とした.臨床的に有効であると判断される基準をC.50Cμmと設定し,95%信頼区間の上限がC.50Cμmを上回る改善であればCWP-0508STの有効性が確認されるものとした.評価時点は投与後C8週とし,8週より前に中止または脱落した症例についても最終検査日のデータを評価に含めた.副次的評価項目は,中心窩網膜厚の推移,EDTRSチャートによる最高矯正視力の推移,炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)の投与後C12週までの推移とした.Cb..安全性投与後C12カ月までに発現した有害事象および副作用,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数,臨床検査の各項目を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団主要な有効性解析対象集団は,最大の解析対象集団(fullanalysisCset:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性の解析は,治験薬の投与が行われたすべての症例を対象とした.Cb..解.析.方.法主要評価項目は,中心窩網膜厚の変化量について要約統計量およびC95%信頼区間を算出した.副次的評価項目は,中心窩網膜厚および最高矯正視力について,各評価時点における要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.また,炎症性スコアはCStandardizedCUveitisCNomenclature(SUN)ワーキンググループが報告した基準(表4および表5)6)に従ってスコア化し,Wilcoxonの符号付順位和検定を行った.検定は両側検定で行い,有意水準は5%とした.C表.5前房フレアの判定基準II試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し登録された被験者数はC41例であった.登録された被験者のうち1例が治験薬投与前に黄斑浮腫が改善したため投与未実施となり,投与実施被験者数はC40例となった.そのうちC6例が投与後C12週以内に中止・脱落し,12週間の観察期を完了した被験者数はC34例であった.投与後C12週以内の中止・脱落理由は,「有害事象の発現により併用禁止薬又は併用禁止療法の処置の必要性が生じたため」がC4例,「黄斑浮腫の再発及び合併症の治療のため」がC2例であった.12週間の観察期を完了したC34例は投与後C6カ月,9カ月の追跡調査へ移行し,投与後C12カ月の追跡調査終了前に同意撤回したC2例を除くC32例が全追跡調査を終了した.被験者背景(FAS)を表6に示した.表.6被験者背景(FAS)項目例数解析対象被験者数C39男11(28.2%)性別女28(71.8%)平均値±標準偏差C59.5±15.22年齢(歳)[最小値.最大値][23.78]サルコイドーシス13(33.3%)Vogt-小柳-原田病1(2.6%)Behcet病4(10.3%)ぶどう膜炎の原因分類その他21(53.8%)急性前部ぶどう膜炎2(9.5%)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎1(4.8%)分類不能のぶどう膜炎18(85.7%)ぶどう膜炎罹病期間(年)平均値±標準偏差C3.95±5.376ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫罹病期間(年)平均値±標準偏差C1.93±4.433平均値±標準偏差C484.5±189.54中心窩網膜厚(μm)[最小値.最大値][307.1351]平均値±標準偏差C64.2±12.44最高矯正視力(文字)[最小値.最大値][32.80]平均値±標準偏差C14.2±2.74眼圧(mmHg)[最小値.最大値][9.20]020(C51.3%)C0.5+8(2C0.5%)C前房細胞数C1+2+8(2C0.5%)C2(5C.1%)C3+1(2C.6%)C炎症スコア4+0(0C.0%)029(C74.4%)C1+9(2C3.1%)C前房フレアC2+1(2C.6%)C3+0(0C.0%)C4+0(0C.0%)2..有効性投与が実施された被験者C40例のうち,1例で除外基準に抵触(投与前より経口炭酸脱水酵素阻害薬使用)があり,FASおよびCPPS不採用となった.有効性データの取り扱いはすべてCFASとCPPSで同一であった.Ca..主要評価項目に関する結果評価時の中心窩網膜厚およびスクリーニング時からの変化量の結果を表7に示した.中心窩網膜厚のスクリーニング時からの変化量は,C.114.0(C.160.9.C.67.1)μm[平均値(95%信頼区間下限.上限)]であり,95%信頼区間の上限はあらかじめ設定した基準である.50Cμmを上回る改善が認められた.Cb..副次的評価項目に関する結果投与後C12週までの中心窩網膜厚の推移を図2に,変化量を表8に示した.各評価時点の中心窩網膜厚は,スクリーニング時:484.5C±189.54Cμm(平均値C±標準偏差,以下同様)投与後C1週:405.0C±191.24Cμm,4週:381.9C±162.26Cμm,,8週:374.5C±135.57Cμm,12週:371.8C±153.11Cμmと,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの最高矯正視力の推移を図3に,変化量を表9に示した.各評価時点のスクリーニング時からの最高矯正視力は,スクリーニング時:64.2C±12.44文字,投与後1週:69.1C±11.49文字,4週:72.6C±9.89文字,8週:74.1C±9.99文字,12週:74.9C±9.10文字と,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてp<0.001).投与後C12週までの炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)表.7評価時の中心窩網膜厚(FAS,解析対象被験者数39例)中心窩網膜厚中心窩網膜厚変化量平均値±標準偏差対応あるCt検定平均値±標準偏差スクリーニング時評価時C[95%信頼区間(下限.上限)].114.0±144.59484.5±189.54C370.5±128.89p<0.001C[.160.9.C.67.1](単位:μm)70010090中心窩網膜厚(μm)600最高矯正視力(文字)80706050403020500400300200100100スクリー1週後4週後8週後12週後0スクリー1週後4週後8週後12週後ニングニング評価時期評価時期図.2中心窩網膜厚の推移(FAS)図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.平均値±標準偏差.***:p<0.001,対応あるCt検定.表.8中心窩網膜厚変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33中心窩網膜厚変化量(μm,平均値C±標準偏差)C.79.5±84.61C.110.3±111.91C.121.5±150.23C.115.3±115.85表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後解析対象被験者数C39C35C35C33最高矯正視力変化量(改善文字数,平均値±標準偏差)C4.9±7.04C8.4±7.76C10.3±8.32C9.8±8.68Cの推移を図4および図5に示した.前房細胞数の推移については,スクリーニング時に比較していずれの評価時点においても有意な改善がみられた(すべてCp<0.001).前房フレアの推移については,投与後C1日およびC1週では有意な改善がみられなかったものの,投与後C4週,8週,12週においては有意な改善がみられた(すべてp<0.01).C3..安全性a..副作用有害事象のうち被験薬との因果関係が否定できないものを副作用とし,結果を表10に示した.投与後C12カ月までに発現した副作用はC40例中C12例(30.0%)であり,発現率C5.0%以上の副作用は,眼圧上昇C6例(15.0%),血中コルチゾール減少C4例(10.0%),水晶体混濁C2例(5.0%)であった.血中コルチゾール減少については,いずれも軽度および投与初期の一過性の発現であり処置なしで回復した.投与後C12週以内に有害事象が発現し,中止に至った被験者について,いずれも治験薬との因果関係は認められなかった.ニング評価時期図.4前房細胞数の推移(FAS)平均値±標準偏差.###:p<0.001,Wilcoxonの符号付順位和検定.表.10副作用一覧器官別大分類(SOC)発現率基本語(PT)発現例数(%)解析対象被験者数C40眼障害結膜出血C1C2.5眼痛C1C2.5水晶体混濁C2C5.0網膜出血C1C2.5視力低下C1C2.5眼圧上昇C6C15.0臨床検査血中コルチゾール減少C4C10.0血中ブドウ糖増加C1C2.5血中トリグリセリド増加C1C2.5CMedDRA/Jver.18.1Cb..眼圧上昇に関する評価眼圧上昇が認められたC6例の内訳は,24CmmHg以上C30mmHg未満がC3例,30CmmHg以上がC2例,眼圧上昇の程度不明がC1例であった.投与から眼圧上昇発現日までの期間は56.0(8.98)日[平均値(最小値.最大値),以下同様]であり,眼圧上昇の持続期間はC194.5(28.345)日であった.6例のうち,無処置で消失したC1例を除くC5例では眼圧下降薬の点眼または内服により転帰は消失または軽快となり,ろ過手術などの外科的処置に至った症例はみられなかった.Cc..水晶体混濁に関する評価水晶体混濁の進展が認められたC2例の投与から混濁の進展が認められるまでの期間は,231.5(218およびC245)日[平均(最小値および最大値)]であった.WHO分類7)を用いた進展段階判定では,それぞれ混濁なしまたは軽度からC1段階の進展であった.これらC2例については白内障手術が施行され,1例は入院を伴う白内障手術のため重篤な副作用と判断スクリー1日後1週後4週後8週後12週後ニング評価時期図.5前房フレアの推移(FAS)平均値±標準偏差.##:p<0.01,Wilcoxonの符号付順位和検定.された.手術後の転帰は消失であった.CIII考察非感染性ぶどう膜炎の原因は,Behcet病,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシスなど,多くの場合が全身疾患と関連しており1),自己免疫反応などにより産生された炎症性因子が血液を介してぶどう膜組織に到達し,眼内炎症を惹起しているものと考えられる.ぶどう膜炎の遷延により,眼内にサイトカインなどを産生する炎症細胞の浸潤に加え,壊死細胞や滲出液が貯留する.とくに黄斑部には滲出液が生じやすく,大部分は中心窩周囲の内顆粒層と外網状層に滲出液が貯留し,.胞様黄斑浮腫となることが多い.黄斑浮腫は原疾患によって発生頻度や性状が異なることが知られているが,たとえばCBehcet病ではびまん性黄斑浮腫または.胞様黄斑浮腫を生じる可能性がある.TAには炎症性物質の産生抑制作用のほか,血管透過性亢進抑制および血液網膜関門の破綻を改善する作用機序があり,ぶどう膜炎に併発する黄斑浮腫に対しても有効であると考えられている8,9).TAの黄斑浮腫治療としては,2001年にCJonas10)が糖尿病黄斑浮腫を対象としてCTA硝子体内投与により浮腫が軽減することを報告して以来,国内外での報告が相つぎ,ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫に対しても多くの報告でCTAのCTenon.下および硝子体内投与の有効性が確認されている11,12).Sugarら13)は非感染性ぶどう膜炎患者にフルオシノロンの眼内インプラント治療を行った結果,中心窩網膜厚がC20%以上改善した患者群では,平均C11.0文字の最高矯正視力の改善を報告している.本治験ではこの報告を参考に中心窩網膜厚の変化量のC95%信頼区間の上限をC.50Cμmとして設定した.その結果,主要評価項目である中心窩網膜厚の変化量は基準を上回る.67.1Cμmの改善を示し,WP-0508STの有効性が確認された.また,最高矯正視力の変化量は,投与後C(140)12週で平均C9.7文字とCETDRS視力表で約C2段階(10文字)に相当する改善が認められ,Sugarら13)の報告と同様,中心窩網膜厚の改善に伴う視力の改善が確認され,その改善値もほぼ同様の結果となった.炎症スコア(前房細胞数,前房フレア)についても有意な改善が認められ,前眼部炎症に対する抑制効果が示された.安全性については,TAの眼内投与におけるおもな副作用として眼圧上昇や水晶体混濁が知られている.Levinら14)はTAのCTenon.下投与における眼圧上昇の発現率はC47眼中9眼(19%)であったことを報告しており,本治験においても同程度の発現頻度であった.もともとぶどう膜炎では,その合併症として眼圧上昇をきたすことがあるため15),WP-0508STの使用に際しては眼圧コントロール不良な患者やステロイドレスポンダーへの投与を避けること,また眼圧上昇の徴候がみられた場合は速やかに眼圧下降薬点眼による治療を行うことなどの十分な注意が必要である.水晶体混濁について吉村ら16)は,TATenon.下投与後C44眼中C8眼(18%)に後.下白内障が認められ,その発症時期は平均で投与後8.8カ月であったと報告している.本治験における水晶体混濁進展時期は,平均で投与後C8.3カ月であり,吉村らの報告と類似していた.このようにCTACTenon.下投与による白内障の発症および進展は,投与から時間が経過した後に認められていることから,WP-0508ST投与後は長期的な経過観察が必要であると考えられる.何らかの病原性微生物によって発症する感染性ぶどう膜炎に対してステロイドを使用することは,炎症の増悪や病巣の拡大など重篤な副作用が懸念されることから17),ぶどう膜炎の診断は慎重に行い,感染性ぶどう膜炎が疑われる場合には安易にCWP-0508STを使用しないことが重要であることはいうまでもない.以上,WP-0508STの非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の改善効果が確認された.また,視力障害や失明のリスクを考えると,その副作用は十分忍容されるものと考えられ,WP-0508STの本疾患に対する有用性が示された.利益相反:後藤浩,志村雅彦,飯田知弘:カテゴリーCC:わかもと製薬㈱文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,C20122)蕪木俊克:ぶどう膜炎の最近の治療.眼科C50:435-443,C20083)蕪木俊克:これからの非感染性ぶどう膜炎の治療戦略.あたらしい眼科34:505-511,C20174)RothovaA,Suttorp-vanSchultenMS,FritsTre.ersWetal:CausesCandCfrequencyCofCblindnessCinCpatientsCwithCintraocularCin.ammatoryCdisease.CBrCJCOphthalmolC80:C332-336,C19965)NussenblattCRB:TheCnaturalChistoryCofCuveitis.CIntCOph-thalmol14:303-308,C19906)JabsCDA,CNussenblattCRB,CRosenbaumCJT:Standardiza-tionCofCuveitisCnomenclatureCforCreportingCclinicalCdata.CResultsCofCtheCFirstCInternationalCWorkshop.CAmCJCOph-thalmol140:509-516,C20057)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal:Asimpli-.edCcataractCgradingCsystem.COphthalmicCEpidemiolC9:C83-95,C20028)橋田徳康:ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射).あたらしい眼科34:469-474,C20179)FlomanCN,CZorCU:MechanismCofCsteroidCactionCinCocularin.ammation:InhibitionCofCprostaglandinCproduction.CInvestOphthalmolVisSci16:69-73,C197710)JonasCJB,CSofkerCA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C200111)OkadaCAA,CWakabayashiCT,CMorimuraCYCetCal:Trans-Tenon’sCretrobulbarCtriamcinoloneCinfusionCforCtheCtreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,C200312)AtmacaCLS,CYalcindaC.FN,COzdemirCO:IntravitrealCtri-amcinoloneacetonideinthemanagementofcystoidmacu-laredemainBehcet’sdisease.GraefesArchClinExpOph-thalmol245:451-456,C200713)SugarCEA,CJabsCDA,CAltaweelCMMCetCal:IdentifyingCaCclinicallymeaningfulthresholdforchangeinuveiticmacu-larCedemaCevaluatedCbyCopticalCcoherenceCtomography.CAmJOphthalmol152:1044-1052,C201114)LevinDS,HanDP,DevSetal:Subtenon’sdepotcortico-steroidCinjectionsCinCpatientsCwithCaChistoryCofCcorticoste-roid-inducedCintraocularCpressureCelevation.CAmJOph-thalmol133:196-202,C200215)蕪城俊克,川島秀俊:ぶどう膜炎併発緑内障における手術の適応・術式の選択・術後処置.あたらしい眼科C21:13-19,C200416)吉村将典,平野佳男,野崎美穂ほか:トリアムシノロン局所投与後の後.下白内障の発症頻度.日眼会誌C112:786-789,C200817)高瀬博:感染性ぶどう膜炎.OCULISTA5:69-77,C2013***

黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績

2018年2月28日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(2):263.266,2018c黄斑浮腫を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ初回およびPRN投与の短期治療成績寺内稜*1,2小川俊平*1,2中野匡*1*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科CShort-termClinicalOutcomesofInitialandProReNataCIntravitrealRanibizumabInjectionforMacularEdemaSecondarytoBranchRetinalVeinOcclusionCRyoTerauchi1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)CandTadashiNakano1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital対象および方法:対象は網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)を施行し,6カ月間経過観察できたC26例C26眼(平均C69.3C±10.6歳).最高矯正視力(best-correct-edCvisualCacuity:BCVA)と中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)の経過,IVRの投与回数,視力改善に影響を与える因子について後ろ向きに検討した.初回導入後はCFRT350Cμm以上を基準としてCprorenata投与を行った.結果:投与前と投与後C6カ月のCBCVA(logMAR)はC0.36からC0.22へ,FRTはC587.3CμmからC336.4Cμmへと有意に改善し,平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られた.結論:FRT350Cμm以上の再投与基準は,投与回数を抑制しCBCVAおよびCFRTを有意に改善させる.CMethods:WeretrospectivelyreviewedtheclinicalchartsofpatientswhounderwentIVRforMEsecondarytoCBRVO.CAllCpatientsCwereCtreatedCwithC1+PRNCregimenCoverC6Cmonths.CTheCmainCcriterionCforCPRNCinjectionwasCfovealCretinalCthickness(FRT)>350Cμm.CBest-correctedCvisualCacuity(BCVA)andCFRTCwereCmeasuredCatCpre-injection,and1,3and6monthsafterinitialinjection.WeevaluatedfactorspredictingBCVAimprovementin6CmonthsCusingCmultipleCregressionCanalysis.CResults:InCtheC26CeyesCofC26CpatientsCincludedCinCthisCstudy,CtheCmeannumberofinjectionswas1.7±0.6.BCVAinlogarithmicminimumangleofresolutionchangedsigni.cantly,from0.36atpre-injectionto0.22at6months.FRTalsoreducedsigni.cantly,from587.3Cμmto336.4Cμm.Therewassigni.cantnegativecorrelationbetweenpre-injectionBCVAandBCVAimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(2):263.266,C2018〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ラニビズマブ,PRN.branchretinalveinocclusion,macularedema,ranibizumab,prorenata.Cはじめに近年,網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)に伴う黄斑浮腫(macularCedema:ME)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)薬硝子体内注射の有効性が示され1),最適な投与プロトコルが模索されている.BRVOに伴うCMEはC4.5カ月でC18%,7.5カ月でC41%が自然軽快することが知られており2),これまでに報告されてきた毎月投与1),導入期C3回+proCreCnata(3+PRN)投与3)あるいはCtreatCandCextend(TAE)法4)では過剰投与の可能性がある.現在は投与回数を抑えたC1+PRN投与が有効な投与プロトコルと考えられ広く臨床の場で行われているが,その治療効果の検討は十分とはいえない.筆者らの施設では,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCranibizumab:IVR)のC1+PRN投与を選択し,再投与基準を中心窩網膜厚(fovealCretinalCthickness:FRT)350Cμm以上として治療を行ってきた.今回,その治療結果を後ろ向きに検討したので報告する.〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8471東京都港区西新橋C3-19-18東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:RyoTerauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-19-18Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8471,JAPAN表1症例の投与前背景0.6対象26眼年齢C69.3±10.6歳性別(女/男)17/9名(65.4/34.6%)発症から投与までの期間C6.99±8.69カ月投与前視力(logMAR)C0.36±0.23中心窩網膜厚C587.3±280.0Cμm黄斑部出血14眼(53.8%)0漿液性網膜.離9眼(34.6%)図1BCVA(最高矯正視力)の投与前後の推移I対象投与後C6カ月のCBCVAは,投与前と比較して有意に改善した.平均値C±標準偏差.p=0.021,厚木市立病院眼科において,2014年C3月.2015年C12月Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).CにCBRVOに伴うCMEに対してCIVRを実施した連続症例のうち,除外基準1)軽度白内障を除く他の眼疾患の合併,2)初700Pre1M3M6M回CIVR前のCBRVOに対する硝子体手術,他の抗CVEGF薬硝子体内注射,Tenon.下ステロイド注射もしくは網膜光凝固の既往,に該当する症例を除いたC26例C26眼を対象とした(表1).CII方法0視力障害をきたす黄斑部を含むCMEを認め,光干渉断層Pre1M3M6M計(opticalCcoherentCtomography:OCT.CCirrusC3000,CCarlZeiss)でCFRTがC250μm以上の症例に対して初回CIVR(0.5Cmg/0.05Cml)を実施した.以降はCPRN投与を行い,再投与基準は視力にかかわらずCMEの残存もしくは再発のためにFRTが350Cμm以上の場合とした.必要に応じて蛍光眼底造影検査を実施し,5乳頭径大以上の網膜無灌流領域を認めたC11例(42.3%)で局所網膜光凝固を行った.MEに対する閾値下凝固を行った症例はなかった.治療効果を検討するため,初回CIVR前,投与後C1,3,6カ月の時点で視力検査による最高矯正視力(bestCcorrectedvisualCacuity:BCVA)と,OCT画像検査によるCFRTの測定を行った.FRTはセグメンテーションエラーを回避するために,OCT検査により得られた中心窩を含む網膜断層写真をCOCT上で確認選別し,断層像で決定した中心窩の硝子体網膜界面と,網膜色素上皮層の垂線の交点までの最大の距離をCFRTとした.BCVAとCFRTの投与前後の比較にはCWilcoxonの順位和検定を用いた.少数視力はClogMAR(logarithmicCminimumangleCofCresolution)視力に換算して解析を行った.治療効果に影響を与える因子を検討するため,目的変数をC6カ月間の視力改善幅(投与後C6カ月CBCVAC.投与前CBCVA),説明変数を年齢,性別,発症から投与までの期間,黄斑部出血の有無,投与前BCVA,投与前FRT,漿液性網膜.離(serousretinalCdetachment:SRD)の有無,光凝固実施の有無,6カ月間の投与回数,として重回帰分析を行った.変数選択に図2FRT(中心窩網膜厚)の投与前後の推移投与後C6カ月のCFRTは,投与前と比較して有意に減少した.平均値±標準偏差.p<0.001,Wilcoxonの順位和検定(投与前と比較).Cはステップワイズ法を用いた.統計解析には,RCver.C3.2.1.(RCFoundationCforCStatisticalCComputing,CVienna,CAus-tria,C2014)を用い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は厚木市立病院倫理委員会の承認(H28-06)を得て,ヘルシンキ宣言を尊守し実施された.CIII結果6カ月間の平均投与回数はC1.7C±0.6回であった.投与回数がC1回の症例はC26眼中C11眼(42.3%),2回はC13眼(50.0%),3回はC2眼(7.7%)であった.IVRに伴う重篤な全身および局所合併症は認めなかった.治療開始後C6カ月間のBCVAとCFRTの推移を示す(図1,2).BCVAは投与前C0.36C±0.23(平均C±標準偏差),投与後C6カ月C0.22C±0.22であり有意に改善した(p=0.021).logMAR0.2以上の変化を有意とした場合,投与後C6カ月の時点でC26眼中C9眼(34.6%)に視力の改善が認められ,不変であった症例はC16眼(61.5%),悪化した症例はC1眼(3.8%)であった.FRTは投与前C587.3C±279.6μm,投与後C6カ月はC336.4C±196.5μmと有意に減少した(p<0.001).視力改善に影響を及ぼす因子の検討では,ステップワイズ年齢黄斑部出血C投与前CBCVAC投与前CFRTC表2説明変数間の相関係数(r)年齢黄斑部出血投与前CBCVA投与前CFRT1.000C─C─C─.0.0241.000C─C─.0.134C.0.096C1.000C─.0.4330.098C0.366C1.000表3各説明変数の標準偏回帰係数(b)0.8bp値年齢C0.0048C0.209黄斑部出血C.0.0937C0.198投与前CBCVAC.0.4707C0.011投与前CFRTC.0.0003C0.023法により四つの説明変数(年齢,黄斑部出血,投与前CBCVA,視力改善幅(6カ月-投与前)0投与前CFRT)が選択された.説明変数間の相関係数はいずれも中等度以下であり(表2),多重共線性の問題はないと考えられた.また,自由度調整済決定係数CrC2はC0.54であった.標準偏回帰係数Cb(表3)から,投与前CBCVA(Cb=.0.47,Cp=0.011)が視力改善幅に強く影響すると考えられ,投与前視力が悪い症例ほど大きな視力改善が得られていた.単回帰分析でも投与前CBCVAと視力改善幅には有意な負の相関が認められた(r=.0.61,Cp=0.001,図3).CIV考按これまでのCBRVOに対する抗CVEGF薬のCPRN投与の報告において,再投与基準はCFRT250μm以上5),もしくは300Cμm以上6)に設定される場合が多かったが,筆者らは過剰投与のリスクを減らしながら治療効果が十分に得られる最適な投与プロトコルを模索するため,再投与基準はCFRT350μm以上に設定した.結果として,投与前と比較して投与後6カ月のCBCVAおよびCFRTはいずれも有意に改善した.坂西らはCFRT300Cμm以上を再投与基準としてC1+PRN投与を実施し,6カ月後7),12カ月後8)のCBCVAおよびCFRTは有意に改善したと報告している.平均投与回数を比較すると,本研究ではC6カ月間でC1.7回であったのに対し,坂西ら7)はC1.9回であり,本研究の投与回数のほうがわずかに少ない傾向にあった(表4).少ない投与回数は,注射に伴う合併症,患者の費用負担,医療経済などさまざまな面で利点があると考えられる.しかしながら,本研究のCBCVAとCFRTの改善幅は,坂西らのC6カ月後の結果と比較して同等もしくはわずかに小さい傾向にあり,6カ月間の投与回数の差が影響している可能性は否定できない.本研究はC6カ月間の短期治療成績を検討しており,FRT再投与基準が視力予後に与える影響については,より長期の-0.800.20.40.60.81投与前BCVA図3投与前BCVAと6カ月間の視力改善幅の関係投与前CBCVAと視力改善幅は有意な負の相関を示した(r=.0.605,Cp=0.001).視力改善幅は,正の値は視力悪化,負の値は視力改善を表す.経過観察が必要となる.また,本研究は対象がC26眼と少数であり,今後症例数を増やした検証も必要である.視力改善に影響する因子について重回帰分析を用いて検討した結果,投与C6カ月後の視力改善幅にもっとも影響を与える因子は投与前視力であり,投与前視力が悪いほど投与後に大きな視力改善が得られた.これまでにも投与前視力と視力改善が負の相関を示すという報告は存在し9),視力不良例に対しても抗CVEGF療法は有効な治療法であることが期待されている.しかしながら,本研究では投与前視力がClogMAR視力C1.0より大きな症例はなく,視力不良例についての検討は十分とはいえない.同様にCBRVOに関する大規模臨床試験であるCBRAVOCstudy1)においても,logMAR視力C1.3より大きい症例は対象から除外されており,今後は視力不良例に対する抗CVEGF療法の治療効果についてのさらなる検討が望まれる.結論として,1+PRN投与はC6カ月後のBCVAおよびFRTを改善させ,FRT350Cμm以上の再投与基準は投与回数を抑制し十分な治療効果を維持した.謝辞:本論文作成にあたり草稿をご校閲いただいた東京慈恵会医科大学の酒井勉,神野英生,堀口浩史先生,臨床評価をしていただいた吉嶺松洋,岸田桃子先生に深謝いたします.表4BRVOに対するIVRの短期治療成績を検討した本研究と既報の比較眼再投与基準(Cμm)平均投与回数(回)BCVA改善幅(logMAR)FRT改善幅(Cμm)坂西ら(2C016)C32C≧300C1.9±0.8C.0.18C.273本研究C26C≧350C1.7±0.6C.0.14C.251文献1)CampochiaroCPA,CHeierCJS,CFeinerCLCetCal:RanibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalCveinCocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1102-1112,C20102)RogersCSL,CMcIntoshCRL,CLimCLCetCal:NaturalChistoryCofbranchretinalveinocclusion:anevidence-basedsystem-aticreview.OphthalmologyC117:1094-1101,C20103)MiwaCY,CMuraokaCY,COsakaCRCetCal:RanibizumabCformacularCedemaCafterCbranchCretinalCveinCocclusion:oneCinitialCinjectionCversusCthreeCmonthlyCinjections.CRetinaC37:702-709,C20174)RushCRB,CSimunovicCMP,CAragonCAVC2ndCetCal:Treat-and-extendCintravitrealCbevacizumabCforCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC45:212-216,C20145)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:RanibizumC-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1124-1133,C20106)CampochiaroCPA,CWyko.CCC,CSingerCMCetCal:MonthlyCversusCas-neededCranibizumabCinjectionsCinCpatientsCwithretinalCveinCocclusion:theCSHORECstudy.COphthalmologyC121:2432-2442,C20147)坂西良仁,大内亜由美,伊藤玲ほか:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射のC6カ月間治療成績.日眼会誌120:28-34,C20168)SakanishiCY,CLeeCA,CUsui-OuchiCACetCal:Twelve-monthCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithClow-frequencyCintravitrealCranibizumab.CClinCOph-thalmolC10:1161-1165,C20169)WaiCKM,CKhanCM,CSrivastavaCSCetCal:ImpactCofCinitialCvisualCacuityConCanti-VEGFCtreatmentCoutcomesCinCpatientsCwithCmacularCoedemaCsecondaryCtoCretinalCveinCocclusionsCinCroutineCclinicalCpractice.CBrCJCOphthalmolC101:574-579,C201710)CampochiaroPA,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitreala.iberceptCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalveinCocclusion:theC24-weekCresultsCofCtheCVIBRANTCstudy.OphthalmologyC122:538-544,C2015***

各種プロスタグランジン系緑内障点眼薬が水晶体上皮細胞に及ぼす影響について

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1518?1523,2016c各種プロスタグランジン系緑内障点眼薬が水晶体上皮細胞に及ぼす影響について茨木信博*1三宅謙作*2*1いばらき眼科クリニック*2眼科三宅病院TheInfluenceofVariousProstaglandinGlaucomaEyedropsonLensEpithelialCellsNobuhiroIbaraki1)andKensakuMiyake2)1)IbarakiEyeClinic,2)MiyakeEyeHospital目的:これまでに,緑内障点眼薬で白内障手術後に黄斑浮腫が発症する原因は,水晶体上皮細胞の炎症性サイトカイン産生促進であることを報告した.今回は,点眼液による水晶体上皮細胞の炎症性サイトカイン産生促進効果と細胞障害性を各種プロスタグランジン(PG)系緑内障市販薬間で比較した.方法:培養水晶体上皮細胞株の細胞形態と培養上清中のIL(インターロイキン)-1a,IL-6,PGE2を計測した.製剤は,キサラタン(X),ラタノプロストPF(L),ルミガン(Lu),タプロス(T),トラバタンズ(Tr)で,10?1,000倍希釈を培地に添加した.結果:Xでは1,000倍希釈でも細胞形態に異常を示したが,L,Luでは300倍希釈,T,Trでは100倍希釈で細胞は正常な形態であった.サイトカインはX,L,Lu,T,Trの順で多く産生された.結論:緑内障点眼製剤による水晶体上皮細胞の細胞障害とサイトカインの産生促進は,塩化ベンザルコニウムの含有濃度や種類により差があること,非含有でも他の添加剤で生じることが明らかとなった.Purpose:Wehavereportedthatmacularedemaaftercataractsurgerywithuseofglaucomaeyedropsiscausedbystimulatorycytokineproductionoflensepithelialcells.Inthisreport,wecomparetheinfluenceofvariousglaucomaeyedropsonlensepithelialcells.Methods:Humanlensepithelialcellswereculturedwithvariousdrugs:Xalatan,LatanoprostPF,Lumigan,TapulosandTrabatans.Eachdrugwasdiluted10to1000timesandaddedtothemedium.CellmorphologywasobservedandcytokinesIL-1-alpha,IL-6andPGE2intheculturesupernatantweremeasured.Results:LumiganandLatanoprostPFat300xdilutionandTapulosandTrabatansat100xshowednocytotoxicity,butXalatanat1000xdilutionshowedcytotoxicity.Intermsofcytokineproduction,Xalatan,Lumigan,LatanoprostPF,TapulosandTrabatansshoweddecreases,respectively.Conclusion:Glaucomaeyedropformulationswereantagonistictocytotoxicityinlensepithelialcells,andpromotedtheproductionofcytokines.Thedegreediffersdependingonthetypeandconcentrationofbenzalkoniumchlorideadded,andofotherpreservativesinthebenzalkoniumchloride-freetypes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1518?1523,2016〕Keywords:白内障術後,黄斑浮腫,緑内障点眼薬,塩化ベンザルコニウム,水晶体上皮細胞.aftercataractsurgery,macularedema,glaucomaeyedrop,benzalkoniumchloride,lensepithelialcells.はじめに?胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)は,種々の眼疾患や眼内手術後に生ずるが,その成因は不明である.白内障手術後に生ずるCMEについても,低眼圧,硝子体索引,炎症などが考えられている1).さらに,白内障手術後に緑内障薬の点眼を行った場合に,CMEが起こることが報告されている.近年,プロスタグランジン製剤の白内障手術後の使用によるCMEが報告されているが2?5),緑内障治療薬によるCMEは以前より数多く報告されている.これまでに筆者らは,この白内障手術後の緑内障点眼薬によるCMEの原因を明らかにするために,ラタノプロスト,チモロール,防腐剤である塩化ベンザルコニウムの入らないチモロール,さらに,緑内障薬の主成分を含まない基剤のみと,さらにその基剤から塩化ベンザルコニウムを除いたものを使用し,白内障手術後早期眼において,CMEの発生が緑内障治療薬の主成分の関与よりも,添加されている防腐剤である塩化ベンザルコニウムが大きく関与していることを報告した6).さらに,ヒト水晶体上皮細胞(humanlensepithelialcell:HLEC)を培養し,緑内障点眼薬の主成分であるラタノプロスト,チモロール,塩化ベンザルコニウムを添加し,各種炎症系サイトカインの産生を検討したところ,緑内障点眼薬の主成分よりも塩化ベンザルコニウムの添加によって,はるかに高濃度のサイトカインを産生することを明らかにした7).今回は,実際に臨床で使用している各種プロスタグランジン系緑内障市販薬によるHLECに対する障害,サイトカインの産生について検討し,塩化ベンザルコニウム,ホウ酸などの防腐効果のある物の添加により,HLECが障害を受け,サイトカインの産生も増加すること,塩化ベンザルコニウム自体の改良や防腐剤の工夫によって障害やサイトカインの産生を抑えることが可能であることを見いだした.さらに,点眼容器の工夫によって防腐剤フリーとされている点眼薬について,塩化ベンザルコニウム以外の添加剤によって,高濃度のサイトカインが産生され,細胞障害も高度に生ずることが明らかとなったので報告する.I方法培養したHLECは,ヒト由来の水晶体上皮佃胞で株化されたもの(SRA01/04)8)を用いた.25mm2の培養フラスコに,70±5個/mm2の細胞密度となるように調整し,37℃,5%炭酸ガス,湿度100%で培養した.培養液は,DulbeccoMinimumEssentialMedium(Gibco,GlandIsland,NY)に5%ウシ胎児血清を添加したもので,抗菌薬や抗真菌薬の入らないものを標準培地として用いた.薬剤は,キサラタン(ファイザー:以下,X),タプロス(参天製薬:以下,T),トラバタンズ(日本アルコン:以下,Tr),ラタノプロストPF(日本点眼薬研究所:以下,L),ルミガン(千寿製薬:以下,Lu)を各企業より提供を受け使用した.それぞれの点眼薬を標準培地で10?1,000倍に希釈したもので細胞培養を行った.培養7日目に位相差顕微鏡で細胞形態を観察するとともに,培地を回収し細胞成分を除去した後に培地中の各種サイトカインを定量した.薬剤の希釈度によって生細胞数が異なるため,各々の培養フラスコ中の細胞数を計測し,105個の細胞に対するサイトカイン量を計算した.標準培地でのみ培養したものを対照とした.各々3個の培養を行い,平均値と標準偏差を求めた.炎症性サイトカインはインターロイキン1a(IL-1a),インターロイキン6(IL-6)とプロスタグランジンE2(PGE2)を測定した.IL-1aはEL1SA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)キット(日本抗体研究所,高崎市),IL-6はCLEIA(chemiluminescentenzymeimmunoassay)キット(富士レビオ,東京),PGE2はRIA(radioimmunoassay)キット(NENLifeScienceProducts,Boston)を用いて測定した7).II結果1.細胞形態Xは100倍希釈以上の高濃度で細胞は死滅し,300倍で少数の生細胞を,1,000倍で細胞伸展を認めた(図1).Lu(図2),L(図3)は,30倍以上で細胞は死減,100倍で伸展,300倍未満で正常であった.T(図4),Tr(図5)は,10倍で細胞が死滅,30倍で伸展,100倍で正常であった.2.サイトカイン産生IL-1aの産生量は,対照が60.6±42.0pg/105細胞(平均値±標準偏差)に対し,300倍希釈のXが146.5±31.7pg/105細胞で,100倍希釈のLu,L,T,Trは各々50±26.8,21.1±9.0,11.3±5.3,4.0±0.6pg/105細胞であった(図6).IL-6(図7)は,対照,300倍希釈のX,100倍希釈のLu,L,T,Trが各々378.9±228.5,2,011.5±338.7,1,154.7±296.6,362.3±106.8,222.6±33.9,148.6±15.8pg/105細胞,PGE2(図8)は,各々21.9±13.8,205.3±41.1,NA,71.3±35.3,8.3±0.3,10.3±3.7pg/105細胞であった.III考按これまでに筆者らは,白内障術後の緑内障薬によるCMEは,塩化ベンザルコニウムの関与の可能性が高いこと,その機序として白内障の手術後に残存した水晶体上皮細胞に,緑内障治療薬が作用することにより各種サイトカインが多量に産生されることを確認し,このサイトカインが網膜に作用するためではないかと考えた6,7).防腐剤としての塩化ベンザルコニウムは,静菌や殺菌作用,保存効力が高いことから,点眼薬の約7割で使用されている.塩化ベンザルコニウムを添加することで,薬物の浸透性が亢進するという利点がある一方で,これまでに眼表面障害の問題がとりあげられている.おもに角膜上皮細胞に対する細胞毒性が報告されおり,これは防腐剤の界面活性作用によるもので,細胞膜の透過性が高まり,膜破壊や細胞質の変性によって生じる9).塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤が点眼薬に添付される意味は,点眼瓶を用いて繰り返し使用するために,開栓によって瓶内に細菌が混入し,増値することを防ぐためである.したがって,単回使用の点眼には通常防腐効果のある添加剤は添加されていない.また,その防腐効果を確認するために,種々の細菌を用いた保存効力試験が実施され,点眼瓶,点眼薬の汚染が生じないかを検討されている10).今回使用したXとLu,Tにはそれぞれ塩化ベンザルコニウムが0.02%と0.005%,0.001%,TrとLには塩化ベンザルコニウムは含有されていないが,濃度は不明であるが,防腐剤としての亜鉛やホウ酸などの緩衝剤が添加されている.X,Lu,Tの順で,細胞障害が生じ,サイトカインの産生も多かった.これは,塩化ベンザルコニウムの濃度によって障害の程度が決まること7)と同様の結果であった.さらに,Tの塩化ベンザルコニウムは,塩化ベンザルコニウムの炭素鎖長が一定のものであり,他の製剤ではこの炭素鎖長が種々であるのに対し,より細胞毒生が少ないものを使用している.さらに,Tでは保存効力試験と角膜上皮細胞を用いた細胞毒性試験を行い,塩化ベンザルコニウムの至適濃度(0.0005?0.003%)を決定し,以前の0.01%から現在の0.001%に減量されている11).LuのPGE2が検査不能であったが,これはLuが検査試薬と交差反応するものと考えられ,異常な高値を示したが,詳細は不明である.Trは,塩化ベンザルコニウムに代わる防腐剤として,ホウ酸の存在下で亜鉛イオンが細菌などのATP産生を阻害することで細菌などを死滅させる添加物が含まれている.これは,酸性下でもっともその効力が強力に出現することから,製剤の状態では酸性を示している.点眼することで,涙液によって緩衝され中性となることで,細胞毒性が減弱,消失するものと考えられている12).今回の検討においても,Trを培養液に加えることで中性になり,添加物の細胞毒性が軽減したと考えられる.最後に,Lについては,塩化ベンザルコニウムを含まない点眼薬なので好結果を期待していた.しかし,結果は塩化ベンザルコニウムが含まれている製剤と同等の結果であった.Lは,塩化ベンザルコニウムを含まなくても,複数回の点眼で容器内の細菌などの増殖を防御するために,点眼口にフィルターを付け,細菌などの混入を防御している.防腐剤を減らし,あるいは無添加にすることが可能な点眼瓶として,非常に有益なものと思われる.しかし,今回の良好な結果が得られなかったのは,保存効力試験を通すために,塩化ベンザルコニウムは非添加であるが,ホウ酸(濃度不明)が細菌などの増殖が生じないように添加されているためと考えられた.本来,フィルターを用いた点眼瓶に保存効力試験を行う必要はないので,塩化ベンザルコニウム以外の添加剤についても,その添加の目的,濃度などを検討すべきであると考えられた.今回の検討で,緑内障の点眼薬の実薬においても,水晶体上皮細胞の細胞障害や細胞のサイトカイン産生に及ぼす影響は,塩化ベンザルコニウム含有によって濃度依存的に強いことと,塩化ベンザルコニウム非添加でフィルター付き点眼瓶を用いた薬剤でも,塩化ベンザルコニウム添加の薬物と同等の影響があることが明らかとなった.白内障術後の緑内障点眼薬の使用については,塩化ベンザルコニウムの含有濃度に注意して使用すべきと考えられた.さらに,塩化ベンザルコニウム非添加であっても,他の防腐効果を期待した添加物を加えていることがあるので,点眼薬の添加物や保存効力試験の有無などもよく確認する必要があると思われた.文献1)GassJDM:StereoscopicAtlasofMacularDiseases;DiagnosisandTreatment.4thEd,p478-481,CVMosby,St.Louis,MO,19972)RoweJA,HattenhauerMG,HermanDC:Adversesideeffectsassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol124:683-685,19973)FechtnerRD,KhouriAS,ZimmermanTJetal:Anterioruveitisassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol126:37-41,19984)MoroiSE,GottfredsdottirMS,SchteingartMTetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprosttherapyinacaseseriesofpatientswithglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology106:1024-1029,19995)MiyakeK,OtaI,MaekuboKetal:Latanoprostacceleratesdisruptionoftheblood-aqueousbarrierandtheincidenceofangiographiccystoidmacularedemainearlypostoperativepseudophakias.ArchOphthalmol117:34-40,19996)MiyakeK,OtaI,IbarakiNetal:Enhanceddisruptionoftheblood-aqueousbarrierandtheincidenceofangiographiccystoidmacularedemainearlypostoperativepseudokaias.ArchOphthalmol119:387-394,20017)GotoY,IbarakiN,MiyakeK:Humanlensepithelialcelldamageandstimulationoftheirsecretionofchemicalmediatorsbybenzalkoniumchlorideratherthanlatanoprostandtimolol.ArchOphthalmol121:835-839,20038)IbarakiN,ChenS-C,LinL-Retal:Humanlensepithelialcellline.ExpEyeRes67:577-585,19989)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,200810)保存効力試験法.第十六改正日本薬局方.2044-2046,2011.3.24.厚生労働省11)浅田博之,七條優子,中村雅胤ほか:0.0015%タフルプロスト点眼液のベンザルコニウム塩化物濃度の最適化検討─眼表面安全性と保存効力の視点から─.YAKUGAKUZASSHI130:867-871,201012)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzarkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,2007〔別刷請求先〕茨木信博:〒320-0851栃木県宇都宮市鶴田町720-1いばらき眼科クリニックReprintrequests:NobuhiroIbaraki,M.D.,IbarakiEyeClinic,720-1Tsuruta-machi,Utsunomiyacity,Tochigi320-0851,JAPAN0195110-81810/あ16た/(133)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161519図1キサラタン添加時の細胞形態7日目a:100倍希釈.ほとんどの細胞が死滅している.b:300倍希釈.わずかの生細胞を認めるが,細胞は伸展している.c:1,000倍希釈.ほぼ正常の細胞形態(バーは100μm).図2ルミガン添加時の細胞形態7日目a:30倍希釈.ほとんどの細胞が死滅している.b:100倍希釈.細胞伸展を認める.c:300倍希釈.ほぼ正常の細胞形態(バーは100μm).1520あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(134)図3ラタノプロストPF添加時の細胞形態7日目a:30倍希釈.ほとんどの細胞が死滅している.b:100倍希釈.細胞伸展を認める.c:300倍希釈.ほぼ正常の細胞形態(バーは100μm).図4タプロス添加時の細胞形態7日目a:10倍希釈.ほとんどの細胞が死滅している.b:30倍希釈.細胞伸展を認める.c:100倍希釈.ほぼ正常の細胞形態(バーは100μm).(135)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161521図5トラバタンズ添加時の細胞形態7日目a:10倍希釈.ほとんどの細胞が死滅している.b:30倍希釈.細胞伸展を認める.c:100倍希釈.ほぼ正常の細胞形態(バーは100μm).図6IL?1aの産生(pg/105細胞)X:キサラタン,Lu:ルミガン,L:ラタノプロストPF,T:タプロス,Tr:トラバタンズ.図7IL?6の産生(pg/105細胞)X:キサラタン,Lu:ルミガン,L:ラタノプロストPF,T:タプロス,Tr:トラバタンズ.図8PGE2の産生(pg/105細胞)X:キサラタン,Lu:ルミガン,L:ラタノプロストPF,T:タプロス,Tr:トラバタンズ.1522あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(136)(137)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161523

デング熱黄斑症の1例

2016年5月31日 火曜日

《第52回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科33(5):714〜718,2016©デング熱黄斑症の1例東友馨*1保坂大輔*2常岡寛*1*1東京慈恵会医科大学眼科学講座*2町田市民病院眼科ACaseofDengueFeverMaculopathyYukaHigashi1),DaisukeHosaka2)andHiroshiTsuneoka1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MachidaMunicipalHospital国内感染にてデング熱に罹患し,黄斑症を合併した症例を経験したので報告する.20歳,男性,東京都代々木公園で蚊に刺され,その後近医内科にてデング熱と診断された.霧視も出現してきたため,町田市民病院へ紹介受診となった.初診時の矯正視力は右眼0.1,左眼0.6,硝子体内に炎症細胞を認めた.眼底は両眼ともに黄斑部の出血,軟性白斑を伴う網膜浮腫,視神経乳頭腫脹を認めた.Goldmann視野検査では両眼に中心比較暗点を認めた.0.1%ベタメタゾン点眼を開始,1週間後には矯正視力は右眼0.9,左眼1.2と改善した.眼底も両眼ともに黄斑部の出血・軟性白斑を伴う網膜浮腫,視神経乳頭腫脹は改善した.デング熱黄斑症は多くが自然軽快し,視力予後も良好である.眼合併症の発生頻度,機序は不明だが,免疫介在性の反応と推測されている.Wereportacaseofdenguefevermaculopathyinadomesticinfection.A20-year-oldmalebittenbyamosquitoinTokyo’sYoyogiParkwasdiagnosedafewdayslaterwithdenguefeverbyaninternalmedicineclinic.Sinceblurredvisionoccurred,theMachidaMunicipalHospitalDepartmentofOphthalmologywasconsulted.Atfirstconsultation,best-correctedvisualacuity(BCVA)intherighteyewas0.1,lefteyewas0.6andtherewerecellsintheposteriorvitreous.Macularretinalhemorrhages,edemawithsoftexudatesandopticdiscswellingwereobservedinbotheyes.Centralscotomawaspresent,so0.1%betamethasoneeyedropswereinitiated.BCVAimprovedafter1week,righteye0.9,lefteye1.2.Macularhemorrhages,edemawithsoftexudatesandopticdiscswellingdisappeared.Alargenumberofpatientshavehaddengue-relatedoculardiseasethatresolvedspontaneouslywithouttreatment,andwithgoodvisualprognosis.Althoughthemechanismisunclear,immunologicphenomenaareinvolved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):714〜718,2016〕Keywords:デング熱,黄斑症,網膜出血,黄斑浮腫,視神経乳頭腫脹,国内感染.denguefever,maculopathy,retinalhemorrhages,macularedema,opticdiscswelling,domesticinfection.はじめにデング熱はデングウイルスが蚊を媒介して人へ感染する急性熱性感染症である.アジア,中東,アフリカ,中南米,オセアニア地域で流行しており,年間1億人近くの患者が発生していると推定される1).とくに近年では東南アジアや中南米で患者の増加が顕著となっている.こうした流行地域で,日本からの渡航者がデングウイルスに感染するケースも多い2,3).2014年の夏季には輸入症例により持ち込まれたと考えられるウイルスにより162例の国内感染が発生した3).国内感染例の大部分は東京都代々木公園周辺への訪問歴があり,同公園周辺の蚊に刺咬されたことが原因と推定された.デング熱は発熱,頭痛,発疹などが主症状であるが,まれに黄斑症,ぶどう膜炎などの眼合併症により視力低下をきたすことがある4).デング熱の眼合併症は海外での報告は多いが,国内での報告は輸入症例での報告が散見されるのみであった.今回国内感染でのデング熱に黄斑症を合併した症例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,男性.初診日:2014年9月12日.主訴:霧視,視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:2014年8月30日に東京都代々木公園に行き蚊に刺咬され,その6日後に40℃の発熱,手足の発赤,咽頭痛が出現した.その後,9月12日に近医内科にてデング熱と診断された.すでに解熱していたが,肝機能障害と血小板減少を認めたため町田市民病院(以下,当院)の内科へ紹介受診となった.同時に霧視,視力低下を自覚したため眼科も受診した.初診時内科所見:体温36.7℃,血圧102/69mmHg,脈拍86回/分.血液検査所見:WBC4,300/μl,Plt6.3万/μl,CRP0.44mg/dl,T-Bil0.9mg/dl,GOT104IU/l,GPT111IU/l,ALP110IU/l,LDH532IU/l,BUN15mg/dl,Cr0.7mg/dl胸部X線撮影検査:異常所見なし.心電図検査:異常所見なし.眼科初診時所見:視力は右眼(0.1×sph−3.75D),左眼(0.6×sph−3.25D)であった.眼圧は右眼8mmHg,左眼8mmHg.結膜充血,毛様充血はなく,前房蓄膿,角膜後面沈着物や前房細胞も認めなかった.虹彩,隅角に結節は認めなかった.硝子体内には軽度の炎症細胞を認めたが,硝子体混濁はみられなかった.両眼の眼底には黄斑部の出血,軟性白斑を伴う網膜浮腫,視神経乳頭腫脹を認めた(図1).黄斑部の光干渉断層計(OCT)所見では両眼網膜外層の囊胞様浮腫,左眼では中心窩の部分にわずかに漿液性網膜剝離を伴っていた(図2).アーケード外の網膜には出血,白斑,血管炎,滲出斑はみられなかった.初診時よりデング熱の診断がされており,他の感染性,非感染性のぶどう膜炎を積極的に疑う眼所見がなかったため,また速やかに自然軽快したため,各種血清抗体測定(梅毒反応,トキソプラズマ抗体,サイトメガロウイルス抗体,HTLV-1抗体,単純ヘルペス,水痘帯状疱疹ウイルス抗体,Bartonellahenselae抗体),アンギオテンシン変換酵素,血清リゾチーム,ツベルクリン反応,髄液検査,気管支鏡検査などは施行しなかった.臨床経過:当院受診時はすでに解熱されており肝機能障害,血小板減少をきたしていた.デング熱ウイルスによる眼底の血管障害をきたしていると考えられたため,0.1%ベタメタゾン点眼液を両眼1日4回開始,治療開始4日目に矯正視力は右眼0.5,左眼1.0と改善,血小板減少も正常値に改善した.眼底所見も出血および黄斑浮腫の改善を認め(図3),OCTでも,鼻側の網膜外層に一部浮腫が残存していたが改善を認めた(図4).Goldmann視野検査では両眼に中心比較暗点を認めた(図5).治療開始1週間後には矯正視力は右眼0.9,左眼1.2とさらに改善し,網膜出血,軟性白斑も右眼はほぼ消失,左眼はわずかに残存する程度であった(図6).OCTはellipsoidzoneが不整だが,鼻側の浮腫も改善を認めた(図7).0.1%ベタメタゾン点眼は終了としたところ,その後の受診は自己中断した.II考按デング熱は蚊(ネッタイシマカAedesaegypti,ヒトスジシマカAedesalbopictus)によって媒介されるデングウイルスの感染症である.発生地域は熱帯・亜熱帯地域,とくに東南アジア,南アジア,中南米,カリブ海諸国であるが,アフリカ・オーストラリア・中国・台湾においても発生している.全世界では年間約1億人がデング熱を発症している1).日本における媒介蚊はヒトスジシマカである.日本におけるヒトスジシマカの活動はおもに5月中旬〜10月下旬にみられ,冬季に成虫は存在しない.ヒトスジシマカの発生数は国内全域で非常に多く,本州から四国,九州,沖縄,小笠原諸島まで広く分布していることが確認されている2).海外渡航で感染し国内で発症する例(輸入症例)が増加しつつあり,2014年の夏季には本症例のように輸入症例により都内の代々木公園をはじめとする公園にウイルスが持ち込まれ,国内流行が発生した.感染症法に基づく発生動向調査に報告された2014年のデング熱症例は計341例,うち国内感染例162例,国外感染例179例であった3).デングウイルスはフラビウイルス科に属し,4種の血清型が存在する.報告によりさまざまであるが,約50〜80%が不顕性感染であると考えられている5,6).感染後2〜15日の潜伏期間の後に,突然の高熱で発症し,頭痛,眼痛,顔面紅潮,結膜充血,全身の筋肉痛,骨関節痛,全身倦怠感などの症状が起こる.発熱は二峰性であることが多く,発病後2〜7日で解熱する.解熱時期に発疹が出現することが多く,胸部,体幹に始まり四肢や顔面に広がることもある.症状は1週間程度で回復するが,ごくまれに血漿漏出に伴うショックと出血傾向をおもな症状とするデング出血熱という致死的病態が出現することがある4,7,8).デング熱の眼合併症は発症から7日頃に血小板減少とともに出現し,眼症状は眼痛,視力低下,霧視,視野障害,飛蚊症,変視症,小視症などさまざまである.眼所見は結膜下出血,虹彩炎,ぶどう膜炎,網膜出血,網膜細静脈炎,黄斑浮腫,視神経浮腫などさまざまな所見を呈する6〜8).今回の症例では施行していないが,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では網膜血管炎に一致した蛍光漏出がみられることが報告されている4,7,8).また,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査で脈絡膜血管の過蛍光・漏出がみられることがあるが,可逆性である4,7,8).OCTでは本症例のように網膜外層の浮腫,漿液性網膜剝離を認めることが多い4).黄斑部に網膜色素上皮から隆起する黄橙色病変が出現することもあり,その部分に一致した網膜外層の肥厚化がみられる9).また,視野検査では,中心暗点を呈する4,7).多くが自然軽快し,視力予後も良好である.治療が必要な場合はステロイドの点眼やTenon囊下注射などの局所投与,重症例ではステロイド内服やパルス療法の全身投与,さらに免疫グロブリン投与を行う報告もある8).本症例は0.1%ベタメタゾン点眼液を開始したところ,4日という短期間で眼所見の急速な改善を認めた.ステロイド点眼が著効したのではなく,自然経過で改善した可能性もあると考えられる.眼合併症の発生頻度,機序は不明だが,免疫介在性の反応と推測されている7,8).発生頻度の高いシンガポールの報告では,2005年に流行した血清1型のデングウイルスにおいて,黄斑症は10%の割合で出現したにもかかわらず,2007年に流行した血清2型では眼合併症は認めなかった8).2014年夏季に流行した国内例はすべてが血清1型であった10).このことからウイルスの血清型によって,眼合併症が出現する頻度が変わるものと予測される.2014年夏季に流行したデング熱は,約70年ぶりに確認されたデング熱の国内感染であった11).これまでデング熱による眼合併症の国内報告は輸入症例によるもののみであり,国内感染での黄斑症の報告は,本例が国内初の報告であると思われる12〜14).世界の温暖化や社会のグローバル化により今後もデング熱の国内感染は増加する可能性があり,眼合併症についての理解を深めておく必要がある.また,まれに重症化する例もあるため,診断や加療において迅速な対応が望まれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LohBK,BacsalK,CheeSPetal:Foveolitisassociatedwithdenguefever:acaseseries.Opthalmologica222:317-320,20082)国立感染症研究所:デング熱・チングニア熱の診療ガイドライン2015年3)国立感染症研究所:〈特集〉デング熱・デング出血熱2011〜2014年.IASR36:33-34,20154)KhairallahM,JellitiB,JenzeriS:Emergentinfectiousuveitis.MiddleEastAfrJOphthalmol16:225-238,20095)KnipeDM,HowleyPM:FieldsVirology.6thedition.WoltersKliwer,Riverwoods,20136)TienNTK,LuxemburgerC,ToanNTetal:AprospectivecohortstudyofdengueinfectionschoolchildreninLongXuyen,Vietnam.TransRSociTropMedHyg104:592-600,20107)NdAW,TeohSC:Dengueeyedisease.SurvOphthalmol60:106-114,20158)YipVC,SanjayS,KohYT:Ophthalmiccomplicationsofdenguefever:asystematicreview.OphthalmolTher1:2,20129)Gea-BanaclocheJ,JohnsonRT,BagicAetal:WestNilevirus:Pathogenesisandtherapeuticoptions.AnnInternMed140:545-553,200410)国立感染症研究所:デング熱報告例に関する記述疫学.http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/693-disease-based/ta/dengue/idsc/iasr-news/5410-pr4211.html11)三浦邦治,川田真幹,柿本年春ほか:約70年ぶりに確認された国内感染デング熱の第1例に関する報告.IASR36:35-37,201512)永田洋一:デング熱にみられた眼病変.眼臨101:483-486,200713)鹿内真美子,八代成子,武田憲夫ほか:眼病変を合併したデング出血熱の2例.眼紀55:697-701,200414)鵜飼環栄,伊藤博隆,杉田公子ほか:眼底出血を伴うデング熱の1例.眼臨93:1285,1999〔別刷請求先〕東友馨:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:YukaHigashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPAN図1初診時眼底写真両眼の眼底に黄斑部の出血,軟性白斑を伴う網膜浮腫,視神経乳頭腫脹を認める.図2初診時黄斑部の光干渉断層計(OCT)所見両眼の黄斑部に網膜外層の浮腫,左眼ではわずかに漿液性網膜剝離を認める.図3治療開始4日目の眼底写真出血および黄斑浮腫の改善を認める.図4治療開始4日目のOCT左眼鼻側の網膜外層に一部浮腫が残存していたが,改善がみられる.図5Goldmann視野検査両眼に中心比較暗点を認める.図6治療開始1週間後の眼底写真右眼の網膜出血,軟性白斑はほぼ消失,左眼はわずかに残存する程度である.図7治療開始1週間後のOCT左眼のellipsoidzoneが不整だが,鼻側の浮腫は改善を認める.791140-181あ0/0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(91)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016715716あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(92)(93)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016717718あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(94)

トリアムシノロンアセトニドTenon囊下注射が有効であった乳頭血管炎の1例

2015年1月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(1):149.153,2015cトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が有効であった乳頭血管炎の1例荒木美穂中尾新太郎小椋有貴宮崎勝徳吉川洋石橋達朗九州大学大学院医学研究院眼科学分野ACaseofOpticDiscVasculitisandAssociatedMacularEdemawithPosteriorSub-Tenon’sTriamcinoloneInjectionMihoAraki,ShintaroNakao,YukiKomuku,MasanoriMiyazaki,HiroshiYoshikawaandTatsuroIshibashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity今回筆者らは,中年男性に発症した乳頭血管炎にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行し,良好な経過を示した1症例を経験したので報告する.症例はB型肝炎ウイルス既感染の47歳,男性,片眼視力低下を自覚し当院紹介受診となった患者である.境界不明瞭で著明に発赤・腫脹した乳頭,網膜静脈の怒張・蛇行,乳頭周囲から赤道部にかけての放射状・斑点状出血を認め,乳頭血管炎と診断した.また軽度の黄斑浮腫を伴っていた.発症後1週間でトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行,投与後1週間で黄斑浮腫の消失を認め,良好な視力が得られた.また,投与後1カ月で乳頭浮腫の著明な改善を認めた.今回の症例から,ステロイド全身投与が危惧される乳頭血管炎にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射は有効であることが考えられた.Wepresentacaseofopticdiscvasculitisandassociatedmacularedemawithaposteriorsub-Tenon’striamcinoloneinjection.A47-year-oldmanwithchronichepatitisBvirus(HBV)infectionnoticeddecreasedvisioninhisrighteyeandwasreferredfromthecommunityophthalmologistbecausehissymptomsdidnotimprove.Hehadahyperemicandswellingdiscwithmacularedema,andwasdiagnosedwithopticdiscvasculitis.ToavoidtheriskofacuteexacerbationsofchronicHBVinfection,aposteriorsub-Tenon’striamcinoloneinjection─butnosystemicsteroid─wasadministered.At1weekaftertheinjection,OCTshoweddisappearanceofmacularedema.Furthermore,at1monthaftertheinjection,opticdiscfindinghadnearlynormalizedandsymptomshaddisappeared.Sub-Tenon’striamcinoloneinjectioncouldbeatherapeuticchoiceforopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):149.153,2015〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニドテノン.下注射,B型肝炎,黄斑浮腫.opticdiscvasculitis,sub-Tenon’striamcinoloneinjection,chronichepatitisB,macularedema.はじめに乳頭血管炎は一般的に健康な若年者の片眼に発症し,視力予後がおおむね良好な疾患である.標準的治療は経過観察またはステロイドの全身投与が行われているが,初期治療としてトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を行った報告はほとんどない.また,中年以降の発症は稀であるが,45歳以上の症例では病期が長期化することが報告されている1).今回,筆者らは47歳の中年男性に発症した本症にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を施行し,著効した症例を経験したので報告する.I症例患者:47歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:2012年10月23日頃から右眼の視力低下を自覚し,10月24日に近医眼科を受診した.右眼の視神経炎が疑われ,10月26日に精査加療目的にて当科入院となった.〔別刷請求先〕中尾新太郎:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:ShintaroNakao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(149)149 図1初診時の眼底写真乳頭の発赤・腫脹(矢印),網膜静脈の怒張・蛇行(矢頭),放射状の散在する出血を認めた.図2初診時の蛍光眼底造影写真乳頭および周囲の毛細血管の拡張や血管からの色素漏出(矢印)がみられた(左:右眼早期,中央:右眼後期,右:左眼後期).既往歴:9歳時虫垂炎に対して手術および輸血歴あり.B型肝炎ウイルス既感染.家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.4×sph.0.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼0.4(1.5×sph.0.50D(cyl.1.00DAx90°),眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHgであった.眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分であり,相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.フリッカー値は右眼34Hz,左眼40Hz.前眼部・中間透光体に異常はなかった.眼底検査で右眼は,境界不明瞭で著明に発赤・腫脹した乳頭を認め,網膜静脈は怒張・蛇行し,乳頭周囲から赤道部にかけて放射状・斑点状の出血が散在していた.さらに軽度の黄斑浮腫が認められた(図1).左眼に異常は認めなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)で右眼は,造影後期にかけて視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出があり,黄斑部には色素の貯留を認めたが,網膜血管床の閉塞などの所見は認められなかった(図2).光干渉断層計(OCT)において右眼は,黄斑に.胞様,漿液性黄斑浮腫および乳頭の腫脹を認めた(図3).Goldmann視野検査(GP)で右眼におけるMariotte盲点の拡大は軽度であり,中心に比較暗点を認めた(図4).頭部磁気共鳴画像(MRI)検査では,左右の視神経に明らかな異常は認められなかった.初診時の血液検査所見は,抗HBc(B型肝炎コア)抗体50.6c.o.lと上昇を認めた以外には,血沈,血液像および生化学検査などに異常は認めなかった.年齢以外の臨床像を満たし,右眼視神経乳頭血管炎と診断した.副腎皮質ステロイド薬の全身投与を検討したが,B型肝炎ウイルス既感染であり,肝炎の増悪が危惧されたため,患者本人の希望によりステロイド薬の局所投与を選択した.11月1日右眼にトリアムシノロンアセトニド(40mg)150あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(150) 右眼左眼乳頭黄斑図3初診時の光干渉断層写真黄斑は.胞様,漿液性黄斑浮腫を認めた(矢印).視神経乳頭は腫脹を認めた.左右図4初診時のGoldmann視野Mariotte盲点の軽度拡大と中心に比較暗点を認めた.Tenon.下注射を施行した.検眼鏡的には治療後2カ月で乳頭の腫脹,発赤および網膜静脈の怒張蛇行は消失を認めた(図5).FAでは1カ月で乳頭上毛細血管からの色素漏出は著明に減少を認めた.OCTでは治療後1週間で黄斑浮腫の消失を認め,右眼矯正視力(1.0)と良好な視力が得られた.乳頭浮腫も著明な減少を認めた.GPでは治療開始後1週間で,中心の比較暗点は消失(151)した.II考察乳頭血管炎は,主として健康な若年者に発症する乳頭血管の炎症を病態の主座とする疾患である.1972年にHayrehがopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,検眼鏡所見より乳頭腫脹が強くみられる乳頭浮腫型(type1)と,網膜中あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015151 1週間後1カ月後2カ月後図5治療後の眼底および蛍光眼底造影写真検眼鏡的には治療後2カ月で乳頭の発赤・腫脹,網膜静脈の怒張・蛇行は消失を認めた.蛍光眼底造影検査では,1カ月で乳頭上毛細血管からの色素漏出は著明に減少を認めた.心静脈閉塞症様所見が全面にみられる中心静脈閉塞症型(type2)に分類される2).乳頭血管炎はいまだその発生機序が解明されていないが,病理組織像からの検討でtype1は篩板より前部での毛様体血管の軽度の非特異的炎症によるもので,type2は乳頭部もしくは篩板より後部での中心静脈の炎症ではないかと推測されている.また,type1は黄斑浮腫を合併しないのに対して,type2はときに黄斑浮腫を合併することが知られている.今回筆者らが経験した症例はOCTの結果や臨床所見からも中心静脈閉塞症型type2と考えられた.乳頭血管炎の加療としては副腎皮質ステロイド薬の全身投与2.4)や,予後良好であることから無治療で経過をみている症例も多い.富永らは乳頭血管炎症例に対してステロイドパルス療法を行い,有効であることを報告している5).また,乳頭血管炎に対してステロイド全身投与(プレドニン錠30mg)を開始したが,視神経乳頭の所見の改善がみられないため,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射を併用したところ速やかに視神経乳頭の発赤腫脹が消退したとの報告もある6).しかし,乳頭血管炎に対して初期治療からス152あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015テロイド局所投与を行った報告は数少ない7).最近,海外からトリアムシノロンアセトニド硝子体内投与が,乳頭血管炎とそれに伴う黄斑浮腫に効果があったとの報告がある7)が,わが国ではトリアムシノロンアセトニド投与は硝子体内投与よりTenon.下注射が一般的である.また,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の効果は硝子体内注射と比べて黄斑浮腫改善率と視力予後に有意差がないことが報告されている8).本症例における視機能低下は黄斑浮腫によるものが考えられたが,黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が著効し,それに伴い視機能の改善を得たものと考えられた.乳頭血管炎は10.30歳代の若年者の罹患がほとんどであるが,本症例は47歳と中年であり比較的稀な症例であるといえる.乳頭血管炎の治療としては副腎皮質ステロイド薬の全身投与2.4)や予後良好であることから無治療で経過をみている症例も多いが,Hayrehらは,45歳以上で病期が長くなる傾向を報告1)している.本症例では年齢が45歳以上であることから積極的加療を行った.トリアムシノロンアセトニ(152) ドTenon.下注射を施行し,投与後2カ月で乳頭浮腫の消失を認めた.45歳以上の罹患者では,2カ月で乳頭浮腫の消失が得られるのは30%程度であり,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の効果による病期短縮の可能性が考えられた.乳頭血管炎の病態は,上述のようにtype1,type2ともに局所での血管壁の炎症であり,局所でのサイトカイン産生による乳頭浮腫,黄斑浮腫などの臨床病態が考えられる.また,乳頭血管炎は健常者に発症することが知られ,全身性炎症疾患が関与したという症例は少ない.このことからも乳頭部組織に高濃度のステロイドが到達するトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が有効であると考えられる.B型肝炎ウイルス保有者の約90%は肝障害のない,いわゆる無症候性キャリアであり肝機能検査も正常であるが,ステロイドの全身投与によりウイルス量が増加し,肝機能が急激に悪化することが知られている9).また,B型肝炎の急性増悪では死亡例も報告されており9),今回の症例でもB型肝炎ウイルス既感染患者であるため,ステロイド全身投与による肝炎の急性増悪が危惧された.トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射(40mg)の投与における最高血中濃度は30ng/mlとの報告10)があり,全身投与の約20分の1程度と考えられる.このようなステロイド全身投与が困難な症例では,副作用の比較的少ないトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射が乳頭血管炎の治療選択肢の一つとなると考えられた.本症例の病態として血管の炎症により乳頭浮腫をきたし,炎症が網膜中心静脈に波及することで一過性の網膜静脈閉塞が起こり,二次的に黄斑浮腫をきたしたと考えられた.この二つの病態に対するトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射の抗炎症作用により病態が改善したと考えられた.文献1)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchExpOphthalmol238:647-658,20002)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19723)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.臨眼99:389-391,20054)小暮奈津子,阿部真智子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8例について.臨眼71:1236-1241,19775)富永美果,菅澤淳:ステロイドパルス療法を施行した乳頭血管炎の1例.眼臨88:1539-1541,19946)田片将士,岡本紀夫,村上尊ほか:副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎.あたらしい眼科26:423-426,20097)ChangYC,WuYC:Intravitrealtriamcinoloneacetonideforthemanagementofpapollophebitisandassociatedmacularedema.IntOphthalmol28:291-296,20088)YalcinbayirO,GeliskenO,KaderliBetal:Intravitrealversussub-tenonposteriortriamcinoloneinjectioninbilateraldiffusediabeticmacularedema.Ophthalmologica225:222-227,20119)PerrilloRP:AcuteflaresinchronichepatitisB:Thenaturalandunnaturalhistoryofanimmunologicallymediatedliverdisease.Gastroenterology120:1009-1022,200110)KovacsK,WagleyS,QuirkMetal:Pharmacokineticstudyofvitreousandserumconcentrationsoftriamcinoloneacetonideafterposteriorsub-tenon’sinjection.AmOphthalmol153:939-948,2012***(153)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015153

P-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):239.243,2012cP-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例中安絵理横山利幸順天堂大学医学部附属練馬病院眼科ACaseofNecrotizingScleritiswithPositiveP-ANCAEriNakayasuandToshiyukiYokoyamaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospitalP-ANCA(抗好中球細胞質抗体)が高値を示した壊死性強膜炎の1例を経験した.症例は71歳,女性,左眼の強膜に充血と無血管領域の壊死性病変を観察した.P-ANCAは63EUと高値を示した.ステロイドの局所投与を試みたが,黄斑浮腫,網膜血管炎,硝子体混濁が併発したためステロイドの内服投与を追加したところ,強膜所見,後眼部所見ともに改善しP-ANCA値も正常化した.Weobservedacaseofnecrotizingscleritiswithpositiveperinuclearanti-neutrophilcytoplasmicantibody(P-ANCA).Thepatient,a71-year-oldfemale,hadhyperemiaandanonvascularnecrotizinglesionatthesclerainherlefteye.ThetiterofP-ANCArevealed63EU.Despitetreatmentwithtopicalsteroid,macularedema,retinalvasculitisandvitreousopacitywerecomplications.Thepatientthereforeunderwentoraladministrationofsteroid,whichimprovedthescleritisandposterioreyelesions,andnormalizedtheP-ANCAtiter.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):239.243,2012〕Keywords:抗好中球細胞質抗体,壊死性強膜炎,黄斑浮腫,ANCA関連血管炎.ANCA(anti-neutrophilcyto-plasmicantibody),necrotizingscleritis,macularedema,ANCAassociatedvasculitis.はじめに非感染性強膜炎の発症には,免疫複合体による血管炎とそれに伴う強膜組織の破壊壊死を主体とする自己免疫機序の関与が示唆されており,非感染性強膜炎患者の約半数に膠原病,全身的血管炎性疾患の合併がある.関節リウマチ,Wegener肉芽腫症,顕微鏡的多発性血管炎,全身性エリテマトーデスなどはその代表的疾患である.一方,1982年Daviesら1)によって発見された抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)が腎や肺の細小血管,毛細血管の壊死性および肉芽腫性血管炎の原因抗体であることが見出され,これらの疾患はANCA関連血管炎症候群と総称されている2.4).ANCAは間接蛍光抗体法で好中球細胞質にびまん性に染色されるcytoplasmicANCA(C-ANCA)と核周辺のみに染色されるperinuclearANCA(P-ANCA)に分類される.C-ANCAの対応抗原はproteinase3であり,P-ANCAの対応抗原の大部分はmyeloperoxidaseであることから,C-ANCAをPR3-ANCA,P-ANCAをMPO-ANCAとよぶこともある5.7).今回筆者らは,全身性血管炎の合併は明らかではないもののP-ANCAが高値を示した強膜炎に網膜血管炎,黄斑浮腫を併発した比較的まれな1例を経験したので報告する.I症例患者:71歳,女性.現病歴:前医にて平成20年1月左眼,同年2月右眼の白内障手術を施行された.術後の経過は良好であったが,平成21年3月頃左眼に充血を認め,左眼上強膜炎の診断にてリン酸ベタメタゾン点眼を1日4回,4カ月間処方された.しかし,改善を認めないため精査加療目的にて平成22年7月7日当院紹介受診となった.既往歴:高血圧.家族歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕中安絵理:〒177-8521東京都練馬区高野台3-1-10順天堂大学医学部附属練馬病院眼科Reprintrequests:EriNakayasu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityNerimaHospital,3-1-10Takanodai,Nerima-ku,Tokyo117-8521,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(91)239初診時検査所見:視力は右眼0.5(0.8×IOL(+1.00D(cyl.1.75DAx90°).左眼0.3(0.7×IOL(cyl.2.75DAx95°).眼圧は右眼14mmHg,左眼22mmHg.前眼部は左眼の強膜上方に深在性強膜血管の充血と浮腫を認めた.鼻側には,白色無血管領域と思われる所見を認めた(図1).また,前房内に軽度の炎症細胞を認めたが,眼底には黄斑を含め,特記すべき所見は認めなかった.眼位,眼球運動にも異常は認めなかった.全身的には末梢血液検査,生化学検査ともに異常は認めなかったが,赤沈29mm/hr(基準値20mm/hr以下)および抗核抗体80倍(基準値40倍未満)の軽度亢進を認めた.さらにP-ANCAが63EU(基準値20EU未満)図1初診時左眼前眼部写真上方の強膜血管の充血,結膜浮腫,鼻側に無血管領域を認める.と上昇していた.一方,C-ANCAは正常であった.尿検査では潜血(1+)であった.膠原病内科にANCA関連血管炎の検査を依頼したところ,明らかな内科的所見は認めなかったので,糸球体腎炎などの発症に十分考慮しながら,2カ月ごとの定期観察となった.経過:当院初診時7月7日より左眼前部壊死性強膜炎の診断のもと,リン酸ベタメタゾン点眼を左眼6回/日に増量した.さらにブロムフェナクナトリウム点眼を左眼2回/日追加した.約1週間後の7月16日,虹彩炎の他,硝子体混濁,網膜血管炎,黄斑浮腫を発症(図2)し,左眼矯正視力(0.4)に低下した.フルオレセイン蛍光眼底造影では造影後期に黄斑部の過蛍光と網膜血管からの漏出を認めた(図3).コンピュータ断層撮影(CT)では後部強膜の肥厚は認めず,強膜厚に左右差もなかった.網膜血管炎および黄斑浮腫に対し7月26日トリアムシノロンアセトニド20mgのTenon.下注射を施行したが,改善は認められなかった.また,強膜炎に対し初診時よりリン酸ベタメタゾン点眼とブロムフェナクナトリウム点眼を投与するも改善なく8月9日よりシクロスポリン点眼を追加した.しかし,依然として改善傾向は認めなかった.そこで,9月17日より約1カ月間プレドニゾロン1日30mgの内服投与をしたところ,強膜の一部は菲薄化したものの強膜の充血所見は著明な改善を認めた.10月22日よりプレドニゾロンを5mg/週で漸減し12月3日中止とした.その後はリン酸ベタメタゾン点眼とブロムフェナクナトリウム点眼のみで強膜の充血はさらに改善をし,黄斑浮腫も改善傾向を認めた(図4,5).これらの所見,症状の改図27月16日左眼光干渉断層計(OCT)写真黄斑浮腫を発症.240あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(92)図37月16日フルオレセイン蛍光眼底造影造影後期に黄斑部の過蛍光と網膜血管からの漏出を認めた.善に伴いP-ANCAも10単位未満と正常化した.その後,強膜炎,虹彩炎,網膜血管炎,黄斑浮腫などの再発は認めず,ブロムフェナクナトリウム点眼も中止し,リン酸ベタメタゾン点眼1日4回のみで経過良好である.また,平成23年2月に後発白内障に対し両眼YAGレーザー後.切開を施行し,左眼矯正視力(0.7)と改善されている.II考察ANCA関連血管炎について,C-ANCAはWegener肉芽腫に特異性が高く,P-ANCAは壊死性半月体形成腎炎,顕図412月24日左眼前眼部写真プレドニゾロン中止約3週間後強膜の充血は改善を認めた.微鏡的多発性動脈炎との関連性が高いと報告されている5).しかし,Matsuo8)はP-ANCA陽性で眼疾患および全身疾患をともに有する自験例4例および過去の文献例27例の合計31症例についての報告でP-ANCAとともにC-ANCAも陽性の重複例1例,Wegener肉芽腫1例を示している.また,Laniら9)はC-ANCA陽性患者7例中5例がWegener肉芽腫と診断されていたが,P-ANCA陽性患者7例中にも2例のWegener肉芽腫症例があったと報告している.以上のようにC-ANCA,P-ANCAともに陽性となる重複例がみられる点,全身疾患との対応が必ずしも100%ではなく,特にWegener肉芽腫はC-ANCAのみならずP-ANCA陽性例に図512月24日左眼光干渉断層計(OCT)写真黄斑の視細胞内節外節接合部(IS/OS).外顆粒層にかけてやや肥厚しているものの,黄斑浮腫は改善傾向を認めた.(93)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012241黄斑厚(μm)6784330.7視力(左眼)2%シクロスポリン点眼(回/day)0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼(回/day)プレドニゾロン(mg/day)0.1%リン酸ベタメタゾン点眼(回/day)も認められる点などに留意する必要があると考えられた.P-ANCA陽性患者の眼科的合併症について,これまで結膜炎,上強膜炎,強膜炎,網膜静脈閉塞症,周辺部角膜潰瘍,視神経症,乳頭血管炎,後部強膜炎などの症例報告10)がある.Matsuo8)は31症例のP-ANCA関連血管炎のうち強膜炎は6例,視神経疾患は7例,網膜疾患は7例であったと報告している.また,奥芝ら11)はMPO(P)-ANCA関連血管炎の8症例の眼所見を検討し,4例に網膜綿花状白斑,5例に結膜炎,1例に上強膜炎を認めたとし,強膜炎は1例も確認していない.これらの報告からP-ANCA陽性患者の眼合併症として強膜炎は少なく後眼部疾患が比較的多いと考えられた.なお,C-ANCAとの関連の強いWegener肉芽腫の眼合併症では強膜炎が最も多く16.38%と報告されている12,13).本症例でも壊死性強膜炎の加療中に硝子体混濁,網膜血管炎,黄斑浮腫の後眼部所見を観察した.CT検査で後部強膜の肥厚はみられず後部強膜炎は否定的であり,これらの所見は前眼部壊死性強膜炎に併発した網膜血管炎による後眼部合併症と推測された.強膜炎のタイプについて,Laniら9)はP-ANCA陽性例の強膜炎は7例全例前眼部びまん性強膜炎であったとしている.長田らの報告14)したP-ANCA関連腎炎に併発した症例も壊死性ではなくびまん性強膜炎と思われる.本症例のような壊死性強膜炎の合併はこれまでの報告には見当たらず,まれなタイプと思われる.しかし,ANCA関連血管炎の発症機序を考えると壊死性タイプの強膜炎が合併することは十分に考えられることであり,今後症例を重ねて検討すべきと思われた.1992年Stankusら15)が,また1993年Dolmanら16)が抗甲状腺薬であるプロピオチルウラシル(PTU)の副作用としてP-ANCA関連血管炎を報告している.その後,同じく抗371360↑0.70.6後.切開術図6全体の治療経過プレドニゾロン内服投与後,視力も黄斑浮腫も改善している.TAsubT:トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射.甲状腺薬であるチアマゾール(MMI)でもP-ANCA関連血管炎を発症することが報告され,わが国においても現在までにPTUおよびMMIによると思われるP-ANCA関連血管炎症例が多数報告されている.筆者らの症例では,既往症として高血圧があり降圧剤を内服していたものの甲状腺疾患はなく,上記のような薬剤の服用歴はなかった.しかし,P-ANCA関連血管炎の原因を考えるうえで薬剤の服用歴の聴取も重要と思われた.また,本症例では,強膜炎発症の約1年前に両眼の白内障手術を施行されている.眼科手術後に発症する壊死性強膜炎(surgicalinducednecrotizingsclero-keratitis:SINS)の可能性も示唆される.SINSは手術翌日から数十年後に発症し,何らかの自己免疫疾患に伴うことが多いとされている17,18).SINSの発症原因としてANCAが関与していることも考えられ,今後検討する必要があると思われた.本症例では,高齢であること,全身合併症が認められなかったことから当初ステロイド薬,非ステロイド性消炎薬および免疫抑制薬(シクロスポリン)の局所投与を施行した.しかし,十分な効果が得られず,プレドニゾロン30mgから漸減内服投与を試みたところ強膜炎所見,黄斑浮腫ともに軽快し,視力も改善した.P-ANCAも正常に復した.全身的なANCA関連血管炎を発症している症例に対しては生命予後の悪い疾患もあり,ステロイド薬,免疫抑制薬などの長期にわたる全身投与が必須8,9,11)である.しかし,本症例のように全身合併症の発症していない症例に対してもANCA陽性である場合には,早期からステロイド薬などの全身投与を試みるべきであった.近年,ANCA関連血管炎に伴う眼科疾患の報告は,疾患概念の普及により増加している.しかし,その多くは全身疾患を伴うものであり,本症例のように全身疾患に先立って眼242あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(94)科疾患が最初に発症した症例は少ない.強膜炎を診断した場合,その原因としてANCA関連血管炎の可能性を考え,早期にANCAを測定すべきと思われた.文献1)DaviesDJ,MoranJE,NiallJFetal:Segmentalnecrotis-ingglomerulonephritiswithantineutrophilantibody:Pos-siblearbovirusaetiology.BrMedJ285:606,19822)FalkRJ,JennetteJC:ANCAsmall-vesselvasculitis.JAmSocNephrol17:254-256,19973)吉田耕治:ANCA関連血管炎症候群.リウマチ科19:575-586,19984)長沢俊彦:ANCA関連血管炎.病理と臨床16:262-266,19985)有村義宏,長沢俊彦:抗好中球細胞質抗体.臨床病理41:866-875,19936)Ho.manGS,SpecksU:Antineutrophilcytoplasmicanti-bodies.ArthritisRheum41:1521-1537,19987)SavigeJ,GillisD,BensonEetal:Internationalconsensusstatementontestingandreportingofantineutrophilcyto-plasmicantibodies(ANCA).AmJClinPathol111:507-513,19998)MatsuoT:Eyemanifestationsinpatientswithperinucle-arantineutrophilcytoplasmicantibody-associatedvascu-litis:Caseseriesandliteraturerevieu.JpnJOphthalmol51:131-138,20079)LaniTH,LyndellLL,BrianVetal:Antineutrophilcyto-plasmicantibody-associatedactivescleritis.ArchOphthal-mol126:651-655,200810)月花環,渡辺朗,神前賢一ほか:脈絡膜新生血管が認められたP-ANCA関連血管炎に併発した後部強膜炎の一例.眼臨100:688-691,200611)奥芝詩子,竹田宗泰,阿部法夫ほか:ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体関連血管炎に伴う眼所見の検討.眼紀51:138-142,200012)FauciAS,HaynesBF,KatzPetal:Wegener’sgranulo-matosis:Prospectiveclinicalandtherapeuticexperiencewith85paitientsfor21years.AnnInternMed98:76-85,198313)ThorneJE,JabsDA:Ocularmanifestationsofvasculitis.RheumDisClinNorthAm27:761-769,200114)長田敦,篠田和男,小林顕ほか:MPO-ANCA関連腎炎に併発した強膜炎の一例.眼臨98:878-881,200415)StankusSJ,JohnsonNT:Propylthiouracil-inducedhyper-sensitivityvasculitispresentingasrespiratoryfailure.Chest102:1595-1596,199216)DolmanKM,GansRO,VervantTJetal:Vasculitisandantineutrophilcytoplasmicautoantibodiesassociatedwithpropylthiouraciltherapy.Lancet342:651-652,199317)O’DonoghueEO,LightmanS,TuftSetal:Surgicallyinducednecrotizingsclerokeratitis(SINS)-precipitatingfactorandresponsetotreatment.BrJOphthalmol76:17-21,199218)SainzdelaMazaM,FosterCS:Necrotizingscleritisafterocularsurgery:aclinicopathologicstudy.Ophthalmology98:1720-1726,1991***(95)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012243