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黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入 ─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─

2011年1月31日 月曜日

108(10あ8)たらしい眼科Vol.28,No.1,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):108.112,2011cはじめに糖尿病網膜症(DR)や網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術1,2),網膜光凝固術3),不溶性副腎皮質ホルモン懸濁液であるトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注入3)またはTenon.下注入2)などが行われてきた.近年は抗血管内皮増殖因子(VEGF)〔別刷請求先〕坂本英之:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:HideyukiSakamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─坂本英之山本香織堀貞夫東京女子医科大学眼科学教室IntravitrealBevacizumabforTreatmentofMacularEdema:DiabeticMacularEdemaandBranchRetinalVeinOcclusionHideyukiSakamoto,KaoriYamamotoandSadaoHoriDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症(DR)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対するベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果を検討した.対象および方法:対象は経過観察期間中における最終治療がIVBであり,その後6カ月間黄斑浮腫の再発がなく追加治療をせずに経過観察できた32眼(DR18眼,BRVO14眼)であった.Logarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕,光干渉断層計で測定したfovealthickness(FT),totalmacularvolume(TMV)を術前と術後6カ月で比較した.視力(logMAR値),FT,TMVをDRとBRVOで比較し,また,術後視力改善の有無によっても比較した.結果:術後視力は術前視力に比べてBRVOで有意に改善し,FTとTMVはDRとBRVOで術前に比べて術後有意に改善した.DRにおける視力改善ありは術後視力改善なしと比べてTMVは有意に小さく,BRVOにおける視力改善ありは視力改善なしと比べて術前後視力は有意に不良であった.結論:DRとBRVOにIVB施行後6カ月間追加治療をせずに観察できた症例において,黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.Purpose:Tocomparetheeffectsofintravitrealbevacizumab(IVB)injectionformacularedemaindiabeticretinopathy(DR)withbranchretinalveinocclusion(BRVO).CaseandMethod:Thisstudyinvolved32eyes(DR18eyes,BRVO14eyes)thatunderwentIVBasfinaltreatmentduringtheinvestigationperiod,anddidnotrequireadditionaltreatmentforrecurrenceofmacularedemaduringthe6-monthfollow-up.Weexaminedlogarithmicminimalangleofresolution(logMAR)visualacuity,fovealthickness(FT)andtotalmacularvolume(TMV)viaopticalcoherencetomography,beforeandat6monthsafterinjection,andcomparedtheresultsbetweenDRandBRVO.Patientsweredividedinto2groupsbasedonvisualacuityimprovement,andtheresultswereanalyzed.Results:ImprovementinvisualacuitywasfoundonlyintheBRVOgroup,thoughimprovementsinFTandTMVwerefoundinbothgroups.IntheDRpatients,TMVinthegroupthatimprovedinvisualacuitywassignificantlylessthaninthegroupthatdidnotimprove.IntheBRVOpatients,visualacuityinthegroupthatimprovedinvisualacuitywasworsethaninthegroupthatdidnotimprove,bothbeforeandaftertreatment.Conclusion:ItissuggestedthatIVBformacularedemaismoreeffectiveforBRVOthanforDR,withouttheneedforadditionaltreatmentduringthe6-monthfollow-upperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):108.112,2011〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ベバシズマブ,光干渉断層計(OCT).diabeticretinopathy,branchretinalveinocclusion,macularedema,bevacizumab,opticalcoherencetomography(OCT).(109)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011109抗体であるベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果が報告されている4~7).黄斑浮腫を伴うDRやBRVOに対してIVBを施行し,その治療効果を検討した報告は術後3カ月程度の短期成績が主である4,6,7).IVB後の視力改善や黄斑浮腫の改善の程度,黄斑浮腫の改善から再燃までの期間などに関しても報告によって結果にばらつきがある4~7).IVB後に黄斑浮腫が再燃し,IVB再施行の必要な例や,すでに他の治療歴があるものにIVBを施行する例を経験する.また,対象の症例によって効果が異なることも経験するが,IVB後のDRとBRVOにおける効果を比較した報告は,検索した限りではない.今回,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対して経過観察中における最終的な治療がIVBであり,その後6カ月間追加治療をせずに経過観察ができた症例についてその結果や背景を検討することを目的に,視力や黄斑浮腫につき比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は,2007年11月から2008年12月に黄斑浮腫に対してベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体注入を施行した症例48例50眼(DR:32例34眼,BRVO:16例16眼)のうち,最終IVBから追加治療をせずに6カ月以上経過観察できた30例32眼である(50眼中32眼:64%).IVBにあたっては,本学倫理委員会の承認を得て,患者への十分な説明と同意のもとに施行した.男性18例20眼,女性12例12眼,年齢は68.0±6.0(平均±標準偏差)歳であった.DR:16例18眼,BRVO:14例14眼であった.治療歴があったものはDRでは11眼,BRVOでは11眼で,その内訳は硝子体手術,網膜光凝固術,TATenon.下注入,IVBであった.対象となった症例のIVB施行回数は,DRにおいては1回が12眼,2回が5眼,3回が1眼であった.BRVOにおいては1回が5眼,2回が6眼,3回が3眼であった.治療追加の基準は,原則としてlogarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕で0.2以上増加,または経過観察中に最も軽度であった黄斑浮腫が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:Zeiss社製,OCT3000,以下OCT)による後述の計測で30%以上の増悪を認めた場合とした.視力(logMAR値)はlogMAR視力表(Neitz社製)で測定した.黄斑浮腫はOCTで測定した.測定にはfastmacularthicknessMAPを用い,fovealminimumとtotalmacularvolume(TMV)を測定した.Fovealminimumをfovealthickness(FT)とした.最終IVB直前とその6カ月後の視力(logMAR値),FT,TMVをカルテベースに調査し,術前と術後で比較した.同様にDRとBRVOで比較した.さらに,視力改善に共通する術前因子を検討することを目的に,術後6カ月でのDRとBRVOそれぞれにおける視力改善の有無に分けて視力(logMAR値),FT,TMVを比較した.視力改善ありは視力(logMAR値)が0.2以上減少したものとし,視力改善なしは視力(logMAR値)が0.2未満の改善,不変および悪化を含めた.検討はレトロスペクティブに行った.統計処理にはt検定を用い,有意水準をp<0.05とした.II結果1.DRとBRVOにおける術前と術後6カ月の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)は,DRで術前0.54±0.30,術後0.51±0.33,BRVOで術前0.43±0.33,術後0.22±0.17であった.術後視力はDRでは有意な改善を認めず,BRVOのみで有意に改善した(p=0.026)(表1).FTは,DRで術前481±115μm,術後366±163μm,BRVOで術前348±112μm,術後243±90.5μmであり,FTはDRとBRVO両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0022,BRVO:p=0.022)(表1).FTの術後の減少率はDRでは23%,BRVOでは29%であった.TMVは,DRで術前10.2±1.53mm3,術後9.00±2.09mm3,BRVOで術前8.83±2.56mm3,術後7.55±1.48mm3であった.TMVはDRとBRVOの両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0012,BRVO:p=0.038)(表1).TMVの術後の減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であった.2.視力(logMAR値),FTおよびTMVのDRとBRVOにおける比較術前視力(logMAR値)はDRで0.54±0.30,BRVOで0.43±0.33で,両者間に有意差はなかった(p=0.27).術後表1DRとBRVOにおけるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DRBRVODRBRVODRBRVO術前0.54±0.300.43±0.33481±115348±11210.2±1.538.83±2.56術後6カ月0.51±0.330.22±0.17366±163243±90.59.00±2.097.55±1.48p値0.570.0260.00220.0220.00120.038t検定:術前と術後6カ月の比較.110あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(110)視力(logMAR値)はDRで0.51±0.33,BRVOで0.22±0.17で,DRと比較しBRVOで有意に良好であった(p=0.0026)(表2).術前FTは,DRで481±115μm,BRVOで348±112μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.0028).術後FTはDRで366±163μm,BRVOで243±90.5μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.022)(表2).術前TMVはDRで10.2±1.53mm3,BRVOで8.83±2.56mm3で,両者間に有意差はなかった(p=0.096).術後TMVはDRで9.00±2.09mm3で,BRVOで7.75±1.48mm3で,DRと比較しBRVOで有意に小さかった(p=0.038)(表2).3.DRとBRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVの比較DRでは18眼中,術後6カ月での視力改善ありは7眼,視力改善なしは11眼であった.BRVOでは14眼中,術後6カ月での視力改善ありは6眼,視力改善なしは8眼であった.DRにおける術後6カ月での視力改善の有無により視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.63±0.35,視力改善なしでは0.48±0.27で,有意差はなかった(p=0.37).術前FTは視力改善ありでは430±108μm,視力改善なしでは514±112μmで有意差はなかった(p=0.14).術前TMVは視力改善ありでは9.46±1.62mm3,視力改善なしでは10.6±1.35mm3で有意差はなかった(p=0.14)(表3).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.34±0.34,視力改善なしでは0.61±0.29で有意差はなかった(p=0.11).術後FTは視力改善ありでは293±92.6μm,視力改善なしでは412±184μmで,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後FTは有意に薄かった(p=0.088).術後TMVは視力改善ありでは7.92±1.02mm3,視力改善なしでは9.69±2.35mm3で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後TMVは有意に小さかった(p=0.044)(表3).BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.72±0.21,視力改善なしでは0.18±0.04で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術前視力(logMAR値)は有意に不良であった(p=0.00079).術前FTは視力改善ありでは404±140μm,視力改善なしでは307±67.8μmで有意差はなかった(p=0.16).術前TMVは視力改善ありでは10.5±3.02mm3,視表2DRとBRVOにおける視力(logMAR値),FT,TMVの比較術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DR0.54±0.30481±11510.2±1.530.51±0.33366±1639.00±2.09BRVO0.43±0.33348±1128.83±2.560.22±0.17243±90.57.55±1.48p値0.270.00280.0960.00260.0220.038t検定:DRとBRVOの比較.表3DRにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=18)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=7)0.63±0.35430±1089.46±1.620.34±0.34293±92.67.92±1.02改善なし(n=11)0.48±0.27514±11210.6±1.350.61±0.29412±1849.69±2.35p値0.370.140.140.110.0880.044t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.表4BRVOにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=14)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=6)0.72±0.21404±14010.5±3.020.38±0.13216±88.68.01±2.16改善なし(n=8)0.18±0.04307±67.87.54±1.090.10±0.05264±92.27.21±0.62p値0.000790.160.0590.00280.350.41t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011111力改善なしでは7.54±1.09mm3で有意差はなかった(p=0.059)(表4).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.38±0.13,視力改善なしでは0.10±0.05で視力改善ありは視力改善なしに比べ術後視力は有意に不良であった(p=0.0028).術後FTは視力改善ありでは216±88.6μm,視力改善なしでは264±92.2μmで有意差はなかった(p=0.35).術後TMVは視力改善ありでは8.01±2.16mm3,視力改善なしでは7.21±0.62mm3で有意差はなかった(p=0.41)(表4).III考按今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例について検討した.DRにおいてはIVB施行6カ月後の黄斑浮腫(FTとTMV)は有意に改善したことがわかった.しかし術後6カ月の視力は術前に比べ改善傾向は認めたが,有意差はなかった.DRにおいて術後視力改善ありと視力改善なしを比較すると,視力改善ありにおいてFTとTMVは有意に改善しており,浮腫が改善すれば視力が改善することが確認できた.一方,術前視力や術前の黄斑浮腫の程度は術後視力の改善に関与する因子ではなかった.BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無により比較すると,術後視力改善ありは視力改善なしと比較して,術前後の視力が有意に不良であった.DRとBRVOの比較から,今回の検討の対象においてBRVOはDRに比べて術前ではFTは有意に薄く,術後では視力は有意に良好でFTは薄く,TMVは小さい結果が得られた.このことからDRでは術前の黄斑浮腫は高度であり,DRではFT,TMVは術後に改善したがBRVOに比べると黄斑浮腫の残存の程度が大きいことがわかった.FTの術後減少率はDRでは23%,BRVOでは29%,TMVの術後減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であり,BRVOにおいてのみ術後有意に視力が改善した結果との関連が考えられた.今回の検討では,視力改善の点ではDRよりもBRVOにおいてIVBの効果は高いという結果であった.BRVOでは黄斑浮腫発症にあたりVEGFとinterleukin-6(IL-6)が関与するといわれている8).一方,DRでは黄斑浮腫発症の病態にVEGF以外にIL-6,intercellularadhesionmolecule1(ICAM-1)などの因子が関連するといわれている9,10).さらに,monocytechemoattractantprotein-1(MCP-1),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)がDRに伴う黄斑浮腫おける黄斑部の網膜厚に関連する11)との報告がある.DRにおける黄斑浮腫の再燃にあたって,硝子体内のVEGFよりも,IL-6やMCP-1の関連が強く,黄斑浮腫の病因となる可能性が指摘されている12).以上のように,BRVOに比べDRでは黄斑浮腫発症の機序に,炎症に関連する数多くのサイトカインが関与するといわれている.BRVOでは黄斑浮腫発症の主因としてVEGFがあげられる一方で,糖尿病網膜症では病理組織学的に網膜毛細血管における周皮細胞・内皮細胞の変性,基底膜の肥厚があり,特に周皮細胞の変化と血管透過性亢進との関連がいわれている13,14).これらのことは,VEGFのみを標的とした抗VEGF抗体(ベバシズマブ)硝子体注入の治療効果をみた今回の検討において,BRVOのほうがDRに比べ効果が高いという結果になったことの要因と考えられる.Shimuraらの検討でもDRに伴う黄斑浮腫の治療としてIVBに比べ,抗炎症作用を併せ持つ副腎皮質ステロイド薬(TA)硝子体注入のほうが有効であり,ベバシズマブの効果はTAと比較して弱く,短いとしている15).黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術は長期間にわたり黄斑浮腫改善を維持できるとの報告1,2)やTA硝子体注入に比べ,局所/grid光凝固のほうがDRの黄斑浮腫における視力の長期予後が良好であるとする報告がある3).DRやBRVOに伴う黄斑浮腫発症機転に関してはいまだ明らかでない点が多い.その治療にあたり,硝子体手術,IVB,TAのTenon.下注入または硝子体注入,網膜光凝固などの選択肢のなかから,治療の侵襲,副作用,期待できる効果の程度や持続期間を考慮し,かつ患者の社会的背景も踏まえ適切な治療選択をすることが求められる.今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例において,DRに比べてBRVOでは術後視力は有意に良好で,術後FTとTMVは有意に小さく,術後減少率も高かった.黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.文献1)武末佳子,山名時子,向野利寛ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績.臨眼62:1457-1460,20082)八木文彦,佐藤幸裕,山地英孝ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対する硝子体手術.眼臨100:608-611,20063)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneacetonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1459,20084)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Aphase2randomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20075)大野尚登,森山涼,菅原通孝ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニドの治療効果.臨眼63:307-309,2009112あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(112)6)澤田浩作,池田俊英,大八木智仁ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果.臨眼62:875-878,20087)原信哉,桜庭知己,片岡英樹ほか:網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するベバシズマブの治療成績.眼臨紀1:796-801,20088)NomaH,FunatsuH,YamasakiMetal:Pathogenesisofmacularedemawithbranchretinalveinocclusionandintraocularlevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6.AmJOphthalmol140:256-261,20059)NomaH,FunatsuH,MimuraTetal:Vitreouslevelsofinterleukin-6andvascularendothelialgrowthfactorarerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology110:1690-1696,200310)FunatsuH,YamashitaH,SakataKetal:Vitreouslevelsofvascularendothelialgrowthfactorandintercellularadhesionmolecule1arerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology112:806-816,200511)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitreousinflammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,200912)RohMI,KimHS,SongJHetal:Effectofintravitrealbevacizumabinjectiononaqueoushumorcytokinelevelsinclinicallysignificantmacularedema.Ophthalmology116:80-85,200913)WuL,ArevaloJF,BerrocalMHetal:Comparisonoftwodosesofintravitrealbevacizumabasprimarytreatmentformacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusions:resultsofthePanAmericanCollaborativeRetinaStudyGroupat24months.Retina29:1396-1403,200914)高木均,本田孔士,吉村長久ほか:眼と加齢加齢と網膜血管障害.日眼会誌111:207-231,200715)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Comparativetherapyevaluationofintravitrealbevacizumabandtriamcinoloneacetonideonpersistentdiffusediabeticmacularedema.AmJOphthalmol154:856-861,2008***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(133)5650910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):565568,2009cはじめに網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫は,視力低下の原因となる合併症である1).これまで,黄斑浮腫に対する治療として格子状網膜光凝固が試みられているが,黄斑浮腫に対しては有効であったが視力の改善は得られなかった2).トリアムシノロンアセトニド(TA)Tenon下注射または硝子体内注射3,4)も行われてきたが,効果は一時的であり,副作用として眼圧上昇や白内障進行などがみられた.さらに放射状視神経切開術が有効であったとする報告57)もあるが,硝子体手術はリスクも少なくなく,硝子体術者のいる一〔別刷請求先〕新垣孝一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院Reprintrequests:KoichiroArakaki,M.D.,EguchiEyeHospital,7-13Suehiro-cho,Hakodate-shi040-0053,JAPAN網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績新垣孝一郎*1森文彦*1昌原英隆*1外山琢*1田邉智子*1森洋斉*2江口まゆみ*1江口秀一郎*1*1江口眼科病院*2宮田眼科病院Short-TermEectofIntravitrealBevacizumabforMacularEdemainCentralRetinalVeinOcclusionKoichiroArakaki1),FumihikoMori1),HidetakaMasahara1),TakuToyama1),TomokoTanabe1),YousaiMori2),MayumiEguchi1)andShuichiroEguchi1)1)EguchiEyeHospital,2)MiyataEyeHospital目的:網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.対象および方法:CRVO発症後3カ月以内の男性3例,女性4例の7例7眼について,CRVOに伴った黄斑浮腫に対しベバシズマブ(1.25mg/0.05ml)を硝子体内に投与した.年齢は5587歳(平均68歳).ベバシズマブ硝子体内投与前に,トリアムシノロンTenon下投与を施行されている症例はなかった.投与前後の矯正視力と中心窩網膜厚を測定した.結果:中心窩網膜厚は投与前(676±158μm)と比較し,投与1週間(338±73.6μm),1カ月後(437±184μm)で有意に減少した.logMAR視力は,投与前(0.74±0.40),投与後1週間(0.67±0.51),1カ月後(0.78±0.49)の3群間で有意差はみられなかった.結論:CRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ベバシズマブ硝子体内投与は中心窩網膜厚を改善させたが,視力の改善は得られなかった.Westudiedtheeectofintravitrealbevacizumabinpatientswithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion(CRVO).Subjectscomprised7patients(7eyes)withmacularedemainCRVOwhoreceivedintrav-itrealinjectionofbevacizumab(1.25mg);thecriterionforstudyinclusionwasintravitrealinjectionofbevacizum-abwithinthreemonthsofCRVOonset.Subjectagesrangedfrom55to87years(average68years).Wemeasuredcorrectedvisionandcentralmacularthickness.Centralmacularthicknesswasfoundtohavedecreasedfrom676±158μmatpre-injectionto338±73.6μmat1week,andto437±184μmat1month.MeanvisualacuitylogMARwasnotsignicantlydierentbetweenthethreegroups:0.74±0.40atpre-injection,0.67±0.51at1weekafterinjectionand0.78±0.49at1monthafter.Intravitrealbevacizumabtreatmentwaseectiveforthesecondarymac-ularedemainCRVO,butnotforvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):565568,2009〕Keywords:ベバシズマブ,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫.bevacizumab,centralretinalveinocclusion,maculaedema.———————————————————————-Page2566あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(134)部の施設でしか行えない制限もある.これまでの報告からも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する治療方法はいまだに確立していない.網膜静脈閉塞症のような血管閉塞病変に伴う黄斑浮腫には,血管内皮増殖因子(VEGF)が関連していることが知られており8,9),近年そのモノクローナル抗体である抗VEGF抗体を硝子体内に投与する治療が報告されている1012).わが国でも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対して,抗VEGF抗体であるベバシズマブ(アバスチンR,Genentech,USA)を硝子体内投与した報告がある13,14)が,単回投与での詳細な経過を追っていない.今回筆者らは発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対し,ベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.I対象および方法発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,TA投与歴のない男性3例,女性4例の7例7眼を対象とした.年齢は平均68歳(5587歳)である.CRVO発症からベバシズマブ投与までの期間は平均37日(789日)で,ベバシズマブ投与後1カ月経過観察を行った.眼底所見,フルオレセイン蛍光眼底検査からCRVOStudy15)の基準と照らし合わせて,5眼は虚血型,2眼は非虚血型であった(表1).虚血型については,汎網膜光凝固を予定した.院内倫理委員会の承認後,十分な説明にて患者の同意を得てベバシズマブ1.25mg/0.05mlを硝子体内に投与した.ベバシズマブ投与前,投与後1週間,1カ月におけるlogMAR視力(小数視力を後にlogMAR換算した)と中心窩網膜厚を検討し,Wil-coxonの符合付順位検定にてp<0.05を有意とした.中心窩網膜厚は光干渉断層計(ZEISS製:OCT3000もしくはCir-rusHD-OCT,以下OCT)を用いて測定した.II結果各症例の視力経過は図1に示すとおりであった.平均logMAR視力は投与前0.74±0.40に対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ0.67±0.51,0.78±0.49となり,3群間で有意差はみられなかった(図2).平均中心窩網膜厚は投与前676±158μmに対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ338±73.6μm,437±184μmとなり,投与後1週間,1カ月で有意に減少した(図3).全症例の中心網膜厚の経過を図4に示した.全症例ともベバシズマブ投与後1週間で網膜厚は減少した.しかし,1カ月後まで減少傾向が持続した症例は2例のみであり,その他の5例は少なくとも網膜厚の再燃がみられた(症例①と④のOCT所見:図5).全例において,投与前よりも悪化する症例はみられなかった.今回の観察期表1各症例一覧症例年齢(歳)性別ベバシズマブ投与までの期間(日)虚血型/非虚血型全身疾患について①73女性73虚血型高血圧症②87女性89虚血型特記事項なし③78女性30虚血型高血圧症,糖尿病④60男性34虚血型高血圧症,糖尿病⑤61女性19虚血型特記事項なし⑥63男性7非虚血型高血圧症,糖尿病⑦55男性10非虚血型高血圧症:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後00.20.40.60.811.21.41.6logMAR視力図1各症例の視力推移投与前後後平均±標準偏差0.74±0.400.67±0.510.78±0.49logMAR視力図2ベバシズマブ投与前後の平均視力推移———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009567(135)間では,ベバシズマブ投与に関連した眼内炎,眼圧上昇,網膜離,硝子体出血,水晶体損傷などの合併症はみられなかった.III考按今回の結果,CRVOに伴う黄斑浮腫に対してベバシズマブ硝子体内投与後1週間で黄斑浮腫は改善した.中心窩網膜厚は,投与前と比較し1週間後,1カ月後において有意に減少していたが,logMAR視力では,3群間に有意差はみられなかった.Ferraraらは,発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫6眼に対して,初回治療としてベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を行った経過を報告している10).彼らの報告では,中心窩網膜厚はベバシズマブ投与1カ月後より有意に減少したが,視力の改善が得られたのは2カ月後からであった.最終結果は,6カ月の経過で中心窩網膜厚および視力の有意な改善を得ている.しかし,プロトコールでは1カ月ごとの診察を行い,網膜出血に伴う視力低下,黄斑浮腫の残存,再燃があればベバシズマブを再投与したため,最終観察期間7カ月から15カ月において,4回から10回の投与中心窩網膜厚(m)9008007006005004003002001000**投与前1週間後1カ月後平均±標準偏差437±184338±73.6676±158図3ベバシズマブ投与前後の平均中心窩網膜厚推移*Wilcoxonの符号付順位検定p<0.05.:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後1,0009008007006005004003002001000中心窩網膜厚(m)図4各症例の中心窩網膜厚推移症例①症例④投与前後後図5症例①と④のOCT所見———————————————————————-Page4568あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(136)が必要であったとしている.Priglingerらの報告11)では,過去にTA投与や放射状視神経切開術,汎網膜光凝固術などを施行された症例も含む46眼に対して,ベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を,初回投与と4週間後に再投与している.さらなる追加投与については,視力,黄斑浮腫の経過により個々で判断され,14眼が2回,20眼で3回,12眼で4回投与を行い,6カ月の経過で有意な中心窩網膜厚の減少と視力の改善を得ている.今回の結果では,ベバシズマブ単回投与では中心窩網膜厚の改善はあったが,視力の改善は得られなかった.また,1カ月という短期間において黄斑浮腫の再燃をきたす症例がみられた.視機能回復には,黄斑浮腫を消退させ持続させる必要があるため,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する有効なベバシズマブ投与は,複数回必要であることが考えられる.しかし,ベバシズマブ硝子体内投与は適応外使用という問題もあり,角膜障害,水晶体損傷,網膜離,眼内炎などの眼合併症のほかに,血圧上昇や脳血管障害などの全身合併症の可能性も示唆されている16).現状においては,それぞれの施設基準や倫理委員会などにおいて投与の判断がされており,どのような症例に有効なのか,どこまで続けていくか,いつ投与するかなどの問題がある.今後症例数を増やし投与時期や投与回数,長期予後なども含め検討していく必要がある.文献1)ChenJC,KleinML,WatzkeRCetal:Naturalcourseofperfusedcentralretinalveinocclusion.CanJOphthalmol30:21-24,19952)Evaluationofgridpatternphotocoagulationformacularedemaincentralveinocclusion.TheCentralVeinOcclu-sionStudyGroupMreport.Ophthalmology102:1425-1433,19953)KaracorluM,KaracorluSA,OsdemirHetal:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreatmentofserousmaculardetachmentincentralretinalveinocclusion.Retina27:1026-1030,20074)JonasJB,AkkoyunI,KamppeterBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefortreatmentofcentralretinalveinocclusion.EurJOphthalmol15:751-758,20055)築城英子,三島一晃,北岡隆:網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術の長期経過.眼紀57:755-758,20066)金子卓,石田政弘,竹内忍:網膜中心静脈閉塞症に対するradialopticneurotomyの成績.臨眼58:923-926,20047)ArevaloJF,GarciaRA,WuLetal:Pan-AmericanCol-laborativeRetinaStudyGroup.Radialopticneurotomyforcentralretinalveinocclusion:resultsofthePan-Ameri-canCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).Retina28:1044-1052,20088)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19949)Pe’erJ,FolbergR,ItinAetal:Vascularendothelialgrowthfactorupregulationinhumancentralretinalveinocclusion.Ophthalmology105:412-416,199810)FerraraDC,KoizumiH,SpaideRF:Earlybevacizumabtreatmentofcentralretinalveinocclusion.AmJOphthal-mol144:864-871,200711)PriglingerSG,WolfAH,KreutzerTCetal:Intravitrealbevacizumabinjectionsfortreatmentofcentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofaprospectivetrial.Retina27:1004-1012,200712)HsuJ,KaiserRS,SivalingamAetal:Intravitrealbevaci-zumab(avastin)incentralretinalveinocclusion.Retina27:1013-1019,200713)元村憲文,三浦雅博,岩崎琢也:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績.臨眼62:533-536,200814)梅基光良,山口泰孝,木村忠貴ほか:網膜静脈閉塞による遷延性類胞状黄斑浮腫に対する硝子体ベバシズマブ投与の短期効果.臨眼62:537-541,200815)Baselineandearlynaturalhistoryreport.TheCentralVeinOcclusionStudy.ArchOphthalmol111:1087-1095,199316)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinter-nettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,2006***