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局所麻酔下涙囊鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査

2019年11月30日 土曜日

《第7回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(11):1437.1440,2019c局所麻酔下涙.鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査城下哲夫*1,2城下ひろ子*2栗原秀行*1*1栗原眼科病院*2城下医院CPainManagementandQuestionnaireSurveyofExternalDacryocystorhinostomyunderLocalAnesthesiaTetsuoJoshita1,2)C,HirokoJoshita2)andHideyukiKurihara1)1)KuriharaEye-Hospital,2)JoshitaClinicC目的:局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の疼痛管理および手術満足度についてのアンケート調査を検討した.方法・対象:同一術者による局所麻酔下でCExDCRを施行した症例のうち,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月)についてアンケート調査をした結果を検討した.結果:痛くなかったと答えた症例(以下無痛群)は全体のC57.5%であった(アセトアミノフェン投与群C17眼でC58.8%,非投与群C23眼でC56.5%).手術をしてよかったと答えた症例はC80.0%であった.結論:アセトアミノフェンは副作用も少なく,術中疼痛管理として選択しやすい.他の鎮痛薬や鎮静剤の併用など今後さらなる疼痛管理の方法の検討が必要ではあるが,局所麻酔下でのCExDCRは有用であると考えられた.CPurpose:ToCconductCaCquestionnaireCsurveyCofCpatientsCregardingCintraoperativeCdiscomfortCandCpostopera-tiveCsatisfactionCafterCundergoingCexternaldacryocystorhinostomy(ExDCR)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC40Ceyesof33patients(8males,25females)whounderwentExDCRbyasinglesurgeon.Inallpatients,thesurgerywasperformedusinglocalanesthesia,withorwithoutpreoperativeadministrationofacetaminophen.Results:Ofthe40treatedeyes,thepatientsreportedexperiencingnopainin23(57.5%)eyes(58.8%incaseswithapreoper-ativeadministrationofacetaminophenand56.5%incaseswithoutit)C.32(80%)eyesreportedsatisfactionafterthesurgery.Conclusion:TheresultsofourquestionnairesurveyrevealedthatExDCRcanbewellperformedunderlocalanesthesia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1437.1440,C2019〕Keywords:涙.鼻腔吻合術(鼻外法),局所麻酔,鼻涙管閉塞症,アセトアミノフェン静注,術中疼痛.externalCdacryocystorhinostomy,localanesthesia,nasolacrimalductobstruction,intravenousinjectionofacetaminophen,in-traoperativepain.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は慢性涙.炎,鼻涙管閉塞症,涙小管閉塞などの治療として有効な術式と評されている.骨窓形成などを必要とするため手術侵襲が大きいという印象があるが,適切な麻酔法を行うことで局所麻酔下での手術は十分可能であり,70%以上の症例で疼痛の訴えがなかったという報告がある1.4).また,発症から長期経過した症例においては涙管チューブ挿入術に対して有意に治療成績がよいともされている5).今回筆者らは,局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の術中疼痛管理および術後成績について,術後アンケート調査による検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕城下哲夫:〒348-0045埼玉県羽生市下岩瀬C289栗原眼科病院Reprintrequests:TetsuoJoshita,M.D.,KuriharaEyeHospital,289Shimoiwase,Hanyu-shi,Saitama348-0045,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(95)C1437I対象および方法対象は,2013年C10月.2018年C5月に,栗原眼科病院および城下医院にて同一術者により局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月).術式は全例CExDCRでシリコーンチューブ留置を併用した.術直前にC0.1%ボスミンCR,4%キシロカインCR溶液に浸したタンポン長尺ガーゼを鼻腔内に挿入し,2%キシロカインER5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下への局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を行った.内眼角と鼻梁中心線を結ぶ中点から下方約15°耳側に向かいC12.13mmの皮切をおき,栗原式開創器で術野を広げた.内眼角靭帯下方を.離していき前涙.稜と涙.を骨膜ごと.離した.前涙.稜を栗原式丸ノミ(3Cmm)と槌で削開し,約C12x12Cmmの骨窓を作製した.つぎに涙.をスプリング剪刀で切開して涙.粘膜前弁を作製し,上下涙点からシリコーンチューブ(ニデックCPFカテーテルRまたはカネカメディックス社CLACRIFASTEXショートR)を挿入して,4-0絹糸で結紮した.続いて鼻粘膜を外科用替刃メスでコの字型に切開し,鼻粘膜前弁を作製した.この際,鼻腔内に見えるタンポンガーゼは一部引き出し切除した.シリコーンチューブを鼻粘膜フラップ内に通し鼻腔内に挿入し,涙.前弁と鼻粘膜前弁をC6-0吸収糸でC2糸縫合した(one.ap法).皮下組織をC6-0吸収糸でC2糸縫合し,皮膚切開創はC7-0ナイロン糸で端々縫合した.17眼には術直前からアセトアミノフェン(アセリオCR)1,000Cmgを静注した.術後最終診察時(平均術後期間C26.0カ月)に,術中の疼痛,術前術中の恐怖,術後の満足度,手術の創痕に対する感想を表1術後通水テスト結果Pass+34/40(C85.0)CPass±4/40(C10.0)CPass.2/40(C5.0)眼(%)表3術中の疼痛(アセリオR併用との比較)アンケート調査し,その結果を検討した.加えて術後の疼痛に関して,全身麻酔の症例も含め入院中の記録を確認できたC53例C58眼について,アセリオCR静注併用の有無で術後疼痛の訴えの有無を比較検討した.術中の疼痛に対するアンケート結果および術後の疼痛については,Fisherの正確検定(片側検定)によって解析した.CII結果1.手.術.成.績平均術後期間C26.0カ月での通水テストで良好に改善した手術成功例(Pass+)はC40眼中C34眼(85.0%),通水テスト不良例(PassC.)はC2眼(5.0%),通水テスト時に逆流が認められ,通水が曖昧な症例(PassC±)はC4眼(10.0%)であった(表1).通水良好でないC6眼のうちC4眼は急性涙.炎後の症例であった.再手術を要した症例はC2眼で,そのうちC1眼(50%)は手術成功であった.C2.術後アンケート調査対象期間中に局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたのはC33例C40眼であった.アンケート内容は,表2,3,5~7のとおりである.Ca.術中の疼痛無痛群はC40眼中C23眼(57.5%)であり,とても痛かったと答えた症例はC4眼(10%)であった(表2).40眼中C17眼にアセリオRの静注を併用した.そのC17眼中無痛群はC17眼中C10眼(58.8%)(p=0.5714)であった(表3).平均手術時間は疼痛群と無痛群でそれぞれC61.6分とC59.2分で差はなかった.b.術後の疼痛術後疼痛を訴えなかった症例は,アセリオCRの静注を併用した群ではC21眼中C17眼(81.0%)(p=0.0089<0.01)であ表2術中の疼痛とても痛かった4/40(C10.0)痛かった13/40(C32.5)痛くなかった23/40(C57.5)眼(%)表4術後の疼痛(アセリオR併用との比較)アセリオR群17/40(C42.5)アセリオR非使用群23/40(C57.5)とても痛かった0/17(C0)4/23(C17.4)痛かった7/17(C41.2)6/23(C26.1)痛くなかった10/17(C58.8)13/23(C56.5)術後疼痛の訴えなし術後疼痛の訴えあり(鎮痛薬不使用)(鎮痛薬使用)アセリオR群21眼17/21(C81.0**)4/21(C19.0)アセリオR非使用群37眼17/37(C45.9)20/37(C54.1)C眼(%)Cp=0.0089(p<0.01)眼(%)1438あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(96)表5術前術中の恐怖表6術後の満足度表7皮膚創の瘢痕についてとても怖かった2/40(C5.0)怖かった17/40(C42.5)怖くなかった21/40(C52.5)満足32/40(C80.0)どちらでもない5/40(C12.5)不満3/40(C7.5)気になる0/34(C0)少し気になる2/34(C5.9)気にならない32/34(C94.1)眼(%)った(表4).Cc.術前術中の恐怖怖くなかったと答えた症例はC40眼中C21眼で,とても怖かったと答えた症例はC2眼であった.恐怖を感じた症例の約90%が女性であった(表5).d.術後の満足度術後結果に満足と答えた症例はC40眼中C32眼(80%)で,不満と答えた症例はC3眼(7.5%)であった.不満の原因は術後通水テスト不良で症状の改善が得られないことであった(表6).Ce.皮膚創の瘢痕について皮膚創の瘢痕についてのアンケートは,40眼中C6眼は回答が得られず,34眼のみ回答を得られた.そのうちC32眼(94.1%)は気にならないと答え,気になると答えた症例はなかった(表7).CIII考按DCRの成功率は,82.1.100%ともいわれている1.8).今回の結果では,成功例はC40眼中C34眼(85.0%)であった.アンケートを取れなかった症例も含めた全C66眼で検討してもC58眼(87.9%)であり,既報よりやや低い印象であった.骨窓の大きさをより大きくするなどの工夫が今後の課題となると思われるが,平均経過観察期間がC26.0カ月と長期であることを考慮すると今回の成功率は納得のいくものであると考える.術中の疼痛管理に関しては,2%キシロカインCECR5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下の局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を全例に行った9).疼痛の訴えは涙.切開時と骨窓作製時に生じることが多いが,今回の検討では,無痛群の割合はC57.5%で,痛みを訴えた症例のうちC76.5%は自制内に留まるものであった.また,アセリオCRを併用することにより痛みを訴えない症例はC58.8%に増加し,痛みを訴えた症例も全例が自制内に留まった.今回の検討では術中の疼痛に関しては有意差は出なかったが,術後の疼痛の訴えはアセリオCRの併用で有意に減少した.今後は術直前ではなく術C1時間前などから事前投与することで,より効果的な術中の疼痛緩和効果が期待できると思われた.アセリオCRは鎮静薬特有の呼吸抑制や血圧低下などの重篤な副作用が少なく,ExDCRの疼痛管理としては使いやすいと考えられた.ただし,過剰投与と眼(%)眼(%)肝障害,アスピリン喘息の有無などには注意が必要である.術前術中の恐怖感については,骨窓を作製する手術の性質上,術前の恐怖は避けられないと思われる.術中の恐怖の多くは槌とノミを使用する際の音と衝撃によるものであろう.これについてはドリルを使用して骨を掘削することである程度緩和できる可能性があり,筆者らは現在ドリルの使用も取り入れているところである.皮膚創の瘢痕については,94.1%の症例で気にならないという結果が得られた.少し気になると答えたC2例中C1例は術後観察期間C2カ月であったことも考慮すると,ある程度長期にみれば創痕はほぼC100%気にならなくなる.これを患者に事前に伝えることで術前の不安を軽減することはできる.DCRには鼻内法と鼻外法があり,それぞれの利点がある.術後成績に関しては統計学的には差はないものの鼻外法優位の傾向がある8).鼻内法は皮膚切開が不要である利点があるが,鼻内視鏡の技術が必要であり,侵襲が大きく全身麻酔やコカインの使用を要するため,設備コストやラーニングカーブの問題が欠点となる.一方,鼻外法では局所麻酔で手術が十分可能であることが利点であり,今回の研究でアセトアミノフェンの使用でその利点が高まることがわかった.また,皮膚の切開瘢痕についても気になる患者は少ない結果であったので,手術に慣れた術者にとっては欠点の少ない術式であるといえる.高齢者や全身状態に不安がある症例など,全身麻酔を避けたい状況は多々ある.局所麻酔下のCExDCRはそのような状況下においても適応に大きく影響されることなく選択できる手術であるといえる.ExDCRは局所麻酔下で十分に施行可能であり,高い成功率と満足度を得られる有用な術式である.さらに鎮痛薬の全身投与を併用することでより幅広い症例に対応できる.文献1)阿部恵子,林振民,中村昌弘ほか:涙.鼻腔吻合術(DCR)の手術成績とアンケート調査.眼科手術15:133-140,C20022)大川みどり,栗原秀行:栗原眼科病院における過去C12年間の涙.鼻腔吻合術(DCR)術後成績.日眼紀C48:281-285,C19973)河本旭,嘉陽宗光,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術を施行した高齢者C83例の手術成績.あたらしい眼科23:917-920,C20064)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適(97)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1439応と手術成績.臨眼紀4:650-6527)後藤聡:涙.鼻腔吻合術鼻外法.眼科58:821-828,C20165)加藤愛,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術における閉塞部位8)鈴木亨:DCR:鼻外法vs鼻内法.臨眼71:226-230,別の術後成績.眼科手術21:265-268,C2008C20176)OzerS,OzerPA:Endoscopicvsexternaldacryocystorhi-9)栗原秀行:涙.鼻腔吻合術の術中トラブルと対処.1.術前Cnostomy-comparisonfromthepatients’aspect.IntJOph-準備─麻酔と出血対策.臨眼C51:1028-1030,C1997CthalmolC7:689-696,C2014***1440あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(98)

鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(125)1291《原著》あたらしい眼科27(9):1291.1294,2010cはじめに鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術のチューブ抜去後1カ月の成績は88%であった1).このときの手技は内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)2)か,涙道内視鏡を用いた双手法によるブジーであった.仮道形成が見つかった場合は,仮道に挿入されているチューブを挿入しなおして修正した3).その後シースを使ったシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)4),シース誘導チューブ挿入法(sheathguidedintubation:SGI)5)が開発され,難易度の高い双手法から解放された.DEP,SEPに代表される涙道内視鏡下チューブ挿入術後3年以上の長期成績を解析できたので報告する.〔別刷請求先〕杉本学:〒719-1134総社市真壁158-5すぎもと眼科医院Reprintrequests:ManabuSugimoto,M.D.,SugimotoEyeClinic,158-5Makabe,Soujya719-1134,JAPAN鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績杉本学*1井上康*2*1医療法人すぎもと眼科医院*2医療法人康誠会井上眼科Long-termOutcomeofDacryoendoscope-assistedIntubationforNasolacrimalDuctObstructionManabuSugimoto1)andYasushiInoue2)1)SugimotoEyeClinic,2)InoueEyeClinic2000年12月.2009年10月に行った,初回涙道内視鏡下チューブ挿入術548例639側.男性100側,女性539側.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症156側,鼻涙管閉塞症単独483側.閉塞部の開放は,シース誘導内視鏡下穿破法(SEP)293側,内視鏡直接穿破法(DEP)346側.術後通水試験で通水のないもの,膿・粘稠な液体の逆流のあるものを死亡と定義し,Kaplan-Meier法による生存分析を行った.チューブ抜去後1,000日の生存率は,DEP82%,SEP81%で有意差はなかった.DEP+SEPでの3,000日の生存率は涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症90%,鼻涙管閉塞症単独64%,で有意差(p<0.05)があった.鼻涙管閉塞症単独で,推定罹病期間別の生存率には有意差はなく,男女別では2,500日の生存率は女性66%,男性49%で統計学的な有意差はなかったが,男性が低い傾向にあった.Dec.2000.Oct.2009,thefirstdacryoendoscope-assistedintubationin548cases(639sides;male:100sides,female:539sides)comprisingnasolacrimalductobstructioncomplicatedwithlacrimalcanaliculusatresia(156sides)andnasolacrimalobstructionalone(483sides).Opentechniqueforatresia,sheath-guidedendoscopicprobing(SEP)293sides;directendoscopicprobing(DEP),346sides.Aftercatheterremoval,nopassageorpus/mucoussecretionreflowcasesaredefineddeath,asanalyzedbytheKaplan-Meiermethod.At1,000days,survivalprobabilitieswere82%byDEPand81%bySEP,withnosignificantdifference.WithDEP+SEP,3,000-daysurvivalprobabilitiesofnasolacrimalductobstructioncomplicatedwithlacrimalcanaliculusatresia,andnasolacrimalobstructionalone,comprised90%and64%,respectively,asignificantdifference(p<0.05).Inthecaseswithnasolacrimalobstructionalone,theestimatedmorbidityperiodwasnotsignificantofsurvivalprobability.Inthesamecases,at2,500-daysurvivalprobabilitieswere66%forfemalesand49%formales,notasignificantdifference,butmalecaseshadlowersurvivalprobability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1291.1294,2010〕Keywords:鼻涙管閉塞症,シース誘導内視鏡下穿破法,シース誘導チューブ挿入術法,内視鏡直接穿破法.nasolacrimalductobstruction,sheathguidedendoscopicprobing(SEP),sheathguidedintubation(SGI),directendoscopicprobing(DEP).1292あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(126)I対象および方法2000年12月.2009年10月に3施設(すぎもと眼科・井上眼科・岡山南眼科)にて行った,鼻涙管閉塞症に対する初回涙道内視鏡下チューブ挿入術548例639側(涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症例156側,鼻涙管閉塞症単独例483側).術者は筆者ら2名.男性90例100側,女性458例539側.年齢36.93歳(平均69.3±12.5歳).明らかに涙.の拡大したものを拡大涙.,そうでないものを非拡大涙.,涙.・鼻涙管に結石を伴うものを有結石とし,639側の内訳を表1に示す.鈴木らが行ったように,流涙症発現時期の問診をもとに,手術までの罹病期間を推定し,推定罹病期間が1年以下のものをStage1,1年超3年以下のものをStage2,3年超のものをStage3と分類した6).推定罹病期間がはっきりしない例は分類不能とし,Stage別の解析からは除外した.手術方法は,点眼用4%塩酸リドカインを涙点より逆流するまで注入し5分後,拡張針を用いて涙点を拡張した.涙道内視鏡(ファイバーテック社:涙道ファイバースコープRベントタイプ)を涙点より挿入し閉塞部位を確認した.閉塞部の開放はSEP(293側),DEP(346側)で行った.チューブの挿入方法はSGIあるいは,SGIを行う以前や行えない例では,盲目的にチューブを挿入後チューブが単一管腔内に留置されていることを涙道内視鏡と硬性鼻内視鏡(視野角30°:NISCO社,視野角70°:町田社)で確認して終了した.単一管腔内に留置されていない場合は,単一管腔内に留置されるように修正した3).留置チューブはカネカメディックス社シラスコンRN-Sチューブスタンダードタイプまたは,東レ社・ワック社PFカテーテルRSoft&Short11cmを用いた.留置期間は2カ月を目安に抜去した.術後は抗菌薬点眼(レボフロキサシンまたはガチフロキサシン)と0.1%フルオロメトロン点眼液の1日4回点眼を行い,1.2週に1回の涙道洗浄を行った.術後通水試験で通水のないもの,または,膿・粘稠な液体の逆流のあるものを死亡と定義し,統計解析ソフトJMP(SAS社,Ver,7.0.2,2007年)でKaplan-Meier法による生存分析を行った.分析項目は,SEPとDEPの生存率の比較,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の生存率の比較,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独それぞれにおける男女の生存率,結石の有無の生存率の比較,鼻涙管閉塞症単独における各Stageの生存率の比較とした.拡大涙.症例が少ないため拡大・非拡大涙.の比較は行わなかった.II結果SEPとDEPの生存率の比較結果を図1に示す.チューブ抜去後1,000日の生存率はDEP82%,SEP81%で,有意差はなかった.SEPは2006年2月から開始したのでDEPより観察期間が短くなっている.SEPとDEPで生存率に差がないことより以下の検討をSEPとDEPをあわせて行った.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の,生存率の比較を図2に示す.3,000日の生存率は,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症90%,鼻涙管閉塞症単独64%でログランク表1症例の内訳涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症鼻涙管閉塞症単独拡大涙.非拡大涙.拡大涙.非拡大涙.結石あり0結石なし0結石あり12結石なし144結石あり0結石なし8結石あり34結石なし441計639側05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)SEPn=293DEPn=346図1開放方法別の生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)涙小管閉塞合併例n=156鼻涙管閉塞単独例n=483p<0.05図2涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独の生存率(127)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101293検定(p<0.05)にて有意差があった.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症の生存率がよいことより,男女,結石の有無の比較を,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独に分けて解析を行った.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における男女の生存率の比較,結石の有無の生存率の比較をそれぞれ図3,4に示す.1,500日の生存率は,男性68%,女性93%;有結石75%,無結石91%でログランク検定(p<0.05)にて有意差があった.鼻涙管閉塞症単独における男女の生存率の比較,結石の有無の生存率の比較,Stage別の生存率の比較をそれぞれ図5.7に示す.2,500日の生存率は女性66%,男性49%でログランク検定では有意差はなかったが,男性の生存率が低い傾向にあった.2,200日の生存率は有結石65%,無結石64%;Stage168%,Stage252%,Stage366%で有意差はなかった.III考按チューブ抜去後1,000日ではSEPとDEPの生存率に差がなかったことから,患者・術者ともに負担が少ないSEP&SGIで手術を行うほうが望ましいと考えられる.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症のほうが鼻涙管閉塞症単独より生存率が良かったことは,両者の鼻涙管閉塞の病態が異なることを示唆していると考えられる.鼻涙管閉塞症単独は,Linbergらが病理組織で炎症性反応による閉塞と報告している病態と考えられる7).それに対し,涙小管閉塞合併例では,涙小管閉塞のためそれより下流に涙液が流れなくなることによる鼻涙管内腔の虚脱に伴う閉塞であり,炎症反応の関与が少ないことが予想される.涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症でも,炎症の関与が推定される有結石例では,生存率が悪くなり,鼻涙管閉塞症単独では結石の有無による差がなかったことは,この仮説を肯定する結果と考えられる.また,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症では,DEP+SEPによるチューブ抜去後3,000日の生存率が90%なので,第一選択治療法を涙.鼻腔吻合術にしなくても,涙道内視鏡下チューブ挿入術を05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)女性n=403男性n=80図5鼻涙管閉塞症単独における男女別の生存率05001,0001,5002,0002,5001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)女性n=136男性n=20p<0.05図3涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における男女別の生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)結石なしn=449結石ありn=34図6鼻涙管閉塞症単独における結石の有無別生存率05001,0001,5002,0002,5001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)結石なしn=144結石ありn=12p<0.05図4涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症における結石の有無別生存率05001,0001,5002,0002,5003,0001009080706050403020100生存率(%)チューブ抜去後の観察日数(日)Stage3n=203Stage1n=166Stage2n=98図7鼻涙管閉塞症単独における罹病歴別の生存率1294あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(128)施行するほうが低侵襲でよいのではないだろうか.鼻涙管閉塞症単独のチューブ抜去後3,000日の生存率は64%であるが,365日では87%であることより,内眼手術の周術期の減菌には寄与しうると考えられる.Linbergらは病理組織から鼻涙管閉塞症の病期を,炎症細胞の浸潤がみられるearlyphase,線維化の進行したlatephase,両者の混在するintermediatephaseに分類した7).これをもとに鈴木はStage分類を行い,Stageが進むほど再閉塞のリスクが上昇すると報告している6).鼻涙管閉塞を開放後チューブ留置して鼻涙管粘膜が再生する過程を考えてみると,鼻涙管粘膜最表層の重層円柱上皮が再生伸展してくることが理想的である.再閉塞した症例を涙道内視鏡で観察してみると,白いもやもやした物質が鼻涙管管腔内を埋めており,シースの先端で簡単に削りとって再開通させることができる(scraping).白いもやもやした物質はあたかも重層扁平上皮の角化層を思わせる.最表層が重層円柱上皮である結膜は,瞼裂斑などにみられるように,種々の病的状態で容易に扁平上皮化生することが知られている8).鼻涙管再建後再閉塞する例は重層円柱上皮の再生ではなく,扁平上皮化生した鼻涙管粘膜上皮再生になっている可能性が考えられる.病理組織による検討が必要である.今回Stage分類で生存率に有意差が出なかったのは,鼻涙管粘膜の再生は粘膜上皮下の線維化の程度にはあまり関係しない別の要因があることを示唆しているのかもしれない.男女別の比較では,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症でも,鼻涙管閉塞症単独でも男性の生存率が低くなる傾向にあった.鈴木らの解析でも女性で再発リスクが低かったと述べている6).骨性鼻涙管中部の太さは平均で男性5.5mm,女性3.9mmで男性のほうが太いため,生存率も良くなることが予想されたが結果は逆であった.先に述べた鼻涙管粘膜の再生が扁平上皮化生しやすいのは男性のほうなのかもしれない.涙道内視鏡を用いることにより,鼻涙管閉塞症を涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症と鼻涙管閉塞症単独に区別して解析することができ,長期成績に差があることがわかった.鼻涙管閉塞症単独の長期成績を向上させるためにさらなる術式の改良が必要である.文献1)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡併用シリコーンチューブ留置術の成績.臨眼58:731-733,20042)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).眼科手術16:485-491,20033)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:シリコーンチューブ挿入術による仮道形成とその対策.臨眼59:635-637,20054)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20075)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20086)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,20077)McCormickSA,LinbergJV:Pathologyofnasolacrimalductobstruction.LacrimalSurgery(LinbergJV),p169-202,ChurchillLivingstone,NewYork,19888)小幡博人:球結膜・強膜の正常組織.眼科プラクティス8,いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗編),p102-103,文光堂,2006***