《原著》あたらしい眼科30(2):269.272,2013c1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差と視力:3ピースとの比較宮田和典片岡康志本坊正人尾方美由紀南慶一郎宮田眼科病院RefractiveErrorandVisualAcuityofEyeswithOne-pieceDiffractiveMultifocalIntraocularLenses:ComparisonwithThree-pieceKazunoriMiyata,YasushiKataoka,NaotoHonbou,MiyukiOgataandKeiichiroMinamiMiyataEyeHospital1ピース回折型多焦点眼内レンズ(IOL)の術後1カ月の臨床成績を,同プラットフォームを有する3ピースIOLと比較した.対象は,1ピース多焦点IOLZMB00(AMO)を挿入した12例23眼(平均年齢63.1±10.1歳,1ピース群)と,3ピース多焦点IOLZMA00(AMO)を挿入した16例23眼(平均年齢58.7±15.7歳,3ピース群).術後1カ月までの,裸眼遠方視力,矯正遠方視力,裸眼近方視力,遠方矯正下近方視力,および屈折誤差を比較検討した.また,眼軸長,および角膜屈折力の屈折誤差への影響も検討した.IOL度数ずれによる裸眼近方視力と屈折誤差以外は,両群に差はなかった.3ピース群でみられた眼軸長と角膜屈折力による屈折誤差の変動は1ピース群ではなかった.度数決定では注意を要するが,ZMB00により良好な裸眼遠近視力が得られると考えられた.Clinicaloutcomesofthe1-piecediffractivemultifocalintraocularlens(IOL)at1monthpostoperativelywerecomparedwiththoseofthe3-pieceversionwiththesameplatform.Receivingthe1-piecemultifocalIOLZMB00were23eyesof12patients(1-piecegroup);receivingthe3-pieceIOLZMA00were23eyesof16patients(3-piecegroup).Uncorrecteddistance,best-correcteddistance,uncorrectednear,anddistance-correctednearvisualacuities,aswellasrefractionerrorfortheimplantedIOLuntil1monthpostoperatively,werecompared.Influencesofaxiallengthandkeratometryonrefractionerrorwerealsoexamined.Differencewasnotedonlyforuncorrectednearvisualacuityandrefractionerror.Associationwithaxiallengthorkeratometrywasobservedinthe3-piecegroup,whereasnotinthe1-piecegroup.Withcarefulconsiderationinpowercalculation,ZMB00providedfavorableuncorrecteddistanceandnearvisualacuities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):269.272,2013〕Keywords:多焦点眼内レンズ,1ピース,3ピース,屈折誤差.multifocalintraocularlens,1-piece,3-piece,refractionerror.はじめに白内障術後に良好な裸眼視力を得るためには,術後の屈折誤差と乱視をできるだけ小さくすることが必要である.光学式による眼軸長測定と第三世代以降の眼内レンズ(IOL)度数計算法を用いることで,ほとんどの症例では,正確なIOL度数決定を容易かつ正確に行え,術後の屈折誤差は十分小さくなった.一方,乱視に対しては,手術で惹起される乱視を最小限に抑えることが重要となる.そのため,小切開から挿入可能な1ピース形状のIOLがより望ましいことは明らかである.3ピース形状の非球面IOLZA9003(AMO)と,同一プラットフォームの1ピース形状IOLZCB00(AMO)の術後早期成績の検討では,ZA9003は,眼軸長,角膜曲率による屈折誤差が変動したが,ZCB00は変動がなく,良好に.内固定されていると示唆された1).しかし,1ピースのZCB00ではA定数(理論値)による遠視化がみられた.最新の回折型多焦点IOLを挿入することで,良好な裸眼〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(135)269遠近視力を得ることは可能である2,3)が,多焦点IOLのメリットを享受するには,より高レベルの屈折誤差と乱視の管理が必要で4),特に,術後角膜乱視は,1.0Dを超えると裸眼視力が顕著に低下すると報告されている5).そのため,多焦点IOLの1ピース化は,医原性乱視を抑える意味で単焦点IOL以上に重要である.よって,同じプラットフォームの単焦点IOLでみられた問題点と,その影響を確認することは重要である.今回,1ピース回折型多焦点IOLの術後1カ月の臨床成績を,3ピース多焦点IOLと比較検討した.I対象および方法対象は,2011年10月から2012年6月に宮田眼科病院にて白内障手術を受け,1ピース回折型多焦点IOLZMB00(AMO)を挿入した12例23眼(1ピース群)である.対照群は,2009年8月から2011年4月に3ピース回折型多焦点IOLZMA00(AMO)を挿入した16例23眼(3ピース群)である.この後ろ向きの検討は,宮田眼科病院の倫理審査委員会の承認を得たのち,ヘルシンキ宣言に沿って実施された.患者の背景は表1に示す.両群間に有意差はなかった.1ピース群は,2.4mm幅の強角膜1面切開より水晶体を超音波乳化吸引し,水晶体.にZMB00を専用インジェクターで挿入した.3ピース群は,2.75mm幅の強角膜3面切開,あるいは,強角膜1面切開により白内障除去術,同様に,インジェクターで水晶体.に挿入した.全例,単一術者により,切開以外は同一の術式で行った.術中合併症はなかった.IOL度数は,眼軸長を光干渉式IOLマスター(Zeiss)と超音波式で,角膜屈折力をオートケラトメータARK-700(NIDEK)で測定し,A定数(理論値:ZMB00は118.8,ZMA00は119.1)を用いて,正視狙いでSRK/T式で求めた.術後1日,1週,1カ月の視力,屈折誤差を比較検討した.視力は,裸眼遠方視力(uncorrecteddistancevisualacuity:UDVA)と矯正遠方視力(correcteddistancevisualacuity:CDVA),および,30cmにおける裸眼近方視力(uncorrectednearvisualacuity:UNVA)と遠方矯正下近方視力(distancecorrectednearvisualacuity:DCNVA)を測定した.視力は,小数視力をlogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)視力に変換して評価した.屈折誤差は,挿入IOL度数での予想術後屈折値と自覚等価球面度数との差とした.さらに,1ピースIOLにおける.内固定位置の安定性と術後屈折との関係を調べるため,眼軸長(超音波式),または角膜屈折力と術後1カ月の屈折誤差との関係も評価した.両群間の視力はMann-WhitneyのU検定で,それ以外は対応のないt検定で評価した.眼軸長と角膜屈折力の影響は,回帰分析を行い,相関の有無を調べた.p<0.05を統計学的に有意差ありとした.結果は,平均±標準偏差で表記する.II結果術後1日,1週,1カ月の遠方視力(UDVAとCDVA),近方視力(UNVAとDCNVA)を図1,2に示す.UDVAおよびCDVAは,術後1日から1カ月において両群間に差はなかった.近方視力では,1ピース群のUNVAは,術後1日(平均小数視力:0.48,以下同様),1週(0.69),1カ月(0.79)と,3ピース群(それぞれ,0.73,0.87,0.90)に比較して有意に低かった(p=0.012,0.019,0.025).DCNVAでは,術後1日は1ピース群(平均小数視力:0.73)が3ピース群(0.92)より有意に低かった(p=0.02)が,1週後は両群間に差はなかった.術後1カ月の等価球面度数は,1ピース群が0.33±0.22D,3ピース群が0.19±0.48Dで群間差はなく,角膜乱視はそれぞれ1.17±0.60D,0.80±0.45Dと1ピース群が有意に大きかった(p=0.04).1ピース群の屈折誤差は,術後1日で0.52±0.46D,1週で0.38±0.36D,1カ月で0.43±0.27Dと,3ピース群の屈折誤差が術後1日で0.13±0.52D,1週で0.09±0.40D,1カ月で.0.01±0.47Dに対して,各観察時で有意に遠視化した(p=0.009,0.012,0.001)(図3).眼軸長,および,角膜屈折力の屈折誤差への影響を図4に示す.1ピース群では,眼軸長,角膜屈折力に対して有意な相関関係はみられなかったが,3ピース群では,眼軸長が短くなる(p=0.0013,r2=0.357),または角膜屈折力が大きくなる(p<0.0075,r2=0.262)と有意に近視化する傾向を示した.表11ピースと3ピースの回折型多焦点IOLを挿入した対象の背景1ピース群(IOL:ZMB00)年齢(歳)63.1±10.1眼軸長(超音波式)(mm)24.17±1.28(22.1.26.6)術前前房深度(mm)3.28±0.41(2.31.4.09)術前角膜乱視度数(D)0.96±0.52(0.25.2.50)術前暗所瞳孔径(mm)5.75±0.78挿入IOL度数(D)18.4±3.9(10.5.24.5)平均±標準偏差(範囲).p値:対応のないt検定.3ピース群(IOL:ZMA00)58.7±15.723.94±1.61(21.5.27.9)3.16±0.48(1.98.4.21)0.71±0.46(0.00.2.25)5.33±0.9919.2±4.8(7.5.25.0)p値0.420.590.350.090.130.54270あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(136):1ピース群:3ピース群:1ピース群:3ピース群0.80.80.8:1ピース群:3ピース群LogMAR視力:1ピース群:3ピース群p=0.012p=0.019p=0.0250.60.60.6:1ピース群:3ピース群p=0.020LogMAR視0.40.40.40.20.20.20.00.00.0-0.2-0.2-0.2-0.2-0.41D1W1M-0.41D1W1M-0.41D1W1M-0.41D1W1M図1裸眼遠方視力(左)と矯正遠方視力(右)図2裸眼近方視力(左)と遠方矯正下近方視力(右)p:両群間に有意差あり(Mann-Whitney検定).1.0p=0.009p=0.012p=0.001:1ピース群:3ピース群2.01.5y=-0.1505x+6.6641r2=0.262●:1ピース群○:3ピース群1.0y=0.1731x-4.1319r2=0.35650.50.51.51.0屈折誤差(D)屈折誤差(D)0.50.00.00.0-0.5-0.5-1.0-1.0-1.5-0.51D1W1M図3屈折誤差p:両群間に有意差あり(対応のないt検定).III考按本比較では,1ピース群の術後遠方視力は,屈折誤差が遠視化していたが,3ピース群と同様に良好であった.また,3ピース群でみられた眼軸長と角膜屈折力による屈折誤差の変動はなかった.同一のアクリル素材,非球面光学,および,支持部形状をもつ単焦点IOLにおける1ピースと3ピースの比較でも,遠方視力は同等であり,1ピースIOLにおける遠視化,3ピースIOLにおける角膜屈折力と眼軸長の影響が,同様に報告されている1).3ピース群はUNVAが有意に良好であったが,その要因として,自覚屈折値と角膜乱視が考えられる.術後の角膜乱視は1ピース群のほうが有意に大きかったが,多焦点IOLにおける角膜乱視の影響は近方視力より遠方視力のほうが大きい5)ことと,裸眼遠方視力に差はないことから,角膜乱視の影響は少ないと考えられる.一方,自覚屈折値は,有意差はないものの1ピース群(0.33±0.22D)は3ピース群より大きく,遠視化していた.このことから,屈折誤差が主たる要因と考えられた.1ピース群の屈折誤差は遠視化していた.1ピース単焦点IOLでも同様で,A定数の検討が指摘されている1).1ピー-2.0202224262830-1.5404550眼軸長(mm)角膜屈折力(D)図4眼軸長(左)と角膜屈折力(右)の屈折誤差への影響3ピース群はともに有意な相関を示した(回帰直線は実線)が,1ピース群は相関はなかった.スIOLのA定数(理論値)は118.8であるが,IOLマスターのULIBでは119.7に更新されている.症例数が十分ではないが,本検討症例に対して屈折誤差がゼロとなるA定数を求めると119.35となった.多焦点IOLにおける遠視化は,裸眼近方視力の低下をもたらすため6,7),1段階小さい度数の選択,SRK/T以外の度数計算法の使用,A定数の修正などの対応を行うことが必要である.3ピース群の屈折誤差は,眼軸長と角膜屈折力と相関を示した.変動は単焦点IOLの結果より小さいが,軸性近視眼では遠視化,屈折性近視では近視化することが示唆される1,8).ZMA00使用時には,SRK/Tのみで度数計算するのではなく,他のIOL度数計算により確認することが必要と考える.1ピースのZMB00では,眼軸長と角膜屈折力による変動がないことから,ZCB00と同様に,良好な術後の.内固定が得られていると示唆された.文献1)宮田和典,片岡康志,松永次郎ほか:1ピース非球面眼内レンズZCB00の早期臨床成績.あたらしい眼科29:14151418,2012(137)あたらしい眼科Vol.30,No.2,20132712)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20103)AgrestaB,KnorzMC,KohnenTetal:Distanceandnearvisualacuityimprovementafterimplantationofmultifocalintraocularlensesincataractpatientswithpresbyopia:asystematicreview.JRefractSurg28:426-435,4)deVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatisfactionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:859-865,20115)HayashiK,ManabeS,YoshidaMetal:Effectofastigmatismonvisualacuityineyeswithadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1323-1329,20106)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsitukeratomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,20097)LeeES,LeeSY,JeongSYetal:EffectofpostoperativerefractiveerroronvisualacuityandpatientsatisfactionafterimplantationoftheArraymultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg31:1960-1965,20058)NawaY,UedaT,NakatsukaMetal:Accommodationobtainedper1.0mmforwardmovementofaposteriorchamberintraocularlens.JCataractRefractSurg29:2069-2072,2003***272あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(138)