《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):742.746,2020c同一患者における360°SutureTrabeculotomyAbInternoとMetalTrabeculotomyの術後3年成績の比較柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CComparisonofthe3-YearOutcomesbetween360-DegreeSutureTrabeculotomyAbInternoandMetalTrabeculotomyMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:同一患者におけるC360°CsutureCtrabeculotomyCabinterno白内障同時手術(S-LOT)と,sinusotomy(SIN)およびCdeepCsclerectomy(DS)併用Cmetaltrabeculotomy(LOT)白内障同時手術(LSD)の術後C3年成績の比較.対象および方法:永田眼科においてC2014年C10月以降,緑内障手術既往歴のない患者の片眼にCS-LOT,僚眼にCLSDを施行した連続症例C14例を対象とした.診療録から後ろ向きに術後眼圧と術後合併症について比較検討した.結果:病型内訳は開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例であった.S-LOT群とCLSD群の術前眼圧はそれぞれC17.2±2.8CmmHg,17.6±3.2CmmHgであり,有意差を認めなかった.両群とも術後すべての観察期間で術前と比較し有意な眼圧下降を認めたが,術後眼圧経過に両群間で有意差を認めなかった.術後C3年生存率は目標眼圧15CmmHg以下でそれぞれC50%とC43%,18CmmHg以下でC100%とC86%であり,両群の生存率に有意差を認めなかった.術後C30CmmHg以上の一過性高眼圧をCS-LOT群でC5眼,LSD群でC1眼に認めた.結論:S-LOT白内障同時手術は術後C3年の眼圧下降効果においてCSINおよびCDS併用CLOT白内障同時手術と差がなかった.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCofC360-degreeCsuturetrabeculotomy(S-LOT)asCcomparedCwithCmetaltrabeculotomy(LOT)withCsinusotomyCandCdeepsclerectomy(LSD).CSubjectsandMethods:WeCretrospec-tivelyreviewedthemedicalrecordsof14glaucomapatients(n=28eyes)whounderwentconsecutiveS-LOTwithcataractsurgeryononeeyeandLSDwithcataractsurgeryonthefelloweyeatNagataEyeClinicafterOctober2014.Weinvestigatedintraocularpressure(IOP),glaucomamediations,surgicalsuccess,andpostoperativecompli-cations.CSurgicalCsuccessCwasCde.nedCasCanCIOPCofC≦15CmmHgCandC18CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomaCmedica-tions.Results:The14patientsincluded9withopenangleglaucoma,4withnormaltensionglaucoma,and1withexfoliationCglaucoma.CPreoperativeCIOPsCwereC17.2±2.8CmmHgCinCtheCS-LOTCgroupCandC17.6±3.2CmmHgCinCtheCLSDgroup.ThemeanpostoperativeIOPandthenumberofanti-glaucomamedicationsweresigni.cantlyreducedinCbothCgroups,CandCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroups.CInCtheCS-LOTCandCLSDCgroups,Cthesurgicalsuccessratesat3-yearspostoperativewere50%and43%(IOP≦15mmHg)and100%and86%(IOP≦18mmHg),respectively,withnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.IOPspikesof>30CmmHgwereseenin5eyespostS-LOTand1eyepostLSD.Conclusion:Nosigni.cantdi.erencewasfoundinIOPreductionbetweenS-LOTwithcataractsurgeryandLSDwithcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):742.746,C2020〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,深層強膜弁切除.C360-degreesuturetrabeculotomy,abinterno,metaltrabeculotomy,sinusotomy,deepsclerectomy.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒C631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC742(98)はじめに線維柱帯切開術(metaltrabeculotomy:metalLOT)は,房水流出抵抗が高いとされている傍CSchlemm管内皮組織を金属プローブでC120°切開し,房水の流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的流出路再建術である.これまで白内障との同時手術も含め多数の長期成績と安全性が示されてきた1.6).安全性は高いものの,濾過手術と比較して眼圧下降効果が劣ることから,将来の追加濾過手術に備えて上方の結膜温存目的に下半周でCmetalLOTを施行し5,6),LOTの問題点であった術後一過性高眼圧の減少やさらなる眼圧下降効果増強を目的としたサイヌソトミー(sinusotomy:SIN),深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)を併用することが可能4.6)である.一方,同じ流出路再建術の一つであるC360°Csuturetrabec-ulotomyCabinterno(360S-LOTCabinterno)は,ナイロン糸をCSchlemm管に通して傍CSchlemm管内皮組織を360°切開する術式7)である.Chinら8)が報告したC360°CsutureCtra-beculotomy変法は眼外法であるが,360S-LOTCabCinternoは角膜切開で前房側からCSchlemm管にアプローチする術式である.metalLOTに比べてより広範囲にCSchlemm管を切開でき,また結膜切開を必要としないため将来の濾過手術に備えて結膜と強膜を全周温存できるという利点がある.集合管の分布には偏りがあるため9,10),切開範囲の広いC360S-LOT後の眼圧がCmetalLOTに比較して有意に術後眼圧が低かったとする報告8,11,12)がある一方で,切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13)がある.切開範囲と術式による眼圧下降効果の差を検討することは,今後術式を選択する際の判断基準の一つになると考えられる.今回,患者背景による個体差の影響を排除するため同一患者で片眼にC360S-LOTCabCinterno+白内障手術(phaco-emulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:PEA+IOL),僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した症例の術後眼圧下降効果と合併症について検討した.CI対象および方法2014年C10月以降,永田眼科において緑内障手術既往歴のない患者の片眼にC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL,僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した連続症例C14例C28眼を対象とした.当施設では流出路再建術・白内障同時手術施行対象を,白内障のある開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,落屑緑内障患者としている.閉塞隅角緑内障,炎症既往のある続発緑内障,血管新生緑内障患者は本研究には含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,術後追加手術介入の有無と合併症を調査し,術後眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧(15mmHg,18CmmHg)におけるC3年生存率,合併症の頻度を両術式間で比較検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.耳側角膜サイドポートから前房内に粘弾性物質を満たし,隅角鏡下に鼻側線維柱帯を確認した.隅角鏡下に鼻側線維柱帯内壁をCMVRナイフで切開し糸の挿入開始点を作製した.熱加工して先端を丸くしたC5-0ナイロン糸を耳側角膜サイドポートから前房内へ挿入し,隅角鏡下に内壁切開部位からCSch-lemm管内へナイロン糸を挿入し360°通糸した.対側CSch-lemm管から出た糸を把持し,眼外へ引き出して線維柱帯を全周切開した.その後白内障手術を上方角膜切開で施行し,術中の前房出血を洗浄し終了した.CmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.円蓋部基底で下方結膜を切開,左右眼ともC8時方向にC4C×4Cmmの外層強膜弁,3.5C×3.5Cmmの深層強膜弁とした二重強膜弁を作製しCSchlemm管を露出した.その後上方角膜切開で白内障手術を施行した.白内障手術終了後,トラベクロトームを強膜弁両側からCSchlemm管にそれぞれ挿入回転させ,線維柱帯内壁を切開した.Schlemm管露出部の内皮網を除去し,二重強膜弁の深層強膜弁を切除,外層強膜弁を縫合し,ケリーCDescemet膜パンチでC1カ所CSINを施行,結膜を縫合した.最後に術中の前房出血を洗浄し,終了した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧(15CmmHg,18CmmHg)ごとのC3年生存率,術後合併症を術式間で比較検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術式間の術前眼圧,術前平均Cmeandevi-ation(MD)値の比較にはCt検定,術前点眼スコアの比較にはCMann-Whitney検定,術眼の左右差,術後合併症頻度の比較にはCc2検定もしくはCFisherの直接確率計算法を用い,術後眼圧の推移にはone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較,点眼スコアの推移にはCKruskal-WallisとCDunnettの多重比較,術式間の眼圧・点眼数推移の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作製し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.II結果表1に連続症例C14例の患者背景を示した.男性C7例,女性C7例,平均年齢(平均C±標準偏差)75.7C±4.2(70.86)歳,緑内障病型内訳は,原発開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例,全症例で両眼同じ病型であった.360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群で術眼の左右に差はなく,術前平均眼圧,術前平均点眼スコア,術前平均CMD値に有意差を認めなかった.図1に術式別の眼圧経過を示した.360S-LOTabinterno+PEA+IOL群は術前C17.2C±2.8mmHgから術C3年後にC14.1±2.4mmHg,metalLOT+SIN+DS群は術前C17.6C±3.2mmHgから術C3年後にC14.3C±2.0CmmHgと有意な眼圧下降を認めた.両術式とも術前と比較して術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).図2に術式別の点眼スコアの推移を示した.360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC0.6±0.3,metalCLOT+SIN+DS群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC1.0C±0.4と有意な減少を認めた.両術式とも術後すべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(p<0.05,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で点眼スコア経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(15,18CmmHg)ごとの生存曲線を術式別に示した.成功基準を15CmmHgとした場合,術C3年後の生存率はC360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.65,CLog-ranktest)(図3a).成功基準をC18CmmHgとした場合,術C3表1患者背景症例数平均年齢男:女POAG:NTG:EXG術眼右:左術前平均眼圧術前平均点眼スコア術前平均CMD値14例(各14眼)75.7±4.2(7C0.C86)歳7:79:4:1C360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCp6:88:6C0.22*17.2±2.8(1C4.C24)CmmHgC17.6±3.2(1C3.C26)CmmHgC0.17†2.6±0.8(C1.0.C4.0)C2.6±0.8(C1.0.C4.0)C0.31※.9.8±7.9(C.28.1.C.0.5)CdBC.14.7±8.5(C.30.3.C.2.1)CdBC0.31†(mean±SD)(range)すべて白内障同時手術症例,緑内障手術既往なし.点眼スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG:落屑緑内障.MD:meandeviation,*Cc2test,†t-test,C※Mann-Whitneytest.C3.53201510眼圧(mmHg)2.521.5点眼スコア10.500術前1M3M6M9M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)図1術式別眼圧経過術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(*p<0.05,**p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).観察期間(mean±SD)図2術式別点眼スコアの推移術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(+p<0.05,*p<0.01,**p<0.001,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).年後の生存率はそれぞれC100%,86%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest)(図3b).表2に術後合併症の内訳と眼数を示した.3Cmm以上の前房出血を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC3眼(21%)だったが,metalLOT+SIN+DS群には認めなかった.C360S-LOTCabinterno後の前房出血に対し前房洗浄を必要としたものはC1眼,inthebaghyphemaとなったためヤグレーザー後.切開術を必要としたものはC1眼であった.術後30CmmHg以上の一過性高眼圧を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC5眼(36%),metalCLOT+SIN+DS群で1眼(7%)だった.360S-LOTCabinterno後の一過性高眼圧症例のうちC1例は,僚眼のCmetalLOT+SIN+DS後にも一過性高眼圧を認めていた.前房出血と一過性高眼圧の頻度に両術式間で有意差を認めなかった.れたためと考えられる.metalLOT単独手術の術C5年後の平均眼圧はC18CmmHgとされる1,2)が,SINとCDSを併用した場合の術C5年後の平均眼圧は既報4.6)においてC13.15CmmHgである.今回の研究でもCSINとCDS併用によりCmetalCLOT単独手術より眼圧下降が得られ,metalCLOT+SIN+DSはSchlemm管C120°切開ではあるがC360°切開と同様の眼圧下降効果が得られたと考えられる.術後合併症として,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群にC3Cmm以上の前房出血をC3眼(21%),30CmmHg以上の術後一過性高眼圧をC5眼(36%)に認めた.これら合併症の頻度は既報8,11.13)と同様であった.一方,metalCLOT+SINCa1009080III考按360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLは,術後C3年経過において有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報14,15)と同様の結果であった.目標眼圧を生存率(%)生存率(%)70605040302015CmmHgとした場合のC3年生存率はC50%であり,この点にC10おいても既報14)と同様の結果であった.metalLOT+SIN+0DSの術後C3年経過においても,有意な眼圧下降効果と緑内生存期間(M)010203040障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報4,6)と同様の結果Cb100であった.S-LOTとCmetalLOTの術後成績を比較した既C90報8,12)では,S-LOT眼外法ではあるが,S-LOTのほうがC8070metalLOTよりも術後眼圧が低く,生存率が高いという結果であった.その理由として,集合管は不規則に存在するため全周のCSchlemm管を切開するほうが集合管への流出が効60504030果的であるため9,10)としている.しかし一方で,Schlemm管C20の切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13),C10S-LOT眼外法とCmetalLOTが同等の眼圧下降効果であったC0症例についての報告11)があり,切開範囲と眼圧下降効果の生存期間(M)相関関係はまだ明らかではない.今回の研究で,360S-LOT図3術式別生存曲線abCinterno+PEA+IOLとCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+a:目標眼圧C15CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabIOLの術後C3年における眼圧下降効果と生存率に統計的な有interno群とCmetalLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,有意差を認めなかった(p=0.65,Log-ranktest).意差を認めなかった.この理由として,既報8)ではCmetalCb:目標眼圧C18CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabLOTが単独手術で施行されたことに対し,筆者らはCmetalinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC100%,86LOTにCSINとCDSを併用し,さらなる眼圧下降効果が得ら%であり,有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest).表2術後合併症010203040360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCpC3Cmm以上の前房出血3眼(21%)0眼C0.11*前房洗浄1眼Cinthebaghyphema1眼一過性高眼圧≧3C0CmmHg5眼(36%)1眼(7%)C0.09**Fisher’sexacttest.C+DS群にはこれらの合併症がそれぞれC0眼,1眼であったこと,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の前房出血症例には前房洗浄症例やCinthebaghyphema症例を認めたことから,統計的有意差はないもののC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLでは切開範囲拡張に起因すると考えられる前房出血の多さと,それによる合併症が多い傾向にあると考えられる.これらのことから,両術式間で手術方法を選択する場合,術後期待眼圧は同等と考えられるため,結膜と強膜を温存するという点でC360S-LOTabinternoを選択する,もしくはC360S-LOTCabinternoの術後前房出血の多さや一過性高眼圧の頻度の多さを避けて,metalCLOT+SIN+DSを選択することが考えられる.metalCLOT+SIN+DSは下方からアプローチすると将来の濾過手術に備えて上方結膜の温存が可能である.さらに,metalLOTは初回手術後の眼圧経過が長期に良好のものは再眼圧上昇時に対側下方からの再手術で同様の効果が期待できる16)ため,再手術として濾過手術を避けたい場合に有用であると考えられる.術式選択において手術時間も考慮される点の一つと考えられるが,今回の研究でC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の平均手術時間はC41.7±13.0分,metalCLOT+SIN+DS+PEA+IOL群の平均手術時間はC34.6C±6.0分であり,統計的有意差はないが,C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術式の煩雑さから手術時間が長い傾向にあった.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.つまり左右眼と術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加観血的手術介入の適応と時期は,病型と病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定が事前に統一されていない.また対象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であり,本研究の結果の解釈には限界があると考える.今回の研究で,360S-LOTabinterno+PEA+IOL,metalLOT+SIN+DS+PEA+IOLは両術式とも術後C3年において有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降効果,術C3年後の生存率において両術式間で差がなかった.術後前房出血,一過性高眼圧といった合併症の頻度に両術式間で統計的有意差がなかった.今後さらに長期の経過について検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼C50:1727-1733,C19963)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19964)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科C32:583-586,C20157)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncompara-tive,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCabCinternoCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CClinCOphthalmolC9:63-68,C20158)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20129)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dementionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.CExpEyeResC92:104-111,C201110)HannCR,FautschMP:Preferential.uid.owinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOph-thalmolVisSciC50:1692-1697,C200911)木嶋理紀,陳進輝,新明康弘ほか:360°Csuturetrabecu-lotomy変法とCtrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科C33:1779-1783,C201612)SatoCT,CHirataCA,CMizoguchiT:OutcomeCofC360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCwithCdeepCsclerectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCcoexistingCcataract.CClinCOphthalmolC8:1301-1310,C201413)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentCofCtheCincisionCinCtheCSchlemmCcanalConCtheCsurgi-caloutcomesofsuturetrabeculotomyforopen-angleglau-coma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C201714)SatoT,KawajiT,HirataAetal:360-degreesuturetra-beculotomyCabCinternoCtoCtreatCopen-angleglaucoma:C2-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:915-923,C201815)ShinmeiY,KijimaR,NittaTetal:Modi.ed360-degreesutureCtrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCintraocularClensCimplantationCforCglaucomaCandCcoex-istingCcataract.CJCCataractCRe.actCSurgC42:1634-1641,C201616)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C2009C***