‘360°スーチャートラベクロトミー’ タグのついている投稿

同一患者における360° Suture Trabeculotomy Ab InternoとMetal Trabeculotomyの術後3年成績の比較

2020年6月30日 火曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(6):742.746,2020c同一患者における360°SutureTrabeculotomyAbInternoとMetalTrabeculotomyの術後3年成績の比較柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CComparisonofthe3-YearOutcomesbetween360-DegreeSutureTrabeculotomyAbInternoandMetalTrabeculotomyMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:同一患者におけるC360°CsutureCtrabeculotomyCabinterno白内障同時手術(S-LOT)と,sinusotomy(SIN)およびCdeepCsclerectomy(DS)併用Cmetaltrabeculotomy(LOT)白内障同時手術(LSD)の術後C3年成績の比較.対象および方法:永田眼科においてC2014年C10月以降,緑内障手術既往歴のない患者の片眼にCS-LOT,僚眼にCLSDを施行した連続症例C14例を対象とした.診療録から後ろ向きに術後眼圧と術後合併症について比較検討した.結果:病型内訳は開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例であった.S-LOT群とCLSD群の術前眼圧はそれぞれC17.2±2.8CmmHg,17.6±3.2CmmHgであり,有意差を認めなかった.両群とも術後すべての観察期間で術前と比較し有意な眼圧下降を認めたが,術後眼圧経過に両群間で有意差を認めなかった.術後C3年生存率は目標眼圧15CmmHg以下でそれぞれC50%とC43%,18CmmHg以下でC100%とC86%であり,両群の生存率に有意差を認めなかった.術後C30CmmHg以上の一過性高眼圧をCS-LOT群でC5眼,LSD群でC1眼に認めた.結論:S-LOT白内障同時手術は術後C3年の眼圧下降効果においてCSINおよびCDS併用CLOT白内障同時手術と差がなかった.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCofC360-degreeCsuturetrabeculotomy(S-LOT)asCcomparedCwithCmetaltrabeculotomy(LOT)withCsinusotomyCandCdeepsclerectomy(LSD).CSubjectsandMethods:WeCretrospec-tivelyreviewedthemedicalrecordsof14glaucomapatients(n=28eyes)whounderwentconsecutiveS-LOTwithcataractsurgeryononeeyeandLSDwithcataractsurgeryonthefelloweyeatNagataEyeClinicafterOctober2014.Weinvestigatedintraocularpressure(IOP),glaucomamediations,surgicalsuccess,andpostoperativecompli-cations.CSurgicalCsuccessCwasCde.nedCasCanCIOPCofC≦15CmmHgCandC18CmmHgCwithCorCwithoutCglaucomaCmedica-tions.Results:The14patientsincluded9withopenangleglaucoma,4withnormaltensionglaucoma,and1withexfoliationCglaucoma.CPreoperativeCIOPsCwereC17.2±2.8CmmHgCinCtheCS-LOTCgroupCandC17.6±3.2CmmHgCinCtheCLSDgroup.ThemeanpostoperativeIOPandthenumberofanti-glaucomamedicationsweresigni.cantlyreducedinCbothCgroups,CandCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCtwoCgroups.CInCtheCS-LOTCandCLSDCgroups,Cthesurgicalsuccessratesat3-yearspostoperativewere50%and43%(IOP≦15mmHg)and100%and86%(IOP≦18mmHg),respectively,withnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroups.IOPspikesof>30CmmHgwereseenin5eyespostS-LOTand1eyepostLSD.Conclusion:Nosigni.cantdi.erencewasfoundinIOPreductionbetweenS-LOTwithcataractsurgeryandLSDwithcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(6):742.746,C2020〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,深層強膜弁切除.C360-degreesuturetrabeculotomy,abinterno,metaltrabeculotomy,sinusotomy,deepsclerectomy.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒C631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC742(98)はじめに線維柱帯切開術(metaltrabeculotomy:metalLOT)は,房水流出抵抗が高いとされている傍CSchlemm管内皮組織を金属プローブでC120°切開し,房水の流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的流出路再建術である.これまで白内障との同時手術も含め多数の長期成績と安全性が示されてきた1.6).安全性は高いものの,濾過手術と比較して眼圧下降効果が劣ることから,将来の追加濾過手術に備えて上方の結膜温存目的に下半周でCmetalLOTを施行し5,6),LOTの問題点であった術後一過性高眼圧の減少やさらなる眼圧下降効果増強を目的としたサイヌソトミー(sinusotomy:SIN),深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)を併用することが可能4.6)である.一方,同じ流出路再建術の一つであるC360°Csuturetrabec-ulotomyCabinterno(360S-LOTCabinterno)は,ナイロン糸をCSchlemm管に通して傍CSchlemm管内皮組織を360°切開する術式7)である.Chinら8)が報告したC360°CsutureCtra-beculotomy変法は眼外法であるが,360S-LOTCabCinternoは角膜切開で前房側からCSchlemm管にアプローチする術式である.metalLOTに比べてより広範囲にCSchlemm管を切開でき,また結膜切開を必要としないため将来の濾過手術に備えて結膜と強膜を全周温存できるという利点がある.集合管の分布には偏りがあるため9,10),切開範囲の広いC360S-LOT後の眼圧がCmetalLOTに比較して有意に術後眼圧が低かったとする報告8,11,12)がある一方で,切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13)がある.切開範囲と術式による眼圧下降効果の差を検討することは,今後術式を選択する際の判断基準の一つになると考えられる.今回,患者背景による個体差の影響を排除するため同一患者で片眼にC360S-LOTCabCinterno+白内障手術(phaco-emulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:PEA+IOL),僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した症例の術後眼圧下降効果と合併症について検討した.CI対象および方法2014年C10月以降,永田眼科において緑内障手術既往歴のない患者の片眼にC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL,僚眼にCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLを施行した連続症例C14例C28眼を対象とした.当施設では流出路再建術・白内障同時手術施行対象を,白内障のある開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,落屑緑内障患者としている.閉塞隅角緑内障,炎症既往のある続発緑内障,血管新生緑内障患者は本研究には含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,術後追加手術介入の有無と合併症を調査し,術後眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧(15mmHg,18CmmHg)におけるC3年生存率,合併症の頻度を両術式間で比較検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.耳側角膜サイドポートから前房内に粘弾性物質を満たし,隅角鏡下に鼻側線維柱帯を確認した.隅角鏡下に鼻側線維柱帯内壁をCMVRナイフで切開し糸の挿入開始点を作製した.熱加工して先端を丸くしたC5-0ナイロン糸を耳側角膜サイドポートから前房内へ挿入し,隅角鏡下に内壁切開部位からCSch-lemm管内へナイロン糸を挿入し360°通糸した.対側CSch-lemm管から出た糸を把持し,眼外へ引き出して線維柱帯を全周切開した.その後白内障手術を上方角膜切開で施行し,術中の前房出血を洗浄し終了した.CmetalCLOT+SIN+DS+PEA+IOLの術式を以下に示す.2%キシロカインによるCTenon.下麻酔下に施行した.円蓋部基底で下方結膜を切開,左右眼ともC8時方向にC4C×4Cmmの外層強膜弁,3.5C×3.5Cmmの深層強膜弁とした二重強膜弁を作製しCSchlemm管を露出した.その後上方角膜切開で白内障手術を施行した.白内障手術終了後,トラベクロトームを強膜弁両側からCSchlemm管にそれぞれ挿入回転させ,線維柱帯内壁を切開した.Schlemm管露出部の内皮網を除去し,二重強膜弁の深層強膜弁を切除,外層強膜弁を縫合し,ケリーCDescemet膜パンチでC1カ所CSINを施行,結膜を縫合した.最後に術中の前房出血を洗浄し,終了した.検討項目を以下に示す.手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧(15CmmHg,18CmmHg)ごとのC3年生存率,術後合併症を術式間で比較検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤と計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術式間の術前眼圧,術前平均Cmeandevi-ation(MD)値の比較にはCt検定,術前点眼スコアの比較にはCMann-Whitney検定,術眼の左右差,術後合併症頻度の比較にはCc2検定もしくはCFisherの直接確率計算法を用い,術後眼圧の推移にはone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較,点眼スコアの推移にはCKruskal-WallisとCDunnettの多重比較,術式間の眼圧・点眼数推移の比較にはCtwo-wayANOVAによる検定を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作製し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.II結果表1に連続症例C14例の患者背景を示した.男性C7例,女性C7例,平均年齢(平均C±標準偏差)75.7C±4.2(70.86)歳,緑内障病型内訳は,原発開放隅角緑内障がC9例,正常眼圧緑内障がC4例,落屑緑内障がC1例,全症例で両眼同じ病型であった.360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群で術眼の左右に差はなく,術前平均眼圧,術前平均点眼スコア,術前平均CMD値に有意差を認めなかった.図1に術式別の眼圧経過を示した.360S-LOTabinterno+PEA+IOL群は術前C17.2C±2.8mmHgから術C3年後にC14.1±2.4mmHg,metalLOT+SIN+DS群は術前C17.6C±3.2mmHgから術C3年後にC14.3C±2.0CmmHgと有意な眼圧下降を認めた.両術式とも術前と比較して術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).図2に術式別の点眼スコアの推移を示した.360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC0.6±0.3,metalCLOT+SIN+DS群は術前C2.6C±0.2から術C3年後にC1.0C±0.4と有意な減少を認めた.両術式とも術後すべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(p<0.05,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で点眼スコア経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(15,18CmmHg)ごとの生存曲線を術式別に示した.成功基準を15CmmHgとした場合,術C3年後の生存率はC360S-LOTCabinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.65,CLog-ranktest)(図3a).成功基準をC18CmmHgとした場合,術C3表1患者背景症例数平均年齢男:女POAG:NTG:EXG術眼右:左術前平均眼圧術前平均点眼スコア術前平均CMD値14例(各14眼)75.7±4.2(7C0.C86)歳7:79:4:1C360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCp6:88:6C0.22*17.2±2.8(1C4.C24)CmmHgC17.6±3.2(1C3.C26)CmmHgC0.17†2.6±0.8(C1.0.C4.0)C2.6±0.8(C1.0.C4.0)C0.31※.9.8±7.9(C.28.1.C.0.5)CdBC.14.7±8.5(C.30.3.C.2.1)CdBC0.31†(mean±SD)(range)すべて白内障同時手術症例,緑内障手術既往なし.点眼スコアは炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤点眼をC2剤とした.POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG:落屑緑内障.MD:meandeviation,*Cc2test,†t-test,C※Mann-Whitneytest.C3.53201510眼圧(mmHg)2.521.5点眼スコア10.500術前1M3M6M9M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)図1術式別眼圧経過術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(*p<0.05,**p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).両術式間で眼圧経過に有意差を認めなかった(p=0.34,two-wayANOVA).観察期間(mean±SD)図2術式別点眼スコアの推移術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な点眼スコアの減少を認めた(+p<0.05,*p<0.01,**p<0.001,CKruskal-Wallis+Dunnett’stest).両術式間で経過に有意差を認めなかった(p=0.08,two-wayANOVA).年後の生存率はそれぞれC100%,86%であり,術式間で有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest)(図3b).表2に術後合併症の内訳と眼数を示した.3Cmm以上の前房出血を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC3眼(21%)だったが,metalLOT+SIN+DS群には認めなかった.C360S-LOTCabinterno後の前房出血に対し前房洗浄を必要としたものはC1眼,inthebaghyphemaとなったためヤグレーザー後.切開術を必要としたものはC1眼であった.術後30CmmHg以上の一過性高眼圧を認めたものはC360S-LOTCabinterno群でC5眼(36%),metalCLOT+SIN+DS群で1眼(7%)だった.360S-LOTCabinterno後の一過性高眼圧症例のうちC1例は,僚眼のCmetalLOT+SIN+DS後にも一過性高眼圧を認めていた.前房出血と一過性高眼圧の頻度に両術式間で有意差を認めなかった.れたためと考えられる.metalLOT単独手術の術C5年後の平均眼圧はC18CmmHgとされる1,2)が,SINとCDSを併用した場合の術C5年後の平均眼圧は既報4.6)においてC13.15CmmHgである.今回の研究でもCSINとCDS併用によりCmetalCLOT単独手術より眼圧下降が得られ,metalCLOT+SIN+DSはSchlemm管C120°切開ではあるがC360°切開と同様の眼圧下降効果が得られたと考えられる.術後合併症として,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群にC3Cmm以上の前房出血をC3眼(21%),30CmmHg以上の術後一過性高眼圧をC5眼(36%)に認めた.これら合併症の頻度は既報8,11.13)と同様であった.一方,metalCLOT+SINCa1009080III考按360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLは,術後C3年経過において有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報14,15)と同様の結果であった.目標眼圧を生存率(%)生存率(%)70605040302015CmmHgとした場合のC3年生存率はC50%であり,この点にC10おいても既報14)と同様の結果であった.metalLOT+SIN+0DSの術後C3年経過においても,有意な眼圧下降効果と緑内生存期間(M)010203040障点眼薬の減少効果を認め,これらは既報4,6)と同様の結果Cb100であった.S-LOTとCmetalLOTの術後成績を比較した既C90報8,12)では,S-LOT眼外法ではあるが,S-LOTのほうがC8070metalLOTよりも術後眼圧が低く,生存率が高いという結果であった.その理由として,集合管は不規則に存在するため全周のCSchlemm管を切開するほうが集合管への流出が効60504030果的であるため9,10)としている.しかし一方で,Schlemm管C20の切開範囲と眼圧下降効果は相関しないという報告13),C10S-LOT眼外法とCmetalLOTが同等の眼圧下降効果であったC0症例についての報告11)があり,切開範囲と眼圧下降効果の生存期間(M)相関関係はまだ明らかではない.今回の研究で,360S-LOT図3術式別生存曲線abCinterno+PEA+IOLとCmetalCLOT+SIN+DS+PEA+a:目標眼圧C15CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabIOLの術後C3年における眼圧下降効果と生存率に統計的な有interno群とCmetalLOT+SIN+DS群でそれぞれC50%,43%であり,有意差を認めなかった(p=0.65,Log-ranktest).意差を認めなかった.この理由として,既報8)ではCmetalCb:目標眼圧C18CmmHg以下.術C3年後の生存率はC360S-LOTabLOTが単独手術で施行されたことに対し,筆者らはCmetalinterno群とCmetalCLOT+SIN+DS群でそれぞれC100%,86LOTにCSINとCDSを併用し,さらなる眼圧下降効果が得ら%であり,有意差を認めなかった(p=0.15,Log-ranktest).表2術後合併症010203040360S-LOTabinternoCmetalLOT+SIN+DSCpC3Cmm以上の前房出血3眼(21%)0眼C0.11*前房洗浄1眼Cinthebaghyphema1眼一過性高眼圧≧3C0CmmHg5眼(36%)1眼(7%)C0.09**Fisher’sexacttest.C+DS群にはこれらの合併症がそれぞれC0眼,1眼であったこと,360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の前房出血症例には前房洗浄症例やCinthebaghyphema症例を認めたことから,統計的有意差はないもののC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOLでは切開範囲拡張に起因すると考えられる前房出血の多さと,それによる合併症が多い傾向にあると考えられる.これらのことから,両術式間で手術方法を選択する場合,術後期待眼圧は同等と考えられるため,結膜と強膜を温存するという点でC360S-LOTabinternoを選択する,もしくはC360S-LOTCabinternoの術後前房出血の多さや一過性高眼圧の頻度の多さを避けて,metalCLOT+SIN+DSを選択することが考えられる.metalCLOT+SIN+DSは下方からアプローチすると将来の濾過手術に備えて上方結膜の温存が可能である.さらに,metalLOTは初回手術後の眼圧経過が長期に良好のものは再眼圧上昇時に対側下方からの再手術で同様の効果が期待できる16)ため,再手術として濾過手術を避けたい場合に有用であると考えられる.術式選択において手術時間も考慮される点の一つと考えられるが,今回の研究でC360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群の平均手術時間はC41.7±13.0分,metalCLOT+SIN+DS+PEA+IOL群の平均手術時間はC34.6C±6.0分であり,統計的有意差はないが,C360S-LOTCabCinterno+PEA+IOL群は術式の煩雑さから手術時間が長い傾向にあった.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.つまり左右眼と術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加観血的手術介入の適応と時期は,病型と病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定が事前に統一されていない.また対象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であり,本研究の結果の解釈には限界があると考える.今回の研究で,360S-LOTabinterno+PEA+IOL,metalLOT+SIN+DS+PEA+IOLは両術式とも術後C3年において有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降効果,術C3年後の生存率において両術式間で差がなかった.術後前房出血,一過性高眼圧といった合併症の頻度に両術式間で統計的有意差がなかった.今後さらに長期の経過について検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼C50:1727-1733,C19963)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19964)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科C32:583-586,C20157)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncompara-tive,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCabCinternoCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CClinCOphthalmolC9:63-68,C20158)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20129)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dementionalmicro-computedtomography(3D-micro-CT)C.CExpEyeResC92:104-111,C201110)HannCR,FautschMP:Preferential.uid.owinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOph-thalmolVisSciC50:1692-1697,C200911)木嶋理紀,陳進輝,新明康弘ほか:360°Csuturetrabecu-lotomy変法とCtrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科C33:1779-1783,C201612)SatoCT,CHirataCA,CMizoguchiT:OutcomeCofC360CdegreesCsutureCtrabeculotomyCwithCdeepCsclerectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCcoexistingCcataract.CClinCOphthalmolC8:1301-1310,C201413)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiK:TheCe.ectCofCtheCextentCofCtheCincisionCinCtheCSchlemmCcanalConCtheCsurgi-caloutcomesofsuturetrabeculotomyforopen-angleglau-coma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C201714)SatoT,KawajiT,HirataAetal:360-degreesuturetra-beculotomyCabCinternoCtoCtreatCopen-angleglaucoma:C2-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:915-923,C201815)ShinmeiY,KijimaR,NittaTetal:Modi.ed360-degreesutureCtrabeculotomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCintraocularClensCimplantationCforCglaucomaCandCcoex-istingCcataract.CJCCataractCRe.actCSurgC42:1634-1641,C201616)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C2009C***

360° Suture Trabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):433.437,2017c360°SutureTrabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例森川幹郎*1細田進悟*2里見真衣子*3八木橋めぐみ*3窪野裕久*3渡辺一弘*3鈴木浩太郎*3川村真理*3*1東京都済生会中央病院眼科*2独立行政法人国立病院機構埼玉病院眼科*3財団法人神奈川県警友会けいゆう病院眼科TwoCasesofCytomegalovirusCornealEndotheliitisDiagnosedafter360-degreeSutureTrabeculotomyMikioMorikawa1),ShingoHosoda2),MaikoSatomi3),MegumiYagihashi3),HirohisaKubono3),KazuhiroWatanabe3),KotaroSuzuki3)andMariKawamura3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital360°スーチャートラベクロトミー(360°suture-trabeculotomy:S-LOT)施行後にサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎と診断した2例を報告する.2例とも虹彩炎・続発緑内障として治療され,角膜浮腫を伴う虹彩炎,角膜後面沈着物,角膜内皮細胞密度減少を認めていた.眼圧コントロール不良のため,S-LOTを施行した.術後眼圧は良好だったが,症例1は術後6カ月で炎症再燃,眼圧上昇し,トラベクレクトミー(trabeculectomy:LEC)施行に至った.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を施行した.症例2は軽度炎症再燃に伴いPCR検査を行い,CMV角膜内皮炎と診断した.抗CMV治療導入後は所見の改善を認め,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.CMV角膜内皮炎に伴う続発緑内障に対しS-LOTは有効であったが,良好な眼圧コントロールを維持するには抗CMV治療を早期に始める必要があることが示唆された.Wereport2casesofcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisdiagnosedafter360-degreesuturetrabecu-lotomy(S-LOT).Bothpatientsweretreatedassecondaryglaucomaassociatedwithiritis.Iritiswithcornealede-ma,keraticprecipitatesanddecreasedcornealendothelialcelldensitywereobserved.Intraocularpressure(IOP)wasuncontrollable;S-LOTwasthereforeperformedinbothcases.Inonecase,in.ammationrecurredwithIOPelevation6monthsafterS-LOT,sotrabeculectomywasperformed;wesimultaneouslyobtainedtheaqueoushumorsampleforpolymerasechainreaction(PCR).Intheothercase,wetookthesamplebeforeIOPelevation.CMVDNAwasrevealedbyPCR;in.ammationandIOPhavebeencontrolledundergancicloviradministration,withoutprogressionofvisual.elddefect.ThesecasesindicatethatS-LOTise.ectiveforsecondaryglaucomaassociatedwithCMVcornealendotheliitis;inextendingIOPcontrol,thesooneranti-CMVtherapyisinitiated,thebettertheresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):433.437,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,360°スーチャートラベクロトミー.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,360-degreesuturetrabeculotomy.はじめに近年,免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にサイトメガロウイルス(cytomegarovirus:CMV)が関与している症例が複数報告されるようになった.CMV角膜内皮炎に伴う眼圧上昇により,続発緑内障に発展する症例も少なくない1).続発緑内障に対しては,360°スーチャートラベクロトミー(360°suturetrabeculotomy:S-LOT)が有効であることがすでに報告されているが2),CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対しての成績を検討した報告はない.今回,S-LOT施行後にCMV角膜内皮炎と診断した2例を経験したので報〔別刷請求先〕森川幹郎:〒108-0073東京都港区三田1-4-17東京都済生会中央病院眼科Reprintrequests:MikioMorikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,1-4-17Mita,Minato-ku,Tokyo108-0073,JAPAN告する.I症例[症例1]74歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:平成26年1月より左眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行うも眼圧は20mmHg台後半であった.平成26年2月に左眼SLT(selectivelasertrabecu-loplasty)を施行されたが,眼圧下降が得られず,視野も進行傾向のため,平成26年6月当院紹介受診となった.既往歴:不整脈に対し心臓ペースメーカー挿入術後.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.5(1.5×sph.1.25D:cyl.0.50DAx100°).VS=0.1(0.3×sph.2.50D:cyl.0.75DAx100°).眼圧:右眼14mmHg,左眼34mmHg.前眼部:角膜浮腫は認めず.左眼はcell,少数の角膜後面沈着物を認めた.中間透光体:左眼にNS2度の核硬化および後.下白内障を認めた.眼底:左眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,左眼は色素沈着が非常に強く,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)は認めなか図1症例1の左眼細隙灯顕微鏡検査図2症例1の初診時左眼Goldmann視野検査小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshaped湖崎分類IIIaの視野障害を認めた.lesion)がびまん性に出現した.H26.7.1.H26.12.4.H27.2.17.40302010前房水PCR0H27.2.17.H27.4.15.H27.7.23.LEC30前房水PCR2520レーザー切糸151050図3症例1の眼圧経過S-LOT術後5カ月で炎症再燃,スパイク状眼圧上昇を認め,LEC施行に至った.LECと同時に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.LEC術後・抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであった.眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)った.視野:Goldmann視野検査にて左眼に湖崎分類IIIaの視野障害を認めた(図2).経過:ステロイドレスポンダーの鑑別のため,ステロイド点眼を中止したところ炎症は増悪し,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshapedlesion)がびまん性に出現した(図1).角膜浮腫も出現し,角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.角膜内皮細胞密度は右眼2,725/mm2,左眼は角膜浮腫のため測定不可であった.単純または帯状ヘルペス角膜内皮炎の可能性を考慮し,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが効果はなく,眼圧は20.30mmHgが持続した.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療を行うも,眼圧下降が得られないため,平成26年7月にS-LOT,白内障同時手術を施行した.長期にわたる角膜内皮炎のため,tra-beculectomy(LEC)では術後の浅前房などで角膜内皮障害が起こる可能性も考慮し,初回手術としてS-LOTを選択した.白内障が主因と思われる視力低下も認めており,同時に白内障手術も施行した.術後の眼圧経過を図3に示す.術後一過性眼圧上昇により眼圧は20mmHg台前半となり0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を術後3日より再開,その後眼圧は安定し,術後5カ月までの平均眼圧は15.6mmHgであった.術後5カ月で虹彩炎が再燃,眼圧は40mmHg台までスパイク状の上昇を認めた.そのため,平成27年2月にLECを施行した.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を行ったところ,CMV-DNA陽性,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)陰性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始し,バルガンシクロビル(バリキサR)450mg2錠2回/日を2週間内服した.その後,角膜は透明化し,角膜後面沈着物は減少,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度も1,400.1,700/mm2台で維持されていた.LEC術後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであり,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.[症例2]58歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成15年より右眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行っていたが,右眼眼圧は20mmHg台が持続し,炎症出現時には30mmHg台まで上昇を認めていた.平成26年3月頃より眼圧上昇傾向となり,角膜浮腫も認めていた.眼圧下降が得られず,平成26年7月当院紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.03(0.04×sph.4.00D).VS=0.1p(1.2×sph.4.75D).眼圧:右眼33mmHg,左眼11mmHg.前眼部:右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた.明らかなcellを認めず,複数の円形の角膜後面沈着物を認めた(図4).中間透光体:右眼NS1度の核硬化を認めた.眼底:右眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,右眼は角膜浮腫が強いため詳細な観察は困難であったが,色素沈着が強く,下方にPASを認めていた.角膜内皮細胞密度:右眼1,988/mm2,左眼3,049/mm2.視野:Goldmann視野検査にて明らかな緑内障性変化は認めなかった(図5).経過:上記所見より角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.症例1と同様にヘルペス角膜内皮炎を考え,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが,変化はなかった.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療に抵抗し,眼圧は20mmHg台後半.30mmHg台と下降しなかったため,平成26年8月に右眼のS-LOTを施行した.術後の眼圧経過を図6に示す.術後2カ月で眼圧25mmHgと上昇傾向を認め,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩(コソプトR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を再開し,術後6カ月間の平均眼圧は13.5mmHgであった.軽度の虹彩炎の再燃に伴い,20mmHg程度の眼圧上昇と角膜内皮細胞密度の減少(742/mm2)を認めたため,術後6カ月に外来で前房水採取を行った.マルチプレックスPCRにてCMV-DNAのみ陽性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始した.ガンシクロビル点眼を開始後,角膜浮腫は改善した.角膜後面沈着物は減少し,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度は維持されていた.ガンシクロビル点眼開始後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.抗ウイルス治療導入後は良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.II考按角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じ,角膜浮図4症例2の初診時の右眼細隙灯顕微鏡検査右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた,明らかなcellを認めず,円形の角膜後面沈着物をびまん性に認めた(矢印).H26.8.12.H26.10.9.40H27.1.8.図5症例2の初診時の左眼Goldmann視野検査明らかな緑内障性変化は認めなかった.H27.4.2.H27.8.20.眼圧(mmHg)35302520151050図6症例2の眼圧経過S-LOT術後軽度の炎症再燃は認めるものの,眼圧は維持できていた.その間に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.腫と浮腫領域に一致した角膜後面沈着物を特徴とする比較的新しい疾患概念である.眼圧上昇を繰り返しながら慢性の経過をたどり,続発緑内障や併発白内障,角膜内皮細胞密度減少を引き起こす難治性の疾患である.2006年にKoizumiらは免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にCMVが関与している症例を報告し3),以後同様の報告が相次いでいる.CMV角膜内皮炎は,多くは片眼性で,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変および角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫を特徴とするとされている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105例の前房水PCR検査を施行したところ,24眼(22.8%)でサイトメガロウイルスDNAが陽性となったと報告している1).なかでも18眼(75%)はPosner-Schlossman症候群と診断されていた.したがって,Posner-Schlossman症候群などの診断を受けた前部ぶどう膜炎の中にCMV角膜内皮炎が多数潜在している可能性が考えられる.また,Takaseらは単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(vallicera-zostervirus:VZV),CMVによる前部ぶどう膜炎の臨床像を比較し,CMVによる群では前房内炎症は比較的軽度で角膜内皮細胞密度がより高度に減少,眼圧上昇も大きかったと報告している4).以上より,角膜後面沈着物や角膜内皮細胞密度の減少を伴う前部ぶどう膜炎では,CMV角膜内皮炎を鑑別するため,積極的に前房水PCRを施行するべきと考えられた.2012年に特発性角膜内皮炎研究班によりサイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準が作製された.CMV角膜内皮炎の診断には,前房水中の原因ウイルスDNAの同定が必要であり,特徴的な臨床所見と合わせて診断される.今回の2症例ではともに,角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,角膜内皮細胞密度の減少,再発性・慢性虹彩毛様体炎,眼圧上昇も認めていたが,前房水PCRを施行したことで,診断を確定できた.CMV角膜内皮炎の標準治療はいまだ十分に確立してはいない.しかしながら現在,点眼,内服,点滴,硝子体注射などのさまざまなガンシクロビル治療が試みられ,一定の有効性が報告されている1,4.11).ガンシクロビルはCMVに対する抗ウイルス薬であり,ウイルスDNAポリメラーゼを阻害してウイルスの複製を阻害する.また,Koizumiらは0.5%ガンシクロビル点眼の有効性を報告しており3),筆者らもその報告に準じて,0.5%ガンシクロビル点眼を自家調整し使用した.抗ウイルス治療により有意に眼圧・炎症コントロールを達成できると考えられるものの,中止・減量すると再発する例も多い.また,抗ウイルス治療を行っても,最終的に手術治療が必要となった症例の報告も複数ある.Suらは2%ガンシクロビル点眼で治療した68眼のうち,25眼(37%)で眼圧上昇の再燃を認め,8眼はLECに至ったと報告している9).八幡らはぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対し,S-LOTを施行した15例18眼を検討し,術後成績は比較的良好であり,初回手術として有用であると報告している12).CMV角膜内皮炎による続発緑内障のみのS-LOTの成績について検討した報告はないが,初回手術の良い適応となる可能性がある.今回,症例1ではS-LOT施行後に炎症再燃に伴うスパイク状の眼圧上昇を認め,LECを施行するに至った.一方,症例2でも軽度の炎症が再燃したが,前房水PCRにより確定診断を得て,早期に抗ウイルス治療を開始したため,良好な眼圧コントロールを維持していると考えられる.CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対し,S-LOTは一定の有効性を示したが,所見からCMV角膜内皮炎を疑った場合はできるだけ早期に前房水PCRを行い,抗ウイルス治療を開始することが望ましいと考えられる.文献1)CheeSP,JapA:Cytomegalovirusanterioruveitis:out-comeoftreatment.BrJOphthalmol94:1648-1652,20102)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20064)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmol58:473-482,20145)vanBoxtelLA,vanderLelijA,vanderMeerJetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitisinimmuno-competentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,20076)唐下千寿,矢倉慶子,郭懽慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,20107)WongVW,ChanCK,LeungDYetal:Long-termresultsoforalvalganciclovirfortreatmentofanteriorsegmentin.ammationsecondarytocytomegalovirusinfection.ClinOphthalmol6:595-600,20128)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,20129)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirus-positivePosner-Schlossmansyndromepatientstreatedwithtopicalganciclovirtherapy.AmJOphthalmol158:1024-1031,201410)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:1817-1824,201411)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201512)八幡健児,大黒伸行,奥野賢亮ほか:ぶどう膜炎続発緑内障に対する360°suturetrabeculotomyの術後成績.第25回日本緑内障学会抄録集,p112,2014***

開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1037〜1043,2016©開放隅角緑内障に対する360°スーチャートラベクロトミー眼内法の術後1年成績佐藤智樹*1平田憲*2川路隆博*1溝口尚則*3*1佐藤眼科・内科*2林眼科病院*3溝口眼科SurgicalOutcomesof360°SutureTrabeculotomyAbInternoforOpen-angleGlaucomawithOne-yearFollow-upTomokiSato1),AkiraHirata2),TakahiroKawaji1)andTakanoriMizoguchi3)1)SatoEye&InternalMedicineClinic,2)HayashiEyeHospital,3)MizoguchiEyeClinic360°スーチャートラベクロトミー眼内法(以下,360°LOTabinterno)の術後1年成績について検討した.対象は,2014年2〜8月に開放隅角緑内障に対し,佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した13例13眼で,術後12カ月の眼圧経過,緑内障点眼数,合併症を前向きに検討した.術前の平均眼圧は19.2±2.0mmHgで術12カ月後は13.5±2.4mmHgへ有意に下降した(pairedt検定にてp<0.0001).術前の緑内障点眼数は3.1±0.9で,術12カ月後は1.2±1.2へ減少した.(Wilcoxon符号順位検定にてp=0.0002).術後合併症は,一過性高眼圧が5眼,前房出血が7眼にみられたものの自然軽快し,2例は白内障の進行により白内障手術を施行した.360°LOTabinternoは開放隅角緑内障に対して,結膜と強膜を温存でき,短期的には有効と考えられる.Toinvestigatethesurgicalresultsof360°suturetrabeculotomyabinterno(360°LOTabinterno)withoneyearfollow-up.360°LOTabinternowasperformedon13eyesof13patientswithopen-angleglaucomaatSatoEyeandInternalMedicineClinicbetweenFebruaryandAugust2014.Time-courseofintraocularpressure(IOP),changesinnumberofanti-glaucomamedicationsandfrequencyofcomplicationswereprospectivelyevaluated.PreoperativeIOPdecreasedsignificantlyfrom19.2±2.0mmHgto13.5±2.4mmHgat12monthspostoperatively(p<0.0001,pairedt-test).Thenumberofanti-glaucomamedicationsreducedsignificantlyfrom3.1±0.9atbaselineto1.2±1.2at12monthspostoperatively(p=0.0002,Wilcoxonsigned-ranktest).PostoperativecomplicationsincludedtransientelevationofIOPtoabove30mmHgin5eyesandspontaneouslyresolvedhyphemain7eyes.Twoeyesshowedcataractprogressionrequiringcataractsurgery.360°LOTabinternoappearstobeavaluableoptionforthesurgicaltreatmentofopen-angleglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1037〜1043,2016〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー,眼内法,開放隅角緑内障,白内障手術.360°suturetrabeculotomy,abinterno,openangle-glaucoma,cataractsurgery.はじめにトラベクロトミーは,Schlemm管内壁の眼外への房水流出抵抗を減らすことで,眼圧を下降させる手術であり,成人の開放隅角緑内障に対してその有効性が報告されている1,2).トラベクロトミー術後の眼圧は10台後半であり,トラベクレクトミーに比べ眼圧下降効果では劣るものの,トラベクレクトミーにみられる濾過胞からの漏れや感染,浅前房,低眼圧に伴う脈絡膜剝離や黄斑症などの重篤な合併症は認めない.Chinらは,1995年にBeckら3)が先天緑内障に対して報告した360°スーチャートラベクロトミーを改良し,360°スーチャートラベクロトミー変法を考案した4).成人の開放隅角緑内障に対して施行,術後12カ月の眼圧は13.1mmHgであり,従来の金属トラベクロトームを用いた120°トラベクロトミーより良好な成績を示したが,予定どおりに360°のSchlemm管を切開できた完遂率は75%であったと報告している4).筆者らも,強膜深層弁切除術を併用した360°スーチャートラベクロトミー変法を開放隅角緑内障に対して施行したが,Chinら4)の報告と同等の眼圧下降効果と完遂率であった5,6).360°スーチャートラベクロトミー変法は,濾過胞を作製することなく13〜14mmHgの眼圧が得られるが,問題点として,手技的な困難さから完遂率がやや制限される点,眼外からアプローチしてSchlemm管を露出させるために結膜および強膜切開が必要であり,そのため将来の濾過手術に不利な影響を及ぼす可能性がある点などがある7).筆者らは,結膜と強膜を温存したうえで,より簡便で確実な手術を施行するため,角膜切開にて前房側より手術を行う360°スーチャートラベクロトミー眼内法(360°suturetrabecultotomyabinterno,以下360°LOTabinterno)を考案した8).開放隅角緑内障に対する術後6カ月の眼圧は13.8mmHg,完遂率は92%であり,360°スーチャートラベクロトミー変法の完遂率75%前後4,5)より高く,短期においては開放隅角緑内障に対して有効と思われた.今回は,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後1年の眼圧経過,投薬数の変化,術後合併症,完遂率について前向きに検討したので報告する.I対象および方法1.対象佐藤眼科・内科内に設置された倫理委員会の承認を得,ヘルシンキ宣言に基づき,前向き,無比較,非無作為試験を行った.対象は,2014年2〜8月に佐藤眼科・内科で360°LOTabinternoを施行した開放隅角緑内障13例13眼である.病型は,原発開放隅角緑内障または落屑緑内障で,緑内障点眼薬にて加療するも視野狭窄の進行がみられた症例に手術を施行した.すべての手術は当施設で同一術者が施行した.手術に際し,すべての患者本人と家族にて効果と危険性,この研究の目的を説明し,文書にて同意を得た.本研究の対象は1例1眼とし,両眼施行した場合は,先行眼を用いた.また,眼圧測定の支障となる前眼部病変眼,ぶどう膜炎,強膜炎,外傷や緑内障手術既往眼は除外した.すべての患者に,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査,角膜内皮密度検査(SP-3000P,トプコン社),Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,Humphrey視野検査(HFAII740i,カールツァイス社),眼底検査,病歴聴取を行った.2.術式手術の1時間前から,2%ピロカルピン,4%リドカイン,モキシフロキサシンを5分ごとに点眼した.下鼻側に2%リドカイン2mlにてTenon囊下注射を行い,1.7mmの耳側角膜切開を行った(図1a).1%リドカインにて前房麻酔を行い,患者の頭を切開部の対側に傾け,Swan-Jacob隅角鏡をSchlemm管が見えるように設置し,前房内を粘弾性物質(ディスコビスク®,日本アルコン)で満たした.隅角鏡で観察しながらトラベクトームにて鼻側Schlemm管を15°ほど切開し(図1b),熱加工して先端を丸くした5-0ナイロン糸を23G鉗子(DSPforceps®,日本アルコン)を用いて耳側角膜創から前房内へ挿入し,内腔が露出されたSchlemm管内に糸の先端を挿入した(図1c,2a).Schlemm管に挿入した糸は,全周通糸できた場合は,糸の先端がSchlemm管切開部から出てくるので(図1d),その糸の先端を把持し(図1e,f),そのまま耳側角膜創から引き抜くことで(図1g,h),全周のSchlemm管を切開した.Schlemm管に挿入した糸は,糸の先端が半周以上挿入したところで動かなくなる場合がある.糸の先行部はその膨大部のため容易に逆行せずその場所で固定されているため,まずSchlemm管挿入部位(23ゲージ鉗子の把持部位)の糸を耳側角膜創から引き抜くことで,通糸できた半周のSchlemm管を切開した(図2b,c).続いて,Schlemm管切開部から最初と反対方向に糸を挿入し(図2d),同様の操作を行い,半周のSchlemm管を切開した(図2e,f).2例2眼において白内障手術も希望されたため同時手術を行った.上方に2.4mm角膜切開を作製し,超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)を施行した.最後に前房洗浄し,0.4%ベタメタゾンを結膜下に注射して手術を終了した.3.術後治療と観察期間術後2週間はモキシフロキサシン,0.1%ベタメタゾンと2%ピロカルピンを点眼し,PEA+IOLを併用施行した眼はブロムフェナクを術後3カ月間点眼した.術後の診察は,術1,2,3日後,術後1カ月以内は1週間ごと,術6カ月までは1カ月ごと,それ以降は1.5カ月ごとに行った.術後2週間までは,30mmHg以上の眼圧上昇時には炭酸脱水酵素阻害薬内服を適宜使用し,術2週間以降1カ月までは20mmHgを超えた場合,術1カ月以降は15mmHgを超えた場合に緑内障点眼を1剤ずつ追加した.前眼部検査,眼圧測定は毎回行い,視力検査,隅角検査,角膜内皮密度検査,Humphrey視野検査は適宜行った.4.検討項目,統計学的評価眼圧,ベースラインからの眼圧下降率,緑内障点眼数の経時変化,術中および術後合併症の種類と頻度,手術の完遂率について検討した.眼圧のベースラインは術前1カ月以内に日時を変えて3回測定した.術後眼圧は術後1日,1週間,2週間,1,3,6,9,12カ月の眼圧を用いた.緑内障点眼数は,通常の点眼は1,合剤は2,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2とした.術後2週間使用した2%ピロカルピンは術後虹彩前癒着防止のために使用したもので,緑内障点眼数としては含めなかった.合併症は,術1カ月以内に30mmHg以上になった場合を一過性高眼圧とし,隅角鏡にて線維柱帯に及ぶ虹彩の癒着を虹彩前癒着とした.視力は少数視力をlogMAR(logarithmoftheminimumangleofresolution)視力に変換した値を用い,視力低下は0.2logMAR以上悪化した場合とした.手術の完遂率は,予定どおりに360°Schlemm管を切開することができた場合とした.統計学的評価は,Graph-PadPrism6.01(エムデーエフ)を用いて,連続するデータは平均値±標準偏差で表し,術前後の眼圧比較にはpairedt検定を,緑内障点眼数の比較にはWilcoxon符号順位検定を用いた.p<0.05を有意とした.II結果術前の患者背景を表1に示す.1.眼圧経過術後眼圧の経時変化を図3に示す.術前眼圧は19.2±2.0mmHg,術後12カ月の平均眼圧は13.5±2.4mmHgで29.7%の眼圧下降率であった.術1,3,6,9,12カ月の眼圧は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれpairedt検定にてp=0.0002,0.0010,<0.0001,0.0002,<0.0001).2.緑内障点眼数緑内障点眼数を図4に示す.術前の緑内障点眼数は3.1±0.9,術12カ月後は1.2±1.2で,術1,3,6,9,12カ月の緑内障点眼数は,術前眼圧に比べて有意に低かった(それぞれWilcoxon符号順位検定にてp=0.0005,0.0002,0.0002,0.0002,0.0002).3.術中および術後合併症と完遂率術中および術後合併症を表2に示す.術後7眼(54%)に前房出血を認めたが,前房洗浄を要したものはなく,術後平均4.3日で吸収された.5眼(38%)に30mmHg以上の一過性高眼圧を認め,炭酸脱水酵素阻害薬内服にて平均3.8日で30mmHg以下に下降した.術後2カ月時の隅角検査にて4眼(31%)に虹彩前癒着を認め,その範囲は平均21.3%であった.有水晶体眼10眼のうち2眼(20%)に白内障進行を認め,1眼は術2カ月後に,もう1眼は術10カ月後に白内障手術を追加した.術12カ月後の平均視力は0.09±0.10logMARで,術前に比べ0.2logMAR以上視力低下したものはなかった.角膜内皮細胞密度は2,479.3±248.0/mm2で,術前に比べて0.8%の減少率であった.Schlemm管切開は,3眼では単回の全周通糸による切開が可能であった.9眼では上下半周ずつの通糸により全周切開を完成させた.1眼は上方90°のSchlemm管に通糸できずに切開範囲が270°にとどまった.完遂率は92.3%であった.III考按筆者らは以前に開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoの術後6カ月の成績を報告したが8),今回の調査で,術後1年時点においても引き続き有意な眼圧下降効果と緑内障点眼薬の減少効果を認めた.原発開放隅角緑内障における房水流出抵抗は,集合管よりもSchlemm管内壁におもに存在するといわれており9〜11),落屑緑内障では,落屑物質や色素細胞がSchlemm管や細胞外マトリックスに蓄積していくことで房水流出抵抗が増すといわれている12,13).したがって,360°スーチャートラベクロトミー変法や360°LOTabinternoはこれらの病型に対して理にかなった手術と思われる.Chinらや筆者らが報告しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は開放隅角緑内障において,通常の金属トラベクロトームを使用する120°トラベクロトミーよりも低い術後眼圧を得ているが4〜6),その理由として,集合管は不規則に分布し,その多くは金属トラベクロトームでは切開しづらい鼻側や下方に多く存在している14,15)こと,全周のSchlemm管を切開することで直接全周の集合管に房水が最短で流れる16)ことが考えられる.しかしながら,Hepsenら17)が指摘しているように,眼外から施行する360°スーチャートラベクロトミー変法は結膜および強膜切開が必要であるため,その瘢痕化が将来の濾過手術に悪影響を及ぼす可能性があり7),また,手技がやや煩雑なため完遂率が75%前後に制限されるという欠点がある4,5).筆者らが報告した360°LOTabinternoは,結膜および強膜を切開しないため将来の濾過手術への影響が少なく,さらに手技の簡略化や改良によって,より高い完遂率で360°Schlemm管を切開できた8).完遂率が高かった理由としては,1)トラベクトームを用いて鼻側のSchlemm管を切開することで,Schlemm管外壁を損傷させずにSchlemm管内腔を大きく開放でき18),糸の挿入が容易であったこと,2)隅角鏡下でSchlemm管への糸の挿入の様子が直接確認できるため,360°スーチャートラベクロトミー変法でときに起こりうる前房内や脈絡膜下腔への糸の迷入がなく,正確にSchlemm管内に糸を挿入することができたこと,3)Schlemm管の太さは不均一である19)ため,今回の症例でも単回での全周通糸が困難な眼が多かったが,上下方向それぞれに切開し全周切開を完成させることにより,通糸率が向上したこと,などが考えられる.筆者らの報告した術式は,鼻側のSchlemm管切開にトラベクトームを使用するため,Groverらが報告した,針を用いたSchlemm管切開20)に比してコスト面で劣る.しかし,筆者らの経験では,トラベクトームによるSchlemm管の切開幅は針によるそれと比べ広いため,糸を挿入するうえではより簡便に遂行できる点では大いに有用であると考えた.また,本研究と同様の20mmHg前後の術前眼圧に対するトラベクトーム手術の過去の報告21)をみると,術後眼圧が12mmHgと低い報告もあるが22),15〜17mmHgの報告が多い23〜25).本研究と直接比較することはできないものの,術12カ月後の眼圧が13.5mmHgという結果からは,より有効な眼圧下降効果が期待できそうである.術後合併症は,前房出血が7眼(54%),30mmHg以上の一過性高眼圧が5眼(38%)にみられたが,ともに保存的加療により眼圧は下降した.虹彩前癒着は4眼(31%)に認めたが,その範囲は平均21%で後眼圧経過も良好であったため,眼圧への影響はないと考えられた.これらの合併症の頻度は,360°スーチャートラベクロトミー変法の報告と同等であったが4〜6,17),それらの報告では認められなかった術後白内障を2眼に認めた.術中の鉗子や糸の水晶体への接触による可能性もあるが,術中所見として,接触とは関係なく前囊下に軽度の水滴状の混濁を認める症例があり,今後も注意して観察を続けていく予定である.また,本研究では,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した眼が2眼含まれている.白内障手術自体に眼圧下降効果があることは知られているが26),今回は症例も少ないため眼圧下降効果の相互作用の有無に関しては不明であり,360°LOTabinternoに白内障手術を併用した際の眼圧下降効果や合併症に関しては現在検討中である.今回の検討にて,開放隅角緑内障に対する360°LOTabinternoは,術後12カ月においても眼圧下降作用が維持されていることが確認され,結膜と強膜を温存できる有効な術式になる可能性がある.しかしながら,重篤ではないものの合併症の問題も残されており,今後もより多くの症例で長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735-739,19932)WadaY,NakatsuA,KondoT:Long-termresultsoftrabeculotomyabexterno.OphthalmicSurg25:317-320,19943)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:1200-1202,19954)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)佐藤智樹,平田憲:原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績.あたらしい眼科31:271-276,20146)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Outcomesof360degreessuturetrabeculotomywithdeepsclerectomycombinedwithcataractsurgeryforprimaryopenangleglaucomaandcoexistingcataract.ClinOphthalmol8:1301-1310,20147)BroadwayDC,GriersonI,HitchingsRA:Localeffectsofpreviousconjunctivalincisionalsurgeryandthesubsequentoutcomeoffiltrationsurgery.AmJOphthalmol125:805-818,19988)SatoT,HirataA,MizoguchiT:Prospective,noncomparative,nonrandomizedcasestudyofshort-termoutcomesof360degreessuturetrabeculotomyabinternoinpatientswithopen-angleglaucoma.ClinOphthalmol9:63-68,20159)EthierCR,KammRD,PalaszewskiBAetal:Calculationsofflowresistanceinthejuxtacanalicularmeshwork.InvestOphthalmolVisSci27:1741-1750,198610)TammER:Functionalmorphologyoftheoutflowpathwaysofaqueoushumorandtheirchangesinopenangleglaucoma.Ophthalmologe110:1026-1035,201311)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Outflowresistanceofenucleatedhumaneyesattwodifferentperfusionpressuresanddifferentextentsoftrabeculotomy.CurrEyeRes8:1233-1240,198912)KonstasAG,JayJL,MarshallGEetal:Prevalence,diagnosticfeatures,andresponsetotrabeculectomyinexfoliationglaucoma.Ophthalmology100:619-627,199313)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU:Exfoliationsyndrome.SurvOphthalmol45:265-315,200114)Dvorak-TheobaldG:FurtherstudiesonthecanalofSchlemm;itsanastomosesandanatomicrelations.AmJOphthalmol39:65-89,195515)HannCR,BentleyMD,VercnockeAetal:Imagingtheaqueoushumoroutflowpathwayinhumaneyesbythreedimensionalmicro-computedtomography(3Dmicro-CT).ExpEyeRes92:104-111,201116)HannCR,FautschMP:Preferentialfluidflowinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOphthalmolVisSci50:1692-1697,200917)HepsenIF,GulerE,KumovaDetal:Efficacyofmodified360-degreesuturetrabeculotomyforpseudoexfoliationglaucoma.JGlaucoma25:e29-e34,201618)SeiboldLK,SoohooJR,AmmarDAetal:Preclinicalinvestigationofabinternotrabeculectomyusinganoveldual-bladedevice.AmJOphthalmol155:524-529.e522,201319)KagemannL,NevinsJE,JanNJetal:CharacterisationofSchlemm’scanalcross-sectionalarea.BrJOphthalmol98(Suppl2):ii10-ii14,201420)GroverDS,SmithO,FellmanRLetal:Gonioscopyassistedtransluminaltrabeculotomy:anabinternocircumferentialtrabeculotomyforthetreatmentofprimarycongenitalglaucomaandjuvenileopenangleglaucoma.BrJOphthalmol99:1092-1096,201521)KaplowitzK,BusselII,HonkanenR:Reviewandmetaanalysisofab-internotrabeculectomyoutcomes.BrJOphthalmol100:594-600,201622)AhujaY,MaKhinPyiS,MalihiMetal:Clinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabectomeforopen-angleglaucoma:theMayoClinicseriesinRochester,Minnesota.AmJOphthalmol35:927-935,201323)WerthJP,GesserC,KlemmM:Diverseeffectivenessofthetrabectomefordifferenttypesofglaucoma.KlinMonblAugenheilkd232:72-78,201524)FrancisBA,MincklerD,DustinLetal:Combinedcataractextractionandtrabeculotomybytheinternalapproachforcoexistingcataractandopen-angleglaucoma:initialresults.JCataractRefractSurg34:1096-1103,2008.25)TingJ,DamjiK,StilesMC:Abinternotrabeculectomy:Outcomesinexfoliationversusprimaryopen-angleglaucoma.JCataractRefractSurg38:315-323,2012.26)MansbergerSL,GordonMO,JampelHetal:Reductioninintraocularpressureaftercataractextraction:theOcularHypertensionTreatmentStudy.Ophthalmology119:1826-1831,2012図1360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:全周通糸できた場合(左眼)a:1.7mm耳側角膜切開.b:トラベクトームを用いて鼻側Schlemm管切開.c:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.d:鼻側下方のSchlemm管から出てきた糸の先端を確認.e,f:糸の先端を23G鉗子を用いて把持.g,h:糸を耳側角膜創から引き抜いて全周のSchlemm管を切開.図2360°スーチャートラベクロトミー眼内法の手術手技と模式図:半周以上通糸できた場合(左眼)a:糸を鼻側上方のSchlemm管に挿入.b,c:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管上半周切開.d:糸を鼻側下方のSchlemm管に挿入.e,f:糸を耳側角膜創から引き抜いてSchlemm管下半周切開.表1患者背景症例数13例13眼性別(男/女)4/9名平均年齢72.1±8.4(60〜89)歳病型(POAG/XFG)9/4眼術前平均眼圧19.2±2.0(15〜22)mmHg術前緑内障点眼数3.1±0.9(2〜4)剤HumphreyMD値−12.0±6.6(−26.4,−2.7)dB術前平均矯正視力0.01±0.07(−0.08,0.15)logMAR術前角膜内皮細胞密度2,498.4±265.4(2,201〜2,995)mm2白内障手術歴2眼平均観察期間12.0月POAG:原発開放隅角緑内障,XFG:落屑緑内障.MD:meandeviation,logMAR:logarithmoftheminimumangleofresolution.図3術後12カ月までの眼圧変化図4術後12カ月までの緑内障点眼数の変化表2術中および術後合併症眼数(%)術中前房出血13(100)前房消失0(0)Descemet膜剝離0(0)毛様体根部離断0(0)虹彩損傷0(0)術後前房出血7(54)一過性高眼圧(≧30mmHg)5(38)低眼圧(<5mmHg)0(0)虹彩前癒着4(31)内皮減少(≧10%)0(0)感染0(0)創からの漏れ0(0)手術を要した白内障2(20)〔別刷請求先〕佐藤智樹:〒864-0041熊本県荒尾市荒尾4160-270佐藤眼科・内科Reprintrequests:TomokiSato,M.D.,SatoEyeandInternalMedicineClinic,4160-270Arao,AraoCity,Kumamoto864-0041,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(111)10371038あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610391040あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(114)(115)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610411042あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(116)(117)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161043