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糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1445.1449,2013c糖尿病黄斑浮腫に対する577.nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験高綱陽子*1水鳥川俊夫*1渡辺可奈*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学577.nmSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),ToshioMidorikawa1),KanaWatanabe1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:直接凝固やステロイドTenon.下注射(STTA)を行っても改善の得られなかった糖尿病黄斑浮腫について,577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置を用いて,追加治療を行いその治療成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:2011年11月14日から2012年2月14日までに,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固(SMLP)を施行した糖尿病黄斑症16例18眼.先行治療として毛細血管瘤直接凝固(MAPC)とSTTAの両方施行7眼,MAPCのみ施行7眼,STTAのみ施行4眼.マイクロパルス閾値下凝固を施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,MAPC同時施行したもの4眼が含まれる.SMLP施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.結果:平均年齢63.6歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4%.視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34で有意差はなかった.中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmで3カ月で有意に減少した.結論:577nmSMLPは,糖尿病黄斑浮腫に対し,3カ月の経過で視力を維持し,中心窩網膜厚を改善させた.Purpose:Toinvestigatethee.cacyof577nmsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Reviewedwere18eyesof16patientswithDMEwhohadundergoneprevioustherapy:7hadbothdirectphotocoagulationandsub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection(STTA),7haddirectphotocoagulationonlyand4hadSTTA.Residualmicroaneurysmsmightbefound,directphotocoagula-tionwasaddedtotheSMLP.Opticalcoherencetomography-determinedfovealthickness(FT)andbest-correctedvisualacuity(BCVA)wereevaluatedbeforeandat1and3months(M)afterSMLP.Results:Meanagewas63.6yearsold,meanhemoglobin(Hb)A1Cwas6.4%.BCVAwas0.37(logarithmicminimumangleofresolution:log-MAR)beforeSMLP,and0.36at1Mand0.34at3M.Itwasnotchangedsigni.cantly.FTwas419μmbeforeSMLP,367μmat1Mand360μmat3M;itwasreducedsigni.cantlyafter3M.Conclusion:Itwasfoundthat577nmSMLPforDMEmaintainedVAandimprovedFTat3M.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1445.1449,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,577nm,マイクロパルスレーザー閾値下凝固,毛細血管瘤,直接凝固.diabeticmacu-laredema,577nm,subthresholdmicropulselaserphotocoagulation,microaneurysm,directphotocoagulation.はじめに糖尿病黄斑症は,視力低下をひき起こし,日常生活の質に大きな影響を与える疾患である.レーザー光凝固が視力低下のリスクを軽減させることは,1985年EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)ResearchGroupにより報告され1),毛細血管瘤への直接凝固や,格子状凝固が行われてきた.しかし,通常のレーザーによる黄斑部の治療においては,その後の凝固斑の拡大や線維性増殖など,黄斑に変性をきたし,視力低下につながるリスクも指摘されている.そのようななかで,レーザー照射時間をきわめて短く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(101)1445し,パルス状に発振するマイクロパルス閾値下凝固は,色素上皮に限局した凝固で,側方にも広がらず2),瘢痕の残らない低侵襲な黄斑症への治療法として注目されてきた.通常の連続波による凝固では,時間200msの設定では,その200msの間連続してレーザーが発振されているが,マイクロパルスレーザーの時間200ms,15%dutycycleの設定では,200msのなかで0.3msのonと1.7msのo.が連続して繰り返される形となる(0.3ms/2.0ms×100=15%dutycycle).1回のレーザー発振時間は0.3msときわめて短く,十分な休止時間があり,レーザーによる温度上昇は色素上皮に限局するものとなっており,側方にも広がらない.瘢痕がつかないきわめて低侵襲なレーザーとして注目されており,その照射領域は,基本的には従来の格子状凝固と同様に中心窩無血管野内には施行しないものである.筆者らも,これまでにIRIDEX社製810nmの波長をもつ機器を用いて,長期成績をはじめとし,網膜感度や硬性白斑の沈着例に対する治療成績を報告してきた3.6).また,Lavinskyらによる前向きランダム比較試験により,従来の連続波のレーザーに比べて,マイクロパルスレーザーの有効性が示された7)ことにより,黄斑症への低侵襲なレーザーとして注目されている.今回,577nmの波長をもつピュアイエローレーザー光凝固装置IQ577(IRIDEX社)を使用する機会を得た.通常の連続波のレーザーとマイクロパルスレーザーの両方の機能をもつ光凝固装置である.577nmという波長では,酸化ヘモグロビンへの吸収ピークをもち,キサントフィルにはほとんど吸収されないという特徴がある8).このため,黄斑部の毛細血管瘤への直接凝固には効果的な波長と考えられる.そこで,今回筆者らは,ステロイドTenon.下注射(STTA)や毛細血管瘤への直接凝固では効果が得られなかった糖尿病黄斑症を対象に,577nm波長でのマイクロパルス閾値下凝固を行い,このとき,凝固可能な毛細血管瘤があれば,それに対する直接凝固を連続波モードに切り替え,同時に施行する方法で,術後3カ月までの治療成績を中心窩網膜厚と視力を評価することで検討した.I対象および方法2011年11月14日から2012年2月14日までに,千葉労災病院で糖尿病黄斑症に対して,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固を施行した16例18眼.先行治療として2カ月以上前に毛細血管瘤直接凝固とSTTAの両方施行7眼,直接凝固のみ施行7眼,最短で1カ月以上前にSTTAのみ施行4眼.マイクロパルスレーザーを施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,直接凝固同時施行したもの4眼が含まれる.マイクロパルスレーザー閾値下凝固の方法は,先に810nmの機種で用いた方法と基本的には同様である3.6).まず1446あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013は,連続波モードにて,照射径200μm,100msで凝固斑がかすかに認められる閾値を求める.マイクロパルスモードに変更し,閾値の200%のパワーで,15%dutycycle,200msでレーザー照射を浮腫のある領域に行う.今回の凝固斑の間隔は,重ならない程度に間隔を開けずにおいた.マイクロパルスレーザー施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚(CirrusOCT,CarlZeiss)を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.統計学的解析はWilcoxon順位和検定による.II結果平均年齢63.6±5.9歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4±0.7%.平均視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34であり,統計学的有意差はなく経過中視力は維持されていた.logMAR0.2以上の変化で改善1眼,不変18眼,悪化はなかった(表1,図1).中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmであり,3カ月で有意に減少した.15%以上の変化で改善8眼,不変11眼で悪化はなかった(表1,図4).術後の眼底所見では,経過中,マイクロパルスレーザー閾値下凝固による瘢痕は認められなかった.代表症例を以下に提示する.〔症例1〕63歳,男性.3カ月前に毛細血管瘤への直接凝固の施行歴があるが,浮表1マイクロパルスレーザー治療前後の視力(logMAR)と中心窩網膜厚(μm)の平均値視力(logMAR)p値中心窩網膜厚(μm)p値治療前0.374191カ月0.360.193670.0523カ月0.340.203600.046治療3カ月後(logMAR)1.210.80.60.40.2000.20.40.60.811.2治療前(logMAR)図1視力(logMAR)の散布図(102)腫が改善せず.術前視力(0.7),中心窩網膜厚は375μmであった.光干渉断層計(OCT)で赤く表示された浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行.140mWの出力で,200ms,15%dutycycle,200μmの条件で施行し,同時に残存する毛細血管瘤を連続波モードに切り替え,70mWの出力で,100ms,100μmの条件で施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚は295μmへと減少した(図2).〔症例2〕56歳,女性.中心窩の下耳側に,毛細血管瘤が集積し黄斑浮腫の原因となり,初診時の視力は(0.3),中心窩網膜厚は491μmであった.まず,STTAを行い,ついで毛細血管瘤への直接凝固を施行したが,2カ月後,改善が得られなかったので,浮腫の強い領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行し図2症例1:治療前眼底写真(a),同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)63歳,男性.術前視力(0.7),中心窩網膜厚375μm.浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー(施行範囲は点線で囲まれた領域),残存する毛細血管瘤を連続波モードで直接凝固を施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚295μmへと減少した.図3症例2:治療前眼底写真(a左),同蛍光眼底造影写真(a右)と同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)56歳,女性.術前視力(0.3),中心窩網膜厚491μm.2カ月前にステロイドTenon.下注射と毛細血管瘤への直接凝固施行後の浮腫遷延例.2回のマイクロパルスレーザーを施行(施行範囲は点線で囲まれた領域)3カ月後は,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと改善が認められた.(103)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131447治療3カ月後(μm)70060050040030020010000100200300400500600700800治療前(μm)図4中心窩網膜厚(μm)の散布図た.反応が不十分と考え,術後1カ月に2回目の照射を行ったところ,その3カ月後には,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと黄斑浮腫の改善が認められた.術後の眼底でマイクロパルスレーザーによる瘢痕は認められない(図3).III考按毛細血管瘤の直接凝固を併用したマイクロパルスレーザー閾値下凝固の治療成績は治療後3カ月において視力は全例で維持され,中心窩網膜厚では有意な改善が得られた(表1).術後3カ月までの成績では,810nmの波長の機種を用いた筆者らのこれまでの報告6)では中心窩網膜厚は504μmから409μmへの有意な減少,同じ日本人を対象とした大越らの報告9)でも,348μmから300μmへの有意な減少が報告されているが,今回の筆者らの治療成績でも中心窩網膜厚は419μmから360μmへと減少し,中心窩網膜厚の有意な改善と視力の維持が示された.これまでの報告は,びまん性浮腫に対する治療成績であり,毛細血管瘤への凝固は併用していないものが多いが,稲垣らは,810nmのマイクロパルスレーザーと,別の装置を用いての毛細血管瘤への直接凝固を併用した治療成績を報告している10).3カ月までの治療成績では,視力は維持以上95%,中心窩網膜厚は443μmから374μmへの改善が示され,毛細血管瘤への直接凝固を併用することにより,マイクロパルスレーザー単独よりも,浮腫の改善効果が高まり,再燃のリスクを減少できるのではないかと述べている.局所性浮腫と考えられる症例においても,毛細血管瘤への直接凝固のみで完全に消退させられるものばかりではなく,マイクロパルスレーザーとの併用も治療戦略として考えるべきではないかと思われる.マイクロパルスレーザーとして使用した場合の810nmの機種と577nmのものとで治療効果の違いについての詳しい報告はまだないと思われる.810nmと577nmの波長の相違については,810nmのほうが深部への到達には有利かもしれないが,メラニンへの吸収は波長が長くなるにつれて減1448あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013衰していくこと8),照射時間がきわめて短いマイクロパルスとしての照射方法が色素上皮をターゲットにするものであり2),今回の成績とあわせても,両者の有効性は総合的には変わりがないものと考えられるが,閾値の設定にあたって,810nmの機種では350.500mWを超えることもあった3,6)が,577nmの今回の機種では,120.200mWの限局した範囲で閾値が決定でき,577nmのほうが閾値を決めやすかった.また,最近の糖尿病黄斑症の治療においては,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体療法が大変注目されている11).これらの報告ではレーザーとの比較検討を行い,抗VEGF抗体療法の優位性が示されてきたものではあるが,比較したレーザーはマイクロパルスではなく,連続波での凝固である.従来のレーザーとマイクロパルスでの比較においては,密度をつめたマイクロパルスレーザーの優位性が前向きランダム化試験のかたちで報告されている7)ので,今後,抗VEGF抗体療法とマイクロパルスレーザーの比較,併用効果についての検討が必要であろう.特に抗VEGF抗体療法については,繰り返し投与の必要性とそれに伴う高額な医療費や患者の通院負担の問題も懸念される.マイクロパルスレーザーの奏効機序として,マイクロパルスレーザーは色素上皮を刺激して,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,浮腫を軽減させるものではないかと考えてきた3,6).治療効果発現には数カ月の時間を要することもある3.6).一方,抗VEGF抗体などの薬剤では血管透過性亢進の抑制や抗炎症効果により速やかな作用が期待できるが,効果は一過性であり,繰り返し投与の必要性が出てくるものである.それぞれの作用機序を考えながら,マイクロパルスレーザーと毛細血管瘤直接凝固の併用,さらには,ステロイド薬や,抗VEGF抗体療法などの薬剤投与を先行させ,ある程度浮腫が軽減した後にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を行えば,よりよい臨床効果とともに患者負担の軽減につながることも期待できるのではないかと考えられる.本検討では,3カ月までの短い期間ではあるが,毛細血管瘤直接凝固を併用した577nmマイクロパルスレーザー閾値下凝固が,黄斑浮腫治療に有効な治療である可能性が示唆された.ただし,マイクロパルスレーザー閾値下凝固施行前に,最短で1カ月という比較的短い期間にSTTAを施行していること,2カ月前に毛細血管瘤への直接凝固を施行しており,先行治療の効果が残存していないとは言い切れないところに問題がある.今後は,先行治療のない症例を対象とするなどして,より長期の経過観察期間をとり検討を重ねていきたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(104)文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyinexperi-mentalthermalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,19903)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20074)中村洋介,辰巳智章,新井みゆきほか:硬性白斑が集積する糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績.日眼会誌113:787-791,20095)NakamuraY,MitamuraY,OgataKetal:Functionalandmorphologicalchangesofmaculaaftersubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacu-laroedema.Eye24:784-788,20106)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Longtermtherapeutice.cacyofsubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20117)LavinskyD,CardilloJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingmETDRSversusnormalorhigh-densitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,20118)MainsterMA:Wavelengthselectioninmacularphotoco-agulation.Tissueoptics,thermale.ects,andlasersys-tems.Ophthalmology93:952-958,19869)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemainJapa-nesepatients.AmJOphthalmol149:133-139,201010)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:Ranibizumabmonotherapyorcom-binedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,2011***(105)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131449