《原著》あたらしい眼科40(8):1108.1111,2023c簡易視力測定アプリAImirun(アイミルン)による視力検査の妥当性の検討福岡秀記上田真由美松本晃典吉岡誇外園千恵京都府立医科大学眼科学教室CE.ectivenessofUsingtheAImirunApplicationfortheTestingofVisualAcuityatHomeHidekiFukuoka,MayumiUeta,AkihumiMatumoto,HokoruYoshiokaandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:簡易視力測定アプリCAImirun(以下,アイミルン)による視力検査の妥当性の検討すること.対象および方法:京都府立医科大学に通院中の患者C57例C77眼(男性C28例,女性C29例:平均年齢±標準偏差C71.4±11.6歳)と眼疾患のない健常者C38例C38眼(男性C32例,女性C6例:平均年齢±標準偏差C28.7±2.9歳)である.アイミルンとC5Cm視力表で測定視力を用い,Bland-Altman分析,CronbachのCa係数,比例誤差についての解析を行った.結果:95%一致限界は,患者群.0.02±1.96×0.17,健常群.0.07±1.96×0.17であった.健常群で比例誤差が有意(p<0.05),患者群で有意差はみられなかった(p=0.18).健常群,患者群のCCronbachのCa係数は,両群C0.89であった.結論:アイミルンでの簡易視力測定は,高い内的一貫性を有し,視力測定の機会の提供として有用と考えられた.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectivenessCofCusingCtheAImirun(RohtoCPharmaceutical,CAINet)mobile-phoneCapplicationforthetestingofvisualacuity(VA).SubjectsandMethods:In57eyesof57ocular-diseasepatients(28Cmales,C29females;meanage:71.4±11.6years)andC38healthyCsubjects(32Cmales,C6females;meanage:C28.7±2.9years)seenCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCHospital,CAImirunand5-meterVAmeasurementswerecomparedviaBland-AltmananalysisandCronbach’salphareliabili-tycoe.cient,andcoe.cientproportionalerrorwasthencalculatedinbothgroups.Results:Blandt-Altmananaly-sisshowedthatthemeandi.erence±1.96×standarddeviationinthepatientgroupandhealthygroupwas.0.02C±1.96×0.17CandC.0.07±1.96×0.17,Crespectively.CProportionalCerrorCwasCinsigni.cantCinCtheCpatientgroup(p=0.18),CyetCwasCsigni.cantCinCtheChealthygroup(p<0.05).CInCbothCgroups,CCronbach’sCalphaCcoe.cientCwasC0.89.CConclusions:AImirunRCwasfoundpotentiallye.ectiveformeasuringVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(8):1108.1111,C2023〕Keywords:簡易視力測定,携帯アプリケーション,AImirun,妥当性.simplevisualacuitymeasurement,mo-bile-phoneapplication,AImirun,validity.Cはじめに視覚機能には,形態覚をはじめとして色覚,光覚,視野や立体覚などさまざまあり多彩である.視力は,そのなかの形態覚であり,物体の存在や形状を認める能力である.視力は2点を識別するという最小分離閾で表され,視力測定には通常CLandolt環を視標として用いる.視力表の視標は,1909年の国際眼科学会とC1981年の国際標準化機構によってLandolt環が標準視標として定められた1)が,Landolt環の概念自体は,1888年にフランスのCEdmundLandoltによって初めて報告された2).視力検査には遠見と近見の測定方法などがあり,遠見測定は通常C5m,近見測定はわが国ではC30cm,欧米では約40Ccmと定められている.近年では遠見視力測定にC5Cmの測定距離の必要のないスペースセービングチャートなど工夫を凝らした視力測定機器も存在する.筆者らはロート製薬と共同してモバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末(iPhone,iPadを含む)で使用可能な簡易視力測定アプリCAImirun(以下,アイミルン)〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区広小路通上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kyoto-city,Kyoto-prefecture606-8566,JAPANC1108(122)(図1)を開発し,現在使用可能である.今回筆者らは,アイミルンと従来のC5Cm視力表による視力測定結果を実施し,アイミルンによる簡易視力検査の妥当性について検討した.CI対象および方法対象は,眼疾患の既往のない健常者C38例C38眼(男性C32例,女性C6例:平均年齢C±標準偏差C28.7C±2.9歳)と京都府立医科大学に通院中の患者C57例C77眼(男性C28例,女性C29例:平均年齢±標準偏差C71.4C±11.6歳)である.遠見裸眼視力がC0.1以上の裸眼視力が得られる場合は裸眼での測定を行い,遠見最良矯正視力により視力がC0.1以上を得られる場合は矯正での測定を行った.健常者においては両眼視力測定された際は右眼データを採用した.患者群では左右異なる疾患で視力も大きく異なる場合には左右眼のデータを採用した.視力は,医師もしくは視能訓練士により測定された.アイミルンはCApple社製CiPhone8端末にインストールし視力測定を行った.現仕様では画面の輝度が変更可能なことから輝度C50%で一定とした.アイミルンの一般的な使用方法について簡単に述べる.アイミルン視力表は字ひとつ視力表に相当する(図1).測定は,左右眼,遠見(5Cm),近見(40Ccm)の計C4回である.通常は検者と測定者のC2名C1組で測定するが,音声認識機能によりC1人での測定も可能である(図2).遠見近見視力の結果から簡易に屈折異常を推定し眼科受診を促す機能を有する.視力測定のアルゴリズムは,まずC0.1の視力視標から順に提示され正解すると順に小さな視力指標に切り替わる.2回連続で間違えた時点で測定終了となり終了時点の一つ前の指標の視力を提示する仕様となっている.小数視力C0.1からC1.0まで測定可能であるが,0.1未満およびC1.2,1.5,2.0は測定不能である.視力測定結果はユーザーごとに時系列でグラフが作製され,以前測定した結果と比較可能である.従来の視力測定には,5m視力表(TAKAGICVISIONCHARTVC-22)を用いた.遠見視力測定結果の小数視力をClogMAR視力に変換し,Bland-Altman分析3)を行い,CronbachのCa係数4)を求めることでC2種類の測定結果の一致性,また比例誤差についても検討を行った.統計解析には統計解析ソフトウェア(RCstu-dio:versionRStudio2022.07.1.)5)を用いた.本研究は,世界医師会のヘルシンキ宣言に則り行われ,当図1簡易視力測定アプリケーションAImirun(アイミルン)のホーム画面(上図),および測定画面(下図)アプリケーションの設定のほか,測定方法,眼の屈折異常疾患のガイドのほか,測定場所の位置情報から近くの眼科も検索可能である.提示されているのは視力0.2の指標である.切れ目の方向は,音声で回答可能なほか,水色の矢印をタッチすることでも回答可能である.図2一人のみ(左図)と二人一組(右図)でのアイミルンでの視力測定風景表1患者群に含まれていた主要眼疾患一覧0.50Bland-Altmanplot(重複を含む)白内障41眼0.25緑内障,高眼圧,狭隅角24眼硝子体(混濁・出血)13眼黄斑上膜7眼強度近視眼底5眼翼状片4眼測定値の差0.000.000.250.500.751.00糖尿病網膜症4眼甲状腺眼症2眼眼瞼下垂2眼黄斑変性,黄斑円孔,網膜.離,眼内炎サイトメガロウイルス角膜内皮炎,眼窩腫瘍,各1眼Fuchs角膜内皮ジストロフィBland-Altmanplot測定値の差-0.25-0.500.000.250.500.751.00-0.25測定間の平均図3患者群のBland-Altman分析の結果測定値(logMAR視力)の差の平均C±1.96×標準偏差はC.0.02C±1.96×0.17であった.おおむねばらつきは一定でありC95%一致限界に全C95%以上の測定点が含まれていた.患者群の視力の分布は測定値(logMAR視力)間の平均である横軸より推測可能である.健常群,患者群におけるCCronbachのCa係数は,両群C0.89であった.III考按今回の研究では,モバイル向けオペレーティングシステム測定間の平均図4健常群のBland-Altman分析の結果測定値(logMAR視力)の差の平均C±1.96×標準偏差はC.0.07C±1.96×0.17であった.丸印で囲んだ部分に複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.院の倫理委員会による承認を得て実施した.CII結果患者群の眼疾患を表1に示す.健常群においては,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が32眼(84.2%)であり,患者群においては,矯正視力を測定したものがC72眼(93.5%)であった.患者群と健常群それぞれのCBland-Altman分析の結果を示す(図3,4).Bland-Altman分析で重要な領域(95%一致限界)である測定値の差の平均±1.96×標準偏差は患者群においては.0.02±1.96×0.17,健常群においてC.0.07±1.96×0.17であった.健常群においては,丸印で囲んだ部分に複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.健常群においては比例誤差が有意(p<0.05)であり,患者群においては有意ではなかった(p=0.18).を備えた携帯端末で使用可能な簡易視力測定アプリケーションであるアイミルンの妥当性を検討した.iPhoneやCiPadなどのモバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末は,わが国のみならず世界中で高い率で所有されるため,その使用推進のハードルは低い.筆者らのコンセプトとしては,病院やクリニックのように矯正した視力測定はできないものの,手持ちの眼鏡,コンタクトレンズ装用下などでの視力測定や裸眼視力測定の機会を提供することで現状の視力に興味をもってもらうこと,ならびに,必要に応じた眼科受診勧奨を主眼としており,診断には用いないということが重要な点である.厳密な遠見視力検査法には,室内照度がC50ルクス以上であること,かつ室内視標を超えないことなど一定の条件がある.とくに室内で自然光が入る状態では,室内照度が時刻によって変動することや視標輝度を超えてしまう恐れがあるため,このような簡易視力測定アプリケーションにおいても戸外でないことや室内に自然光が入らない状態であることが望ましく,注意書きとして記述してある.その他,端末を使用したことによるCLandolt環の大きさや環の切れ目の誤差に関して考察を行う.もっとも小さなC5Cm視力表の視力C1.0に該当するCLandolt環は高さC7.5Cmm,文字の太さC1.5Cmm,文字の切れ目部分の幅C1.5Cmmになるが,アイミルン視力表の測定距離C3Cmでは文字の切れ目は幅C0.9Cmmとなる.iPhone8は,326Cppi相当の高精細な画像であり,文字の切れ目の表現には約C11.55のピクセルが必要である.この切れ目をC12ピクセルで表現した場合C0.45ピクセル分の誤差を生じるが,0.035Cmmに相当し非常に小さな値である.よってどの指標サイズ誤差もC0.5ピクセル以下C0.04Cmm以下でありほぼ無視できる.遠見視力表には,字づまり視力表,字ひとつ視力表,ETDRSチャートなどさまざまあり,このアイミルン視力表は字ひとつ視力表に相当し,今回は対象にはなっていないものの,小児においては字づまり視力表よりも字ひとつ視力測定の成功率が高い6)ため有用かもしれない.患者には数多くの加齢性眼疾患の手術前手術後が含まれ,特定の疾患に偏るなどの影響は認められなかった.測定値の差の平均±1.96×標準偏差の間に全測定値のC95%以上が入ればおおむね一致率が高いとされるが,健常群,患者群においても達成されていた.また,測定値の差の平均は,偏り(bias)そして標準偏差は,精密度(precision)と置き換えることができるが,その両者とも偏りは低く精密度もよい結果であった.健常群のプロットで,複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.この点は,調べると視力表にてC1.2,1.5,2.0であったもののアイミルン視力表においては(仕様によりC1.0までしか測定しないため)1.0と表示されたが,大きな偏りにはつながらず,Bland-Altman分析の有効性が確認された.健常群,患者群におけるCCronbachのCa係数は,0.893であった.CronbachのCa係数と内的一貫性はC0.9.1.0:非常に高い,0.8.0.9:高い,0.7.0.8:許容レベル,0.6.0.7:疑わしい,0.5.0.6:低い,0.0.0.5:著しく低いとされ,内的一貫性は高いという結果となった.比例誤差は,健常群においては有意差を認め,患者群においては有意差を認めず,前述のC1.0以上の視力測定測定の限界や,視力良好例が多数入っているのが原因と推察された.今回の検討では,モバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末(iPhone,iPadを含む)で使用可能な簡易視力測定アプリケーションであるアイミルンでの視力測定と通常の視力表での測定の結果を比較することでアイミルンの遠見視力測定の妥当性を検証した.全体として内的一貫性は高いが,対象者によっては比例誤差を生じるなど限界はあるが,当初の簡易な視力測定の機会を提供することでまずは現状の視力に興味をもってもらう,適切に眼科受診勧奨するという筆者らのコンセプトを大きなズレなく達成することは可能と考えられた.利益相反福岡秀記【P】あり上田真由美【E】松本晃典なし吉岡誇【P】あり外園千恵【P】あり【F】参天製薬,サンコンタクトレンズ,CCorneaGenC文献1)InternationalCorganizationCforstandardization:Ophthal-micopticsC─CVisualacuitytestingC─CStandardandclinicaloptotypesandtheirpresentation.ISO8596,1-10,20172)「THEANNUSMEDICUS1899.:Medicine」LancetC154:C1819-1849,C18993)BlandCJM,CAltmanDG:StatisticalCmethodsCforCassessingCagreementbetweentwomethodsofclinicalmeasurement.LancetC327:307-310,C19864)CronbachLJ:Coe.cientalphaandtestinternalstructureoftest.PsychometrikaC16:297-334,C19515)IhakaR,GentlemanR:Alanguagefordataanalysisandgraphics.JCompGraphStatC5:299-314,C19966)橋本禎子:近見視力検査.眼科検査ガイド(眼科診療プラクティス編集委員編),文光堂,p104-108,2005C***