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Bevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)1495《原著》あたらしい眼科28(10):1495?1498,2011cはじめに増殖糖尿病網膜症1),網膜静脈閉塞症をはじめとする虚血性眼疾患2)に続発することの多い血管新生緑内障は難治性で予後不良である.薬物治療・網膜光凝固で対処できる症例は比較的少なく,線維柱帯切除術を施行せざるをえないことが多い.近年マイトマイシンCなどの代謝拮抗薬の併用によって,術後成績の向上は認められたものの,血管新生緑内障の場合,術中術後の著しい前房出血,強膜開窓部の閉鎖などにより房水の流出が阻害され,十分な眼圧下降が得られなくなり再手術になる場合もあり治療がむずかしい3).このような症例に対して筆者らの施設ではbevacizumab(AvastinR)を術前に硝子体内投与するbevacizumab併用線維柱帯切除術を行っている.抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮〔別刷請求先〕齋藤美幸:〒700-8558岡山市北区鹿田町2丁目5番1号岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Reprintrequests:MiyukiSaito,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikatacho,Okayama,Okayama700-8558,JAPANBevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績齋藤美幸*1内藤知子*1松下恭子*1山本直子*1河田哲宏*1大月洋*1高橋真紀子*2*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2笠岡第一病院眼科MiddlePeriodSurgicalOutcomeofTrabeculectomywithAdjunctiveIntravitrealBevacizumabInjectionforNeovascularGlaucomaMiyukiSaito1),TomokoNaito1),KyokoMatsushita1),NaokoYamamoto1),TetsuhiroKawata1),HiroshiOhtsuki1)andMakikoTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital血管新生緑内障に対して行った線維柱帯切除術の術後成績におけるbevacizumab術前硝子体内投与の効果を検討した.線維柱帯切除術を施行した29例31眼を対象とし,後ろ向きに検討した.対象をbevacizumab投与群15眼と非投与群16眼の2群に分け,術後の眼圧経過,術後合併症を比較・検討した.投与群と非投与群の最終受診時眼圧はそれぞれ11.9±6.6mmHg,15.6±9.1mmHgであり,両群とも有意に眼圧下降が得られた(p<0.0001,p<0.0001).Kaplan-Meier生命表分析による眼圧20mmHg以下への生存率は,術後24カ月の時点で投与群90.9%,非投与群59.1%であり,投与群で有意に良好であった(p=0.0495).また,術後追加処置として非投与群では著明な前房出血に対し前房洗浄を2眼に要したが,投与群では処置を要した症例はなかった.Bevacizumab併用線維柱帯切除術は,術後の合併症を軽減させ,術後の眼圧を良好にコントロールできる可能性がある.Aretrospectivecasecontrolstudywasperformedon31eyesof29consecutivecasesthathadundergonetrabeculectomywithmitomycinC(MMC)forneovascularglaucoma.Theeyesweredividedinto2groups:15eyesreceivedMMCtrabeculectomywithpreoperativeIVB(IVB+group)and16eyesreceivedMMCtrabeculectomyonly(IVB?group).Postoperativeintraocularpressure(IOP),probabilityofsuccessandcomplicationswerecomparedbetweenthegroups.MeanIOPatlastvisitwas11.9±6.6mmHgintheIVB+groupand15.6±9.1mmHgintheIVB?group.IOPreducedsignificantlyinbothgroups.TheKaplan-Meiermethodshowedthatthesurvivalrateatpostoperative24monthswassignificantlydifferentinbothgroups.IntheIVB?group,2eyesrequiredanteriorchamberlavage,whileintheIVB+groupnoeyehadthatextentofhyphema.IVBisaneffectivemodalityforreducingpostoperativecomplicationsoftrabeculectomyforneovascularglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1495?1498,2011〕Keywords:bevacizumab,血管新生緑内障,線維柱帯切除術.bevacizumab,neovascularglaucoma,trabeculectomy.1496あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(128)増殖因子)抗体としてbevacizumabは転移性大腸癌の治療などに使用されており,日本では2007年4月に製造・販売が承認されたが,眼科領域の疾患には適応のない静脈注射用製剤である.しかし,眼内の新生血管の発生・増殖にも重要な役割を果たすことが知られており,虚血性網膜疾患(糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など)および脈絡膜新生血管(加齢黄斑変性症,強度近視など)の治療のために抗VEGF薬としてbevacizumabが使用され,海外では良好な結果が報告されている4,5).それを踏まえ,現在日本でもbevacizumabが臨床診療に多く用いられている6).筆者らは血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術にbevacizumabを併用することにより,術後の重篤な合併症が減少し,術後管理が容易となることを報告した7).今回は,さらに経過観察期間を延ばし,血管新生緑内障に対して行ったbevacizumab併用線維柱帯切除術の中期術後成績を検討したので報告する.I対象および方法対象は2005年2月から2008年12月までの間に岡山大学病院で線維柱帯切除術を施行した血管新生緑内障症例29例31眼(男性19例,女性10例)である.2007年11月以降の症例には,基本的に全例bevacizumabを使用している.線維柱帯切除術前にbevacizumab投与を行った例を投与群,行わなかった例を非投与群とし,線維柱帯切除術後の眼圧経過・術後合併症について,後ろ向きに比較検討した.投与群は硝子体内にbevacizumab1.25mgを注入し,投与後平均5.7±4.8(1?14)日後に線維柱帯切除術を施行した.投与方法はbevacizumab1.25mg/0.05mlを30ゲージ針の注射筒にとり,必要に応じた量の前房水を抜去し眼圧降下させたのち経毛様体扁平部的に硝子体内に注入した.一連の操作は清潔下に施行し刺入部は輪部より後方3.5mm(有水晶体眼では4.0mm)とした.Bevacizumabの使用については,岡山大学病院倫理委員会にて承認されており,患者の同意を得て行った.Bevacizumab投与群14例15眼は平均年齢58.5±18.7歳(12~82歳),経過観察期間は平均11.1±5.3カ月(5~24カ月)であり,原因疾患は,増殖糖尿病網膜症8眼,網膜静脈閉塞症5眼,網膜中心動脈閉塞症1眼,続発緑内障(vonRecklinghausen病)1眼であった.Bevacizumab非投与群15例16眼については平均年齢56.8±13.3歳(32~76歳),経過観察期間は平均22.0±13.4カ月(3~48カ月)であり,原因疾患は,増殖糖尿病網膜症11眼,網膜静脈閉塞症3眼,眼虚血症候群2眼であった.Kaplan-Meier生命表分析により投与群と非投与群で眼圧の生存率を検討した.なお,死亡の定義は2回以上連続して術後眼圧20mmHgを超えた時点,もしくは緑内障手術(濾過胞再建術・別部位からの線維柱帯切除術)を追加した時点とした.統計解析は,JMP8.0(SAS東京)を用いて解析し,有意水準はp<0.05とした.II結果患者の背景因子は,投与群・非投与群の間で,経過観察期間を除いて有意差は認めなかった(表1).両群の眼圧経過表1術前患者背景因子投与群(15眼)非投与群(16眼)p値年齢(歳)平均±SD58.5±18.756.8±13.30.5930*性別男性12(80%)8(50%)0.1351**女性3(20%)8(50%)診断糖尿病網膜症8(53.3%)11(68.8%)0.5169***CRVO,BRVO5(33.3%)3(18.8%)眼虚血症候群,CRAO1(6.7%)2(12.5%)その他1(6.7%)0(0%)視力指数弁以下4(26.7%)4(25.0%)0.8088***0.01~0.157(46.7%)7(43.5%)0.2~0.52(13.3%)4(25.0%)0.6~1.02(13.3%)1(6.3%)術前眼圧平均±SD41.5±10.740.1±12.10.7066*点眼スコア平均±SD3.3±1.23.6±1.20.6820*硝子体手術既往8(53.3%)6(37.5%)0.4795**水晶体の有無有水晶体眼5(33.3%)6(37.5%)1.0000**眼内レンズ眼10(66.7%)10(62.5%)無水晶体眼0(0%)0(0%)経過観察期間平均±SD11.1±5.322.0±13.40.0570**Mann-Whitneyの検定,**Fisherの正確検定,***c2検定.CRVO:網膜中心静脈閉塞症,CRAO:網膜中心動脈閉塞症,BRVO:網膜静脈分枝閉塞症.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111497(死亡例は,死亡となった時点で除外)を示す(図1).Bevacizumab投与群では術前平均眼圧41.5±10.7mmHgに対し,最終受診時平均眼圧11.9±6.6mmHg,bevacizumab非投与群では,術前平均眼圧40.1±12.1mmHgに対し,最終受診時平均眼圧15.6±9.1mmHgであり,両群とも有意に眼圧下降が得られた(対応のあるt検定:投与群:p<0.0001,非投与群:p<0.0001).Kaplan-Meier生命表分析による投与群と非投与群の生存率は術後24カ月の時点で,投与群90.9%,非投与群59.1%と,投与群で有意に予後良好であった(Log-ranktest:p=0.0495)(図2).術後合併症について比較したところ,前房出血は投与群8眼(53.3%),非投与群6眼(37.5%),脈絡膜?離は投与群2眼(13.3%),非投与群0眼(0.0%),浅前房は投与群2眼(13.3%),非投与群1眼(6.3%)であり,いずれも両群に有意差は認めなかった(直接確率計算法:前房出血:p=0.4795,脈絡膜?離:p=0.2258,浅前房:p=0.5996)(表2).術後に要した追加処置を比較したところ,投与群における前房出血はいずれも軽度で瞳孔領にかかるほどの症例や強膜開窓部への嵌頓はなく,前房洗浄を要したものは1例もなかった.それに対し非投与群では著明な前房出血のために前房洗浄を要した例が2例認められた.III考按近年,bevacizumabの眼内投与が血管新生緑内障の治療法として一般的に行われるようになってきているが,bevacizumabが眼科疾患に対して最初に用いられた投与方法は全身投与であった8).当初bevacizumabは硝子体内投与をしても網膜下まで浸透しないと考えられていたが,その後,実際には硝子体内投与でも効果が認められたため,より全身的に影響が少なくより安全と考えられる局所投与が施行されるようになった9).最近では血管新生緑内障の治療法としてbevacizumab硝子体内投与のほかに,bevacizumab前房内注射10),虹彩ルベオーシスに対するbevacizumab結膜下注射11)の効果も報告されている.硝子体内投与の場合,1回のbevacizumab投与量は全身投与量の約400分の1(1.25mg/0.05ml)と極少量であるため,全身投与により生じうる合併症が硝子体内投与で発生する可能性は低いと考えられる.しかしながら過去の報告では,薬剤によると考えられる眼合併症として,結膜下出血,眼圧上昇,ぶどう膜炎,網膜中心動脈閉塞症,硝子体出血などがあり12),全身合併症としては血圧上昇,蛋白尿,骨形成抑制,不毛症,深部静脈血栓,脳梗塞などがある13).手技によると思われる合併症は角膜障害,水晶体損傷,眼内炎,網膜?離などが報告されている14).今回の使用では,そのような合併症は1例もみられなかった.Bevacizumabの硝子体内投与単独では,眼圧降下作用は限られており,多くの場合のちに線維柱帯切除術を施行されることになる.今回当院におけるbevacizumab投与群と非投与群における線維柱帯切除術後の眼圧の生存率の比較では,術後24カ月の時点で投与群では90.9%であったのに対し非投与群では59.1%と,投与群で有意に良好であった.Saitoらも,bevacizumabの投与により血管新生緑内障に対する初回線維柱帯切除術の術後中期成績は有意に良好になると報告している15)が,その理由として投与群では術後の前房出血が有意に少なく,出血性合併症の抑制による手術成績改善を示唆している.今回,当科では前房出血の発生頻度に両群の有意差は認めないものの,非投与群では著明な前房出血のために前房洗浄を要した症例を2例認めた.このことか表2術後合併症(Fisherの正確検定)投与群非投与群前房出血8眼(53.3%)6眼(37.5%)p=0.4795脈絡膜?離2眼(13.3%)0眼(0.0%)p=0.2258浅前房2眼(13.3%)1眼(6.3%)p=0.5996眼圧(mmHg)0102030405060術前612182430364248:投与群:非投与群期間(カ月)図1平均眼圧経過死亡例は,死亡となった時点で除外.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0生存率0612182430364248生存期間(カ月):投与群:非投与群図2Kaplan?Meier生命表分析による眼圧の生存率死亡:2回以上連続して眼圧>20mmHg,緑内障手術の施行.1498あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(130)らbevacizumab併用線維柱帯切除術は術後の重篤な出血性合併症を軽減させることができ,非投与群と比べ術後管理が容易になると思われる.また,原発開放隅角緑内障術後にbevacizumab結膜下注射によって濾過胞が有意に良好に維持されたという報告もあり16),bevacizumab硝子体内投与により線維芽細胞の遊走が阻害され,術後早期の創傷治癒が抑制されたことより濾過胞が維持された可能性も否定できないと考える.一方で血管新生緑内障に対する緑内障手術成績の差について効果がないという報告もあり17),今回は後ろ向きレトロスペクティブな検討であったため,投与群と非投与群の術後管理などが異なっていた可能性も否定できない.しかしながら,死亡例についてみてみると,非投与群では術後3カ月以内の死亡が大多数であり(図2),術後早期の合併症や再増殖に伴う眼圧上昇を回避することができれば,血管新生緑内障の術後成績は良好になることが示唆される.この点で,bevacizumabは,長期的な眼圧下降効果・濾過胞維持効果については不明であるが,術後早期の合併症を減少し術後管理を容易とすることで,術後早期に死亡に至る症例を減少させ,中期成績の改善に寄与したのではないかと推測された.今後もさらに症例を増やし,検討を重ねていく必要があると思われる.文献1)向野利寛,武末佳子,山中時子ほか:増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障の治療成績.臨眼61:1195-1198,20072)樋口亮太郎,遠藤要子,岩田慎子ほか:眼虚血症候群による血管新生緑内障の検討.臨眼58:1457-1461,20043)新垣里子,石川修作,酒井寛ほか:血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期治療成績.あたらしい眼科23:1609-1613,20064)ChanWM,LaiTY,LiuDTetal:Intravitrealbevacizumab(avastin)forchoroidalneovascularizationsecondarytocentralserouschorioretinopathy,secondarytopunctateinnerchoroidopathy,orofidiopathicorigin.AmJOphthalmol143:977-983,20075)ArevadoJF,SanchezJG,WuLetal:Intravitrealbevacizumabforsubfovealchoroidalneovascularizationinagerelatedmaculardegenerationattwenty-fourmonths:ThePan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup.Ophthalmology,inpress6)木内貴博:Bevacizumabを用いた血管新生緑内障の治療.眼科手術21:193-196,20087)河田哲宏,山本直子,内藤知子ほか:血管新生緑内障に対するベバシズマブ併用線維柱帯切除術の術後成績.臨眼63:1457-1460,20098)MichelsS,RosenfeldPJ,PuliafitoCAetal:Systemicbevacizumab(Avastin)therapyforneovascularage-relatedmaculardegenerationtwelve-weekresultsofanuncontrolledopen-labelclinicalstudy.Ophthalmology112:1035-1047,20059)坂口裕和:抗VEGF抗体:Bevacizumab(AvastinR).あたらしい眼科24:281-286,200710)上山杏那,岡本史樹,平岡孝浩ほか:血管新生緑内障に対するBevacizumab(Avastin)の眼内投与.眼臨101:1082-1085,200711)田中茂登,山地英孝,野本浩之ほか:虹彩ルベオーシスに対するベバシズマブ結膜下注射の効果.眼臨101:930-931,200712)WuL,Martinez-CastellanosMA,Quiroz-MercadoHetal;PanAmericanCollaborativeRetinaGroup(PACORES):Twelve-monthsafetyofintravitrealinjectionsofbevacizumab(Avastin):resultsofthePan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).GraefesArchClinExpOphthalmol246:81-87,200813)SimoR,HernandezC:Intravitreousanti-VEGFfordiabeticretinopathy:hopoesandfearsforanewtherapeuticstrategy.Diabetologia51:1574-1580,200814)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,200615)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,201016)DilrajSG,RajeevJ,HarshKetal:Evaluationofsubconjunctivalbevacizumabasanadjuncttotrabeculectomy.Ophthalmology115:2141-2145,200817)TakiharaY,InataniM,KawajiTetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,2011***

血管新生緑内障に対する一眼Bevacizumab硝子体内投与の両眼への効果

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(141)1153《原著》あたらしい眼科27(8):1153.1156,2010cはじめに抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体bevacizumab(AvastinR)は米国において結腸および直腸への転移性腫瘍に対する癌治療薬としてFDA(食品医薬品局)により認可された薬剤である1).眼科領域で2005年にRosenfeldらがbevacizumab硝子体注入によって,加齢黄斑変性や網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫の治療に有効であることを報告して以来2,3),同様の報告が相ついでおり4,5),近年わが国でも眼内新生血管や網膜浮腫の治療に使用されている4).Bevacizumabの局所投与による重篤な副作用の報告は少ない6)が,女〔別刷請求先〕菅原道孝:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3医療法人社団済安堂井上眼科病院Reprintrequests:MichitakaSugahara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN血管新生緑内障に対する一眼Bevacizumab硝子体内投与の両眼への効果菅原道孝大野尚登森山涼井上賢治若倉雅登井上眼科病院UnexpectedEffectsintheUntreatedFellowEyeFollowingIntravitrealInjectionofBevacizumabasTreatmentforFundusNeovascularizationMichitakaSugahara,HisatoOhno,RyoMoriyama,KenjiInoueandMasatoWakakuraInouyeEyeHospital緒言:血管新生緑内障の患者に抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体bevacizumab(AvastinR)硝子体内投与を施行し,注入眼のみならず,他眼に対しても効果のあった症例を経験した.症例:患者は59歳の男性.2年前近医で増殖糖尿病網膜症にて両眼汎網膜光凝固術を施行された.その後両眼視力低下し当院初診.初診時視力は右眼(0.2),左眼(0.2),眼圧は右眼30mmHg,左眼26mmHg.両眼ともに隅角に新生血管,漿液性網膜.離,視神経乳頭上に増殖膜を認めた.右眼は視神経乳頭上に新生血管を認めた.両眼に網膜光凝固の追加を行うとともに,右眼に対しbevacizumab1.0mg/40μlを右眼に硝子体内投与した.1週後には光干渉断層計で右眼のみならず左眼の漿液性網膜.離も軽快し,蛍光眼底造影でも両眼とも蛍光の漏出が減少した.結論:Bevacizumabは注入眼から,血流を介して血液房水関門破綻を有すると考えられる他眼へも移行し,効果が波及した可能性がある.Background:Toreporttreatmenteffectintheuntreatedfelloweyeafterintravitrealinjectionofbevacizumab(AvastinR)inapatientwithneovascularglaucoma.Case:A59-year-oldmalewhocomplainedofbilateralblurredvisionhadatwoyears-agohistoryoftreatmentforproliferativediabeticretinopathy,withlaserpanretinalphotocoagulationinbotheyes.Hisbest-correctedvisualacuitywas20/100bilaterally.Intraocularpressurevalueswere30mmHgrighteyeand26mmHglefteye.Gonioscopydisclosedneovascularizationattheanteriorchamberangleinbotheyes.Fundusexaminationshowedsignificantserousretinaldetachmentandproliferationofthediscinbotheyesandneovascularizationofthediscinrighteye.Additionallasertreatmentwasgivenandbevacizumab(1.0mg/40μl)wasintravitreallyinjectedintotherighteye.Oneweekafterinjection,opticalcoherencetomographyclearlyshowedimprovementoftheserousretinaldetachmentinboththeinjectedeyeandtheuntreatedfelloweye.Theleakageoffluorescentdyefromtheareaofneovascularizationinthefundusalsodecreasedsubstantiallyinbotheyes.Conclusions:Wespeculatethatthebevacizumabmigratedtotheuntreatedfelloweyeviathesystemiccirculation,followingbreakdownoftheblood-aqueousbarrier.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1153.1156,2010〕Keywords:bevacizumab,僚眼,増殖糖尿病網膜症,網膜血管新生,血管新生緑内障.bevacizumab,felloweye,proliferativediabeticretinopathy,retinalneovascularization,neovascularglaucoma.1154あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(142)性患者における月経異常の報告7)もあり,局所投与ながら全身に対しても少なからず影響を及ぼす可能性がある.今回筆者らは両眼の血管新生緑内障の患者にbevacizumab硝子体内投与を施行し,投与眼のみならず,非投与眼に対してもbevacizumabの作用が認められた症例を経験したので報告する.I症例患者は59歳,男性で,両眼視力低下を主訴に平成19年4月井上眼科病院(以下,当院)を受診した.30年前より糖尿病,高血圧があり,糖尿病網膜症が進行したため,平成17年10月近医にて両眼汎網膜光凝固術を施行した.その後自己判断で通院中断していた.視力が徐々に低下したため精査目的で当院を受診した.家族歴は特記すべきことはなかった.当院初診時所見:視力は右眼0.06(0.2×sph.1.0D(cyl.2.0DAx80°),左眼0.05(0.2×cyl.3.0DAx80°),眼圧は右眼30mmHg,左眼26mmHgであった.虹彩上には新生血管は認めなかったが,両眼隅角に新生血管を認めた.眼底は右眼視神経乳頭上に新生血管・増殖膜を認めた.左眼も図2蛍光眼底造影所見Bevacizumab投与前は右眼(A),左眼(B)ともに後期相で著明な蛍光漏出がみられた.投与後1週間で右眼(C),左眼(D)とも蛍光漏出は後期相でも減少した.投与前投与後1週521μm263μm282μm263μm右眼(投与眼)左眼(非投与眼)投与前投与後1週中心窩網膜厚図1OCT所見投与前は両眼とも漿液性網膜.離を認めたが,投与1週間後両眼とも漿液性網膜.離は改善し,中心窩網膜厚も減少した.(143)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101155視神経乳頭上に増殖膜を認めた.両眼ともに汎網膜光凝固後であったが,全体的に光凝固が不十分であった.光干渉断層計(OCT)で右眼は黄斑下方に漿液性網膜.離を,左眼は黄斑浮腫と漿液性網膜.離を認めた(図1).中心窩網膜厚は右眼521μm,左眼282μmであった.蛍光眼底造影(FA)で,右眼は視神経乳頭からの蛍光漏出を(図2A),左眼は増殖組織,周辺新生血管からの旺盛な蛍光漏出を認めた(図2B).以上の所見から両眼増殖糖尿病網膜症・血管新生緑内障と診断した.経過:両眼に網膜光凝固の追加をし,カルテオロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト点眼を開始し,1週間後の眼圧は両眼16mmHgに下降した.新生血管の範囲が左眼に比べ右眼が広いため,bevacizumab1.0mg/40μlを右眼に硝子体内投与した.投与翌日右眼眼圧は28mmHgと上昇したが,2日目以降は12mmHgと下降し,以後眼圧上昇は認めていない.投与翌日眼底所見に変化はなかったが,投与1週間後には隅角の新生血管が消退し,漿液性網膜.離も軽減しており(図1),中心窩網膜厚は263μmと減少し,FAでも蛍光漏出が改善していることが確認できた(図2C).さらにbevacizumabを投与していない左眼でも隅角新生血管が消退し,漿液性網膜.離が軽減し,中心窩網膜厚は263μmと減少し,蛍光漏出の改善が認められた(図1,2D).経過観察中両眼視力は(0.2)のままで不変である.II考按血管新生緑内障は,眼内虚血を基盤とし,虹彩表面および前房隅角に新生血管が発生する難治性の緑内障である.本症は眼内虚血が生じると血管内皮増殖因子(VEGF)に代表される血管新生因子が産生され,新生血管が惹起される.虹彩,隅角,線維柱帯に生じた新生血管が房水流出路を閉塞するために眼圧上昇をきたし,治療に難渋することが多い.糖尿病網膜症はVEGFなどの作用により血液眼関門の破綻をきたし,破綻の程度は糖尿病の病期に相関があるため,増殖糖尿病網膜症では血液眼関門の破綻が有意に顕著であるとされる8).Bevacizumabは眼科領域では眼内新生血管と黄斑浮腫の治療に使用されている.Bevacizumabを硝子体内に投与する量は癌治療の数百分の一とごく微量であるが,Fungらの合併症の報告によると,局所投与における全身合併症には血圧上昇,深部静脈塞栓,脳梗塞などの合併症もあり,死亡例も報告されている6).Averyらの文献によれば,糖尿病網膜症で網膜もしくは虹彩に新生血管を伴う32例45眼に対しbevacizumab(6.2μg.1.25mg)を硝子体注射したところ,bevacizumab1.25mgを投与した2例で非投与眼の網膜新生血管や虹彩新生血管が減少していた.そのうち1例は2週間で新生血管が再発したが,もう1例では11週間経ても再発を認めていない9).Bakriらはbevacizumab1.25mgを20匹の健常家兎に硝子体注射し,投与眼で硝子体中の半減期が4.32日,30日後に10μg/ml以上認め,非投与眼でも硝子体中で4週間後に11.17μg/ml,前房中では1週間後29.4μg/ml,4週間後には4.56μg/ml認めたと報告している.非投与眼での濃度は前房水のほうが硝子体より高く,bevacizumabが脈絡膜循環より前房へ入ると考えている10).以上から,今回の症例では増殖糖尿病網膜症により,VEGFなどの作用で血管の透過性が亢進し,さらに血管新生緑内障も合併していたことから,血液眼関門が高度に破綻していたと思われる.そのため体循環を介して,僚眼へ到達したbevacizumabが透過性亢進により僚眼の眼内に移行しやすくなり,隅角新生血管ならびに網膜からの蛍光漏出を軽減させたと考えた.網膜光凝固も追加しており,その影響も考えられるが,一般に網膜光凝固による効果の発現には一定期間を要すること,bevacizumabはAveryらの報告9)では投与後1週間以内で全例FAでの蛍光漏出が消失もしくは減少したことから,bevacizumabのほうが効果発現に即効性があると考え,投与後の浮腫の改善の経過からbevacizumabの影響が強いと判断した.今後bevacizumab硝子体内投与後は両眼の注意深い経過観察が必要と考えた.文献1)YangJC,HaworthL,SherryRMetal:Arandomizedtrialofbevacizumab,ananti-vascularendothelialgrowthfactorantibodyformetastaticrenalcancer.NEnglJMed349:427-434,20032)RosenfeldPJ,MoshfeghiAA,PuliafitoCAetal:Opticalcoherencetomographyfindingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(AvastinR)forneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicSurgLasersImaging36:331-335,20053)RosenfeldPJ,FungAE,PuliafitoCAetal:Opticalcoherencetomographyfindingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(AvastinR)formacularedemafromcentralretinalveinocclusion.OphthalmicSurgLasersImaging36:336-339,20054)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationinjectionofbevacizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20065)IlievME,DomigD,Worf-SchnurrburschUetal:Intravitrealbevacizumab(AvastinR)inthetreatmentofneovascularglaucoma.AmJOphthalmol142:1054-1056,20066)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinternettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,20067)ShimaC,SakaguchiH,GomiFetal:Complicationsin1156あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(144)patientsafterintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol86:372-376,20088)WaltmanSR:Quantitativevitreousfluorophotometry.Asensitivetechniqueformeasuringearlybreakdownoftheblood-retinalbarrierinyoungdiabeticpatient.Diabetes27:85-87,19789)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciMDetal:Intravitrealbevacizumab(AvastinR)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705,200610)BakriSJ,SnyderMR,ReidJMetal:Pharmacokineticsofintravitrealbevacizumab(AvastinR).Ophthalmology114:855-859,2007***

Bevacizumab の硝子体内注射で硝子体手術時期が延期できた増殖糖尿病網膜症の1例

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(135)8850910-1810/08/\100/頁/JCLS《原著》あたらしい眼科25(6):885889,2008cはじめに活動性の高い増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)患者において,硝子体および前房水中の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度が上昇している1,2).近年,適応外使用であるが,眼科領域において抗VEGF薬であるbevacizumab(Avas-tinR)の硝子体内注射の効果が多く報告36)されており,PDRに対しても有用性が報告79)されている.しかし,硝子体手術の時期を延期する目的で,bevacizumabの硝子体注射を行った報告は見当たらない.今回,筆者らは両眼の増殖糖尿病網膜症で,右眼は硝子体手術後にシリコーンオイル下で重篤な再増殖が起こり,追加手術が必要で安定した状態になるには時間がかかると予想され,左眼も活動性が高く,硝子体出血や牽引性網膜離の発生が危惧される症例を経験した.この症例の左眼に対し,高度な視力低下が出現する前にbevacizumabの硝子体内注射を3回施行して,手術時期を延期することができたので報告する.I症例患者:31歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:2006年2月に他院で右眼の硝子体出血,牽引性網膜離を伴う増殖糖尿病網膜症のため,硝子体手術およびシリコーンオイル・タンポナーデが施行された.しかし,右〔別刷請求先〕北善幸:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:YoshiyukiKita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityMedicalCenterOhashiHospital,2-17-6Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPANBevacizumabの硝子体内注射で硝子体手術時期が延期できた増殖糖尿病網膜症の1例北善幸佐藤幸裕北律子八木文彦富田剛司東邦大学医学部眼科学第二講座IntravitrealInjectionofBevacizumabtoDelayTimingofVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyPatientYoshiyukiKita,YukihiroSato,RitsukoKita,FumihikoYagiandGojiTomitaSecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine高度な視力低下が出現する前にbevacizumabの硝子体内注射を複数回施行して,手術時期を延期できた症例を経験したので報告する.症例は31歳,男性.両眼の増殖糖尿病網膜症で,右眼は硝子体手術後に重篤な再増殖が起こり,追加手術が必要で安定した状態になるには時間がかかると予想された.左眼も活動性が高く,硝子体出血や牽引性網膜離の発生が危惧された.左眼の高度な視力低下が出現する前にbevacizumabの硝子体内注射を3回施行して,手術時期を延期することができた.Wereportontheeectivenessofrepeatedintravitrealinjectionsofbevacizumabinordertosustainvisualacuitywhiledelayingtimelysurgeryinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.Thepatient,a31-year-oldmalewithbilateralproliferativediabeticretinopathy,requiredanadditionalvitrectomyowingtodevelopmentofrecurrentsevereproliferationafterinitialvitrectomyinhisrighteye,butaperiodoftimewasneededforstabiliza-tionoftheeye’scondition.Activitywasalsohighinthelefteye,withriskofdevelopingvitreoushemorrhageandtractionalretinaldetachment.Toforestallvisualacuitydeterioration,3intravitrealinjectionsofbevacizumabweregiveninordertoenabledelayofappropriatetimingforvitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):885889,2008〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,血管内皮増殖因子,bevacizumab,黄斑偏位.proliferativediabeticretinopathy,vascularendothelialgrowthfactor,bevacizumab,macularheterotopia.———————————————————————-Page2886あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(136)(0.7×0.75D).眼圧は両眼19mmHg.両眼とも前眼部に異常なく,虹彩隅角新生血管なし.中間透光体は,右眼シリコーンオイル注入眼,左眼に異常なし.眼底は右眼鼻側に再増殖による牽引性網膜離があった.左眼は,乳頭新生血管(neovascularizationofthedisc:NVD),網膜新生血管,黄斑浮腫,網膜前出血があり,汎網膜光凝固(panretinalpho-tocoagulation:PRP)が施行されていた(図1).経過:右眼は再度の硝子体手術が必要であり,安定した状態になるには時間がかかると予想された.左眼はPRPが完成しているにもかかわらず,NVDは活動性があり,硝子体出血や牽引性網膜離が発生して,さらに視力が低下してくると予想された.そのため,右眼が安定した状態になるまでの間,左眼の網膜症の悪化と視力低下を防ぐ目的で,本院倫理委員会の承認を得て文章によるインフォームド・コンセントを取得のうえ,6月2日にbevacizumab1.25mg(0.05ml)の硝子体内注射(intravitrealinjectionofbevacizumab:IVB)を施行した.IVBは,局所麻酔下で,角膜輪部から3.5mm後方に32ゲージ針で行った.注射の前に前房水を採取した.採取した前房水のVEGF濃度はhumanVEGF抗体(R&DSystems)を用いて,enzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法にて測定し,1,680pg/mlであった.注射後,NVDは徐々に減少し,50日後にはほぼ消退した.また,黄斑浮腫も改善し,矯正視力(1.0)になった.そのため,8月7日に右眼の硝子体再手術を施行した.手術は,シリコーンオイルを抜去し,増殖膜を処理したが,医原性裂孔が生じたのでSF6(六フッ化硫黄)ガスタンポナーデを行った.その後,左眼のNVDが再度増悪し(図2),右眼も軽度の硝子体出血が出現した.そのため,9月22日に左眼に対し2回目のIVB1.25mg(0.05ml)を施行し,NVDは再び消退した(図3).さらに,左眼に光凝固の追加(650発)を眼の鼻側にシリコーンオイル下で網膜上の再増殖が出現したため,同年5月23日に東邦大学医療センター大橋病院を紹介され受診した.既往歴:18歳より2型糖尿病.初診時所見:視力は右眼0.02(0.1×+6.00D),左眼0.3abc1初診時眼底写真a,b:右眼はシリコーンオイル注入眼で,鼻側に再増殖による牽引性網膜離がある.c:左眼は乳頭新生血管,網膜新生血管,黄斑浮腫,網膜前出血がある.図22回目のIVB前の左眼眼底写真NVDは一時的にはほぼ消退したが,その後,再度出現した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008887(137)時点で硝子体手術の適応はないが,網膜症の悪化による視力低下が予想されるPDR患者に対し,IVBを施行して硝子体出血などの発症を遅らせ,硝子体手術の時期を延期できた症行った.右眼の白内障が進行してきたため,2007年1月26日,右眼超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行した.術後視力は右眼(0.1)であった.2月には左眼のNVDが再度増悪し,さらに硝子体出血と軽度の黄斑偏位が出現し視力が(0.3)に低下した(図4).本人の希望もあり,3月26日に3回目のIVB1.25mg(0.05ml)を施行した.その後,NVDはほぼ消退し,硝子体出血も改善したが,黄斑偏位のため視力は(0.4)までしか改善せず(図5),6月14日に左眼硝子体手術を施行した.術後,黄斑偏位が改善し視力(1.0)となった(図6).その後,外来で経過を観察しているが,2007年11月の時点で矯正視力は右眼(0.08),左眼(0.9)で安定している.II考按今回,筆者らは,硝子体出血や牽引性網膜離がなく,現図6最終眼底写真a:右眼視力(0.1).b:硝子体手術により黄斑偏位が改善し左眼視力(1.0)となった.ab32回目のIVB後の左眼眼底写真NVDはほぼ消退している.図43回目のIVB前の左眼眼底写真NVDが再度出現し,線維血管膜や硝子体出血,黄斑偏位がある.図53回目のIVB後の左眼眼底写真硝子体出血とNVDは消退し,線維血管膜と黄斑偏位がある.———————————————————————-Page4888あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(138)本症例は,右眼が重症のPDRで治療に時間がかかると考えられ,右眼が安定化する前に左眼の硝子体手術が必要になれば,患者は両眼の視力低下によって日常生活も困難になると予想された.このため,左眼にIVBを行って手術時期を延期し,患者のqualityofvisionを維持した.このような使用方法は,今後,硝子体手術が必要になる可能性がある症例で全身状態が不良で手術ができない場合に,IVBを用いて硝子体手術の時期を延期し,全身状態を改善する時間的余裕を作れる可能性もある.ただし,PDRの程度によっては牽引性網膜離が悪化する可能性はあるため,今後,どの程度のPDRに対して施行するか検討する必要があると考えられる.今回は,眼内炎などの合併症はみられなかったが,beva-cizumabの硝子体注射は1,000人に1人の確率で眼内炎などの危険が伴うと報告されている13).また,複数回投与による薬剤毒性など不明な点もあるが,症例を選んで慎重に対応すれば,非常に有用な薬になると考えた.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19942)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:RiskevaluationofoutcomeofvitreoussurgeryforproliferativediabeticretinopathybasedonvitreouslevelofvascularendothelialgrowthfactorandangiotensinII.BrJOphthalmol88:1064-1068,20043)RosenfeldPJ,MoshfeghiAA,PuliatoCA:Opticalcoher-encetomographyndingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.OphthalmolSurgLaserImag36:331-335,20054)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20065)MasonⅢJO,AlbertJrMA,MaysAetal:Regressionofneovascularirisvesselsbyintravitrealinjectionofbevaci-zumab.Retina26:839-841,20066)IlievME,DomigD,Wolf-SchnurrburschUetal:Intravit-realbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofneovascu-larglaucoma.AmJOphthalmol142:1054-1056,20067)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avas-tin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycompli-catedbyvitroushemorrhage.Retina26:275-278,20068)MasonⅢJO,NixonPA,WhiteMF:Intravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin)asadjunctivetreatmentofpro-liferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:685-688,20069)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJ:Intravitrealbevaci-zumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705,2006例を報告した.PDRの活動性が高いほど,前房水中および硝子体中のVEGF濃度は上昇し,硝子体中のVEGF濃度が高いと硝子体手術後に再増殖しやすいと報告されている1,2,10).まず,本症例のPDRの活動性について検討すると,数カ月前に他院でPRPが完了しているにもかかわらず前房水のVEGF濃度が1,680pg/mlであり,既報1)と比較して非常に高いグループに属すると思われ,網膜症が悪化する可能性が非常に高いと考えた.最近,PDRに対するIVBは新生血管を消退させると報告8,9)されている.また,Spaideらは硝子体出血を伴うPDRに対し,IVBの有効性を報告7)している.この報告では,合計2回のIVBを施行し,硝子体出血が消失し,硝子体手術が回避できている.しかし,重症のPDRに対しIVBを行うと,膜の収縮を増強し牽引性網膜離が5.2%に生じた11)と報告されている.ただ,これらの症例は,硝子体手術が必要なPDR症例であり,本症例では,新生血管は認めるが,検眼鏡的に線維血管膜や牽引性網膜離がない状態で,硝子体手術が必要な状態ではなく,IVBにより牽引性網膜離が発症し,緊急に硝子体手術になる可能性は低いと判断し,IVBを行った.今回,合計3回のIVBを施行した.1回目と2回目のIVBはNVDを消退させる目的で,3回目は,硝子体出血の減少に有効7)とされていたので,硝子体出血を減少させる目的で施行した.IVBによるNVDの消退は一時的なもので,再度増悪したが,IVBの再施行で減少した.1回目のIVB後に減少した新生血管が再度増加したので,2回目のIVB後も減少した新生血管が再度増加する可能性を考え,網膜虚血を改善させるため,網膜光凝固を追加した.しかし,網膜症を沈静化することはできなかった.そのため,もし,初診時に光凝固の追加のみをしていた場合,結果論ではあるが,網膜症の沈静化は得られなかったと考えられる.3回目のIVBの際には,硝子体出血とともに黄斑偏位が生じていた.IVBは硝子体出血には有効であったが,黄斑偏位が残存したので,最終的に硝子体手術を施行した.本症例では患者本人の希望もあり,3回目のIVBを施行した.しかし,この時期には,右眼は白内障手術が終了して安定化しており,左眼には線維血管膜の収縮による黄斑偏位が生じていた.黄斑偏位の持続期間と視力予後が関連するとの報告もあり12),また,線維血管膜も出現してきており,牽引性網膜離が生じる可能性も1回目や2回目のIVB時よりも高い確率と考えられ,本症例では黄斑偏位に対する硝子体手術後,幸いにも視力障害は残らなかったが,3回目のIVBをせずに,硝子体手術に踏み切るべきであったとも考えられる.しかし,最終的に硝子体手術を回避することはできなかったが,初回注射から硝子体手術まで約1年間,手術時期を延期できたと思われ,当初の目的は達成できたと考えた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008889thy.BrJOphthalmol92:213-216,200812)SatoY,ShimadaH,AsoSetal:Vitrectomyfordiabeticmacularheterotopia.Ophthalmology101:63-67,199413)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevaci-zumab.JOculPharmacolTher23:240-242,200710)FunatsuH,YamashitaH,ShimizuEetal:Relationshipbetweenvascularendothelialgrowthfactorandinterleu-kin-6indiabeticretinopathy.Retina21:469-477,200111)ArevaloJF,MaiaM,FlynnHWJretal:Tractionalreti-naldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avas-tin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopa-(139)***