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問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1 症例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):230.234,2022c問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1症例白木夕起子*1,2庄司純*2樋町美華*3廣田旭亮*2稲田紀子*2山上聡*2*1相模原協同病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3東海学園大学心理学部CACaseofVernalKeratoconjunctivitisthatUnderwentChildren’sManifestAnxietyScalePsychologicalTestingYukikoShiraki1,2),JunSyoji2),MikaHimachi3),AkiraHirota2),NorikoInada2)andSatoruYamagami2)1)SagamiharaKyodoHospital,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofPsychology,TokaigakuenUniversityC目的:治療経過中に,日本版児童用顕在性不安尺度(Children’sManifestAnxietyScale:CMAS)による心理検査が施行できた春季カタルの症例報告.症例:症例は春季カタルのC9歳,男児である.既往歴としてチック症がある.2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.1年間近医で治療を受けたが症状が改善せず,当科紹介受診した.初診時所見は,両眼上眼瞼結膜に活動性の巨大乳頭を認めたが,角膜上皮障害はなかった.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼治療開始後C1カ月目には自覚症状が軽減し,巨大乳頭は扁平化した.初診時とタクロリムス点眼治療開始後C1カ月目のC2回,CMASによる心理テストを施行した.初診時の結果は,合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」,検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で,強い不安が検出された.点眼治療開始後C1カ月目の結果は,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」,L尺度項目はC1と軽快していた.結論:免疫抑制点眼薬による春季カタルの軽症化により,不定の程度も改善したことが心理テストで確認できたC1例を経験した.CPurpose:Toreportacaseofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)thatunderwentpsychologicaltestingviatheJapaneseversionoftheChildren’sManifestAnxietyScale(CMAS)duringthetreatmentcourse.Casereport:A9-year-oldboypresentedwithvernalkeratoconjunctivitis.Hehadahistoryofticdisorder,andinthesummerof2018,inadditiontohisticdisorder,hyperemia,ocularpain,anddischargeinhisrighteyeoccurred.Althoughhehadbeentreatedfor1yearataneyeclinicnearhishome,hissymptomsdidnotimproveandhewasreferredtoourdepartment.Clinical.ndingsattheinitialvisitshowedactivegiantpapillaeintheupperpalpebraconjunctivaofbotheyes,yetnocornealepithelialdamage.HewasdiagnosedwithVKC,andatwice-dailytreatmentwithtopi-calCtacrolimusCophthalmicCsuspensionCwasCinitiated.CAtC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CsubjectiveCsymptomsCimprovedCandCtheCgiantCpapillaCwasC.attened.CAtCinitialCpresentationCandCatC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CCMASpsychologicaltestingwasperformed.TheCMAStestresultsatinitialpresentationrevealedstronganxietyby28pointsintotal,andthedegreeofanxietywasIVoutofVclasses.TheLscaleitemindicatingthevalidityofthetestwas0.TheCMAStestresultsat1-monthposttreatmentinitiationshowed16pointsintotal,adegreeofanxietyCofCIII,CandCthatCtheCLCscaleCitemCwasC1.CConclusion:WeCexperiencedCaCpatientCwithCVKCCwhoseCCMASCpsychologicaltestingimprovedduetotreatmentwithimmunosuppressiveeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):230.234,C2022〕Keywords:春季カタル,ストレスチェック,他覚的評価,CMAS.vernalkeratoconjunctivitis,stresscheck,ob-jectiveevaluation,CMAS.C〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANC230(98)表1乳頭・輪部・角膜スコア(PLCスコア)点数乳頭巨大乳頭輪部腫脹トランタス斑角膜所見0点1点2点3点なし直径C0.1.0C.2Cmm以上直径C0.3.0C.5Cmm以上直径C0.6Cmm以上なし平坦化局所全体なし1/3周未満1/3.C2/3周2/3周以上なし1.4個5.8個9個以上なし点状表層角膜炎落屑状点状表層角膜炎シールド潰瘍はじめに春季カタルは結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患であるとされ,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版1)では,春季カタルで発症する結膜の増殖性変化を眼瞼結膜の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起と定義している.臨床的には,5.10歳の男児に好発し,春季に増悪する季節性があり,重症化すると角膜上皮障害やシールド潰瘍を併発して視力障害を生じるなどの臨床的特徴を有するが,アトピー性皮膚炎を伴う患者が多いことも特徴としてあげられている1).アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎については,日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018年版2)に,心身医学的側面にも留意した包括的な治療を心がけるべきと記載されている.これまでに,アトピー性皮膚炎と心身医学的側面との関係として,ランダム化比較試験による効果が実証された心身医学的介入は,行動療法や認知行動療法などの行動科学的アプローチであるという報告3)や,適切な薬物療法,リラクセーション訓練や認知行動療法などのストレス免疫訓練,習慣性掻破行動をやめる行動療法,アドヒアランスを向上させるコーチングや動機づけ面接など,行動科学的アプローチを用いて総合的な患者教育を行うことが大切であるという報告4)がなされている.春季カタルも重症型アレルギー性結膜疾患であると同時にアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患の合併率が高いことから,アトピー性皮膚炎における治療的アプローチと同様に,春季カタルについても病状と心身医学的側面との関係について検討していく必要があると考えられる.児童の不安を検査する方法の一つに,児童用顕在性不安尺度がある.CMAS(ChildrenC’sCManifestCAnxietyScale:CMAS)は身体各部の異常や疾患に基づいて生じるさまざまな身体的不安の程度を測定する質問紙検査で,身体的不安や精神的不安などを含む各種不安の総合的な程度を評価するために開発されたCManifestCAnxietyScale(MAS)の小児版である.CMASにより,不安の程度が高いと評価された場合には,さらにその不安の種類や不安が生じる誘因や原因を考察することで不安をなくすために必要な具体的対策を講ずることが可能となる.これまでに眼科領域では,心因性視覚障害の小児に使用した報告5)がみられるが,春季カタルの経過観察に使用した報告はみられない.今回,筆者らはCCMSの日本版である『CMS児童用顕在性不安尺度』(以下,日本版CAMS)(三京房,京都)を用いて春季カタル症例の治療奏効の過程で,不安の程度が軽減したことが確認できたC1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.CI方法および症例1.顕在性不安尺度顕在性不安尺度の測定には,CMASを用いた.日本版CMASの質問用紙に記載されている不安尺度C42項目および妥当性を示すCL(lie)尺度C11項目に関する質問の計C53項目について「はい」と「いいえ」で自己回答させた.検者は,回答後に診断基準に従って不安傾向をC5段階で評価した.0.5点はC5段階評価のC1「非常に低い」,6.12点はC2で「低い」,13.20点はC3で「正常」,21.28点はC4で「高い」,29点以上はC5で「非常に高い」となる.また,妥当性尺度を使用して回答の信頼性について評価した.C2.臨床スコア他覚所見は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版2)に記載されている臨床評価基準をもとに,春季カタル患者用に主要項目を抜粋した乳頭・輪部・角膜(papillae-lim-bus-cornea:PLC)スコアを作成し,数値化した(表1).C3.症例患者:9歳,男児.主訴:右眼充血・疼痛.既往歴:チック症.アレルギー歴:ダニ・ハウスダスト.家族歴:特記事項なし.現病歴:2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.近医でエピナスチン点眼薬による治療が開始され,症状の改善があるたびに点眼薬の使用を自己中断していた.2019年C8月になり,点眼薬を使用しても右眼の充血および疼痛が改善しなくなったため当院初診となった.初診時所見:視力は,右眼=0.3(0.6),左眼=1.2(n.c.)であった.眼圧は眼刺激症状により十分な開瞼が行えず測定不能であった.細隙灯顕微鏡所見では,両眼の上眼瞼結膜に巨大乳頭と眼脂の貯留とがみられた.巨大乳頭所見は,左眼に比較して右眼のほうが重症であった.球結膜には高度の充血を認めたが,角膜・輪部には特記すべき所見はみられなかった(図1a,b).これらの所見から,PLCスコアは,右眼C6図1治療前後の前眼部写真治療開始前の右眼(Ca)および左眼(Cb).活動性の巨大乳頭と巨大乳頭の間隙に貯留した眼脂,および球結膜充血がみられる.治療開始C4週間目の右眼(Cc)および左眼(Cd).巨大乳頭は扁平化し,球結膜の充血は消退傾向である.タクロリムス点眼CMAS:ChildrenManifestAnxietyScale図2PLCスコアおよび日本版CMASの治療前後の比較治療開始前のCPLCスコアは両眼ともC6点,日本版CCMASはC28点と高い不安を示した.タクロリムス点眼C1日C2回両眼点眼による治療開始後よりCPLCスコアは減少し,4週後の日本版CCMASもC16点と,不安の程度は正常となった.20週目よりタクロリムス点眼C1日C1回両眼点眼に変更した.点,左眼C6点と判定した.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼薬による治療開始前に,日本版CCMASを本人に回答させた.合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」で,診断としては高い不安を示した.検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で妥当性はあった.治療経過:治療開始からC1週後,右眼裸眼視力はC1.2に向上した.両眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は縮小傾向を示し,眼脂や充血も軽快していた.この時点で,PLCスコアは右眼C5点,左眼C5点に減少した.自覚症状は,時折掻痒感を自覚する程度にまで改善した.自覚所見および他覚所見は軽快傾向を示したものの,結膜の炎症所見と結膜増殖性変化である巨大乳頭が残存していたため,タクロリムス点眼液C1日C2回点眼は継続した.その後,自覚症状および他覚所見は徐々に軽症化し,初診からC1カ月後には巨大乳頭は扁平化した(図1c,d).治療開始後C1カ月目のCPLCスコアは,右眼C3点,左眼C4点であった.再度,日本版CCMASを施行したところ,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」で,診断としては正常となった(図2).検査の妥当性を示すCL尺度項目はC1で妥当性はあった.初診からC5カ月後には巨大乳頭がほぼ消失し,現在は経過観察中である.CII考按今回筆者らは,急性増悪期と鎮静期に日本版CCMASを施行して,両病期間で不安傾向に差があった春季カタル症例を経験した.春季カタルを含めたアレルギー性結膜疾患では,患者がもっとも高頻度に自覚する症状として眼.痒感があげられている7).また,眼掻痒感は患者の生活の質(qualityCoflife)を低下させることが報告されている8).春季カタルでは,病状の増悪に伴って,眼掻痒感,流涙,羞明感,眼脂,眼痛などの自覚症状が悪化する.重症化すると登校が困難になることもあり,患児が眼掻痒感ばかりでなく眼痛や羞明感などにより強いストレスを感じていることが予想されていた.しかし,現在の春季カタル診療では,ストレスの程度を把握する臨床検査法が確立していないため,医師側が患児のストレスを把握しきれないのが現状である.一方,病状とストレスとの関連が検討されてきたアレルギー性疾患の代表的疾患は気管支喘息とアトピー性皮膚炎である.大矢は,心身症的側面を有する気管支喘息では,vocalCcodedysfunctionなどの心因性上気道閉塞性疾患との鑑別診断が重要であるとともに,心理社会的ストレッサーをチェックし,適切な対応を行うことが重要であることを指摘している9).また,アトピー性皮膚炎では,病状にストレスの関与があることが指摘されており,心身医学的側面からの検討が行われている.羽白は,アトピー性皮膚炎が心身症としては,「狭義の心身症タイプ」「アトピー性皮膚炎による適応障害タイプ」「アトピー性皮膚炎による管理障害(治療遵守不良)タイプ」のC3種類に分類されるとしている10).また,アトピー性皮膚炎における心理的側面を診断する方法として,樋町らは,ItchAnxietyScaleforAtopicDermatitis(IAS-AD)11)を,安藤らはアトピー性皮膚炎心身症尺度(Psycho-somaticCScaleCforCAtopicDermatitis:PSS-AD)12)を発表している.したがって,ストレスを含めた心理的影響が疑われる春季カタルなどのアレルギー性結膜疾患でも,検査法を確立して心身症的側面を把握し,病態の理解に努めることが重要であると考えられる.今回の症例では,日本版CCMASを使用することで,春季カタルの重症度の変化に伴う患児のストレスが検出可能であることが示唆された.MASは,1951年CTaylorら13)が発表した質問紙法による不安傾向の測定法で,TaylorCPersonalityCInventory(TPI)ともよばれている.顕在性不安とは,自分自身で身体的,精神的な不安の症候が意識化できたものをさし,行動観察などにより主観的に捉えられることが多かった不安が,MASにより患者報告アウトカムとして臨床現場で使用できるようになっている.MASの適応年齢はC16歳以上とされているが,16歳未満の児童用CCMASがある.今回の症例には,簡単な日本語で質問表が書かれた日本版CCMASを用いた.不安は,状態不安と特性不安との二つに大別されている.状態不安は,ある特定の時点や場面で感じる不安のことをさし,ストレスが強いほど状態不安が高くなるとされている.また,特性不安は,性格などに由来する不安になりやすい傾向を示すとされ,ストレスにより不安になりやすい人を意味している.CMASは,顕在性不安の検出を目的とするための検査法であるが,おもに特性不安を検出する質問項目を中心に作成されており,状態不安を測定する項目に乏しいことが指摘されている.今回の症例では日本版CCMASにより検出された不安傾向が,春季カタルの治療により改善したことが特徴的な変化であると考えられた.顕在性不安と特性不安の両者を測定する目的で作成された検査法として,state-traitanxietyCinventory(STAI)がある.今後は,春季カタルにおける不安検査として,CMASとCSTAIとの比較を行い,春季カタル患者における不安検査としての妥当性について検討していく必要があると考えられた.本症例報告の概要は,第C3回日本眼科アレルギー学会学術集会で発表した.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20102)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2018年版.日皮会誌C128:C2431-2502,C20183)EhlersA,StangierU,GielerU:Treatmentofatopicder-matitis:acomparisonofpsychologicalanddermatologicalapproachesCtoCrelapseCprevention.CJCConsultCClinCPsycholC63:624-635,C19954)StevenCJ,CFionaCC,CSueCLCetal:PsychologicalCandCeduca-tionalCinterventionsCforCatopicCeczemaCinCchildren.CCochraneDatabaseSystRevC2014:CD004054,C20145)原涼子,和田直子,並木美夏ほか:他科との連携が必要であった心因性視覚障害.日本視能訓練士協会誌C37:123-128,C20086)ShojiJ,OhashiY,FukushimaAetal:TopicaltacrolimusforchronicallergicconjunctivitisdiseasewithandwithoutCatopicdermatitis.CurrEyeResC44:796-805,C20197)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20128)深川和己,岸本弘嗣,庄司純ほか:季節性アレルギー性結膜炎患者におけるCWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるCQOLへの影響.アレルギーの臨床C39:825-837,C20199)大矢幸弘:心因性喘息と鑑別が必要なCVocalcorddysfunc-tion─.Q&Aでわかるアレルギー疾患C4:193-196,C200810)羽白誠:アトピー性皮膚炎への心身医学的対応.医学のあゆみ228:109-114,C200911)樋町美華,岡島義,大澤香織ほか:成人型アトピー性皮膚炎患者の痒みに対する不安尺度の開発信頼性・妥当性の検討.心身医学47:793-802,C200712)AndoT,HashiroM,NodaKetal:Developmentandvali-dationCofCtheCpsychosomaticCscaleCforCatopicCdermatitisCinCadults.JDermatolC33:439-450,C200613)TaylorJA:Therelationshipofanxietytotheconditionedeyelidresponse.JExpPsycholC41:81-89,C1951***