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涙囊炎に合併した副鼻腔画像所見

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1065.1068,2017c涙.炎に合併した副鼻腔画像所見五嶋摩理*1,2齋藤勇祐*2小栗真美*2山本英理華*1尾碕憲子*1川口龍史*1村上喜三雄*1松原正男*2齋藤誠*3*1がん・感染症センター都立駒込病院眼科*2東京女子医科大学東医療センター眼科*3がん・感染症センター都立駒込病院臨床研究支援室ComputedTomographyImagingofSinusinDacryocystitisMariGoto1,2),YusukeSaito2),MamiOguri2),ErikaYamamoto1),NorikoOzaki1),TatsushiKawaguchi1),KimioMurakami1),MasaoMatsubara2)andMakotoSaito3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,3)DivisionofClinicalResearchSupport,TokyoMetropolitanKomagomeHospital目的:涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測した.対象および方法:涙.鼻腔吻合術の術前に副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎症例36例の患側におけるCT所見を健側と比較検討した.結果:副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,患側のみが9例,健側のみが1例であり,患側に有意に多かった.鼻中隔弯曲は,患側と健側への弯曲がそれぞれ5例ずつで,両側の狭鼻腔を3例に認めた.本人の記憶にない鼻骨骨折と患側の眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.結論:慢性涙.炎における副鼻腔の炎症は,健側に比べて患側で有意に多かった.Purpose:Toreporton.ndingsinthenasalcavityandsinusbycomputedtomography(CT)incasesofdac-ryocystitis,forassessmentofunderlyingin.ammatoryfactorsandsurgicalprecautions.Method:Investigatedwere36unilateralcasesofchronicdacryocystitisthatunderwentsinusCTpriortodacryocystorhinostomy(DCR).CT.ndingswerecomparedwiththefellowside.Result:Sinusitiscasespluspostsurgicalsinusitiscasestotaled9onthedacryocystitissideonly,versusoneonthefellowsideonly,provingastatisticallysigni.cantdi.erence.Nasalseptumwasdeviatedtothedacryocystitissidein5casesandtothefellowsidein5cases.Threecasesshowedbilaterallynarrownasalcavity.Asymptomaticfracturewasfoundinthenasalboneandtheorbital.oorindi.erentcases.Conclusion:In.ammationofthesinusonthedacryocystitissidewassigni.cantlymorefrequentthanonthefellowside.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1065.1068,2017〕Keywords:CT,涙.炎,副鼻腔炎,無症候性骨折,涙.鼻腔吻合術.computedtomography,dacryocystitis,si-nusitis,asymptomaticbonefracture,dacryocystorhinostomy.はじめに鼻涙管閉塞の発生には,炎症が関与するとされる1,2).Kallmanらは,鼻涙管は,解剖学的に鼻腔や副鼻腔と隣接しているため,これらの部位の炎症が,鼻涙管に波及する可能性があると指摘している3).筆者らは,涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測したので報告する.I対象および方法対象は,平成23年8月.平成27年1月に,東京女子医科大学東医療センターまたは都立駒込病院において,涙.鼻腔吻合術の術前検査として副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎(涙管通水時に排膿を認める鼻涙管閉塞)症例36例36側(男性11例,女性25例),年齢28.95歳(平均70.3±標準偏差13.5歳)である.患側は,右が22例,左が14例であった.〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒113-8677東京都文京区本駒込3-18-22がん・感染症センター都立駒込病院眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,CenterforCancerandInfectiousDiseases,3-18-22Honkomagome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8677,JAPAN表1副鼻腔CTの結果年齢性別患側副鼻腔炎*副鼻腔炎術後*鼻中隔弯曲**その他*72男左左眼窩内壁骨折(図3)77女左左75女右左73女右右85女右右左鼻骨骨折75男右右(真菌性)(図1)64女左左78女右右,左32女右右82男右81男右右左71男左狭鼻腔(図2)66女右右狭鼻腔74女右83女左80女左左右75女左66男右82女左28女右44女左左右74男左61女左63女右右69女右63女左60女左60女右左77男右狭鼻腔67男右右72男右72女右75女右79男右右79女右右95女左右患側におけるCT所見を健側と比較検討した.検討項目は,副鼻腔炎の有無(副鼻腔に膿の貯留が認められるものを副鼻腔炎と診断した),副鼻腔手術の既往,鼻中隔弯曲の方向,狭鼻腔ならびに骨折の有無とした.II結果(表1)副鼻腔炎:患側の慢性上顎洞炎を男性11例中2例(19%),女性25例中5例(20%)に認めた.このうち男性1例で石灰化を伴い,真菌性副鼻腔炎と考えられた(図1).ほか男性1例,女性2例が患側の上顎洞炎術後であった.一方,健側における慢性上顎洞炎は女性1例で,健側の上顎洞炎術後例は,両側術後の女性1例のみであった.副鼻腔炎合併例と副鼻腔炎術後例を合計すると,36例中11例(30.5%)であった.これらを患側と健側に分けて検討すると,患側のみが9例,健側のみが1例となり,副鼻腔の炎症は,術後例も含めると,有意差をもって涙.炎と同側に認められた(二項検定,p=0.039).鼻中隔弯曲と狭鼻腔:鼻中隔弯曲は患側方向,健側方向にそれぞれ5例ずつ,いずれも男性1例,女性4例に認められた.このうち,上顎洞炎も合併した症例は,健側に弯曲した2例であったため,上顎洞炎を合併しない鼻中隔弯曲例に限ると,この2例を除く8例中,患側への弯曲が5例(62%)となった.患側への弯曲例も,全例涙.鼻腔吻合術鼻内法が施行できた.一方,両側の狭鼻腔は男性2例,女性1例に認められ(図2),涙.鼻腔吻合術鼻外法が適応となった.骨折:鼻骨骨折と眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.鼻骨骨折は女性の健側にみられ,軽度であった.一方,男性の患側における眼窩内壁骨折では,眼窩内容の脱出も伴っていたが(図3),複視や眼球運動制限などの自覚症状はなかった.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.いずれの症例も,撮影後の問診で外傷歴が判明した.III考按鼻涙管閉塞は,中高年の女性に多く,顔面骨格の違いが性差の背景にある可能性が指摘されている4).一方,鼻涙管閉塞においては,鼻性の要因が関与し,炎症が遷延・再燃しやすい可能性が推察されている3,5).上岡は,涙道閉塞307例の術前検討で,副鼻腔炎が18例,副鼻腔炎術後が19例,鼻中隔弯曲が4例,顔面骨骨折が男性のみで3例認められたと報告している5).このことから,副鼻腔の炎症ないし術後の炎症が涙道閉塞の契機になった可能性が考えられた.上岡の報告では,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,307例中37例(14%)となるが,涙.炎合併の有無に関する記載がなく,涙.炎を合併しない閉塞例も含まれることが本検討と異なると考えられる.一方,Dinisらは,60例の涙.炎症例におけるCT所見か*太字は患側,**太字は患側方向.図1真菌性副鼻腔炎合併例のCT右真菌性上顎洞炎(★)を合併した右鼻涙管閉塞例.図2両側狭鼻腔例のCT両側の狭鼻腔(.)を認める左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻外法で施行した.★図3眼窩壁骨折合併例のCT左眼窩内壁骨折(.)を合併した左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.ら,副鼻腔炎の頻度が対照群と比較して差がなかったとしている6).しかし,これら既報においては,健側と患側に分けての検討がされていない.筆者らは,涙.炎を合併した片側性の鼻涙管閉塞例について検討を行い,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例を合わせると,患側に有意に多いという結果を得た.本検討でみられた副鼻腔炎はいずれも上顎洞炎であったが,上顎洞は,鼻涙管に近接し,中鼻甲介の下方に位置する自然孔である半月裂孔に開口するため,この部位の炎症が鼻涙管にも波及した可能性がある3).副鼻腔炎術後例に関しては,術前の副鼻腔の炎症のほか,手術そのものによる炎症の影響も考えられる5).Leeらは,39例中25例(64%)で鼻中隔が鼻涙管閉塞側に弯曲していたと報告している4).この報告では,副鼻腔所見についての言及がないが,今回の鼻中隔弯曲における検討で,上顎洞炎の関与を除外すると,患側への弯曲例は8例中5例(62%)となり,Leeらの結果とほぼ一致する.以上のことから,鼻中隔の弯曲による鼻腔の狭さ,鼻涙管に隣接した副鼻腔の炎症,あるいは術後炎症のいずれもが鼻涙管閉塞の発生や涙道内の炎症と関連している可能性が推測される.なお,患側への弯曲があっても,涙.鼻腔吻合術鼻内法は可能であり,術式への影響はなかった.術式に影響した因子としては,両側の狭鼻腔と患側の眼窩内壁骨折があった.前者では涙.鼻腔吻合術鼻外法を行い,後者では,涙.鼻腔吻合術鼻内法の際に,のみの使用を避けた.なお,本検討には含まれなかったが,鼻涙管閉塞におけるCTでは,腫瘍性病変や鼻腔の広汎なポリポーシスが発見されることもあるため7),これらの疾患も念頭においた術前精査が肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindbergJV,McCormickSA:Primaryacquirednasolac-rimalductobstruction.Aclinicopathologicreportandbiopsytechnique.Ophthalmology93:1055-1063,19862)TuckerN,ChowD,StocklFetal:Clinicallysuspectedprimaryacquirednasolacrimalductobstruction.Clinico-pathologicreviewof150patients.Ophthalmology104:1882-1886,19973)KallmanJE,FosterJA,WulcAEetal:Computedtomog-raphyinlacrimalout.owobstruction.Ophthalmology104:676-682,19974)LeeJS,LeeHL,KimJWetal:Associationoffaceasym-metryandnasalseptaldeviationinacquirednasolacrimalductobstructioninEastAsians.JCraniofacSurg24:1544-1548,20135)上岡康雄:鼻と涙道疾患─鼻・副鼻腔疾患と涙道疾患との関連─.耳展42:198-202,19997)FrancisIC,KappagodaMB,ColeIEetal:Computed6)DinisPG,MatosTO,AngeloP:Doessinusitisplayatomographyofthelacrimaldrainagesystem:Retrospec-pathologicroleinprimaryacquiredobstructivediseaseoftivestudyof107casesofdacryostenosis.Ophthalmicthelachrymalsystem?OtolaryngolHeadNeckSurg148:PlastReconstrSurg15:212-226,1999685-688,2013***