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時の人

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS札幌医科大学医学部眼科学講座の歴代教授は,初代の末吉利三先生を初めとして,田川貞嗣先生,中川喬先生,大塚賢二先生と続き,平成18年(2006)4月に大黒浩先生が第5代の教授に就任された.本教室は,歴代教授の指導のもと,斜視,神経眼科,網膜硝子体,緑内障などの分野が発展を遂げ,各専門外来がそれぞれ優れたスタッフをもち充実している.これは,これまで専門的な分野をもつ眼科医が養成されてきた賜物である.歴代教授による教室の方針として,個々人の興味を重視した研究テーマを認め,自由に研究することをモットーとしてこられたとのことである.*大黒先生は,昭和59年(1984)3月に札幌医科大学医学部医学科を卒業,昭和63年(1988)3月に札幌医科大学大学院医学研究科を修了されたあと,同年4月から札幌医科大学医学部生化学第一講座に助手として勤務され,平成元年(1989)9月に眼科学講座に入局,同年10月から留萌市立病院眼科医長として勤務された.その後,大黒先生は平成4年(1992)7月に米国ワシントン大学眼科にseniorfellowとして留学され,ここで,ロドプシンキナーゼを世界で初めて分離・精製されたKrisPalczewski博士のもと,網膜光情報伝達機構に関する生化学研究を学ばれた.これが現在,大黒先生が行われている「網膜変性の分子病態と視細胞における光情報伝達機構の異常との関連性」の発見の基礎となった.この研究成果は,新しい治療法開発のきっかけになると期待されており,平成17年(2005)度第109回日本眼科学会宿題報告「網膜色素性に対するあたらしい薬物治療の可能性」として発表された.大黒先生は平成7年(1995)7月に札幌医科大学医学部眼科学講座に戻られ,平成9年(1997)3月同講座の講師に就任された.さらに,平成13年(2001)1月には弘前大学医学部眼科学講座に講師として勤務され,平成14年4月に同講座の助教授に就任された.先生はこの弘前時代に,研究はもとより,眼科臨床および教育を中沢満教授より“みっちり”ご指導を受けられたとのことである.そして,平成18年(2006)4月に札幌医科大学医学部眼科教室の教授に就任された.*大黒先生の研究テーマは「網膜変性および緑内障の分子病態および治療の研究」であり,平成8年に「日本神経眼科学会若手奨励賞」を,平成9年には「ロート賞」,平成16年には「第9回弘前大学医学部学術特別賞(金賞)」を受賞されるなど,多くの業績をあげられている.*大黒先生の信念は臨床面では,(1)これまでの札幌医科大学眼科の伝統である「専門性を意識した医師育成」を継承しつつ,(2)弘前大学で学んだ「眼科領域すべてを診られるという総合性」を兼ね備えた眼科医を育てることであり,これが北海道で求められる眼科医師像であると考えられておられるとのことである.研究面では,「人のまね」や「いわゆる流行りの研究」をするのではなく,自分が疑問に思っていることを解決するために,どうするかを考える,そして実現する.これを地道に行っていけばいつかは認められる,ということをモットーにしていきたいと先生は語られた.また,教育面では,学生や医員がお互いに奉仕し,継続してつきあっていくことが大切であると強調しておられた.*最後にご趣味についてお聞きすると,旅行,特に温泉巡り,そして映画鑑賞ですとお答えになられた.(65)人の時札幌医科大学医学部眼科学講座・教授大??黒??浩???先生

網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:人工網膜

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSらのグループによって,おもに網膜疾患の検査を目的としてコンタクトレンズ型電極を用いて経角膜で眼球を電気刺激した際のelectricalphospheneに関する数々の研究報告が行われた3~7).これら一連の研究から網膜色素変性症で失明に至った患者でも眼球への電気刺激によってelectricalphospheneが生じることが明らかになった.コンタクトレンズ型電極を用いた電気刺激では網膜全体に電流が拡散するため,electricalphospheneは視野全体に広がる.それに対し,直径数百マイクロメートル程度の単極電極を網膜に接触させ電気刺激を与えた場合,網膜が局所的に刺激されるため,被験者は1個の点状のelectricalphospheneを知覚することが知られている8).この刺激電極を多極化しそれぞれの電極で局所刺激を行うと,刺激部位に対応してelectricalphospheneが光の点の集まりとして知覚されるのではないかと考えられている.人工視覚ではテレビカメラなどを用いて体外の画像データを取得し,その情報をもとに刺激部位を多極電極で制御することで,パターン状のelectricalphospheneを生み出し簡単な文字や絵を表現することを目指している(図1).II人工視覚(arti?cialvision)の種類さまざまな方式の人工視覚が提案されており,それらは多極電極を埋植する部位によって分類することができる.現在のところ,網膜を刺激するタイプ(人工網膜,retinalprosthesis),視神経を刺激するタイプ(視神経はじめに網膜色素変性や加齢黄斑変性などの網脈絡膜変性疾患で,視細胞が変性し失明に至った場合,現在視力回復の手段は存在しない.遺伝子治療や,再生医療などの研究が精力的に行われているが,まだ臨床応用に至っていない.一方,網膜,視神経または大脳皮質への電気刺激によって生じる光覚を利用して,失われた視覚の再建を目指す人工視覚は,これらの疾患に対する有効なアプローチの一つとして期待されており,1日でも早い実用化を目指して,世界各国で精力的に研究開発が進められている.わが国においても2001年度より経済産業省(NEDO)と厚生労働省の連携国家プロジェクトとして人工網膜の研究が始まった.本プロジェクトでは大阪大学,名古屋大学,杏林大学,滋賀医科大学,奈良先端科学技術大学院大学,九州大学,(株)NIDEKが参加し,2011年の実用化を目指して研究開発を進めている.I人工視覚の原理被験者の視覚系伝導路の一部に電気刺激を与えると光感覚を生じる.これを電気閃光(electricalphosphene)とよぶ.Electricalphospheneの現象は古くから知られており,1755年にはLeRoyが眼球への電気刺激によるelectricalphospheneの報告を行っている1).その後,1960年代後半よりBrindleyによって大脳皮質を電気刺激した際に生じるelectricalphospheneの研究が行われた2).また同時期にPotts&Inoueらのグループや三宅(59)????*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学教室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1169~1174,2006網脈絡膜変性疾患の治療に向けて:人工網膜??????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????不二門尚*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006刺激型人工視覚),そして視覚皮質を刺激するタイプ(皮質刺激型人工視覚)の3種類が提案されている9).原理的には視覚伝導路のどこを刺激してもelectricalphos-pheneが生じると考えられるため,上記のほか外側膝状体も刺激場所の候補としてあげられる9).人工視覚はその方式によって適応疾患や手術の安全性が異なる.たとえば,皮質刺激型人工視覚の場合,さまざまな疾患に対して適応が望めるものの,多極電極の埋植時に開頭術を要するため,手術の危険性やその後の感染症のリスクが高い.一方,人工網膜は装置の埋植手術の安全性は高いものの,網膜神経節細胞が変性している場合や視神経の機能が正常に保たれていない場合には,electricalphospheneを生み出すことができず,適応可能な疾患の範囲が限られる.III人工網膜(retinalprosthesis)の種類と開発状況人工網膜では,多極電極を網膜の近傍に設置して電気刺激を行う.前述のとおり刺激する電極の組み合わせを選ぶことによって,患者は文字などのパターンをちょうど電光掲示板のように複数の光点のパターンで知覚することができるのではないかと考えられている.人工網膜のシステム開発はまだ研究段階にあり,どのグループもいまだ臨床応用には至っていない.それは,実用化に向けて,クリアしなければならない安全面や機能面の課題が残っているためである.たとえば,手術時に電極で網膜を損傷させるリスクを極力抑えなければならない.そして大電流で生じる熱やpHの変動で生じる網膜損傷のリスクを抑えなければならない.また機能面の課題としては,刺激電極の改良や刺激方法の最適化を行うことで,解像度を上げる工夫が必要である.現在までに考案されてきた人工網膜は多極電極の埋植部位によってさらに網膜上刺激方式,網膜下刺激方式,脈絡膜上?経網膜刺激方式の3つの方式に分類できる(図2).次節ではそれぞれの方式について詳しく説明する.1.人工網膜の種類a.網膜上刺激方式これは,多極電極を網膜上(多極電極を網膜と硝子体の境界)に設置し網膜を刺激する方式である.多極電極は,網膜タックとよばれる小型の押しピンで網膜上に固定される.この網膜タックの先端は網膜を貫き強膜層まで到達する(図2A).1980年代後半にMichelsonやJuan&Humayunによって考案された網膜上刺激方式10,11)は,当初,撮像素子を多極電極と同一基盤内に組み込んだシステムを提案していた.しかし,この場合撮像面(硝子体側)と電極面(網膜側)が反対側を向くため,回路作製に非常に高度な技術を要する.その後多極電極,刺激回路,撮像素子などがそれぞれ分離されたシステムが提案された.2000年代に入りHumayunが率いる南カリフォルニア大のグループは人工内耳を改造して16極型の多極電(60)テレビカメラ強膜多極電極脈絡膜網膜図1人工視覚の想像図多極電極網膜タック網膜脈絡膜強膜ABC図2人工網膜の3つの方式A:網膜上刺激方式,B:網膜下刺激方式,C:脈絡膜上?経網膜刺激方式.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????極を装備した網膜上刺激方式の人工網膜を試作した.このシステムを実際に網膜色素変性症患者に埋植し1年以上機能したとの報告を行った12).この人工網膜は内部装置と外部装置の2つの装置から構成されている.外部装置は,体外に設置され,外界の画像データを取得するテレビカメラと画像処理を施す回路などから構成される.内部装置は体内に埋植される装置で,刺激装置と多極電極を搭載し,外部装置から受け取った画像データを基に多極電極で網膜の神経細胞を電気刺激し興奮させ画像情報を脳へ伝える.外部装置と内部装置との間はコイルを用いた電磁誘導により画像データと電力の無線伝送が行われる.この内部装置では,多極電極のみ眼内へ埋植しそのほか刺激回路やコイルは眼外(側頭部の皮下)に埋め込む方式が採用されている.側頭部にコイルを設置することによってコイルサイズを大きく設計することができるため大電力供給が可能となる.いかにして電極本数を増やし自然な視覚に近づけるか,また手術手技が複雑なためそれをどのように改良していくかが今後の課題となっている.一方,Walterらのグループは,内部装置を完全に眼内へ埋植する方式を採用したシステムを開発した13).この内部装置ではコイルと刺激装置が前眼部に設置され体外装置から電力と画像情報を取得する.多極電極は黄斑付近の網膜上に網膜タックで固定される.この試作機を実験動物の眼球に埋植したところ,人工網膜による電気刺激で神経興奮を惹起することができたと報告している13).移植手術時に眼球への侵襲が大きいため,慢性埋め込みに向けてこれをどのように改良するかが今後の課題である.b.網膜下刺激方式これは,多極電極を網膜下(神経網膜と網膜色素上皮の境界)に埋植し網膜を刺激する方式である(図2B).網膜上刺激方式に比べて,多極電極の固定は比較的安定し網膜タックを必要としない.また,電極面で眼内入射光を受けることができるため,撮像素子と多極電極を同一基盤上に組み込むことが可能である.したがって,このシステムでは人工網膜で生み出した視覚が眼球運動に対して自然に対応できる.ただ,脈絡膜からの網膜への栄養輸送が電極で遮断されることによる網膜損傷が生じることが危惧される.Tassickerは1956年に発表した特許のなかで,光感受性をもつ物質を表面に塗布した金属片を網膜下に移植することによって眼内入射光に応じて網膜の神経細胞を刺激する手法を発表した14).この特許が網膜下刺激方式の原型となった.その後1991年には半導体シリコン基盤表面に複数のフォトダイオードを作製した人工網膜がChowによって考案された15).実現性の高いアイデアであったため,この特許をきっかけに1990年代に半導体シリコンを用いた網膜下刺激方式の人工網膜の研究がChowのグループやZrennerのグループによって精力的に行われた.この装置はASR(arti?cialsiliconretina)またはMPDA(micro-photodiodearray)とよばれ,これらは近年急速に発達した集積回路技術を応用することで直径2~3mmの円形の薄い基板上に撮像素子とそれに対応する刺激電極を数千組搭載することが可能である.しかし,動物実験による機能評価が進むにつれ,眼内入射光だけでは神経細胞を興奮させるのに必要な電力をまかなうのが困難であることが徐々に明らかになってきた.そこでZrennerのグループは体外装置から赤外線で電力供給を行うことによって不足分の電力を補う新しいMPDAの開発を進めている.このMPDAの場合,赤外線受光部と信号処理回路を増設しなければならないため必然的に内部装置のサイズが大きくなり,装置すべてを眼内に埋植することが困難となる.そこで,経硝子体経由にて人工的に網膜?離させた部位に装置を移植する従来の術式(ab-interno方式)の代わりに,強膜を貫通して経脈絡膜的に網膜下へアプローチする術式(ab-externo方式)が開発された.この手術を用いて多極電極と赤外線受光部のみ眼内へ,刺激回路の一部が眼外へ飛び出した形での埋植が可能となった.一方,これまで網膜上刺激方式の研究を進めてきたRizzo&Wyattのグループは最近方針を変更し,網膜下刺激方式による人工網膜の研究に着手した.彼らの提唱する人工網膜は,ChowやZrennerの網膜下刺激方式の人工網膜と異なり,撮像部分が体外に設置される11).体外装置で取得した画像データと駆動用電力はコイルを介して内部装置へ伝送される.内部装置中のコイルと刺激(61)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(62)ABCDBEFGHN1P1N1P1図3健常ラットとRCSラットにおける網膜組織,ERG,光刺激に対する上丘の誘発電位,STSによる上丘の誘発電位の比較ヘマトキシリン?エオジン染色による網膜切片の光顕像からRCSラットでは外顆粒層,視細胞内節,視細胞外節が消失していることがわかる(A:健常,B:RCS).健常ラットではフラッシュ光に対するERG(C)と上丘誘発電位(E)の反応が得られているが,RCSラットではERG(D)と上丘誘発電位(F)とも反応が得られなかった.STSに対する上丘の誘発電位は健常ラット(G)からもRCSラット(H)からも反応が得られた.OS:視細胞外節,ONL:外顆粒層,INL:内顆粒層,IPL:内網状層,GCL:網膜神経節細胞層,スケールバー:100?m(A,B).刺激強度10,30,60,80,100?A(G,H).矢印は刺激を与えた瞬間を表す.縦軸:20?V,横軸:100ms(C,D),縦軸:100?V,横軸:100ms(E,F),縦軸:100?V,横軸:20ms(G,H).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????回路は眼外の強膜上に設置し多極電極部のみab-exter-no手術で網膜下へ挿入される.これにより,2次コイルの面積を大きく設計することができるため最大1mAの出力が可能である.すでに彼らは試作機を作製し動物実験で安全評価試験を進めている.2.脈絡膜上?経網膜刺激方式網膜上刺激方式と網膜下刺激方式は「多極電極が眼内に埋植され網膜に直接接触している」という特徴を有する.多極電極が接触した状態で網膜に電気刺激を行うことでより高解像度の画像を再現させることを目指している一方で,多極電極の埋植時に網膜へ損傷を与える危険性がある.この問題を解決できる可能性をもった網膜刺激方式として脈絡膜上?経網膜刺激方式(suprachoroidal-trans-retinalstimulation:STS方式)が田野らによって考案され17),わが国のプロジェクトにて研究開発が進められている.STS方式では,多極電極を眼球「強膜半層切除した部位」または「脈絡膜と強膜の間」に設置し,参照電極を硝子体内に設置する(図2C).そして,硝子体内に設置した参照電極との間で網膜を貫通するように刺激電流を通電する.多極電極が網膜と接触していない点および多極電極が眼外に設置される点がこの刺激法の大きな特徴である.多極電極が網膜と接触しないため,手術時の網膜への侵襲を低減できると期待できる.さらに,網膜貫通型の電流を用いるため,たとえ多極電極が網膜と離れていても効率的に局所刺激が可能になるのではないかと考えられる.また大きな多極電極を移植することができ広い視野を確保できる.全体のシステムとしてはHumayunのグループやRizzo&Wyattのグループのシステム同様,外部装置と内部装置の2つの装置から構成される.外部装置にはテレビカメラや信号処理回路が搭載され,内部装置には刺激回路や多極電極が搭載される.STS方式は,まだ基礎研究の段階であるが,これまでのいくつかの研究から徐々に有効性が示されてきている.たとえば,STS方式の機能評価を網膜色素変性症モデル動物(RCSラット)視覚中枢から行った結果,低い刺激強度で限局した誘発電位を惹起できることが確認された18)(図3).また,昨年学内倫理委員会の承認を経て2例の網膜色素変性のボランティアに対して急性臨床試験を行い,STS方式により限局したelectricalphos-pheneが得られ,2点弁別が可能であることを見出した19).今後,空間分解能などの機能評価や安全性に関して研究を進めていく予定である.おわりに現在開発が進められている人工網膜の電極数は多くても数十極である.そのため,これらが仮にうまく機能したとしても高い解像度は望むことがむずかしい.ただ,すでに実用化されている人工内耳においては,電極数は22極しかなく,埋め込み直後も患者は音声の認識率が低いものの,手術後長期間のリハビリテーションによって音声の認識率が飛躍的に伸びると報告されている.そのため,人工網膜埋め込み直後は再現できる視力は低くても,訓練やリハビリテーションによって視機能が高まっていくことも考えられる.また,今後人工網膜は,研究が進むことでより解像度を増した人工網膜が開発されていくことと思われる.近い将来人工網膜によって読書可能な程度の視機能を回復させることが可能となるかもしれない.文献1)LeRoyC:O?l?onrendcomptedequelquestentativesquel?onafaitespourgu?rirplusieursmaladiesparl??lec-tricit?.?????????????????????????????????????????60:87-95,17552)BrindleyGS,LewinWS:Thevisualsensationsproducedbyelectricalstimulationofthemedialoccipitalcortex.?????????194:54-55,19683)PottsAM,InoueJ,Bu?umD:Theelectricallyevokedresponseofthevisualsystem(EER).?????????????????7:269-278,19684)PottsAM,InoueJ,Bu?umD:Theelectricallyevokedresponse(EER)ofthevisualsystem.II.E?ectofadapta-tionandretinitispigmentosa.?????????????????8:605-612,19695)PottsAM,InoueJ:Theelectricallyevokedresponseofthevisualsystem(EER).3.FurthercontributiontotheoriginoftheEER.?????????????????9:814-819,19706)三宅養三,柳田和夫,矢ケ?克哉:EER(ElectricallyEvokedResponse)の臨床応用(I)正常者のEER分析.日眼会誌84:354-360,1980(63)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20067)三宅養三,柳田和夫,矢ケ?克哉:EER(ElectricallyEvokedResponse)の臨床応用II.杆体,錐体系視路障害疾患のEER.日眼会誌84:502-509,19808)HumayunMS,deJuanEJr:Arti?cialvision.???12(Pt3b):605-607,19989)WarrenDJ,NormanRA:HandbookofNeuroprostheticMethods.p261-302,CRCPressLLC,BocaRaton,Florida,200310)MichelsonRP:USPatent:4628933,198611)DeJuanEJr,HumayunMS:USPatent:5109844,199212)HumayunMS,WeilandJD,FujiiGYetal:Visualpercep-tioninablindsubjectwithachronicmicroelectronicreti-nalprosthesis.??????????43:2573-2581,200313)WalterP,KisvardayZF,GortzMetal:Corticalactiva-tionviaanimplantedwirelessretinalprosthesis.?????????????????????????46:1780-1785,200514)TassickerGE:USPatent:2760483,195615)ChowAY:USPatent:5024223,199116)KarcichKJ,BuckA,WyattJetal:Asystemforleakagetestingof?exibleelectroniccomponents.??????????????????????????45:E-Abstract4183,200417)田野保雄,不二門尚,福田淳:公開特許公報JP2004-57628A,200418)KandaH,SawaiH,MorimotoTetal:Electrophysiologicalstudiesofthefeasibilityofsuprachoroidaltransretinalstimulationforarti?cialvisioninnormalandRCSrats.?????????????????????????45:560-566,200419)KameiM,FujikadoT,KandaHetal:Suprachoroidal-transretionalstimulation(STS)arti?cialvisionsystemforpatientswithretinitispigmentosa.?????????????????????????47:E-Abstract1537,2006眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社(64)

網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:遺伝子治療

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS加の一途をたどった.しかし,この遺伝子治療ブームの過熱とは対照的に,改善例を示すプロトコールは影を潜め,副作用を生じる症例が目立つようになった.1999年にはアデノウイルス(Ad)ベクターによる人為的ミスによる死亡事故,2002年以降にはレトロウイルスベクターによる11例中3例の白血病様症状の誘発が報告2)され,世界中の遺伝子治療関係者を震撼させた.決して十分でなかった基礎研究が問題視され,一部の臨床プロトコールは凍結し,以後遺伝子治療は暗い反省期に入った.しかしこれは人類が未経験の領域に足を踏み入れた必要な結果ともいえる.この警鐘を教訓とし,遺伝子治療は綿密な基礎研究のもと地道に進行している.当然のことながら,真に効果があり安全な治療以外は明確に淘汰される時代となったのである.2006年初頭の統計では,申請中を含めそのプロトコール数は1,145,そのうち24件の臨床研究がPhaseIII(ランダム化比較試験)に突入はじめに「遺伝子治療」という言葉を聞いて,皆さんは何を思われるだろうか?「ちょっと前までブームだったけど,下火かな」「安全性が確立できないなら,怖くて使えないよ」「本当に効果はあるの?」などという声が聞こえてきそうである.当たらずとも遠からず,といったところか.しかしその風潮のなかで,真に選び抜かれた遺伝子治療研究は確実に進歩を遂げ,一部は治療法のなかった疾患に苦しむ患者の福音となりえている.眼科領域でも加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する遺伝子治療臨床研究プロトコールは着実に進行しており,眼科臨床の場に姿を現す未来はまったくの想像ではなさそうである.代替治療のない難治性網脈絡膜疾患の治療法として,遺伝子治療が存在価値を得る時代がはたしてやってくるのか,今回その可能性について述べてみたい.I遺伝子治療の歴史1970年,Science誌上にて遺伝子治療の可能性が示唆1)されて以後,遺伝性疾患に対する究極の治療法として注目を浴び続け,ついに1990年先天性酵素欠損であるアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症の女児に初めて合法的な遺伝子治療が行われ,劇的な成功を収めた.改めてその効果を確信し,画期的な新治療に沸き立った研究者達は,その適応を遺伝性疾患から癌やAIDS(後天性免疫不全症候群)へと拡大させ,臨床研究件数も増(51)????*MasanoriMiyazaki&YasuhiroIkeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕宮崎勝徳:〒812-0082福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1161~1168,2006網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:遺伝子治療???????????????????????????????????????????????????????????????????????????宮崎勝徳*池田康博*:PhaseI62%(n=714):PhaseI/II20%(n=234):PhaseII14%(n=161):PhaseII/III1.0%(n=12):PhaseIII2.1%(n=24)図1現在の遺伝子治療臨床研究の進行状況———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006している3)(図1).淘汰の時代を乗り越え,本物の遺伝子治療がその潜在能力を発揮する段階にきている(表1).II眼科領域における遺伝子治療の歴史一方,眼科領域での遺伝子治療研究は出遅れ,最初にBennettらにより小動物における眼内遺伝子導入が報告されたのが1994年である4).翌年の1995年にはSaka-motoらが,増殖硝子体網膜症モデルを対象とした初の遺伝子治療結果を報告した5).以降研究は加速し,種々の疾患モデル動物を対象とした治療報告が数多くなされた.そしてついに2001年,JohnsHopkins大学においてAMDに対する臨床プロトコールが提出された6).これは,神経保護作用と血管新生抑制作用を併せもつ色素上皮由来因子(pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF)遺伝子を搭載したAdベクターを硝子体内に投与し,眼内でPEDFを高発現させることにより,病態の主体である脈絡膜新生血管を退縮させる方法論である.2003年より開始されたPhaseⅠ臨床研究では28人の被験者を対象とし,治療経過において安全性に問題はないと報告されている7).現在はさらに軽症の20人の被験者を対象とし,PhaseIB臨床研究へ順調にステップアップしている.III遺伝子治療の位置づけと眼科領域における有用性当初,治療法のない遺伝性致死性疾患に対してのみ適応と考えられていた遺伝子治療は,その方法論が洗練されるに従い,上記変遷にみるように適応疾患・臓器を急速に拡大していった.これは,遺伝子異常の修復や正常遺伝子の補充といった「遺伝子の治療」のみならず,有効なドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysys-tem:DDS)としての地位を確立したことを意味する.眼科領域は投与法の如何を問わず,網脈絡膜組織への薬剤移行性が低い.局所投与(点眼)ではその網脈絡膜への薬剤移行が非常に低いことが報告されている.一方,全身投与でも特に血液網膜関門の存在により,標的眼内組織で薬剤を有効濃度で作用させるためには大量投与や頻回投与が必要で,そのコスト・副作用が問題となる.そこでその活路として,眼内埋め込みデバイス,薬剤ターゲティングなど種々のDDSが考案されており,疾患によっては十分有効と考えられる.しかし網脈絡膜変性疾患は罹患期間が数年から数十年と長期であるため,いずれも反復投与を免れない.そこで標的である網脈絡膜,およびその近傍の細胞に遺伝子導入し,持続的に治療蛋白を発現・分泌させ,局所での有効濃度を維持できる遺伝子治療は特に慢性の経過をたどる変性疾患へのDDS,および治療として比較的受け入れられやすい(52)表1遺伝子治療の歴史年号遺伝子治療全体の歴史年号眼科領域における遺伝子治療1944DNAの発見1953DNAの二重らせん構造の解明1970Science誌に遺伝子治療の可能性1980サラセミアの遺伝子治療実験(米)1990ADA欠損症患者への遺伝子治療開始(レトロウイルスベクター・米)1991癌に対する遺伝子治療開始1993AIDSに対する遺伝子治療開始1994網膜への遺伝子導入(マウス・Adベクター・米)1995最初の遺伝子治療(マウス・Adベクター・米)1998遺伝子治療症例3,000例突破1999Adベクターによる死亡事故(米)2001レトロウイルスベクターによる白血病発症(仏)2001AMD患者に対する遺伝子治療臨床研究開始(Ad-PEDF硝子体内投与・米)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????と考えられる(図2).さらに眼内への遺伝子治療では,他臓器と比較して有利な点が存在する.第1に眼球は身体表面に露出し眼内が透見可能であることから,遺伝子導入操作が容易である.第2に小臓器であることから,効果を得るために必要なベクター投与量が抑えられる,さらに第3として眼球は閉鎖系であり血液眼関門で全身の血液循環から比較的隔絶されており,投与後の全身伝播の可能性が低い,などがあげられる.これらの利点と,QOL(qualityoflife)における視機能の重要度を考え合わせると,今後網脈絡膜変性疾患への応用の可能性も十分に考えられる.IVベクターの性能と眼科領域における将来性遺伝子治療の成否の鍵を握っているのが,治療遺伝子を標的細胞に導入する「ベクター」の性能である.ウイルスが元来もつ細胞進入機構を利用したウイルスベクターと,それ以外とに大きく分けられるが,その遺伝子導入効率の高さからウイルスベクターが臨床プロトコールの約70%を占める(図3).現在レトロウイルスベクター,Adベクターが主流であるが,新規ベクターも徐々に浸透してきている.おのおのの特性を表2に示す.ヒトへの投与がなされている現段階のベクターでも,その性能は発展途上である.おしなべて,遺伝子導入効率が低く,細胞特異性に乏しく,遺伝子発現制御技術が未熟,である.現状では逆に,そのレベルのベクターでも効果が得られる疾患が遺伝子治療のよい適応となる.この原則を踏まえたうえで,その遺伝子導入・発現特性に応じた疾患選定と治療戦略を熟考する必要がある.(53)表2各種ウイルスベクターの特徴レトロウイルスベクターアデノウイルスベクターアデノ随伴ウイルスベクターレンチウイルスベクターセンダイウイルスベクター導入効率やや低い非常に高いやや低い中非常に高い導入から発現までの期間比較的速い(1週間前後)非常に速い(24時間前後)遅い(数週間前後)速い(2日前後)非常に速い(24時間前後)発現持続期間1年間以上2週間前後半年間前後1年間以上1週間前後非分裂細胞への導入-++++染色体への組込み+-±+-その他挿入変異の可能性細胞毒性免疫原性導入遺伝子のサイズ制限挿入変異の可能性国産ベクターcedbffga図2眼科領域におけるドラッグデリバリーシステムa:角膜透過製剤,b:Tenon?下(内)注入デバイス,c:硝子体注入剤,d:強膜打込製剤,e:硝子体挿入デバイス,f:経口剤からの眼内移行,g:遺伝子治療.AdenovirusRetrovirusOthersHerpessimplexvirusAdeno-associatedvirusVacciniavirusPoxvirusLipofectionNaked/PlasmidDNA図3現在の遺伝子治療臨床研究に用いられている各種ベクターの割合(数字は%)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20061.レトロウイルスベクター現在最も汎用されているベクターの一つであるが,フランスにおける造血幹細胞への???????遺伝子導入治療後に白血病が発症した事故2)の経験もあり,ややその研究は足踏み状態の感がある.遺伝子導入に際して細胞分裂を必要とするため,神経網膜のように終末分化した細胞集団への導入には不向きである.しかし,増殖硝子体網膜症や眼内悪性腫瘍など病的細胞増殖が病態の主体となる疾患では,細胞選択的に遺伝子導入が可能であり,将来的に治療として応用される可能性は依然残されていると考えられる5).2.Adベクター現在唯一眼科領域で臨床研究が進められているベクターである.発現期間が短いため網脈絡膜変性疾患にはやや不適であるが,その高い発現量と硝子体内投与でも効率的に網膜外層まで遺伝子が導入できる特性8)から,その有用性は高い.さらに問題となっていたウイルスの催炎性や細胞毒性も,ベクターの改良に伴いその安全性が向上してきた.現在進行中のAMDに対するPhaseⅠ臨床研究には,この改良型Adベクターが使用されており,ヒト硝子体内投与による重篤な副作用は現在まで生じていないと報告されている6).3.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター比較的長期間発現すること,非分裂細胞への遺伝子導入が可能であることから,網脈絡膜変性疾患に適したベクターであると考えられる.網膜下投与では網膜色素上皮細胞と視細胞,硝子体内投与では網膜神経節細胞や内顆粒層と,投与法により幅広い細胞に遺伝子導入が可能である点9)も魅力的である.動物モデルを対象とした研究も多く報告されており有望なベクターであるが,血中での安定性が高く生殖細胞への導入が危惧されること,挿入遺伝子の大きさに制約があること,大量生産が困難であることが臨床応用への障壁となっている.4.レンチウイルスベクター非分裂細胞ヘの遺伝子導入が可能であり,ベクターゲノムが宿主染色体に挿入されるため外来遺伝子を安定かつ長期間発現させることができる.このため,慢性の経過をたどる網脈絡膜変性疾患に対する遺伝子治療用ベクターとして最適であると考えられる.しかしながら,従来のレンチウイルスベクターはヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode?ciencyvirus:HIV)を基本骨格とするため,ウイルスそのものの病原性が危惧され,いまだ臨床応用に至っていない.ベクターそのものの危険性を回避するために,自然宿主であるサルにも病原性を示さない「アフリカミドリザル由来免疫不全ウイルス(simianimmunode?ciencyvirusfromAfricangreenmonkey:SIVagm)」を基本骨格としたSIVベクターがわが国において開発され10),筆者らはこのベクターの網膜への遺伝子導入特性を以下のごとく報告した11)(図4).①ベクター注入部位に一致した網膜色素上皮細胞への遺伝子導入が可能であること.②導入早期(2日目)から遺伝子発現が認められ,少なくとも1年間の安定した発現が得られること.③網膜電図(electroretinogram:ERG)を用いた電気生理学的検討では,導入早期に一過性の電位の低下を認めるものの,導入30日後までには正常域に回復すること.④少なくとも1年間の経過観察期間において,眼球および諸臓器に悪性新生物の発生を認めないこと.以上の優れた特性を踏まえ,現在筆者らは種々の疾患モデルに対する治療実験を行っている12,13).一方,SIVベクターで唯一危惧される点は,外来遺伝子挿入による遺伝子発現の抑制や癌化である.これは前述のレトロウイルスベクターでの事故によりさらにクローズアップされている.レトロウイルスベクターでの白血病発症に関しては,①プロウイルスゲノムへの組み込みに必要なLTR(longterminalrepeat)配列の転写活性が,癌化に関与したこと,②元来アクティブな遺伝子の近傍に挿入されやすい性質をもっており,標的造血幹細胞は細胞増殖や分化に関わる遺伝子が活性化状態であること,③対象疾患が免疫不全状態であることから,発生した癌細胞を免疫学的に排除する機構が欠落していたこと,が大きな要因と考えられている.対照的にSIVベクターは,LTR配列の転写活性を排除していること(54)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(55)16日SIV-GFP125日365日RPERDONLSIV-nls-lacZacdeb図4SIVベクターの網膜への遺伝子導入特性SIV-nls-lacZ投与群(a,b).網膜下投与により生じた網膜?離(RD)部位に一致して,青色で示す遺伝子発現が認められ(a),その発現は網膜色素上皮細胞(RPE)に特異的である(b).ONL:外顆粒層.SIV-GFP投与群(c,d,e).同一個体による経過を観察しているが,投与365日後においても発現の低下なく,長期安定した発現が認められる.(文献11より改変)CorneaONRD図5SeV-nls-LacZ網膜下投与による遺伝子導入導入時の網膜?離(RD)部位に一致して遺伝子が導入されている.ON:視神経.(文献16より改変)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(selfinactivation:SIN化),挿入のホットスポットを認めずランダムであること(未公表データ),筆者らが対象とする細胞が終末分化した網膜色素上皮細胞であることにより,癌化の可能性はきわめて低いと考えられている.5.センダイウイルス(SeV)ベクターセンダイウイルスの組換え技術は1996年に日本で開発され14),この組換え技術を応用したSeVベクターは純国産のウイルスベクターである15).SeVはヒトに対して病原性がなく,また感染細胞の細胞質内でゲノムの転写・複製が行われることから,ヒトに対してきわめて安全なウイルスと考えられる.眼科領域ではラット網膜色素上皮細胞への遺伝子導入を筆者らが報告している15)(図5)が,強力な遺伝子発現を示す一方で発現期間が2週間前後と短いことから,慢性の経過をたどる網膜変性疾患への応用はやや困難である.しかし安全で,感染に要する時間がきわめて短く,Adベクターを凌駕する非常に高い遺伝子導入効率・発現量をもつことから,Adベクターに取って替わる可能性を十分に秘めている.現在は免疫原性の軽減や長期発現を目指したベクターの改変が進められている17).V網脈絡膜変性疾患への適応と可能性遺伝子治療が未発達の現段階で,治療としてのコンセンサスを得るためには,対象疾患が①有効な治療法が存在しない,②視機能の悪化により,患者のQOLを著しく低下させる,③リスクを上回る有効な治療効果が期待できる,の3点を満たす必要がある.1.網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)上記条件を満たし,かつ遺伝性疾患である点で,最も遺伝子治療の対象として候補にあがる疾患である.RPは網膜のおもに視細胞(一部は網膜色素上皮細胞)の遺伝子変異により緩徐に視細胞のアポトーシス変性が進行する疾患である.その原因遺伝子はこれまで約40種類報告されており,これも氷山の一角とされている.RPにおいて遺伝子変異により誘導される視細胞のアポトーシスは,(A)必要な蛋白が生成されない,または生成量が不足することによる異常と,(B)異常蛋白が過剰に生成される異常,およびその両者に起因すると考えられる.そこで遺伝子治療のメソッドとしては,(A)に対しては①視細胞に対し正常遺伝子を導入する,(B)に対して②視細胞における異常遺伝子発現を抑制する,(A),(B)両者に対して③変性する視細胞にアポトーシス抑制遺伝子を導入する,④視細胞もしくはその近傍の細胞で神経保護因子を発現・分泌させる,の大きく4つが考えられる(図6).現在視細胞に高頻度に遺伝子導入可能なベクターが存在しないことから①,②,③が,また臨床応用を考慮した場合,すべての遺伝子異常に対応することは困難であることから①,②がその対象外となる.そこで神経栄養因子を分泌させ,広範囲の視細胞に作用させる方法論は,原因遺伝子を問わず広く治療が可能であり,将来の産業化にも有利であると考えられる.ここで現在筆者らが行っているPEDFを用いた遺伝子治療研究について紹介する.SIV-PEDFを網膜下投与し,網膜近傍で神経保護因子であるPEDFを過剰発現・分泌させ,視細胞のアポトーシスを広く抑制するメカニズムである.RPモデル動物であるRCSラットを対象とした視細胞変性抑制効果を病理組織学的ならびに電気生理学的に検討し,以下の結果を得た12)(図7).①投与後12週まで組織学的に視細胞数が保たれており,視細胞変性を抑制できた.②視細胞変性の抑制には神経保護因子であるPEDFのアポトーシス抑制が関与していた.③ERGを用いた電気生理学的検討において,機能的(56)必要な蛋白の生成不足異常蛋白の過剰生成②異常遺伝子発現の抑制④神経保護因子の導入・発現・分泌視細胞のアポトーシス死①正常遺伝子の導入③視細胞へのアポトーシス抑制遺伝子導入図6網膜色素変性に対する遺伝子治療方法———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????にも保護効果が得られた.筆者らの施設では他のRPモデル動物においても同様の研究を進め,有効な結果が得られている.このように複数のRPモデル動物での有効性が長期確認できたことから,現在筆者らは臨床応用を目指した前臨床試験を大型動物を対象に行っている18~20).先行するAMD臨床研究が存在すること,さらにそのなかでPEDF過剰発現の安全性に関してコンセンサスが得られていることは,研究を進めるうえで追風になると考えている.2.他の網脈絡膜変性疾患今回は割愛させていただくが,加齢黄斑変性,難治性緑内障などは十分にその適応を満たし,遺伝子治療研究も盛んである.筆者らも緑内障モデル動物における有効性を確認しており(未公表データ),何らかの形で遺伝子治療がそのサポートとして役立つ可能性はあると考えている.VI網脈絡膜疾患に対する遺伝子治療の将来展望淘汰の時代に生き残れる遺伝子治療はどのようなものなのか.それは綿密な研究結果に基づいた,既存治療と比較した「有効性」と「安全性」のバランスである.いかに安全でも効果が乏しければ治療として成り立たず,逆に劇的な効果があればわずかの危険性は容認されるのである.その意味で現行の遺伝子治療は,リスクを上回る確実なベネフィットに乏しいと言わざるを得ない.まず現状の遺伝子治療全体に期待されることは,新規高性能ベクターの開発である.安全性の向上はもとより,標的細胞への効率的な導入,組織特異的な遺伝子発現と,その発現レベル制御といった基礎的技術革新が心待ちにされる.さらに臨床応用を目指すわれわれ医師に今できることは,既存のベクターでの小動物・大動物を対象とした前臨床段階における効果判定試験,安全性試験を綿密に行い,科学的な根拠に裏打ちされた質の高い成果をあげ,その情報を公正に社会に開示することである.そのうえで所属機関,および厚生労働省での十分な審査・承認を得て,初めて試験的な医療として臨床試験を実施できるのである.逆に言えば,新たな治療であればあるほどその承認に時間を要し,患者の治療として成立するために長い年月を費やさなければならないジレンマも感じる.それを打破するためにも,より効率的な研究システムと,それを推進する国や企業の受け入れ態勢も必要であろう.わが国でも,筆者らの所属する九州大学において,網膜色素変性に対する遺伝子治療臨床研究が進行している.前述した小動物での有効な治療効果をヒトで実現させるために,現在大型動物を用いた安全性試験を実施中である.2004年度までに急性毒性試験が終了し良好な(57)abSIV-hPEDFSIV-hPEDFSIV-lacZUntreatedWildtype(msec)20015010050050?VUntreated図7SIV-PEDF網膜下投与による神経保護効果生後3週齢のRCSラットの網膜下に各ベクターを投与.7週齢で評価.a:網膜組織像.SIV-hPEDF群で視細胞が有意に残存している.b:暗順応ERG.高い振幅が得られている.(文献12より改変)———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(58)結果が得られており,長期安全性試験を実施中の段階で,明らかな有害事象は認められていない18~20).今後遺伝子治療研究を続けていくにあたり,乗り越えなければならない問題が山積している.特に網膜変性疾患は長期の緩徐な進行を示すことから,その効果(ベネフィット)を証明するために要する時間は長い.しかし,遺伝子治療でしか救えない疾患も現に存在し,網膜色素変性はその代表であると考えている.難治性網脈絡膜疾患の治療として,筆者らの進める遺伝子治療が世界に認められ,多くの患者の喜ぶ顔を引き出す一助になれば幸いである.謝辞:遺伝子治療研究の遂行に際しご指導いいただいております千葉大学大学院医学研究院の米満吉和客員教授,ならびに各ウイルスベクターを供給いただいておりますディナベック株式会社の長谷川護社長に深謝いたします.文献1)DavisBD:Prospectsforgeneticinterventioninman.????????170:1279-1283,19702)Hacein-Bey-AbinaS,vonKalleC,SchmidtMeta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網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:再生治療

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSそして網膜における最初の移植実験が報告されたのは1986年のことである.II網膜移植研究の歴史1986年にTurnerらは新生児ラットの全層網膜を,損傷させた成体網膜へ移植し,物理的に欠損部分を補うこと,移植片が分化して成体同様の層構造をとることを証明した1).それまでにも,神経網膜を脳内や前房内へ異所性に移植した報告はあったが,治療的な目的での移植研究は,この報告が初めてである.その後,動物モデルを用いて,組織学的評価や機能的評価が行われてきた.ドナーとしては,全層神経網膜移植,視細胞層移植,遊離細胞移植,全層網膜移植(色素上皮細胞を含む)などが材料として試みられた.評価方法としては,対光反応の改善,視覚聴覚抑制の改善などの機能評価や,シナプス形成なども報告されている.そして,10年後,海外では実際の患者に移植治療が試みられることとなった.III網膜移植の臨床応用1997年,Kaplanらは網膜色素変性に対して献眼網膜の移植を行いその結果を報告した.残念ながら,1年後の時点で視機能改善はみられなかったものの,拒絶反応などはなかった2,3).Dasらは中絶胎児網膜を指数弁から光覚の14例の網膜色素変性患者に移植している.数例に改善傾向がみられたが,第2相試験へ向けての足がはじめに─移植と再生再生医療と移植医療はしばしば混同されるが,必ずしも同じではない.しかし,再生医療には移植を伴うことが多いのも事実である.機能低下や物理的な欠落を外科的に,同等のもので補うのが移植であろう.再生には外科的処置を伴う外的な再生と,外科的処置を伴わない内的な再生がある.本稿では広く移植と再生をまとめて取り扱う.I移植医療─網膜移植に至るまで─欠損部分に移植して,物理的・機能的回復を試みるという行為は紀元前にまで遡ることができ,ヒポクラテスの時代にすでに自己皮膚移植は成功していたといわれている.しかし,現代医療に近い形での内臓の移植実験が行われたのは20世紀以降である.仔イヌを用いた心臓移植実験,腎臓,膵臓の移植実験が20世紀初頭に行われ始めた.ヒトに対する医療としての試みが行われたのは,腎臓で1954年,肝臓で1963年,心臓で1967年と50年以上もの年月がかかった.移植によって不治の病が治療できるというインパクトは計り知れない.実際,移植医療の開拓者Carrelと骨髄移植の開拓者Thomasはそれぞれ1912年と1990年にノーベル医学生理学賞を受賞した.眼科領域に目を向ければ,角膜移植は1789年にガラス片の移植が試みられたことがその始まりといわれている.角膜移植手術に初めて成功したのは1905年Zirmによる.実験から100年以上経過した後だった.(43)????*MasayukiAkimoto:京都大学医学部附属病院探索医療センター開発部網膜再生プロジェクト〔別刷請求先〕秋元正行:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学医学部附属病院探索医療センター開発部網膜再生プロジェクト特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1153~1160,2006網脈絡膜変性疾患の治療へ向けて:再生治療?????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????秋元正行*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006かりとだけ位置づけている4).deJuanらも,光覚を有する8例の網膜色素変性と1例の加齢黄斑変性患者に胎児網膜を移植している.短期的に改善を自覚した症例はいるものの1年程度の観察では積極的効果がみられていない.しかし,加齢黄斑変性患者に関しては,その後,剖検の機会を得て組織学的な検討をしている.報告によれば,色素上皮細胞欠損部位の視細胞は確認されなかったが,3年という長期の後でも移植細胞が生存していたという5,6).移植片とホスト網膜がシナプスを形成もしくは形成しようとしていた状況証拠としてシナプトフィジン染色で示している点も注目される.他臓器における移植の歴史を考えれば,網膜移植の臨床への応用は性急とも映る.しかし,眼科学だけでなく,医療,科学技術の飛躍的に進歩している背景においては,決して早すぎるということない.実際にこれらの臨床報告では,視機能の改善はあまりみられていないものの,物理的な移植自体は成功しており,第1段階としても網膜移植自体の安全性の検証は果たされたと考えられる.最近になって,視機能回復という意味での成功例が報告された.Radtkeらは5例の網膜色素変性患者に網膜色素上皮のついた胎児網膜を移植した.患者視機能の改善はみられなかったとしている7).しかし,彼らはデバイスを改良し,神経網膜と網膜色素上皮を含む全層移植によって術前20/800から術後1年で20/160まで視機能が著明に改善した1例を2004年に追加報告している8)(図1).網膜移植医療が第2段階に入ったことを示す報告といえる.IV成果と問題点最近10年間で,網膜移植手術手技は,既存手技の応用で可能なことはおおむね示された.しかし,機能的な意味での成功例の報告はまだ1例あるだけである.今後,症例を重ねること,物理学的成功をより効率的に機能的成功へとつなげるための基礎研究の展開が期待される.網膜移植が機能的に成功するためには移植片の生存だけでなく,移植片が宿主細胞とシナプスを形成して電気的につながる必要があるからだ.2003年頃,複数の研究室から網膜変性モデルにおいて残存網膜のリモデリングと瘢痕形成についての報告が続いた.報告によれば,視細胞が傷害を受けた後,残った双極細胞は可塑的に異所的なシナプスを形成し新たな神経回路を形成し,M?ller細胞は増殖してバリアを形成する9).このバリアを越えて,ドナーとホストが電気的につながること,双極細胞の神経回路を元に戻すことが,網膜移植の物理的成功から機能的成功に変えるキーワードと考えられる.筆者らは,このバリアに注目し研究を行ってきた.バリアの形成を阻害するために,RNAi(標的RNAを破壊して機能を低下させる働きをもつ)や種々の薬剤を用いて,移植への効果を調べた.M?llerグリアの働きを弱めるRNAi投与では移植への効果はみられなかった.しかし,バリア形成初期にグリアが分泌するコンドロイチン硫酸を抑制するChondroitinaseABCを投与すると,薬剤なしでは神経突起を水平にしか伸長させない移植細胞がバリアを越えて神経突起を伸長させることがわかった(図2)(投稿中).しかし,他臓器と同様,網膜移植医療においてはその組織入手に倫理的な問題がある.海外での移植成功例は,胎児網膜を利用したものであり,成人献眼からの網膜移植は機能的には成功していない.動物実験でも分化が完成した網膜より分化途中の幼弱な網膜細胞のほうが適していることがわかっている.しかし,日本国内では(44)図1網膜全層移植が著効した症例の眼底写真とマイクロペリメトリーの合成写真黄点は移植シートの範囲,青十字は固視点,水色塗四角は視覚あり,水色枠四角は視覚なし.(RadtkeNDetal:ArchOphthalmol,2004より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????中絶胎児を医療に利用することはできない.幼弱網膜もしくは幼弱な視細胞を作製しなければ移植もできない.V再生医療へプラナリアを切断すれば2匹になる.イモリの眼は摘出しても再生する.ヒトの皮膚などは再生するけれども中枢神経細胞は再生しない.100年も前に神経解剖学者Cajalが唱えた「ヒトの中枢神経は再生しない」という考えは,つい最近までは一般常識であった.しかし,その常識が変わりつつある.中枢神経にも再生能力があることが示されて以来,神経再生医療研究が活発となった.視機能の再生を目指す網膜・視細胞再生医療もその例外ではない.網膜の元となる未分化で増殖能・多分化能をもつ細胞は網膜幹細胞とよばれるが,こうした細胞は発生段階においては大量に網膜に存在し分化・成熟の過程で消失すると考えられていた.しかし,網膜幹細胞は,成体においても毛様体上皮細胞のなかに存在し,網膜の細胞に再分化する能力があることが,AhrmadらとTropepeらによって突き止められた10,11).またヒトにおいてもこうした細胞があることも示された.臨床的には毛様体は扱いにくい組織ではあるが,増殖・分化させて自家移植の可能性を示した点で大きな意義があるといえる.さらにこのような幹細胞は網膜内にもあるとする報告もある.Harutaらは,虹彩色素上皮細胞からでも,遺伝子導入を併用することでロドプシン陽性細胞を得ることに成功している12).網膜再生を目的として,試みられたそのほかの体細胞由来の幹(45)胚性幹細胞胚性幹細胞神経幹細胞神経幹細胞虹彩虹彩色素上皮細胞色素上皮細胞毛様体網膜幹細胞毛様体網膜幹細胞視細胞視細胞骨髄間質幹細胞骨髄間質幹細胞図3移植細胞のさまざまなソースChondroitinaseABC移植バリアがあるとシナプスを形成し難いバリアが壊れ,シナプスを形成しやすくなる網膜変性に伴うリモデリングの過程EarlyStage3Stage2Stage1Normal(a)(b)(c)(d)図2網膜変性に伴うリモデリングの過程と移植における問題点(JonesBW,MarcRE:ExpEyeResearch,2005より改変)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006細胞としては,骨髄幹細胞,骨髄間質幹細胞,神経幹細胞などがある(図3).完全な万能性をもった幹細胞は胚性幹細胞である.胚性幹細胞についても,特殊な培養条件で,機能的にほぼ完成された網膜色素上皮細胞を分化誘導できるようになった.Hiranoらは胚性幹細胞の培養で,二次元的に眼様構造が多数でき網膜様構造の中にはロドプシン陽性細胞があることを報告している13).Ikedaらはマウス胚性幹細胞から網膜前駆細胞様の細胞を効率的に作製する特殊な培養方法を確立した14).胚性幹細胞由来の神経前駆細胞の段階でも網膜への移植で網膜細胞に分化するという報告もでてきた.虹彩や毛様体からの分化誘導には自家移植の可能性があるが,病因として遺伝子に問題がある場合は,必ずしも有用ではない.一方,樹立されているヒト胚性幹細胞株注)から分化誘導するほうが,病因遺伝子という観点では問題を含まない.誘導率が低くとも大量培養することで量的問題は解決されうる.とはいえ,各種幹細胞から視細胞をはじめとする網膜細胞をより効果的に分化誘導させるための改良は今後も引き続き必要と考えられる(図4).注)韓国の某教授が報告した胚性幹細胞がねつ造であったとして逮捕され,論文が撤回された.その細胞とは,成人の体細胞から核を抽出し,脱核した卵子に移植した後増殖させる,いわゆるクローン技術によって作製したとするものである.つまり遺伝子レベルで患者と同一の細胞の胚性幹細胞を作製する技術であり,もし本当なら移植による拒絶反応など予想される合併症を大幅に軽減でき,臨床応用へ飛躍的に近づく可能性があっただけに残念である.しかし,受精卵を増殖させて胚性幹細胞を樹立する方法は世界的に確立されているので誤解されぬよう確認したい.VI発生から再生へ効率的に目的細胞を分化誘導するためには,その細胞の分化誘導の仕組みを理解する必要がある.最も大事なことはマスター遺伝子を知ることである.眼発生においては転写因子????が有名である.????を強制発現すると,ハエが3つ目(複眼なので正確ではない)にな(46)ES細胞から眼球様構造を誘導(HiranoMetal:DevDyn,2003より)ES細胞からRPE胞細を分化誘導(HarutaMetal:InvestOphthalmolVisSci,2004より)ES細胞から視細胞,M?llerグリアを誘導スケールバー:E=10?m,F=20?m(IkedaHetal:ProcNatlAcadSciUSA,2005より)ABABONL:外顆粒層,INL:内顆粒層,G:神経節細胞層.1.5mm20μm100μm図4胚性幹細胞から誘導された眼関連細胞———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る15).遺伝子を欠損させると眼が形成されない.????遺伝子の異常は,種々の遺伝性眼疾患と関係しており,その働きから眼球形成のマスター遺伝子であるとされている.遺伝子導入技術を用いればマスター遺伝子を強制発現することも可能であるし,その発現に注目すれば外的因子などによる培養条件を検討することも容易になる.網膜色素変性症を代表とする遺伝性網膜変性疾患で最も傷害をうけるのは杆体視細胞であり,杆体視細胞の発生を理解することは重要である.視細胞・杆体視細胞に関しては????と同格のマスター遺伝子は見つかっていない.しかし,???,???,????,?????という転写因子群が重要な役割をもつことがわかってきた.杆体視細胞数は,発生段階での培養系実験では,各種の薬剤処理で増えることから,分化の初期条件としてプログラムされている細胞タイプであると長く考えられてきた.しかし,近年の遺伝子改変マウスを用いた研究でその考え方は変わりつつある.b甲状腺ホルモン受容体欠損マウスでは赤緑色素体細胞が欠失する一方でその分青色錐体細胞が増えた16).???欠損マウスでは杆体視細胞が欠失するが,青色錐体細胞がその分増えた17).また,進化論的な遺伝子の解析からも青色錐体細胞が最も原始的な視細胞であり初期条件としてプログラムされている可能性がわかってきた.杆体細胞においては,???,???,?????は1つだけでは十分ではなく,相乗効果をもってその分化を誘導し,???,?????は青色錐体細胞への分化を阻止し,赤緑錐体細胞においては???と????が分化に相乗的に作用し,????が青色錐体細胞への分化を阻止しているものと考えられる.筆者らは杆体視細胞前駆細胞と杆体視細胞が蛍光で標(47)図5杆体視細胞の発生分化杆体視細胞およびその前駆細胞を標識し各発生段階における杆体視細胞の誕生を観察した.経時的に杆体視細胞が増加していく.VZ:脳室帯,NBL:神経芽細胞層.b~gのスケールバー:25?m.(AkimotoMetal:ProcNatlAcadSciUSA,2006より)???Rodbirth???E10E12E14E16E18P0P2P4P6P8P10P12P14P21PeakofrodbirthRhoexpressionOSformationEyeopeningMaturerods———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006識されるマウスを作製した18).杆体視細胞前駆細胞は発生段階で経時的に増加していった.各発生段階での杆体視細胞前駆細胞を回収し,発現する遺伝子をmicroar-ray法で網羅的に調べた.杆体視細胞の発生にのみ注目した網羅的遺伝子発現図は,杆体視細胞の設計図ともいえる.杆体視細胞を分化誘導するための羅針盤となることが期待される(図5).VIIそのほかのアプローチ移植・再生医療と関連するが,通常と異なる手法で効果の期待されるアプローチがある.1.移植による残存網膜の保護的作用移植治療は,移植片を機能させることが,本来の目的である.しかし,移植片は宿主錐体細胞の延命にも役立っているとする報告もある19).網膜色素変性では通常杆体細胞が先に傷む.錐体細胞の遺伝子に傷害がなくとも,引き続き,ゆっくりと錐体が変性する症例がある.これは,杆体細胞が錐体細胞への栄養因子を分泌していると説明されている.反論もあるが,移植片それ自体が光感受せずとも,残存する錐体細胞の生存の延長に利用できる可能性がある.2.血管の再生Otaniらは,骨髄幹細胞を硝子体注入すると網膜血管が再生し,網膜変性モデルマウスの網膜変性,特に錐体視細胞の変性が抑制されたと報告した20)(図6).骨髄幹細胞の精製技術は,すでに臨床応用されており,最も臨床に近い技術であり,骨髄幹細胞の単独移植による残存中心視力の温存もしくは,同時移植視細胞の生存率を高める方法として,今後期待される.3.内在性網膜幹細胞の利用M?llerグリアは網膜変性時,網膜のリモデリングに関与して移植の障害となっている可能性がある.しかし,その一方で内在性網膜幹細胞としての利用の可能性も示唆されている.Rehらは,ニワトリの網膜に薬剤で障害を加えたところ,M?llerグリアが脱分化を起こして,幹細胞様になることを報告した21).Ootoらはラットにおいても同様の現象が起こることを報告している22)(48)図6骨髄幹細胞移植による網膜変性の抑制骨髄幹細胞を??マウスの硝子体に注入した.網膜血管が維持され,錐体細胞変性が抑制された.GCL:神経節細胞層,INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層.(OtaniAetal:JClinInvest,2004より)840-4Amplitude(μV)Amplitude(μV)020406080100Time(ms)Righteye(treated)840-4020406080100Time(ms)Lefteye(control)ACB———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(49)(図7).遺伝子導入などの手法を併用することで,ロドプシン陽性細胞に分化させることも可能であり,網膜内網膜幹細胞の再活性化を利用した再生治療という新しい治療の可能性が示された.この方法では遺伝子レベルの治療は困難であるため,進行の遅いタイプの網膜色素変性症患者に対しては応用できる可能性がある.手術手技で網膜を直接触る必要がない点は特長である.4.視細胞以外を視細胞に仕立てるBiらは残存した神経細胞を視細胞に仕立てるというユニークな再生的手法を報告している23).視細胞の消失したマウスに微生物由来の原始的なロドプシン遺伝子を導入した.原始的なロドプシンは視細胞が存在するかのような光応答性を観察した.遺伝子治療と再生医療を組み合わせた方法で今後の展開が期待される.おわりにマウス,サルでの実験結果を元に,ヒト胚性幹細胞を用いた実験計画は2年にわたる倫理委員会での討議の末に網膜色素上皮細胞作製実験は承認されたが,視細胞作製実験は動物実験検証不十分として保留となった.しかし,その後,動物実験での進歩を踏まえて視細胞作製に関しても追加承認された.倫理面でも十分な配慮のうえで研究が行われている.技術的には,サルで確立された技術はヒトへの応用も決して遠いものではないと考えられる.文献1)TurnerJE,BlairJR:Newbornratretinalcellstransplant-edintoaretinallesionsiteinadulthosteyes.?????????391:91-104,19862)KaplanHJ,TezelTH,BergerASetal:Humanphotore-ceptortransplantationinretinitispigmentosa.Asafetystudy.???????????????115:1168-1172,1997図7内因性網膜幹細胞増殖分化の試み内在性網膜幹細胞を刺激し再増殖させた,遺伝子を導入しロドプシン陽性細胞を得た.ONL:外顆粒層,INL:内顆粒層.*:有意差あり.スケールバー:100?m.(OotoSetal:ProcNatlAcadSciUSA,2004より)CLIG-CrxCLIG-CrxNeuroDACBLTRLTR3mycCrxIRESGFPLTRNormalLTR3mycCrxIRESGFP201623840CLIG*%Immunopositive(RET-P1+)CrxNeuroDCrxNeuroDD806040200CLIG**%Immunopositive(GS+)CrxCrxNeuroDyy———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(50)3)BergerAS,TezelTH,delPrioreLVetal:Photoreceptortransplantationinretinitispigmentosa:short-termfollow-up.?????????????110:383-391,20034)DasT,delCerroM,JalaliSetal:Thetransplantationofhumanfetalneuroretinalcellsinadvancedretinitispig-mentosapatients:resultsofalong-termsafetystudy.??????????157:58-68,19995)delCerroM,HumayunMS,SaddaSRetal:Histologiccorrelationofhumanneuralretinaltransplantation.?????????????????????????41:3142-3148,20006)HumayunMS,deJuanEJr,delCerroMetal:Humanneuralretinaltransplantation.??????????????????????????41:3100-3106,20007)RadtkeND,SeilerMJ,AramantRBetal:Transplantationofintactsheetsoffetalneuralretinawithitsretinalpig-mentepitheliuminretinitispigmentosapatients.???????????????133:544-550,20028)RadtkeND,AramantRB,SeilerMJetal:Visionchangeaftersheettransplantoffetalretinawithretinalpigmentepitheliumtoapatientwithretinitispigmentosa.???????????????122:1159-1165,20049)JonesBW,WattCB,FrederickJMetal:Retinalremodel-ingtriggeredbyphotoreceptordegenerations.?????????????464:1-16,200310)ChackoDM,RogersJA,TurnerJEetal:Survivalanddi?erentiationofculturedretinalprogenitorstransplantedinthesubretinalspaceoftherat.??????????????????????????268:842-846,200011)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Retinalstemcellsintheadultmammalianeye.???????287:2032-2036,200012)HarutaM,KosakaM,KanegaeYetal:Inductionofphotoreceptor-speci?cphenotypesinadultmammalianiristissue.????????????4:1163-1164,200113)HiranoM,YamamotoA,YoshimuraNetal:Generationofstructuresformedbylensandretinalcellsdi?erentiat-ingfromembryonicstemcells.???????228:664-671,200314)IkedaH,OsakadaF,WatanabeKetal:GenerationofRx+/Pax6+neuralretinalprecursorsfromembryonicstemcells.??????????????????????102:11331-11336,200515)HalderG,CallaertsP,GehringWJ:Inductionofectopiceyesbytargetedexpressionoftheeyelessgeneindro-sophila.???????267:1788-1792,199516)NgL,HurleyJB,DierksBetal:Athyroidhormonereceptorthatisrequiredforthedevelopmentofgreenconephotoreceptors.?????????27:94-98,200117)MearsAJ,KondoM,SwainPKetal:Nrlisrequiredforrodphotoreceptordevelopment.?????????29:447-452,200118)AkimotoM,ChengH,ZhuDetal:TargetingofGFPtonewbornrodsbyNrlpromoterandtemporalexpressionpro?lingof?ow-sortedphotoreceptors.??????????????????????103:3890-3895,200619)MeyerJS,KatzML,MaruniakJAetal:Embryonicstemcell-derivedneuralprogenitorsincorporateintodegener-atingretinaandenhancesurvivalofhostphotoreceptors.??????????24:274-283,200620)OtaniA,DorrellMI,KinderKetal:Rescueofretinaldegenerationbyintravitreallyinjectedadultbonemar-row-derivedlineage-negativehematopoieticstemcells.?????????????114:765-774,200421)RehTA,FischerAJ:Stemcellsinthevertebrateretina.????????????????58:296-305,200122)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,200423)BiA,CuiJ,MaYPetal:Ectopicexpressionofamicrobi-al-typerhodopsinrestoresvisualresponsesinmicewithphotoreceptordegeneration.??????50:23-33,2006

網脈絡膜疾患の網膜機能解析

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSI他覚的機能検査法1.ERGa.ERGの種類と各成分の発生起源図1に示した暗順応ERGの最大応答に注目していただきたい(図1,左側の最下段).最初に現れる陰性波がa波で,視細胞および視細胞外節の機能を反映する.また,a波に続く陽性波はb波で,双極細胞に由来する.b波の上行脚にみられる律動様小波は,アマクリン細胞の機能を反映していると考えられている.したがって,それぞれの成分を評価することによって,網膜各層の機はじめに網膜の機能検査は他覚的と自覚的な検査に分けられ,それぞれ網脈絡膜疾患の診断で重要な役割を担っている.他覚的機能検査としては網膜電図(electroretino-gram:ERG)と眼球電図(electrooculogram:EOG)がある.また,自覚的機能検査としては,視野検査および暗順応検査があげられる.眼底検査,眼底造影検査および網膜機能検査を駆使することによって,多くの網脈絡膜疾患を正確に診断することができる.今回はこれらの検査の有用性を代表的な網脈絡膜疾患を列挙しながら解説する.(29)????*ShigekiMachida:岩手医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕町田繁樹:〒020-0015盛岡市内丸19-1岩手医科大学眼科学教室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1139~1151,2006網脈絡膜疾患の網膜機能解析???????????????????????????????????????????????????????????町田繁樹*図1全視野刺激で得られる網膜電図(ERG)の種類杆体応答最大応答100?V100?V3msec3msec3msec128msec128msec128msec錐体応答30HzフリッカーERG50?V50?V50?V明順応ERG暗順応ERGa波b波律動様小波150msON応答OFF応答Long-?ash錐体応答———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006能変化を判定することが可能である.ERGは記録条件を変えることで,波形が大きく変化し,杆体系と錐体系の反応を分離記録することができる.国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)1)が推奨するプロトコールで記録された正常者のERG波形を示した(図1).代表的な網脈絡膜疾患のERG所見について後述する際に,図1に示した正常波形と病的な波形とを比較していただきたい.20~30分の暗順応後に暗順応下で弱い光で刺激すると,杆体のみが刺激されて杆体系の応答が得られる(杆体応答).波形はa波がなくb波のみで形成される.暗順応下で強い刺激光を用いると,杆体のみならず錐体が反応し,a波およびb波から構成される波形が得られる(最大応答).つぎに10分間の明順応を行い,明順応下で記録できるのが錐体応答で,錐体系の機能を反映している.さらに,30Hzの高頻度刺激で得られる30HzフリッカーERGも錐体系の反応を表している.以上のERGはすべて持続時間が短い刺激光で記録したものである.持続時間の長い刺激光を錐体応答に用いると,ONとOFF応答を分離することできる(図1,右側の最下段).錐体系は杆体系とは異なって,2つの経路がある.つまり,光が照射されると脱分極する双極細胞(ON型双極細胞),光が消えたときに脱分極する双極細胞(OFF型双極細胞)の2種類がある.それぞれ,ONとOFF経路を形成している(図2).ONとOFF応答は,それぞれON型とOFF型双極細胞の応答を反映していると考えられ2),どちらかの経路のみが選択的に障害される疾患がある.b.多局所ERG(multifocalERG:mERG)mERGは眼底後極部の各網膜局所を刺激し,そこからの応答を短時間で記録できるシステムである.各網膜局所からのERG波形が得られ(図3A),応答密度を3Dトポグラフィとして表現できる(図3B).病変が網膜に広範に及ぶ場合は,通常のERGで病変を捉えることができる.しかし,眼底後極部の局所網膜に病変が限局している場合に,mERGが診断に有用である.2.EOG眼球の前極(角膜側)と後極の間には電位差が存在し(前極が後極よりも相対的にプラスになっている),これを眼球の常存電位とよび,網膜色素上皮がその起源と考(30)ON経路視細胞双極細胞ON型ON型OFF型ON経路OFF経路杆体系錐体系図2杆体系と錐体系の伝達経路(文献2より改変)200nV80mSec0BA図3多局所網膜電図(mERG)の各刺激部位から得られた波形(A)とその波形に基づいた3Dトポグラフィ(B)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????えられている.常存電位は暗順応あるいは明順応によってゆっくりと変化し,その変化を波形に表したのがEOGである.記録方法の詳細は割愛するが,内・外眼角の皮膚上にそれぞれ平皿電極を設置する.眼球を1分ごとに1Hzの頻度で左右に約30?動かしてもらう.眼球の前極が電極に近づくと,その電極はプラスに,もう一方の電極は眼球の後極が近づくのでマイナスとなる.2つの電極間での電位差を記録する.暗順応を開始すると,EOG振幅は減少し10分程度で極小(darktrough)に達し,さらに暗順応を続けると再び上昇する(図4A).つぎに,明順応を開始すると,EOG振幅は徐々に増大し(明上昇),明順応開始6~9分で極大(lightpeak)に達する.その後,明順応を続けるとEOG振幅は減少する.明極大と暗極小の振幅比をL/D比とよび,正常ではL/D比は1.8以上になるが,視細胞あるいは網膜色素上皮に広範な障害が存在する場合は,L/D比は1.65未満となる.EOGは得られる情報量においてはERGにかなわないが,EOGが診断に不可欠な疾患がある.後述するBest病はEOGが診断の決め手となる疾患として重要である(図4A).II自覚的機能検査法1.視野検査網脈絡膜疾患では視野異常を訴えることが多く,視野変化を定量化することは,診断および経過観察に重要である.周辺部視野が障害される疾患では動的量的視野検査が適している.また,中心視野が侵される疾患では,Humphrey視野計などを用いた静的量的視野検査が適している.Humphrey視野計では黄色の背景に青色刺激を用いた(blue-on-yellow)視野検査のプログラムが組み込まれており,青錐体系の感度を測定できる.後述するが,青錐体系の感度に特徴的な変化をきたす疾患があり,病態解明や診断の一助となる.2.暗順応検査暗順応曲線は,暗順応の経過に伴った光覚閾値の変化を計測したものである(図4B).暗順応開始5~10分で急速に閾値が約3.0logunit低下する(第1次暗順応).屈曲点を形成して(rod-conebreak),再び閾値が低下し暗順応開始から約45分で最終閾値に達する(第2次暗順応).正常者では,暗順応中に光に対する感度が105~106倍となる.暗順応検査は夜盲をきたす疾患の診断に役立つ.III代表的な網脈絡膜疾患日常臨床で遭遇する可能性の高い網脈絡膜疾患をあげて,その病態,眼底所見および網膜機能検査の所見について述べる.1.網膜色素変性症網膜色素変性症は,視物質のサイクル(phototrans-ductionとretinoidcycle)に関与する蛋白質や視細胞外節の構造蛋白などをコードしている遺伝子異常によって発症する.原因が多いため,表現型にはバリエーションがあり,発症年齢,経過および予後はさまざまである.(31)図4正常者(●)およびBest病(◯)の眼球電図(EOG)(A),と正常者の暗順応曲線(B)0352025101500002004006008時間(分)時間(分)振幅(?V)室内光暗順応光照射0504030201001234567光覚閾値(対数)AB明極大暗極小Rod-conebreak———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006杆体の機能障害が錐体のそれに先行するため,夜盲が初発症状となり,視力は最後まで比較的保たれる.典型的な眼底所見としては血管アーケード付近から周辺部の網膜が萎縮し,特徴的な骨小体様の色素沈着がみられ,網膜血管は狭細化し,視神経乳頭は蒼白化する(図5A).しかし,非定型例では,眼底変化が軽度あるいは黄斑変性を伴うことがある.視野検査では,輪状暗点(図5B)や求心性視野狭窄がみられる.本症のERG所見としては,杆体応答はきわめて減弱するが,錐体応答と30HzフリッカーERGは記録可能なことがある(図5C).しかし,進行例では錐体系応答も記録不能となる.2.錐体ジストロフィ錐体ジストロフィでは,網膜色素変性症と同様にphototransductionおよび視細胞外節の構造蛋白などをコードしている遺伝子の異常が報告されている.20歳以前に発症することが多く,視力低下,羞明,中心暗点および色覚異常を主症状とする.錐体ジストロフィの典型的な眼底所見は,bull?seyepatternの黄斑変性である(図6A).しかし,非特異的な黄斑変性,変性近視様所見あるいは正常眼底を示すことがあって,眼底所見から診断するのは困難である.したがって,ERGが診断に必須な疾患といえる.また,杆体の機能障害を合併し,網膜色素変性症に類似した眼底所見を呈することがある(図6C).視野検査では,典型例では中心暗点がみられ(図6B),杆体機能障害を伴う症例では中心暗点および不完全な輪状暗点がみられる(図6D).錐体ジストロフィのERG所見は特徴的で,杆体応答および最大応答がほぼ正常に保たれているにもかかわらず,錐体応答と30HzフリッカーERGの減弱が目立つ(図7).杆体の機能障害を合併した症例でも,錐体応答の振幅低下が杆体応答の低下に比較して著しい.このように杆体の機能障害を伴った場合は,錐体?杆体ジストロフィと診断する.(32)図5網膜色素変性症の眼底(A),動的量的視野(B)およびERG(C)50?V50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答ABC———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????3.Stargardt病常染色体劣性遺伝性疾患で,レチノイドサイクルに関与するATP-bindingtransportergene(????)の異常が報告されている3).リポフスチンの前駆物質のA2Eが過剰に生成され,網膜色素上皮にリポフスチンが蓄積する.特徴的な眼底所見は,黄斑変性と多発性の黄色斑(33)図6錐体(?杆体)ジストロフィのフルオレセイン蛍光眼底造影(AおよびC),静的量的視野(BおよびD)ACBD錐体-杆体ジストロフィ錐体ジストロフィ50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答図7錐体ジストロフィおよび錐体?杆体ジストロフィのERG———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006である(図8A)が,進行すると,黄色斑は網膜色素上皮萎縮のために目立たなくなる.フルオレセイン蛍光眼底造影は非常に診断的価値が高く,リポフスチンによる蛍光遮断でdarkchoroidがみられる(図8B).また,黄色斑はwindowdefectによる過蛍光を示す.本症の網膜機能は病変の広がりや病期の進行によって異なるので,網膜機能検査は補助的なものとなる.ERGの所見から,正常な錐体・杆体機能,異常な錐体機能,異常な錐体・杆体機能の3つのタイプに分類される.本症例では錐体機能のみが低下していた(図8C).4.先天網膜分離症伴性劣性遺伝性疾患で男性のみが発症し,女性は保因者となる.小児の黄斑疾患のなかで最も高頻度にみられる疾患である.網膜内の細胞と細胞の接着に関与するretinoschisinをコードしている???遺伝子の異常によって発症する4).黄斑部病変は必発で?胞様変化を示し(図9A),光干渉断層法(OCT)では?胞様変化が網膜分離であることが確認できる(図9B).周辺部網膜には周辺部網膜分離,網膜内層円孔,銀箔様反射,白色樹枝血管がみられる.ERG所見は特徴的で,最大応答のa波はほぼ正常だが,b波の振幅が減弱し,a波よりもb波が小さくなるいわゆるnegativeERGを呈する(図9C).視細胞と双極細胞の接着に問題があり,シナプス間の伝達が障害されているためと考えられる.黄斑部の変化が,非特異的な病変となった症例や網膜分離と網膜?離を鑑別しにくい小児例などでは,ERG所見が診断に非常に役に立つ.(34)図8Stargardt病の眼底(A),フルオレセイン蛍光眼底造影(B)およびERG(C)ABC50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(35)ABC図9先天網膜分離症の眼底(A),OCT(B)および最大応答ERG(C)図10完全型および不全型の先天停在性夜盲(CSNB)のERG(A)および病態(B,文献7より改変)完全型CSNB不全型CSNB完全型CSNB不全型CSNBON経路ON経路OFF経路ON経路ON経路OFF経路NO型NO型FFO型錐体系杆体系杆体系NO型NO型FFO型錐体系AB50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V50ms100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答視細胞双極細胞Long-?ash錐体応答———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20065.先天停在性夜盲(congenitalstationarynightblindness:CSNB)CSNBは,夜盲よりも,学校検診や就学時検診で視力低下を指摘されて眼科を受診することが多い.ERGの所見は特徴的であり,最大応答がnegativeERGとなる(図10A).ERG所見から完全型と不全型の2つに分類されている5).CSNBは眼底所見がほぼ正常であるが,完全型は近視を伴うため豹紋状眼底を呈する.完全型CSNBでは杆体応答がほぼ消失しているのに対して,不全型CSNBでは杆体応答が残存している.錐体応答と30HzフリッカーERGの振幅は,完全型CSNBでは保たれているが,不全型CSNBでは減弱している.完全型CSNBの錐体応答では,a波の底が広くsquare-typea-waveとよばれている.Long-?ash錐体応答は非常に特徴的で,完全型CSNBではON応答が消失している.一方,不全型CSNBではONおよびOFF応答がともに低下している6).ERGの所見からもわかるように,完全型CSNBでは杆体系と錐体系のON経路のみが障害され,不全型CSNBではすべての経路が不完全に障害されていると考えられる(図10B)7).完全型CSNBでは杆体系の機能が消失しているため,暗順応曲線は第1次暗順応のみとなり,杆体閾値は存在しない.一方,不全型CSNBでは杆体の最終閾値は正常者よりも1.5logunit高いが第2次暗順応が存在する(図11A)7).青錐体系は緑・赤錐体とは異なって,OFF経路をもたずON経路のみからなる.したがって,完全型CSNBでは青錐体系の機能は著しく低下すると考えられる.しかし,色覚機能検査では正常である.Blue-on-yellow視野検査で青錐体系の感度を測定すると,完全型CSNBではドーナッツ状に視野が欠損し,中心10~15?の青錐体系の感度が保たれている(図11B)8).黄斑部の青錐体系の機能が保たれているために,色覚検査では異常を示さないと考えられる.完全型CSNBは,伴性劣性および常染色体劣性の遺伝形式をとる.伴性劣性遺伝性の完全型CSNBでは,ON経路の発達を促すnyctalopinをコードしている???遺伝子の異常が見つかっている9).(36)ABCase1Case2Case3Case4Case5W/WB/Y7654321005101520253035暗順応時間(分)光覚閾値(対数)完全型CSNB不全型CSNB正常図11完全型および不全型の先天停在性夜盲(CSNB)の暗順応曲線(A,文献7より)完全型CSNBのwhite-on-white(W/W)およびblue-on-yellow(B/Y)を用いた静的量的視野(B,文献8より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????不全型CSNBは伴性劣性遺伝であり,L-typevolt-age-gatedcalciumchannel(???????)の変異がみられる.???????は杆体と錐体へのカルシウムイオンの流入をコントロールし,視細胞からの神経伝達物質の放出に関与している.したがって,???????に変異があれば,視細胞から双極細胞への伝達が障害される10).CSNBは,遺伝子の機能と網膜機能異常との関連性が明らかとなった疾患である.ERGがその病態解明に重要な役割を果たした.6.小口病小口病は,常染色体劣性遺伝性の停在性夜盲症である.光によって活性化したロドプシンが不活化するために必要なarrestinあるいはrhodopsinkinaseに変異がある11,12).ロドプシンは不活化されると光を受け取り反応することができる.したがって,ロドプシンが常に活性化した状態にあると,光に反応できず,杆体機能は著しく低下する.眼底には金箔様の反射がみられ(図12A),長時間の暗順応後に反射は消失する(水尾?中村現象).杆体応答は消失しており,最大応答はnegativeERGとなる(図12B).先天網膜分離症やCSNBのnegativeERGとは波形が異なっており,a波振幅は正常に比較して減弱している.錐体系のERGはまったく正常である.7.白点状眼底遺伝性で非進行性の夜盲症の一つである.そのほとんどが常染色体劣性遺伝を示し,レチノイドサイクルに関与している11-???retinoldehydrogenaseの異常によって発症する13).つまり,網膜色素上皮から視細胞へのレチナールの供給が減少し,ロドプシンの再生が著しく遅延しているものと考えられる.したがって,杆体機能が著しく低下している.眼底には網膜色素上皮レベルの小白点が無数に認められる.通常,視力は正常であるが,錐体ジストロフィを合併することがある.ERGでは,杆体および最大応答は非常に小さいが,錐体系のERGは正常である.暗順応時間を2時間程度に延長すると,杆体および最大応答は正常まで増大す(37)50?V25ms25ms25ms50ms50?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答AB図12小口病の眼底(A)およびERG(B)図13正常者,小口病および白点状眼底の暗順応曲線(文献14より)654321001020504030200100300500400暗順応時間(分)光覚閾値の対数白点状眼底小口病正常———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(38)左眼右眼AB200nV80mSec0200nV80mSec0図14Occultmaculardystrophy(OMD)の眼底(A)およびmERG(B)ABCBlue-on-yellowWhite-on-white左眼(患眼)右眼(健眼)図15Acutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)の眼底(A),静的量的視野(B)およびmERG(C)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る.本症の暗順応検査では,正常の杆体閾値に達するまでの時間が延長し,約2時間を要する.小口病でも最終杆体閾値は正常であるが,白点状眼底とは異なり,正常閾値に達するまで5時間以上を要する(図13)14).網膜色素変性症の一つに白点状網膜炎がある.白点状網膜炎は,白点状眼底に眼底所見が類似しているが,進行性の視細胞変性疾患である.白点状網膜炎では暗順応時間を延長しても,ERG振幅および杆体閾値の回復がみられない.8.Best病常染色体優性遺伝性の黄斑ジストロフィで,黄斑部に特徴的な卵黄様病変をきたす.????遺伝子がコード(39)256ms3ms128ms3ms128ms3ms128ms256ms150ms左眼右眼AB20?V20?V100?V100?V100?V杆体応答錐体応答30HzフリッカーERG最大応答Long-?ash錐体応答図16Unilateralconedysfunction(UCD)の眼底(A)およびERG(B)———————————————————————-Page12????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006しているbestrophinsに変異がみられる15).Bestrophinsは網膜色素上皮の脈絡膜側の細胞膜Clチャンネルで,EOGの明上昇に関与している.小児期に発症し,前卵黄期,卵黄期,いり卵期,偽蓄膿期,萎縮期と病変は進行してゆく.黄斑部の特徴的な卵黄様病変は,網膜色素上皮下の沈着物で,リポフスチン様の物質と考えられている.本症では,ERGはほぼ正常である.EOGはほぼ平坦でそのL/D比が1.65未満となる(図4A).遺伝子異常があっても,特徴的な黄斑病変が発症しないことがあり,眼底所見の浸透率は高くない.一方,EOG所見の浸透率は100%であり,保因者を同定するのにも役立つ.30~50歳代でBest病に類似した眼底所見で発症する成人型卵黄様黄斑ジストロフィがある.Best病とは異なり,EOG所見は正常で鑑別のポイントとなる.9.眼底がほぼ正常な疾患群眼底後極部に限局性の網膜機能障害をきたす網脈絡膜疾患として,occultmaculardystrophy(OMD)16)とacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)17)があげられる.これらの疾患は,眼底所見がほとんどみられないため,網膜機能検査が診断に必須である.特に,眼底後極部の局所網膜からの応答を記録できるmERGが診断に威力を発揮する.OMDの主症状は両眼の視力低下であるが,進行は緩徐で0.1程度の視力を保つ.眼底所見と全視野刺激で得られるERGはまったくの正常である(図14A).しかし,mERGでは,両眼の黄斑部とその周囲からの応答が選択的に低下する(図14B).AZOORは若年から中年の女性にみられる疾患で,急激な視野欠損および光視症を主訴とする.眼底疾患でありながら眼底はほぼ正常である(図15A).視野欠損は,Mariotte盲点の拡大からそれが周辺視野へ穿破するものまで程度はさまざまである(図15B).視野欠損が中心視野に及ぶ場合は,視力が低下する.視野欠損に一致あるいはそれよりも広い範囲でmERGの応答が低下する(図15C).通常の視野検査で暗点がはっきりしなくても,blue-on-yellowを使うと広範囲に広がる暗点を検出することができる(図15B)18).眼底所見がほぼ正常であるにもかかわらず,片眼の錐体機能がきわめて低下する疾患があり,unilateralconedysfunction(UCD)と命名されている.若い女性に多く,急激な片眼性の視力低下と中心暗点を訴える.代表症例のように,眼底所見では左右差を認めないものの(図16A),左眼の錐体系のERGがきわめて低下している(図16B).筆者らは,UCDの反対眼に典型的なAZOORが発症した症例を経験したことから,UCDはAZOORの表現型の一つと考えている19).おわりに今回列挙した網脈絡膜疾患のほとんどは,治療不可能である.しかし,その予後は疾患によって大きく異なる.停止性であり,日常生活には何ら支障をきたさない疾患も含まれている.正確な診断に基づいた患者への説明が,最も重要な疾患群と思われる.正確な診断のためには網膜機能検査が必須と考えられ,網膜機能検査を理解しその重要性を認識することが大切である.謝辞:多くの症例のERG記録を行っていただいた岩手医科大学眼科学教室助手木澤純也先生に深謝いたします.文献1)MarmorMF,ZrennerE:Standardforclinicalelectroreti-nography(1999update).??????????????97:143-156,19992)SievingPA:Photopicon-ando?-pathwayabnormalitiesinretinaldystrophies.???????????????????????91:701-773,19933)AllikmetersR,SinghN,SunHetal:Aphotoreceptorcell-speci?cATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.?????????15:236-246,19974)TheRetinoschisisConsortium:Functionalimplicationofthespectrumofmutationsfoundin234caseswithX-linkedjuvenileretinoschsis(XLRS).?????????????7:1185-1192,19985)MiyakeY,YagasakiK,HoriguchiMetal:Congenitalsta-tionarynightblindnesswithnegativeelectroretinogram:anewclassi?cation.???????????????104:1013-1020,19866)MiyakeY,YagasakiK,HoriguchiMetal:On-ando?-responsesinphotopicelectroretinogramincompleteandincompletetypesofcongenitalstationarynightblindness.????????????????31:81-87,1987(40)———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????7)MiyakeY:CompleteandincompletetypesofCSNB.Elec-trodiagnosisofRetinalDiseases(edbyMiyakeY),p90-113,Springer,Tokyo,20068)TerasakiH,MiyakeY,NomuraRetal:Blue-on-yellowperimetryinthecompletetypeofcongenitalstationarynightblindness.?????????????????????????40:2761-2764,19999)Bech-HansenNT,NaylorMJ,MaybaumTAetal:Muta-tionsinNYX,encodingtheleucine-richproteoglycannyc-talopin,causeX-linkedcompletecongenitalstationarynightblindness.?????????26:319-323,200010)StormTM,NyakaturaG,Apfelstedt-SyllaEetal:AnL-typecalcium-channelgenemutatedinincompleteX-linkedcongenitalstationarynightblindness.?????????19:260-263,199811)FuchsS,NakazawaM,MawMetal:Ahomozygonous1-basepairdeletioninthearrestingeneisafrequentcauseofOguchidiseaseinJapanese.?????????10:360-362,199512)YamamotoS,SippelKC,BersonELetal:DefectsintherhodopsinkinasegeneinpatientswiththeOguchiformofstationarynightblindness.?????????15:175-178,199713)YamamotoH,SimonA,ErikssonUetal:Mutationsinthegeneencodig11-cisretinoldehydrogenasecausedelayeddarkadaptationandfundusalbipunctatus.?????????22:188-191,199914)近藤峰生:小口病.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,菅原岳史,近藤峰生編),p94-95,メジカルビュー社,200415)MarquardtA:Mutationsinanovelgene,VMD2,encod-ingaproteinofunknownpropertiescausejuvenile-onsetvitelliformmaculardystrophy(Bestdisease).?????????????7:1517-1525,199816)MiyakeY,HoriguchiM,TomitaNetal:Occultmaculardystrophy.???????????????122:6446-6453,199617)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.??????????????????????13:79-97,199318)MachidaS,Haga-SanoM,IshibeTetal:Decreaseofblueconesensitivityinacuteidiopathicblindspotenlarge-mentsyndrome.???????????????138:296-299,200419)MachidaS,KizawaJ,FujiwaraTetal:Unilateralconedysfunctionasamanifestationofacutezonaloccultouterretinopathy.??????,2006,inpress(41)

Autofluorescence(自発蛍光検査)で何がわかるか

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS状態にさせ,その後基底状態に戻ろうとするときに放出する余分なエネルギーが光となって観察され,このとき必ず,再発光の波長が吸収光の波長よりも長くなるという現象である.以前はフルオロフォトメトリーを利用する方法でFAFを測定しており1),また水晶体からも強い自発蛍光が生じるために,共焦点メカニズムを有するSLO(scanninglaserophthalmoscope)やHRA(Heidel-bergretinaangiogram)での観察例が多く報告されてきた2~4).一方,市販の眼底カメラ(TOPCONTRC50IX)を改良することにより,FAFをより簡便に撮影することができるようになった5).これは励起光通過フィルターに580nm(500~610nm)を使用し,眼底に到達する励起光の水晶体による減弱を減らすためにバリアフィルターは695nm(675~715nm)を使用しているものであるが,これによりSLOやHRAなどの高価な装置を使わずにFAFが撮影可能となった.III臨床例における自発蛍光の実際正常眼底においては網膜主幹動静脈,視神経乳頭,黄斑領域は弱い自発蛍光となる(図1).黄斑領域は網膜血管のヘモグロビンと黄斑のキサントフィルにより自発蛍光が吸収され,低蛍光の暗い領域として描出される.これまでの報告2)では弱い自発蛍光は網膜色素上皮萎縮部,網脈絡膜萎縮部,出血部などで認められ,強い自発蛍光はドルーゼン,網膜色素上皮?離部などで認められる.図2に網膜色素上皮裂孔の例を示すが,通常のカI眼底の自発蛍光とは?眼底の自発蛍光(fundusauto?uorescence:FAF)はおもに網膜色素上皮細胞(RPE)のリポフスチンに由来するとされる.リポフスチンは生理的に心筋,肝細胞,尿細管上皮,神経細胞,横紋筋,平滑筋,副腎皮質の網状帯(色素帯),精巣などに黄褐色の微細な色素顆粒として存在し,細胞内に散在性に現れ,電子顕微鏡下では脂質に似た明るい均質の部分を含む暗い顆粒で,脂質と結合している.RPE内のライソゾーム酵素により視細胞外節が分解・消化され,消化残?がリポフスチンとして細胞質内に蓄積される.これは加齢とともに蓄積されやすくなる.高齢者のRPEでは細胞器管の圧排,減少に伴い視細胞外節の貪食・消化能力が低下しさらにリポフスチンの蓄積が進む.リポフスチンの蓄積により眼底の自発蛍光は強くなる.したがってFAFはRPEの代謝機能を反映していると考えられる.強い自発蛍光は高齢者,RPEの外節貪食代謝亢進,病的代謝低下のRPEなどで認められ,弱い自発蛍光は若年者,RPEの外節貪食代謝障害,RPEの萎縮,欠損などで認められる.すなわちFAFの変化を調べることによりその部位のRPEの機能を推測することができる.II自発蛍光の観察方法FAFを観察するためにはフォトルミネッセンス現象が利用されている.これは,励起光を照射し分子を励起(23)????*SatoshiMizunoya:帝京大学ちば総合医療センター眼科**ShuichiYamamoto:千葉大学大学院医学研究院視覚病態学〔別刷請求先〕水野谷智:〒299-0111市原市姉崎3426-3帝京大学ちば総合医療センター眼科特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1133~1137,2006Auto?uorescence(自発蛍光検査)で何がわかるか???????????????????????????????????????水野谷智*山本修一**———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006ラー眼底写真でみるよりも裂孔部の境界は明瞭であり,RPEが折りたたまれている部位では逆にFAFが強くなっていることがわかる(図2a,b,c).Best病やfundus?avimaculatusではリポフスチンがRPEに蓄積するため眼底の自発蛍光は強くなることが報告されている6).図3にStargardt病の一例を示す.眼底全体で一見して明らかにFAFが強くなっているが,黄斑部が逆に暗く見え,ちょうどフルオレセイン蛍光眼底写真(FA)を反転させたような像が印象的である(図3a,b,c).図4に定型網膜色素変性の例を示す.変性している部位では蛍光が弱くあるいは消失している.機能が残っている網膜ではFAFは残存している(図4a,b,c).中心型網膜色素変性では黄斑部の自発蛍光は消失し,その周(24)図1正常者のFAF(61歳,男性)正常眼底においては網膜主管動静脈,視神経乳頭,黄斑領域は弱い自発蛍光となる.図2網膜色素上皮裂孔の例裂孔の部位はFAFがまったく消失している.裂孔縁は強い蛍光となる部位もある.aはカラー眼底写真,bはFAF写真,cはFAの写真である.以下,図3~8も同じ.abc図3Stargardt病の例黄斑部は暗く,その周囲は明らかにFAFが強くなっている.abc———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????囲は強い蛍光で縁取りされている像が見られる.強い蛍光の部位では逆に代謝が亢進している可能性もある(図5a,b,c).これらでは通常の眼底写真よりもFAFの写真のほうが障害部位とのコントラストがはっきりしていてわかりやすい.また網膜色素変性においては,FAFはFAをほぼ反転させた像を呈しており,特定疾患の申請に必須とされるFAに代わる非侵襲的検査として期待がもてる.中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)では網膜?離部に一致して強い蛍光が見られ,一部黄白色の沈着物は特に強い蛍光となることが知られている.これは時間の経過とともにリポフスチン様物質がRPEに沈着するためと考(25)図4定型網膜色素変性症の例変性している部位では蛍光が弱くあるいは消失している.機能が残っている黄斑部ではFAFは残存している.abc図5中心型網膜色素変性症の例黄斑部のFAFは消失し,その周囲は強い蛍光で縁取りされている像が見られる.abc図6中心性漿液性網脈絡膜症の例網膜?離部に一致して強い蛍光が見られ,漏出点は弱い蛍光となっている.abc———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(26)えられている.蛍光漏出点に一致して自発蛍光は消失しており,ここでもFAの代わりとなることが期待できる(図6a,b,c).加齢黄斑変性(AMD)では強い蛍光と弱い蛍光が混在して斑状になっている像や,変性の辺縁に沿って強い蛍光を示す例,検眼鏡では異常が軽微でもRPEの障害が進行している例が認められる(図7,8).AMD初期の例でFAFの経過を観察することにより国際分類でいうところのpatchypatternは視力予後不良の危険因子であるとの報告がある3).地図状萎縮の症例で萎縮部辺縁に沿って強い蛍光が見られる症例では,網膜の感度がより低下しているとの報告もある7).おわりにFAFにより従来の蛍光眼底検査のような侵襲なしにRPEの異常を検出することが可能になってきた.検眼鏡的に眼底の異常が認められる前に,FAFによってRPEの代謝機能の変化を発見できる可能性もある.経過を追うことで疾患の進行程度の推測もできる可能性があり,眼底疾患の病態の理解や治療にFAFは非常に有用であると考えられ,今後の発展が期待される.文献1)北川桂子,勝安彦,西田祥蔵ほか:フルオロフォトメトリーによる網膜色素上皮加齢変化の検討.日眼会誌92:780-784,19882)白木邦彦,洪里卓志,河野剛也ほか:ハイデルベルグ・レチナ・アンギオグラムを使用した網膜色素上皮リポフスチン由来自発蛍光の観察.臨眼55:283-287,20013)EinbockW,MoessnerA,SchnurrbuschUEKetal:Changesinfundusauto?uorescenceinpatientswithage-relatedmaculopathy.Correlationtovisualfunction:apro-spectivestudy.????????????????????????????????243:300-305,20044)DandekarSS,JenkinsSA,PetoTetal:Auto?uorescenceimagingofchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration.???????????????123:1507-1513,図7加齢黄斑変性の例強い蛍光と弱い蛍光が混在している例も認められる.abc図8加齢黄斑変性の例検眼鏡では異常が軽微でもFAFでは明らかに蛍光の減弱を示す例が認められる.abc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(27)20055)SpaideRF:Fundusauto?uorescenceandage-relatedmaculardegeneration.?????????????110:392-399,20036)EagleRC,LucierAC,BernardinoVBJetal:Retinalpig-mentepithelialabnormalitiesinfundus?avimaculatus:alightandelectronmicroscopicstudy.?????????????87:1189-1200,19807)Schmitz-ValckenbergS,BultmannS,DreyhauptJetal:Fundusauto?uorescenceandfundusperimetryinthejunctionalzoneofgeographicatrophyinpatientswithage-relatedmaculardegeneration.?????????????????????????45:4470-4476,2004

加齢黄斑変性の遺伝子研究の最前線

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS色体上での位置を絞り込み,その周辺の遺伝子を網羅的に調べるポジショナルクローニング法によって,14の候補遺伝子の7つがすでに発見されている.発見された7つの遺伝子と加齢黄斑変性との関係については複数の研究グループが解析を行ったが,常染色体劣性遺伝のはじめに加齢黄斑変性は多因子疾患であると考えられ,加齢,遺伝そして環境などのリスク因子が作用して時間をかけて発症する1)(表1).加齢黄斑変性を発症しやすい体質があるとすれば,それはヒトの設計図であるゲノム配列と深く関係している.今日の遺伝子解読技術を用いれば,特定の遺伝子配列を解読することは比較的簡単であるが,問題はヒトゲノムには22,000ほどの遺伝子が存在し,どの遺伝子が加齢黄斑変性に関係するかわからないことである.最近になって,ようやく候補となる遺伝子が複数明らかになってきた.疾患に関係する遺伝子配列の発見は加齢黄斑変性の早期診断につながり,また発症までに時間があることから,有効な予防法による発症の遅延や人生設計の変更が可能になる.リスク遺伝子の機能解析によって,発症を防止する有効な薬の開発の可能性もある.このような理由から,加齢黄斑変性のリスク因子の1つである遺伝子についての研究が進められている.本稿では,加齢黄斑変性のリスク因子としての遺伝子解析について最新の状況をお伝えしたい.I加齢黄斑変性の候補となる遺伝子の探索加齢黄斑変性のリスク遺伝子を探索するにあたって,最も可能性の高い候補は,類似の症状が観察される黄斑ジストロフィの原因遺伝子である.先天性の黄斑ジストロフィは単一遺伝子の変異によって発症するものが多く,大家系を使った連鎖解析法によって原因遺伝子の染(15)????*TakeshiIwata:独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部門細胞・分子生物学研究室〔別刷請求先〕岩田岳:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部門細胞・分子生物学研究室特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1125~1131,2006加齢黄斑変性の遺伝子研究の最前線??????????????????????????????????????????-????????????????????????????岩田岳*表1加齢黄斑変性のリスク因子(1)加齢高齢化:米国では65歳以上の失明率が最も高い疾患.(2)遺伝家族歴:親族のなかに加齢黄斑変性の患者がいる場合により高いリスクが生じる.人種:白人は黒人に比べて加齢黄斑変性を発症しやすい.日本人はその中間に位置する.性別:白人では女性に優位に発症するが,日本人では男性に優位に発症する.(3)環境喫煙:喫煙は複数の疫学調査によって高いリスク因子として報告されている.肥満:肥満は加齢黄斑変性の進行に関係してると考えられている.表2これまでに報告されている加齢黄斑変性のリスク遺伝子(1)ATP-bindingcassettetransporter(?????)(2)Fibulin6(Hemicentin1)(3)Complementcomponent2(4)ComplementfactorB(5)ComplementfactorH(6)Fibulin5(?????)(7)HypotheticalProteinLOC387715(8)Toll-likereceptor4———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(16)図1国際HapMapプロジェクトのホームページ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????Stargardt病の原因遺伝子であるATP-bindingcassettetransporter遺伝子(?????)を除いて相関は見つかっていない2).現在までに加齢黄斑変性との相関が報告されている遺伝子を表2にまとめた.これまで未知遺伝子の探索で利用されてきた連鎖解析法を用いて地道に連鎖解析マーカーと疾患との相関を調べる作業が今日も続いている.連鎖解析とはヒトゲノム中にある塩基配列の反復とその反復回数に個人差があることを利用して,あるゲノム上の反復配列とその反復回数が疾患といっしょに遺伝しているか調べることによって原因遺伝子の染色体上での位置を絞り込む方法である.加齢黄斑変性は複数の遺伝子が関与していることから,複雑に遺伝するが,多数の家系を調べた結果,統計的に候補となる遺伝子は染色体1,2,4,5,9,10,12,15,16,18,20の13の位置に存在すると予測されている3,4).IIハプロタイプを利用した加齢黄斑変性のリスク遺伝子の探索近年,ヒトゲノムプロジェクトによる全ゲノム配列が解読された結果,ゲノム上には平均で1,000塩基に1つの割合で異なる配列が存在することが明らかになった.この遺伝子多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)の生体への影響についてはまだ明らかになっていないが,その利用方法については注目されている.ゲノム上の単一のSNP,たとえばアデニン(A)からグアニン(G)の変化を疾患に結びつけることは困難であるが,SNPを複数組み合わせてブロックにして利用することにより,連鎖解析マーカーと同様な利用方法ができる.SNPの組み合わせをハプロタイプとよぶが,複数の国が参加して,すべてのハプロタイプを明らかにする国際ハップマッププロジェクト(InternationalHapMapProj-ect,http://www.hapmap.org/)が進行中である(図1).ゲノムの大きさが3×109塩基であることから1千万個のSNPが存在すると計算されるが,これだけのSNP数を安価に効率よく解析することは技術的に困難であった.しかし,最近,シリコンをベースにしたDNAチップの開発が進み,複数のSNPを同時に検出することができるようになってきた(図2).A?ymetrix社が販売するGENECHIPTMを利用すれば最大50万個のSNPを同時に解析することができる.このチップを利用しても全SNPの5%しかカバーできないが,今後測定できるSNP数は増加していくと思われる.III補体の活性化と加齢黄斑変性加齢黄斑変性の前兆として網膜色素上皮細胞とBruch(17)OOOOOOOOOOOHOHOOOTTOOOTTOOOTTTTAAAATTTTCCCCCCGGGGGCOTTOHOHOT--CRepeatLight(deprotection)GENECHIP?MicroarrayMask25-merIOOIOOO図2GENECHIPTMの製造工程———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006膜の間にドルーゼンの蓄積が観察される.ドルーゼンの蓄積とドライ型やウエット型の加齢黄斑変性への進行との関係は不明のままであるが,最近の研究によってドルーゼンを構成する分子は明らかになってきた.Hage-manやAndersonらは糸球体腎炎の患者でドルーゼンに類似する眼底所見が得られることから,糸球体の炎症に関わる補体の活性化が網膜下でも起こっていることを免疫染色法によって発見した5~7).さらに,Holly?eldらもドルーゼンを抽出してその蛋白質組成について質量分析計を使って分析したところ,補体の活性分子の存在を確認した8).ドルーゼン内で発見された分子のなかにはアミロイドb関連分子や酸化ストレス関連分子など,補体活性化の原因になりうる分子も確認されている.このような研究が進むなかで2005年に補体H因子(complementfactorH)のハプロタイプと加齢黄斑変性との相関を示す5つの論文が報告された9~13).この遺伝子は自然免疫の補体活性化を抑制する蛋白質で補体の2次経路およびレクチン経路を抑制する(図3).いずれの論文もアミノ酸402番のヒスチジンからトリプトファンの置換が加齢黄斑変性と強く連鎖することを報告した.しかしこの多型が患者および健常者に現れる頻度については論文によって異なっている.Hainesらの論文ではY402Tは健常者(185人)で46%,患者(495人)では96%の頻度で現れると報告している10)が,Zareparsiらの論文では健常者(275人)で34%,患者(616人)で61%と異なっている13).筆者らは日本人における補体H因子と加齢黄斑変性の関わりについて,独自の解析を行うことにした.DNA検体は患者や健常者の承諾を得て,国立病院機構東京医療センター,国立病院機構大阪医療センター,国立病院機構九州医療センター,順天堂大学浦安病院眼科から健常者89検体と患者96検体を集めて行われた.その結果,健常者(89人)4.3%,そして患者(96人)で3.8%とアメリカの解析結果と大きく異なることが明らかにされた14).2005年のアメリカ眼研究学会(ARVO)でも補体H因子のY402変異の生体機能への影響について議論されたが,筆者らの報告によってY402H変異と加齢黄斑変性との関係が絶対的なものではないことから,さらに詳細な検討が必要であるとセッションが締めくくられた(図4).最近,Gotohらによっても筆者らと類似する報告がなされている15).補体活性経路に関係する遺伝子と加齢黄斑変性との関係はAllikmetsらの最近の論文によってさらに強固なものになりつつある16)(図5).この報告では補体古典経路のC2と2次経路を抑制する補体B因子のハプロタイプ(18)C1=C1qr2S2C1q(460kDa)C1r(80kDa)C1s(80kDa)1~2mg/m?serumC3=C3a+C3bC3a(110kDa)C3b(75kDa)C4aProperdinFactorDFactorBMembraneAttackComplex細胞膜に接着FactorH(膜侵襲複合体)(古典経路)(2次経路)(レクチン経路)VitronectinClusterin抑制抑制C4(200kDa)C4C4b2aC4b2a3bC2C3C3C3bC3bBC3bBb(P)C3bBbC3b(P)C5C5bC5b6C5b67C5b-8C5b-8(C9)nC5C6C7C8C9MBP-MASP(LectinPathway)ClassicalPathwayAlternativePathwaylg-C1図3補体活性化経路———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????がプロテクティブ(予防)に働くことが明らかにされている.日本人におけるハプロタイプの解析は現在筆者らの研究室で進行中である.IVドルーゼンが観察される霊長類モデルの遺伝子解析加齢黄斑変性の動物モデルとして黄斑が発達している霊長類モデルが長年探し続けられてきたが,独立法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターにおいて生後2年でドルーゼンを発症するカニクイザルがSuzukiらによって発見された17).この1頭の疾患個体から交配によって大型の家系を作ることに成功し,この過程で疾患が常染色体優性遺伝していることも明らかになった(図6).筆者らは厚生労働省科学研究難治性疾患克服研究事業として研究班を組織して平成15年度からこのカニクイザルの病理学的および遺伝子解析を行ってきた18~20).これまでの研究からこの疾患個体で観察されるドルーゼンの蛋白質組成は患者や加齢性の黄斑変性カニクイザルと類似していることが明らかになっている.遺伝形式からおそらく単一遺伝子の変異によって網膜下の代謝に異常をきたし,ヒトが50年以上かけて蓄積するドルーゼンと同様なドルーゼンをわずか2年で生成すると予測される.この遺伝子の発見はドルーゼン生成のメカニズムを解き明かす重要な情報をもたらす可能性もあり,その結果に注目している.(19)ハプロタイプ(米国)OR95%CIp患者(%)日本/米国健常者(%)日本/米国リスクとプロテクティブ日本/米国ハプロタイプ1G-T-T-G(3)NS─0.9733.8/NS3.8/NS─/─ハプロタイプ2A-T-T-A(2)0.420.26~0.670.00118/1235/21(プ)1.6/1.7ハプロタイプ3G-T-T-A(5)2.031.12~3.690.02819/NS10/NS(リ)1.9/─ハプロタイプ4A-T-T-G3.001.42~6.380.00415/NS6/NS(リ)2.5/─ハプロタイプ5G-T-C-A(1)NS─0.7443.8/504.3/29(リ)─/1.7図4日本人における加齢黄斑変性と補体H因子のハプロタイプI62V(G/A)(G/A)(T/C)(T/C)Q672QY402HIVS6エクソン1エクソン1エクソン6エクソン9エクソン13エクソン20C2BF4kbE318DInt10L9HR32QR150RK565EInt17ORpCASCONH1GGTGGAG1.320.00130.590.53H2GGTGGAAH5GGTGAAAH7GTTAGAA0.45<0.00010.0500.11H10CGAGGAG0.36<0.00010.0200.055図5アメリカ人における加齢黄斑変性と補体C2とB因子のハプロタイプ(文献16より)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006V今後の加齢黄斑変性の遺伝子解析加齢黄斑変性の遺伝子研究については候補となる遺伝子がすでに黄斑ジストロフィや網膜色素変性症から補体関連遺伝子に移行しており,今後加速すると考えられる.補体関連分子は図3に示してあるように,補体活性系および抑制系は多数の遺伝子から構成されているので,これをすべて調べるまでには時間がかかることが予想される.また加齢黄斑変性が多遺伝子疾患であることから,多数のSNPを組み合わせたハプロタイプの計算がより複雑になっていくと予想される.DNAチップの解析に必要なバイオインフォマティックに詳しい人材が眼科の分野でも必要になってきた.A?ymetrix社のGENECHIPTMをはじめ,DNAチップで解析できるSNP数も50万個から100万個,さらに200万個と毎年倍々で増加していくことが予想される.これらの測定結果をDNAチップ以外の方法で追試するには膨大な時間と労力が必要であり,単一の眼科施設だけでは将来にわたって解析を継続することは困難である.感覚器センターでは関連施設との共同でオンライン症例情報収集ネットワークを構築し,自動DNA抽出機を用いて各施設から送られてきた血液からDNAを抽出し,3台のキャピラリーDNA解析装置を使って遺伝子解析までを行う,眼科疾患遺伝子解析センターの準備がほぼ整った.解析結果は参加施設にそのまま報告し,論文として報告していただくことになる.まずは加齢黄斑変性,緑内障,網膜色素変性の疾患を対象に遺伝子解析を開始する予定である.VI今後の課題今後の課題としては日本における加齢黄斑変性の遺伝情報を充実させることである.今回の補体H因子の解析結果からもわかるように,欧米の遺伝子情報だけでは日本人の遺伝的診断は困難であることは明白である.日本人と欧米人のリスク遺伝子には種類や内容が異なるものが多数存在する可能性があり,アメリカ主導の遺伝子解析研究の結果をそのまま日本人に当てはめることは危険である.感覚器センターを中心とした遺伝子解析サービスは全国の眼科遺伝子研究の起爆剤になればと期待している.2006年6月,厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会は,2007年度から5年間の戦略研究課題として「感覚器戦略研究」を承認した.このなかには加齢黄(20)オスメス疾患正常不明図6若年性黄斑変性カニクイザルの家系———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????(21)斑変性の遺伝子解析による早期診断法の確立なども達成目標として盛り込まれており,今後の遺伝子研究には追い風になることが予想される.ヒトが得る情報の8割は視覚によると考えられ,高齢化が進行する日本においてqualityoflifeを維持するためにも加齢黄斑変性の遺伝子研究はますます重要になってきている.文献1)EvansJR:Riskfactorsforage-relatedmaculardegenera-tion.??????????????????20:227-253,20012)AllikmetsR,ShroyerNF,SinghNetal:MutationoftheStargardtdiseasegene(ABCR)inage-relatedmaculardegeneration.???????277:1805-1807,19973)IyengarSK,SongD,KleinBEetal:Dissectionofgenomewide-scandatainextendedfamiliesrevealsamajorlocusandoligogenicsusceptibilityforage-relatedmaculardegeneration.??????????????74:20-39,20044)AbecasisGR,YasharBM,ZhaoYetal:Age-relatedmac-ulardegeneration:ahigh-resolutiongenomescanforsus-ceptibilitylociinapopulationenrichedforlate-stagedis-ease.??????????????74:482-494,20045)HagemanGS,MullinsRF,RussellSRetal:Vitronectinisaconstituentofoculardrusenandthevitronectingeneisexpressedinhumanretinalpigmentedepithelialcells.???????13:477-484,19996)MullinsRF,RussellSR,AndersonDHetal:Drusenasso-ciatedwithagingandage-relatedmaculardegenerationcontainproteinscommontoextracellulardepositsassoci-atedwithatherosclerosis,elastosis,amyloidosis,anddensedepositdisease.???????14:835-846,20007)AndersonDH,MullinsRF,HagemanGSetal:Aroleforlocalin?ammationintheformationofdrusenintheagingeye.???????????????134:411-431,20028)CrabbJW,MiyagiM,GuXetal:Drusenproteomeanaly-sis:anapproachtotheetiologyofage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????99:14682-14687,20029)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.????????308:385-389,200510)HainesJL,HauserMA,SchmidtSetal:Complementfac-torHvariantincreasestheriskofage-relatedmaculardegeneration.???????308:419-421,200511)EdwardsAO,RitterR3rd,AbelKJetal:ComplementfactorHpolymorphismandage-relatedmaculardegener-ation.???????308:421-424,200512)HagemanGS,AndersonDH,JohnsonLVetal:Acom-monhaplotypeinthecomplementregulatorygenefactorH(HF1/CFH)predisposesindividualstoage-relatedmac-ulardegeneration.??????????????????????102:7227-7232,200513)ZareparsiS,BranhamKE,LiMetal:StrongassociationoftheY402HvariantincomplementfactorHat1q32withsusceptibilitytoage-relatedmaculardegeneration.??????????????77:149-153,200514)OkamotoH,UmedaS,ObazawaMetal:ComplementfactorHpolymorphismsinJapanesepopulationwithage-relatedmaculardegeneration.???????12:156-158,200615)GotohN,YamadaR,HirataniHetal:NoassociationbetweencomplementfactorHgenepolymorphismandexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanese.?????????(inpress)16)GoldB,MerriamJE,ZernantJetal:VariationinfactorB(BF)andcomplementcomponent2(C2)genesisassoci-atedwithage-relatedmaculardegeneration.?????????38:458-462,200617)SuzukiMT,TeraoK,YoshikawaY:Familialearlyonsetmaculardegenerationincynomolgusmonkeys(Macacafascicularis).????????44:291-294,200318)UmedaS,AyyagariR,SuzukiMTetal:Molecularclon-ingofELOVL4genefromcynomolgusmonkey(Macacafascicularis).????????52:129-135,200319)UmedaS,AyyagariR,AllikmetsRetal:Early-onsetmaculardegenerationwithdruseninacynomolgusmon-key(Macacafascicularis)pedigree:exclusionof13candi-dategenesandloci.?????????????????????????46:683-691,200520)UmedaS,SuzukiMT,OkamotoHetal:Molecularcom-positionofdrusenandpossibleinvolvementofanti-retinalautoimmunityintwodi?erentformsofmaculardegenera-tionincynomolgusmonkey(Macacafascicularis).???????19:1683-1685,2005

遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝子解析

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS用である.本稿では,黄斑ジストロフィ,硝子体網膜ジストロフィ,Bruch膜ジストロフィのうち代表的な遺伝性網脈絡膜疾患とその原因遺伝子について概説する.I黄斑ジストロフィ黄斑ジストロフィとは,黄斑に進行性の変性がみられる遺伝性疾患の総称である.1.錐体(杆体)ジストロフィ錐体ジストロフィ(conedystrophy:COD)や錐体杆体ジストロフィ(cone-roddystrophy:CORD)は早期の錐体視細胞の変性による視力低下,色覚異常や中心暗点を特徴とする遺伝性網脈絡膜変性疾患の一つである.進行すると,錐体視細胞の変性に続き杆体視細胞の変性はじめに遺伝性網脈絡膜疾患は致死性でないものが大部分であり,各形質は子孫に伝えられるため,その数は多い.このことは,遺伝性疾患のオンラインデータベースであるOnlineMendelianInheritanceinMan(OMIM)のうち約4分の1が遺伝性眼疾患であることからもわかる.近年のヒトゲノムの解読により,染色体上の位置,構造,機能,個体差などの正確な情報が加速度的に蓄積されている1,2).その結果,疾患遺伝子座が位置する染色体領域を抽出すれば原因遺伝子を解明することが容易になったため(位置的候補遺伝子アプローチ),現在では大部分の単因子性の遺伝性網脈絡膜疾患の原因遺伝子が同定されている(表1).遺伝性網脈絡膜疾患のゲノム解析を行うことは,病態のより深い理解や診断の確定などに有(3)????*ShigeoYoshida&YokoYamaji:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕吉田茂生:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●網脈絡膜変性疾患のアップデートあたらしい眼科23(9):1113~1123,2006遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝子解析??????????????????????????????????????????????????????????????吉田茂生*山地陽子*表1遺伝性網脈絡膜疾患と原因遺伝子臨床像原因遺伝子黄斑ジストロフィ????????????????????????????????錐体ジストロフィ?????????????????????????????????????????????????????????硝子体網膜ジストロフィ?????????????????????????????????????????????????????網膜色素変性???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????先天夜盲????????????????????????????????????????????????????????Bruch膜ジストロフィ?????脈絡膜ジストロフィ?????????遺伝性視神経萎縮???????????ミトコンドリア(11,778,14,484,3,460番塩基など)色覚異常???????????????????———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006が起こり,夜盲や周辺視野欠損などをひき起こす3~5).眼底像は多彩であり,非定型的黄斑変性,標的黄斑症(図1)や,異常のないものもある.網膜電図が診断の決め手となり,典型例では錐体系の反応が高度に減弱している(図1).CODやCORDの遺伝形式は多様で,これまでに優性,劣性,X連鎖性が報告されている.遺伝的異質性も高く,常染色体優性CORDでは???,??????,?????,??????,?????,??????が,常染色体劣性CORDでは?????,????が,X連鎖性CORDでは????が明らかになっている6)が,原因遺伝子を同定できない症例も少なくない.CORD遺伝子変異同定はその高い遺伝的異質性のため,まだ一般臨床で広く用いられるには至っていない.したがって,さまざまな候補となる遺伝子から迅速,効率的な原因遺伝子の同定法の確立が望まれる.筆者らは遺伝子型タイピングチップによる変異スクリーニングを行ったところ,変異同定には至らなかったが,チップスクリーニングシステム自体の再現性は高いと考えてよいことを確認した.したがって,適切な変異部位を網羅した遺伝子型タイピングチップを作成すれば,疾患原因遺伝子変異と疾患修飾遺伝子を同時にスクリーニングでき(4)AB図1錐体ジストロフィA:眼底写真.典型的な標的黄斑病巣(bull?seyemaculopathy)を認める.B:蛍光眼底造影写真.黄斑部の萎縮部位に一致して顆粒状の過蛍光を認める.C:網膜電図(ERG).錐体系の反応がほぼ消失している.ScotopicFlickerPhotopicSingle-?ash10ms100?V10ms100?V20ms100?V20ms100?Vononononononコントロール錐体ジストロフィC———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????る可能性があると考えている7).2.卵黄様黄斑ジストロフィ特徴的な卵黄様の黄斑所見からその病名がつけられた疾患で,1905年Bestにより初めて報告された8).遺伝形式は常染色体優性で,浸透率は高くない.眼底所見は病期によって変化し,卵黄様病巣期(図2),偽前房蓄膿期,いり卵期,萎縮期に分けられる.通常保因者でも5歳から10歳ごろまで正常眼底を示す.患者では病期にかかわらず眼球電図で明極大と暗極小の比(L/D比)の減少がみられる9,10).網膜電図は通常正常である.病理組織学的には病巣部より広範囲にわたって網膜色素上皮層のメラニン顆粒の増加や,異常なリポフスチン顆粒の細胞内蓄積,病巣部では視細胞層にも変性がみられる11).さらにBruch膜が断裂し,脈絡膜血管新生の報告もある12).原因遺伝子としてvitelliformmaculardystrophy2(????)が報告されている13).????のコードするbestrophin蛋白は網膜色素上皮のbasolateralmem-braneに存在するカルシウム感受性クロライドチャネルで14),????の遺伝子変異により網膜色素上皮細胞の膜電流が抑制され,眼球電図(EOG)の平坦化およびリポフスチンの沈着が生じると考えられる15).近年,????変異の公のデータベースが充実してきており,変異同定が容易になっている(図3)16).3.Stargardt黄斑ジストロフィ1909年にStargardtによって報告された常染色体劣性の疾患である17).通常小児期に両眼性の視力低下で発症する.眼底所見は多彩で,初期に認められる所見は中心窩反射の消失であり,ついで網膜深層に帯黄灰白色の斑点が現れる.進行期になると,黄斑部を中心に比較的境界明瞭な金属粉状の反射(beaten-metalappearance)が多数みられるようになり,ときには色素斑も出現する.病理組織所見として,後極部網膜の網膜色素上皮細胞の大きさの不揃い,メラニン顆粒の減少,さらに異常リポフスチン顆粒と思われるPAS陽性物質の色素上皮細胞内蓄積がみられる18).このため蛍光眼底造影で背景蛍光が暗くなるdarkchoroidという特徴的な所見が認められる.網膜電図は病変の進行度によって変化する19).原因遺伝子であるATP-bindingcassette,sub-familyA,member4(?????)20)はアデノシン三リン酸結合カセット(???)ファミリーの一つで,分子を細胞の内外へ輸送する膜蛋白質をコードしている.?????は視細胞外節円板に存在し,ビタミンA誘導体の再生過程に関与する.?????の異常では,その輸送活性が障害され,細胞障害性をもつ全トランス型レチナールが杆体,錐体に蓄積し,網膜色素上皮や視細胞の変性と,リポフスチンの異常な蓄積が起こると考えられている21,22).黄斑変性が軽度で黄色斑のみがみられる場合は黄色斑(5)図2卵黄様黄斑ジストロフィの眼底A:眼底写真.黄斑部に特徴的な卵黄様病変を認める.B:光干渉断層像(OCT3).視細胞層とRPE層の間に紡錘形の高反射体を認める.AB———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006眼底と診断されるが,遺伝学的には同一の疾患である.Stargardt病と黄色斑眼底を合わせて以下の4型に分類される23).Ⅰ群:黄斑萎縮巣のみ,Ⅱ群:黄斑萎縮巣とその周囲の黄色斑,Ⅲ群:黄斑萎縮巣と,広範に散在する黄色斑,Ⅳ群:広範に散在する黄色斑.?????の変異により,錐体杆体ジストロフィや網膜色素変性を生ずることも報告されているが,この疾患多様性は,変異分布の差異による正常?????蛋白の残存活性の程度によると考えられている24,25).II硝子体網膜ジストロフィ硝子体網膜ジストロフィとは,硝子体の変化および異常な網膜硝子体癒着や変性など網膜硝子体に異常を生じる遺伝性疾患である.1.X連鎖性網膜分離症X連鎖性遺伝を示す硝子体網膜ジストロフィである.車軸状?胞様の黄斑部網膜分離症(図4),周辺部網膜分離症,周辺網膜の金箔様反射,網膜電図での陰性b波などを特徴とする.病理組織学的にM?ller細胞の障害が示唆され,分離は網膜神経線維層で起こる(図4).黄斑部の加齢に伴い,?胞様変化は非定型的な変性巣に変化したり,周辺の網膜分離が消失し,網膜色素変性様の所見を示す場合があるなど,病像が変化する5).このため,診断確定に原因遺伝子であるretinoschisis1(???)26)の遺伝子解析が有用である場合がある.???は網膜発生過程から水平細胞以外の網膜神経細胞に発現し,網膜の分化や細胞接着に関与すると考えられる27,28).後部硝子体?離があると進行しないことから(6)図3VMD2変異のインターネット上のデータベース(http://www.uniwuerzburg.de/humangenetics/vmd2.htmlより)これまで報告された変異がまとめられている.自験例では既知の変異を同定しデータベース照合が有効であった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006???????の変異で網膜層間の接着が脆弱になり,後部硝子体未?離眼では硝子体の牽引により,層間分離を助長する可能性がある.2.Stickler(STL)硝子体ジストロフィ網膜と硝子体の変性および高度近視を伴う常染色体優性遺伝の疾患である.高度近視,硝子体網膜変性や網膜?離を特徴とし,関節変性,顔面低形成,難聴などの眼外症状を合併する.1965年Sticklerらにより報告された29).現在まで眼科的に広く受け入れられている診断基準はないが,欧米では近年,分子遺伝学的に膜型硝子体を伴うSTL硝子体ジストロフィⅠ型(collagen,typeⅡ,alpha1;??????遺伝子異常),ビーズ型硝子体を伴うSTLⅡ型(collagen,typeXI,alpha1;???????異常),眼症状を伴わないⅢ型(collagen,typeXI,alpha2;???????異常)に分類されている30).Ⅰ型は眼限局型(??????のエクソン2の異常)と眼外症状合併型に細分類される(図5)31,32)が,エクソン2以外の変異でも眼に限局した病変が生じうると報告され33),今後の検討を要する.筆者らも,両眼に膜型の硝子体を伴う日本人の網膜?離患者に対し,??????の遺伝子解析を行ったところ,??????のエクソン2に変異を認め,わが国にも眼限局型STLⅠ型が存在するのを確認している34)(図6).眼限局型STLI型は眼外症状を伴わないため見落とされているかWagner病などと混同されている可能性があり(表2),??????遺伝子の解析が,STL硝子体ジストロフィの診断確定や診断基準の確立に有用であると考えている35).(7)表2Stickler硝子体ジストロフィとWagner病の比較Stickler硝子体ジストロフィWagner病遺伝形式屈折異常硝子体異常網膜?離網脈絡膜異常夜盲眼外症状原因遺伝子常染色体優性強度近視+約50%+-±???????????????常染色体優性中等度近視+まれ++-?????図4X連鎖性若年性網膜分離症A:眼底写真.黄斑部に車軸上の網膜分離を認める.B:光干渉断層像(OCT3).網膜の中間層に網膜分離がみられる.分離した網膜内外層はM?ller細胞によりつながっている.AB図5II型コラーゲンのアイソフォーム??????は選択的スプライシングによりエクソン2を含むⅡA型コラーゲンと含まないⅡB型コラーゲンのアイソフォームを生じる.ⅡA型は硝子体に,ⅡB型は軟骨に優位に発現している.現在のところ,??????のエクソン2の変異で眼限局型の表現型が,エクソン2以外の変異で全身症状合併型のStickler症候群を生じると考えられている.134N452134N452134N45??????遺伝子選択的スプライシングⅡA型コラーゲン硝子体優位に発現ⅡB型コラーゲン軟骨優位に発現———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.9,20063.Wagner病1938年Wagnerによって硝子体の液化(発達不全)と網膜色素変性,白内障などの異常を伴う疾患として報告された常染色体優性遺伝の網膜硝子体ジストロフィである36).STL硝子体ジストロフィとしばしば混同されているが,網膜?離の頻度は低く,近視の程度は中等度で,全身異常は合併しない.Erosivevitreoretinopathyとともに5番染色体長腕に連鎖し37,38),分子遺伝学的にStickler症候群と異なった疾患であることが明らかになっている.Chondroitinsulfateproteoglycan2(?????)が原因遺伝子である可能性が示唆されている38~40).?????は硝子体中でヒアルロン酸およびⅡ型コラーゲンと結合し,硝子体の安定化に寄与していると考えられる39).4.家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)周辺部網膜血管の発育不全により未熟児網膜症類似の病変を示す遺伝性疾患である.1969年Criswick,Schepensによって初めて報告された41).若年性網膜?離の原因として重要である.網膜硝子体病変は,周辺網膜無血管野のみのものから,続発する血管新生や鎌状網膜?離などを伴うものまで多彩である.無血管野への光(8)図6眼限局型Stickler症候群I型の硝子体所見A:25歳女性の右眼の前眼部写真.B:B-モードエコー(水平断).膜型の硝子体がみられる.C:??????遺伝子のダイレクトシークエンスで新規の第237グアニンの欠失変異(矢印)をヘテロ接合で同定した.(文献34より)ABC———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????凝固は進行予防に効果がある.現在まで確立した診断基準はないが,網膜血管走行異常があり,未熟児,酸素投与の既往がないことが必須とされている.近年,原因遺伝子が相次いで報告されている.FEVRには遺伝的異質性があり,遺伝形式として常染色体優性(frizzledhomolog4:????遺伝子異常,lowdensitylipoproteinreceptorrelatedprotein5:????遺伝子異常),常染色体劣性(????),X連鎖性劣性遺伝(Norriedisease:???遺伝子異常)が報告されている42~45).????,???,????ともにWntシグナル伝達系に関与していることが明らかになっている46)(図7).Wntシグナリングはショウジョウバエからヒトに至るまで普遍的に保存されるシグナル伝達機構で,発生分化に重要な役割を演じており,ヒト周辺網膜血管の成熟にも関与していることが示唆される.FEVRの病変は生涯にわたって変化する可能性があり,早期の診断と適切な時期の治療が必須である47).鑑別疾患である第一次硝子体過形成遺残と誤診されることもあり48),診断確定には遺伝子診断が有用である場合がある.筆者らも,約10年間の経過観察中に内斜視,滲出性網膜?離,網膜円孔など多彩な眼底所見を呈した日本人FEVR患者に新規の????遺伝子変異を同定した49)(9)図7家族性滲出性硝子体網膜症A:13歳女児の右眼の眼底写真.牽引乳頭と耳側血管の直線化がみられる.B:同一症例の左眼底周辺網膜.無血管野があり,網膜円孔,網膜硝子体癒着(矢印)を生じている.C:????遺伝子のダイレクトシークエンス.595番目のアデニン(A)からグアニン(G)へのミスセンス変異をヘテロ接合で同定した.D:Wnt受容体複合体の模式図.7回膜貫通型受容体であるfrizzledhomolog4(????),lowdensitylipoproteinreceptorrelatedprotein5(????),Norriedisease(???)はWnt受容体複合体を形成し,周辺部網膜血管形成を制御していると考えられる.(文献49より)ABWnt???????????CD———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006(図7).IIIBruch膜ジストロフィ網膜色素線条網膜色素線条(angioidstreaks)はBruch膜の断裂により特徴的な線条が眼底にみられる常染色体劣性の疾患である.皮膚の屈側に弾性線維性仮性黄色腫(pseudo-xanthomaelasticum)を伴うことが多く,眼と皮膚の症状を合わせてGronblad-Strandberg症候群とよばれている50).線条は通常赤黒褐色で,乳頭を囲む輪状の部分とそこから放射状に伸びる部分からなる.線条の両側には灰白色の帯を伴い,乳頭周囲では線条を取り囲むヒトデ様の外観を呈する.さらに,後極部の眼底は萎びたミカンの皮(peaud?orange)類似の色調を示し,わが国では梨子地眼底とよぶ51).線条が黄斑に及ぶと,視力障害や変視などが生じる.ごく軽い外傷でも黄斑に出血を起こすことがある.視力障害の主因は,網膜下血管新生,網膜色素上皮?離および黄斑変性で,加齢黄斑変性と類似の病像を示す(図8).蛍光眼底造影検査では,線条部は動脈期から著明な過蛍光を示す.病理組織学的観察ではBruch膜は肥厚,断裂し,弾性線維にカルシウムの沈着がみられる.Bruch膜の断裂部の網膜色素上皮細胞は菲薄化し,線条の両側では網膜色素上皮細胞が変性萎縮する52).原因遺伝子は,???ファミリーに属するATP-bind-(10)図8網膜色素線条A:48歳男性の左眼の眼底写真.視神経乳頭からのびる網膜色素線条を認める.黄斑部に網膜下出血,脈絡膜新生血管を生じている.B:ATP-bindingcassette,sub-familyC,member6(?????)遺伝子のダイレクトーシークエンス.1,026番目のシトシン(C)からチミン(T)へのミスセンス変異をホモ接合で同定した.C:?????蛋白の構造.3つの膜貫通ドメインと2つのATP結合ドメインから成る.(文献54より)ABNH2COOHATP結合部位ATP結合部位細胞外細胞膜細胞内C———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.9,2006????ingcassette,sub-familyC,member6(?????)で,網膜の有核細胞で発現している53,54)(図8).筆者らも網膜下新生血管を生じた網膜色素線条患者に新規の変異を同定している54)(図8).その輸送基質はまだ明らかでないが,軟部組織のミネラルの代謝制御を介して,弾性線維の恒常性維持に重要な役割を演じていると考えられ,網膜色素線条の根本原因は代謝異常病であることが示唆される55,56).?????とともに,網膜の機能維持における???ファミリーの重要な役割が推察される.おわりに21世紀は,遺伝子診療の時代といわれている.現在も,さまざまな生物のゲノム情報がすでに確立した塩基配列決定法を基盤に集積され続けており,ゲノム情報がこれからも眼科臨床にインパクトを与え続けることは確実である.今後,DNAチップなどを用いた疾患原因遺伝子や修飾遺伝子の包括的かつ迅速なゲノム解析システムが確立していけば57),非定型的な臨床所見を示す遺伝性網脈絡膜疾患の診断確定や,病勢の予測診断がより容易になる可能性があり,遺伝カウンセリングにも有用となるだろう.また,疾患概念があいまいなFEVRなどでは,遺伝子型によるより確かな診断基準の確立がなされていくかもしれない.さらに,生命の設計図であるゲノムレベルでの病因把握を続行し,これを基盤にして発症の分子機序を明らかにできれば,病態の新しい理解や,確実な治療の分子標的の創出につながっていくことが期待される.文献1)InternationalHumanGenomeSequencingConsortium:Finishingtheeuchromaticsequenceofthehumangenome.??????431:931-945,20042)AltshulerD,BrooksLD,ChakravartiAetal:Ahaplo-typemapofthehumangenome.??????437:1299-1320,20053)MooreAT:Coneandcone-roddystrophies.???????????29:289-290,19924)RabbMF,TsoMO,FishmanGA:Cone-roddystrophy.Aclinicalandhistopathologicreport.?????????????93:1443-1451,19865)三宅養三:黄斑ジストロフィ.日眼会誌107:229-241,20036)ItoS,NakamuraM,NunoYetal:NovelcomplexGUCY2DmutationinJapanesefamilywithcone-roddys-trophy.?????????????????????????45:1480-1485,20047)YoshidaS,YamajiY,YoshiokaAetal:Noveltriplemis-sensemutationsofGUCY2DgeneinJapanesefamilywithcone-roddystrophy:Possibleuseofgenotypingmicroar-ray.???????(inpress)8)GodelV,ChaineG,RegenbogenLetal:Hereditaryvitel-liformmaculardystrophy.????????????????????14:221-228,19869)ArdenGB:Alterationsinthestandingpotentialoftheeyeassociatedwithretinaldisease.???????????????????????82:63-72,196210)CrossHE,BardL:Electro-oculographyinBest?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序説:網脈絡膜変性疾患のアップデート

2006年9月30日 土曜日

———————————————————————-Page1(1)????今月号の《あたらしい眼科》では,「網脈絡膜変性疾患のアップデート」と題して遺伝性網膜疾患,特に網膜色素変性(RP)を中心とした難治性の網脈絡膜変性疾患を特集した.新生血管を伴った加齢黄斑変性(AMD)に対して新しい治療法が次々に臨床応用されてきている現在,RPはいまだに実際の臨床治療にまで至っておらず,その道程は長く険しいもののように思われる.しかし,最近はいくつかの明るい話題も出てきた.神経栄養因子の一つであるCNTF(ciliaryneu-rotrophicfactor)を分泌する細胞を内包したカプセルを眼内に移植するSievingらの治療は,米国の患者への臨床試験Phase1を終えて,Phase2へ進みつつある.イヌのレーバー先天盲のモデル動物(RPE65)の遺伝子治療に成功したBennettとAgu-irreのグループは,実際の患者への応用を見据えてサルへの安全性実験を着実に進めている.また今年のARVO(AssociationforResearchinVisionandOphthalmology)では,光受容から電位発生までを一つの蛋白質で行うchannelrhodopsinを神経節細胞に発現させた治療のマウスモデルでの成功が大きな注目を集めていた.一つの発見を契機にRPの治療は一気に加速していく可能性がある.今回の特集では,まず遺伝性網脈絡膜疾患の遺伝解析の現状について吉田茂生と山地陽子先生が解説した.単一遺伝子疾患の多くは原因遺伝子が解明されている.この遺伝子診断が今後もっと一般臨床に汎用されるようになるにはどのような技術革新が必要なのだろうか.また,最近の話題の一つとして,欧米のAMDの発症に関与するといわれるcomple-mentfactorHの発見があった.複数の遺伝因子と環境因子が発症に関わる多因子疾患に関する原因解明のアプローチを岩田岳先生に解説していただいた.今なおRPの網膜の機能解析や画像解析の研究が必要とされる理由は,治療が必要な患者を絞り込むため,そして実際の治療効果を確実に判定するためである.米国では1990年代の後半に実際の臨床治療を見据えて,いかにRPの残存黄斑機能を正確に解析するかについて専門家による会議がくり返された.町田繁樹先生には網膜の機能面を中心に,水野谷智先生と山本修一先生には画像検査の話題として自発蛍光検査の話題について述べていただいた.最後に難治性の網脈絡膜変性疾患の治療について,3人の先生に解説をお願いした.宮崎勝徳先生と池田康博先生には日本オリジナルのベクターを用いた遺伝子治療について,秋元正行先生には再生治療の可能性と問題点について,また不二門尚先生には人工視覚の進歩と現状についてわかりやすく解説していただいた.明日から外来に訪れるRPの患者さんへお話しする最新の話題として,今回の特集を役立てていただければ幸いである.0910-1810/06/\100/頁/JCLS*MineoKondo:名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科講座**ShigeoYoshida:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科23(9):1111,2006網脈絡膜変性疾患のアップデート????????????????????????????????????近藤峰生*吉田茂生**

Vol.23 No.9(2006年9月号)

2006年9月30日 土曜日